ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です

 なんとか今月中にもう一つ出せた。
 嬉しいね
















アラビアのプリンセス②

 

「いきなりデカい青マッチョに捕まって……、気付いたらここにいたんだ…。……って、なんだよこの格好!?いやーーーん♡」ハズカシ

 

「あんなに可愛くない“いやーん”、初めて聞いたわ……」ゾッ

 

「同じく」

 

 

「「・・・あ」」

 

 

 意見を合わせるダブル魔女。

 しかし、息を合わせたのは一瞬で、直ぐに臨戦体制に戻る。アリスは倒れていた人形たちを展開し、ジニヤーは両掌に魔力を貯めて黒い電撃を纏わせる。

 

 

「あなたが親玉ね。なら話は早い──」

 

「!」

 

(エペ)

 

 

 人形たちが一斉に動く。

 彼女を囲み、左腕に隠していた仕込み刀を出して全方向から突き刺す。しかしジニヤーは雷撃を地面に放ち、空中へと逃れる。

 

 

黒雷(バルク)っ!」

 

 

 そしてそのままアリスに雷を飛ばす。

 

 

(エキュ)

 

 

 人形たちの右腕から鉄製の丸板を出し、アリスを守る。

 彼女を全方向から盾で守るその姿は、さながらスパルタ兵のようであった。雷を防ぎ、そのまま盾と剣を構えて、距離を取った。

 

 

(つ、強い……っ)

 

 

 ジニヤーは冷や汗を流す。

 一対一であるのに、実際は数十人対一。群対個であるのだ。あの金髪魔女だけに集中すれば、必ず刺されてしまうだろう。しかも相手は戦闘に慣れている。いつも兵に守られていたジニヤーにとってこの戦闘はかなり辛いものがあった。

 

 

「このままやり続けても貴方は勝てないわよ」

 

「……はぁっ、はぁっ」

 

「つまりこれは無駄な戦いなの。わざわざ負けたいためにこんな事したんじゃないでしょう?」

 

「……お前…」

 

 

 なんとアリスは和解を持ち出した。

 

 

「人間たちを攫って何をするつもり?」

 

「・・・っ、関係ない!バルクッ!」

 

「エキュ」

 

 

 ジニヤーは何も語らず、雷を飛ばす。

 アリスはそれを弾き、攻撃はせず防御に徹する。どうみても手加減。アリスは本気を見せずに受け流すその姿を見て、ねずみ男も戦況を察する。強い方につくと決め、ねずみ男は直ぐにアリスの後ろに回る。

 

 

「ふー…、ここなら安心だぜ。強い奴の陰にいる安心感ときたらたまらないね、こりゃあ」

 

 

 ねずみ男は安全圏にいながら、辺りを見渡す。

 

 

(それにしても、あの悪女。……何やら訳アリの様子)

 

 

(だが、んな事よりも………)

 

 

(どう見ても里の連中とは違う装いに、宝石、化粧…。そして紫色の美しい髪にぷらっとした赤い唇。キリッとした眉に、鋭い吊り目。そして何より健康的な褐色の肌とミニスカートから出ているムッチリとした太もも……)ゴキュッ

 

 

(このままアリスが倒すのを見ているよりも………)ニヤァァァァ

 

 

 ねずみ男はぴょーんと近くまで飛び跳ねて、アリスの肩をポンポンと叩く。そこでアリスは振り向いてしまった。【絶対に本気では戦わない】というモットーを持つアリスは、相手よりもちょっと強いくらいの実力を出して戦う。故にどこかで集中力を抜く時がある。その悪癖が最悪の結果を招いてしまった。

 

 

「アーリスちゅぅわん」

 

「な、なに?」

 

「はぁああああ〜〜〜〜っ」ムワァァ

 

 

 絶対に味方にやられるわけがない。

 裏切られた経験のなさが招いてしまった。ねずみ男が吐いた息を真正面から受けてしまった。

 

 

「ぴっ───」ばたっ

 

 

 アリスが泡を吹き、涙を流しながら倒れる。

 それと同時に人形たちは地面に落ちていった。驚くジニヤーと裏腹に、やってやったぜとどこか誇らしげなねずみ男はまさに対照的であった。

 

 

「あ、あなた、何して──」

 

「あなた様がこの城の主人で!?」ギンッ

 

「ひいっ!?」

 

 

 一瞬で詰められるジニヤー。

 敵意がないのは伝わるが、あの強敵である人形使いを一瞬にして屠ったこの男はかなり怖かった。

 

 

「そ、そうだけど…」

 

