こんにちは、狸狐です
前回のとすごい落差です。
書いててめちゃくちゃ悩みました。
あとfgoの最後のハロウィンイベントが来ましたね。
まだストーリーやってませんが、ファイナルと聞くと本当に、そしてめちゃくちゃ寂しいです。
一応、星5エリちゃん当てて嬉しい
亀裂
「ここは……」
星が輝き、夜空を照らす。
草木は茂り、虫たちが歌っている。
ここはとても懐かしい場所。自分という存在が生まれたルーツだ。“八雲紫”という私の魂が知っている世界の中心に立っている。
『よう』
「……貴方は」
『久しいな』
「・・・ええ、本当に」
八雲紫の隣にはいつしか少女が立っていた。
2人は軽い挨拶をすると歩き出す。ゆっくりと懐かしい場所を一歩一歩巡っている。
『随分とやつれたな』
「貴方は何も変わらないようで」
『そりゃあそうだ。私は人でも妖怪でもない。時間に縛られず、永劫の中にただ存在するだけだ』
「羨ましい限りね」
2人は歩く。
あんなに自然に溢れた世界はいつしか消えて、目の前には何もない闇。その中をただただ真っ直ぐに進んでいく。
『もう随分と休んでいないな?』
「しっかり10分は寝てはいるけど、やっぱりダメみたい。……色々な事がありすぎて安眠はできないわ」
『もう休め。もうたくさん働いたんだ』
「休めない。──あの子では私が眠った後の世界を任せることはできない」
『そこまでか?あの子はよくやっているだろう。数々の異変を解決し、たくさんの猛者たちを倒してきた』
「それが良くなかったのよ。その勝利がこれからやってくる未曾有の危機を乗り越えるための足枷になっている」
『・・・やれやれ。心配してきたが、我が身よりも幻想郷と若人の心配か。見守ることも年長者の役割だろう』
「見守るっていうのはある程度その相手を信頼しているからできるものよ。あの子は……霊夢は、信用はできても信頼はできない。だからまだ見守ることはできない」
『ふぅむ、そういうものか』
「そういうものよ。だからこうやって貴方も出てきたのでしょう」
その言葉に少女は笑う。
紫は笑みを返さず、ただ淡々と続けた。
「それじゃあそろそろ起こしてくださる?」
『ああ。……ただ最後に一つ。目が覚めたのなら覚悟して。これから起きるものには覚悟が必要よ』
「・・・」
『では、さようなら──』
「・・・っ」
睡眠時間30分──。
いやこんなもの睡眠とは言えないだろう。ただ藍に頼むから休んでくれと泣きながら懇願されたために、パウチ異変からこの1週間、1日30分間だけ眠る時間を取り入れている。
(あまり意味ないけど心配され続けるのも嫌だしね)
起き上がるが、視界が歪み、体全身に痛みと疲労を感じる。
【六文銭】の侵攻からほぼ不眠不休で監視と、結界の修復に費やしてきたツケが来たのだろう。しかし妖怪は寝ないからと死ぬわけではない。極度の疲労に襲われるだけだ。
「・・・行くか」
頬を叩き、喝を入れる。
隙間を開き、紫は博麗神社へと向かうのだった。
※※
「霊夢」
「おはよう、紫」
霊夢は茶の間で作業していた。
季節的にも寒くなってきたのでコタツの準備である。霊夢は寒いのは大嫌いであるが、コタツは大好き。お茶を啜りながらみかんを貪る時間などは至福のひと時である。
「どうしたのよ」
「時間ある?」
「・・・長くなる?」
「場合によっては」
「はぁ。お茶準備するからまってて……」
敷かれた座布団の上に紫は座り待つ。
暫くすると湯呑みを二つ持って、霊夢が現れた。2人は面と向かうと紫は一口飲んでから話し始めた。
「霊夢。前から話していた件のことよ」
「ああ、アレね。結論から言うけど──嫌よ」
霊夢はかなり嫌そうな顔をして答えた。
紫が言っている件とは──【修行】のことである。話によると歴代の博麗の巫女に力を授けてくれる聖なる地があり、そこで修行をすれば、真の力に目覚めるというものだった。
「私には全く必要ないし、これからもすることはない」
だが霊夢は修行するつもりなんて全くなかった。
