こんにちは、狸狐です。
こんにちは、というよりもお久しぶりです。仕事が忙しすぎて進みませんでしたが何とか書き終えられてよかったです。
今回はリクエストではなく、私の出したかった子達を出しました。
「やべえ〜っ、漏れちまう〜」
今日も今日とて、幻想郷を彷徨く風来坊──ねずみ男が何やら自分の股間付近を押さえて慌てていた。実は食べ物を探している最中に催したようなのだが、今いるところは人の目が多いので立ち小便ができず、人がいない所に急いで移動していた。
「んっ、んん〜〜っ?へへっ、流石にここなら誰も居ねえや」
辿り着いた場所は命蓮寺に向かう途中にある墓場。
この墓場は命蓮寺の近くということもあり、人を襲うタイプの野良妖怪たちは近寄らない。なので人々は通り抜けて命蓮寺に向かったり、墓参りをしたりするのだが、この夕暮れという時間帯だと人は居なかった。
「へっへっへっ、知らねえ奴らが眠ってる場所でションベンすんのも中々に乙なもんだよな」
なんで罰当たりなやつだ。
だが、勘違いしないで欲しいのは、人の墓石にはかけるつもりはない。この墓場内の茂みに向かって行うのだ。基本的に罰当たりで不信心な男ではあるが、半分妖怪ではあるので、罰当たりなことをすると“ちょっとやべえ”くらいは自覚している。だから茂みなのだ。
「よいしょっと」ジョロロロロロ
服?をたくし上げて、放尿。
我慢していたものを一気に放出する快感は、美味いご飯を食ったときや良い旅館の温泉に浸かった時と同等だろう。
「うひょぉおお〜〜〜っ、止まんねえや。きっもち〜〜〜」ジョボボボ
ひゅるるるる〜〜〜
「ん?」ピタッ
突然、生温かい風が吹き始めた。
その風が頬をくすぐると
「・・・?」
「しくしく…」
啜り泣く声が響いた。
誰もいないはずの墓場で。どこで、いったい誰が泣いているのか気になり、声のする方へとふらふらと歩く。
「なんだ?」
「しくしく…、しくしく…」
「なんでい、ガキが泣いているだけか。………俺がションベンしてたの見られたかな。まぁ、
子どもが泣いていた。
うずくまって顔を両手で覆い、悲しそうに。
「おい、どうしたんだよ。迷子か?」
「えーんえーん」
「そんなに泣くなよ…。墓下で寝てる奴の邪魔になってるからよ。おじさんが里まで連れてってやるからよ」
「えーん、私の傘が破れちゃったんだよぉ〜」
「傘?」
子どもの前には、紫色の立派な傘が置いてある。
見る限りは破れてなさそうだが、ねずみ男は手に取って確認してみる。
「ん〜、どこも破れてねえぞ」
さらに確認するために、バサっと傘を開いた。
その瞬間、傘に大きな目玉が一つがギョロンと剥き出て、パカァっと口が開き、長い舌がぺろんと飛び出す。
「ばぁ〜〜」
「なはぁっ!?!!」
びっくりしてそのままひっくり返るねずみ男。
その様子を見て、傘と子どもが腹を抱えて笑った。
「あっははは!やーい、驚いた驚いた!わーいわーい!」ケラケラ
「て、テメェは、いつぞやの……傘化けっ!」
そう。2人は知り合いだった。
以前、ねずみ男がぬっぺっぽうの名前を使ってお年寄りから金を受け取るという事件を起こしたことがあったのは覚えているだろうか?そのぬっぺっぽうと出会う際に、ねずみ男はちょうどこの墓場で初めて会ったこの傘化けをいじめたという過去があったのだ。
「傘化けじゃないもん。私にはちゃんと
「ムキーーーッ!こんなガキに脅かされるなんて悔しい〜〜〜……あら」
緊張からの解放。
安心すると同時に何かせき止められていたものが、込み上げてきて、完全に力を抜いていたねずみ男の不意をついて発射された。
じょろろろ、じょぼぼ、じょーーーー
「へ」
「あららららっ!?」
「い、いやぁああああーーーーっ!?!?」
「と、止まらないよ、あらあらあらーーーっ!?!?」
