ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。

 こんにちは、というよりお久しぶりです。
 仕事に追われたり、気温の変化についていけずダウンしてたりと色々大変でした。6月は多少減るので書けると思います!



 fgoのコラボイベントは楽しめましたか?
 クソ楽しかったですね。
 ただガチャは全滅。フランソワくんは来ないそうです。嘘だけどね、と言って来て欲しかった涙









チョコレートは超危険②

 

 

「あ〜〜〜〜んっ」

 

「・・・ぅっ、くぅっ」

 

 

 ねずみ男は永遠亭にて永琳に口内を見てもらっていた。診察台の上に横になり、口を大きく開ける。永遠亭は歯医者ではないのだが、永琳に不可能はない。知識と経験はしっかりあるし、輝夜が虫歯になった際には治してきたのだ。そんな永琳はしっかりマスクをして、歯医者の道具を手に持って戦いに臨む──はずだったが・・・

 

 

「くっさいっっっっ!!」

 

 

 マスクをしているのに吐き気を催すほどの口臭が襲いかかる。さらに目にも染みてきて涙が止まらなくなる。えずきが止まらず、途中でゴミ箱に吐いてしまう。

 

 

「お゛っ、お゛え゛ぇぇぇっ…」

 

「さっきから失礼だぞ!!さっさと俺の歯を治しぃっ、いでででぇっ!?」

 

「無茶言わないで!貴方の口がどんだけ臭いかっ、おええええっ!?」

 

 

 そりゃあそうだ。

 ねずみ男の吐息は10メートル先の蠅さえも撃ち落とせる。それをマスク越しとはいえ至近距離で浴びて、なんとか耐えている永琳はなんと凄いことだろう。

 

 

「あっ、あなたっ、ねずみ男、この口臭っ、ふふ、普段から歯を磨いていないでしょうっ」

 

「歯なんか100年以上磨かいてねえよ。磨かなくてもへーきだったからな」

 

「平気だった?」

 

 

 永琳は一つの仮説を立てる。

 

 

(ねずみ男の持つ体内の毒素やら菌のおかげで今まで病気とかにはかからなかったのね。けど、そうなるとこの虫歯はおかしい。菌ではなく、呪いや妖力によるもの…?)

 

 

 なんとかミラーを入れて、虫歯を見る。

 奥歯にはぽっかりと穴が開いていた。典型的な虫歯の症状だ。だが他に、気になるものを見つけた。

 

 

「小さな手形?……歯から始まって、そのまま歯茎や舌に手形や爪の跡が続いている」

 

「そ、そういやっ、俺の口の中からガイコツみてえなのが飛び出したんだ」

 

「骸骨!?なんでそんなものが飛び出すのよ」

 

「えっ、そりゃあ……実は…ごにょごにょ…」カクカクシカジカ

 

 

 ねずみ男はこれまでの経緯を話す。

 謎の妖怪、変なチョコを売りつけろと命令された、こっそり食べて虫歯になった、そして口からガイコツが出てきた……などなど全てを話す。

 

 

「やっぱりこれは妖怪による影響か。……というか、普通は見ず知らずの相手から貰ったチョコを他人に売りつける?」

 

「ごもっともです。いてて…」

 

「解呪できるかやってみるけど、専門外だから上手くいくかは分からないからね」

 

「はひ…」

 

 

 治療をなんとか開始しようとした時、ゆらりと優曇華がやってくる。

 

 

「ひひょ〜……」

 

「ああ、良いところに。歯の治療をするから手伝っ……え!?」

 

「わたひも歯がいたひでふぅ〜……っ」

 

 

 なんと我が弟子の優曇華も頬を腫らしてやってきたのだ。

 

 

「買い食いしたのね」

 

「ごめんなさい〜」

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 虫歯。

 歯を持つすべての生物がなり得る病気である。その病気の歴史は古く、今から100万年以上前にいた生物が虫歯になったことが判明している。つまり、人が歩んだ歴史に必ず存在していたのだ。

 

 また、虫歯は治療しないと治らない病気でもある。つまり放置すれば悪化し、歯茎は腐り、更にその菌は顔面全体に広がっていくとも言われている。サバイバルにおいて一番気をつけないといけないのは虫歯なのだ。

