ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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 どうもです。狸狐です。
 今回もリクエスト妖怪です!リクエストありがとうございます!この調子でどんどん書いていきますよ。








幻想郷の住人たち II
甘い話にご用心!!①


 

「宿題やったの?」

「父ちゃんの仕事手伝ってくれるか?」

「好き嫌いするんじゃないよ!栄養のこと考えてせっかく作ったんだからさア」

「うちの門限は5時だからね!過ぎたら容赦しないよ!」

「靴は揃えろってあれほど言ってるだろ!」

「早く風呂入りなさい!」

「もう寝る時間だよ!」

「ワガママ言うんじゃあないよ」

「気をつけるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うっぜえ〜〜〜」」」

 

 

 里にいる子どもたちはせっかく空き地に集まっているにも関わらず、遊びもせずに愚痴りあっていた。もちろんその愚痴の内容というのが自分たちの親のことである。

 

 

「なんで母ちゃんってあんなにうぜぇんだろう」

 

「分かるわ〜。ウチなんか宿題をやれやれうるさくて。やろうと思っても言われるとやる気が無くなるんだよ」

 

「こっちは門限破るとパパにぶっ飛ばされるよ…」

 

「好き嫌いすると次の日はご飯お代わり禁止」

 

 

 誰も彼もが家の事情の不平不満を吐き出している。毎日同じようなことを言われてウンザリしているのだ。

 

 

「俺たちだって色々あんだよ!それなのに“暇なんだから〜”って!何も知らないくせにさー」

 

「勉強とか時間とか……全部無視してずーーーっと遊んでいたいよ」

 

「そんなの無理だよ」

 

「分かってるよ!……分かってるけどさ夢くらい見させてくれよ」

 

「おーい!」

 

「ん?」

 

 

 そんな愚痴を言い合っている中に、友達の1人である男の子が走ってやってきた。いつも眼鏡をかけて手には分厚い本を持っている。本名は“門吉(もんきち)”、勉強ばかりしているのであだ名は“ガリ勉”である。

 

 

「ガリ勉!」

 

「遅かったな。今日もか?」

 

「うん、ごめんね。お母さんとの約束で、勉強3時間やらないと遊びに行けないから」

 

「お前も大変だな。親の命令でよ」

 

「・・・しょうがないよ。将来は()()()に勤めろって……。自分ができなかったからって僕に押し付けてさ……。勝手だよ」

 

 

 

 

 稗田(ひえだ)家。

 人里の中で最も有力な家の一つであり、大きな屋敷には多くの使用人が勤めている。使用人になれれば将来は安泰であり、仕事ぶりでは出世もできる。そして何より名誉なことであった。勤めるためには年に一回にある超難解の筆記試験と実技試験を合格しなければならず、100人受けて3人受かれば多い方と言われるくらいに大変なのである。

 

 因みにだが、人里で行われる祭事は全て稗田家が催している。

 

 

 

 

「そんなことよりさ!さっきこの里の歴史を勉強するために鈴奈庵で借りてきた幻想郷歴史資料を読んでたら、こんな事が書いてあったんだよ!」

 

「んー?」

「どれどれ?」「なになに?」

 

 

 持っている本はかなり古く、中を見ると文字や絵が途中で消えており、読みづらい箇所がいくつもあった。

 

 

「読めないよ、こんな文字…」

 

「あっ、ごめん。ええとね……」

 

 

 

 

 

 幻想郷の歴史一部抜粋

 

【いにしへの刻より あやかしの杜にしるされし聖き地あり。心正しからぬもの みだりに踏み入ること能はず。そこに時の流れはなく 日は昇らず 月もまた影を留めず。此処 まことに異界のうちにして現世の理をば離れたり】

 

 

 

 

「「「・・・?」」」

 

 

 全員が首を傾げている間に、門吉は続ける。

 

 

「簡単に言えば、妖怪の森の中にこの場所とは違う別な世界……“聖域”って呼ばれる場所があって、そこは時間とかがないんだ。あと安心安全だって書いてあるんだ」

 

「じゃあ森の中の……その場所ならずっと遊び放題ってこと?」

 

「そう!そしてこれがその場所の地図!」

 

 

 しかし1人が鼻で笑う。

 

 

「けどさー、里の外に一歩でも出ると妖怪たちに食べられちゃうじゃん。天狗とか山姥とかいるじゃん。そんな場所探そうにも探せないよ」

 

