なんか熱が上がったり下がったり。
体が弱くなったのかもしれません。
「みんなの愛した歴代ゲゲゲ」始まりましたが、新しいオープニング映像に感動している。新たに動く4期、5期の鬼太郎を見れるなんて嬉しい。感動です。
今回はリクエスト妖怪出しますのでよろしくお願いします。
「墓場は良いねえ。ヒンヤリしているからお供え物が腐りにくいもんネ、ひひひひひひ」
夜霧が濃く立ち込める雨上がりの墓場。月明かりは雲に遮られ、周囲はぼんやりとした闇に包まれていた。その中でねずみ男は、ご先祖様のために備えられた食べ物(カチカチになった)をモシャモシャと食べていた。
「・・・でも団子とか饅頭ばっかで飽きるなァ。肉とか脂っこい物も欲しいところ。さてお隣さんには何が備えられているかな」
ドンッ
隣の墓に移動しようとしたねずみ男は何かにぶつかり、ひっくり返る。自分を吹っ飛ばした相手を見る。ギョロリとした一つの目玉の下には小さな二つの目玉が覗いていた。
「いってて!ちゃんと前見て歩け・・・」
「うう〜〜〜!!」
「ああ?」
「お〜は〜か〜でぇ〜〜…お供物を〜盗み食いとはぁぁぁ〜〜〜……罰当たりめええええ〜〜〜!!」
黒い影がゆっくりと迫ってくる。
「ん〜?」
「うらめしやぁぁぁ〜〜〜ッ!!」
「・・・」
「・・・あれ?聞こえてないのかな。よし、もう一回…、すーはー……、うらめしやーーーー!!」
「うるせえええ!!」
「ひぃいいっ!?」
ねずみ男が怒鳴ると、脅かしてきた相手がすてんと転ぶ。驚かせようとしたのに怒られるなんて思わなかった。思わず情けない声をあげてしまう。
「こんのガキィ…。俺っちのディナーの邪魔しやがって」
「うう……そんなに怒らないでよぉ。ごめんよぉ」
驚かしてきた相手は少女であった。
水色ショートヘアーで、赤と青のオッドアイ。とある人物のように下駄を履いており、傍には目玉のついた傘がいた。
「・・・お前、“傘化け”だな。俺の知っている見た目じゃあねえが」
「なんで
「へぇ、驚いて欲しいのかい?ひひひ……そうだな。ならちょいと面貸しな」
「面?」
少女がそおっと近づくと、ねずみ男は彼女の顔に自身の尻を向けた。
「え?」
「ひひっ!」
ぶーーーーっ!!
「ぎゃああっ!?鼻が曲がる!目に染みる!!」
「うひゃひゃひゃ!!ばーか!ば傘化け!!」ケラケラ
「うええーーーん!」
びゃーっと泣くと傘化け少女は闇の中に逃げていった。
ねずみ男は愉快そうに笑う。
「自分より弱いやつをイジメるのは楽しいね。へへ、うへへへへ!!」
普段は強いやつに媚びているため、弱いやつを見ると威張ったり、いじめたくなってしまう。なんとも褒められない性格だ。機嫌が良くなるねずみ男は再びディナーの続きを始める。
「酒としょっぺえものが欲しいな〜っと」
しかし楽しい時間というのは長く続かないものだ。人様の墓を荒らすねずみ男にゆっくりと、大きなものが、静かに迫ってきているのだから。
「ん?なんだ?」
背後に気配を感じる。
ゆっくりと振り向いた。何か大きな壁のようなものが背後にあった。何だこれは、と手を伸ばすとぶにゃっと塗りたてのコンクリートの壁とまではいかないが、柔らかく濡れた感触が手に広がった。
「何ともまあ気持ちの悪い……」
『ゥゥゥ・・・』グチョッ
「ひぃいいっ!?」
※
ねずみ男は湿った地面をバシャバシャと蹴りながら必死に駆けていた。
「ひ、ひぃ……! なんでこんなことに……!」
背後で何かがぬるりと蠢く音がする。早くはない。ゆっくり、まるでナメクジのようにぐちゃ、ぐちゃ、と粘りつくような足音。地面を這いずるような異様な気配が、ねずみ男のすぐ後ろまで迫っていた。
「こ、こないでぇ〜!お墓はちゃんと掃除します!もう勝手に食べません!だからお許しをぉ〜!!」
『ヌゥ……ッ』グチョッグチョッ
「許してくれよぉ〜〜っ!!」
転びそうになりながらも、墓石の間をすり抜ける。だが、足元の土はぬかるんでいて、思うように進めない。息が切れる。鼓動が激しくなり、全身から汗が噴き出す。
ふと、背後を振り返った。
