ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。

 毎日が寂しい、孤独感に苛まれています。
 何故なのだろうか。

 だ、だれか、いないか───














本居小鈴の苦悩③

 

 平安の都──

 ひとりの僧が、名を高く掲げようとしていた。

 その名は、守敏(しゅびん)。真言密教の法力に通じ、誇り高き修法者。

 

 だが、その時代。世の人々が崇めたのは、彼ではなかった。

 「空海」──後の弘法大師である。彼は卓越した法力、寛容な心、そして多くの信者を持っていた。そのことに対して守敏は、空海に強い対抗心を抱いていた。

 

 

「僕の方が、上だ」「なぜアイツばかりが称えられる?」

 

 

 嫉妬と焦燥の念が、彼の胸を焦がしていた。

 

 

 

 

 

 そんなある日、ついに決着をつける機会が訪れた。

 法力比べ。

 どちらが天に祈り、雨を降らせられるか──。それが勝負の条件だった。守敏は、長年に渡り書き写し、血のにじむ思いで完成させた密教の経典を手にした。それは彼の誇りであり、力そのものであった。

 

 

「菩提薩婆訶……!」

 

 

 巻物に向かい、祈り、呪を唱え、天地の力を呼び起こそうとした。だがどんなに願ったところで雨は降らなかった。一方で、空海の祈りの声が天を揺るがし、まもなく雲が湧き、雨粒が落ち始めた。

 

 

「・・・」ギリィ

 

 

 静かに打ちつける雨音が、敗北の証だった。人々の賞賛の声が、守敏の耳を裂いた。

 

 

「なんで、なんでなんで──」

 

 

 そして、彼は言った。

 

 

「すべては、この巻物が役に立たなかったせいだ!僕がダメなんかじゃないっ、くそっ、くそっ!!──このゴミクズがッッッ!!」

 

 

 怒り狂い、あろうことか、自らの力と信じてきた経典を地に叩きつけた。雨に濡れ、泥に汚れたその紙を、忌々しげに投げ捨てた。雨粒が紙面に落ちるたび、墨がにじんで文字が泣いた。

 

 

(待ってくれ。頼む、待ってくれ)

(ああ……わたしは……不要なのか?捨てられたのか?)

(ああ頼む。頼むよ。役立って見せるから、もっと一生懸命頑張るから、私を捨てないでくれ)

 

 

(1人にしないで──)

 

 

年月が流れ、土に埋もれ、誰にも読まれず、誰にも知られず、孤独のなかで沈黙し続けた。やがてその経典は、忘れられた存在として経典の付喪神──経凛々となった。

 

 

 しかし怒りや憎しみには不思議と囚われなかった。

 どうせ自分は一生1人だと、誰からも必要にされないと、全てを諦め、このまま崩れ去ろうと思っていた。このまま誰からも必要とされない泥の中で沈み続けるんだ・・・。

 

 

 

 

 

【これ、いくらですか?】

 

 

 

 

 深い深い泥の中、経凛々は光を見た──。

 

 1人の少女が私を手に取ってくれた。

 ボロボロな体を治してくれた。

 大切に飾ってくれた。

 

 そして、私を見て、()()()()()()

 

 

 

【また本の人気が出ますように……】

 

 

 私を必要としてくれている。

 嬉しい。

 

 

【ありがとうございます!】

 

 

 

 あなたは泥の中から救ってくれた。願いを叶えるのは今の私ならできる。嬉しい、嬉しい嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい──モットヒツヨウトサレタイ──

 

 

 

【ずっと本を好きでいてくれますように】

 

 

 

 あなたの為なら、どんな手を使っても叶えるよ。

 だから捨てないで。

 もう1人は嫌。

 

 

 

「役に立たないから捨てられた」という悲しみから経凛々は生まれ、「誰かの役に立ちたい」という熱で経凛々は動く。

 

 

 

 これからも

 

 永遠に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オオオオォォォーーーーッ!!』

 

 

 巨大な妖怪。

 全身は紙で出来ており、頭には巻物が二つ、角のようになってくっついている。目は赤く染まり、鈴奈庵を揺らすほどの大声をあげていた。

 

