ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。

 お久しぶりでございます。
 なんとか4月に投稿しようと思ったんですが、仕事が忙しくて間に合わず、なんとか今日になってしまいました。

 今回のゲスト妖怪と、ゲスト東方キャラはリクエストです。
 よろしくお願いします

















チョコレートは超危険?①

 

 

 深夜の博麗神社。

 ねずみ男がついうっかりと口を滑らしてしまったことで、輝夜に『霊夢は幻想郷にいない、さらに紫は昏睡状態であること』を知られてしまった。詳しく話を聞くために輝夜は事情を一番知っている八雲藍を捕まえ、名だたる実力者達に協力を求めた。この大勢に藍は流石に逃げられないと悟ったのか、抵抗を止める。

 

 

 

「──って、ねずみ男とかいう臭いやつが言ってたけどどうなの?」

 

 

 そう輝夜が尋ねると、咲夜を連れたレミリアも続けて言った。

 

 

「事実なら何故我々に黙っていたのかも言ってもらうわ」

 

 

 萃香は瓢箪に入った酒を飲み、そして口を拭って言った。

 

 

「うぃ〜〜〜…嘘はバレるからやめろよなァ。それでも、つくんなら、その目障りな尻尾を全て千切り落とす」

 

 

 他の面々も同様だ。言葉にしなくても“そんな大事なことを何故黙っていた”という怒りが伝わってくる。藍は(ねずみ男っ、余計なことを言うだけ言って逃げるとは〜〜っ!!)と内心キレながら、正直に語り出す。

 

 

「ねずみ男が言ったことは……事実、だ」

 

「・・・」

 

 

 あたりは静まり返る。

 

 

「あの時に皆も見ただろうが、外の世界から『バックベアード』と名乗る妖怪が入ってきた。バックベアードは言った。──幻想郷中の魔女を全て寄越せ、とな」

 

 

 藍は拳を握る。

 悔しそうに、悲しそうに、その拳に力が込められていく。

 

 

「奴は魔女を贄として全世界を奴隷化する、断るならば幻想郷に害を為すと。全てを聞いた紫様は迎え撃った。好き勝手にさせないと。……ただ、…ただ……、バックベアードの件よりも前から幻想郷は『ぬらりひょん』という輩にも狙われており、紫様はその対策のために不眠不休で働いていた。それが祟って、敗北してしまった。霊夢でさえ手も足も出なかったんだ」

 

「・・・そういうことだったのか」

 

「バックベアードはワルプルギスの夜にまた来ると言い残し去って行った。紫様も霊夢も奇跡的に助かり、永遠亭で治療。未だに目を覚まさない。比較的に軽かった霊夢は幻想郷を守るために更なる力をつけようと修行の地に赴き、幻想郷の守護の任は魔理沙が代わってくれた」

 

 

 藍は深々と頭を下げる。

 

 

「すまなかった。隠すつもりはなかった。ただ幻想郷で生きる面々を不安にさせたくなかったんだ。……全ては私の独断だ。罰は受けよう。…ただ紫様に非は無い。紫様には何もしないでくれ」

 

「「「・・・」」」

 

 

 コツッ、コツッと足音が近づく。

 幽香だ。夜中なので普段使っている日傘は閉じているが、その傘で肩をポンポンと叩いている。

 

 

「何か勘違いしているんじゃない」

 

「・・・?」

 

「別に私は罰を与えに来たんじゃないの。ただ陰でコソコソとしているようだから何を隠していたのか聞いただけ。それなのにペラペラと“不安にさせたくない”とかさぁ……」

 

 

 ブゥンと傘を振るう。

 傘は頬にピトリとくっついただけだった。だがその迫力に圧倒され、自分の頭が飛ぶイメージが浮かび、藍は冷や汗が全身から吹き出した。幽香の目には光などなく、真っ黒い闇だけが広がっている。

 

 

「もしかして舐めてる?私のこと」

 

「……っ」ゾクッ

 

