今回のゲスト妖怪はリクエストです。
下さってありがとうございます!!
仕事もほぼ終わり!
これからはどんどん投稿できます。リクエストある方はメッセージでよろしくお願いします!
輝夜と星太は、にとりのいる川辺から里へと戻ってきたところだった。
「さて、と」
輝夜は手を腰に当て、ぐるりと里を見回す。
「材料探しね」
星太は少し緊張した顔で頷いた。
「にとりさん、グラスと筒、そして虫眼鏡が必要って言ってましたよね」
「ええ。まずはグラスね。普通のものでいいなら永遠亭とか、少年の家から持ってくればいいけど……それじゃあ面白みがない。唯一のものを作るんだからオリジナルに溢れたものじゃないと」
「輝夜さんって、なんというか……意外と冒険好きですよね。お姫様っていうから面倒ごとは嫌いな感じしていたんですが」
「お姫様なんて肩書きは無理やりつけられたのよ。本当は私自身で五つの宝を見つけたり、野山を走り回ったりしたかった。部屋に閉じこもって習い事ばかりなんてつまらなかった。RPGの主人公には憧れたものよ」
「あーる、何ちゃらは分からないですけど……、とにかく楽とかは好きじゃないんですね」
「そういうこと。長生きすると余計にそう考えちゃうのよね。暇こそが唯一の毒よ。苦労してる時が生きているって感じるわ」
輝夜は腕を組み、しばらく考えた。幻想郷には科学技術の資料は少ない。だが物そのものが無いわけではない。
「あっ、あそこなら……」
二人は里の通りを歩き始め、さらに歩みを進めた。干し柿の並ぶ軒先、薪を割る音、行き交う人々。冬の里はのんびりとした空気に包まれている。目的地は、小さな古道具屋──香霖堂だった。この店は外から流れ着いた幻想郷には存在しないものが売ってある。
「いらっしゃい…。おや、珍しいお客さんだ。何をお探しで?」
霖之助は輝夜の顔を見て、驚いた顔をする。
輝夜は挨拶を返してから尋ねる。
「ガラス製のグラスを探しているの。それもちょっと普通なのは嫌」
「うーむ、流石はかぐや姫。流石の無理難題。そこの辺りはどうかな?」
古い食器や壺が並んでいる。
輝夜は棚を覗き込み、やがて一つの物を取り上げた。
「これ」
透明なガラスのグラスだった。
光を透かすと、歪みはあるがしっかりとした厚みがある。キラキラとした光に少し感動した。
「これ、レンズになりますか?」
星太が不安そうに聞く。
「いいかもね!これでまず一つゲットよ」
「お目当てのものが見つかって良かったよ」
霖之助に安く譲ってもらう。
星太は嬉しそうにそれを布で包んだ。
「次は筒ね」
望遠鏡の本体となる部分だ。
しばらく歩き回り、今度は竹細工を扱う店を見つけた。壁に立てかけられているのは、細長い竹筒。水筒や笛に使うものらしい。輝夜は一本手に取り、軽く覗き込んだ。
「ちょうどいい長さ」
「ほんとだ」
星太も覗き込む。
筒は真っ直ぐで、中も滑らかだった。
「これなら中にレンズを固定できるわ」
二人はそれも購入した。
だが、もう一つ必要なものがあった。
「虫眼鏡……」
星太が呟く。
だがこれはなかなか見つからなかった。二人は里のあちこちを歩いた。別の古道具屋、雑貨屋。それでも見つからない。
「ガラスはあっても虫眼鏡は中々無いわよねぇ」
虫眼鏡を作るというのは現代では簡単だが、幻想郷では難しく、また作れる技術を持ったものも居ない。偶然流れ着くか、たまたま出来ちゃったか、そういったラッキーで幻想郷に数少なく存在するのだ。探し回っている間に太陽が少し傾き始めた頃だった。
「あっ」
星太が声を上げる。
寺子屋の近くの露店。子供向けの道具が並んでいる。そこにあったのは、小さな虫眼鏡。持ち手のついた簡単なものだが、ガラスはきれいだった。
「あった!」
星太は目を輝かせた。輝夜も覗き込み、頷く。
「十分使えるわ」
「へへへ、偶然見つけたんでさあ。どうですか、物を大きく見る手持ちガラス……。お安くしときますよ」
「買うわ」
「毎度〜」