「ぐふふふっ、大金持ちで美人っ!しかもあんなに強いマッチョを従えてるなんて、これは付いてる!玉の輿だ!」ボソボソッ

 

 

 ねずみ男はくるりと一回転。

 いつもの姿に戻ると、城の主人の手を取って膝をつく。

 

 

「私は……っ!この幻想郷の案内人っ、人呼んで、そうっ、ビビビのねずみ男でございます!麗しいプリンセス。貴方に仕えるためだけに参上いたしました」キリッ

 

「・・・は、はぁっ!?」

 

 

 怪しい。明らかに怪しい。

 疑いの目を向けるが、この男は体をくねらせて上目遣いをしてくるだけだ。これは怪しいというよりも気味が悪い。

 

 

「い、嫌よ!」

 

「そう言わないでっ、俺っちを雇ってよ!そしてそのまま金持ちのあなた様がこの田舎を支配してくれれば、俺は実質No.2になれちゃうのよん!」

 

「・・・待ちなさいっ、あなた」

 

「?」

 

「何も感じないの?自分の味方を、国を裏切ることに。そして侵略者に仕えることに」

 

「???」

 

 

 ねずみ男は何言ってんのという顔をしながら言う。

 

 

「何言ってんすか、忠義や信頼とかで腹は膨れないでしょ。俺は俺が幸せになれればそれでいいんすよ。大体、敵が偉そうに道徳を解くなっての」

 

「!」

 

「侵略者のくせに裏切るとか気にしてんすか?女の人たちを誘拐しようとしたくせに。……もしかして、嬢ちゃん、悪いこと初めて?……にひっ、なら俺様が悪の道を教えてやってもいいぜ。まぁ、褒美は俺様にあんたの地位を譲ってもらって、王様にしてくれるってんなら……」

 

 

 

 彼を見て、言葉を聞いて、あの男を思い出す。仲間を、国を、父親を裏切った西洋妖怪の行動を。

 

 

「……そう」

 

「そうそう!それで雇ってくれます?」

 

「私の答えは、これよ」

 

「へ?」

 

 

 ねずみ男の上には雷雲が。

 ゴロロと音が鳴ったかと思うと、ねずみ男に雷が落ちる。骨が透けるほどの電圧。落ち終わると、ねずみ男は黒焦げとなり、地面に伏した。

 

 

「びっ、びどい゛っ、………ゔっ」

 

 

 ジニヤーは七色に光る箱から二本取り出す。

 そしてそれらに火をつけようとするが、手が震えて出来なくなる。

 

 

「パパ……、パパ、私がやってるのって……西洋妖怪(あいつら)と変わらないのね」

 

 

 勢いに任せてやった行動。

 それらが全て西洋妖怪たちとやってることと変わらない。突然来て、勝手に要望を押し付けて──。

 

 もう後戻りできない。1人とはいえ誘拐してしまったのは事実だし、手を出して里を荒らしたのも変わらない。

 

 

「どうしたらいいの、パパ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「あややや……、特ダネ逃しちゃいましたか。ですが、諦めませんよ!」

 

 

 

 

 黒い羽が羽ばたく上空の下。

 里には張り詰めた空気が漂っていた。妖怪の山に突如現れた漆黒の城。そして、魔人によって連れ去られた一人の魔法使い――アリス・マーガトロイド。

 

 

 魔人は大勢の女を狙っていた。

 しかしアリスは咄嗟に無数の人形を操り、自分と同じ姿の人形を次々と生み出す。魔人はそれらを本物と思い込み、すべてを抱え込むように城へ引き返した。その機転のおかげで、里の女性たちは誰一人としてさらわれずに済んだ。

 

 

「……流石にここにいたら危ないわね。リュグナー、買い物は終わり。家に帰ろ」

 

「カゲロー、僕はここに残るよ。余所者の僕を迎え入れてくれた里のみんなの為にも何かできることがあるはず…」

 

「ダメよ。ただの人間が解決できる問題じゃ無いわ」

 

「でも、見て見ぬ振りはできない!何か手伝えることはないか聞いてくる!」

 

「ちょっ、リュグナー!」

 

 

 だが、人々の不安が消えたわけではない。

 里の入り口には自警団が集まり、見張り台には監視役が立つ。またリュグナーのように自発的に里を守るために立ち上がる者たちもいた。

 野良妖怪たちも異変の大きさを察し、人間を嫌う妖怪たちは城から出た魔人を陰ながら応援したり、争いなどを嫌う温厚な妖怪たちは博麗の巫女や賢者による制裁を恐れて隠れたりした。

 

 

「家の中に入れ!誰も出るな!私は里全体の守護に回る。皆の家は柱どのの力で固めてもらう!安心しろ!」

 