確かにぬらりひょん異変後、少しは考えた。“修行をしてみよう”と。しかしあの日から時が経つにつれて段々と怠くなってくる。極度の面倒臭がりにとって修行だとか、鍛錬はかなり辛い。大嫌いなのだ。
「紫も分かっているでしょう。私が解決してきた異変の数を。倒してきた相手を」
「・・・」
「一度だって私は負けたことはない。これからどんな相手が来ようと私なら退治できる」
「本当に実力だけで勝ってきたと思ってる?たまたま運が良かっただけなのに全てを自分の実力だと?」
「運も実力のうち、でしょ」
紫はギロリとした瞳を、霊夢に向けた。
「霊夢、その態度をなんて呼ぶか知ってる?」
「さあて」
「驕り、って言うの。よく覚えておきなさい」
「あっそ。肝に銘じ……ああ、ごめん。もう忘れちゃった」
霊夢の言葉で紫を煽り、霊夢の瞳は氷のように冷たく、紫を真っ直ぐ射抜く。対する紫の目は逆に、底の見えない闇のように静かで、霊夢を呑み込もうとしている。
「………なんならさ、今ここでやる?そうしたら嫌でも分かるからさ、私の実力」
「ふふ。なら早く教えてくださる、小娘の実力を」にこっ
視線と視線がぶつかるたびに、空気がきしむ。
紙垂がかすかに揺れ、外にある季節外れの風鈴が鳴る音さえ、緊張を裂く刃のように響いた。二人の気配が神社を軋ませていた。
「「──」」
畳の上で、空気が弾けた。
紫の扇子と、霊夢の護符。互いの顔の目前で、紙一重の距離で止まる。風圧が頬をかすめた。霊夢の目は一切揺らがず、ただ紫を射抜く。紫の瞳もまた、微笑の裏に殺気を潜ませているのだった。
「遅いわねぇ。私が殺す気だったら死んでたわよ」
「そっちこそ、動きにキレがないんじゃない?小娘の拳がもう届きそうだけど」
「……本当に可愛くない」
「可愛さなんて元から持ち合わせてないっての」
両者は拳を下ろし、お茶を飲み直す。
熱々で淹れたはずなのにもうすっかり冷め切っているが気にはしなかった。2人とも喉がカラカラだったのだ。
「……霊夢。博麗大結界の強度は巫女の力に比例しているのは知っているでしょう。確かにあなたは強いけど、敵が出入りしたせいでボロボロよ。今一度強固にすべきなの。あなたが修行してくれるならその間巫女の勤めは私が代わる。だから分かってちょうだい」
冷静に──。
紫は説得するのではなく、同情させるように言った。
「紫。アンタは今、不安に取り憑かれてるのよ。ぬらりひょんが来て、他所からの妖怪が来て……。でもあの時に乗り越えた。それにさ、私の力だけじゃなくて
哀れんで──。
霊夢は拒否するのではなく、心配するように言った。
「どんな相手が来ても私が倒す。だからさ──」
「今のあなたに任せられない」
紫の言葉に霊夢の瞳は大きく開いた。
聞いたことのない言葉。期待されていないと初めて言われたのだ。そして今まで自分がやってきたこと、経験を否定されて、霊夢の中に怒りが込み上げる。
「は?」
「弱いあなたに全く任せられない」
「今までたくさんの異変を解決してきたでしょうが!それなのに私が弱いって……!だったら本気でやり合おうじゃないの!」
「……もういい。強くない巫女に存在価値はない。代わりを探す」
紫はそう言うと隙間を開く。
「待ちなさい──」
「さようなら。霊夢」
──ピキッ……
「「!?」」
幻想郷全域の空気が変わった。境内を撫でる風がざわりと震え、虫たちの声が途切れる。まるで世界そのものが、深い闇に飲まれるかのように。霊夢と紫の間に流れた雰囲気さえも覆い尽くし飲み込むように。
「……これは」
「なに?」
霊夢が眉をひそめる。
嫌な気配を感じて外に出る。すると空が、裂けていた。境内の上空に亀裂が走り、そこから光ではなく濃密な「闇」が滲み出す。
『ここが幻想郷か。我が帝国の庭程度しかない随分と小さい箱庭だネ』
圧倒的な威圧感に、紫も霊夢も無意識に御札を握り締めた。
『
頭に直接響くような低い声が神社全体を震わせる。
闇からせり出す巨体。神社の建物が軋み、空間そのものが悲鳴を上げる。
『はじめまして、小さな国の小さな者たちよ。私は西洋妖怪の帝王──“バックベアード”』