輪郭が曖昧で、肉が揺れるような異形。明確な形を持たぬそれが、静かに、だが確実に迫ってくる。その威圧感にねずみ男の喉が、ごくりと鳴った。
「……な、なんだよ……!そこまで怒る必要あるぅ!?」
『ヌゥウウゥゥゥ……ッ!!』
「ひぃぃぃぃぃッ!!」
ねずみ男は悲鳴をあげ、転がるようにして再び走り出した。頭の中は恐怖で真っ白だ。ただ生存本能だけが、ここから離れろと叫んでいる。だが、背後の足音は止まらない。むしろ、ますます近づいてくる。ぬちゃ、ぬちゃ、と地面を踏む音が、耳の奥にまとわりつく。
「や、やめろ……! ついてくんなぁぁぁ!!」
墓場の奥へ、奥へと逃げる。
けれど、この場所には出口がない。あるのは、ひしめき合う墓石と、冷たく湿った闇だけ——。
「も、もうダメだぁぁぁ…っ!!」
『アアァァ……!!』
化け物が迫る。
手を伸ばして───。
「誰かお助けぇぇぇえ〜〜〜っ!!」
「せーーーいッ!!」
『ヌベェェェッ!?』
墓と墓の間を俊敏に抜け、巨大な黒い塊を誰かが蹴り飛ばす。柔らかい体に蹴りを浴びせたことにより体がブヨブヨと波打ち、黒い塊は驚きとうめき声を上げながら墓石にぶつかると、べったべったと歩いているのか分からないくらいのスピードで逃げて行った。
「た、助かった」ホッ
「あの妖怪ったらまたイタズラして…。何回注意しても反省する気も無いんだから。……あの大丈夫ですか?」
「地獄に仏とはこのことよ。助かったぜ、ありがと」
手を差し伸べられたので握り、立ち上がる。
助けてくれたのは金髪と紫が混じり合ったロングヘアーの女性だった。
「うひょお、これはまたキレイなお姉様。……こほん、どうでしょうか。助けてくれたお礼も兼ねて、この私、ビビビのねずみ男とお食事でも。美味しいお酒の出る店を知っているんです。……お代はそちら持ちで」コソ
「あ、はは。気持ちは嬉しいのですが、ごめんなさい。戒律でお酒は禁止でして」
「戒律?」
「はい。私はこの命蓮寺の住職──“
「尼さんでしたかァ!だから上品で立派なカヲリがするわけね。いやーそれにしても幻想郷って場所は神社や寺が多くてビックリしますなあ」
「あら、その口ぶりからして外から?」
「そうそう!まだまだこの土地に慣れてなくてね。あんな妖怪が彷徨いているとは知らなかった」
「ああ。あの子は墓場を好んでいましてね。人を驚かせるのが大好きなんですが、やり過ぎてしまうことが多くて。でも妖怪は怖がらせるのが仕事ですので許してあげてくださいね」
「そりゃあ勿論。でへへ」
「それにしても、なぜこの墓地に?外から来たのなら知り合いの方が眠っているわけでは無いのですよね?」
「えっ!?え、えーと、実は僕、夜のお墓巡りが好きなものでして!風情があって怪奇的なところに心惹かれてしま──「嘘つきィッ!!」──お、お前は!?」
聖白蓮とねずみ男の間に、なんと先程いじめた傘化け少女が現れた。目の周りを赤くして、ぐすっぐすっと涙を少し流しながら現れた。そんな姿を見て、聖はすぐに駆け寄る。
「
「ううっ、うえーん!聖…、ぐすっ、そのおじさんに意地悪されたんだよ……」
「何ですって!!」
聖白蓮が驚いたようにねずみ男を見る。
ねずみ男は首を横にブンブンと振っていた。
「滅相もない!僕が幼気な彼女をイジメるものですか!!」
「おじさんがお墓を荒らしてたから注意とビックリさせようと思ったら、時代遅れとか言われたし、顔面にオナラしてきたんだよ!目が痛いよお」ウルウル
「・・・どうやら嘘をついているのはねずみ男さんの方ですね。そこに正座なさ──」
ねずみ男の姿はもうない。
遠くの方に小さな背中だけが見える。
「逃げ足はっや・・・」
「次彼に会った時はお説教確定ね。さて、小傘、お風呂に入りましょうか。体にまで匂いが染み付いていますから」
「くんくん…。くちゃいよぉ」
※
「はぁっ、はぁっ、ここまで来れば大丈夫だな」
里に戻り、ゴミ捨て場に腰掛けるねずみ男。
逃げたせいで膨れた腹はまた減ってしまった。
