ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは。

 私、つい最近『シン・ウルトラマン』を見ました。
 あまりウルトラマンを通ってきませんでしたので、マンモスフラワーが出た時に「鬼太郎のものじゃないんだ。ウルトラマンにも出るんだ」と思いました。

 異星人の時に、津田ボイスのザラブ星人というのが出ましたが、めちゃくちゃ卑怯な奴だと思いましたね。あとアイツの背中どうなってんだ?空洞なのかな?
 メフィラスはなんか好き。なんか分からないんですが、めちゃくちゃ好きですね。

 最後にゾーフィというのが出ましたが、あれはゾフィーと違うんですかね?ゼットンを持ってたし、あれはウルトラマンの仲間というよりも、似た何かなのでしょうね?
 めちゃくちゃ面白かったけど、私自身が知識無さすぎて、小ネタが分からなかったのがマジで残念。詳しい人はもっと楽しめたよなと思いました。






疫病神? 苦笑の孤独②

 

『大感染を始めるわよ』

 

「──させません!!」

 

 

 ホウコの目前に、鈴仙が飛ぶ。

 硬い地面に泥を踏んだかの如き足跡を刻み、地面を割り、礫を辺り一面に飛散させ、空気の尾を引いて跳ぶ。

 

 

『──ッ』

 

「シャアアァァァッッ!!」

 

 

 鈴仙のこの動き。

 月の都の“兵士長”として認められた抜群の戦闘テクニック。飛び、体を回し、大きく足を回し、首を狙い蹴り付ける。

 

 

『ガッ──』

 

「シュッ」

 

 

 奥歯を噛み締め、続け様に鈴仙が手刀を打ち下ろす。

 空気を引き裂いて打たれる手刀が、また首を狙う。首はどんな生物でも大事な部分であり、急所だ。だがそれは当たらなかった。ホウコは肩を上げてガードする。

 

 

『何度もやらせねえよ…』

 

「ふぅ…」

 

 

 久しぶり。本当に久しぶりの戦闘だ。

 アドレナリンが巡るのを感じる。鈴仙はゆっくりと息を吐きながら、体を伸ばす。

 

 

『チッ、目が回る。──やっぱり()()()じゃ調子が出ないわね』

 

「この体?」

 

『そう。これは人を騙すための仮の姿。・・・見せてあげましょうか。私の真の姿をねエェェ──』

 

 

 

 全身の骨格が変わっていく。

 バキバキと音を立てて、1メートル50センチしかなかった小柄な体格が、3メートルという巨人の姿へと変わる。細い手足に筋肉が盛り上がり、柔らかそうな腹から腹筋が浮かび上がる。背筋も浮き出て、筋骨隆々となった。

 

 そして全身から黒色の体毛が生える。例えるなら墨汁で半紙を染め上げるように、ホウコの全身が闇のような黒の毛皮に覆われただ。服も破れ、全裸になったのだろうが女性らしい身体のフォルムは毛のせいで見えない。

 

 

 

『お前を殺して……、幻想郷を天然痘で支配してやる』

 

 

 

 口、鼻が消える。人間らしさは無くなり、二つあった目玉が混ざり一つとなった。手足は丸くなり先端は馬の蹄となる。そして腰から三つの髑髏が現れ、頭から牛や鬼を連想させるような2本の角が生えてきた。

 

 あんなに美しかった女性はもういない。

 居るのは、隻眼の大きな獣だ。

 

 

『これが真の姿! そして真の名を……『疱瘡婆(ほうそうばばあ)』と呼ぶ!』

 

 

 疱瘡婆。疱瘡とは天然痘の別の呼び名である。

 人間の『天然痘という病気は妖怪が広めているのだ』という“恐怖”から生まれた妖怪であり、病気で死んだ人間の死体の肝を好んで食べると言われている。

 

 東北地方の宮城県で現れたとされ、姿も見られている。

 高僧に封印され、復活しようとしたのだが、時代が進むと共に天然痘は根絶されてしまい恐怖も消え、力を失っていた。

 

 

「婆…というよりも牛ね…」

 

『私の実力を見せてあげましょうか』

 

「来い」

 

『三連撃…“蹄王拳(ていおうけん)

 

 

 疱瘡婆はコキコキと関節を鳴らすと、地面を蹴った。

 今までとは段違いなスピードだ。だが、それも当たり前だろう。あの馬の蹄は走るために特化したものなのだから。

 

 

蹄壁(ていへき)ッ!!』

 