持っていた傘も、小傘自身もあっという間にねずみ男のアレに染め上げられる。ねずみ男の方もなんとかして止めたいのだが、一向に止まる気配はなく焦れば焦るほど出が良くなる。
ねずみ男の膀胱は常人のものよりも遥かに立派である。故に、かなりの量を溜めることができる。しかしたくさん溜められるのは別にすごい機能なんかではなく排泄にかなり時間がかかってしまう。
加えて、彼の尿はかなりの毒素が含まれている。
徳の高いお坊さんがした封印を溶かしたり、相手の体を溶かしたり……。また、外の世界で彼の尿を見た医者からは天然記念物になるとまで言われたほどだ。
「お、ふぅ〜〜っ、やーっと止まった。ごめんよ、小傘!大丈夫か!!」
「いだいっ、いだいよぉおお〜〜〜っ、あ゛ぁぁぁ〜っ!!」
「す、すまねえっ、今洗い流してやるからな!」アセアセ
痛みと匂いで泣きじゃくる小傘。
ただ不幸中の幸いなのが、彼女が水から人を守る道具である傘の妖怪だからこそ、このくらいで済んだ。ねずみ男はすぐに担ぐと、射命丸文が見たら驚くくらいのスピードで走りだし、川へと向かうのだった。
「お墓の方から誰かの悲鳴ですって!?」
「間違いないよ!聖ー!」
音に関係する妖怪、響子が聖と共に墓場は向かう。
そして辿り着いた先で聖白蓮は───
「なっ、なんじゃこりゃあああああーーーーーーーーーっ!?!?!?」
汚い液体があたり一面に飛び立った墓場を見て、あげたことのない悲鳴をあげた。その声は永遠にこだましたという。
※
「・・・」ウルウル
ねずみ男に川に連れられた小傘。
そこですぐに肌についた尿を洗い流し、同時に傘も丁寧に洗われていた。小傘は汚れた服を脱がされ、下着姿で川の中に立っており、傘を洗うねずみ男の背中をギロリと睨み続けていた。
「……っし、こんなもんか?」ジャブジャブ
そしてなんとか綺麗になった服と傘を焚き火の近くで乾かし、小傘とねずみ男は焚き火を通して向かい合うように座っていた。
「さいあく…」
「悪かったよ。この通りだ、ごめん!」
「初めて会った時にはオナラをされて、今度はおしっこかけられて……。わちきはトイレじゃないのに…、傘なのに……」
「うぅっ……、け、けどよ、いつもいつも先に俺っちに構ってくるのはお前じゃねえかよ!」
パチパチと火が弾ける。
「しょうがないじゃん。お腹空いてるんだもん」
「そういや前も言ってたな。でも腹が減ってんなら飯を食えば良いだろう。買う金がなくても小傘には頼れる奴、ほら、あの寺の尼さんがいるじゃねえか」
「聖のこと?……そりゃあ、聖はお腹を空かしている妖怪を見たらご飯を分けてくれる優しい奴だけど…、わちきはご飯じゃお腹いっぱいにはならないんだ。そういう妖怪なんだよ」
「じゃあ何食うってんだよ?ウンコか?」
「だからトイレじゃないって!!」
「じょ、冗談よん」
小傘はその無神経なジョークに一瞬怒ったが、次第に呆れて、そして大きなため息を一つついた。
「……わちきは心を食べるんだ。恐怖っていう心を」
傘と小傘の表情がさらに暗くなる。
「妖怪は人に恐れることで存在できる。わちきはその恐怖心がないと腹も満たせないし、存在もできなくなるんだ。でも幻想郷は妖怪たちの楽園だ。つまり色んなところで出会えるから皆んな妖怪には慣れてる。……それに
「けどさ、脅かすにもやり方があるじゃねえか。妖怪と人間なんて力には差があるんだから、えーと、そうっ、こうさ、無理やり力で屈服させたり、暴力でビビらせるってのもアリじゃねえのかな」
「それだけはダメ」
「な、なんで」
先程までとは違う力強い言葉にねずみ男は狼狽えてしまう。
「
「お爺ちゃん?なんだよ、家族がいたのか」
「血とか何にも繋がってないけどね。……私が傘から妖怪になりたての頃に出会って…、結構面倒見てもらったんだ。すごく強くて、優しくて、大好きで…」
小傘はゆっくりと自身の過去を話し始めた────
小傘は九十九神。