ひび割れた空間の先から暗黒の球体が降りてきた。
太陽のような暗黒の生命が空に浮遊すると、その中心がパックリと開き、巨大な目玉が現れる。加えて開眼すると同時に眼前の山は潰れ、球体の周りから一斉に触手がうねうねと動くのだった。
「バックベアード……?」
「最悪……っ」
赤い瞳が博麗神社を見下ろす。
外からの侵入者。あれは敵だ。幻想郷を害する敵だ。霊夢は本能的に察した。
『おや……!おやおや……随分と久しいネ。八雲紫!!』
「千年ぶりかしら。バックベアード」
帰ろうとして開いていた隙間はすでに閉じられる。
バックベアードと紫は見合った。外来のものは愉悦の瞳で紫を見て、紫は殺意のみを向ける。
『私としたことが君の“幻想郷”を見つけるのに随分と時間がかかってしまったよ。まさか別次元に作っていたとは……。日本の至る所を探して見つからないはずだネ』
「こっちとしては全く会いたくなかったけどね」
『済まない。事前にアポを取ろうにも取れないだろう?……だから不法に君の領土に侵入させてもらったんだ。申し訳ない。謝罪するヨ』
「気にしないわ」
ベアードは笑う。
紫は警戒を解かない。2人の会話の仕方から昔馴染みであることは分かったが、仲が良いわけではないだろう。
「それで……昔話をしに来たわけじゃあないわよね」
『ああ。少しばかりお願いがあってネ。ここの代表である君に話が………ふぅむ』
バックベアードの瞳は霊夢を捉えた。
『そこの……
「何を…!!」ギリィッ
「この子は博麗霊夢。ただの……、いや、幻想郷を……、…守護する者よ」
『そうか。随分と私を睨みつけていたから…、君の部下なら私が
「紫……」
ベアードはもう霊夢に興味は失せていた。
ギロリと紫を捉え直す。
「話を戻しましょう。……私へのお願いとは?」
『実はね、私は外の世界で西洋妖怪の顔役でね。800年前に妖怪大統領に選ばれ、敵対勢力を滅ぼし【帝王】と呼ばれるまでに出世できた。そして帝王として領土を広げていたんだが、
「なるほど。つまりその広げるための道具がここにはあるから貰いに来たと」
『うむ』
「ではそれを差し上げるので、ここから早急に立ち去ってくださる?」
『勿論だとも!私もこんな田舎くさいところに居たくはないのでね』
馬鹿にするような言い方に2人はイラっときたが、言い返したりはしなかった。
「それで、その道具とは?」
『それはね。──“魔女”だよ』ニコッ
※
「なんだよ、あれ」
「黒い太陽…?」
「ち、違う。太陽だとか星だとかそんなもんじゃない…っ、あれは…」
「巨大な妖怪だ……!!」
バックベアードの大きさはかなり巨大。
里の人間たちも異変に気づき、空を見上げてバックベアードの目を見てしまい固まっていた。きっと他の妖怪たちも同じだろう。空を飛んでいた天狗たちは墜落。泳いでいたものたちはそのまま水の中に沈んでいく。
「あ゛っ、動けない」
「なんでっ」
「身体が……っ」
何が起きたのだろうか。
体が硬直し、動けなくなる。
「博麗神社の方向じゃねえか…っ、霊夢…!くそ、友達が大変って時に!動けよ。動け、私の身体!!」
魔理沙は硬直したまま地面に伏している。
「……あれがお父様の言っていた西洋妖怪の顔役。バックベアード」
「お姉様」
「大丈夫よ、フラン。私が必ず守るから」
抱き合う吸血姉妹。妹の方は震えていた。
「紫様…っ、おやめくださいっ!紫様……、紫様…!!今の貴方では……!!」
紫の従者は硬直したまま涙を流す。
※
『魔女だよ』
魔女──。
それは道具の名前なんかではない。種族、つまり命あるもののことだ。だがベアードは何も思ってなんかいない。当然のようにサラッと言ったのだ。
『愚かな人間も、私に歯向かう妖怪たちも、全てを奴隷にするブリガドーン計画。魔女100匹で一つの国を植民地に変えられる素晴らしい計画。逆らうものがいない平和な世界を創ることができる』
ベアードは楽しそうに語り続ける。