 

「な、なんだよコイツ!?にとり、なんとかしろ!!」

 

「え〜〜〜っ!!」

 

『無色声香味触法──』

 

 

 経文を唱えるかのような声。

 身体中の文字が動き出し、具現化する。意思を持った無数の蛇のように動き出す。それらが一斉にねずみ男たちに襲いかかった。

 

 

「いやあああーーーっ!?」

 

 

 

 

 経凛々の能力【伝聞(でんぶん)

 経凛々のお経を聞いた者を操る能力。伝聞という名前の通り、操られた者は常にお経を口走っており、経凛々から直接聞かなくても、操られたものから聞けば洗脳されてしまう。つまり人を1人でも操ればあとは勝手に洗脳者が増えていくのだ。

 

 そして経凛々のもう一つの能力【法力(ほうりき)

 自分のお経を具現化することができる。これにより相手が耳を塞いでいたり、聞こえない状況を作っていたりしても、具現化されたお経を直接相手の体内に入れることができる。

 

 

 

 

 

 

 

「俺が一体何をしたってんだァッ!?いやあああっ!?」

 

 

 ねずみ男の足元に巻きつき、持ち上げる。

 そのまま頭の先まで登っていき、耳と目から彼の体内に染み込んでいった。

 

 

「あばばばばばっ!?頭の中にぃっ、おほほほっ、気持ち悪いぃぃぃぃ……っ!?」

 

「なっ、舐めんじゃないよ!!“のびーるアーム”ッ!!」

 

 

 にとりの背負う大きなリュックから伸びる機械腕が飛び出した。にとりの意識と行動と重なるように動き、捕まえようとしてくる文字列を逆に捕えて、叩きつける。

 

 

『!』

 

「ほらほらほらほらほらっ!!時代遅れの紙切れにこの天才にとり様が遅れをとるわけがないだろうがァッ!」

 

 

 更にアームは増える。

 内蔵されているアーム本数は6本。6本の腕で文字を捕まえたり、振り払ったり、引き裂いたりと粉々にしていく。

 

 

「兵器『ドリルアーム』ッ!『チェンソーアーム』ッ!」

 

 

 アームの先端がドリルとチェンソーに早替わり。

 にとりはガチャリとゴーグルをつけて武装した。

 

 河童 河城にとり。彼女の戦闘能力は全て、彼女の発明によるものだ。圧倒的な手数──6本の腕の武器で経凛々の具現化文字を叩き伏せ、無双する。

 

 

遠離一切顛倒夢想』ギロリ

 

「!!」

 

 

 アームの動きが全て止まる。

 アームは自動操作ではない。にとりの腕の動きとシンクロしているのでアームが動かないということは、にとりの動きが止まった証拠である。

 

 

「なっ、め、盟友っ!?」

 

「俺が悪いんじゃないんだよぉ。俺の身体が勝手にぃぃっ──無限耳鼻舌身意──」

 

 

 ねずみ男だ。

 彼が背後からにとりの手足を押さえつけた。ねずみ男は半妖怪であるのに加え、鍛えたり修行したりなどの肉体的労働を嫌っている。だから本物の妖怪であるにとりを押さえつけることなんて難しいはずなのだが、経凛々の能力で強化されているので出来ているのだ。

 

 

「あ、相手は紙の妖怪。なら【水を操る程度の能力】でびちゃびちゃに濡らし──近くに水がないっ!!あばばばばっ!?」

 

 

 ねずみ男の口から文字の塊が溢れ出す。

 それらがにとりの耳の中、目の中に張り付き、そのまま身体の中に入ってきた。抵抗しようにも頭の中がぐちゃぐちゃになり、力も抜けていく。

 

 

「あ、あばばっ、あっ、あっ…… 心無罣礙罣礙故…あっ、だめっ、出てけっ、でてけぇ…っ、無智亦無得…」

 

行深般若波羅蜜多時──』

 

 

 経凛々が口を開く。

 ねずみ男の口よりも、大量の文字列がにとりを飲み込んだ。言葉というのは目と耳から入るが、更には手のひら全体にも染み込んでいく。人間よりも妖怪を洗脳するのには量が必要なのだろう。

