皆さんはアウトドアタイプでしょうか?
それともインドア?
私はインドアです。
人と関わらずに、家の中でテレビとかYouTube見てる時が幸せだなって感じます。
「あー、酷い目にあった…。変な薬打ち込まれて変色したり、稼いだ金も返されちゃったし。何で俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだろうナァ」
お仕置き終了後、ねずみ男はヘトヘトになりながら家に向かっていた。永遠亭、迷いの竹林から何とか抜け出して、いまの今まで必死に逃げてきたのだ。グゥグゥ鳴るお腹を抑えて、下を向きながら歩く。
「腹減ったよぉ〜……。あぁ悲しいかな。何の運命で今日も残飯なのか。偶には、高級牛肉弁当を腹一杯に食いてえなあ」
「ならば私がご馳走しようか?」
「だ、誰でい!?」
何処からともなく女性の声がする。パッと振り向くが、誰もいない。また何か問題に巻き込まれてしまったのだろうかと震えていると、“こっちこっち”とまた背中の方から声がして、更にはツンと触られた。
ねずみ男は小さく悲鳴をあげて、辺りを見渡すと、そこには『九つの尾を持つ短髪の女性』が立っていた。
「
「ひ、久しぶり…?い、いや俺たちは初対面っすよ?もし会ってたら、貴女のように美しいお姉様を忘れるわけがありませんですし」
「・・・え?私のこと覚えてないの?」
「うす」
「この幻想郷の創始者である八雲紫さまの従者の八雲
「全く」
「──ぐすん」
「ファッ!?」
突然美女が現れ、知らないと言われて泣かれる。
突然のイベントの連続にねずみ男の頭はしっちゃかめっちゃか。思考が停止しかけていた。
「霊夢から“ねずみ男”という半妖が幻想郷に迷い込んだと聞いて、とても嬉しかったのに…私のこと覚えてないなんて……ぐすん。嗚呼、あの時に紫様が記憶を弄ったのだろうか…」
「ま、待ってくれよ。アンタは俺の何なんだよ!?俺の何を知ってるんだよ!」
「・・・お前は自分の幼少期を覚えているか?」
「幼少期?」
それは遠い自分自身の過去。
しかし、何故だろうか。自分の幼い過去の記憶に霞がかかっている。どうやって大人になるまで生き延びてきたのか、何を経験してきたのか、思い出せない。覚えているのは、
「何も覚えてねえし、思い出したくもねえよ…」
「そうか。それは悪いことをした。申し訳ない。・・・だが、これは忘れないでくれ。
一瞬、悲しそうな顔をしてから彼女の背後に亀裂が走る。そしてゆっくりとその謎の空間に入り、消えて行った。
「な、何だったんだ。・・・っておい!飯奢ってくれるんじゃねえのかよ!!おーい!戻ってこーい!!」
叫び声が闇の中に響き渡る。
ただただ自分の声が吸い込まれていくのを聞いて、大きなため息をついた。
「ダメだ。叫んでたら腹が減る。と、とにかく、里に帰らなきゃ…」
ねずみ男の胃がグゥグゥからギューゴロゴロと大きな音になっていき、食べ物を求める欲望が彼の体を支配していた。しかし、長い仕置きの疲れがねずみ男の意識を朦朧とさせ、里の前まで進むことが難しくなった。
「あ、れ・・・」
気づけば、迷子になり、見知らぬ道を彷徨っていた。目の前には博麗神社に酷似した苔むす石階段が続いている。そこに立った瞬間、不思議な静寂が彼を包み込んでいく。まるで神秘的な場所に迷い込んだかのようだった。
「あっ、も、もうダメだ…。げ、限界……っ」
ねずみ男は遂に力尽く。
ばたりと崩れ落ち倒れ、意識を失った。
「──えっ!?行き倒れ!?」
※※
「ん・・・いい匂い」
鼻腔をくすぐる味噌汁の匂い。
ねずみ男は、ゆっくりと目を覚ました。知らない天井だった。最後に見た光景は訳のわからない山道だったはずなのに、今は布団の上にいる。とりあえず匂いのする方は歩き出した。
