ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。
 なんかたまにはバトルから離れたものを書こうかなと思い立ち、書いてみました。

 鬼太郎はバトルものだけではないですから……と言いつつ、バトル抜きで怪奇とか恋愛に走ったものを書くとなると私に書けるのか不安です。


第二章開幕 里小噺
ボヤ鬼


 

 

 

 

 

 

 

「あー!暇だ。金が無いのに暇だ。この大天才ビビビのねずみ男様がそんな事で良いのだろうか。いや良いわけがない!きっと世の中全てが間違っているに違いない」

 

 

 不潔で嫌われ者のこの男、ねずみ男は青空に向かって、大きな声で不平不満を叫ぶ。叫んだところで解決はしないが叫びたい気分なのだろう。

 

 

「そしてこのビリビリとくる寒さ!天気までもがこの俺を見放したというのか。嗚呼、何かこの寒さを思い切り吹き飛ばすようなホットで、怪奇で、グロテスクで、ミステリーな刺激は無いもんかねェ……。おおっ、寒うぅぅぅ……っ」ブルブル

 

 

 ねずみ男は、冷たい風が吹き抜ける里の外れを歩きながら、寒さに震える体を必死に抱え込んでいた。裸足の足元には、冷気がじわじわとしみ込み、凍るような感覚が広がる。薄い布切れ一枚で体を包んだだけでは、凍えるような冬の冷気をしのぐにはあまりにも力不足だった。息を吐くたびに、白い霧が空に溶けていく。

 

 

「いや、今はとにかく寒さを凌がねえと…。霊夢ちゃん……は嫌がるだろうなァ。ああ、このままじゃあ死んじまうよぉ。とほほ」

 

 

 やがて、彼は森の入り口に辿り着いた。そこからは、風の音と木々のざわめきだけが耳に届く。森の中には、暗く冷たい影が落ちていた。

 

 

「何もねえとこより、山の中なら何かあるかもしんねえ…」

 

 

 足を踏み出すたびに、足元からじわじわと冷気がしみ込む。“どこかに温かい場所があるかもしれない”——そんなわずかな希望にすがりながら、ねずみ男はひたすら森の奥へと足を進めた。

 

 

「ダメだ。ダンボールも落ちちゃあいねえ。くそっ、幻想郷に寒さを凌ぐもんなんか落ちてるわけねえよなァ。……落ち葉を布団にして」

 

 

 

 キラン…。

 

 

 

「あん?」

 

 

 小さな、とても小さな黄金色がそこにはあった。

 近づいて見てみると更にその小ささにさらに際立つ。拾ってみると自分の小指の爪くらいのサイズで、思いきり息を吹こうものなら簡単に飛んでいってしまうだろう。

 

 

「ムムムゥゥゥッ!?何だこりゃっ、砂金か!?も、森に来て正解だった!神よ、仏よ、この俺にお年玉くれるなんて!見捨てなかったんだなァ。ありがとうよ……ちゅっちゅっ」

 

 

 なんたる幸運だろうか。

 これが砂金ならば金持ちになれるだろうとよく見てみると、何か違和感に気づく。

 

 

「・・・ちゅっ、ちゅちゅう?な、中に何かあるぞ」

 

 

 金色に光る米粒のような何かの中に影が見えた。じぃっと目をさらに凝らしてみるとそれは人のような形をしている。

 

 

「ひ、人かッ!?ちっこい人だよなっ!?……となると、これは何かの妖怪の卵だよな、これ。生きてんのか?ムゥゥゥ?」

 

 

 動かない。

 もしかしたら中で死んでいるのかも。

 

 

「んだよ…っ、死んでんじゃねえか。根性ねえなぁ、ったくよ」

 

 

 ピクンと鼓動する。

 

 

「うおっ、生きてんじゃん!ンフッ、ンフフフフフフーーーッ♪金の卵の中で育つ妖怪となりゃあ、きっと生まれた暁にゃあ、この俺に金を授けてくれるに違いねえぞ!早速孵化させてやろーっと」

 

 