「くそ〜。もうちょっと食っていたかったのに。この世界の尼とか巫女とかは面倒臭えなア。……やっぱり盗み食いよりも金稼いで食った方が安心して飯が食えるよな。さーて、金を楽して稼ぐにはどうするかなぁ」
覚悟を決めて立ち上がる。
しかし、彼の中には真面目に働こうとする意思はない。甘いものを食べてグルグルと脳みそが彼に新たなアイデアを与えようと稼働し始めた。
「・・・そういや、俺を追いかけてきたあの妖怪。何処かで見たことあんだよなぁ」
以前、そう鬼太郎と一緒にいた時に・・・。
あの肉の塊のような妖怪を見たはず。あの時も腐ったような肉の臭いを撒き散らしながら、べとっべとっと足音を鳴らしていた。
「思い出した!アイツだ。……そういや、アイツの体って。……ぐふ、やっぱり俺様って天才だ。ぐふふふのふ〜」
※
「うわ、あのジジイだ」ヒソヒソ
「うるさくなるぞ。隠れろ」ヒソヒソ
「さっさとくたばれ、老害」ヒソヒソ
「お前の時代はもう終わってんだろ。静かにしてろよな」ヒソヒソ
ここは人里──。
この里には人や妖怪が入り乱れて暮らしている。中には人間に混じって一緒に働いていたり、人間の店で買い物をしたりするなど我々から見たらあり得ない光景が広がっていた。
「・・・ふん」
そんな光景を何十年も見てきた人間の男がいる。
齢89歳の老人の名は“
「ふふんふんー」
「ばっかもーーーん!!」
「げえっ!?」
「ばかもん!!最近の若いもんは、なんでそんなに猫背なんだ。もっと堂々と胸張って歩かんか、胸を!」
そう。この男は若者を見ると何かと怒鳴りつけたくなる迷惑な老人であった。特にチャラついているものを見ると“今時”は、と若者を否定する。頑固な時代の生き残りである寅次は杖を地面に突きながら、通りすがりの青年に向かって怒鳴っていた。通行人は気まずそうに会釈だけして足早に去っていく。
「返事もろくにできねぇのか……これだから今どきの若者は……」
呟いて、ふぅと息をついた。
怒鳴ったつもりなのに、胸が苦しい。背中は丸まり、脚の節々がじんじんと痛む。
「……ったく、情けねぇ……人を叱るのも一苦労か……」
寅次はひとりごとのように笑い、それから石の上に腰を下ろした。手の甲を見れば、皺が深く刻まれ、浮き上がった血管は細く青い。かつて鍬を握り、田を耕した頃の力強さは、そこにはもうない。
「……ワシも、もう長くねぇってことか……」
不意に襲い来る静けさに、寅次は小さく震えた。何もしていないのに、ただ老いるだけで、身体のあちこちが不自由になっていく。軟弱になっていく。そして自分はどうなるのか。誰にも看取られず、ただ朽ちていくだけなのか。
「……くそ、まだ……まだ死にたかねぇ……」
今時の若者は年寄りは敬わない。誰も助けない。自己中心的で、意地が悪い。情けない。根性がない。
自分が死んだら、こんな若者たちを誰が指導できる?矯正できる?
同期たちは老いを受け入れ、そして若者を見守るだけで何もしない。間違っていても注意できない。哀れで醜いのだ。
「周りの連中じゃ話にならねえ。こんな若者たちに里を任せてなんかいられねえんだ…。ずっと生き続けられるのなら、儂の幻想郷魂を永遠と継承できるってのに……!」
そんな悩みを抱えた寅次に一人近づくものがいる。
白髪で、頭には一つ大きめなリボンをつけた少女だった。彼女は寅次の肩をポンと叩く。
「今日も元気だな、寅次」
「・・・妹紅さん」
幼い頃から知っている2人。
不老不死である妹紅は、寅次を子どもの頃から知っており、ヤンチャをしてはよく怒られていた。
「寅次。若者を見かけるたびに怒鳴るのはどうかと思うぞ?」
「昔は怒鳴られるなんて当たり前だったじゃないですか。今は緩くなって…。根性なしが育つばかりで全く情けない」
「やれやれ。若者を信じてやったらどうだ?」
「・・・ふん、考えておきます」
※
妹紅と別れた後も、寅次は甘味を食べている女を叱り、遊び回る子供に勉強をしろと叱り、そして1人の家に帰る。家の中はほとんどものがなく虚無で闇しかない。そんな中をポツンと1人でいるのだ。
(儂は間違ったことは何もしとらん……!!)