『だがそれを理解しない魔女たちは私に命を捧げず、愚かにも逆らい抵抗してきた。だから世界中の魔女全てを捕まえ、捕虜にし、計画を起こすときに使う。それを繰り返していたら、いつの間にか1匹もいなくなってしまってね!あっははは!!』
『魔女はその名の通り、メスしかいないだろう?オスがいれば繁殖させて使い続けることができたんだが……。まぁ、無理な話だから人間を魔女にする研究をしようと思っていた矢先──』
『誰かは分からないが、この幻想郷に、ものすごい魔力を持った魔女がいることを教えてくれてね。いやぁ……嬉しかった。あれほどの魔力だ。たった1匹で5つ、いや6つくらいは植民地にできる。これでまた計画を進められる』
「「・・・っ」」
不愉快だった。耳障りだ。
聞くに耐えない気持ちの悪い話に反吐が出る。基本的に無関心な霊夢でさえこの目の前の相手に不快感を感じ、そして怒りが溢れ出してきた。
『さぁ、渡してくれるね。八雲紫』
聞いているが、確実に脅し。
バックベアードの前ではイエス以外に答えはない。どこの国の妖怪たちも頭を下げるしかない。
「仮に嫌だと言ったら?」
『……予想外の質問だネ。そうだな。……もしNOなら、君の大切な幻想郷を火の海にでもしちゃうかもしれないネ』フフフッ
「そう…」
紫は少し考える。
ベアードが言っているのは手を出されたくなければ、魔女を寄越せと言う交渉だ。そして紫としても今の状態でのベアードと戦うのだけは避けたかった。勝てる勝てない関係なく、あの巨大な妖怪が暴れれば人にも妖怪にも必ず被害が出る。それだけは避けたい。
(平穏に暮らしているものたちに被害は出させたくない。……資源とかなら渡せた。けど……、けど、魔女……、魔理沙たちを引き渡すなんてできない……。でも渡さなければ人里は簡単に消滅する。それはあってはならない…。どうしたらっ、考えろ──)
「くっだらない」
『?』
「霊夢……!?」
紫の回答よりも先に霊夢が言った。
霊夢は堂々と言い放つ。
「私は博麗の巫女よ。使命は幻想郷を守ること。アンタのくだらない計画なんかのためにここの連中を渡せるかっての!!」
『はぁ……八雲紫を見習いたまえ。しっかりと考え、正しい回答を出すつもりだよ。それにね、君とは話していないのだが……』
「どいつもこいつも私を馬鹿にすんなっての!」
霊夢は飛ぶ。
大空を滑空し、遥か巨大な相手に向かっていた。
「ま、待ちなさいっ!霊夢!」
制止する紫の声は聞こえていても、響かない。
その声に霊夢に止めるだけの力なんてない。
「見てなさい……。今までもこれからも私が異変を解決して、この幻想郷を守っていくんだから!!」
『やれやれ。田舎者は礼儀を知らないようだ。躾けてあげよう──』
ベアードは呆れ、そして身体中の触手を一斉に動かした。一本、二本、十本……数を数える間もなく、幾重にも絡み合う闇色の“触手”が空を裂いて迫る。
「この程度っ!」
霊夢は飛んだ。空気を切り裂き、髪が弾ける。視界の端を、黒い線が掠めた瞬間、背後の鳥居が、触手の一撃で粉々に吹き飛ぶ。音が遅れてやってくる。空気が圧し潰されるような衝撃。霊夢は袂を翻しながら、次の一撃を見切る。
「爆ぜろ!霊符「夢想妙珠」──」
護符を一閃。
光り、幾筋もの封印の光弾が放たれる。だが触手はそれを“裂く”。真正面からその聖なる光を打ち壊しながら蠢き、弾幕の間をすり抜け、逆にその隙間を突いて襲いかかってくる。しかしそれらは陰陽玉で受け止める。
『ほお。ならこれはどうかな?』
「!」
触手の雨が降り注ぐ。低空で飛ぶ霊夢を狙うが、精密ではない攻撃は当たらず代わりに境内の地面が、まるで波打つように盛り上がる。触手の一本が地面を貫き、瓦礫を撒き散らしながら蠢く。霊夢はその隙を突き、真正面に踏み込む。
「貰ったァッ!!」
お祓い棒を両手で構え、力を込める。全身の霊力が閃光となって棒に宿る。闇の中心であろう、あの巨大な“眼”へと叩きつけた。
──ぎゅむぅ
「なっ……柔らか……!」
まるで濃い水を殴っているような感触。
そのままお祓い棒が、腕が、ずぶりと沈み込む。抜け出せない。動けない。次の瞬間、眼がぎょろりと動いた。