「ふふーんふーん♪」
寝室を出ると、台所に着いた。
そこでは鍋の中でオタマをくるくると回していた。その隣では釜がグツグツと音を立てており、更には焼き魚も見えた。
だがそれよりも・・・エプロン姿の女子に、ねずみ男は心奪われていたのだ。
「良い…」
ポツリと呟く。
その声に反応して、エプロン姿の女子がこちらを向いた。髪の毛は緑色、蛇の形の髪留めをつけた可愛らしい女の子だ。
「あっ、起きましたね」
「ええと…、これ夢っすか?」
「あはは、夢じゃありませんよ。ええと……貴方はこの神社の前で倒れていたんです。それでほっとけなくて、助けたんです」
「そうなんすか!いやぁ、お恥ずかしい限りで!かれこれ3日くらい生ゴミしか食べてなかったんで」
「な、生ゴミぃ!?…それはそれは壮絶な人生を歩んでいらしたんですね。色々聞きたいですが、とりあえずご飯にしましょ!腹が減っては何とやら、です!」
「マジ!?やったーー!久しぶりのご飯だぁ」
部屋の真ん中にちゃぶ台が置いてある。
その上に彼女の分と、ねずみ男の分と、そしてあと2人誰かの分の食事が置かれていた。ねずみ男は丼が置かれた場所に座る。
「他に家族が?」
「ええ。今呼んできますので、みんな揃ってから一緒に“いただきます”しましょ!」
「はい!!でへへへ」
「神奈子さまー!諏訪子さまー!朝餉の時間ですよー!」
どちらも女性の名前。
遠くの方からこの部屋まで足音が向かってくる。段々とこの部屋に近づくに連れて、ねずみ男の全身に電気が走るかのように、ピリピリとした感覚が広がってくる。
「わーい!ご飯だ、ご飯!」
「いつもありがとね、早苗」
座っていたねずみ男は反射的に立ち上がる。
一瞬で全身から汗が吹き出した。ねずみ男はこの感覚は知っていた。かつて『牛鬼』という妖怪を倒してもらうために顕現した『
「この気配っ、まさか・・・“神”っっっ!?!?」
「「そうだけど?」」
ここは『守矢神社』。
妖怪の山の頂上にある
ねずみ男は里に向かおうとして、いつしかこの道に迷い込んでしまったのだ。
「・・・」
「あれぇ?んぐ……箸が進んでないんじゃないノ?」
「こんなに美味しいのに?」
「そうですよ。私、結構料理には自信があるんですよ?ええと・・・」
「あっ、お、私は“ビビビのねずみ男”です、はい。数日前にこの世界にやってきました」
「外来人だったんですね。ではこちらも自己紹介を!」
ねずみ男が名乗ったのを皮切りに、お互いに自己紹介を始める。
「私はこの守矢神社の巫女!『
「どうも」
「よろしくー。信仰してくれたら子孫繁栄、家内安全、五穀豊穣は約束するよ」
八坂神奈子と呼ばれる神は、髪の色は青紫。頭と背中には注連縄が巻かれていた。そしてもう1人の洩矢諏訪子と呼ばれる小さな神はカエルをあしらった帽子を被っている姿をしていた。
「私たちも元々は外の世界の出身者なんですよ!仲間ですね!」
「えっ!アンタらも俺と同じで無理やり?」
「いえ、私たちは望んでここに来ました」
「望んで?そりゃまたどんな理由で?」
一瞬時が止まった。
明るい空気が重くなった。ねずみ男は何かまずい事を言ったのかと思ったが、その空気を早苗は振り払う。
「それは〜……ひみつ、なんて。あはは」
早苗は笑っていた。そして何か話したくない様子だった。
教えてよん、と追求したかったが、二神がいる前で出来ないと思い、自重する。少し重くなった空気を変えるために神奈子がごほんと咳払いをする。
「そんな事よりも早く食べちゃいましょう。折角、早苗が作ってくれたんだから」
「そーだよ、ねずみ男」