寅次の若い頃はよく他所の人から怒られていた。
何がダメで、何が良いのか、それを全員で理解し共有していた。だが今は違う。自分さえ良ければ、と考える者がたくさんいる。嘆かわしい。
(儂が若者を導かないといけないんだ。
老いへの絶望。
死への恐怖。焦り。
周囲に説教は響かず、年寄りの戯言だと陰口を叩かれる。それが悔しかった。
(お前らみたいなのが正しく生きられるために儂が努力しているんだ。それなのに儂がおかしいかのように言われる。くそっ、くそっ!妹紅さん、儂があんたのように死ななければ、幻想郷の馬鹿どもを永遠に指導していけるんだ……!!)
そんな心の隙間を──。
人の弱みを──。
この男は見逃さなかった──。
「いつの時代も人間が欲するものは変わりませんよね、へっへっへ」
いつの間にか、寅次の隣には鼠色のボロ切れを着た男が立っていた。驚き、すこし後ずさってしまう。
「特にあなた様のような里に尽力している御方なら尚更だ」
「な、なんだっ、貴様!」
「どうもお邪魔してまーす。私、こういうものです──」
手渡された薄汚い名刺を声に出して読む。
「“永遠の命支援会会長 ビビビのねずみ男”…?」
「にひ。入りませんかね、永遠の命」
「ば、ば・・・、ばっかもん!!貴様!ふざけるのも大概にしろ!セールスか何かをしている暇があるなら力仕事して汗水垂らさんかーー!!」
「まあまあ、お爺さん。今じゃ汗水垂らして働くなんて時代遅れですよん」
「くだらん!いいか、昔から若者はな、“苦労は勝手でもしろ”と言われておって…うっ、いたた…!!」
叫びすぎて腰が痛む。
ねずみ男はさらにニヤリと笑い、手を擦りながら近づく。
「いやぁ〜、お辛そうですね。にひひひ」
「お前に何が……ぐっ、…分かる……!!腰が…っ」
その場に座り込む。
ねずみ男は耳元で呟く。
「寅次さん。聞きましたよん?……昔は里のために力仕事や農作業。今は青少年を正しい道に進ませ……、色々尽くしてきたらしいじゃないですか」
「!」
「で・も──、今じゃ周りからは煙たがられ、馬鹿にされている」
「それがなんだ!!」
「貴方は
寅次はその言葉にぴくりと反応する。
そっと頭を上げて、ねずみ男の顔を見る。ニタァと笑う顔を見て、怪しいとすぐに分かる。
でも、それでも、怪しいと疑う気持ちよりも、この不安が消えるという言葉に希望を持ってしまう。
「本当か・・・?」
「多少はお金がかかりますがネ。にぃっひひひひっ!!」
※
「で!で!そこで俺が言ってやったわけよ!」
「ゆーくん、かっこいいー!」
イチャイチャと昼間から男女が、周りの目を気にせずにバカップルぶりを見せている。そんな軟派なものを寅次が見たら怒鳴りつけているはずなのだが、今日は違った。
「・・・はぁ」
見ているようで見ていない。
心の中が空っぽになっているようだった。
「そのあとはな!俺がこの拳で──」
どんっ
「いたたっ」
「あん?」
若者とお婆さんがぶつかり、お婆さんが地面に倒れる。若者はギロリとお婆さんを睨みつけた。まるで潰した害虫を見るかのような目で、軽蔑するように。
「邪魔だよ、ババア」
「ひぃっ、す、すいません…っ」
「ふんっ」
そう言って通り過ぎようとする若者。
そんな若者の肩を誰かが掴み、引き止める。
「待ちな」
「誰だ──ヒィッ!?」
引き止めたのは藤原妹紅だ。
彼女は怒りの形相で睨みつけると、若者は震え上がる。彼女は女性でありながら幻想郷指折りの実力者だ。命の危険を感じて、カタカタと震える。
「お前、トメさんにその態度はなんだ。いつからそんなに偉くなった?」
「ご、ごめんなさい…」
「私にじゃない。トメさんに謝れ」
「は、はいぃぃ…!!ごめんなさいぃぃ…!」
若者は謝ると彼女を置いて逃げていった。
彼女も最初は戸惑っていたが、すぐに彼を追っていく。
「ありがとう。妹紅ちゃん…」
「怪我は?」
「無いよ。大丈夫さ」
「よかった」