「確かに最初から無理な話だったんだ…」

 

「噂だけど天狗の新聞を購読している人は助けてもらえるけど、してない人は谷底に落とされるって聞いたわ」

 

「何だよそれ。そんな現金なのかよ」

 

「いやまだ良い方だぜ。山姥の方は子どもを見つけると即食われるんだってよ。臓物の風呂に入って血を啜るんだってよ!!」

 

「「「ひぃいい〜〜〜っ」」」ガタガタ

 

 

 身体の大きなリーダーが背筋をグッと伸ばす。

 全員も同じように伸びをした。

 

 

「諦めようぜ!門限もあるし、さっさと遊ぼう!」

 

「そうだな!」

 

 

 子どもたちは切り替えて、遊び出した。

 鬼ごっこを始め、ジャンケンに負けた女子があっという間に門吉を捕まえるのだった。

 

 

 

 そんな中、陰で笑うものがいた。

 子どもたちのやり取りをたまたま最初から最後まで聞いている男がいた。汚らしい布切れを身に纏う髭を生やした男……ねずみ男であった。

 

 

「聞いちゃったもんねぇ、うーふふふふっ!」

 

 

 ニタニタと笑い、妖怪の山がある方に身体を向ける。

 

 

「丁度探してたんだよな〜!()()()()()()()を建設するための土地を!時間が流れないなら永遠に遊び続けられるってことだろ……。テーマパークにはピッタリじゃないの!」

 

 

 ねずみ男には偉大なる大計画があった。

 それは娯楽の少ない幻想郷に、巨大な娯楽施設を作ることである。里の外には簡単に出られない人々の前に自由に安全に遊べる施設があったら連日人はやってくるだろう。彼の目には金のマークが浮かび上がる。

 

 

「ビビビーランドができたら俺様の懐には金がガッポガッポ!その場所は俺様が見つけてやるからな。にーひひひひひひっ!!」

 

 

 ねずみ男は門吉に目をつける。

 そう、彼の手の中には地図が載っている本がある。

 

 

「その為には地図を手に入れなきゃねぇ〜」

 

 

 そう言うと、ねずみ男は子どもたちが遊びを終えて帰るのを見届ける。そして門吉の背後をソソっと近づき、家を特定すると、親子ともども寝静まるのを待つのだった。一応、彼の中には半分人間の血が流れているはずなのだがストーカー、家の特定を難なくする姿は正に純正なる妖怪のようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本が無いッ!?!?」

   

 

 深夜、ふいに門吉が目を覚ますと枕元に置いていたはずの歴史資料本が無くなっていた。布団の下や辺りを見渡してもどこにも見当たらなかった。

 

 

「へ、返却期限が迫ってるのに…」

 

 

 夜風が入ってくる。

 不思議なことに窓が開いていた。

 

 

「確かに閉めたのに…。え、まさか、泥棒…っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にぃひひひっ!ガキから物を盗むなんて俺様にとっちゃあ赤子の手をひねるようなもんよ。さーて、どこにあるのかな〜。ビビビーランドの建設地〜〜」

 

 

 門吉家から急いで離れ、妖怪の山の入り口まで来る。夜中なので松明の明かりを使い、盗んだ本の中身、地図を読む。かなり古い文字ではあるが読めないことはない。

 

 

「ふーむ。森に入り、天狗たちの住処の真反対辺りだな…。そこに例の聖域があるみたいだな。けどどこがどこか分からねえな。てきとーに行ってみるか」

 

 

 大体の場所を把握しきれなかったが、何とかなるだろうと考え、ねずみ男は事前に用意しておいた籠を背負い、山の中を進み始める。そんな彼に一つの影が近づいてきた。木々の間をすり抜けるかのように素早く潜り抜けて、あっという間に追いつく。

 

 

「待て」

 

「!? だ、誰だ」

 

 

 ねずみ男の前に現れたのは天狗であった。

 以前、【ぐわごぜ異変】の際に、ちらりとあった程度だが天狗らしくない見た目なのでよく覚えていた。白い羽根に狼のような出立ちの少女である。

 

 

「我が名は哨戒天狗の犬走椛(いぬばしりもみじ)。ここから先は天狗の領土。何のようがお有りか?」

 

「なんだ、天狗か。ビックリさせんなよ」

 

「見た顔だな……」

 