 卵を孵化させる方法は古今東西共通している。

 我々の暮らしの近くで生きる野生の鳥がそれを実践しているので、理解している。腹の上に守るようにして温める。油断すると見失ってしまうかもしれないので、寝ずに一心不乱に、集中して取り組んだ。

 

 

「早く生まれてくれよ。卵ちゃ〜ん!ンフフフ」

 

 

 

 とっくに寒さなんか忘れて、彼の脳内には金儲けのことしか入っていなかった。

 

 

(俺の予想だと、こいつは眠る時に金を纏うんだ。蚕みてぇに。つまりこいつを育て続ければ……むふふふふのふー)

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 三日後

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「あ"〜……」カクンカクン

 

 

 何度も船を漕ぎそうになり、また起きるを繰り返していた。真っ赤な目に大きな隈、そしてこの冬、三日間飲まず食わずに寒さに耐えながら、卵と共にいたので心身はすでに限界が来ていた。

 

 

「あぁ〜〜っ!も"う限界だァッ!生まれる気配が全くない!!何だ、もしかしてこういう形の妖怪だってのかよ!?いや、ここまでしたのに変化ない所を見るとそうに違いない!カキクゥウウ〜〜〜ッ!!」ギリギリィ

 

 

 

 ぴくぴくっ

 

 

 

「ん?今揺れた?」

 

 

 

 今微かだが動いた。

 しかし、それは一瞬ですぐに止まってしまう。寝不足なので勘違いかもしれない。

 

 

 

「おおー!生まれるかァッ!早くチミに会いたいよ、出ておいでぇ〜♡」

 

 

 

 しーん…

 

 

 やはり勘違いだったのだろう。全く動かない。いつも通りに金色に光っているだけだ。変に希望を持ってしまい、何も変わっていない現実に大きく舌打ちをする。

 

 

「何だよ、ケッ!このゴミ卵!勘違いさせんじゃねえよ!!」

 

 

 ぴくぴくぴくっ

 今度は更に激しく鼓動した。

 

 

「今度は動いたぞ!?何なんだ!?動いたり、止まったり……。もしかしたら孵化のさせ方が違うのか?」

 

 

 温めたところで変わらなかった。

 では何だ?

 動いた時を思い出せ。

 

 ──そういえば、会いたいと言ったり、キスをした時は何も無かった。でも悪口や不満を言ったら微かに動いたはずだ。

 

 

 

「・・・まさかな。いや、でもやる価値はある。ダメで元々よ。貧乏人に失うものなし、金のためならやってやるぜ」

 

 

 

 スゥーーー…

 大きく息を吸い込んで、思い切り今抱えている不満を卵にぶつけた。

 

 

 

「このゴミ卵!俺様の貴重な時間を奪いやがって!これで何も無かったら絶対にお前をギタギタしてやるからな!と、いうか!この俺が野宿しないといけないなんてふざけてるんだよ!どいつもこいつも正月気分で浮かれやがってェェーーーッ!!」

 

 

 

 ビクビクビクゥゥゥーーーッ!!

 今までにない振動。

 今この手のひらの中でとてつもない生命の鼓動を感じる。

 

 

 ぴきぴき…っ、ばりんっ!

 

 

 

『ボヤキィッ!!』

 

 

 それは小さな、本当に小さな小鬼だった。

 割れた卵の殻は地面にパリパリと飛び散る。

 

 

「やったー!!金の妖怪が孵化したぞ!このままオイラに金を作り続けてちょーーーー!」

 

 

 歓喜するねずみ男。

 その喜びようは尋常じゃない。大きな口をあげて嬉しさのあまり奇声を上げている。小鬼はニヤリと笑うと、ねずみ男の口にさっと飛び込んだ。

 

 

『キッキィッ!』ヒョイ

 

「んぐっ!?」ゴクン

 

 

 なんと素早い動きだろうか。

 ねずみ男はそのまま飲み込んでしまった。元より米粒くらいのサイズの妖怪だ。喉に引っかかることもなく、腹の中に消えてしまう。

 

 

「・・・え?えぇぇぇーーーっ!?しょ、しょんなばがなぁ……もごぉっ!?」

 