 

 スピードが乗ったまま両腕の蹄を振るう。

 蹄は、我々人間のような鋭い爪とは違い、大きく平たい。その独特な形状は殴る事に特化しており、拳を握る動作を必要としないのだ。

 

 

「──ッ!」

 

 

 何とか見切れる─。

 鈴仙は地面を蹴り、空を舞い、両足を高速で踏み変え、瞬時に体を水平移動させた。脇腹をかすめる一撃が行者の服を引き裂いた。平たい蹄が高速によりナイフへと変わる。・・・疱瘡婆の一つ目は彼女の動きをちゃんと追っていた。

 

 

蹄尖(ていせん)ッ!!』

 

 

 続け様に、空を舞う鈴仙の顔面を狙う。

 蹄の先端。唯一の鋭い部分を、その流れのまま繰り出した。高速の手刀というよりも手槍が水平線を描き突く。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 身体を回転させ、狙う箇所を顔面から逸らす。

 顔面ではなく長い髪の毛に直撃。鋭利なナイフのような一撃は、髪の毛を切り落とし、長髪だった彼女はショートヘアになってしまった。だが三連撃と言ったようにまだ一撃残っている。何とか避けて、重力に流され、地面に降りてきた瞬間を狙う。

 

 

蹄側(ていそく)ッ!!』

 

 

 間合いを詰めて、大きな蹴り。

 疱瘡婆の剛脚が大砲の弾のような威力で鈴仙の腹を射抜く。 

 素早いが大きい攻撃。鈴仙は咄嗟に防御の型を取り、両腋を締め腹部を守る構えとなるが、粉塵を巻き上げ、鈴仙は遥か後方へと飛ぶ。

 

 

『ふはははは!!これだ…。これこそが私の実力だ…!』

 

「ぐふっ…」

 

『よしよし。まだ生きていたな。貴様は両手両足を折った上に、天然痘で苦しみ死んでもらわなければならないのだから、この程度でくたばってくれるなよ?』

 

「はぁ…はぁ…っ」

 

 

 鈴仙の瞳が赤く染まる。

 果物のような赤さというよりも、ルビーのように真紅に近い色へとなった。疱瘡婆はその目を見て、睨みつける。

 

 

『・・・良い目だ。その目のように赤く、紅く、緋く、お前の全身を染めてやろう。──蹄王拳 “蹄壁”ッ!!』

 

 

 

──ドンッッ…

 

 

 

『なっ、何だと…っ!?』

 

 

 先程のように蹄を叩きつけた。

 目の前にいた女はボロボロで動きが鈍くなっていると思っていたが、攻撃を躱されたのだ。鈴仙ではなく、彼女の隣の壁に直撃した。

 

 

「どこを狙っているの…」

 

『ク──』

 

 

 避けられたと言っても、偶然だ。

 対象はめり込んだ壁の隣にいる。自分の蹄からわずか数センチ程度しか離れていない。この至近距離ならば殴り続ければ、必ず当たる。

 

 

『オラオラオラオ、ラ…ッ!?』

 

 

 拳を乱舞させた。

 だが、鈴仙に直撃することは無かった。当たったと思っても、隣の壁だったり、地面を殴っていたりと自分の感覚が狂ってしまったという感覚に陥る。

 

 

『な、なぜ当たらな──』

 

 

 ゆらり、と間合いを詰められた。

 自分と鈴仙の距離は僅か1センチ。あまりにも自然な動きについていけず、固まる疱瘡婆の顔面を、鈴仙は片手で掴むと、そのまま腕に力を込めて地面に叩きつけた。

 

 

『ゴッ─…ハッ…!?!?』

 

「私の目を見て、“普通”でいられると思わないことね」

 

『─ッ、あの時か』

 

 

 鈴仙の真紅の瞳を見た。

 あの瞬間に、何か術をかけられたのだ。過去に自分を封印した坊主が使ったのとはまた違う不思議な術を喰らっていたのだ。

 

 

「私の能力は─狂気を操る程度の能力。発動条件(トリガー)は私の目を見た瞬間。あなたがお喋りなお陰で瞳に力を溜めることができたわ」

 

 

 満月の時に人は狂う、という話は多々ある。

 例えば、満月の時に運転をすると事故に遭うといったものが。そういった満月の狂気を瞳から発するのが彼女の力の“一つ”だ。

 そして、その技の名を、“波符 赤眼催眠(マインド・シェイカー)”と呼ぶ。

 