 

 

『・・・キュルル』

 

 

 経凛々は震える小鈴を見つけた。

 嬉しさで喉が鳴る。

 “小鈴、小鈴──。里の人間達は永遠に本を大切にするよ。本だけを愛するようにしたよ。どう?頑張ったでしょう?邪魔するやつも、本以外に囚われたやつも、みーんな本だけを愛するよ──”

 

 

「い、いやっ」

 

『・・・?』

 

「来ないでっ!?」

 

『!?』

 

 

 ただ褒められたかった、ただ必要とされたかった。

 小鈴は求めた愛。しかしそれは拒絶される。小鈴と目が合う。経凛々はその目を知っていた。拒絶、怒り、恐怖、悲しみ──。自分なんか結局必要なんかじゃない。

 

 

『コ、コスズ……』

 

「え?わ、わたしの名前…?なんで…っ」

 

 

 経凛々が口を開く。

 本来は喋ることができないはずの妖怪だが、愛なせる技だろうか。経凛々はうるうると目を震わせて続けた。

 

 

『ネガッタ、コスズ、ネガッタ。ズット、ホンヲ……スキデ、イテクレル……ヨウニ…ッ、ネガッタ、カラ、カナエル……』

 

「あ、あれは・・・違う、あれはこんな意味じゃないっ。頼んでないっ」

 

『エ・・・』

 

「ただ私は皆んながゲームばっかりやるから、悔しくて、本もたまには読んでって意味で……。こんな事してなんて、た、頼んでなんか、頼んでなんかない……」

 

『オ、オオオォォォ……ッ、ウゥウウゥゥゥ…ッ』ガタガタ

 

「経凛々……っ、違う。今は小鈴よ。ほらこっち!」

 

 

 文車妖妃が手を引っ張り、なんとか身を隠すことができた。しかし小鈴は絶望と悲しみで震えていた。自分のしでかしたことに苦しんでいるのだ。

 

 

「はぁっ、はぁっ、あ、あの巻物は妖怪だったの……!?なんでっ、なんでこうなったの…」

 

「こ、小鈴?」

 

「違う。原因は私だ……。全部私だ。買ったのも修理したのも……私のせいでこうなった。私の、私の……!!」カタカタ

 

「──落ち着くのじゃ、小鈴!お前は悪いことなんてなにもしておらん!」

 

 

 小鈴の側でふわふわと浮く妖妃が冷静に言った。

 しかし、小鈴は目の前の経凛々の行動に恐怖している。

 

 

「違うっ、違うっ。私が全部悪いの……っ」

 

「小鈴、やめて」

 

 

 小鈴は両膝をついた。

 目の前が暗くなってくる。

 

 

「……ああ、私が鈴奈庵を諦めれば、本を諦めればよかったな……」

 

 

 ぽすっ……。

 小鈴の肩に妖妃が乗っかった。急に肩が濡れてきた違和感を感じて小鈴は見た。肩の上で静かに泣く文車妖妃の姿を。自分よりも辛そうに、悲しそうにしている姿に固まった。

 

 

「やめて、やめて…。なぜ、そんなこと言うのじゃ…、小鈴……っ」

 

 

 妖妃の涙は止まらない。

 

 

「鈴奈庵は妾たち、本の居場所なのに……」

 

「・・・!」

 

 

 妖妃は泣いていた。

 愛を求める子どものように、寂しさを爆発させるかのように。

 

 

「小鈴……。妾たち本がどれだけお主に感謝しているのか、分からないだろう。もう誰にも読まれなくなって埃を被り続けていた子も、意地悪で破られた子も、捨てられた子も……、お主のおかげで人に読んでもらい、また生きる喜びを得られたのじゃ。そんなお主と鈴奈庵が大好きなのじゃ。……だから妾たちを見捨てないでくれ。……言わ…ぐすっ、ないで……」

 

「・・・っ」

 

 

 そんな妖妃の姿を見て、小鈴は思い出す。

 読まれなくなった本や壊された本を鈴奈庵に置き、人々が手に取る。人から人へと物語が紡がれる姿を。

 