「畜生如きに心配されるほど私って弱く見えるかしら。なんなら試そうか?その首を刎ねたら嫌でも分かるでしょう?」

 

 

 

 

 守られる。

 守護られる。

 心配される。

 そういった言動は強者の誇りに傷をつける。故に幽香はキレている。

 

 

 否───。

 

 

 幽香だけではない。

 他の者たちも同様だった。舐められたことにキレているのだ。

 

 

 

 

「霊夢が修行から帰ってくる前に終わらしてやろうか」ケラケラ

 

「いやぁ〜っ、あの賢者様をノックアウトしたやつと戦えるなんて、楽しみだ」プハーッ

 

「魔女を狙う?我々の家族に手を出せるのならやってみるがいい…」プッツン

 

「もしかしたら私の難題をクリアするやつに会えるのかもね」ニヤリ

 

 

 

 【幻想郷には霊夢しかいない。八雲紫がいなければもう終わりだ。】

 そんなの許せるわけがない。

 いつから自分たちは守られる側になった。我々は狩る側だ。いつだってぶち殺す側なのだ。

 

 

 

「賢者の従者。我々の心配は無用です」

 

「まぁ、一応お前の気持ちは汲んでやる。人間たちや噂好きな野良どもには伝えん」

 

「だが、次、我々の心配なんかしてみろ。──お前を先に殺すからな」

 

 

 

 

 夜が明ける。

 気づけば、強者たちは消えていた。残っているのは、自分を除いて心配そうに見つめる橙だけである。

 

 

「藍しゃま…っ」ウルウル

 

「橙。大丈夫だよ」

 

 

 優しく抱きしめる。橙は心配だったのだ。いくら強いとはいえ、相手の方が実力は上だ。それにあの殺気は本物だろう。もし自分の敬愛する藍がいなくなったらと思うと気が気ではなかった。故にこの抱擁が安心を呼ぶ。

 

 

「……流石に生きた心地がしなかったな」ホッ

 

「あのネズミ…、絶対に狩ってやる」

 

「だが蓬莱山殿の話を聞く限り、ベアード軍の中にはワルプルギスを待てずに侵入してくるやつがいるようだ」

 

「どうやって入ってきてるのでしょう…」

 

「バックベアードは紫様と似た能力を持つ。助力しているのなら納得がいくが、……その可能性はないな」

 

「なぜそう思われるのです?」

 

「だったら初めからワルプルギスの夜という日時を設定しない。……そして紫様が不在とはいえ、博麗大結界の力は本物だ。力づくで突破できるものではない。……と、なると」

 

「うにゃ?」

 

「何者かによる手引きだろうな。結界は外からの侵入に強くても内側からは意外と弱い性質がある。そこを突いて、ベアードの許可なく侵入しているのだろう」

 

 

 藍は大きな月を眺めて言う。

 

 

「……だが言うは易く行うは難し。大結界を並の者がどうとできるとは思えない。この地に既にベアード軍の奴が紛れているのかもしれない」

 

「それって、まずいのでは…」

 

「ただの想像だ。不安になると変なことが頭の中を巡ってしまう。……もし、また奴らの手先が入ってきた時には殺さずに話を聞こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻───

 

 

 

 

 

「ふ〜〜ん♪ふふ〜〜〜〜ん♪」

 

 

 ねずみ男は月夜をバックに水浴びをしていた。

 風呂に入らないこと約5ヶ月。歩くだけで悪臭を振り撒き、踏み締めた地面に生える草木が一気に枯れていくほど汚れており、隣にいたはずの紫苑が“ごめんっ”と叫んで離れて行ってしまったのだ。同じ貧乏人仲間に遠回しに汚いと言われたことが流石に効き、偶然見つけた水辺で汚れを落としているのだ。

 

 

「ふい〜っ、くんくん……。もう匂わねえよな。紫苑のやつ、この俺を汚物扱いしやがってよぉ。これで文句ねえだろ。いや、なんか背中が痒くなってきたぞ……。このぉ〜〜〜っ!」