 

 このように人々の歯を蝕んだのならば、人々は必ず恐怖する。そしてその恐怖は形を得て、ある妖怪が生まれた。

 

 

 

 ズキン──。

 

 

「いっ、いでででえええっ!?」

 

 

 ガァン──。

 

 

「おっ、あだだだだ!?」

 

 

 

「「「歯がぁぁぁ〜〜〜っっ!?!?」」」

 

 

 

 静なる夜に突如響く悲鳴。

 寝ようと思っていた者、もっと夜を楽しもうとする者、すでに眠っている者、さまざまな時間を過ごそうと思っていた人たちの歯が全て痛み出す。子どもなんかは耐えられなくて大泣きだ。泣き止まそうにもその親が痛みで動けないでいる。

 

 

「さぐや゛ぁぁぁ……っ、いだいぃぃぃ…!!」ビエーン

 

「痛い痛い痛い───」バキッボキッ

 

「お嬢様、妹様、落ち着いてくださいまし!」アワアワ

 

 

 吸血鬼の姉は痛みで泣き、妹は暴れることで痛みを紛らわせる。咲夜はなんとかしようとするが慌てるだけで動けずじまい、パチュリーは痛む歯を押さえながら痛み止めの魔法を館全体にかけようと試行錯誤していた。

 

 

 

 

「あ、あがが……っ、ぬぅん!!」

 

 

 ぶぢぃっと歯を引っこ抜く萃香。

 流石の痛みに酔いが覚め、冷静に考えた結果の行いである。痛む歯を指でむんずと握ると思い切り引っこ抜く。どうせすぐに生えてくるので心配はない。抜いた歯を見れば真っ黒い穴が開き、傷んでいた理由も納得だ。口内に広がる血を吐き出して、その虫歯を握り壊す。

 

 

「おっかしいねぇ。殴り合っても折れない歯に穴が開くなんて……。あのねず公、あのチョコに何か混ぜたのか?………ぐあっ!?な、ま、まだ歯が痛いっ!?」

 

 

 今度は別の歯が痛み出す。

 萃香は手に持つかなり度数の高い酒を無理やり飲み込んだ。アルコールにより痛みは少し治るが解決はしないので、また飲み続けるのだった。ちなみに逆効果・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョコレートを食べた者は例外なく虫歯となる。

 歯に穴が開き、神経までも痺れさせる。その全てがこの西洋妖怪の糧となる。

 

 

 

『もっともっと苦しめぇぇ……!!お前たちの苦しみが私を喜ばせる!!』

 

『持ってきました〜』

 

『よし』

 

 

 歯痛菌がその後ろからゴツゴツとした機械を持ってくる。先端にはマイクがついており、西洋妖怪はそれに向かって声を出す。その声は幻想郷中に広がった。

 

 

『あー、あー……、幻想郷の諸君、ご機嫌よう。私の名は──歯痛殿下(はいたでんか)。ベルギー出身の貴族妖怪だ。君たちの歯は私が人質にした。……人質というのは、つまり私の命令を聞かないと永遠にその歯痛は止まらないということさ。そして命令というのは“魔女”を寄越すことだ。幻想郷の魔女を我々に引き渡せ。そうすれば、その虫歯は治してやろう!!刻限は1時まで。よーく考えておくんだなァ』フハハハハハ

 

 

 

 カチッ──

 

 スイッチを切り終えて、満足そうに笑う。

 

 

 この妖怪こそ、バックベアード軍・牙の恐怖部隊に所属し、ベルギーの妖怪の歯痛殿下(はいたでんか)である。

 殿下は人々の虫歯への恐怖から生まれた存在で、その見た目は飛び出た目玉を持つ骸骨、頭部は至る所に穴が開き空洞となっている異形なのだ。性格は利己的でお調子者。また、自身を頭脳タイプだと思い、脳筋を見下している節がある。

 

 

『この歯痛殿下(はいたでんか)様の演説を聞いて、今頃、人間たちは魔女狩りでもしてるんだろうなあ。自分だけが助かればいいと考える種族だし〜。そういうのを逆手にとってこの計画を立てられた私はやはりエリート!やっぱりこの世は頭だね』

 