こうして材料は揃った。ガラスのグラス。竹筒。虫眼鏡。三つを抱え、二人は再び山の方へ向かう。目的地は玄武の沢。河童たちが住む、にとりの作業場だ。川の音が聞こえてくると、金属を叩く音も混じってきた。
「にとりー」
輝夜が声をかける。
岩の向こうから、ひょこっと現れた。
「お、もう戻ってきたの?」
「材料集めてきたわ」
輝夜は布を広げる。
にとりはそれを見て、目を丸くした。
「へえ、ちゃんと揃えてきたじゃないか。虫眼鏡は苦労したでしょう。里で作れるのは見た事ないし」
ガラスのグラスを手に取り、光にかざす。
「歪みはあるけど問題ない。削ればレンズになる」
次に竹筒を持ち上げる。
「筒もいいね。軽くて丈夫」
そして虫眼鏡。
「接眼レンズも確保済み、と」
にとりは満足そうに笑った。
「よし、じゃあ作るよ」
作業台の上に材料が並べられる。
工具箱が開かれ、ノコギリ、やすり、金属のリングなどが出てくる。
「まずはレンズを整える」
にとりは星太にガラスを渡した。
「削るのはゆっくり。力を入れすぎない」
「はい……っ」
星太は真剣な顔でやすりを動かす。
シャリ、シャリ、とガラスを削る音。ちょっと力を入れすぎれば割れてしまい、入れなさすぎると削れない。この微妙な匙加減は中々に難しい。輝夜は横で竹筒の長さを測っている。
「望遠鏡って、こんなに手間がかかるのね」
「そりゃそうさ。何事も手間はかかる。だから大体の人は買って済ませるのさ」
しばらくして、レンズが形になった。
「よし、次」
にとりの指示のもと、星太はぐっぐっと力を込めて、竹筒の先に対物レンズを固定する。中に木のリングをはめ込み、レンズを動かないようにする。そのあと、虫眼鏡を反対側に取り付ける。
「これは接眼レンズ」
にとりが説明する。
「ここから覗く」
最後に、筒の一部を少し細くして、スライドできるように加工する。
「焦点調整だね」
星太は汗をぬぐいながら作業を続けた。
日がかなり傾き、川面が赤く染まる。最後のネジをカチッと締めた。竹筒とグラス、虫眼鏡だけで簡易的だがついに出来上がった。
「完成だ……!これぞ人間の叡智の一つ、“ガリレイ式望遠鏡”だよ!盟友!」
それは素朴な作りだった。所々ボロついて、ガタガタになっている部分もある。しかし自分の作った物だ。星太は恐る恐る覗いてみる。
「うわ……」
遠くの岩が、ぐっと近くに見えた。
「すごい……!」
輝夜も覗き、満足そうに笑う。
「成功ね」
星太は望遠鏡を抱きしめた。
「夜が楽しみです」
冬の星空を、これで観測できる。
二人はわくわくしていた。にとりはその喜ぶ姿に何故だか心がジーンと温かくなり、感動していた。
「分かるわかる……!私も初めてマジックアームを作った時、感動したっけなぁ。ロボットアームは外の世界ではもうとっくに発明されている物だけど、自分の手で1から作った時の感動は半端なかった……」
「へぇ、最初から何でも作れたわけじゃあないのね」
「そりゃあそうさ。初めからの天才はいない。だけどあれが私の発明家としての一歩だったな。いいかい、盟友・星太!」
「はい?」
「君は自分に自信がないようだけど1から自分の手で生み出すことができたんだ。人間は想像していることは大抵できるというのだから、これからは初めから諦めないで頑張るんだよ?いいね?」
「──はい!」
輝夜は星太の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「私が言おうと思ってたのに!まっ、そういう事だから頑張んなさいよ!」
その時だった。
「あっ、あいつです!……あの黒髪の!!」
突然の声に輝夜が振り向く。
そこにいたのは、以前にとりと組んで幻想郷にゲーム機をばら撒いた男──“ねずみ男”。だが、輝夜たち3人の視線は違う。ボロ切れ布を着たねずみ男ではなく、彼の後ろに立つ影を見て、空気が凍りついた。
『『魔女か。あれが魔女かぁぁぁ……!!』』
包帯に覆われた巨大な体。二つの頭。四つの目玉がゆっくりとこちらを見下ろしていた。
「めいゆ……、じゃなくて、ねずみ男!…それと、何だそのデカブツは!」