まだ使えるのに捨てられた傘に魂が宿った存在。
妖怪として新たな人生を歩み始めた小傘は、すぐに元の持ち主を探した。また使って貰いたい、まだずっと一緒にいたいと。だが、見つけた時にはもう遅かった。別の新しくて綺麗な傘と一緒にいる持ち主を見て、小傘は絶望した。
加えて、小傘は【傘化け】という妖怪の力も知った。人間たちの恐怖でしか腹を満たすことができないと。
だが幻想郷の人間たちを驚かせるというのは、小傘のような妖怪では至難であり、脅かさずに馬鹿にされるのがオチであった。
「傘としても、妖怪としても、存在価値がない。だから死のうと思って、山に入った時にさ、……お爺ちゃんと出会ったの。そして色々と面倒見てもらったわ」
「良い奴に出会えたんだな」
「結構経って元気になった時に……急にさ、思いついたんだ。なんか天啓っていうの?……力も付いたから、その人間に復讐してやろうって」
「は、はぁっ!?こっわ、良い話が続くと思ったのに。まだ根に持ってたのかよ」
「そりゃそうじゃん」ケラケラ
小傘は何言ってるのと面白そうに笑う。
「他の妖怪は知らないけど……、九十九神っていうのはさ、人間と長い間一緒にいたんだよ。忘れるわけないじゃん。楽しいことも、嫌なことも、全部全部……」
「・・・う、ぅ」
「それに復讐もできるし、わちきに対して怯えてくれるし、一石二鳥だもんねー」にぱっ
「・・・っ」ゾクッ
「それで、さっそくやろうと思ったんだけど、お爺ちゃんに止められてね。そこで言われたんだ〜。……“本当の妖怪っていうのはそこにいるだけで人間を恐怖させられる力があって、それが誇りなんだ”ってさ!」
小傘の表情と声色が明るくなった。
「そこの闇の中にいるかもしれない、どこからか覗いているかもしれない。……確かに力でビビらせるのは誰でもできるけど、妖怪は力なんか無くても存在するだけで相手を震え上がらせることができる!!その考えがめちゃくちゃカッコよかったの!」
「なるほど・・・」
「だからわちきは暴力なんか振るわない。妖怪なら妖怪らしくおどろおどろしく怖がらせてやるって決めたんだ」
「でも──」
「わちきを怖がる奴なんていないんだよぉ。もう1週間も何も食べてない。ひもじいんだよ…。やっとオジサンが驚いてくれたから少しは満たされたと思ったのに、さっきのせいで身体を回復させるのに妖力を使っちゃって……。うぅっ…辛いよ、ひもじいよぉ」ギュルルル
腹が鳴っていた。
流石のねずみ男も同情した。ねずみ男も幼少期から腹が減って辛い思いをしてきた。なんだか自分を見ているようで、いつものように無視することができなくなる。
「〜〜〜〜っ、よっしゃ!」
「?」
「小傘。このビビビのねずみ男様が協力してやるぜ!」
「え、嬉しいけど……、なんで?」
「なんで怖くもないのに脅かしてくるんだと思っていたんだが、そういう事情だったんだな。ったく、お互い苦労人同士、頑張ろうじゃねえか!」
ねずみ男は手を差し伸べる。
小傘は迷った。この男は散々意地悪をしてきたのだから。ただ、こんなにも協力してくれると言ってる優しさには素直に嬉しいと感じた。故にゆっくりとだが、手を取った。
「よ、よろしく!」
「人間たちを恐怖のずんどこ、いや、どんぞこに叩き落としてやろうぜェ〜っ!!」
「おお〜っ!」
※
次の日の朝──。
2人は、ねずみ男ハウス(ゴミ捨て場の近くに建てた掘立小屋。壊れようとも所詮はゴミなので大丈夫な建物)で会議をしていた。
「うらめしや〜……ってよぉ、時代遅れじゃねえかな。それにその傘もどうだい。大して怖くもねえし」
「わちきが時代遅れって言いたいの?」
「この妖怪の数が多い幻想郷では目立たねえって言いたいの!もっとこう、ドーンとさド派手にならねえとよ」
そんな会話をしながら2時間も経過していた。
「そうは言ってもなあ・・・」
「そうだ!