 

 口の中に手を入れて探すが見つかるわけもない。

 落ちている枝や枯れ葉で歯の間をほじくるが、出てくるはずもない。怒りが頂点に達した。

 

 

「ぺっ、ぺっ……」

 

「は、ははは……っ」

 

「ふっっっっ…ざけんなァァァーーーッ!!!!」

 

 

 

 怒りの雄叫びが山々に響き渡る。

 一斉に飛び出す鳥たち。

 冬眠していた動物たちも目を覚ますほどだ。

 

 

「金を製造できないってなら、オイラはこの金の卵の殻を売って……」

 

 

 

 ヒュゥ〜〜〜……

 

 

 

「あっ、あら〜!?どこ行くのぉ〜〜〜!!」

 

 

 風が吹けばねずみ男儲からず。

 金の殻はどこかへ飛んで行った。

 

 

「とほほ、オイラの人生って何なんだヨォ」

 

 

 何も得られず、何も報われなかった彼は、走り出した。

 怒りが収まらなかった。八つ当たりがしたかった。このムシャクシャをぶつけたかった。だから山を・・・降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おかしい」

 

 

 ねずみ男が下山して数分後。

 九つの尾をふりふりと振って、八雲藍が山の反対側から現れた。その顔は登山を楽しんでいるようには見えない。どちらかと言うと、冬だというのに汗を垂らしていて、まるで焦っているように見えた。

 

 

「おかしい。どこだ、どこなんだ」

 

 

 近くの茂みに頭を突っ込み、ガサガサと何かを探していた。藍が来た反対方向からは葉っぱを頭に乗せた橙もやってくる。

 

 

「藍さまぁ〜」

 

「橙、見つけたか!?」

 

「こっちにもありまちぇんでしたぁっ。眷属たちも使っていますが見つかりません〜」

 

「くっそ…。こっちもだ」

 

「いつもは簡単に見つけられたはずなのに…。金ピカだからカラスとか取って行ったのでしょうかねぇ」

 

「・・・もしそうなら良いが、人間が手に入れていたのなら由々しき事態だぞ。“あれ”がもし里にいけば幻想郷は崩壊するっ」

 

「ひぃいい〜っ」

 

 

 橙はそれを聞いて震え上がる。

 藍も自分で言っておいて、顔面が青ざめていた。

 

 

「かならず見つけ出すぞ。紫様の期待を裏切ることと幻想郷を危険に晒すことだけはしてはいけない!式なら必ずやり遂げる!探せばあるはずだ!」

 

「は、はいぃっ!!」

 

 

 再度、本気で探し回る。

 橙が地面。藍が山の木一本一本を丁寧に。

 そんな時にピンと橙の尻尾が立つ。

 

 

「ら、らら、藍様ァァァッ!」

 

「見つけたか!?」

 

「い、いえ。ですが、これを・・・」

 

 

 橙の小さな手のひらの中には、さらに小さな金の欠片があった。

 

 

「ふ、孵化している…!やばい。誰かが目覚めさせてしまったんだ…!!」

 

 

 そう。これは金でも、宝石でもない。卵の殻なのだ。とある妖怪が眠っていた卵が孵った破片であった。

 

 

「奴はすぐに孵化させた者の体内に侵入すると聞く。孵化させた者はどこに・・・」

 

「あっ!」

 

 

 橙が何かに気づく。

 自分たちの立っている場所の近くに人の足跡があった。指の跡も見えるので、どうやら裸足のようである。

 

 

「足あとが里の方に・・・」

 

「裸足?この時期に」

 

 

 2人が「どうしよう、一体誰が」と悩んでいる。

 すると、突然後ろの方でがさっと茂みが揺れた。2人は身構えたが、茂みの中から現れたのは見知った顔であった。

 

 

「なんだぁ」

 

「・・・霊夢か」ホッ

 

「あら?何やってんの、こんなとこで」

 

「それはこちらのセリフだよ。霊夢のことだから寒くて炬燵で寝ていると思ってたよ」

 

 