「前の異変で俺はあんたらを救った英雄様よ?忘れたの?」

 

「・・・あっ、文さんと新聞製作した?」

 

「そうよ!ねずみ男さんよ!覚えておきなさいよ、この俺の顔!」

 

「あの時は感謝しておりますが、私は役目を全うしなければなりません。……こほん、許可が無ければ無断で山の侵入は認められませんのでお引き取りを」

 

「ん?……ってことは、こっちが天狗たちの領土なんだからその逆に行けばいいのか。ラッキー!」

 

「?」

 

 

 勝手に1人で納得するねずみ男にハテナを浮かべる椛。ねずみ男はクルッと向きを変えて走り出す。

 

 

「へっ、俺だってそっちに行く気はねえぜ。あ〜ばよ!」

 

「領土に入らなければご自由にどうぞ。あっ!そっちには山姥(やまんば)がいますのでお気をつけて……って、もう居ない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・迷った?」

 

 

 霧が濃くなる。

 步けど歩けど聖域と呼ばれる場所にたどり着かない。最悪なことに自分が今どこに立っているのかも分からない。このまま山奥に迷い込んでしまったのなら、自分は里に帰れるのだろうかと少し不安になる。

 

 

「くっそぉ〜〜っ!!天は俺を見放したのか〜!!このゴミ地図め、ポイっ」

 

 

・・・こっちだ

 

 

「ん?」

 

 

 

 声がした?

 自分を呼んだ気がして声がした方を見る。

 

 

「むはッ!?」

 

 

 高く伸びた木々の合間に、なぜか草も木も生えていない一角。そこに、朽ちかけた石段と、()()()()()()が見えた。

 

 

「こ、こりゃあ……」

 

 

 そこは神社。

 というより、神社だった“跡”だ。鳥居は半ば崩れ、しめ縄は切れて地面に落ちている。社殿も骨組みだけが残り、屋根の瓦が崩れ落ちていた。

 

 

「ええと……ダメだ、文字が掠れてて何神社か分からねえな…。けど神社ってことは【聖域】の可能性があるかもな」

 

 

 その場所は奇妙に“整って”いた。

 風もなく、虫の声もない。枯葉一つ、落ちていない。まるで、何かが常に見張っていて、掃き清めているかのように。

 

 

「……誰か、いるのか?」

 

 

 声に出してしまった瞬間、後悔した。音が吸い込まれるように消え、余計に静けさが深まる。

 

 

「何だよぉ、めちゃくちゃ不気味なのにぃっ。俺のバカバカ!好奇心の方が勝っちゃうなんて……」トホホ

 

 

 近づく。足元の土は乾いているのに、踏みしめるたびに、じゅく、と音がした。社の奥、闇の奥に何があるのかは、見えない。ただ、そこに“何かがいる”ことだけは、痛いほど伝わってくる。

 

 

 

 

◯◯

 

 

 

 

 闇の奥へ、ねずみ男の足は勝手に動いた。

 帰るべきだという理性が囁くが、脚は本能という糸で引かれて前へ、前へと進んでいく。

 

 

「お邪魔しますよ。さーて何かあるのかな〜……ビビビィッ!!」

 

 

 半壊した社殿の中は思ったより広かった。だが、その空間の中央に、ひときわ異質なものがあった。それは――壺だった。

 

 

「これは高いものと見たぞ。うひひひ。こうなると聖域探しよりも、この壺を売った方が現実的かもな」

 

 

 膝ほどの高さしかない、極めて古い陶器。

 だが、妙に生々しい艶があり、まるで今しがた人の手で磨かれたような光沢を放っている。表面には奇妙な文様がびっしりと彫られていて、それがなぜか脈打つように見えた。

 

 

「あ?何だこれ」

 

 

 壺の口には蓋がされている。いや、されているというより、“閉じ込められている”という感じだった。縄のようなもので幾重にも巻かれ、さらに封符のようなものが複数貼られている。ほとんどが色褪せていて、判読できない。

 

 

「うっわ……、絶対これマズイ奴だろ。それにここに入ってからたくさんの目で見られている気が…」ブルッ

 

 

 その場にいるのが自分一人であることを、ねずみ男は確信していた。それなのに──壺を見つめているうちに、まるで“複数の誰かと視線を交わしている”ような錯覚が襲ってくる。長年の経験から今自分はまずいところにいて、早く離れなければいけないと察した。