 

「あなたは狂う。上も、下も、右も、左も、五感さえも…全てが狂う。あなたは正常でいられるかしら?」

 

『こ、小娘が…。舐めるなァァァーーー』

 

「師匠直伝・・・! 栄華之夢(ルナ・メガロポリス)!!」

 

 

 

 舞う。

 月からの使者、美しき天女の舞だ。

 空気のように軽く、水のように流れ、疱瘡婆の全身に打撃によるダメージを与える。瞳の影響で全てが狂った疱瘡婆は、どこから攻撃が来るのか判断できずに防御は不可能。

 

 

 

『ア"ッ!?アッ、アッ、アッ、アッ、アァイィィーーッ!?!?』

 

 

 

 これは師匠から教えてもらった月の殺人技術。

 こめかみ、目玉、顎、首、鳩尾、膝、つま先。人間の急所と呼ばれる箇所を連打、連打、連打。それに加えて、彼女の能力を併用することで、次にどこ殴られるのかも予測できないままに一方的に殴られる暴力の嵐を生み出した。

 

 

『ア"ゥ・・・』

 

 

 力尽きた。

 膝を地面につく。

 だが、倒れることは無かった。何故なら、目の前のこの妖怪はまだ意識を保っているから。

 

 

「まだ倒れない。・・・ん?」

 

 

 疱瘡婆の腰にある三つの髑髏がカタカタと震えていた。

 異変を感じて距離を取ったその瞬間、髑髏の眼の部分から、紫色の炎が吹き出した。

 

 

 

──ボウッッ…

 

 

 

 現代兵器の一つである火炎放射器。

 それと同じ…否、それ以上の力を持った紫炎が辺り一面を包み上げた。いくら素早く動ける鈴仙でも直撃する。だが色からも判断できるように、これは普通の炎ではない。

 

 

「熱く、ない…?」

 

 

 炎の中に包まれているが、()()()()()()()

 防御の構えをしていたのだが、この謎の状態に油断をしてしまう。一方で疱瘡婆はゆっくりと立ち上がると、蹄を彼女に向けた。

 

 

『私の・・・勝ちだ!!』

 

「何を言って──」

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 一方、里の中心エリア。

 里の守護者でもある慧音の他、数名の実力者たちも天然痘の影響によりダウンしていた。実力者たちが力尽きたこともあり、完全に人里には一気に蔓延し、里外に出てしまうのも時間の問題であった。

 

 

「ナオレ…ッ、ナオレ…」

 

 

 疱瘡婆に蹴りを入れられた苦笑は、血反吐を吐きながらも復活。

 唯一動ける者として人間たちの人命救助を行なっていた。誰かを優先するわけでもなく、全員平等に、必死に自身の毒を注入して回る。

 

 

「あり、がとう…。楽になった」

「妖怪さん、ありがとう…」

 

「ハァ…ッ、ハァ…ッ、次ダ…!!」

 

「苦しい…っ」「助けてぇ」

 

 

 だが、この人数の多さに加えて、ほぼ瀕死状態。

 1人で助け続けるのは時間がかかっていた。このままでは死者も出てしまう。だから止まるわけにはいかない。

 

 

「ハァ…っ、ハァ…っ、うぐぅっ…イダイ…」

 

 

 骨が折れている。

 血も止まらない。

 自分の毒は外傷には意味がない。病気などしか治せないのだ。段々と足取りが重くなる。

 

 

「ア…キラ……メタク…ナ、イ…」

 

 

 チラリと遠くを見る。

 自分の存在を認め、友達だと言ってくれた存在が命を懸けて戦ってくれている。ならば自分も止まるわけにはいかない。

 

 

「おい…っ、お前。俺様だけでも助けてぇ〜…」

 

「アッ…!?」

 

 

 そんな傷だらけの苦笑に、ねずみ男が覆い被さった。

 この中で比較的に軽いので体を無理やりに動かし、全員に治療を施そうとしている苦笑に飛びかかったのだ。

 

 

「俺だけでも助けてくれェ…、俺様だけでもぉ〜。この俺がいなくなったら世界の損失よ…。早くぅ」

 

「ア・・・」

 

 

 もうダメだ。

 心は諦めたくないと言っているのに、体がついていかない。もう視界が歪み始めてきた。

 

 

 

──ぷすっ!