 霊夢は大きなカゴを背負っており、中にはキノコや雑草のようなものがたくさん入っていた。

 

 

「私だってそうしていたいけど金欠なのよ。背に腹はかえられないからね。こうやって食糧調達しにきたの。それで、私は話したわよ。そっちは何してんの、教えてよ」

 

「霊夢ならいいか。実はかくかくしかじかでな」

 

「うっそ!?もう()()()()()!?」

 

「あぁ。それを体内に入れたまま里に向かった奴がいるんだ。そいつを探そうにも見つけようがなくて困っていてな」

 

 

 霊夢は少し考えるとポンと手のひらを拳で軽く叩く。

 

 

「分かった」

 

「なに!?」

 

「妖怪が出るかもしれない山の中で裸足のやつと言ったら、アイツしかいないわよ。トラブルメーカーのあいつがね」

 

「・・・はっ!」

 

 

 くるりと振り向き、橙の肩を掴んで揺らす。

 

 

「橙!眷属たちに呼びかけろ!──ねずみ男を探し出せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ったくよぉ、なんでこの俺がゴミを漁んなきゃいけねえんだよ。全部あの卵が悪いんだ…。金さえありゃあ今頃は大金持ちになって、綺麗な姉ちゃんと肉や酒を買い漁ってたのによぉ〜。……おほほっ、掘り出しもんめーっけ!くんくん……1週間前のおせちの残りもんだな。どれどれ、あーむ」

 

 

 変色した栗きんとんや黒豆、かまぼこを食べて、ニタニタと喜ぶ。

 

 

「うんうん、いけるいける」

 

 

 にゃーお

 

 

「ん?」

 

 

 にゃー

 にゃーお

 

 

「は?えっ!?ちょいちょいちょい…!!」

 

 

 いつの間にか、ねずみ男は野良猫たちに囲まれていた。大の猫嫌いであるねずみ男は冷や汗をダラダラと流す。

 

 

「な、なんだよ。もしかしてここはお前らの縄張りかァッ!?で、出てくから襲うなよ。うひぃーっ!」

 

 

 ふしゃぁああーー!!

 

 

「おんぎゃあああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってて、酷い目にあった」ボロッ

 

 

 傷だらけのねずみ男。

 縄でぐるぐる巻き、簀巻きにされて地面に転がっている。彼は自分を見下ろす3人を睨みつけた。

 

 

「俺が何したっていうんだよ!!今回ばっかりは俺は無実だぞ!何もしてねえよ!」

 

「ふーん。何もやってないんだ」

 

「信じてくれよお」

 

「じゃあこれは?」

 

「・・・あっ、金の卵の殻じゃねえか!風に飛ばされたと思ってたけど、見つけてくれたのか!!」

 

「見つけてくれたのか、じゃないわよ!やっぱりアンタじゃないの!」

 

 

 霊夢は腕を組み、冷たい視線を落とすと、すっと屈み込んだ。そして次の瞬間——

 

 

「ぐえぇっ!」

 

 

 ねずみ男の首元に腕が絡みついた。背後から極めるように締め上げられ、顔がみるみるうちに青ざめていく。

 

 

「ま、待っ……ぐ、くるし……」

 

「自分が何やったか分かってんの!!面倒くさい妖怪を起こしちゃって!このおバカ!」

 

 

 霊夢は足を絡め、ねずみ男の体を完全に固定する。

 簀巻きにされているせいで抵抗もできず、ただ情けない声をあげるしかない。

 

 

「よ、ようがいぃぃでででぇっ!?」

 

「あんたが呼び起こしたのはボヤ鬼っていう妖怪よ!」

 

「あ、あわわっ!霊夢、ストップ!ねずみ男のやつ聞いてない聞いてない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解放されたねずみ男。

 正座をして改めて2人の話を聞く。

 

 

「ボヤ()は、人間の体内に寄生すると、その人間のネガティブな感情を食い、増殖していくんだ」

 

「それが俺っちの中に?そーいやなんか俺の口の中に飛び込んできたな」

 