 

「ごめん」

 

 

 小鈴はそっと妖妃を手のひらに乗せた。

 妖妃は未だに泣いていたが、小鈴の顔を見て、その温かさに落ち着きを取り戻す。

 

 

「・・・小鈴?」

 

「妖妃、ごめんね。自分のことばっかり考えてた。そうだよね、この鈴奈庵は私だけのものじゃない。貴女たち、“本”の居場所でもあったんだよね。ごめんね、私は諦めないよ。絶対に諦めない。人と本の絆を壊させない」

 

「小鈴!」

 

 

 諦めない。

 そう決めた小鈴の目には力が宿っていた。

 

 

「妖妃。経凛々のこと知っておきたい。知ってること教えてくれる?」

 

「分かった。……経凛々はとある坊主の使った経典が化けたものじゃ。元々は人の役に立つために作られたはずだったが……」

 

「?」

 

 

 文車妖妃の顔が曇る。

 

 

「経典は持ち主である坊主に捨てられた。“役立たず”、“ゴミ”……そう何度も罵られて、ビリビリに破られてな……。そんな過去の持ち主だからこそ小鈴に頼られて嬉しかったんじゃろうな」

 

「・・・それを私が拒絶しちゃったんだ」

 

「でもな、頼られたからとはいえやり方が違う。洗脳なんかしても虚しいだけじゃ」

 

「うん。……本は自分から読むことにこそ意味があるもんね。経凛々だって分かってるはず。けどもう止められないんだ。……なら止めよう、経凛々を」

 

 

 しかし、しかしだ。

 覚悟を決めたからと言って何かが変わるわけがない。本居小鈴に戦闘能力は皆無。スペルカードもない。いくら頑張っても妖怪には勝てない。歯がゆいがこれは現実だ。

 

 

(──どうにかして、霊夢さん達を呼びに行かないと。そして経凛々に謝らないと。私のせいでこんなことをさせたんだから──)

 

 

 隙をついて鈴奈庵から脱出し、霊夢を呼ぶしかない。

 出来るだろうか。

 そう葛藤している小鈴を見て、妖妃の方も覚悟を決めた。

 

 

「小鈴、()()()()()()()()()

 

「け、契約…?」

 

「うむ。元より文車とは人と本を結ぶための道具。つまり妾は人と本を繋ぐことができる。小鈴と鈴奈庵の本たちの絆を結ぶことで、貴女に力を授けることができる。その為に妾たちが契約をして繋がりを強くするしかない」

 

 

 妖妃は手を伸ばす。

 

 

「・・・」

 

「無理強いはしない。怖いのは当たり前じゃ。──主が決めるんじゃ」

 

 

 怖い。

 戦ったことなんてない。

 

 でも──

 

 ここで諦めたら、犠牲者が増えるかもしれない。私が目覚めさせたのなら私が責任を取る。私が守る──!!

 

 

「・・・やる」

 

「いいのか?」

 

「霊夢さんを呼べてもその間に犠牲者が増えるかもしれない。……私がやるしかないっ!!」

 

 

 

 その時だ。

 隠れていた本棚が吹き飛ばされた。散乱する本達の前に黒い涙を流す経凛々が立ちはだかる。そして経凛々は全ての腕を小鈴へと一斉に伸ばした。

 

 

『ヒトリ、イヤダッ!イヤダイヤダイヤダァァァーーーッ!!コスズ、ワタシノモノニィィィッ、ナレエェェェーーーーッ!!!!』

 

 

 拒絶された経凛々は決めた。

 小鈴も洗脳する。洗脳して、自分のものにする。そしたらもう寂しくないんだと暴走気味の頭で考えた。

 

 

『オオオーーーッ!!』

 

「来るのじゃっ!!」

 

 

 小鈴は、ぎゅっと妖妃の手を取る。

 文車妖妃が小さな光となって、小鈴の胸元にふわりと飛び込んできた瞬間──

 

 

「……っ!」

 

 

 小鈴の心臓が、大きく高鳴った。

 小鈴を中心として一本の光の筋が噴き出した。その光に経凛々の腕は弾かれた。

 