「はい!あぐっ…うっ、うめぇえーーーっ!!!?」
※※
「ふぃ〜食った食った…。幸せ〜、ご馳走様ぁ」
「お粗末さまでした」
食事が終わった。
男の人がいるからと早苗は8合くらい炊いたのだが、ねずみ男は久しぶりの温かい食事に感動し、お代わりをたくさんして完食してしまったのだ。流石の神様たちも目を丸くするが良い食べっぷりだと笑った。腹がパンパンに膨れ上がった彼は縁側で横になる。
「お口に合いました?」
「もう最高よん。毎日食べたいくらい…げぷぅ」
「なら良かった」
せっせと片付けを始める早苗。
それを見て、歳に似合わず立派だと感心する。大体高校生くらいだろうか。それにしても彼女は何故ここに来たのだろうか。外の世界には友人や家族を置いてきたのだろうか。
「・・・気になりますか?」
「え?」
「私が何故ここに来たのか、気になるんでしょ?顔に書いてありますよ」
「ば、バレた?」
「ふふっ、ねずみ男さんって正直なんですね」
洗い物を始めながら、早苗は笑う。
二神たちは部屋の奥に行ってしまったので、今なら聞けるだろうか?とねずみ男は悩んでいたのだが、予想外にも早苗自身が語り始めた。
「実は私──『すみません』」
早苗が語りかけた時、その言葉を遮るものが現れた。
2人が振り向くと、外には杖をついた老人が立っていた。早苗を見て、ぺこりと頭を下げる。
「続きはまた今度ですね」
「そうだな」
「コホン………はーい!何でしょう!もしかしてご入信ですか?」
「いえ。守矢神社の巫女様にお願いがあってまいりました。…“生贄”を止めて頂きたいのです」
「「生贄・・・!?」」
※※
老人の名は『花村 武敏』。
人間の里で古くから続いてきた酒屋の40代当主である。幻想郷で酒を扱う店はとても少なく、人間たち、特に大人の娯楽の一つである酒を売っていることからとても繁盛していた一族であった。
「それで花村さん。生贄とは、具体的に…」
「はい。先日の事です。・・・」
花村武敏はあの出来事をポツリポツリと語り始めた。その語る顔はとても怯えていた。
『──いつものように私たち家族が店を開こうとすると、家の前に小さな小さな毛玉のような妖怪が立っておりました。その妖怪は、家の中に入ると我々にこう言ったのです。
【俺は
私どもは勿論、反論しました。訳がわからないのですから。しかし毛目玉という妖怪は当然だと言うように、また言いました。
【知らないのか?この酒屋は、“かみさま”の力でここまで繁栄してきたのだ。ここの1代目当主『花村喜一郎』とかみさまが約束し、毎年夏に『髪の毛神社』にお供え物をする条件で繁栄させた。それなのに、いつしか約束が忘れられ、お供え物が来ない。だからこそ、今年は必ず頂くのだ。娘をなぁ・・・】
私どもは大変驚きました。そんな約束聞いたことがなかったからです。きっと先代たちも伝えられてこなかったのでしょう。そのツケが回って来たのです。ですが、はいそうですか、と了承なんかしたくない。大切な孫娘を神になど捧げたくないのです。だからこそ、ここを頼らせていただきました』
因みにだが、ここを選んだ理由としては安全に来れるからである。博麗神社に頼っても良いが、守矢神社と違って襲われる可能性が高く、死んでしまうのでこっちにしたのだ。
「何だか今日は、『神』の話ばっかりだなァ」
「それにしても生贄…。よほど古い神様なのかな」
ねずみ男はあまり興味がなさそうだった。
早苗の隣で鼻をほじり始める。
「けど悪いのはアンタら一族だろ?約束破った先祖の罪は、今生きるアンタらの罪ってもんだ。知らぬ存ぜぬは意味ないだろうし、ここは黙って娘を差し出すんだな」
「うぅっ、そんなこと言わないで!お願いです、どうか助けてください!