『殿下、あとは時間の問題ですね』

 

『その通りよ。さーて魔女を連れてくるまでお茶でも嗜もうかナ』

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里は、ひどい有様だった。

 

 

「い、痛いぃぃ……!」

「歯が……! 奥歯がぁ……!」

 

 

 あちこちで人々が口を押さえ、うずくまっている。子どもは泣き、大人たちは脂汗を流し、里全体が苦痛の声に包まれていた。甘い香りで満ちていた昼間とは、まるで別世界。その光景を、成美は呆然と見つめていた。

 

 

「……そんな……」

 

 

 里全体に響いた放送を聞いてから手の震えが止まらない。昼間、自分は確かに笑顔を見ていた。美味しいと喜ぶ声。幸せそうな顔。それを見て“良いことをしている”と思った。

 

 けれど現実は違った。

 

 

「わたしが……」

 

 

 唇が震える。

 

 

「わたしが、広めたから……」

 

 

 自分の手で配ったチョコレート。自分の言葉で、人々に勧めた。その結果がこれ。成美はふらりと後ずさる。視界が揺れる。

 

 

「皆んなを……」

 

 

 ぽつりと漏れる声。

 

 

「みんなを、幸せにしたかったのに……」

 

 

 胸が苦しい。

 苦しんでいる人たちを見るたび、心が締め付けられる。そして何より耐えられなかったのは自分が、その原因だったこと。成美はぎゅっと袖を握る。

 

 

「わたし……失格です……」

 

 

 うつむいたまま、震える声で呟く。

 

 

「お地蔵さま、失格です……」

 

 

 矢田寺成美、彼女の正体。

 それは、魔法の森の奥に立てられた古い地蔵であった。長い年月、人々を見守り続けてきた存在。迷う者を導き、小さな願いを受け止め、静かにそこに在り続けた。

 

 しかし彼女自身は地蔵菩薩の形に削られただけの岩。彼女はそんな岩に魂が宿ったゴーレムのような存在なのである。地蔵菩薩とは違う、ただの岩の魔女だ。

 

 だが、彼女は地蔵菩薩のように、人を救いたかった。誰かを安心させる存在でありたかった。だから衆生を救済するという命を自分に課していた。

 

 

 それなのに──。

 

 

「わたしは……誰も救えてない……。逆に苦しめている。やっぱりただの岩がお地蔵様のように人を救うなんて無理な話だったんだ」

 

 

 今にも泣き出しそうな声。

 その時だった。

 

 

「んなことねーだろ」

 

 

 聞き慣れた声が響く。

 成美が顔を上げる。箒を肩に担ぎ、呆れた顔で立っている少女、霧雨魔理沙だった。

 

 

「魔理沙ちゃん……」

 

 

 魔理沙は周囲の様子をちらりと見て、ため息をつく。

 

 

「お前は皆んなのために働いたんだ」

 

「……っ」

 

「誰かのために一生懸命やったのは間違いじゃない。悪いのはそんな思いを利用して、毒入りチョコを売らせようとしたやつだ。お前の純粋な気持ちを利用したんだ」

 

 

 魔理沙は成美の額を軽く小突いた。

 

 

「お前に責任はない。自分を否定してどうすんだよ」

 

 

 成美は目を見開く。

 

 

「でも……わたし……」

 

「あー、ウジウジすんな!そんなに罪の意識を感じてるなら今から償えばいいだろ」

 

「償う?」

 

「原因を作っちまったなら、自分で何とかする。それしかないぜ。……ただ何度も言うが、お前が罪の意識を感じる必要はないと思うんだぜ」

 

 

 成美は、ゆっくりと立ち上がる。

 魔理沙はニッと笑った。

 

 

「落ち込むのは、今じゃないぜ」

 

 

 その笑顔は、不思議と力強かった。成美はしばらく黙っていたがやがて、ゆっくりと顔を上げた。瞳の奥に、少しずつ光が戻っていく。

 

 

「……うん」

 

 

 小さく頷く。

 

 

「わたし、自分で何とかする」

 

 

 その声には、確かな決意があった。成美は袖を握りしめる。救いたい。今度こそ、本当に。苦しんでいる人たちを。そのために凹んでいるはない。魔理沙は満足そうに頷いた。

 