 

 

 

「あひんっ!?」

 

 

 何かを刺した音と、ねずみ男の変な声。

 眠ろうと思った瞬間に目を覚ました。ゴロンとねずみ男は転がっていった。その際に見えたのは、ねずみ男のお尻には大きな注射器が刺さっていた。

 

 

「いつの世も医療従事者は大変なものね…」

 

(ダレ・・・?)

 

「待ってなさい。すぐに治療(たす)けるから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

『油断した奴から負けてゆく。古代からの常識よ、小娘!!』

 

「はぁ…はぁ…っ」

 

 

 今度は立場が逆になっていた。

 疱瘡婆が勝ち誇り、鈴仙が膝をつく。彼女の皮膚からは発疹が出ていた。更には高熱といった病に侵され始めた。

 

 

『私の腰にある髑髏!ここからは毒が出るのさ。私の体の中で超熟成した超絶危険な天然痘がな・・・!!』

 

「ぐっ…」

 

『貴様のことを認識できないのなら、辺り一面に毒を撒けばいいだけの事!効果はテキメンよ!オー!ホッホッホッホー!!』

 

 

 鈴仙の能力により、未だに感覚が狂い続けている疱瘡婆。

 だが無差別の技ならば相手を捉えられなくても構わない。それに加えて、この腰から出る毒は、今蔓延している物の100倍の危険度である。耐えられるはずがないのだ。

 

 

『お前を嬲り殺しにするのは出来ないが、このまま天然痘で死ぬのもまた一興!そして・・・はぁあああああ!!』

 

 

 両手に向かって手を挙げる。

 その手の上に段々と幻想郷に蔓延している毒、瘴気、病が集まってきた。あの超有名な元気を集めて放つ技のように、超邪悪な力を一身に集めていたのだ。

 

 

『蔓延している全ての負のエネルギーと、私の毒を混ぜ合わせ、この幻想郷を地獄に変えてやる!!』

 

「く、そ……っ、この程度で…っ」

 

『立ち上がれるものか。天然痘を甘く見るな。人類史の中で誰よりも殺してきた菌なのだぞ。くくく……じゅるり』

 

 

 ポタリポタリと涎が垂れ始めた。

 目の下の所にある口からダラダラと涎を垂れ流し、それが体を伝って地面に落ちる。

 

 

『天然痘で苦しみ…力尽いた死んだ人間の肉は美味いんだよな。特に薬漬けになってから死んだ肉はクセがあって最高だぁ〜』

 

(このままでは……っ、動け、体ぁ…)

 

『早く溜まれ…!溜まれ!!全ての邪気よ!!』

 

 

 

 笑う疱瘡婆。

 その後ろで必死に立ち上がる鈴仙。

 近くの壁に寄りかかりながら、ふらつく足を叩いて立ち上がろうとする。だが全身の痛み、物凄い頭痛、恐ろしいほどの眩暈に、再び膝をつく。立ち上がれない。何も考えられない。あぁ、このまま死ねたら何と楽なのだろうか。そんな考えばかりが浮かんでしまう。

 

 

 

「も、う…だめ……」

 

 

 

──チクッ…

 

 

 

「んっ!?」

 

 

 小さく鋭い痛み。

 例えるなら注射器で刺されたようなほんの僅かな痛みが背中に感じた。それと同時に段々と痛みが引いていく。視界も明るくなってくる。力も湧いてくる!

 

 

「マニ…アッタ……!!」

 

「にがわらい…!?」

 

「友達、タスケ、キタ!」

 

 

 傷口を消毒し、縫い、包帯を巻いた苦笑が、彼女に解毒を施したのだった。鈴仙は身をもって、苦笑の能力の凄さを体感する。その解毒の速さは驚きのもので、月の技術といえども治療をして入院するといった工程が必要なのだが、それが要らない程の力である。

 

 

「タスケ…ラレテ……ヨカッ……タ」

 

「苦笑!?」

 

「─大丈夫。疲れて眠ってしまっただけよ」

 

「えっ!?その声…。まさか・・・!?」

 

 

 鈴仙の見覚えのある姿が現れた。

 美しい銀色の髪の毛を携え、左右が赤と青の二色に分かれた服を身につけた女性。手には医療道具が入ったバッグを握られていた。女性は、驚いている鈴仙を冷たい目で見下ろしていた。

 

 

「お、お師匠さまぁ〜…」

 

 

 鈴仙の師匠、永遠亭の凄腕の薬師──『八意永琳』である。

 月の元リーダーであり、基本的には医療を提供するが、戦闘面でも天才的な実力を持つ。性格は患者には優しい。

 