「ま、混ぜる?」
「俺に任せときな。このゴミ山は宝の山よ。見た目をもっと怖くしてやるぜ」
ねずみ男は小傘を立たせると、支度に取り掛かる。
小傘の見た目は簡単に言えば幼女。どこからどう見ても怖くはない。強いて言うなら、傘の方が怖いくらいだろう。だからこそ傘の方ではなく、小傘の見た目をもっと凄くするしかない。
「えーと、右手は鎌にしよう。短い髪の毛も怖くねえよな、もっとこう言う風に……。左手はやっぱり蛇みたくしてぇ…。牙も必要だし、あとは何より猫だよな。この世で一番怖えもんだし……」
「うぅ……」
「出来たァァーーーッ!」
ねずみ男は割れた鏡を持ってきて、小傘に今の姿を見せた。
ねずみ男は様々な妖怪に会ってきて、たくさん怖い思いをしてきた。自分の怖いものや苦手なものを廃材で表現し──────右手は“かまいたち”のような鎌が付いており、左手には化け猫のように鋭い爪がある。夜叉という長い髪の毛だけの妖怪も怖かったのでカツラで長髪にする。
そして何より嫌いな猫の要素を取り入れ、頭にはリボン、猫耳、お尻の辺りには猫の尾のようなものがついている。・・・・いやぁ、これはコスプレだ。外の世界では秋葉原だとかにいそうな見た目だ。
「やべえよ、やべえよコレ……!こんなの出てきたら怖すぎて心臓止まった後にまた目を覚まして、そしてまた心臓止まっちまうよ…!!」
「い、いや、ここここ、これは……っ」カァァァ
「どこからどう見ても最恐妖怪……」ゴクリ
ねずみ男は自信満々に言う。
「……よっしゃ、早速人間どもをビビらせに行くぞ」
そう言って、ねずみ男は外に連れ出そうとするが、小傘は抵抗する。顔を真っ赤にしながら嫌がった。
「む、無理っ!無理無理ムリムリムリっ!!」
「何嫌がってんだよ!」
「恥ずかしいぃぃ…っ、絶対に嫌ァァーーーッ!」
「やる前から諦めんなよっ、やってから諦めろ!ほら、こい!」
「待って、わちきの半身!わちきの傘がー!」
「あんなの怖くねえから置いてけって!」
「イヤァァァーーー……、わちきの傘ァァァーーー」
※※
「お?なんだァ?」
里に何やら舞台ができていた。
幽香との特訓が終わり、里へと帰ってきた魔理沙。見慣れないものと見慣れた男が気になり、足を止める。
「・・・で、段取りは……」
「よっ、ねずみ男」
「!? び、ビックリしたァ!なんだよ、魔理沙ちゃんか!」
「にひひ、悪りぃ悪りぃ。それでコイツはなんだ?」
「これか?聞いて驚けよ、これは人間たちをビビらせる妖怪を登場するための舞台だよん!」
魔理沙の眉が少し吊り上がる。
「まさかまた悪巧みじゃ」
「そんなんじゃねえよ!ひでえな!……実はよ…」ゴニョゴニョ
ねずみ男は何があったかを話す。
もちろん小便を幼女にかけてしまったことは言わなかったが。
「へぇー!金が絡んでないなんて珍しいぜ。明日は雪で降るんじゃねえか?」
「うっせえわ!とにかく腹空かして困ってるなら助けてやるのが人情よ。魔理沙ちゃんも怖がりすぎて夜中トイレ行けなくなるなよな」
「はいはい。……ただよ、小傘の見た目を変えただけで人間たちをビビらせられるのかな」
「やってみねえと分かんねえよ。よし、そろそろだな」
不器用ながらに作り出した手作り舞台の上でねずみ男はスーツを着て現れる。それを見て、里の人々は注目した。ねずみ男はこれこそチャンスだと思い、声高らかに宣言する。
「「・・・」」ヒソヒソ
「妖怪に慣れた人間たちよ!妖怪に対する恐怖が薄れてきたこの頃、この俺がお前たちを恐怖のどん底に落としてやろう!」
「「・・・!」」ゴクリ
「あっ、もちろんルールは守るから暴力とかはないからネ♡……こほんっ、では出でよ!!ニュー・小傘!」
ドン────
「う、うらめしやぁぁぁ〜〜〜…」
「「「「・・・っ」」」」
この世の時が止まった────。
全員の目が点になり、口がぽかんと開いている。魔理沙はねずみ男のセンスの低さがここまでとはと呆れつつ、そして見ていられないと目を逸らす。小傘の方も怖がらせようとはしているのだが、この羞恥心には耐えられず顔を真っ赤にしてプルプルとちわわに震えていた。