『この程度か』
「!!」
遅かった。
霊夢の
(動けない──。落ち─)
いきなり霊夢の身体は細胞レベルで硬直した。
そのまま墜落する音だけを反響する。霊夢はそのまま敷地内にて落下。地面の上で目を見開いたまま硬直。つまり人生で初──『敗北』を経験したのだった。
「霊夢……!!」
急いで駆け寄る。
落下により身体の骨は折れたり、ヒビが入ったりしているが生きているようだ。上空ではベアードが変わらずに見下ろしていた。
『紫よ。さぁ、考える時間はもう終わりだ。答えを聞こう』
「・・・!」
紫は霊夢とベアードが交戦している3分間。
必死に思考していた。
「ええ。ベアード。私の答えは──……」
そして決めた。
最善の策を。夢で見た覚悟とはこの時だ。
「
『・・・聞き間違い、かな?』
「何も間違っていない。嫌だと答えたの」
紫ははバックベアードを睨みつけ、そして扇子の先を向けた。
『魔女を渡せば大多数の命が奪われることはないのにか?』
「あなたが死ねばそんな心配しなくていい。それにね、この地の管理者として余所者のあなたに大切な住人は渡せないのよ。あと……私の実力を忘れたのかしら。自分の帝国でお山の大将になっていたから自分を強者と勘違いしているのではなくて?」
『……これだから日本の連中は嫌いなんだ。忠義とか、絆とか、血とか、仲間とか愛とか、そんなものに縛られて合理的に物事を判断できない。…本当に残念だよ。東方の賢者はこんな選択をしないと思ったのだがな』
バックベアードは割れた空間の中に吸い込まれていき、闇の中に消える。そして空間が閉じると同時に紫の目の前の空間が割れた。そしてヒビが走り、先程よりは大きくない──半径3メートルくらいの穴が現れた。
『長い年月が経ち、賢者は愚者に成り下がったようだ』
ひび割れた虚空から、巨大な眼球が変貌を始める。肉が盛り上がり、筋肉が裂け、黒き衣を纏うかのようにして──。やがて立ち現れたのは、黒い筋肉を纏った人型。大きさは2メートル半くらい。頭部には禍々しい一つ目が輝いていた。
『まぁ、愚者を躾けてやるのも帝王の役目、か』
バックベアードが掌を振り下ろす。
その瞬間、神社全体が揺れるほどの圧力が走った。闇の奔流が津波のように押し寄せる。紫は瞬時に隙間を開き、霊夢を避難させると、自らは一歩前に出て、その圧力を自身の圧で相殺する。
「本気でやりましょう」
『当たり前だ』
2人はゆっくりと近づく。
そして上空へと飛んだ。次の瞬間、二人の姿が同時に掻き消える。
「──ッ!」
衝撃音が虚空で炸裂した。バックベアードが紫の心臓を貫こうと拳を飛ばすが紫は隙間を開き、消える。かと思えば、直ぐに現れて紫の蹴りが突き抜け、バックベアードの顎を捉える。だが、バックベアードも空間の中に入る。その体は影のように揺らぎ、途端に空間の裂け目から背後に回り込んでいた。
『遅いぞ!』
バックベアードの拳が紫の背を狙う。
しかし、そこにはもういない。紫の身体は無数の隙間に砕け散り、別の場所に再構成されていた。
「細切れになれ」
『!』
その手が扇を握りしめ、横薙ぎに空を払う。裂け目から鋭利な“空間の刃”型の弾幕が放たれた。バックベアードは拳のラッシュで相殺するが一つの断片が肩を裂いた。
『くははっ!』
裂かれた肩口から漆黒の闇が滴り、再び肉体が再生する。
二人は何度も瞬間移動を繰り返し、拳と蹴りを叩き込み合う。背後から襲う拳が隙間へと吸い込まれ、別の角度から炸裂する。頭上からの踵落としが虚空を割り、下方から弾丸のように迫る。
『ふんっ!!』
拳のラッシュ。
紫は全てを見切り、華麗に躱す。
「──ん゛ッ!」
空間が爆ぜ、紫の身体が弾き飛ばされる。
直前に避けたはずの拳が、裂け目を抜けて真横から叩き込まれたのだ。真正面からの拳ではない。この空間全てが拳の範囲内なのだ。
『どうした紫、もう膝が笑っているぞ』
「それはどうかしら?」
紫は隙間を開き、己の足を消す。