「にとりぃぃ…、俺もよく分かんねえよぉ。こいつが魔女を探せって脅すんだよ」
『『・・・ねずみ。今、脅されたとか言ったか?』』ギロリ
「めめめ、滅相にございません…!貴方様に仕えられる事こそが私の幸せ…!紫苑っ!おビールの準備ぃっ!!」
「ただいま〜〜!」
後ろからトテトテと紫苑がやってくる。
どこで見つけたのか、自分と同じサイズのジャッキグラスを背負ってやってくる。中にはキンキンに冷えたビールが注がれており、異形の王はそれを手に取った。
『『ンッ、ンッ、ンッ、〜〜〜プハァッ!!だろうだろう!我々に仕えられて幸せだろう。グハハハハハッ!!』』
「へへい」
『『ねずみ、椅子になれ』』
「へへいのへ──ふぐぅっ!?ふぎぎぎぎぃーーーっ!!」
四つん這いになったねずみ男の上にドカァっと座る。
そして異形の王は満足そうにゲップをすると、足を組んで輝夜を見つめる。
「か、輝夜さん…っ」
「大丈夫よ。私の後ろに」
「うん」
星太を背後に、そしてにとりに無理やり預けた。完成した望遠鏡は星太の胸の中である。
「それで何の用?」
『『我が名は──【双頭のミイラ】。バックベアード帝国軍、闇の恐怖直属
双頭のミイラ。
エジプトの妖怪であり、ファラオになれなかった男である。本人は自分の容姿が奇形だからファラオになれなかったと思い込んでいるが、ただ性格が悪く、人望が無いからだ、とは気づいていない。
「何言っているのか分からないけど、ここに魔女なんていないわよ」
『『なにぃ?』』
「あの子は人間の男の子、あの青髪は河童、そして私はただの女。魔女はここにはいない」
『『ねずみ、どういう事だァッ?』』
「ぎくぅっ!?」
ねずみ男は王の尻の下で震え上がる。
とにかく逃げたくて、適当な嘘をついた。とりあえず連れ歩いて出会った女を魔女扱いして、そいつを追いかけている間に自分は逃げ出そうと思ったのだ。
(やばいっ、やばいやばいっ、やばいぃぃ〜〜〜っ!!ここでバレたら、俺の命は簡単に消されてしまう〜〜!)
『『どうなんだ?』』
「あいつが嘘をついているんですよ!嘘嘘嘘っ!そりゃあ狙われている魔女が、私は魔女です、なんていうわけないでしょ!捕まえて調べれば簡単に分かりますって!」
『『ぐぬ〜〜?』』
どうなる?
どう動く?
考える双頭のミイラ、焦るねずみ男。そんな2人の元へ、一機のドローンがぶぅ〜んと近づいてきた。
『──ひょひょひょひょ〜!そのドブネズミの言う通りじゃないかぁ?』ジジィッ
ドローンからマイクを通して声が響く。
その声にミイラは反応した。
『『Dr.ヨナルデ。主も来てたのか』』
『吾輩の見立てでは、彼奴はただの女じゃあないぞ。捕まえて調べてやろう。奇形ゆえにファラオになれなかった哀れな王よ。お主ならば余裕じゃろう?』
『『……ふん。やってやるわ』』
ぐいぃっと立ち上がる。
その重みから解放されたねずみ男は地面にベタァァァとなってしまった。
「失せろ、賊…」
『『王に向かってなんて口の聞き方…!許さん……!!』』
岩を砕きそうな怪力の一撃が、輝夜の頭上へ振り下ろされる。
普通の人間や天狗たちなら、簡単に骨ごと粉砕される衝撃。
だが──輝夜の手が、その拳を受け止めた。
『『な・・・!!』』
一瞬、空気が止まる。
星太も、にとりも、ねずみ男も。全員が目を見開いた。巨体の拳は、輝夜の小さな掌に完全に止められていた。
ミイラの二つの頭が同時に驚く。
『『止めた、だと……!?』』
輝夜は腕を押し返しながら、淡々と言った。
「芸がない。私の喧嘩相手はもっと強いわよ」
その声には余裕しかない。
星太が思わず叫ぶ。
「輝夜さん、すごい……!」
「言ったでしょ。私は強いって」
「うん!!」
ミイラが唸る。
もう一度、拳を振るう。今度は横薙ぎ。
『『ふんっ!!』』
空気が爆ぜる。
だが輝夜は半歩も下がらない。腕を構え、真正面から受け止めた。衝撃波が地面を走る。足元の小石が跳ねた。それでも輝夜の体は、微動だにしない。
「……弱い」
ぽつりと言う。
そして──
ドゴォッ!!