「・・・ぷっ、くふふふ」
しかし止まっていた時間は誰かが笑ったことで動き出す。
1人、また1人と彼女を嘲笑し始めた。中には幼い女の子がすごい格好をしていると興奮する者までも現れる。
「な、て、テメェら、笑ってんじゃねえ!!どう見たってめちゃくちゃ怖いじゃねえか!」
「どこがだよ、おっさん」クスクス
「ありゃあ、お遊戯会だよ」ケラケラ
「テメェら……、はっ!こ、小傘…!」
小傘は駆け出していた。
普段だって驚かせることはできないのに、今回は嘲笑までされ悔しくて、悲しくて…涙が止まらなかった。
「・・・っ!!」
「小傘!」
ねずみ男はすぐに追いかけるのだった。
「何やってんだよ、もう!」
魔理沙も後ろから追いかける。
3人がいなくなった後、人々は再び黙り込む。一体なんだったんだ、我々はお笑いを見せられたのかと。あとこの舞台をどうすんだよとも。
この時点でねずみ男も、魔理沙も、小傘本人も気づかなかった。
小傘の心の中に溜まった絶望という負の感情が溢れ出して、形になっていることに。
『ケ、ケケケ・・・!!』
※
小傘はねずみ男ハウスの中にいた。
先ほどまで着ていた装備を投げ捨てて、隅っこで体育座りをして顔を埋めながら。狭い狭い部屋の中にはシクシクと少女の啜り泣く声だけが響いているけ。ねずみ男はそんな小傘に近づき、声をかける。
「小傘、あの、その……すまんっ。俺が余計なことしたせいで……」
「・・・」
「少しでも力になりたくてよ、無い頭使って考えてみたんだけど」
ねずみ男には今回悪意なんて微塵もなかった。
ただ妖怪として怖がられるような存在になりたいと願う小傘に、腹を空かせて泣いている小傘に、元気を出して欲しかっただけだった。だが全て裏目に出てしまい面目立たず、申し訳なかったのだ。
「・・・分かってる」
そして小傘だってそれは理解していた。
ねずみ男が意地悪や金儲けのためでは無く、ただただ力になりたくてやってくれていたことに。
「分かってるよ、ねずみ男が一生懸命応援してくれてることも、私じゃあ誰かを驚かせるなんて無理だったってことも…」
「小傘…」
「いや、違う。本当は気づいてた。私には怖がらせる才能がないって。でも気づかないようにして、お爺ちゃんの考えを志にして頑張ってきた。けどやっぱり私には怖がらせる力なんてない」
外で聞いていた魔理沙は俯く。
これはどうにかできる問題ではないと。幻想郷は妖怪にとって楽園かもしれないが、それは強いものにとってだ。この世は弱肉強食。人から恐れられない妖怪は滅ぶしかない。だからこそ野良妖怪たちは必死に恐れられようと人間を襲う方法を取るのだ。それに反するスタイルを取る小傘にとってはかなり生きづらいだろう。
「・・・小傘」
ねずみ男は小傘に何かできないかと、寄り添うことはできるかもしれないと近づくが、その前に小傘が涙を拭いながら頭を上げる。
「けどさ」
「!」
「怖くないとか思われても、ここまでずっとやってきた。お爺ちゃんと練習したり、ねずみ男と会議したり、皆んなと色んなことやってきたりしたのを無かったことにしたくないよ。わちきは諦めたくないよぉ……っ」
「小傘……!!」
小傘は諦めてはいなかった。
ねずみ男はぐぅっと拳を強く握り、そして小傘の頭をぐしゃぐしゃと撫でまくる。
「その通りだよなぁっ!諦めたって、泣いたって、今が変わんねえんだ!俺たちみてえなのは立ち上がるしかねえんだよな!この野郎っ、俺より若いのに分かってんじゃねえかよ〜〜!!」ワシャワシャ
「やめてよ〜!」
ねずみ男は嬉しかった。
なんでか分からない。なんで自分がこんなに喜んでいるのか分からないが、へこたれずに立ち上がる小傘の姿が嬉しかった。そして魔理沙はほっと一安心。変に間に入らなくても良かったとその場を離れようとした。
その時だった─────
『けど希望だけじゃあ変わらねえよなあぁぁぁ………!!』
「「!?」」
「誰だ!」
部屋の中に広がる邪悪な妖気。
2人の前に魔理沙が立ち、声の主へと八卦炉を向ける。しかし3人はその声の主の姿を見て、驚いた。それは──