 

 

「最近は色々やらかしてるからなぁ。この壺は見なかったことにすっかなぁ」

 

 

 そう言って壺から、この神社から離れようとする。

 その時だ。

 カタカタと壺が動いたかと思うと、壺の中から低い唸り声のようなものが聞こえた。

 

 

『うぅぅぅぅ……』

 

「!?」

 

『待てぇ。ここから出してくれぇぇぇ……』

 

「おいおいおいおい…、壺の中に誰かいるのかァ!?」

 

『出してくれぇぇぇ。五百年間も封じられていた。苦しいぃぃぃ…。出してくれぇ』

 

 

 ねずみ男は壺に近づく。

 

 

「出してくれって言われてもよぉ。お前、封じられていたってことは明らかに悪いやつってことだろ?お前みたいなの出したら、俺はまたお仕置きされちまうよ」

 

『違う…。()()()()()()を持つ儂に……嫉妬した者たちが術で…この壺に閉じ込めたのだ』

 

「夢を叶えるゥ?嘘っぽいねぇ。そんなことができるってんなら、聖域って場所がこの近くにあるらしいんだけど見つけられねえんだ。見つけてくれよ」

 

『簡単な願いだ…。寧ろ、聖域程度、儂だって作ることができるぞ』

 

「なにぃっ!?」

 

『幾つもな!』

 

「幾つも!?」フハッ

 

 

 鼻息が荒くなる。

 

 

「う、嘘じゃないだろうな?」

 

『嘘なんかつくもんか。早く開けてくれれば……直ぐにでも叶えよう』

 

 

 聖域探しにも飽きていた時。

 何でも願いを叶えてくれる妖怪が封じられている壺を見つけられた。なんてツイテいるんだ。天は見離してなんかいなかったんだと笑う。

 

 

「よっしゃ!待ってろ!!」

 

 

 ビリビリッ、ボロッ

 お札や縄を無理やり引きちぎり、そして壺の栓に手を伸ばす。そのままグッと力を込めた。

 

 

「ふんぬぬぬぬぬ〜〜〜ぅっ!!」

 

 

 きゅぽんっと、栓が抜けた。

 その瞬間、壺の中から黒い粘り気のある煙が吹き出した。ねずみ男はぎゃーっと叫び、ひっくり返る。

 

 

『ふ、ふははは……!ついに外に出られたぞ。久しい、なんと久しいのか!!』

 

「一体、どんな奴が……」

 

 

 煙が晴れる。

 壺の中に封じられていたのは一体どんなやつなのか──

 

 

『イッツ!ショーーーータイムッッッ!!』

 

「は?」

 

 

 壺の中から現れたのは予想外な存在だった。

 シルクハットに、黒いスーツ。背中にはマントで、手にはステッキ。顔にはサングラスをかけている奇天烈な男だった。

 

 

『儂……ん"っ、んん、僕を出してくれてありがとう、ねずみ男くん。尊敬と敬意を込めて僕のことは“ミスター・アイ”とでも呼んでくれたまえ』

 

「な、何で俺の名を…」

 

『ふふ、僕には全てお見通しなのサ⭐︎』

 

「ま、まあ、何だって良いや。出してやったんだ。聖域を作ってくれ」

 

『お安い御用。でも作ってどうするの?」

 

 

 ねずみ男は籠の中から計画書をアイに投げつける。

 アイは手に取り、中身を読む。

 

 

「幻想郷一の最大級テーマパーク!ビビビーランドを作るんだよ〜!田舎者たちは娯楽がねえからなァ。きっとお金をたんまり落としてくれるだろうよ。にひひひひ」

 

『・・・テーマパークねぇ』ニヤリ

 

 

 ミスター・アイは怪しく微笑む。

 そしてステッキをくるりと回した。

 

 

『よし!テーマパークの建設、僕も乗った。ではさっそく始めよう』

 

 

 指をぱちんと鳴らす。

 すると、なんということだ。ねずみ男の目の前で奇跡が起きた。

 

 

「お、お、おぉぉおお〜〜〜!!!!」

 

 

 神社の梁が崩れ、柱が倒れ、屋根がずるりと落ちたはずだった。

 けれど次の瞬間、眩いほどのネオンが天井から伸び、床に転がっていたはずの瓦は艶やかなタイルへと変貌した。

 