輝夜の拳が、ミイラの腹にめり込んだ。
重い音と共に巨体が一瞬浮く。双頭のミイラの体が数歩後ろへよろめいた。
『『うっ、ふごおおお……っ!?』』
輝夜は腕を軽く振った。
彼女は、ただの人間ではない。月の民だ。地上の存在とは、身体能力の桁が違う。
『こっ、このぉぉぉ……っ!!』
左ミイラが怒りの咆哮を上げる。
そのまま左の頭が氷を吐こうと口を開き──輝夜が先に踏み込んだ。地面を蹴り、彼女の拳がミイラの顎を下から突き上げた。
『ヒュウウウウ──ガバァァッ!?!?』
口内で出口を失い、暴発した巨体がぐらりと揺れた。
「何しようとしたか分からないけど、ごめんなさいね。手癖が悪くて」
さきほどの輝夜の一撃が、完全に効いていた。
左の顔の下顎が完全に吹き飛び、肉片が飛び散った。その巨体がよろめく。しかし、もう右の顔が、怒りに満ちた声で唸った。
『よくもぉぉ……っ、ゴオオオオオオーーーッ!!』
燃え上がるような紅蓮の炎が噴き出した。沢が一瞬で赤く染まる。木々が焦げ、雪が蒸発し、熱気が空気を震わせた。炎は輝夜を一瞬にして巻き込む。
『!?』
だが炎の中に立つ輝夜は、まるで動じていなかった。
その身を包むのは、銀色の衣。炎に包まれてなお、一片の焦げ跡もない。炎は衣の周囲で弾かれ、ゆらりと光の波紋を描くだけ。
『な……!』
ミイラの右の頭が目を見開く。
輝夜は静かに言った。
「その程度の火で…」フッ
月光を浴びて、衣がほのかに輝く。
輝夜が軽く裾を払う。
「難題『火鼠の皮衣』──。私が5人の皇子たちに挑ませた難題の一つ。そして手に入れることはできなかった。……そして、もちろん。これは偽物よ。炎を防ぐ繊維で作られてるだけで全くの粗悪品。もっと強い火力なら消し炭に変えられるけどね」
蓬莱山輝夜の五つの宝の一つ。
どんな業火も耐える火鼠の皮衣である。ただし、輝夜が待っているものは【かぐや姫】の伝承通りの偽物。永琳の手により、防火性は増しているが本物には届かないので、
『舐めるなァァァァッ!!』
右の炎が、さらに勢いを増す。
だが、どれだけ燃やしても、輝夜の衣は一切傷つかない。その輝きはむしろ、炎を呑み込むように強くなる。輝夜の表情は冷静そのものだった。
「火力不足ね。それじゃあバーベキューには呼ばれないわよ!」
そう煽って、一歩、前へ出た。
炎の中を、悠々と歩く。双頭のミイラが後ずさる。
『ゴオオオオオオーーーッ!!』
「次は、私の番よ」
輝夜の瞳が、月の光を映して輝いた。
『ゴオオオオ──ムゥゥゥゥッ!?!?』
口の中に皮衣を突っ込まれる。
双頭のミイラの炎では焼き尽くすことのできない布なのでそのまま炎は喉の中で詰まり、逆流する。
『リ゛ュウウウゥゥゥーーーッッッ!?!!』
逆流した炎が身体中を駆け巡り、口ではなく鼻の穴や目玉、耳の穴から噴き出した。眼球と鼓膜、舌を焼き溶かし、そのまま後退していく。
「そこっ!!」
一撃、二撃、三撃。