その消えた足が、別の角度から現れてバックベアードのこめかみを蹴り抜いた。バックベアードの戦い方なんて紫にだって出来る。つまり両者とも同じタイプの存在なのだ。
『ぐぅっ!?』
「あらら?目が回った?」
バックベアードがわずかに体勢を崩す。
だが、すぐに裂け目から腕を突き出し、紫の肩を掴む。そしてそのまま引き寄せる。
『回るのはそっちだ』
大木を引き裂くような力で紫の身体を振り回し、地上へと叩きつける。神社の境内が激震し、瓦が舞い上がった。
「あ゛ぁっ……、ぐぅっ…!!」
『お前、弱くなっているな……。つまらん』
紫の首を持ち、そのまま上げる。
バックベアードは自分の手で握る紫の弱っている姿を見て、どこか寂しそうな表情をした。
『このまま首を折って終わらせてやる』
「あ、ら……。終わるにはまだ早くてよ」
紫は自分の首を掴んでいるバックベアードの腕を両腕で掴み、離れられないようにした。まだ諦めていないその姿にバックベアードの瞳に光が戻る。
『!』
隙間が大きく開いた。
その向こうに広がるのは、外の世界。夜の都市。赤く点滅する信号、街灯、そして林立する道路標識。
「串刺しになりなさい」
次の瞬間、標識が雨のように飛び出した。
無数の金属の槍がバックベアードを襲い、肩や胸を貫く。
『うごぉおお……っ!』
闇の体から黒煙が噴き出すが、なお笑う。
体に突き刺さった標識を振り払い──
『それで終わりかァッ!』
バックベアードの姿が空間に吸い込まれ、真横から拳が突き抜けた。紫は寸前で扇を翳し、隙間で受け止めるが、衝撃は逃がしきれず、吐血して後方へ吹き飛ぶ。
「ぐっ、……潰れろ」
隙間から鉄の塊が飛び出した。
『おお……っ!!』
それは都市を走る電車だった。
紫が繋げた“外”から、轟音を奏でながら暴走する鉄の車両がバックベアードに直撃する。電車ごと吹き飛ばされ、ベアードは空間の壁を突き破り後方に叩きつけられる。
『おおおお……っ!!』
だが電車が逆方向に動く。
バックベアードは両腕で正面から受け止め、そのまま押し返し始めた。だがベアードが電車に構っている間に、その上空では隙間がゆっくりと開いて黒いものが落下してきた。
「爆ぜろ」
『まさか!?』
水素爆弾。
とある国のとある戦艦から拝借した“人間が人間を傷つけるための叡智の結晶”がベアードと電車に直撃し、大爆発を起こす。博麗神社の上空が光り、そして轟音と共に全てが燃え滓となる。
だが──
『昔のお前なら私を数秒で肉片にしていたのになあ』
「・・・」
『やはり弱くなってるなァッ!!八雲紫ィィィッ!!』
二人は再び消え、虚空のあらゆる方向で殴り合う。
拳と拳、膝と膝、そして隙間と裂け目。
紫のトリッキーな手が一瞬上を取れば、怪物の暴力がその体を打ち据えるのだった。
※※
博麗神社に続く階段の一番下。
そこで動けない霊夢は2人の戦いを見ていた。いや、見ていることしかできなかった。
「くそ、くそっ、動け…!!」
「れ、霊夢ちゃんっ」
「!」
倒れている霊夢。
そこに近づくのは汚い黄土色のローブを着たねずみ男だった。彼は怯えながら霊夢に近づく。
「ねずみ男、なんでここに!?」
「腹減ってよ。霊夢ちゃんのところで飯でもご馳走になろうかと思ったんだが、一体何が起きてんだぁっ!?」
「外からの侵入者よ…。ぬらりひょんとは関係なさそうだけど」
「やべえよ。紫と互角だぜ。ここにいても死ぬだけだ。に、逃げよっ!!」
ねずみ男は瓦礫が飛んでくる可能性を考え、霊夢を持ち上げて背中に乗せる。
「もっと離れねえと!紫がやられたら幻想郷は終わりだ」
ねずみ男がここから離れようとした時、霊夢が言う──
「ねずみ男」
「ん?」
「戻って」
「は、はぁあああああっ!?何言ってんだよ。あんなところに戻ったら俺らは粉微塵だぜ!?第一、動けない霊夢ちゃんが行って何になんだよっ」
「私は巫女よっ!!紫が死んだら誰が里を守るっていうのっ!」
初めて見た。
霊夢がこんなに声を荒げているのを。人に対してあまり興味がなく、機械みたいな女が“使命”のために声を荒げていた。
「う、ううっ、ちょっとだけだからなァッ!!」