 

 

 

 ボリボリボリッ、ゴシゴシィッ

 

 シャンプーなどはない。

 だが、水で体の汚れを落とすというのはかなり良い。ゴシゴシとそこら辺に生えている硬めの植物で体を擦るたびに垢がぼろぼろと落ちていく。きれいな水辺が汚染されていき、逆にねずみ男が清潔になっていく。

 

 

 

「今度こそ綺麗になったな。そろそろ上がるかな」

 

 

 そういって、自分の唯一の一張羅を着ようとした。

 しかしそこらへんに投げ捨てていたはずの服(ボロ布)がなくなっていた。

 

 

「お、おいおい、マジかよ…!!俺っちがイケメンなのは分かるけど服を盗むのかよ、ふつー」

 

 

 全裸で途方にくれている彼にゆっくりと黒い影が近づいていた。

 

 

「!!」

 

 

 ドサッと何か投げ捨てられる音。

 振り向くとそこには下着と洋服が落ちていた。手に取ってみるとそれは洋服というよりも厨房で使われるコックコート、エプロンなどであった。

 

 

「な、なんでこんな所に?着ろってことか…、い、いや……落ちてるってことはもう誰のものでもねえし、俺のものってことにしていいよな。裸はまずいし、着ちゃお〜〜」

 

 

 普段は布をかぶっているだけなのでこういったものは着慣れない。ボタンなどに手こずりながらもなんとか着ることができた。

 

 

「ラッキー!サイズもぴったりだ」

 

『似合ってるじゃないか』

 

「だろう!俺は元がいいからなんでも着こなせるんだよなァ………っえ?」

 

 

 ここには自分しかいないはず。

 そおぉっと振り向くと、ギョロリとした目玉と向かい合った。ヒュンと震え上がり、一気に距離をとる。

 

 

『あの布切れは処分させてもらったよ。あんなものはこの世にあってはならないくらい汚いからね』

 

「な、なにもんだっ!お前は!」

 

『そう怯えるな。私はお前にビジネスを持ってきた……福の神のようなものだよ』

 

「び、びじねすだと?」

 

『そうだ』

 

 

 そういうとスーツケースを取り出し、開けて見せた。

 中にはパンパンに詰められたチョコレートが入っており、そのチョコレートは外の世界生まれのねずみ男も知っているくらいに某有名企業の、しかも高級品であった。

 

 

 

「こりゃあ…!?」

 

『こんな田舎じゃ味わえるわけがない超高級チョコレートだ。これを売りつけろ。花の蜜とか、果実やアンコしか甘味がない幻想郷にとって最高の刺激になるだろう』

 

(あっ、明らかに怪しい…っ!怪しいんだよなぁっ、でもヨォ、怪しいのは分かってんだけど……最近良いもん食ってねえんだよなあぁぁぁ…!!)

 

 

 

 ヒゲが、ピンッ、ピンッと音を立てて立ち上がっていく。

 悪い癖だとはわかっているんだが抑えきれない。この猛烈な不安や恐怖を超えて、やってきた不透明なビジネスチャンスに希望を抱いてしまう。

 

 

 

「このビビビのねずみ男にお任せください!わんわん!!」

 

『ふふふ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・朝か。よーし、今日も衆生を救いに行きますかー!」

 

 

 魔法の森から人里へ。

 2月、未だに雪積もる道をお遍路笠を被った赤い前掛けと灰色のロングコートを着た少女がずんずんと進んでいく。寒さなんか全く気にならないようで止まることなく歩み続ける。

 

 

「くんくん…。あら、何だかとってもいい匂いね。なにかお祭りでもやってるのかしら」

 

 

 人里の通りは、どこかいつもと違う空気に包まれていた。

 冬の冷たい空気の中にふわり、と漂う甘い香り。鼻をひくつかせると香ばしくて、少し苦くて、でもやたらと甘ったるい。それがどんどんと濃くなっていく。

 