 

『!?』

 

「こ、これは──」

 

 

 胸の奥からじわじわと広がる熱。まるで言葉そのものが血となり、全身を巡るような感覚。

 

 

「う、ぐぅっ!?」

 

 

 足元から、ぱらぱらと紙片が舞い上がる。

 それは古い書物のページのようでありながら、一枚一枚が生きているかのように文字を浮かんできた。そのまま小鈴のつま先から、光の文字が這い上がるように流れ込んでくる。

 

 

「あつい…!」

 

 

 スカートの裾が淡く広がり、やがてそれは文様の入った装束のような戦衣へと変化していく。膝までのプリーツ状の袴が編まれ、足元には巻きつくような文様の足袋と、金具のついた草履が浮かび上がる。

 

 

「……体中が、あつい……!」

 

 

 手のひらから浮かび上がるのは、半透明の筆型の杖。

 持った瞬間、杖の軸に文字が刻まれていく。

 

 

【大丈夫じゃ。妖力と魔力が身体に巡っているだけじゃ】

 

 

 上半身には、着物のように折り重なる布が現れ、帯は開いた巻物のように背中を一周して結ばれた。その帯の先は羽のように広がり、まるで紙でできた翼のようにふわりと宙に浮いて揺れている。髪も風に舞うようにふわりと立ち上がり、髪飾りには本のしおりを模した小さな飾りがついた。いつの間にか、丸眼鏡をかけていた。

 

 

【妾の力を全て授ける】

 

 

 

 最後に、胸元に文車妖妃の紋が淡く浮かび上がる。それは封印の印のようでもあり、心の鍵のようでもあった。

 

 そして変身の光がぱっと弾け、文字の雨が空中に舞う。幻想郷の夜空に、輝く一条の光となったかのように。

 

 

 

 文と力をまとう【魔法少女、本居小鈴】

 ここに現る──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?えーーーっ!?な、何かの姿ァッ!?」

 

 

 自分の雰囲気には似合わない姿に赤面する小鈴。

 アタフタしていると心の中で声がし始めた。

 

 

【それこそ妾の妖力と本達の持つ魔力が織りなした奇跡の姿──魔法少女じゃ!やはり、戦う少女といったらこれじゃろう】フフン

 

「くっ、くぅっ、やってやるわよッ!!」

 

【待て。ここで戦うと本達や人間達に被害が出る。小鈴、何か好きな舞台を考えるのじゃ】

 

「好きな舞台?」

 

【妾は戦えんが、支援ならいくらでもできるっ!早う!】

 

「わ、分かった……」

 

 

 小鈴の好きな舞台──。

 たくさんの本を読んできた彼女が最近ハマっている世界は、以前読んだ“外の世界の恋愛本”に出てきた学校という場所。寺子屋とは違う、たくさんの学生達が通い、勉学やスポーツに励み、そしていろんな形の恋が見れる場所。

 

 

【来た!──心象結界ッ!!】

 

 

 

 

 本のめくる音と共に鈴奈庵の風景が変わっていく。

 経凛々、小鈴が立っている場所がいつの間にか外の世界の高校という場所に変化した。その場所の校庭で2人は対峙する。

 

 

【ここなら好きに戦える。そして言葉の力を使って戦うのじゃ、小鈴】

 

「こ、言葉の力って言われても」

 

 

 変身したばかりの小鈴は、戸惑いの色を隠せない。文車妖妃から譲り受けた力が身体の中に渦巻いているのはわかる。しかし、それをどう使えばいいのか分からない。元より戦闘はズブの素人、どうすればいいか想像もつかない。

 

 

「まずは戦い方を教え──」

 

『オオオォォォーーーッ!!』

 

 

 経凛々の巨大な手が振り下ろされ、小鈴は吹き飛ばされる。空中で体勢を整えることもできず、背後にあったフェンスに叩きつけられた。鈍い音と全身に広がる痛みに戦意喪失しそうになる。

 

 

「がっ……!」

 

 

 地面に崩れ落ちる。

 少し服が破れ、血が滲む。呼吸は荒く、視界が滲んでいく。

 