「嘘だろ!」
「お、お前はまさか!?」
「な、なんで…、なんで──
3人の前に現れたのは多々良小傘が常に持っていた一つ目で舌をだらんと出した傘。傘化けである小傘のもう一つの本体であった。妖夢が半人半霊であり、もう1人の霊体の自分といるように、小傘とその傘も2人で1人なのである。
『なんで?それはお前が一番知っているだろう、小傘』
「・・・え?」
『お前は俺で、俺はお前だ。だから何故俺が動いて、喋っているのか分かるだろう』
小傘は少し考えてから震えた声で言う。
「人間を怖がらせるため…。圧倒的な暴力で恐怖させたい、から……」
『その通りだ』
「・・・っ」
『空腹が辛い、怖がられないのは辛い、ダメな妖怪だと馬鹿にされるのは辛い、報われないのが辛い、辛い辛い辛い、つらいつらいつらいつらいつらい………!!お前がどんなに明るく振る舞っても、心の中に溜まった負の感情は残り続け、俺がそれを溜め続けた』
一つの目玉が真っ赤に染まる。
『お前が辛い思いをすれば、俺も辛い。俺は辛いのは嫌だ。辛いのは苦しい。こんな思いをし続けるなら・・・、手っ取り早い手段で恐怖を集めてやる。お前が頑張ろうが、奮起しようが関係ねえさ!!』
「で、でも……っ、そ、そんなこと、わちきは…」
『無理だね。俺を止めることはできない。俺がお前をぶっ飛ばして、体の主導権を奪う。俺がお前になり、お前が俺へと変わるんだ』
自分の反乱。
小傘は負の自分と向き合っている。今まで見ようとしなかった、心の奥底にしまっておこうとした物と向かい合っているのだ。動けない、苦しい、直視できない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
『安心しろ。今までの立場が変わるだけだ。今度はお前が見ていろ。俺が代わりに動いてやる。もう腹が減ることはない。人間たちに恐怖を──』
「させるかァァーーーッ!!」
伸ばした手をねずみ男が叩き、払う。
『!?』
「このネガティヴ野郎!小傘が前を向くって決めてんのに、
『偉そうに……!お前が俺を止められるとでも思ったのか!!』
「いや、お前を止めるのは私だぜ」
『霧雨魔理沙ァッ…』
「人間を襲うっていうなら止めるのが私の役割だぜ。その腐った心、消し飛ばしてスッキリさせてやる、ぜ・・・、……ヒィッ!?」
「・・・う、ぁぁ、ぁ!?」
これから戦いが始まる。
ここにいる誰もがそう思った。だが、そうはならなかった。
まず始めに魔理沙がこの隙間だらけの廃屋(ねずみ男ハウス)から巨大な足が見えた。次にねずみ男は巨大な目玉を一つ見た。黄色く光る眼光にひゅっと息が詰まる。
『な、なんだ、後ろに誰か……、あ゛ぁぁっ!?』
「あ!」
『なんで、なんでお前がァァァーーー……・・・ 』
そして廃屋を破壊しながら獣のような大きな腕が傘化けに掴みかかる。逃げられず、抵抗しても抜けられず、そのまま引っ張られる。廃屋の中にいたねずみ男、魔理沙、小傘はそのまま落ちてくる廃材に巻き込まれてしまった。
ねずみ男と魔理沙の耳には獣の咆哮が残り続けた。
※※
「お爺ちゃ〜〜〜〜んっ!!」ギューッ
「おぉ、おおお、元気しとったかぁ。小傘」フォッフォッ
ねずみ男と魔理沙は、顔を見合わせてからまた小傘の方を見る。なんとまあ大きな妖怪だろう。だいたい5メートルくらいで筋骨隆々で丸太のように太い腕。熊のような一本足。そして金色の一つ目。ここで暴れたら里を半壊させるくらいだろう。
「こ、この方が、小傘のお爺ちゃま…」
「確かにこりゃあ暴力なんか振るわなくても見た目だけで人間を震え上がらせる迫力だぜ」
小傘なんか片手で包み込めるくらいの広い掌でゴシゴシと撫でながら、2人を見る。
「ねずみ男さん、魔理沙さん」
「「はい!!」」ビシィッ
「この
一本だたら
雪山に出る人を襲う妖怪。だが色々あって反省し、今は大人しく山で過ごしている。人々は雪山で一つだけの足跡を見ると、一本だたらがいるとよく恐れたという。