「そいつらはある程度増殖すると、お前の口から他の人間の口へと飛び移る。不平不満を持つボヤいてばかりいる人間を狙ってな」

 

「ふーん。分かったぞ。つまり俺が里中にばら撒いたから、折檻しているんだな。けどよ、そんなに焦んなくても大丈夫だよ。俺が里に来て話したのは団子屋の主人だけ。それになにより今は正月だぜ?不平不満どころか笑い声で溢れてるよ。増えたとしてもせいぜい2,3匹よん」

 

「それはどうかしら?見てみなさい」

 

 

 

 いつもは子どもたちの笑い声が飛び交い、穏やかな空気が流れるこの里も、今日ばかりは様子が違った。

 

 

 

「あれえ??」

 

 

 道端では、腰を曲げた老人たちが小声で何かを囁き合い、ときおりため息をつく。井戸のそばでは、桶を抱えた女たちが険しい顔を突き合わせ、不満げに首を振っている。市場では、商人が苛立った声を張り上げ、買い手の男と口論になっていた。

 

 

 

「お年玉少ないよ」「静かにしないと母ちゃんに怒られるんだ」「寒いんだよチクショー」「旦那の稼ぎが無いせいで贅沢できなくてねえ」「お前とじゃなくてあの子と結婚したかったなあ」「こいつの作品ってつまんねえなあ」「最近の若者は全くダメだねぇ」「妖怪なんか大嫌いだよ」「なんで前より高くなってんだよ!?」「生きててもつまんないよ」「世の中が悪いんだ」

 

 

 

 誰かが何かを呟くと、それに呼応するようにあちこちから嘆きや文句が漏れる。軒先に腰かけた若者は拳を握りしめ、じっと地面を睨んでいた。読書好きな青年が本を読むのをやめていた。子どもたちは親の顔色を伺い、遊びもせずに静かにしていた。

 

 晴れた空の下なのに、里全体がどこか薄暗く、重たい空気に包まれていた。

 

 

 

「ぼ、ぼやいてやがる…っ、こんなに大勢が!?」

 

「ボヤ鬼に取り憑かれるとネガティブ感情を大きくされ、余計にボヤいてしまうんだ。ねずみ男から団子屋の主人に取り憑き、そこから客へ……そして短時間でここまで増えたってわけだな」

 

「ま、まぁ…!ネガティブなんて食われても良いだろ。死ぬわけじゃあねえし」

 

「それが違うんだ」

 

「へ?」

 

 

 藍の言葉に悪寒が走る。

 

 

「ボヤ鬼に取り憑かれた者の最後はな……身体中を増殖したボヤ鬼たちに食われてしまうんだ。皮と骨だけになった体をボヤ鬼たちは乗っ取ってしまう」

 

「何だってェェッ!?た、助けてくれよぉっ!まだ死にたくねえよ!!」

 

「分かっている。とりあえずこれ以上拡大しないように里の皆んなに伝えて閉じこもってもらおう」

 

「私は慧音に非常事態宣言を出すよう言ってくるわ。ねずみ男、あんたは黙って待ってなさい!」

 

「!」ブンブン

 

 

 

 お口にチャックして頭を縦に振る。

 2人の呼びかけにより里中は家に閉じこもった。

 

 

「俺たちの腹ん中に妖怪だって!?」「このまま死んじまうんだァッ」「なんか気分悪くなってきた…」

 

 

 しかし呼びかけが最悪な事態を巻き起こす。

 このままだと死んでしまうという言葉に恐怖を覚え、ネガティブな気持ちとなる。それらを体内のボヤ鬼が煽り、大きくし、人々はさらにボヤいてしまうのだった。

 

 

「マズいわね。焦って判断をミスったわ」

 

「とにかくどうにかしてボヤ鬼を退治しなければ」

 

「お、おい、待てよ!どうにかって、退治の仕方が分からねえのか!?」

 

「100年前に感染した時には感染者が3人だけだったので、その3人を処分して事なきを得たんだ。だが今回この数となると・・・」

 

 

 ねずみ男は藍に掴み掛かる。

 

 