 

『カアァァァーーーーッ!!』

 

 

 突進する経凛々。

 逃げようにも体は思うように動かない。全身を伝う冷や汗。魔法少女になっても、恐怖は消えない。幻想郷の皆んなはこれと常に向き合っているのかと思うと辛くなってくる。

 

 

「やっぱり私じゃ……」

 

【言葉の力を使うのじゃっ】

 

「そ、そんなこと言ってもっ」

 

【これらを全て物語だと思え!お主が続きを綴るのじゃ!今のお主なら出来るはずじゃ!】

 

 

 その言葉が発せられた後に、小鈴は気づく。

 筆型の杖が光っていることに。改めてそれを握りしめると、墨汁が溢れ出すかの如く先端が黒く染まる。そしてその力の使い方が不思議なことに頭の中に浮かんできた。

 

 

「そうか──。妖妃の言っている意味がわかった・・・!!」

 

 

 自分の腕に文字を書く。

 小鈴はその字を見て、経凛々への恐怖が和らいだ。

 

 

 

「……“本居小鈴が魔法少女の姿になっても大して強化される訳じゃない。経凛々の突進を耐えることはできない。”」

 

 

 小鈴の足が地を蹴る。

 小鈴は現在進行形、目の前で行われていることを「物語」として捉えた。ならば作者は次にどうなるか説明するために“接続詞”をつける。

 

 

「“けれども”──!」

 

 

 叫ぶと同時に、小鈴の拳が輝く。

 魔力を帯びた一撃が、経凛々の額を打ち抜いた。

 

 

『ガ、ァァ、アァッ!?』

 

「“撃ち返すことに成功するのだった”」

 

 

 

 鈍い音を立てて経凛々の巨体がよろめく。

 身体を構成する経文の一部が破れ、具現化した文字が血のように噴き出した。体全身の文字が少し減り、経凛々は苦しみの声を上げる。

 

 

「や、やった……!」

 

 

 腕の文字が消える。

 しかし、今ので小鈴は完全に理解した。自分自身が得た能力を。

 

 

【そう。これこそが魔法少女になった小鈴の能力──“言葉綴(カミノテ)”。起きている出来事を物語として捉えた際に、助詞や接続詞、はたまた副詞などの言葉を使うことができる。そして今のは()()の力…!!】

 

 

 経凛々は頭をグッと持ち上げた。

 

 

『観自在菩薩行深般若波羅蜜多時──』ブツブツ

 

 

 経凛々がお経を唱え始めると、全身の経文が一斉に宙を舞う。まるで百本の鞭が同時に襲いかかるような光景。これに河城にとりは負けてしまったが、小鈴には分かっている。あの言葉の攻撃は攻撃することで蹴散らすことができるのを。

 

 

「それなら・・・」

 

 

 彼女は墨を自分の指につけると、ステッキ自体に文字を書いた。

 

 

「えいっ!!」

 

 

 襲いかかった言葉を、ステッキの一撃で正面から叩き切った。言葉は裂け、一行は砕けると文字を撒き散らしながら空中に消えていく。その後ろから更にブワッと波が襲いかかる。

 

 

「もう一本!」

 

 

 踏み込んで振り抜く。軽やかだが重い。

 まるで武道の型のような美しさと力強さを併せ持つ動きで、次の言葉も断ち切った。更にステッキをぐるぐると高速回転させて、全ての波を防ぎ切った。

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 

 小鈴はステッキに“剣のようなステッキ”と比喩表現を書いた。それによりステッキは新たな力を得ることができたのだ。まさに言葉の支配者──。この物語は小鈴の手の中だ。

 

 

『カロロロ……』

 

 

 経凛々の巨体が小鈴を見下ろす。その瞳は悲しみのみを孕んでいた。そしてその悲しみは憎しみとなり、経凛々の暴走を加速させる。……寂しい、悲しい、1人は嫌だ……。本と繋がった小鈴にはその想いがヒシヒシと繋がる。繋がるからこそ、止めたい。そして拒絶してしまったことを謝りたい──。

 

 

「経凛々、あなたは1人じゃないっ!!」

 