 

「私の弟子を名乗るくらいなら、天然痘(このくらい)は自力で対処してもらいたいわ」

 

「ひぃいい…!」

 

 

 身内には厳しい。特に、弟子の鈴仙は人一倍厳しく接している。だがそれは愛情の裏返しであり、自分を師として慕っているならばその期待に応えようとしているのだ。

 

 

『何だ、騒がしいな?』

 

「あなたが病原菌ね。こんにちは、この里の医者です」

 

『く、くははははーーっ!!医者?たかが医者だと!?ククク……お前らが何をしに来たのだ!』

 

「弟子がお世話になったのでその御礼と……除菌させていただきます」

 

『・・・除菌だと?ただの医者の分際で偉そうにィ。やってみろ。この“病殺玉”を止めてみろよ!!』

 

 

 疱瘡婆は完成させた。この幻想郷の邪悪な物を吸収し、疱瘡婆は自身の最強の究極奥義を作り上げたのだ。

 しかし、永琳は落ち着き払っていた。冷静に、ゆっくりとバッグを開き、そこからフラスコを取り出した。

 

 

「分かったわ」

 

『え?』

 

 

 自信満々に作り出した究極奥義『病殺玉』に向けて、フラスコの蓋を外し、中の液体をかけた。あんなに時間をかけて作った技が、一瞬にして消え去った。

 

 

『な、なな、な・・・』

 

「?」

 

 

 理解できない。これは人間たちを殺してきた天然痘の集合させたマイナスエネルギーの塊なんだぞ。それをこんな簡単に?

 

 

「あっ、何が起きたか理解できない反応か。目玉しか無いから感情が分からなかったわ」

 

「お師匠?一体今のは…」

 

「これはついさっき作った『幻想天然痘対抗ワクチン』。本来の天然痘のワクチンと、苦笑(かれ)のミラクルな毒を特殊に配合したものよ」

 

「やっぱりお師匠は天才ですぅ!!」キラキラ

 

 

 そうなのだ。

 この八意永琳はマジで天才なのだ。月の中でもずば抜けた頭脳を持ち、苦笑の毒のメカニズムを解読。それをワクチンにするために調合を行なった。その間、僅か10分である。

 

 

 

『〜〜〜っ、馬鹿な人間どもを食い殺す私の算段をよくも…、よくもォ…!!こんな奴さえ来なければ幻想郷なんてェ〜っ』

 

「一言言わせてもらえる?先程、アナタは()()()()()だと侮ったみたいだけど・・・天然痘を根絶させたのは誰だと思ってるの?医者よ!アナタがバカにした医者が、天然痘を倒したのよ」

 

『何をォ…言いたい……!!』

 

「──私たちを甘く見るな。人間はどんなに劣勢でも時間がかかっても、知性を継承し、命の連鎖を通して・・・必ず対抗する手段を手に入れる!私がいなくても、お前は必ず倒れる!」

 

 

 

 長い間、全世界の人間を殺してきた天然痘。

 だが人間たちは黙ってやられるほど馬鹿ではない。昔から病と向き合い研究してきた叡智を駆使し、天然痘の全てを解明した。奴らの好む物、嫌いな物、環境、条件を全て調べ上げ、それを基に倒す武器までも作り上げたのだ。

 

 もし仮に新たなウイルスが来ても、人間たちが諦めない限り、必ず乗り越えられる。歴史がそう物語っているのだ!!

 

 

 

『私は…、私はぁぁ……“疱瘡婆”だ!今まで何万人と人を殺してきたんだ!!たかがワクチンを作られただけで……私を止められるわけがないんだァァァーーー!!』

 

 

 

 頭にある左右対称の角を振り上げて突進。

 疱瘡婆は、天然痘を感染させたとしても無駄であると察して、武力行使以外に道はないと判断。自分の最大打点を与えられるところは角であるので、あの脚力を使って、永琳を串刺しにする為に地面を蹴った。

 

 

紅矢(べにや)・・・」

 

 

 昔から疫病神は『赤色を嫌う』とされている。そして妖怪である天然痘を用いる疱瘡婆も例外ではない。赤色の物は力を封じ、退散させる力を持つのだ。

 

 

「狙いは…頭部」

 

 

 風はそよそよと吹き、木々は永琳の冷静な心を反映しているかのように優しく揺れた。彼女は一本の『紅い矢』を矢立てにセットし、弓を徐々に引いていく。その弓矢の弦はギギィと音を立てた。永琳の瞳は疱瘡婆、その一点を見つめていた。