「いや〜、けどこういう時って寅次さんが出てきて怒ってくれると思ったんだけど今日は見ないねえ」
「確かに。・・・あ」
ちらりと辺りを見ると寅次は全く今の騒動に気づいておらず、俯いたままぶつぶつと何か独り言を言っているように見えた。何か思いついているのかもしれない、そう思って妹紅は近づく。
「寅次」
「・・・」
「寅次、大丈夫か?」
「! も、妹紅さん」
「どうした、お前らしくないじゃないか。何かあったか?」
「い、いや、何でも」
そう言って寅次は逃げるようにその場を去っていった。
妹紅は追いかけることはしなかったが、その背中を目で追い続けるのであった。
※
寅次は杖をつき、よろよろと歩きながら命蓮寺の墓場へと向かっていた。懐に隠した包丁に月の光が反射し、焦燥した寅次の顔が照らされる。これから誰かを殺しに行くかのような、または何かに恐怖し焦っているかのような顔だ。
「・・・っ、大丈夫、大丈夫だっ、儂ならできる」カタカタ
独り言を何度も繰り返す寅次の頭の中には、ねずみ男と出会った時のことが浮かび上がる。
◯
「20万、何とか用意したぞ」
「へへへ。毎度ありがとうございやすね、旦那ぁ」
大事そうに懐に札束をしまう。
「それで、教えろ。どうやったら死ななくなるんだ」
「ええ。実はね、命蓮寺の墓に出る肉塊みたいな妖怪がいるんですがね、そいつの肉をパクッと食べればいいんですよ」
「な、なな、なんだと…!?妖怪の肉!?」
「んふふふ、何スカ?自分よりも血気盛んな若者を叱り飛ばしてきた寅次さんとあろう者が怖気付きました?」
「だ、だが、妖怪の肉は流石に……」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずって昔から言うでしょう。不死身を得るのってそう簡単じゃあないんですよ。でもね、そいつはかなりトロいんすよ。だからこっそり近づいて肉を剥ぎ取って食べちまえば良い。そうしたら貴方は永遠に生き続けられる──」
ねずみ男はそう言ってから闇の中に進む。
まるで同化するように彼自身の姿が溶け込んでいった。
「まぁ、結局、やるかやらないかは自分次第っすよ。俺は情報を売っただけだし、あとはご自分で!ばーい!」オホホホ
◯◯
「!」
気づけば、墓場に立っていた。
考え事をしながら歩いていたせいで気づかなかったが、目的地には到着している。
「怖い……っ」
顔をしかめ、吐き出す息が白く濁った。こんな夜に、こんな場所へ足を踏み入れるなど、正気の沙汰ではない。自分でも分かっている。命蓮寺周辺は聖白蓮の領域であり、勝手な殺生は禁止されているので襲われる可能性は低い。ただゼロではない。食われてしまう可能性が必ずある。里から出たら死んでも文句は言えないのだ。
だが、それでも——。
その妖怪の肉を手に入れさえすれば、不老不死が叶うかもしれない。食われる恐怖よりも永遠を求めようとする欲が勝る。
「やってやる……」
かすれた声が墓場の静寂に溶けた。
踏みしめた地面がぐずりと沈み、どこかに埋もれていた骨のようなものを踏み砕く感触が靴裏に伝わる。ぞわり、と背筋を這い上がる悪寒。
——それでも、引き返せなかった。
(いた──)
闇の奥、墓石の影。そこに、ぼんやりとうずくまるようなものが見える。それはぬらりと光り、脈動するように微かに動いている。まるで、生きた肉塊のように——。
『ぬゥゥゥ……』
寅次は唇を噛み締め、覚悟を決めた。
老いと、死と、それらすべてへの恐怖に突き動かされながら、彼は小刀を構え、一歩、また一歩と、異形へと近づいていった。幸いにもその妖怪は気づいていない。年寄りの自分でもバレていない。
(できるっ、儂にはできるっ、できる、できるできるできる──)
ス──、ズブッ──
ぐちゅっ、ちゅ、ちゅぐ……
『ぬ・・・』
※
「はあ…っ、はあ…っ!!」
無我夢中だ。