 

 ふわりと宙を舞う。

 

 

【妾の力は繋ぐこと。経凛々の心と繋ぐ、その内にその闇を祓え──】

 

「うんっ!!」

 

 

 

 小鈴の背後に大きな本がポンッと浮かび、パカンと開くと、虹色の光文字が渦を巻いて放出される。ステッキがさらに巨大な筆に変形。ページが風のようにめくれ、空中に浮かぶ無数の漢字が、羽のように舞う。

 

 

「いくよ」

 

『ガアアアァァァーーーッ!!』

 

 

 経凛々は全ての触腕、全ての言葉を小鈴は伸ばす。

 拒絶した小鈴を自分のものにする。

 自分はもう1人は嫌だ。無理やりにでも、抵抗しても、泣いても嫌がっても自分の物にしてやる。

 

 

「【あなたの止まった物語に、今!続きを書き記す──】」

 

 

 経凛々の文縛り攻撃を、ことごとくステッキでぶち抜き、時には回転蹴りで弾き飛ばし、時には背中の羽で受け止める。本から出てきた巨大な文字列が、小鈴の周りを囲い、そして詠唱が始まる。

 

 

「【手放されたあなたに、忘れられたあなたに、捨てられたあなたに、いま、私が与える】!!」

 

 

 天が裂け、光と文字でできた巨大な朱印が魔法陣のように顕現した。まるで世界を糺すような、審判の陣が空に広がる。

 

 

 

「【終わりを記す一文(フィナーレ・エクリチュール)】ッ!!!」

 

『!!』

 

 

 

 ステッキから放たれた虹色の一閃が、経凛々の胸を貫いた。時が止まったような静寂が暫く続いた後に、爆発するような閃光。経凛々の体が無数の光文字となって四方八方に砕け、空に舞う。

 

 

『ア、アア、ア…ァァ……ぁ……』

 

 

 だが、それは哀しい滅びではなく救済だった。

 人から必要とされたいはずなのに、やっていたことはその真逆。正常な思考ができないまま闇の中に沈んでいく経凛々という存在は、小鈴のおかげで真の意味で救われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・終わった、よね?」

 

【そのようじゃな】

 

 

 結界が消え去り、元の鈴奈庵に戻る。

 小鈴も元の姿に戻った。

 倒れているねずみ男、にとりの体内から染み込んでいた経文がジワァァッと抜けていくのだった。

 

 

「あ──」

 

 

 倒れる本棚、散らばる本の中に、小さな経凛々がいた。全身からの邪気は消えているようだが、表情はどこか寂しそうだった。

 

 

「経凛々?」

 

「!」

 

 

 小鈴の呼びかけに反応する。

 

 

「こ、こすず…、わたし、わたし……、ご、ごめんな──」

 

「経凛々、ごめんなさい!」

 

 

 先に謝られた経凛々は目をパチクリさせていた。

 何故そちらが謝るのだろう。私は人間たちを、あなたの親を操り、あまつさえ小鈴さえも自分のものにしようとしたのに。

 

 

「な、なんで、こすず、あやまるの・・・?」

 

「私があなたを拒絶したから」

 

「・・・っ」

 

「……ごめんね、私のためにやってくれたのに。そしてありがとう。もし貴方が許してくれるなら、鈴奈庵と、私と、()()()()()()()()()()()()()

 

「!!」

 

 

 その言葉は経凛々が最も求めていたこと。

 永遠に焦がれていた自身の居場所。

 必要とされている実感。

 

 

「あ、ああっ、ああああ……っ!ありがと、ありがとうっ!本当にありがとう──」

 

 

 経凛々は涙を流し、そして元の経典に戻った。

 元より経凛々という妖怪は「悲しみ」から生まれた妖怪だ。その「悲しみ」が消えたのだから、妖怪ではなく元の姿に戻るのは道理であった。後ろで見ていた文車妖妃はそっと小鈴の肩にのった。

 

 

「経凛々は幸せ者じゃな」

 

「え?」

 