「ふざけんな!何とかしろよ!」

 

「すまない…」

 

 

 そんなねずみ男を霊夢を引き離す。

 

 

「元はと言えばアンタが目覚めさせなければよかっただけじゃない。人のせいにすんな!」

 

「だ、だってよ」

 

「焦ってもしょうがないでしょ。……こうなったら八意永琳のところに行くわよ。ダメ元だけど、あの医者なら何とかしてくれるはず」

 

「永遠亭か…!」

 

「それなら良いけどよ…。とほほ」

 

「!」

 

 

 ねずみ男がため息をついた瞬間に霊夢はガシッと何かを掴む。

 

 

「捕まえた…」

 

 

 霊夢は人差し指と親指の間でジタバタする小鬼を見せる。

 

 

「こ、これがボヤ鬼…!?」

 

「今、アンタがため息をついた時に私たちを狙って飛んできたわ。私たちの負の感情に反応したみたい。全く油断ならないわね。ねずみ男、もうとにかく黙ってなさい」

 

「・・・」コクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠亭。

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃあーーーーっ!?!?」

 

「だから黙りなさいって!」

 

 

 レントゲン写真を見て驚愕するねずみ男。

 自分の体の中で小さな鬼たちが肩を組んで踊っている場面が写っていたからだ。

 

 

「俺っちの腹ん中でどんぱちどんぱちって、ぱーちーやってるよ!?んな、馬鹿なことってあるのかよ!」

 

「黙らないならこうしてやる!」

 

 

 バチンと口に大きな絆創膏のようなものを貼られた。ねずみ男はそのままベッドから落ちてひっくり返る。

 

 

「もがもが〜〜」

 

「まだ食べられてないことに喜びなさいよ、ったく」

 

「もが〜〜っ!!」

 

「永琳、アンタなら何か追い出す方法を見つけられるんじゃない?」

 

 

 話を振られる永琳。

 彼女はスポイトを置いて、霊夢たちの方を見た。

 

 

「私を誰だと思っているの?彼にレントゲン撮影をしている間に、霊夢が捕まえたボヤ鬼の体組織とか色々を調べてみたわ」

 

『ボヤボヤァッ!』

 

 

 フラスコには霊夢が捕まえたボヤ鬼がいた。

 どうにかして出ようと、壁を叩いたり蹴ったり、引っ掻いたりするが、ビクともしない。だからか、我々には分からない言語で何やら文句、つまりボヤいているようだった。

 

 

「この妖怪の身体は“不安、イライラ、悲しみ”といったネガティブな思考や感情に陥った際に出るホルモン“アドレナリン”と同等のものだと分かったわ。それなら対処法はある」

 

 

 数ある薬品の中から一つを手に取る。

 

 

「医療に不可能なし、よ。アドレナリンと同等なら、それを鎮静させるセロトニンを入れれば良い。ただ普通のセロトニンじゃ妖怪は消せない。だからこれよ。“八意印のセロトニン”!」

 

「「おお!」」

 

「改良と()()()()()()()()()を加えたこれを直接ぶち込めばいいのよ」

 

(隠し味・・・?)

 

 

 

 ぴゅっ。

 フラスコの中に数滴入れる。するとボヤ鬼はぎゃーッと叫んだと思えば溶けて消え去った。

 

 

 

「す、すごい!流石は“月の頭脳”と呼ばれるだけある」

 

「藍。こんなに早く解決するなら永琳に頼めば良かったんじゃないの?」

 

「確かに……。だがっ、紫様に頼まれていたのは私だっ。私が全部解決してっ、褒められたかった……!!」

 

「それが本音かい」

 

 

 ねずみ男はバッと立ち上がり、口の絆創膏を剥がした。そのまま永琳の御御足に抱きつくと、永琳はその場で倒れてしまう。

 

 

「な、なに…?」

 

「まさかボヤ鬼が操ったんじゃ!?」

 

「はやぐぅ、その薬を俺にぃぃぃ……っ!!」

 

 

 いやただ焦っていただけだった。

 泣き喚きながら永琳の太ももと太ももの間に顔をめり込ませる。

 