 

「す、すごいわね…」キョロキョロ

 

 

 周囲を見渡すと、里の様子も妙だった。

 女の子たちが、どこか落ち着かない様子でそわそわしている。

 

 

「ねえ、もう売り切れちゃうかも!」

 

「早く行こうよ!」

 

 

 そんな声があちこちから聞こえてくる。

 少女は眉をひそめた。

 

 

「何にかしら……」

 

 

 香りの出所を辿るように歩いていくと、

 やがて人だかりが見えてきた。里の中央、露店が並ぶ一角。その一角だけ、妙に人が集まっている。

 

 

「すごい、人……!?」

 

 

 人混みをかき分けて前に出る。

 すると──そこにいたのは、見慣れない顔だった。パリッとしたスーツ、それに反比例なほど卑しくて、怪しい髭を持ち、胡散臭いニヤついたネズミのような顔。

 

 

「安いよ安いよぉ〜!幻想郷に新登場っ、ビビビ印の鼠永ミルクチョコレートよーん。外の世界の超高級品を俺っちの技術で幻想郷に再現!数量限定、バレンタイン特価で売ってるぜ!買わなきゃ損、損!」

 

「……ち、ちよこれえと?」

 

 

 少女は看板を見る。

 聞いたことのない言葉に固まってしまう。売られているものは黒光りしていたり、茶色かったり、丸かったり四角かったり……。派手なものもあるがあまり美味しそうには見えない。

 

 

「お父さんっ、これこれ!」

 

「これか〜?あんまり美味そうじゃねえな。こんなのが流行ってんのか」

 

「みんなが美味しいって言ってたの!お願い、買って買ってー!」

 

「うーむ、結構な値段だし……、不味かったら勿体無いし…」

 

 

 そんなやり取りをしている親子を見て、少女も心の中で父親に同感する。しかし、店員の男は味見用のチョコレートを差し出して笑いながら言った。

 

 

「怪しいと思うのは当たり前!まずは試して、美味しかったら買ってくれ」

 

「う、うむ…」

 

 

 恐る恐る口に入れ――

 

 

「……うまい!」

 

 

 硬そうな顔が緩み、思わず笑みがこぼれていた。甘く、少しほろ苦い味。今まで食べたことのない、不思議な感覚。硬いと思っていたのにいつの間にかとろけて……。

 

 

「すごいな、こりゃあ……!」

 

「ずるいずるいっ、私もー!」

 

「あ、ああ…!買おう。店員さん、こんなに上手いとは思わなんだ。この箱のやつをくれ」

 

「毎度あり〜。あっ、中に日本酒やウイスキーとか色んな酒が入った大人向けのチョコもあるけどついでにどうよ?」

 

「さ、酒!?かっ、買った!」

 

 

 そのやり取りを見ていた他の人たちも一斉に千円札を握りしめて手を伸ばす。ねずみ男は金を受け取り、空いた手にチョコレートが入った箱を渡していく。次々と買われていき、溜まっていくお札の山にねずみ男は満足そうに頷く。

 

 

「忙しいっ、忙しい忙しい!でも、うひゃひゃひゃーーー!!」サイコー

 

 

 その光景を、人混みの後ろからあの少女がじっと見つめていた。人々の嬉しそうな、そして穏やかな表情。どこか浮世離れした雰囲気。人々の顔を一人ひとり見ていた。チョコレートを口にした瞬間の表情。驚き、そしてすぐに広がる笑顔。

 

 

「・・・」

 

 

 静かに目を細める。

 

(嬉しそう)

 

 その“感情”が、はっきりと伝わってくる。ただ美味しいだけじゃない。知らないものに出会った喜び。そのすべてが、表情に表れていた。しばらく見ていると見知った連中もやってくる。物珍しいからか、新しいものに興味があるからか、人間たちと同じように列に並んでいた。

 

 

 

 

 

「珍しいものが売ってるじゃない」

 