 

「よし。それでこそだぜ」

 

 

 そして二人は、夜の里を駆け出す。虫歯をばら撒いた妖怪。その元へ向かって────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

『・・・遅いな。里の人間たちは何をしているんだ?』

 

『魔女を捕まえられないのでしょうか』

 

『考えられる。虫歯菌、里の様子を見て来い』

 

『イエッサー』

 

 

 虫歯菌が走っていき、また帰ってくる。

 大体30分くらいであった。虫歯菌は歯痛殿下に大慌てで言った。

 

 

『大変なことが…!』

 

『大変なこと!?もしかして魔女を守るために私たちに抵抗でもしようと準備しているのか?』

 

『じ、実は、皆んな……』

 

『う、うむ』ゴクリ

 

『歯が痛すぎて演説が聞こえなかったようです』

 

『ナニィッ!?』

 

 

 盛大にコケる殿下。

 それでも虫歯菌は続ける。

 

 

『全員がのたうち回っており、異形の私が話しかけても気づいておりませんでした。殿下のお力は恐ろしいでございますね』

 

『まさか私の力がこんなにも影響するとは……。うーむ、ならば力を弱めるか?だが、弱めたせいで反撃されるとなぁ』

 

『ですよねえ……。ん?あっ、あれは!?』

 

 

 何かが飛んできている。

 箒に跨った二人組。その2人が地面に降り立った時に殿下の目が輝き始める。何故ならそれは喉から手が出るほど欲しかったモノだったから。

 

 

「お前だな、今回の犯人!」

 

『おおおおっ!!その見た目、その箒、……幻想郷の魔女とはお前か!!諦めかけてたが、なんたるラッキー!』

 

「魔女を探してた…?もしかしてお前は西洋妖怪!!」

 

『ふふふ……』

 

 

 バァっとマントをはためかせて格好よく決めポーズ。

 ガリガリスカスカの体を見せつけた骸骨は高らかに言う。

 

 

『如何にも私の名は歯痛殿下!そこら辺の田舎妖怪よりも遥かに上の存在である貴族妖怪だ!!さぁ、魔女よ。私と共に外の世界、バックベアード様の所へ来てもらうぞ』

 

「断る!誰がお前の言うことなんて聞くか」

 

『ふーん。だが断る選択肢なんか無いぞ』

 

「なに?」

 

『悪いが里の連中の虫歯の痛みの強弱は私の掌の中だ。逆らえばチョコを食べた奴らの歯の痛みをさらに上げて、死なせることもできる』

 

 

 歯痛殿下はゆっくりと近づき、肩を組む。

 

 

『考えなくてもお前の行動は一択だろう?』

 

「舐めんじゃねえよ。どうせ里のみんなを助ける気なんかねえんだろう。それに知ってんだぜ、歯痛で人が死ぬのは放置して菌が全身に回るからだ。痛みで人間は気を失うことはあるが、そう簡単には死なねえぜ」

 

 

 バシッと振り払われる。

 

 

『うぐっ』

 

「この魔理沙さまが脅しに屈するわけないぜ。さっさとお前をやっつけて、みんなの歯を治すぜ」

 

 

 今のを見て、成美は感動する。

 魔理沙という女はかなりの修羅場を潜ってきたのだろう、どんな相手にも怯えず、精神的にも屈しない……というか脅してくる相手のペースに飲まれないような立ち回りを心得ているのだ。

 

 

「魔理沙ちゃん、かっこいい!」

 

「よせやいっ!あっははは──もごぉっ!?」

 

 

 魔理沙の口の中に歯痛殿下が手を突っ込む。

 まさかの行動に固まる間に殿下は細く鋭い指で、奥歯をつんと突いた。それ以上は何もせず、口から手を抜く。

 

 

『大口開けて油断したな?』

 

「ぺっ、ぺっ、お前何した!?」

 

『何をしたのかは今わかる』

 

 

 人差し指をクイッと動かした。

 第一関節をくいくいっとただそれだけ。それだけで魔理沙の奥歯の表面は一気に溶けて、穴が開き、そして神経を撫で始める。

 

 