 

「すげええええ!!」

 

 

 ねずみ男が見上げた先には、観覧車。

 神社の鳥居だった場所には、巨大なジェットコースターのレールが絡みついていた。神楽殿のあった場所には、ド派手なステージが立ち、アイドル風のピエロ達がねずみ男に手を振っていた。

 

 そして響く陽気な音楽。

 だがどこか歪んでいて、耳の奥をじくじくと侵食してくる。

 

 

「あは、あはは!!こんな簡単に夢が叶うなんて俺は本当にラッキーだぜぇ!」

 

 

 頬を叩いても、世界は変わらない。

 空がピンク色に染まり、神社の外、森だった場所にはピエロたちが笑いながら風船を持って立っていた。

 

 そして出入り口の看板には大きく【ビビビーランド】と書いてあり、ねずみ男は大喜びだ。嬉しさのあまりミスター・アイの背中をバシバシと叩く。

 

 

「さーて!さっそく人間たちをここに招待しねえとなあ!」

 

『お待ちを』

 

「なんだよ。まさか館長の座を譲れって言うんじゃねえだろうな」

 

『違うよ。もう、先ほど言ったじゃあないか…。僕もこの件に乗るってサ』

 

 

 クルクルとステッキを回しながら続ける。

 

 

『僕はね、キラキラした瞳を持つ子どもの笑顔が何よりも好きなのサ。無邪気で、無垢で、……未来があるから』

 

「ほぉ。金にならねえ笑顔が好きとは変わってるなあ」

 

『でもね、僕の妖力で成り立っているこの世界は永遠に持続できない。それだと子どもたちの笑顔が見れない。それはダメだ。……だから、ねずみ男さん。貴方には子どもだけをたくさん連れてきてほしい』

 

「子どもだけェ?」

 

『そう!僕の力の源は大好きな子どもの笑顔!!この世界を持続させ、お金を稼ぎ続けるには子どもを連れてくるしかない。それも……ざっと50人、君なら集められるよね?』

 

「なるほどな。お前は力を持続できて、ガキの笑顔も見れる。俺は金を稼げる。……ってわけか!お互いにwin-winって訳だネ。でも、なんで50人?」

 

『別に理由はないが、50人は必要なんだ』

 

「ふーん・・・、まっ、金稼げるならなんだっていいや。任せてくれ」

 

『よろしく頼むよ。……ふふ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼頃。

 井戸端で洗濯する母親たちの声、畑を耕す父親の掛け声、そしてそれに反発するように響く、子どもたちの不満の声。

 

 

「薪割り、薪割りでもうクタクタだよ…」

「朝から勉強なんかやりたくないっての」

「もっと遊びたいのに疲れた〜」

 

 

 皆んながいつも通り、親への不平不満を言っている中で門吉だけは顔を真っ青にしながら怯えていた。

 

 

「ううう…」メソメソ

 

「どうしたんだよ、ガリ勉」

 

「き、昨日、みんなに見せた歴史書を無くしちゃったんだ…っ、あ、ああ、怒られるっ、お母さんに怒られる」

 

「えーマジかよ。あそこって本を無くすと、もう貸してくれないんじゃなかったか?」

 

 

 その言葉にさらにカタカタと震える。

 彼にとって親は恐怖の象徴だ。この紛失の件で本が借りれなくなり、勉強に支障が出たらタダじゃ済まない。

 

 

「も、もう嫌だ…。に、逃げたい」

 

 

 そんな不満が渦巻く路地裏に、すっと影が差した。

 

 

「ンフフフフ。可哀想だねぇ。子どもってのは勉強や習い事よりも楽しく遊ぶことの方が大切だってのに親たちに支配されてよぉ」

 

 

 振り返れば、ねずみ色の衣をまとった男──ねずみ男。背を丸め、胡散臭そうな笑みを浮かべ、子どもたちを見下ろしていた。

 

 

「……おじさん、誰?」

 

「俺はねずみ男、ちょっとした案内人よ。ところでチミたち、辛いことや面倒なことなんか無視して楽しいところに行きたくないかい?」

 

「楽しいところ?」

 

「そう!その名もビビビーランドッ!!」

 

「「「ビビビーランド?」」」

 

 

 子どもたちの目が光る。

 その反応にねずみ男はニヤリと笑う。

 

 