「おや、咲夜ちゃん!」

 

「お嬢様と妹様へのおやつに買って行こうかしら。ねずみ男、この箱を2つ」

 

「あいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「真面目に働いているこの姿、霊夢が見たら驚くね」ケラケラ

 

「あ、あんたは鬼の……」

 

「伊吹萃香だよーん。アンタのことは聞いていたけど、初めて話すよね。よろしくー」

 

「ど、どうもっす」

 

「そんな固くなる必要はないよ。私は勇儀とは違って〜〜、ゆる〜いから。裏切りとか、嘘付くことも……ゲンコツ1発で許してあげる寛大さを持っているさ。とりあえず、この“ういすきぃぼんぼん”っていう酒入り洋菓子3箱くらい貰うよ」

 

「りょ、了解です!」

 

 

 萃香はくしゃくしゃになった千円札を3枚渡すと手をヒラヒラと振って帰っていく。萃香は霊夢などからねずみ男の悪評は聞いていたので、霊夢がいなくなり、その間に幻想郷に迷惑かけたらぶっ飛ばすからね、と釘を刺しに来たのだろう。

 

 

「・・・ちっ、鬼ってのは怖えからみんな嫌いだぜ」ケッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、優曇華や、妹紅……などねずみ男と関わったことのある連中などがたくさん買いに来たのだった。

 

 

「リュグナー、チョコレートだってよ。買ってこう!」

 

「・・・あれ、は」

 

「リュグナー?」

 

「……カゲロー。あれは狼には毒だよ。食べないほうがいい」

 

「私は妖怪だし大丈夫でしょう」

 

 

 そう言って駆け出す影狼の手をぎゅっと握り、影狼は赤面して止める。

 

 

「ダメ、だよ。妖怪とはいえ君に何かあったら僕は耐えられない」

 

「ひゃっ、ひゃい」ドキドキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜〜〜っ、疲れたははは〜〜っ」

 

 

 お昼休憩という看板を置くと、店の壁に寄りかかる。

 朝の8時から12時までの4時間ずっと働き続けて、もうヘトヘトである。だが、ねずみ男の前にはまだまだ残っているチョコレート、いや、宝の山が聳え立っていた。

 

 

「今度は値段を上げて、金持ち狙いで売ってみるかな」

 

「あのぉ……」

 

「ん?」

 

 

 振り向けば、店の裏口から笠を手に持った少女が立っていた。腰辺りまで伸びた長い黒髪を二つのおさげに、ぷくぅっと大きく膨らんだ福耳。昔ながらの委員長的な見た目の女子である。

 

 

「あ、お客さん?ごめんね、おじさん疲れちって。1時間後に店開けるから待っててくれ。それでも待てねーってんなら、お金置いて好きなの一つ持っていきな。泥棒はやめろよ、将来碌な大人にならねえからな」

 

「あ、あの、違います」

 

「あん?」

 

「違くて……、ええと、その…」モジモジ

 

 

 成美は一歩前に出る。

 ねずみ男の前に立ち、チョコレートを一つ手に取った。

 

 

「……手伝ってもいいですか?」

 

 

 ねずみ男が目を丸くする。

 

 

「は?」

 

「このチョコレートを、もっと多くの人に届けたいんです」

 

「待て待て、なぜに届けたいのよ。名も知らぬお嬢ちゃん。そんな事して自分に何の得があるっての?」

 

「私には使命があるからです」

 

「し、使命・・・?」

 

「はい。──衆生を救うという使命が生まれた時からあるからです。お給料はいりません!どうか皆を笑顔にする仕事を手伝わせてください!」 

 

 

 穏やかな声だった。

 だが、その奥には確かな意志がある。ねずみ男は一瞬ぽかんとした後、すぐにニヤリと笑った。今確かに言ったからだ、お給料は要らないと。タダ働きしてくれる人材を手に入れられたからだ。

 

 