「あっ、あ゛がぁぁぁぁ……っ!?いでぇっ、歯がぁぁぁっ!!」

 

「魔理沙ちゃん!!」

 

 

 

 これこそが歯痛殿下の能力──【歯痛(しつう)

 

 殿下が相手の歯を触れたり、殿下を介した物を食べたりすると奥歯が虫歯となる力だ。そして痛みの強弱も可能。殿下が能力を止めない限り治ることはない。その歯を治療したり、抜いたりしたところで別の歯に菌が転移するので無駄だ。

 

 

 

 

 

 

『確かにお前の言う通り、虫歯で死なすには時間がかかる。だが苦しめるのは得意でね』

 

 

 さらに痛みのレベルを上げる。

 

 

「ギャアアアアアーーーッ」

 

『ふん。私に意見するからだ。このまま里の奴らの虫歯は放置して、この幻想郷の人間たちを絶滅させてやる。出て来い、歯痛菌!』

 

「ゔっ、うぇえええ……っ!?」

 

 

 魔理沙の口から新たな歯痛菌が飛び出す。

 虫歯の菌に妖力を与えることで、眷属「歯痛菌」を生み出すことができる。殿下は元からいた歯痛菌と今出てきた歯痛菌に命令を出す。

 

 

『運べ』

 

『『イィィーーー!!』』

 

 

 しかし魔理沙を連れて行かせるわけにはいかない。成美が止める。立ち塞がる。

 

 

「連れて行かせない」

 

『お前に用はない。無視してさっさと運べ』

 

「用は出てくるわよ」

 

『はァ?お前みたいな里芋女に……』

 

「私も魔女だから」

 

『・・・なに?そんなの私が信じるとでも……』

 

「これでも?」

 

 

 成美は近くの小石を数個浮かせる。

 それらには妖力などではなく、魔法の力──魔力が宿っているのが分かった。一つ一つは弱々しいが、しっかりとした魔力を纏っている。魔女である証なのだ。

 

 

『おっ、おおーーーっ!!な、なんと魔女だ!この白黒魔女がもう1人の魔女を連れてきた。鴨が葱を背負ってやってくるとはこの事だ!さぁ、お前もベアード様の元へ運んでやる』

 

「嫌よ。私にはそんな暇はない。みんなに辛い思いをさせた責任は私が取らなきゃいけないから」

 

『そんなことしなくていいぞ。お前がチョコを食べたのは感覚でわかる。この魔女のようにのたうち回れ』

 

 

 

 くいっ…

 

 

 

「・・・」

 

『・・・あれ、おっかしいな』

 

 

 

 くいくいっ、くいくいくいくいっ

 

 

 

「・・・」

 

『な、なんで…っ。……というか、私はチョコを食べた連中に歯痛を起こさせたのに、食べたはずのこの魔女は反応しなかった。その時点でおかしかったんだ!?』

 

「残念でしたね。私は虫歯なんて効きません、石なので」

 

『・・・へ?』

 

「だから私の身体は……、いえ私の髪の毛の先から細胞一つ一つまで全て石でできています。無機物は虫歯になんてならないでしょう」

 

 

 

 矢田寺成美はお地蔵さんだ。

 だが勘違いしないでほしいのが、彼女は地蔵菩薩(本物の仏さま)ではなく、お地蔵さんそのもの。つまり硬い硬い石像なのだ。石像に魂が宿って動き出しただけなのでゴーレムや九十九神のような存在なので、矢田寺成美に虫歯、そして毒などは効かないのである。

 

 

 

『くっ、くぅ……っ、そうかよ。だったら物量(カズ)で押すのみよ』

 

「!」

 

『イィィ…』『カチカチカチ』『キキキキ』『ギリギリギリギリ』

 

 

 いつの間にか大量の歯痛菌に囲まれていた。

 虫歯になった連中の口から飛び出してきた歯痛菌がこの場所に一気に集まってきていたのだ。

 

 

『かかれぇーーーっ!!』

 

「戦いは得意じゃありませんが本気でいきます!!」

 

 

 ゆっくりと手を地面へ向けた。

 その瞬間、空気が変わる。

 

 

『?』キョロキョロ

 

 