「俺は元々、探検家なんだ。探検している最中に()()って場所を見つけてな!そこに建てたんだよ、夢の国を!」

 

「せ、聖域…!?」

 

 

 子どもたちは昨日門吉に教えてもらった本の中身を思い出す。

 

 

「ジェットコースター、観覧車、ふわふわの綿アメに、踊るピエロ。聖域だから命令する大人も人喰い妖怪もいない、子どもだけのパラダイス!行かなきゃ損よ。んーふふふふ!!」

 

「行きたいけど、知らない人についてくなって寺子屋で教わったぜ」

 

「今知り合ったんだから、知らない人じゃあないだろ?」

 

「た、確かに。でも里の外でしょ?そのビビビーランドに着く前に妖怪たちに襲われるかもしれないじゃないか」

 

「それもしっかり対応してるぜ。ほれ」

 

 

 ねずみ男は懐から光るチケットを取り出した。どこか紙ではない、不気味な質感。それを目の前でちらつかせる。

 

 

「この紙を持ってるやつは妖怪に襲われないんだよ〜。俺にも原理は知らねえけどナ。一枚200円で一日中遊び放題さ」

 

「ちょ、ちょうだい!!」

 

 

 我先にと飛び出したのは門吉だ。

 ポケットからお小遣いでもらった200円を取り出して、直ぐにチケットと取り替える。

 

 

「門吉、いいのかよ?」

 

「家にいても勉強ばっかりだし、本を無くしちゃって怒られるし、親といても良いことないよ。みんなだってそうでしょ?」

 

「で、でも…」

 

「別に無理してこなくて良いんだぜ。一生親の言うこと聞いてりゃ良いんだから。さっ、坊や!楽園へと行こうぜ。にぃひひひひっ!」

 

 

 ねずみ男と門吉が遠ざかっていく。

 子どもたちは一瞬迷ったが……やがて、走ってあとを追っていった。あとでお菓子を買おうと思ってポケットに入れていた200円を握りしめて。

 

 

「待ってよー!俺らも連れてって!!」

 

 

 ねずみ男はにんまりと笑って、チケットの束を取り出す。

 

 

「待ってました。いーひひひひっ。はいはい!押さない押さない!チケットは逃げないよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうちょっとだ、あとひと登りで夢の国だぁ!」

 

 

 ねずみ男が、後ろを歩く子どもたちにそう言って、ぐいっと腕を振った。背後に続くのは、10人ほどの人里の子どもたち。宿題や手伝いから逃げるように、きらきらした目で山道を登っていた。

 

 

「にひひひ、楽しみだねぇ」

 

 

 道は次第に険しくなり、草は足元をこすり、木の根がとぐろを巻いていた。けれど、ねずみ男が楽しそうに笑うたび、子どもたちはその背中を信じてついていった。しかし門吉は体力がなく、1番最後でフラフラとついて行った。

 

 

「はぁっ、はぁっ……疲れた」

 

 

 ごつごつした岩の間、ふいに足場が崩れた。

 

 

「……あっ!」

 

 

 誰も気づかなかった。

 門吉の足元が滑り、彼の体がふわりと宙に浮く。一瞬、木々の間に消え──

 

 

「…………っ」

 

 

 音すらなかった。葉がふれあう静かな音だけが、あとに残された。

 だが、ねずみ男たちは振り返らない。《《誰も門吉が落ちたことに気づかなかった。

 

 

「ビビビーランドまで、もうすぐだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようこそ!!驚きと楽しさの国!ビビビーランドへ!』

 

 

 

 

 サングラスをかけた男が両手を広げて叫ぶと、目の前の丘の向こうに突如として姿を現したのは、七色の煙と風船が舞う巨大なゲート。【ビビビーランド】という文字が、きらきら光る電飾で空に浮かんでいる。

 

 

『僕はここの案内人、ミスター・アイ!さー!遊び尽くす準備はいいかな!』

 

「うわぁぁあっ!」「何あれ、でっかーい!」

 

 

 ゲートの中には、奇妙なほど大きなメリーゴーラウンド、空を突くジェットコースター、風船で飛ぶティーカップ。空にはふわふわと浮かぶお菓子の城まであった。どこを見ても、夢のような世界が広がっている。

 

 

「そうそう。この反応だよ、この反応…!」ジーン

 

「最高〜!」

 

「もっと喜べ、喜べ!帰ったら、良い口コミを里中にばら撒いてくれよ!」

 