拳が連なる。まるで月光のように白い軌跡を描いて、ミイラの体を打ち抜く。一発ごとに包帯が弾け飛び、二つの頭が激しく揺れる。揺れるたびに炎が吹き、隣からは冷気が漏れる。体内でそれらが混ざり合うと、双頭のミイラの頭から煙がSLのように噴出していく。
『『ギュリ゛ュルルルルルーーーッッ!?!?』』
それでも輝夜は容赦しなかった。
渾身の一撃。拳がミイラの胸を貫く。巨体が宙に浮いた。包帯が舞い、肉が砕ける。
『『ピュ……ッッッ』』
双頭のミイラの両頭は粉々に砕け散った。
炎の残滓の中、包帯の灰が静かに風に舞う。
「ほっ、助かった〜〜!」
「怖かったよぉ〜」
涙と汗でぐぢょぐぢょになったねずみ男と紫苑は抱き合いながら喜び、星太は拳を振り上げて大喜びだ。
「やったああーーーっ!!輝夜さんの勝ちだぁぁぁーーーっ!!」
「
手についた汚れを払う輝夜。
双頭のミイラがやられるとドローンはその死体の近くまで飛んでいき、その場で浮遊した。
『・・・』
「さぁ、どうする。さっさと逃げたほうがいいんじゃない?」
ドローンは旋回し、輝夜へカメラの照準を定める。
『・・・ンフッ』
「?」
『ンフフフフゥッ、フフ、フヒョッ、ヒョーッヒョヒョヒョッ!!!』
マイク越しからでも伝わる笑い声。
仲間が死んで悲しむといった反応ではなく、おかしくて堪らないという予想とは違った反応に全員が固まる。
『逃げる?逃げるじゃと?この絶好の実験チャンスに、逃げる馬鹿はおらんぞなもし!!』
ミイラの残骸が、わずかに震えた。
輝夜の目が細くなる。
「……!」
次の瞬間。
嫌な音が、肉の内側から響いた。砕けたはずの体が、痙攣するように跳ねる。
「な、なんだ……?」
ねずみ男が後ずさる。
グッ…、グチャッ、ブシュウゥゥゥーーーッ!!
身体中の肉を突き破り、金属の塊が飛び出した。
右腕からは、鋭い刃を回転させる丸鋸チェンソー。狂ったように回転し、火花を散らす。
左腕からは、
ねじれた鋼鉄の塊であるドリル。空気を震わせる轟音を鳴り響かせる。
そして、元は双頭があった首元。
砕けた肉の隙間からゴボッ、ゴボッ……と黒い煙を吐きながら、バイクのマフラーのような管が何本も突き出した。
さらに脚部が、形を歪める。
骨が砕け、肉がねじれ、両足が、巨大なタイヤへと変形した。ゴムと肉が混ざり合い、あり得ない形で回転を始める。
低く唸る駆動音。
肉体の中から、機械が侵食している。包帯の残骸が焼け落ち、露わになるのは肉と鉄が無理やり繋ぎ合わされた、異形の存在。右腕はチェンソー。左腕はドリル。首からは煙を吐く管。足はタイヤ。
『ウゥゥゥ……ヒョヒョヒョッ、ヒョーッヒョヒョヒョ!!』
にとりは、顔を青くする。
機械に精通している彼女だからこそ理解かる、目の前の異常。
「む、無理やり……っ、無理やり妖怪と機械を繋げたんだ……っ!!適合させるとか、調和させるとか、そんな生易しいもんじゃない!ミイラの体内の中をぐちゃぐちゃに改造して……っ、活動停止したらこの機械を起動させるつもりだったんだ」