時代の流れで、幻想郷に移住。そして多々良小傘は彼に拾われ、色々と面倒を見ているのだった。
「ん?一本だたら?え、も、もしかして──」
「魔理沙ちゃん知ってるの?」
「もしかしてお爺さん、貴方……、あの何十年も予約待ちしなきゃダメな、伝説の鍛冶屋……“
「おや、わしをご存知で?」
「ご存知も何も超有名人だぜ…。あなたの作った物はたたらブランドって言われて高額で扱われている。すげぇよ、まさか小傘の爺ちゃんがこんなビッグネームだとは……!!」
「マジかよ!!……ってことはこのコネを大切にしときゃあ金儲けをし放題なんじゃ」グフフフ
1人は感動。もう1人は金儲けを企む。
その裏で小傘は久しぶりの義祖父に喜んでいた。
「ねえ、お爺ちゃん。なんで夏なのに来てくれたの?」
「ふぉっふぉっ。なーに、ただ胸騒ぎがしたからのお。そして予感的中じゃ。早めに悪心を払えて良かったわい」
小傘の近くには目をぐるぐると回した傘が倒れている。
あの時の邪悪な気はなくなり、喋ることもなく、先ほどまでの力は失っているようだ。一本だたらは言葉を続ける。
「九十九神は他の妖怪と違い、心に深く密接している。良い心に触れてきていれば良い妖怪に、邪険に扱われていれば悪い妖怪になる。小傘は使えるのに捨てられた傘から生まれた妖怪だから根は悪になるだろう。だが、どんな悪妖怪といっても誰かが支えてくれれば真っ直ぐ進むことができるし、善妖怪も一人ぼっちなら悪に堕ちることもある」
ねずみ男と魔理沙の方を見て、一本だたらは言う。
「だから……この子を支えてくれてありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします」
「えぇっ!お任せください!このビビビのねずみ男がお孫さんを清く正しく美しく導いてみせますとも!」
「あぁ、そうそう。ねずみ男さん、これを渡しときます」
一本だたらは一枚の名刺を取り出した。
ねずみ男はそれを慎重に受け取る。
「何か打って欲しい時はこの場所に…。力になりましょう」
「おおおお!!」
「では、わしはそろそろ帰ります。夏の暑さはこの身体に合いませんので」
一本だたらは立ち上がると、小傘の方を向いて言った。
「小傘」
「?」
「お前の歩む道は、妖怪にとって辛いものだろう。きっとまた心が折れそうになるはずだ。だがな、どんなに辛くても諦めちゃいかん。諦めて妖怪の誇りだけは捨てちゃいかんぞ。力なんぞに頼らなくても怖がらせる立派な妖怪になれよ」
「うん!」
ねずみ男はほろりと涙を流して、言った。
「まさに小便して地固まる、だな」
「小便?雨ではなく?」
「あっ、そうそう!お爺ちゃん聞いてー!わちき、ねずみ男にねオシッコかけられたんだよ!!」
「・・・なに」ピクッ
感動的な雰囲気が一瞬壊れる。
一本だたらが獣のように唸り始める。
『ドウイウコトダァァァ?』
「ちょっ、ちょっと待って!あ、あれは事故で……」
そんなねずみ男にさらに近づく影。
振り向けば怒髪天の聖白蓮がいた。
「見つけたぞ」ギロリ
「お、俺、今回はそんなに、い、いやぁっ、許してぇえええーーーっ!!」
ワルプルギスの夜まで──残り85日
ありがとうございました。
多々良小傘のメイン回です。
まさかまさかの育ての親が一本だたらという設定にしてみました。一本だたらは出そうと思っていた妖怪の1人で、悪としては出したくなかった。どちらかと言うと【妖怪大戦争の一本だたら】のイメージがあったんですよね。
一本だたらは天目一箇神が堕ちた姿であるという説もあり、そこを採用させていただきました。色々説があると思うんですがね。
あとやっぱり小傘の存在を考えてみると、絶対に手っ取り早い方法は力で恐怖させる事だと思うんですが、小傘は相手を驚かせるのにこだわっている。それはとても大変なことだと思います。
しかし日本妖怪の話を読むと、怖い妖怪は多くても、人を襲うのはそこまで多くない。大抵は妖怪が現れ、人はその姿や声などを聞いて怯える。妖怪にとって力はあまり必要ないのでしょう。そこが彼らの強みであり個性なのでしょうね