ねずみ男におぶられて、ゆっくりと近づく。
彼の背中の中で霊夢は最悪のことを想定した。
(この戦い。勝敗は──)
※※
「はぁっ、はぁっ」
闇と隙間が交錯する空。
バックベアードの身体の傷の治りは遅くなっていた。時間が経っても未だに治っていない傷もある。一方で回復能力を持たない紫の身体はすでに幾度も殴打を受け、白い肌には赤黒い痣が浮かんでいた。それでも、扇を構え、にやりと笑う。絶対にバックベアードに苦悶の表情を見せたくなかった。
『この肉体と肉体がぶつかる感覚…。心地よいぞ……!!』
「そう。ならこれはどう?」
隙間が開く。
一斉に飛び出した無数の標識が雨のように降り注ぎ、さらに車の残骸までもが唸りを上げて突撃する。
『うおおおおおッ!!!』
バックベアードは正面から受け止めた。
空間が裂け、標識も車も飲み込まれて消えていく。次の瞬間、その裂け目から彼の拳が現れ、紫の顔面を真正面から撃ち抜いた。
「――っ!」
鈍い音。
紫の身体が弾丸のように地面へ叩きつけられ、石畳が粉砕される。紫は歯を食いしばって立ち上がった。
「……動け…動け……動け!!」
再び隙間を開く。
今度は紫の背後に広がるのは都市の摩天楼。ビル群そのものを横倒しにして、巨大な質量の壁として押し付ける。
「……潰れなさい!!」
摩天楼が空を裂き、バックベアードを押し潰さんと迫る。
『面白いっ!!』
全身を黒い闇で覆い、その腕でビルの壁を受け止める。裂け目が開き、ビルは虚空に呑み込まれた。
『どうした紫!もう終わりか?幻想郷の賢者が、この程度か!』
「!」
ベアードが紫を吹き飛ばす。
拳が振り下ろされ、膝蹴りが突き上げ、紫の肉体を嬲り尽くす。防御も反撃も、もはや形にならない。
(痛いなあ……。こんなにボコボコにされたのは子どもの頃以来かも。覚悟しているとはいえ辛いなぁ)
殴られながら、紫は不思議と冷静だった。
(ベアードとの相打ち。もしくは痛手を負わせて、ここから追い出すこと。手負状態のベアードなら藍や他の者たちで確実に倒せる)
走馬灯とでもいうべきか。
不思議なことに霊夢との思い出が浮かんでくる。
(……そしてベアードは傷が治り次第、きっと魔女たちを獲りに来る。今度は軍団なんかを連れて。奴が再び来るまでの間に霊夢を強くするための時間を取る。それこそが私の思いついた
『!!』
バックベアードの拳が止まる。
いや、受け止められた。離れようにも離れられない。
「私が先に倒れちゃ意味ないでしょうがァァーーッ!!」
『何を……はっ!?』
足元に円陣が広がる。
無数の隙間が一斉に開き、そこから光が溢れ出す。紫の周囲を取り巻くように、無限の符と弾幕が美しく展開した。
「奥義……『超弾幕結界』ッ!!」
色とりどりの光弾が舞い上がり、夜空を覆い尽くす。それはまるで幻想郷そのものの輝き。無限に湧き出す光の檻が、バックベアードを完全に包囲する。
『これが……八雲紫の力……!おおおおおお──』
光の奔流が集中し、巨体を焼き尽くす。
「!!」
『ふははははっ、耐えたっ、耐えたぞ!!』
煙の中からバックベアードが笑いながら現れた。
全身傷だらけ。再生もできていないほどに痛手を負い、黒い血が至る所から流れている。だがそれでも奴は笑っていた。
『チェックメイトだ』
身体に限界が来た紫はもう立つことはできない。溜まりに溜まった疲労とこの戦いによるダメージが紫の身体を止めた。
「──あ」
足元の空間が裂けた。
目玉の形の裂け目は紫の足元にまで広がり、彼女をゴクンと呑み込む。
「闇……」
目の前に広がるのは無限の闇。
バックベアードが生きる無限の闇の世界であり、彼の異空間でもある。その領域の中心に紫は立っていた。
『【
闇に浮かぶ巨大な人型“バックベアードの影”。その手足は山よりも大きく、四方八方から迫り来る。
「……!」
紫は必死に隙間を開き、別の空間に逃げようとする。
だが無駄だ。
逃げた先にも闇があった。そして気づけば目の前に超巨大な拳が近づいてくる。一撃、二撃、三撃、紫の身体は次々と殴りつけられ、骨が砕け、血飛沫が舞った。