 

「きゃっ、き、きもい!」

 

「あべしっ!」

 

 

 顔面を蹴られ吹き飛ぶ。

 永琳は立ち上がり、大きなため息をついた。男に変な場所を触られたせいでどこか顔が赤く、服が乱れてしまう。ギロリとねずみ男を睨みつけてから巨大な注射器をどこからか取り出した。

 

 

「そんなに欲しいならあげるわよっ、この変態っ!」

 

「注射器はっ、いやっ、あっ、ア─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお〜!身体の中から完全に消えてる〜!」

 

「これはすごいな!」

 

「当たり前よ。誰の作った薬だと思っているの?」

 

 

 ねずみ男の新たなレントゲン写真を見る2人。

 あんなにウジャウジャと、ねずみ男の体内で運動会を繰り広げていたボヤ鬼達の姿はどこにもなくなっていた。

 

 

「良かったわね、ねずみ男」

 

「ほへ〜〜」

 

 

 今度は口ではなくお尻に大きな絆創膏を貼られて、メソメソしているねずみ男は情けない声で返事を出す。

 

 

「これに懲りたら、真面目に働いて──」

 

「説教は勘弁してくれェ。悪かったよ、もう楽して金儲けなんかしようとは思わねえよ。身に沁みたよほほほ……」

 

「やれやれ」

 

 

 藍の説教を聞く体力はない。

 身体はどこか気分的にスッキリしているが、精神面で疲れてしまった。

 

 

「あとは里中に感染したボヤ鬼たちの退治だな。永琳殿、先ほどの薬を沢山くれないか?」

 

「もう準備できてるわ」

 

 

 そう言って大量の錠剤を出す。

 ねずみ男の時は液体だったが、今度は小さな固形型、お菓子のような薬だった。

 

 

「注射だと子どもは嫌がるし、苦いと飲もうとする人もいない。だから今ちょちょっと改良して誰でも飲みやすくしたわ。唾液と混じれば、すぐに溶けるから飲みやすいと思う」

 

「ほんとっ、仕事早いわね」

 

「あとは優曇華と苦笑を連れてって手伝わせるわ。今、呼んでくるから待っててちょうだい」

 

「それ、待ってくれねえか」

 

「?」

 

 

 話を進める3人。

 その間にねずみ男が入ってくる。

 

 

「何のつもりよ。もしかして邪魔する気?金の卵が手に入らないからって・・・」

 

「そんなんじゃねえよッ!!」

 

 

 ねずみ男の顔はいつになく真剣そのもの。

 口元のだらしない弛みが引き締まり、いつも半開きの目がまっすぐ前を見据えている。僅かに眉が寄せられ、今までにない真剣な光が宿っていた。

 

 

「俺は…っ、俺は今回も里のみんなに迷惑をかけちまった…。そんな自分が情けねえんだ。変わりてえんだよ!」

 

 

 いつもならすぐに逸らす視線を、今度はまっすぐ相手に向ける。揺らぎのない目が、まるで別人のように輝いていた。

 

 

「頼む。里の皆んなに薬を配るのは、俺1人にやらせてくれ。誰の力も借りずに迷惑かけたことを償いたいんだ」

 

「ねずみ男……!!」ホロリ

 

 

 藍は感涙していた。

 ねずみ男のことを幼い頃から知っている藍としてはかなり感動していた。最近はすぐに犯罪ばっかりやって捕まったり、敵に寝返ったりと良い噂を聞かないので心配していたのだが、無用のようだ。

 

 

「りっばになったんだなぁ……うっ、ううっ、うれじぃ…」

 

「何、泣いてんのよ。八雲の式のくせに」

 

 

 霊夢はねずみ男に近づき、疑惑の目を向ける。

 

 

「あんたが改心を?信じられないわ」

 

「霊夢、信じてやってくれ…!」

 

 

 藍が縋るように言う。

 その姿を見て、大きなため息をついた。

 

 

「わーったわよ」

 

「私としては何でも良いわ。はい、薬よ」

 

 