「へっへっへ……いいねぇ!売り子が増えるのは大歓迎だ!それに立派じゃねえかよ!確か……衆生ってのは生きとし生ける悩める人々のことを言うんだよな。いやー素晴らしい!これからはよろしくな、お嬢ちゃん!」

 

「えっへへ…、ちなみに私、矢田寺(やたでら)成美(なるみ)と申します。よろしくお願いします」テレテレ

 

「成美ちゃんね!俺はねずみ男!まぁ、困ったことがあったら何でも言ってくれ!タダばた……ごほんごほんっ、えーと…、衆生の救済の手伝いするからよ!」ニヒヒヒヒ

 

 

 

 そしてねずみ男は彼女に商売の仕方を教えた。

 成美は小さく頷く。彼女が任されたのは、子どもに向けて販売された小さなチョコ菓子。子どもでも買いやすい値段で、成美のような初心者に向いた商売である。ねずみ男は隣で金持ち達の相手をする、困ったら手伝いに行くと言ってくれた。

 

 そして、午後になると再び販売を始める。

 彼女は並ぶ子どもたちの前で箱を一つ手に取った。

 

 

「こちら、外の世界のお菓子です」

 

 

 はっきりとした声で呼びかける。

 

 

「とても美味しいですよ。一つ、いかがですか?」

 

 

 差し出されたチョコレート。

 受け取った子どもたちは笑顔になる。

 

 

「……」

 

 

 成美はその光景を見て、ほんの少しだけ微笑んだ。

 小さな甘さが、人の心をやわらかくする。それを届けることができるのなら。これも、きっと自分の進む道の第一歩になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「ふぃいー、おつかれー」

 

「お疲れ様です」

 

「いやぁっ、怒涛の1日だったな。成美ちゃんのおかげで全部売り切れたよ。ありがとう」

 

「いえいえ、そんな事は。みんなの幸せな姿を見れてよかったです」

 

「なんて謙虚……」ジーン

 

 

 成美の姿を見ていると、なんと自分は情けないのかと感じてしまう。こんな少女はみんなのため、そして自分は金のため。しかし情けないとはいっても金がなきゃ生きてはいけないのだから、そんな自分を嫌いになれないのだが。

 

 

「けどよ、人に優しくし過ぎるなよ。優しい奴を狙う意地の悪い奴が多いからな」

 

「心配ありがとうございます。けどそういった方も救わなければならないですから気にはしません」

 

「ふーん。……あっ、そうそう!これ、あげるよ」

 

「え?」

 

 

 ねずみ男が手渡したのは一箱のチョコ。

 驚きながら受け取る。

 

 

「これ……」

 

「給料は要らないって言ってもなんか悪いからさ、なっ?」

 

「ねずみ男さん…っ、ありがとうございます!けど、ねずみ男さんはいいんですか?」

 

「俺は甘いものより、お金の方が……じゃなくて、みんなの笑顔が好きなんだよ。見れて満足満足!にーひひひひっ」

 

「素敵です!」

 

 

 ねずみ男は稼いだ金をポケットに全部入れると店を出る。

 

 

「じゃあまた機会がありゃあ頼むな」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねずみ男が出ていき、自分も店から出る。

 もう夕暮れで、母親が買い物かごを下げて家に帰る途中だったり、チョコレートを分け合う子どもたちの姿が見えた。

 

 

「ふふっ」

 

「随分と嬉しそうじゃん、成美ー」

 

「あっ、魔理沙ちゃん!」

 

 

 微笑む成美に声をかけたのは服は泥や土まみれ、身体中に生傷がたくさんあるボロボロな魔理沙であった。この2人は知り合いであり、実はご近所さん?でもある。少し前までは魔理沙は彼女のことを知らなかったが、とある異変を通して仲良くなっていた。

 

 

「どうしたの、その傷……。もしかしてまた異変解決してたの?」

 

「あー、これか。いやさ、いつかやってくる決戦に向けての修行をしてるんだ。幽香にみっちりとしごかれてよぉ、もう大変だぜ」

 