輝夜は一歩も動かず、その異形を見据えていた。
その目に、わずかな警戒が宿る。
「……待ってたのか、仲間が死ぬのを」
『はっ、吾輩がそんなことを考える冷血動物に見えるかね?全ては妖怪たちの未来のため。こいつには未来の礎となってもらったのさ』イヒヒ
「“未来”・・・?」
『そう。吾輩は全妖怪を救う天才を超えた天才……っ、超天才…!!そしてコイツこそ妖怪たちの未来の形だ!さあっ、戦えっ!双頭のミイラ、いや、……
異形の存在は、ゆっくりと顔を上げる。
二つあった頭の名残は消え、代わりに歪んだ単一の“顔”がこちらを向いた。マフラーから黒煙が噴き出す。チェンソーが回転し、ドリルが唸りを上げる。
『○○○○ーーーッ!!』
黒煙を吐きながら、異形が低く唸る。
──ギュイィィィィン!!チェンソーが回転し、ドリルが震え、タイヤが地面を削る。輝夜はすでに構えていた。油断など、一切ない。
「・・・!!」
急加速。
タイヤが爆発的に回転し、地面を抉りながら一気に距離を詰める。衝撃波と共に、異形が目の前に現れる。
「このスピードっ!」
輝夜が反応するより一瞬早く、右腕のチェンソーが閃いた。
銀の軌跡。
「・・・あ、ああっ!?」
そして鮮血が宙に弧を描く。輝夜の右腕が、肩口から切断された。
星太の叫びが響く。
「輝夜さん!!」
だが輝夜は、眉一つ動かさなかった。斬られたその瞬間、すでに踏み込んでいる。体を捻り、残った腕で拳を叩き込む構え。完全に入るタイミングであった。
(ここ……!!)
しかし異形の左腕が、不自然な軌道で突き出された。
ドリルが一直線に、迷いなく、輝夜の腹部へ。
「ごふっ」
鈍い音。
回転する鋼鉄が、肉を貫いた。背中からドリルの先端が突き出る。そのまま回転力を上げて、腹の中をめちゃくちゃにかき混ぜる。
輝夜の体が、一瞬止まる。だが、それでも、その目はまだ死んでいない。
「ま、だ……!」
拳を振り抜こうとする。
だが異形がそのままドリルを押し込み、体ごと吹き飛ばした。輝夜の体が宙を舞う。血が飛び散り、衣が翻る。
そして、そのまま投げ捨てられる。
輝夜という血と肉が水の中に沈み、ゆっくりと浮かぶ。美しく澄んだ水は赤黒い色に染められていくのに比例して、輝夜の顔は青白くなっていく。
『○○○○……、○○…!!』
チェンソーが鳴り、ドリルが血を滴らせる。
オセロットが次に捉えたのは、震える少年、星太だった。タイヤがゆっくりと回転し、そのままズズッと近づく。輝夜をなんとか助けたいと愚かにも前に出てしまったせいで敵に認識されてしまったのだ。
「……っ」
足がすくみ、動けない。
その視線に気づいた瞬間、にとりが叫ぶ。
「盟友っ、逃げろ!!」
遅い。
タイヤの回転が増す。一瞬で距離が詰まる。
「あ、ああ……」
チェンソーが唸る。
ドリルが軋む。
そして何の感情もなく、その刃を振り下ろす──
「させるかァァーーーッ!!“のびーるアーム”ッ!!」
バチイィィィィィーーーッ!!!!