 大地が、脈打った。

 ドクンとまるで心臓のように。成美の周囲に転がる小石が、ふわりと浮く。さらに砂利。岩片。地面に存在する“石”という石が、震え始めた。

 

 

 矢田寺成美の能力──【魔法が使える程度の能力】。

 そして唯一無二で彼女ができるのは、生命操作である。本来、命を持たぬものへ、仮初の生命を与える力。

 

 

「動いてください」

 

 

 次の瞬間。

 石の竜巻が発生した。無数の小石と岩が渦を巻き、暴風となって墓地を駆け抜ける。歯痛菌たちが次々と巻き込まれる。石が骨を砕き、頭蓋を粉砕し、墓石サイズの岩が骸骨をまとめて吹き飛ばす。白骨の群れが、まるで枯葉のように宙を舞った。

 

 

「えいっ!」

 

 

 成美は両手を前へ突き出す。

 竜巻がさらに勢いを増した。意思を持った石たちが、敵を追い回す。逃げようとする歯痛菌の脚を砕き、腕をもぎ、頭を叩き割る。ギチギチギチッ!!と断末魔のような音。骨の軍勢が、一気に粉々に吹き飛んだ。

 

 

『ば、化け物ぉぉぉ……っ』ガタガタ

 

 

 白骨の破片が降り注ぐ。

 歯痛殿下の笑みが、歪んだ。

 

 

「私には全てを救済する夢があります。あなたも例外ではありません。今ここで歯痛を解除し、降参するならこれ以上は危害を加えるつもりはありません」

 

(こ、この貴族である私に田舎の魔女が上から偉そうに命令しやがってぇぇぇ……っ)ワナワナ

 

 

 へたりとその場で崩れるように座り込む殿下。その目にはもう何も宿ってなく、力など何もない。

 

 

「・・・」

 

 

 放心しているのだろう。

 成美は魔理沙の元へと向かう。そう、敵に背を向けたのだ。殿下は待っていた。油断している相手の背中が見られることを。ゆっくりと手を高く上げる。

 

 

『・・・』ニヤリ

 

 

 砕け散った歯痛菌たちの残骸、白骨の破片、砕けた頭蓋。粉々になった歯。その地面に散らばった“歯や骨”が、ひとりでに震え始めた。無数の歯が静かに宙へ浮く。乳歯。奥歯。牙のように尖ったもの。それらが集まり、絡み合い── 一本の巨大な剣へと変わっていく。

 

 

『・・・ヒヒヒ』

 

 

 白骨でできた、大剣。刃には無数の歯が並び、柄は脊椎のように歪んでいる。その不気味な剣を、歯痛殿下はゆっくりと握った。

 

 

『これぞ』

 

 

 低い声が響く。

 

 

「【殿下の宝刀】ッ!砕けろォ!!」

 

 

 大剣を振り下ろした。

 凄まじい衝撃。成美の脳天に直撃した。

 

 

「!!」

 

『ヒャッハーーーーッ!!』

 

 

 背後からの不意打ち。

 本当に貴族かと思えないくらいのゲスな笑い。

 

 

『脳天かち割ったァァーーーッ!!』

 

 

 

 

 バギッ───

 

 

 

 

『頭蓋がかち割れる音ォォォーーー……ん?ぅえっ!?』

 

 

 違う。

 割れた音の正体は──自身の大剣だ。砕けたのは自分の武器だ。刃が砕け、そのまま柄の部分までも粉々になる。残ったのはいまだに痺れ続ける自分の腕の感覚だけ。

 

 

『な、え、はぁ?ど、え?』

 

「言ったでしょう。私は石でできていると。そんな虫歯で出来たボロボロな刀で私を叩き壊せるとでも?」

 

 

 そうだ。

 いくら女の柔肌に見えても、その実はゴリゴリの岩である。あの程度の刀では傷一つつけられない。

 

 

「叩き壊すならこのくらいしてみなさい」

 

『!?』

 

 

 矢田寺成美の身体に、岩石が纏わりついている。

 小石。岩。それらすべてに生命を与え、自身の肉体と一体化させていた。あの柔らかそうな体に石の鎧。

 

 

「魔符──」

 

 

 周囲の石が彼女へ集まっていく。

 腕が肥大化する。肩が盛り上がる。脚が大地と一体化する。その姿に虫歯の魔理沙は頬を抑えながら息を呑む。

 