「この世のどんな本も必ず誰かに必要とされている。だからこそ本というのは待ち続けるのじゃ。本当に必要としてくれる人と出会うために……。埃をかぶっても破られても、ずぅっとな。だからこそひと足先に出会えた経凛々は幸せ者なんじゃよ」

 

「・・・うん」

 

 

 

 妖妃はそう呟くとふわりと浮いて、改めて辺りを見渡す。

 

 

 

「やれやれ、ここをなんとかせんとな」

 

「骨が折れそうだね」トホホ

 

 

 そんな2人にねずみ男とにとりが近づく。

 驚いたが、何か2人の様子は変だった。

 

 

「何かお手伝いできることありますか?」キラン

「私たちに手伝えることならなんでもやります」キラリン

 

 

「「へ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「一時はどうなることかと思ったけど」

 

「なんとかなりましたね。あはは」

 

「経凛々が裏で動いていたとは想像もしなかったわ。ゲーム中毒が良い隠れ蓑になっていたのね」

 

「しかし経文が体が抜けた際に、毒電波も一緒に出て行ったお陰でケアする手間も省けたし、あんな目に遭いたくないとゲームをやりたがる人も減った。……良かった、のでしょうかね」

 

 

 事情を小鈴たちから聞いた紫たち。

 一応、一件落着になったと胸を撫で下ろす。

 

 

「まぁ、それにしても」

 

 

 紫たちはちらりと横見る。

 鈴奈庵の中では、本棚を立て直し、本を綺麗にしてから本棚に戻し、掃除をして今まで以上に綺麗にしているねずみ男とにとりの姿があった。

 

 

「「人のために働くってキモチーな!」」アハハハハ

 

 

「経文がうまく抜け切ってないのでしょうね」

 

「いや、邪気も一緒に抜けたのでしょう。まぁ、良い薬ね。これからもやってもらいましょう」ヤレヤレ

 

「「あはははははっ!もっと人のために働きたーーーい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最近、私には悩みがあります──)

 

 

 

(それは──)

 

 

 

 

 

「続きッ、早うッ!!」フンスフンス

 

「今書いてる〜〜〜っ!!」

 

 

 

 

 ビビッチは全て回収。

 里のみんなは元に戻り、鈴奈庵にいつも通り本を借りにきてくれる人が帰ってきました。みんな異変のことなどよく覚えてないそうです。経凛々──もとい、守敏経文は展示されて鈴奈庵の新しい目玉となり、これを珍しがってみにくる人も増えてきました。

 

 

 

 やっと、平穏な日々が帰ってきたのかと思いきや、あの日からずっと自称ファン1号が続きを所望してきます。

 

 

 

「自分のペースで書かせてよぉ〜」

 

「はーーやーーくーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
 もう完全に自分の好みですね。最近、まどマギ、フレプリを見直した時に思い付きました。今まで力無い子が力を得た時のワクワク感、いいですよね。

 文車妖妃の心象結界は、五期が元ネタ。
 ゲームの世界に居座り、そこで魔女として君臨した彼女の能力が元です。



 キャラ説明 魔法少女・本居小鈴

 文車妖妃が【本】と【小鈴】の心を繋ぐことで変身させることが可能。
 人間の頃には出来なかった【空を飛ぶ】ことが可能になります。
 力は人間の頃よりほんの少し強くなった程度であまり意味はないが、耐久力は意外と上がってます。

 能力【言葉綴】──今起きていることを物語として捉えると発動。
 自身を含む対象に言葉(助詞、接続詞、副詞、形容詞……)を書き込むことで、現実を曲げることができる。

 非力だから相手を殴れない→非力“だけれども”相手を殴る 
 刀で戦艦を真っ二つには出来ない→刀“だからこそ”戦艦を真っ二つにできる(めだかボックス・贄波生煮ちゃんを参考にしました)

 このようなことである。

 チート能力かと思われるが、弱点もしっかりある。
 一つ【鈴奈庵の近くでしか変身できない】
 二つ【知能が低い相手の時には発動しない】

 鈴奈庵の本と繋がっているので距離が離れるとまず変身自体できません。そして物語(みんなが読めるもの)として捉える能力なので、相手に本を読み理解する力がないと能力は発動しません






 

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