星太と丸鋸の間に、にとりのリュックから伸びたアームが盾となり斬撃を防ぐ。アーム部分を鋼鉄製にした改良版なのだが、相手の勢いが凄まじくアームは簡単に切断されてしまった。
「くっそ…!!」
「うわぁああっ!?」
だが、にとりのおかげで軌道がズレた。
丸鋸は空を切り、そのまま地面を抉った。星太は斬られずに済んだがその威力に巻き込まれてしまい、吹っ飛び、望遠鏡がオセロットの足元に転がっていった。
「う、ぐ……っ、あっ、ああ…!?ぼ、僕の望遠鏡が!」
『ぅん?』
ドローンは望遠鏡を見つめる。
「そんなのいいから早く逃げろ!」
「で、でも……っ!」
望遠鏡に手を伸ばす。
だが、オセロットはそのままタイヤを動かして近づき、転がっていた望遠鏡をメリメリと踏み潰し始めた。鈍く、そして乾いた音。竹の筒がひしゃげ、レンズが砕け、ガラスの破片が飛び散る。
「あ……!!」
もう、元の形はどこにもない。
星太の視界が、止まった。
「……あ……」
声にならない。
喉が、動かない。
さっきまで確かにあったもの。自分で作ったもの。初めて“できた”もの。それが一瞬で、なくなった。
手が震える。何も掴めていない空を、ぎこちなく握る。
「……あ……あ……」
目の前には、砕けたガラスと竹の残骸。
輝夜の言葉が、頭の中で響く。“自分で作ったことにこそ価値がある”。その“価値”が、無残に踏み潰された。固まる星太に近づくオセロット。
『○○○○ーーーッ!!』
「盟友に手を出すなァッ!!」
プシュン……ッ
「ぎゃああっ!?」
肩にドリルが突き刺さる。
ロケットパンチの如く、ドリルを飛ばす。そのままにとりの皮膚を貫き、回転を始め、そのまま遠くまで吹き飛ばす。お前は後で、と言わんばかりに無視をして、残った丸鋸を回転させながら近づいた。
『○○○・・・』ウィイイイン
だがドローンがふわりと飛んできて、言った。
『オセロットよ、止まれ』
『・・・』プシュー
エンジンをかけっぱなしの車のように唸りながら止まるオセロット。絶望する星太にドローンは近づく。
『そこの坊や、今のは君が作ったのかえ?』
「・・・うっ、うう・・・」
『うーむ。悪いことをしたな。吾輩にとって発明をするものは皆兄弟。加えて、若い芽を摘むほど愚かではない。部品を見るに望遠鏡のようだったな。ほれっ、吾輩の作った最新式の望遠鏡をあげよう』
ドローンの背中部分が開くと見たこともないほどにコンパクトかつ美しく、機能性にあふれた望遠鏡が現れ、それを目の前に落とした。転がりながら星太の手元まで届く。
『どうかねぇ。お前の作った猿レベルの望遠鏡ではなく、最新式の望遠鏡だ。これを使えば、月のクレーターまではっきりと見えるぞ。ヒョヒョヒョ、お礼はいらんぞ。さぁ、喜び───』
「いらない…っ」グスッ
『ほへぇ?い、今なんと?聞き間違いかなぁ?大天才の吾輩が作った発明品を要らないなんて言ってないよな』
「……要らないっ、こんなの要らないっ!!」
星太はそれを拾うと投げ返した。
ドローンはひょいと躱すと、その場でぐるぐると回り始める。
『理解不能ぞなもし。わけわからんっ!クソゥ…、大天才ゆえに、さ、猿の思考が理解できんっ!ガキィッ、なぜ要らないというのだ!愚かな真似をした回答を求む!!』
「だっ、だって…!これは僕が…、僕たちが初めて作ったものだから……!!」
『全くもって理解不能。い、いや、認めたくないが元より望遠鏡なんて昔っからあるものを今更発明しようとした猿を同じ発明家として見てしまった吾輩が馬鹿だったか……!』
「ううっ、うっ……、返してよぉっ、返して……っ!」
『既知ではなく未知を研究し、発明する。それこそが知識を持つものの役目だというのに……』
ドローンは離れると、マイクを通してオセロットに命令を始める。
『もういいや。やれ』
再び丸鋸が回転する。
そしてそのまま腕を振り上げ、星太の脳天目掛けて刃を振り下ろした──。
ありがとうございました!
【双頭のミイラ】──彼は読者様のリクエストでございます。漫画ではドラキュラの仲間でしたね。DSのボスとしても出ており、書いていて懐かしくなりました。
ただ実は、全てDr.ヨナルデのモルモットに過ぎません。
彼により、本人の気付かぬうちに魔改造され、化け物となりました。見た目のモデルは【妖怪大戦争のヨモツモノ】です。(みんな知らないかな)
オセロット名前の意味は、ヨナルデパズトーリ(テスカトリポカ)の眷属、ジャガーの戦士「オセロメー」から来ています。fgoのオセロトルとも近い感じです。
なぜヨナルデパズトーリは魔改造された双頭のミイラを“妖怪の未来”と呼ぶのか、星太や輝夜はどうなるのか──、次回をお楽しみに!