「もーちょい、今の所詳しく聞こうじゃないノ!」
「ねずみ男さん!」
早苗が、ねずみ男の髭を引っ張る。
痛い痛いと抵抗した。
「だってよ、くれるって言うんだぜ。金はあっても困らねえだろう」
「人の弱みにつけ込むのは巫女として許しません。それにこの話は、私に来たんですから、ねずみ男さんは外に出ててくださいね!ほらほら」
「えっ、ちょっ!?」
確かにねずみ男はここでは部外者。
ねずみ男はポイと追い出される。ねずみ男は舌打ちをして出て行こうとするが、実はこっそりと裏手に回って2人の話を聞いていた。
「それで、その毛目玉は他に何か言ってませんでした?」
「ええと…、妖怪の山の顔面岩から来たとも言っておりました」
「顔面岩。確か、顔の形をした大きな岩があって……ちょうど口の部分が洞窟になってる場所。中に入ったことはなかったな……」
ねずみ男はニヤリと笑う。
命の恩人である早苗には悪いが、金が絡むなら話は別だ。その顔面岩に先回りして問題を解決してやろうと思いついた。
「神様だか何だか知らねえけど……、神主の毛目玉ってやつは小さいんだろ。俺でも倒せそうだな。ケケケケ」
ねずみ男はさっさと出て行った。
一方で、早苗と花村との会話に諏訪子と神奈子が参加する。2人の顔は何だか怪訝そうな顔であった。
「どうしました?」
「悪い。立ち聞きしちゃってさ」
「それでちょっとね」
そう言って2人は座る。
花村はその威厳に汗を流した。そりゃあ本物の神が目の前にいるのだから、恐れない方がおかしい。
「生贄ってのが納得いかなくてね」
「確かに、神的には手っ取り早く信仰と畏れを集めるには丁度良いかも知れないけど……ここは幻想郷だよ。生贄なんてしなくても信仰は集められるじゃん。だから私たちは幻想郷に来たんだしね」
「そう、ですね」
全てを受け入れるからこそ、信仰を集めるのに最も適している幻想郷に移住してきた。移住して信仰を集め、神を存在させる。早苗たちは全てを投げ捨てて、やって来たのだ。
「それなのにわざわざ生贄を選ぶ。・・・本当に神なのか?そいつは」
「もしくは……悪神だったりして!私が言えたことじゃないけどね♪」ケロケロ
「えっ?」
「こっちの話だよ、花村くん。・・・それよりも、マジで悪神ならさ。早苗……アンタじゃ勝てない。神は人間に倒せない」
「・・・っ」
「そう暗い顔しない!大丈夫!アタシが一緒に着いてくから」
そう言って、早苗の膝の上に向き合うように座る。
そして優しく抱きしめた。
「大丈夫…、早苗は絶対に私たちが守るからね」
「神社の方は私に任せな。諏訪子頼んだよ」
「あーい、お任せあれ」
※※
「ちゅーちゅーちゅー」
ねずみ男は、ゴミ捨て場にいるドブネズミたちを総動員させ、顔面岩の場所を探させる。これが彼の能力の一つである『ネズミとの会話』である。因みに鬼太郎はカラスや虫などと話せるのだ。
「なるほど。ここが顔面岩か。確かに人間の顔だわな。どれ、中に入ってみましょうかネ」
『おい、この先に何か用か?』
足元で声がする。
ねずみ男が下を見ると、そこには目玉の親父に毛を生やしたような妖怪が立っていた。
「お前が毛目玉ってやつか」
『俺を知ってるのか? まぁいい。ここから先は神聖な場所なんだ。お参り以外なら出て行けよ』
「ふんっ、悪いが俺は無神論者なんでね。それよりも俺様はお前を倒しに来たんだよ」
『何だと!?』
ねずみ男はニヤリと笑い、裾を持ち上げる。
ブラリンと自分のナニを毛目玉に向けた。ジョボボボと豪快に音を立てる。
「喰らえっ」
『ひゃあっ!?』
ねずみ男は、毛目玉に発射した。
体の小さな毛目玉は、流されかけてしまう。近くの草に掴まり、何とか危機から脱出する。
「ほれほれ、キキキキ…。これで謝礼は俺のもんだ」
『や、うげぇっ!?やめっ、やめてくれぇ〜!?