「幽香さんか。そりゃあキツイね」

 

「加減とかないからなぁ。特に今日は一段と厳しくてよぉ。……けど、お陰様で自分の弱点が見えてきたし、力の調整とか段々コツが掴めてきたぜ」

 

「流石だね。…ということで糖分補給しよ」

 

「ん?お、おお!チョコか!美味しそー!ここじゃあ滅多に食えないのに、よく手に入れたな」

 

「実は今日ね──」カクカクシカジカ

 

「なんだってーーっ!!ねずみ男が売ってて手伝ったら、貰えたァ?」

 

「うん!すぅごく優しいんだね、あのおじさん」

 

「いや!いやいやいや!成美、ねずみ男はそう簡単に信じちゃあいけねえぜ」

 

「な、なんで?」

 

「ねずみ男は悪い奴じゃないんだが、かなりの嘘つきでケチで卑しいやつなんだぜ。大体、あの貧乏なアイツがどうやってその高級品を手に入れたんだよ。しかも、それを大した金額では売ってないみたいだし……」

 

「もしかして、怪しい?」

 

「かーなーりっ、怪しい!」

 

「考えすぎじゃあないかな。……あむっ」

 

「あっ、おい!」

 

 

 一粒口に放り込む成美。

 口の中に甘く、優しい味が広がる。初めて食べたが口内が天国だ。

 

 

「ん〜〜〜♡」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「大丈夫〜。おいひ〜よ。…ごくん、ほら、魔理沙も」

 

「いや要らんっ、大丈夫っ、ノーサンキュー!チョコは好きだが、ねずみ男がくれたもんは流石の魔理沙さんも要らねえぜ!家に帰ってキノコ食べるよ、またな!」

 

 

 逃げるように箒に跨り、空を飛ぶ。

 そんな背中を見つめながら二つ目、三つ目とポイポイ口の中に放り込む。

 

 

「こんなに美味しいのに…。ねずみ男さんのこと疑いすぎだよ。みんなを笑顔にしたい人が悪いわけないのになぁ。あむっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃひゃひゃ〜、うんめぇええ〜!うへへへへ!やっぱり笑顔よりも金だよなァァァ!!」

 

 

 ぎっしりと金。

 チョコレートで稼いだ分を、遠慮なく使いまくっていた。酒をあおり、豪勢な料理を平らげ、店の中で騒ぎながら笑い続ける。キャバクラにより女の子たちを両手に千鳥足で夜の街を歩き続ける。

 

 

「全くボロい商売だよなぁ〜!貰ったもんを売るだけ。俺から減るものはねえし!この金でこんなに可愛い子たちともいられるチネェ〜♡」モミモミ

 

「いやーん、ねずみちゃーん」

 

「良いではないか、良いではないか!ほれ、お駄賃よーん」ムニムニ

 

 

 そんな女の子たちの谷間にお札をぐいっと捻り込むと、女の子たちは嬉しそうな声をあげて、頬にぶちゅっとちゅーをする。頬っぺたに付いた口紅と同じく顔が赤くなる。

 

 

「もうっ、さいこーーーっ!!」

 

 

 顔はすっかり赤く、足取りもふらふら。

 いつの間にか女の子たちはいなくなっているが、金も無くなったので丁度いいかと思い、上機嫌のまま帰路につく。

 

 だが人気のない路地に差し掛かった、その時。

 

 

『……随分と、楽しんだようだな』

 

「うぃ〜?」

 

 

 不意に、背後から声がした。

 ねずみ男はヨタヨタとしながら振り返る。そこに立っていたのは自分にチョコレートを渡してくれた骸骨の妖怪であった。空洞のはずの眼窩に、ぎょろりとした目玉が収まっている異様な存在感だが、酔っ払ったねずみ男は怯えることなく酒でグラグラとなる。

 

 