 

「おいおい……」

 

 

 成美の姿は、もはや人型ではなかった。巨大な岩石の塊。山のような質量。その全身を、弾幕のように小石が巡っている。周囲の石が一斉に脈動した。

 

 

「『バレットゴーレム』」

 

 

 巨大な岩の巨人が完成する。

 見下ろすほどの巨体。その瞳だけが、静かに光っていた。歯痛殿下が後ずさる。

 

 

『あ、ぁぁぁ……っ!?』

 

「これから振り落とされる一撃を喰らってみなさい……」

 

 

 ゴーレムとなった成美が、低く響く声で言う。

 その巨大な腕が持ち上がる。空を覆うほどの質量。歯痛殿下が絶叫する。

 

 

『待って待って待ってェェーーーっ!!私は戦いが苦手、いや、嫌いでっ!争い事なんてやめましょう!えとえとえとえとえとえとえとっ、あーっ、ごめんなさいっ!皆さまの虫歯は元の歯に戻しましたっ!だから許し──』

 

 

 ドゴォォォォォォン!!

 岩の拳が叩き潰した。衝撃で地面が陥没する。周囲が吹き飛び、土煙が空へ舞い上がる。そして土煙が晴れた時。そこにあったのは巨大な拳の跡だけだった。歯痛殿下はぺちゃんことなり、完全に沈黙していた。

 

 

「ふう……」

 

 

 成美はゆっくりと岩を崩していく。

 岩、石、小石がぱらぱらと落ち、元の少女の姿へ戻る。その表情は、どこか穏やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、ごめんなさいっ!考え無しにあのような物を渡してしまって…!!」

 

「すいまへんでしたー」

 

 

 騒動終了後、ねずみ男と成美は里で人々に謝罪していた。

 成美がねずみ男の手を無理やり引き、里のみんなに今回の騒動のことを全て伝え、自分たちも知らないとはいえその片棒を担いでしまったと正直に伝えた。もちろん彼女が悪いわけではない。成美は皆んなに幸せになってほしいという想いで、何も知らずにやっていたので謝らなくてもいい。だが、人々に辛い思いをさせたことは謝らないと気が済まなかった。

 

 

「・・・成美さん、頭を上げてくれよ」

 

「皆さん」

 

「俺たちだって美味いからってよく分かんねえもん買ったわけだしよ。それに聞く限り、悪いのはその外から来た妖怪らしいじゃねえか。そんな相手をやっつけてくれたんだし、俺たちはアンタを責める気はねえさ」

 

「そうだな。それに今回のことで歯の大切さも改めて知れたよ。当たり前に口の中にあるけど大切にしないとこんなに苦しい思いをするんだからな」

 

 

 里のみんなは責めることはしなかった。

 彼女の誠心誠意謝るその姿に心打たれたからだ。成美はその優しさに涙を流す。

 

 

「ありがとうございますっ、これからも皆んなのために頑張ります!!」

 

「良かった良かった、これぞまさに雨降って地固まる、だな。さーて俺様は行くとするぜ」

 

「ねずみ男さん」

 

「成美ちゃん。歯だけじゃなくて自分自身も磨いていくんだぜ!」キラン

 

 

 そう言って去るねずみ男。

 しかし、ねずみ男の肩をガシッと男たちは掴んだ。

 

 

「待てよ」

 

「な、何スカ?今かっこいいこと言って終わりませんでしたカ?」

 

「そりゃあ成美さんは許せるけどよォ…。お前は怪しいのが分かってて売りつけたんだよなあ?」

 

「ぎくっ」

 

「金返してくれるよなァ?」

 

 

 男たちがギロリと睨む。

 そして囲まれた。しかし、ねずみ男は焦ることなくニヤリと笑って大きく息を吸う。

 

 

「すぅ〜〜〜〜っ」

 

「なんだ?」

 

「はぁああ〜〜〜〜〜っ!!うけけけっ、俺の息で苦しむんだな。返す金なんかねえよ!悪いけど、ほとぼりが冷めるまで俺はトンズラこかせてもらうぜぇ・・・」

 

 

 ぎゅっ…

 