 

 

「貫け・・・『天丸・壺中の天地』」

 

 

 そして、最後の瞬間、力強く放った。

 紅矢は空を切り、目標に向かって飛び立ち、見事に命中。疱瘡婆の頭蓋を貫通し、内部から肉体を崩壊させた。

 

 

『──』

 

 

 悲鳴を上げる間も無く、疱瘡婆は消え去り、魂だけが空に飛んでいった。きっとまた疱瘡婆は、人間たちが病に恐れた時に力を溜めて復活をするのかもしれない。だが、成長し続けるのが人間たちだ。永琳や苦笑たちがいなくても、いつの日か必ず万能薬を作れるだろう。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 疱瘡婆が戦闘不能。

 八意永琳が主導となって、人間たちに特効薬を与え回復することに成功した。更に人里を一斉に除菌する計画が実行され、その後の調査から幻想郷において天然痘の根絶が認められた。

 

 そしてもう一つ吉報がある。それは──

 

 

「妖怪さん、あの時はびっくりしてごめんなさい」

「あの時は助けてくれてありがとうよ。俺たちはお前さんを勘違いしてたみたいだ」

「助けてくれてありがとう」

 

 

 天然痘で苦しんでいた人間たちは、苦笑が我々を助けようと必死に動き回ってくれた姿を見ていたのだ。そして認識を改めた。苦笑に助けてもらった人たちは次々と謝罪をしていた。苦笑も褒められて、謙遜しつつ笑っていた。

 

 

「コレ、全部、友達、鈴仙ノオカゲ! アリ、ガト!」

 

「私は何もしてませんよ。良い人は必ず好かれるものなんですし、これは当然の結果です!寧ろ、私がやられそうになった時に助けてくれてありがとうございます!」

 

「エ、エヘヘ…」

 

 

 鈴仙と苦笑。

 最初は色々あったが、人を助けることが好きと言う共通点からここまで仲良くなれた。

 

 

「苦笑はこれからどうするの?」

 

「エト…、実ハ」

 

「彼は、永遠亭(うち)に来て、私の研究を手伝ってもらう事になったわ」

 

 

 2人の間に、永琳が現れた。

 そしてこれから永遠亭に来ると聞いて、鈴仙はとても驚く。

 

 

「し、師匠!」

 

「彼の毒はとても未知数で興味深いわ。私のところで研究して、この毒から最強のワクチンを作りたいの!だからさっきお話ししてたのよ。ね?」

 

「ハ、ハイ!!」

 

 

 フンフンと鼻息荒くする永琳。

 普段は冷静沈着でみんなの頼れるリーダーなのだが、実はめちゃくちゃ『好奇心旺盛』なのだ!

 医学や薬学についての知識への欲求はとてつもなく、特に今回の『正反対毒』の効能には目を見張るものがある。このままにしておくなんて勿体ない。手に入れたいという気持ちが溢れ出し、こうなったのだ。

 

 

「優曇華、苦笑は今日からウチの家族でもあり、今日から()()()()()()()よ。しっかりと教えてあげてね」

 

「はい!・・・これからよろしくね、苦笑!!」

 

「ウン!!」

 

 

 生まれてからずっと一人ぼっち。疫病神ではないかと恐れられ、疎まれてきた。それでも誰かを助けたいと願い続ける。

 そんな彼に生まれて初めて、家族というものができた。これからの人生に幸あらんことを。

 

 

「あとは、アイツの処理ね」

 

 

 永琳は、未だに目を覚まさないねずみ男をチラリと見て、笑った。

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?あれここは?って、何で俺っち縛られてんの!?」

 

 

 ねずみ男は目を覚ました。

 体の調子は良くなっているので病気は治ったのだろうが、それよりも自分の今置かれている状況に驚いていた。

 

 

「幻想郷に病気を持ち込み、蔓延させた罰は受けてもらうわよ」

 

「ば、罰ってそんな、あははは……はっ!?何その注射器!?」

 

「今から投薬実験を始めます。ちゃんと付き合ってもらうわよ、モルモットさん」

 

「もう『薬』は懲り懲りだァア〜〜〜ッ!?」

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「──ねずみ男」

 

 

 隙間で小さく、声が聞こえた。

 

 

 

 






 いやはや、最後の人物は誰なのか?
 
 次回をお楽しみに─。
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