「すごい秘密?」
ねずみ男はぴくりと反応する。ちゃんと話を聞くために発射をやめた。毛目玉は近くにあった葉っぱで体を拭くと、ねずみ男に土下座をする。
『じ、実はこの洞窟の奥には、“髪の毛神社”がありまして……。そこに売れば一億円もする鏡があるのです!!どうでしょう?その鏡を差し上げますから……許してくださりませんか?』
「一億円っ!?」フハッ
フハッと鼻息荒くする。
即座に脳内で計算を始めた。わざわざ危険な目にあって謝礼を貰うよりも、売れば一億円もする鏡がある。楽して儲けるのがモットーの彼はすぐに考えを切り替えた。
「・・・よしよし、案内しろ。毛目玉くん」
『はい!こちらです』
「中は意外と広いんだなぁ…」
顔面岩の口のトンネルの中。
その先には小さな社があった。そして社の中央には、確かに高価そうな鏡が鎮座していた。
『これです!これが宝の鏡なんです!』
「よしよし。本当だったようだな。どれ、俺はこれを売りに行くからな。あとは生贄でも何でも勝手にしてなさいよ。へへへ…」
ねずみ男は鏡に手を伸ばす。
その瞬間!!
鏡の中から長い髪の毛が伸びていき、ねずみ男の手に絡みついた。そしてそのまま鏡の中に引っ張っていく。
「ゲゲゲェェッ!?何だってんだよォッ!あぁっ、吸い込まれるっ、助けて!助けてェーーーッッ……・・・」
スポンと、ねずみ男は鏡の中に吸い込まれていった。
鏡の周りが鈍く光る。
そして光った直後に、今度は鏡の中から『髪の毛の塊』が飛び出して来た。例えるなら長髪のカツラである。そして髪の毛の中に目玉が一つだけ存在していた。
『何だ今のは……!?妖力が殆どないカスだったぞ!?』
その髪の毛の塊は、毛目玉にギョロリと単眼を向ける。
毛目玉は小さな体をガタガタと震わした。
『毛目玉!貴様、適当なものを儂に喰わせたのか!?』
『ち、違います!少しでも貴方様の力になればと思いまして…!けど直ぐに生贄を用意させますから!』
『ヌゥウウウ……!!言い訳なんぞ許さんぞォッ!!』
『お許しを!どうかぁっ!!』
『カァアァァァッ!!』
──バヂィィィイィィィーーーッッ!!!!
目玉から電気が発射。
毛目玉に直撃し、その衝撃が全身を痺れさせた。全身に火傷を負い、抵抗できずに辛苦の悲鳴をあげる。
『ぎゃあああっ!?』
『フゥッ、フゥッ……。それにしても今の小汚い男…、“生贄”の事を知っていたな。 花村のやつ、密告したな。儂の事をバラしたなァァァ……。目に物見せてやる』
毛目玉は這いつくばりながら、目の前の神に手を伸ばす。
涙を流していた。痛みからの涙か?悔しさ?それとも憐れみ、悲しみ?何の理由かはわからないが涙を流していたのだ。
『行ってはなりませんっ、かみさま…。生贄を待つべきです!……今出てはお身体が…身体が壊れてしまいます!!』
『黙れ!!神に意見するな!』
髪の毛を伸ばし、転がる毛目玉を締め付ける。
ググッと首を絞めた。
『ぐぅっ、ぐるじい…』
『儂は神だぞ。神を敬わぬ者には罰を…、罰をォッ!!』
『ぐえっ』
毛目玉を投げ捨てて、髪の毛の塊はふわりと空へ飛ぶ。
そして里に向かって飛んで行った。
※
少し経ったタイミングで、顔面岩の洞窟に早苗が入って来た。彼女の肩にはカエルが乗っていた。
「やっぱり神社の外に出ると、力を失っちゃうんですね」
「ケロケロ。でも可愛いケロ?」
「諏訪子さまはオタマジャクシになっても可愛いですよ。……そろそろですね」
「ケロ」
「あれって……?」
洞窟の先には、ボロボロになった小さな社があった。