 

「あれ?なんだなんだ、進めねえぞ。あれ?」

 

「何の真似だい?」

 

「な、なんで俺の息が……、あっ……俺、歯医者に行ったから色々と治療されたんだ…」

 

 

 こきっ、こきっ

 男たちが拳の骨を鳴らすたびにねずみ男の顔は青ざめる。

 

 

「じょ、冗談じゃないですか!可愛い冗談!僕が逃げるわけないでしょう!いやだなー、あはは」

 

「「「許さんっ!!」」」

 

「ひぎゃああああーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからはもう変な奴から貰ったものは売らなくなるかな」

 

「分かんないねぇ。嘘つくやつはいつまでも嘘つくから。いやぁ〜、けどまぁ歯が治ってから飲む酒は美味いわぁ〜」

 

「反省なんか知らなそうだもんな、やれやれだぜ」

 

「私が手を下す前にあの子達がやってくれるから嬉しいもんだ。幻想郷は安泰だねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュグナーの言う通り、食べなくてよかったわ」

 

「・・・ほらね、言ったでしょう」ニカ

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

『・・・はっ!こ、ここは・・・』

 

 

 暗くて、静か。

 鉄格子があり、自分の手足には枷が付けられている。

 

 

『な、何ここ』

 

「目が覚めたか」

 

 

 目の前には九つの尾を持つ女と銀髪の幼子。

 幼子の方は自分、西洋妖怪に近いものを感じた。

 

 

「ここは私の屋敷にある地下牢よ、侵略者さん」

 

『な、なんだ、私に何をする気だ!?』

 

「拷問だ。西洋式と中華式の拷問、どちらがいい?」

 

『ひぃっ』

 

 

 2人の背後には数えきれないほどの拷問器具。

 冷や汗が止まらない。

 

 

「だがまぁ、すぐやる訳ではない。ベアードたちがやってくるというワルプルギスの日を正確に教えてほしい」

 

「正直に話せば加減はしてあげるわ」

 

『……話せると思うか!?ベアード様に逆らえばただじゃあ済まないんだぞ!?』

 

「そう」

 

 

 大きなペンチを幼子は持ち上げる。

 

 

「それじゃあ何枚か爪を剥がせば言えるかも知れないわね」

 

「だな」

 

『ばっ、まっ、待って!分かった、話す!ワルプルギスの日はあと、は、81日だ!!』

 

「・・・81日、つまりお盆の頃か」

 

『俺たち西洋妖怪が強くなる日だ。ここと外の時間の流れはよく分からないが、あと81日っていうのは本当だ。なっ、話しただろ?だから許してくれ!ここから出してくれ』

 

「……まぁ、いいか。私は帰る。奴らがくる前に対策をしておかなければならないからな」

 

『ほっ……、もうベアード様に仕えるのはやめよう。田舎で療養して静かに暮らそう』

 

「じゃあ後は楽しんでくれ、レミリア嬢」

 

「ええ。私に恥をかかせた分はしっかりと罰を受けてもらうから楽しんでね」

 

 

 

 グヂィッ──

 指が捻りちぎられる。血飛沫が冷たい石畳を一気に染め上げた。

 

 

 

『あっ、あぎゃああああ……っ!!ゆ、指がァッ、俺の指がぁぁぁっ!?』

 

「あっははは!虫みたーい!」 

 

『たずげでぇぇえええ〜〜〜っ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣の牢の桐一兵衛くん「お隣さんだ!どんな人かな」ワクワク

 

 

 

 

 

 

 

 

ワルプルギスの夜まで残り81日─────。

 

 

 

 

 




 読んでくださりありがとうございます。

 矢田寺成美さんも、歯痛殿下も、どちらもリクエストでございました。
 さぁ、ワルプルギスの夜まで残り81日でございます。ただここで注意なのが我々の時間と小説内の時間は多少ずれてますのをお伝えしておきます。

 


 さて、次回ですが──
 また少しバトル系以外を書こうかなと思います。最近ずっとバトルばかりでしたので。鬼太郎はアクションだけではないので、少しアクションから離れます。
 怪気系か、イロコイか、どうしようか悩みます。

 順調にリクエスト消化できて嬉しい
 
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