妖怪の背中らしき所を包丁で刺し、肉を剥ぎ取った。そして一目散に墓場の入り口の方へと逃げていた。すでに汗だくで、心臓がフルマラソンを走り切った時のようにドグドグと動いている。
「こ、これを・・・」
手のひらには白い塊が握られていた。
それは腐乱臭を放ち、そして冷たい。まるで何日も放置された死体の肉だ。全く食欲が湧かない。こんなものを口に入れようと思わない。
しかし食べなければここまでの苦労が無駄になる。鼻をつまみ、その肉を口はゆっくりと運ぶ。
「ふー…、そういうことか」
「!」
びくんと体が跳ね上がる。
口から心臓が飛び出しかけた。
振り向くと、寅次の背後には煙草を吸う妹紅の姿があった。彼女と目が合うと同時に手に蹴りを入れられる。
「ふん」
「いっ、あっ!?」
肉を落としてしまうが、妹紅が取らせようとしない。いつもとは違う圧を向けられて動けなくなってしまう。
「ぬっぺっぽうの肉を食べて、不老不死になろうとするなんてな」
「ぬ、ぬぺ…?」
『ぬっぺっぽう』
別名「肉人」とも呼ばれ、名前の通り、肉塊の妖怪である。しかも生肉などではなく屍肉なのだ。様々な妖術に長けているのも特徴である。
墓場やジメジメとした場所を好み、人を驚かすことを好む妖怪らしい妖怪。
だがこの妖怪にはすごい秘密がある。
それは『ぬっぺっぽう』の肉を食べたものは永遠の命を得られるのだ。このような事ができるのは他には人魚くらいであろう。しかし簡単には食べられないともいう。
「何故こんなことをする?お前が求めているものは呪いだぞ」
「……っ、説教される筋合いはない」
落ちた肉を拾う。
そしてぎゅっと抱きしめ、離す気は無いことを示す。
「不老不死のあんたには分からないさ。老いていくことの辛さ、馬鹿にされる苦しさを!呪いだろうがなんだろうが構うものか。儂は不老不死になってやる!!」
「・・・寅次」
「いくら止めても無駄だぞ。儂は生き続けてや──」
「危ない!!」
振り返る寅次の視界に入ったものは、大きな肉の塊がゆっくりと迫る瞬間であった──。
『ぬぺぇぽぉぉお……!!』
ぬっぺっぽうは怒っていた。
いきなり背後から肉を抉られ、取り返そうとしていたのだ。そりゃあ怒るだろう。それでも妹紅は寅次を守るように立ち、ぬっぺっぽうに話しかける。
「ぬっぺっぽう。私の知り合いが無礼なことをしてすまなかった。肉は返すから許してやってくれ」
しかし、ぬっぺっぽうの怒りは収まらない。
ぷるぷると肉を震わして、許さないと全身を使って表現しているようだ。
『ぬうぅぅぅぅーっ!!』
どんっ、と腕を振り下ろす。
しかし難なく避けて、胴体に蹴りを喰らわした。
『ぬ、ぬぅ…っ!?』
「ぬっぺっぽう。私たちは争う気はないんだ。頼む、この人間を許してやってくれ」
ぬっぺっぽうの皮膚が赤くなる。
今ので完全にブチギレた。人間が悪いのに、里の外で襲っているのに、なぜ自分が悪者のように扱われるんだ。
『ぬぺ、ぬぺ、ぬぺぺっぺ〜。ぬぺ、ぬぺ、ぬっぺっぽ〜〜〜』
「まずい…っ!」
ぬっぺっぽうはいきなり歌い出した。
妹紅はハッとして、寅次に叫ぶ。
「寅次、耳を塞げ!」
「何を言って……!?」
寅次は言われるままに耳を塞ぐ。
妹紅の方は苦しそうに倒れかけていた。そして異変に気づく。あの綺麗な指から段々と水分が失われて、カラカラに乾いていく。苦しそうな声を出して、背中が丸く、そして髪の毛がスッと抜けていく。
「あ、ああ……っ、う…ぁぁぁ……っ」
「も、妹紅さんが老いていく!?」
ぬっぺっぽうの妖術の一つ『老化の術』
妖気を込めた歌を歌うことで聴いた相手の年齢を強制的に奪い、ぬっぺっぽうの力に変えていく。わかりやすく言えば、人間の年齢が体内に蓄積していくのだ。だからその年齢が詰まった肉を食えば不老不死になれるのである。これが奴の体のカラクリなのであった。
「寅次、逃げ、ろ…!!」
『ぬぺぺぺぇ!!』
ぶうん、と空気を切り裂く音。