そこには鏡と、全身に火傷を負った小さな妖怪が転がっていた。早苗は直ぐに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「早苗、罠かもしれないケロ!こいつが、花村が言ってた“毛目玉”ってやつかもケロ」
「それでもです!人間も妖怪も、目の前で苦しんでいたら助けると決めてます!!」
直ぐに回復効果のある護符を取り出す。
応急処置のために作った物だが効果は本物だ。貼り付けると、毛目玉の火傷が治ってくる。完治までとはいかないが、グジュグジュと焼け爛れた皮膚に薄い膜が張られていく。
『うっ、うぅっ…』
「大丈夫ですか?喋れますか?」
『うぐぅっ』
一瞬だけ目を覚まし、また寝た。
早苗は手のひらに乗せた。
「直ぐにウチに運ばなきゃ」
「早苗!これを見るケロ!」
諏訪子カエルの指差す先には、鏡があった。
中を覗くと『ねずみ男』がいた。声は聞こえないが、何か叫んでいるようだった。
「ねずみ男さん!?何でここに!」
「とりあえず、この鏡も持っていくケロ」
「はい!」
※※
守矢神社。
毛目玉は布団の中で眠っている。全身にたっぷりの火傷治しの薬を塗ってあるので、治るのは時間の問題だろう。
一方で、神奈子と諏訪子は鏡の前で格闘していた。神力を発動させると、ガタガタと鏡が揺れ始めた。
「くぅっ、手強いな。これ」
「まぁ、
「でも」
「私らに突破できない壁は」
「「ない!!」」
その鏡から、ねずみ男が飛び出した。
ねずみ男は少し痩せており、生気が吸われてしまったのだろう。
「し、死ぬかと思った……って、ひぃっ!?神様ぁっ」
「何したんだよ、こんなところに閉じ込められるなんて」
「えっ、俺は、そうだ!歩いてたら、そこにいる毛目玉に騙されて閉じ込められたんだ!野郎!叩き起こしてやる!!」
「待て待て。アイツは重要参考人ってやつだ」
ねずみ男が騒いだ。
すると毛目玉の体はぴくりと動き、ゆっくりと目を覚ます。
『ん……』
「起きました?」
『お、お前は?』
「私は、この守矢神社の巫女の早苗と申します。そしてあそこに居られますのが、この神社の祭神の諏訪子さまと加奈子さまです」
早苗が紹介すると、2人は毛目玉に手を振った。
段々と意識がはっきりして来て、毛目玉は自分の状況を察する。自分は手当てしてもらい、ここまで運んでもらったのだ。
『助けてくれたのか。ありがとう早苗殿。そして神様方』
「おい!俺に挨拶と謝罪はどうしたんだよ!このペテン師目玉!」
『お前は…俺にションベンをかけた守銭奴!俺を退治して謝礼はもらったのか!』
「「「えっ?」」」
「ばかっ!黙って──」
「結局、自業自得かい!それに勝手に早苗の依頼を取ろうなんて!ちょっとそこに座りな!拳骨喰らわしてやる!」
「ひぃっ!?」
神奈子に拳骨を落とされる。
ボコンと殴られ、頭に大きなタンコブをつける。まぁ悪いのは彼なので、全ては自業自得。
「キュゥ…」
「それで本題に戻ろうか。早苗、頼むよ」
「はい。……毛目玉さん、教えてください。生贄のことを、花村さんの一族のことも」
『そ、それは出来ない…』
毛目玉は、布団から出ると頭を下げる。
近くにあった茶碗と同じ大きさであるが、土下座の形になると余計に小さく見える。
『助けてくれたのは感謝するが、かみさまを…裏切るわけにはいかない……っ』
「そう思うという事は…、貴方は、崇める神の行いは間違っていると自覚しているんですね」
『──だ、だが、かみさまの気持ちを考えればっ』
「なるほどな。生贄を求める理由はそういうことか」