「がっ……あぁぁッ!」
それでも、彼女は諦めなかった。
最後の力を振り絞り、再び弾幕を展開する。無限の光を放つ。
(霊夢。酷いこと言ってごめんね。大好きよ──)
『死ね、八雲紫──』
弾幕と闇の拳が衝突した。
世界そのものが震え、異空間がひび割れ、崩壊していく。紫の光は確かにベアードを貫いた。だが、ベアードの影の巨腕は止まらなかった。最後の一撃が振り下ろされ、紫の小さな身体を押し潰す。崩れ落ちる闇の中、紫の弾幕は儚く消えていった。
「な、なんだぁ……?急に2人が消えたぞ」
博麗神社に戻った。
だが不気味な静かだけが2人を待っているだけだった。
「身体が動く…っ」
「お、おい!?」
ねずみ男の背中から降りる霊夢。
辺りを見渡すが、あるのは瓦礫とボロボロな神社だけだ。
すると──
「あ、ああ……っ!?」
「・・・!」
『動けるのか。まぁ、私もここまでダメージを受けた。我が眼力も持続できぬよな』
目の前の空間が割れて、中からバックベアードが現れる。そしてバックベアードは霊夢に向かって何かを投げつけた。ポイっと、まるでゴミ捨て場にゴミを捨てるかのように。
「紫…っ」
『私の勝ちだ』
紫が血に染まった地面に倒れ込む。
その姿を見た瞬間、霊夢の胸の奥で何かが爆ぜた。
「──!!」
霊夢は叫びながら駆け出した。
結界も符も使わない。そんなものよりも、ただ拳でぶん殴りたかった。跳躍。拳を握りしめ、全体重を乗せてベアードの顔面へ叩き込む──
『紫よりも弱いお前に何ができる?』
黒き巨躯は微動だにせず、その手で霊夢の拳を片手で掴み取った。衝撃で骨がきしむ。霊夢は歯を食いしばり、足を振り上げて顎を狙う。だが、それすらも腕一本でいなされる。
『雑魚が。今の私なら勝てると思ったのか?』
ベアードの膝蹴りが霊夢の腹を抉った。
「がっ……!」
内臓が潰れるかのような衝撃に、霊夢の口から血が飛び散る。体が宙に浮き、空気を求めて痙攣しながら神社の床に叩きつけられた。瓦が割れ、柱が軋む。霊夢は這い上がろうと必死に指先で地面を掴むが、腕に力が入らない。
「……う……ぐっ……!」
ベアードはその様子を見下ろし、目尻を歪めて笑う。
『これが帝王の力だ』
闇に濡れた声が幻想郷全体に響く。
その重圧は空気を震わせた。
『……はは、ふははははっ!!ははは──ごふっ!?!?』
しかし、ベアードも無事ではなかった。
気づけば身体中にヒビが走り、血液が噴き出し、そして立ってはいられなくなった。膝をつき、頭を抱える。
『
バックベアードはただ1人、震えるねずみ男に言う。
『おい』
「は、はひっ!?」
『
「ひぃいいっ!!・・・あ、れ。行ったのか?」
生きた心地がしなかったねずみ男は安堵し、そして辺りを見渡した。
「霊夢ちゃん、紫……っ!!」
霊夢──敗北
紫──ベアードと相打ち
紫の策の通り、犠牲者を出さずにベアードを追い出すことに成功するのだった。だが所詮はその場しのぎ。時間を稼いだに過ぎない。
ありがとうございました。
バックベアード。
めちゃくちゃに強くしました。なぜ目を見て、大丈夫な人とダメな人がいるのか、初めは普通だったのに後から硬直するのか、それは今後明かされます。能力はまだ明かさないということで。
そしてずっと悩みだった八雲紫の退場の仕方。
とにかく彼女は最強。ぬらりひょんがどんな刺客を連れてきても彼女がいたら指パッチンで全て解決しちゃう。そうなるとどんなに強い妖怪揃えてもダメよなあと悩んだ結果、前々から書いていた紫の冬眠特性を活かすことができました。
鬼太郎があんなに寝てるんだから、妖怪にとって睡眠は大事(水木先生もおっしゃってましたしな)
紫は不眠不休で既にボロボロになってもらって、ベアードにしっかりとやられてもらったのでこれで幻想郷サイドとゲゲゲサイドをいいバランスにしたかなと。
さて、紫は死んでしまったのか?
霊夢はどう言う判断をするのか?
ねずみ男はこの状況をどうするのか!?
次回もよろしくお願いします