巨大な腕のようなものが、ゆっくりと、だが確実に妹紅に振り下ろされた。避けることはできず吹き飛ばされる。
「ぐぉっ!!」
咄嗟に身を引いたものの、逃げ場はなかった。ぬっぺっぽうの腕が妹紅の体を薙ぎ払う。軽い身体は宙を舞い、墓石のひとつに叩きつけられた。
「ぐ……あ……!」
石の角が背中に食い込み、息が詰まる。肋骨のどこかが音を立てた。そのまま墓石にヒビが走り、妹紅の上に瓦礫が被さる。妹紅はそのまま埋もれてしまい、動かなくなってしまった。
「妹紅さんっ!!」
『ぬうぅぅぅぅ……、ぬぺぇぇぇぇ…!!』
標的を寅次に代える。
そうだ。
こいつが俺の体を切ったんだ。許さねえ、許さねえ。俺の体を返してもぶちのめさなきゃ許さねえ。
(に、逃げなきゃ、逃げ、逃げぇぇぇ……)
その時、自分の手の中に肉が握られていたことに気づく。返したくない一心で抱えていたものだ。それを見て、ハッとする。
「か、返す…!!返すよっ!!」
肉をぬっぺっぽうに投げ返す。
すると体にぶつかった肉は体に吸い込まれていき、抉れていた部分が再生した。
「こ、これで…」
『ぬぺえぇぇぇっ!!』
「ひぃいいっ!?な、なんでっ!!」
足が動かない。
怖い。
死ぬ、嫌だ。なんでこんな目に。不老不死を願ったから?だってみんなが馬鹿にするから。見返してやりたかったんだ。それだけなのに。いやだ、死ぬなんて嫌だ。もう要らない。こんな目に遭うなら肉なんて要らない。不老不死なんて要らない!誰か、誰か助けて、助けて。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、誰か助けてぇぇぇ……っ!!」
『ぬぅぅぅぅ……!!』
「寅次から離れなッ!」
夜の墓場に、怒声が裂けた。
直後、火花のような光が弾け、ぬっぺっぽうの肩口に炎が炸裂する。
『ぬぅっ!?』
ぬっぺっぽうは焼けるような音を立て、のたうった。年齢を奪い殺したはずの妹紅に驚きながら、見据えるように立ち上がる。ぬっぺっぽうは知らないのだ。彼女の呪われた力を。年齢を奪い行動不能にしておけば良かったのに、殺したから
「けほっ…、も、妹紅さん…っ!!」
寅次は、地面に尻餅をつき、呆然とその姿を見上げていた。
白い髪をなびかせ、赤いリボンを揺らしながら、藤原妹紅は静かに手のひらを掲げた。そこには、燃え盛る炎が揺れていた。
「寅次は肉を返し、謝罪をした。これ以上何を求めるというのだ。遥かに長命である妖怪ならば若者の過ちの一つくらい許してやってくれ」
『ぬうぅぅぅぅっ!!』
「・・・っ」
ぬっぺっぽうは引かない。
妹紅も一歩踏み出す。
地面が焼ける。ぬっぺっぽうもまた、応じるように体を揺らし、彼女に向かって腕のようなものを伸ばしてきた。
「この分からず屋……!」
妹紅が放った火球は、夜を裂いて一直線にぬっぺっぽうに命中した。
肉が焼け、異臭が立ちのぼる。それでもぬっぺっぽうは、体をねじりながら距離を詰めてくる。
『ぬっぺえぇぇぇっ!!』
ぬっぺっぽうはなんと距離を詰めながら、巨大化していった。次々と墓石を薙ぎ倒し、その体は一つの山のようだった。そして大きな足で妹紅を踏みつけようとする。
「火の鳥……!」
次の瞬間、妹紅の全身が炎をまとう。彼女の足元から吹き上がる火柱が、墓場の冷気を一気に蹴散らした。彼女自身が炎そのものになったかのような勢いで、ぬっぺっぽうへと飛びかかる。
「
接触と同時、爆ぜるような音と共に、炎が巨大な渦となって墓場を覆い尽くした。ぬっぺっぽうの肉体が焦げ付き、ぐずりと崩れていく。まとわりつく粘液も、妹紅の炎には敵わなかった。
『ぬべええぇぇぇ……っ!!』
※※
やがて、燃え尽きた墓場の空気に、静寂が戻る。気づけば夜が明けており、2人の顔を照らしていた。
「や、やったのか?」
「まさか。ぬっぺっぽうは悪い奴じゃない。怒りで我を忘れていたんだ。手加減はしたさ。……ほら」
『ぬ、ぬぺっ、ぬぺぺっ!?』スタコラ