 ねずみ男は受け取るとキリッとした顔で言った。

 

 

「ありがとう!僕が…っ、僕が里を救うんだ……!!とうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆んなァ〜!聞いてくれ!腹の中の妖怪を退治する方法が分かったよぉ〜!」

 

 

 なんだなんだ、と人が集まってくる。

 ねずみ男は大きな紙に描いたボヤ鬼の姿と自分のレントゲン写真を見せて叫ぶ。

 

 

「皆んなの体の中に、この妖怪“ボヤ鬼”っていうのが寄生しているんだよ!!早くこの薬飲まねえと体ん中、全部喰われて、骨と皮だけになっちまうよ!」

 

「ま、マジかよ!」「なんかもっと気分が悪くなって…」

 

「安心したまえ!そんな事もあろうかと永遠亭と協力して作り上げた博麗霊夢も認める手作り薬剤!その名も、ビビビ八意印のエトセトラぁ〜っ!今なら一粒50000円のところ、たったの10000円だ──ぶべらっっっ!?!?」

 

 

 

 飛んできた霊夢の高速膝蹴りがねずみ男の顔面にめり込んで、ぶっ飛ばされる。そこら辺にスーパーボールのように跳ねまくったと思えば、ゴミ袋の上に落下した。そのまま頭を掴まれて持ち上げられる。

 

 

 

「ゆ、ゆるじでぇぇぇ…」

 

「このドブネズミ!やっぱり嘘ついたわね」

 

「魔がぁ、魔が差しただけ、だけなんだよぉ……。」

 

「影から見といて正解だったわ」

 

「何やっているんだ…。変わったと思ったのに。はぁ…」

 

 

 呆れる藍と怒る霊夢。

 ねずみ男はそのままポイと捨てられた。そのままぼったくり事業は即終了となり、すぐに霊夢達が代わった。

 

 もちろん無償で人々に配り、体の中でひしめく合っていたボヤ鬼たちは一斉に処理されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷の崩壊は止まった。

 全員が安堵する。

 

 

「・・・よし。里中からボヤ鬼の気は消えた。とりあえず幻想郷中、見て回ってみてから紫様に伝える。霊夢、本当に助かった。礼を言う」

 

「私は何にもしてないわよ。永琳に言って」

 

「それでも、だ。手伝ってくれたのだから礼は言う。では──」シュンッ

 

 

 藍が隙間に消えると、霊夢は一応平和になった里を見渡して言った。

 

 

 

「それにしても、どうしてこうもぼやく人が増えたのかしら」

 

 

 

 ねずみ男は起き上がって答える。

 

 

 

「確かになァ。俺もつくづく思うぜ。どいつもこいつも小せえことでぼやいてばかり。その()()()()()()()()()ってのはどういうもんなのかねぇ」

 

 

 飢え死にしない程度に飯は食える。

 暑さや寒さにも耐えられる程度の家がある。

 お年玉だって貰える。

 餅も食える。

 働き口がある。

 生きていける分の金はある。

 孤独から助けてくれる存在がいる。

 

 

「俺様よりも、人生満ち足りているのに足りない足りないとボヤく人間ってのはつくづく不思議だナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに隠し味とは──

 

 

 

「あっ、あ…♡」

 

「優曇華、貴女は本当に良い子ね」

 

「あふーん♡もっと褒めてぇ〜♡」

 

 

 ぽちゃん…。

 

 幸せすぎた生物から出る体液…、この場合、唾液だが、それにはポジティブな成分がたっぷりと含まれている。これが隠し味の秘密であった……。

 

 

「ほら、褒め殺し終了。これでまた薬の生産するからさっさと出て行って」

 

「あーん、辛辣ゥゥ」

 

 

「最悪な関係だ…」ニガワライ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました

 心理学でもポジティブよりネガティブの方が人にうつりやすいんですって。つまりどんなに楽しいチームでも1人がネガティブな発言をずっとしていると全員が暗くなるとのこと。

 皆さんも気をつけてください。
 いつの間にか、ボヤ鬼に取り憑かれているかもしれませんよ







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