隣で聞いていた神奈子と諏訪子。
何か思うところがあるのだろう。
「その神様は…信仰がなくなったんだね」
『!!』
「その反応、図星か」
指摘されて、毛目玉はもう言い逃れできなくなった。観念したのか、毛目玉はどうしてこうなってしまったのか経緯を話し始める。
『かみさまは…、元々はあの洞窟の土着神だった。まぁ……信仰する者は殆ど居ない。元々信者だった俺は…廃れる神を悲しみ、神主を始めたんだ』
土着神。
その土地で強い存在を放つ自然物、例えば岩や大木、湖といった物に宿る神である。
元々はただの自然物であっても、人々が敬い、信仰する事で、それは神聖な物となる。皆様も見た事はないだろうか?家の周辺や近くの山、旅行先などで注連縄が巻かれた物を。それを土着神と呼ぶ。
そして昔から言われているのは、土着神は、必ず『〜さま』をつけなければならない。敬い、畏れ、尊敬しなければ必ず祟られる。
『そこに花村喜一郎が現れた。……彼は社と、御神体の鏡を用意し、一族が毎年食べ物や酒を捧げ、敬い続ける事を条件に子孫繁栄と商売繁盛を契約をしたんだ。かみさまは……その条件を飲み、願いを叶えた』
『だが、それは初めのうちだけだった。時が経つにつれて……花村家は来なくなった。だが、かみさまはきっと来ると信じて力を使い続けた結果、段々と弱ったのだ』
『信仰を失った神が・・・、どうなるのか知っているか!?消えるか、堕ちて妖怪になるんだ!!』
「・・・」
毛目玉は泣いていた。
涙がボロボロと落ちて、足元に水溜りができていく。何度も何度も頭を掻きむしり、目玉が充血していった。
『俺は必死に…、必死に……考えた。信仰を取り戻す方法を考えて、考えて考えて……閃いたんだよ』
「それが……生贄」
『人間の恐怖こそが、何よりも手っ取り早く恐怖を手に入れる方法。昔からの畏敬の念を集める手段。……俺が、かみさまにそれを提案したんだ』
「でも分かってるのかい?神主として生贄を与える行為の意味を…」
『知ってるよ。でもなぁ……、かみさまを救う為なら…、ずっと一緒にいた
「・・・!」
早苗は、毛目玉を見て唇を噛むと同時に考える。
ああ。
私と彼は同じなんだ。──これは私の過去そのものなんだ、と。
それでも、同情してはいけない。
生贄も確かに考えたことはあるが、それをしない為に幻想郷にやって来たんだから。私たちは間違っていないと証明しないといけないのだから。
「それでも……、私はあなたの“神様”を倒します。毛目玉さん。貴方だって見たくないでしょう。家族が…誰かを傷つけて暴れる姿は……」
『・・・!』
毛目玉は、やめてくれと言わなかった。
きっと彼も願っていたのだ。
【お前は間違っているんだ】と注意して、自分の行いを止めてくれるのを。
そんな時だ。
息を切らしながら、階段をかけてくる音がした。体が弱っているのに老骨に鞭打って花村武敏がやってきた。
「たっ、大変です!!髪が…っ、髪がぁ〜〜っ!!」
「髪?」
花村武敏に起きた異変。
彼の髪の毛が無かった。やって来た時には綺麗な白髪があったというのに、今ではツンツルテンになっていた。
「あらぁ〜っ、ハゲてるぜ。綺麗によ」
ねずみ男の指摘通り。
彼は毛根から全てを奪われていたのだ。
「里の人間たちのっ!
今回の妖怪(ゲスト)はだーれだ?
ヒントは、“髪の毛” “神様と妖怪の中間”です!
今回のストーリーは、怪物になったAのために、その家族が人間を与えるみたいな感じです。
みんなも好きな人が大変な目にあったら?誰かを犠牲にしてでも助けたいですか?