 

 子どもたちは歓声を上げて飛び出していった。

 ある子は、巨大な綿アメを両手に持ち、笑顔で走り回り。

またある子は、ぴょんぴょん跳ねるキャンディのトランポリンで空を飛ぶ。観覧車のゴンドラでは、ぬいぐるみたちが自動で動いて手を振っていた。不思議なリズムの音楽に合わせて、着ぐるみのキャラクターたちが行進するパレードまで始まる。

 

 

「たのしーい!!」「もう、ずっとここにいたいっ!!」

 

『いつまでもここにいて良いんだよ。いつまでも……。あと41人かな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ぱち、ぱち、と音がする。

 

 

 

 

「……ん」

 

 

 ゆらゆらと揺れる焚き火の赤が、まぶた越しに差し込んでいた。

 門吉はゆっくりと目を開ける。

 見知らぬ天井。見知らぬ壁。鼻をくすぐる、干し草と木のにおい。

 古びた梁が張りめぐらされた山小屋の中だった。

 

 

「……ここ、どこ……?いっつ…」

 

 

 身体を起こそうとした瞬間、背中に走る鈍い痛みに呻いた。

 けれど、ちゃんと布団の上に寝かされている。火のそばには湯気の立った湯呑が置かれていた。誰かが、確かに手当てしてくれたのだ。

 

 

「……起きたか」

 

 

 優しい女の声。

 門吉が顔を向けると、暗がりの奥からひとりの女性が現れた。

 

 

「痛むべ。無理に動かんでいい。安心せい、骨は折れとらんかった」

 

 

 髪は腰まで伸ばした癖のあるロングヘアで、色は灰色となっている。服装は黄土色のワンショルダー、オレンジ色の帯、赤いスカートという色彩豊かな組み合わせであった。

 

 

「……だ、誰ですか?」

 

「ウチか?ウチは昔っからこの山に住んでる山姥。名は、坂田ネムノじゃ」

 

「や、山姥…!!」

 

 

 山姥。

 山の中に住む老婆や鬼婆と言われており、人を食う妖怪である。しかし目の前の山姥は若かったが、恐怖は消えなかった。

 

 

「た、助けてくれて、ありがとうございます…」

 

 

 ネムノは門吉の反対側に座ると、大きな包丁を研ぎ始めた。その姿を見て怖くなりゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

「別に妖怪の山に入る大馬鹿もんを別に助けたくはなかったがな」

 

「……え」

 

「妖怪の山はその名の通り、妖怪のもんだべさ。だから子どもが来て良いところじゃねえんだ!!なぜに入ったんじゃ!!」

 

「ひぃっ!ごめんなさいっ!!」ビクッ

 

「……ふん。もういい。もう夜じゃ。訳は明日言え。あと明日になったら里まで送ってやるから寝てろ。帰ったら二度と山には入るな」

 

「・・・うぅっ」

 

「なんだ、早う寝ろ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「もしかして寝てる間に食われるかもしれねえと思ってんのか?」

 

 

 ドキンと心臓が激しく動いた。

 図星だった。そしてこの反応で機嫌を損ねてしまったら殺されるかもしれないとさらに恐怖が増す。

 

 

「安心しろ。ウチは人なんか食わねえ」

 

「え!?で、でも皆んな言ってて…」

 

「確かに闇に堕ち、道を踏み外した山姥は人を喰らうさね。黒塚とかな。でもウチは食わねえし、食いたくもねえ。いいか?噂なんかに踊らされるなよ。嘘か本当か見極める力がねえと、悪い奴に騙されても知らねえからな」

 

「は、はい!」

 

「ほれ。さっさと寝ろ。……おやすみ」

 

 

 

 門吉はネムノの優しい声に安堵し、いつの間にか眠っていた。彼女も門吉が眠ったのを見て一安心である。

 

 

 

 

「・・・それにしても、この紙切れ」

 

 

 ネムノの手の中にはビビビーランドのチケットがあった。

 

 

「これは妖怪を寄せ付けねえ呪い。こんな子どもが持ってるなんて……。これは何か起きているのかもな」

 

 

 

 




ありがとうございました。

 久しぶりの新キャラ登場。
 そしてミスター・アイの正体とは──!?

 アイの正体、ぜひ考えてみてくださいね。
 ヒントは作中にありますよ!
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