「おおっ、おほほほっ!あなた様は俺の救いの神さまじゃあありませんかァ。おかげさまで…もう最高っす!あーーー、お礼と言っちゃあなんですがぁ…アヒャヒャッ、一緒にどうっすか!一万円くらいは残ってるんで安い居酒屋で飲みません?」

 

 

 相手は、静かに首を振る。

 

 

『不要だ』

 

「あっ、そうすか」ウィー

 

 

 高く、乾いた声は続く。

 

 

『あのチョコレートは全部売れたのか?』

 

「そりゃあもう!大人気で完売!おかげさまでガッポリですわ!うしゃしゃしゃ!」

 

『そうかそうか』

 

 

 骸骨の妖怪は、わずかに口元を歪めた。

 それは笑みだったのか、判別できない。

 

 

『つまり私の計画は、順調に進んでいるということだな』

 

「計画……?」

 

『そう。この前来た双頭のミイラは大した力もないくせに真正面から魔女を狩ろうとしたが、力なんぞ馬鹿のものよ。狩りとはここ!ここを使うものよ』

 

 

 自分の穴だらけで空洞の頭をトントンと叩きながら言う。魔女狩り、双頭のミイラという言葉を聞いて、ねずみ男は以前の記憶がフラッシュバックした。一気に酔いが覚めていく。

 

 

「・・・ほへ?と、とと、ということはアナタはもしかして、せ、西洋の──」

 

『ご明察。私は西洋妖怪なのだ。ククク……魔女狩りの片棒を担いでくれてご苦労様』

 

「じゃああのチョコレートには大量の毒が……!?」

 

『毒?そんな優しいものじゃあないさ。俺が仕込んだのは・・・!』ニヤリ

 

 

 ねずみ男の口がぱっくりと開く。

 そして奥歯の方がキリキリ、ギリギリ、ズキズキと痛み始めてきた。

 

 

「いっ、いだだだだァァァーーーッッ!?!?」ズキズキズキ

 

 

 頬を抑えて転げ回る。

 その姿を見て、西洋妖怪は高笑いをした。

 

 

「歯がァッ、歯が痛えよおぉぉぉーーーッ!?!?」

 

『私があのチョコレートに仕込んだのは“虫歯菌”さ。どんなに歯を磨いても私が合図すれば歯を虫歯に変えることができるのさ。………って、この野郎、全部売ったとか言いながらこっそり食ってやがったな』

 

「くそぅ、開店前にこっそり食べてたのがバレたぁぁぁ……歯がぁぁぁアッ、いでででででぇ…!!」

 

『まぁ、いい。お前のおかげで幻想郷中に菌をばら撒けた。後は幻想郷中のチョコを食べた者たちの歯を人質に、魔女を差し出すよう取引するのみよ』

 

「逃げねえとぉぉぉ……いでででぇっ!」

 

『逃げろ逃げろ。もうお前には用はない。用があるのはお前の虫歯だけだ』

 

 

 指をパチンと鳴らす。

 するとねずみ男の虫歯に更なる異変が起きた。歯に空いた穴からズルズルと何かが這い出してくるような感覚。その感覚が大きくなるに比例して、痛みが増していく。

 

 

「あっ、あがががが……ガァッ!?!?」

 

『出でよ、我が眷属』

 

 

 ねずみ男の口の中からブチゅっと塊が飛び出した。

 地面に落ちると同時にそこから手足が生え出し、人のような形になる。だが人ではない。骸骨だ。骸骨がゆっくりと歩き出す。

 

 

『さぁ、共に魔女狩りをするぞ。歯痛菌』

 

『シィィーーーッ!!』

 

 

 

 

 

 

「あが、が……っ、は、歯医者、歯医者に行かねえとぉぉぉ……っ」ヨタヨタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

 ゲスト東方キャラは矢田寺成美さん!
 彼女の掘り下げは次となります!

 そしてゲスト妖怪は西洋妖怪です。ベルギー出身で悪魔くんに出てました。漢字だと〇〇〇〇です。

 分かるかな?
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