崩れた墓石の中から小さくなったぬっぺっぽうがヌルンと這い出てきた。妹紅の炎により、全身の肉が溶け出し、こんなに縮んでしまったのである。これは堪らんと森の中へと逃げ出してしまった。
「あんな目にあって、それでも不老不死を求めるかい?」
「・・・いいや。もう要らない」
「どうして不老不死を?」
寅次は深いため息をついて、言った。
「驕っていたんです。自分が指導しているおかげで若者が正しい道に行ける、全部自分のおかげなんだって…。でも妹紅さんのぬっぺっぽうに言った言葉で……なんか、その…ハッとしました」
「そうだな。歳を取ると、どうしても自分の若い頃と比較してしまうよな。そして心配して声を荒げてしまう。実はな……お前が子どもの頃にもな、今のお前と同じように…“今時の若者は〜”と怒鳴ったり、嘆いたりする奴がいた」
「・・・え」
「嘘だと思うか?」
「い、いや、俺よりも歳上の妹紅さんが言うんだから疑いはしないけど……」
「どんな時代にも未来を心配する者たちは必ずいる。でもそんな心配を裏腹にお前は立派な大人になれたじゃないか。……だからな、先立つ者が出来ることは未来を生きるものたちを憂いて、怒るのではなく、信じて託すことなんだよ。だからお前も信じてやってくれ」
「・・・はい。後少しの人生、信じて生きてみようと思います」
「人生ってのは後半からが長いものと聞く。残りは自分のために使いなよ。ははっ」
少し笑ってから妹紅は真剣な顔つきで問う。
「因みにだが、ぬっぺっぽうのことを誰から聞いた?」
「ええと……それは──」
「何ですか、これはァッ!?!?墓地がめちゃくちゃにィッ!?」
「聖!落ち着いて!!」
「由緒正しい墓地をこんな目にして許さなーーーーい!!」
※※
「ふぃー、食った食った。やっぱり20万でやることと言えば高級弁当を買い占めることだよなア。げぷっ」
路地裏で大量の弁当箱のゴミが地面に散乱している。
その上でねずみ男は大の字になり、大きく膨れた腹を摩っていた。
「それにしてもあのジジイはどうなったかな。ああ見えてぬっぺっぽうは乱暴者だから……今頃は殺されてるかもナ。けけけっ、俺には知ったこっちゃねえが」
爪楊枝で歯の間のゴミを取る。
「よーし、これからも死に怯える老人たちを焚き付けて金儲けするぞ」
ぱちっ…
ぼっ…
「・・・ん?何かあったけえような」メラメラ
何気なく頭を触った瞬間、飛び跳ねた。
自分の頭が燃えているのだ。火柱が轟々と立っている。
「ぎぃやぁあああ〜〜〜っ!?!?か、か、火事だはははァッ!?み、み、水ぅぅぅぅっ!!」
里の中を猛ダッシュ。
里の門を出て、川の中に飛び込んだ。チリチリになった頭を出してほっと一息つく。
「死ぬかと思った」
「よぉ、ドブネズミ」
「そ、その声は・・・っ!?」
かつて“ひだる神”異変の時に雑草をおせちとして騙して買わしたり、地底で里を妖怪から守る者たちの映像を見た時に、天邪鬼と戦っていたりと何かと面識のある女だった。彼女の言葉はかなり怒気を孕んでおり、背筋が凍ってしまう。
「も、妹紅・・・!?」
「いきなりで悪いがよーく覚えておきな」
「は、はあ?」
「私はな、如何なる理由があろうとも不老不死を誰かに勧めるなんて許さない」
彼女の手が発火する。
川の中にいるのに生きた心地がしない。
「しかも人の弱みに漬け込むなんて最低の極みだ。・・・その腐った根性、焼き尽くしてやるよ!!」
「お、お、お助け──」
※
「次はそっちです!瓦礫を集めてください!それが終わったら修理に移りますよ!」
「はひ…っ」
全身やけどだらけで包帯グルグルの謎の男が、聖白蓮に怒られながら墓場を修理する光景が1週間続いたという。
「もう不老不死なんて懲り懲りだぁ〜〜っ」
ありがとうございました。
次回からはもっと早く投稿できればいいと思います!
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