「任せてくれー!」

 

 

 再び魔人が現れても被害を出さないよう、慧音が里全体を守り、それぞれの家を逆柱が固め始めていた。不意打ちや、強襲には弱いが、敵が来ると分かっているならば守りは強くなる。その様子を横目に、魔理沙は静かに箒を肩へ担ぐ。

 

 

「よっし、行くか」

 

 

 服には先ほどの戦いで受けた傷が残り、腕にも包帯が巻かれている。それでも迷いはなかった。城へ連れ去られたアリスを助けに行く。妹紅が心配そうに駆け寄る。

 

 

「本当に大丈夫か?やっぱり私も……」

 

「怪我したのは私の落ち度だぜ、だから心配しなくてもいいぜ。私のことよりも妹紅は里の方を守ってくれ。慧音たちだけじゃあまたあの大男の猛攻は耐えられないと思う」

 

「うっ、そ、それはそうかもしれないが……」

 

 

 人間たち、影狼のように助けに来てくれた妖怪、そして守護者である慧音の力を疑っているのではない。だが実際に戦った魔理沙には、あの大男の力が身に沁みてわかる。妹紅も魔理沙の怪我を見て、それを察した。

 

 

「それに私がこっそり潜入した方がバレにくいと思うしな」

 

「……止めても無駄なようだな」

 

「それが私だぜ!」

 

「だがヤバいと思ったら逃げることだけを考えろ。いいな?」

 

「へへっ、りょーかい」

 

 

 妹紅と別れ、里の出口へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 出口に差しかかったその時だった。

 

 

「魔理沙さーん!」

 

「ん、その声は……」

 

 

 前方へ一人の少女が静かに降り立つ。

 

 

「ふぅ、間に合った!私も同行しますよ!!」フンス

 

 

 守矢神社の風祝、東風谷早苗。

 彼女は城を見据えながら、一歩前へ出る。

 

 

「何事かと神社から駆けつけてみれば、アリスさんが攫われたとか。……そんな野蛮な相手に魔理沙さん1人で行かせるわけないでしょう!この守矢神社の巫女っ、東風谷早苗がお助けしますよ!!」ドーン

 

「・・・本心は?」

 

「いっひっひっ、どうやら霊夢さんはまだきていない様子。この隙に私がぱぱっと解決し、信者を増やして…………って、なに言わせるんですか!」

 

「やっぱり…」

 

 

 ここ最近、信者が集まらずにナイーブになって、引きこもっていた早苗。そんな時に起きたこの異変。それを自ら解決し、その功績を守矢神社の名とともに幻想郷へさらに広めれば、神への信仰を集める絶好の機会だと考えていた。

 

 

「相手はくっそ強いぞ。そんな気持ちなら返り討ちにされちゃうぜ!」

 

「リハビリもかねてですよ!魔理沙さんっ、私は霊夢とだって戦っているんです!足手纏いにはなりません!とにかくっ!ダメと言われてもついて行きますので!」

 

「かっこいいところ見せたいなら、里の守護に回れば………!?まじかっ、この気配…っ!」

 

 

 2人は城を見上げる。

 山全体を揺るがすような地響きが響き渡る。カンカンカンカンと敵襲を知らせる鐘が鳴り響き、警戒態勢へと入る。固く閉ざされていた巨大な城門が、再びゆっくりと開き始める。

 

 

【幻想郷の諸君、先ほどは手荒い挨拶申し訳ない──】

 

 

 同時に響く声。

 全員がその声に耳を傾ける。

 

 

【だが、今からもっと手荒いことをする。お前たちの住んでいたところを壊す、思い出を壊す、夢も希望も壊す。本当に申し訳ないが全ては私の夢のため……。嫌ならば人間の女たち、みんな我が城へ──】

 

「マスタースパークッッッ!!」

 

 

 魔理沙は城の主が喋っているにも関わらず、マスタースパークをぶちかます。城に直撃し、外壁が壊れる。誰も要求に乗るつもりはないという証だった。皆の声を魔理沙が代弁して行動で示したのだ。

 

 

「上から偉そうに言ってんじゃないぜ!!」

 

「ま、魔理沙さん!?」

 

「ふんっ、どうせ言う通りにしたって手荒いことはするに決まってるぜ。ああいう輩は。だから先手必勝だぜ!」

 

【それが答えか。……青魔人(ブルー・ジン)に勝てなかった雑魚のくせに。ならば私は壊し、奪おうではないか】

 

 

 黒い闇が口を開けるように広がり、その奥から濃密な瘴気が溢れ出した。その闇の中から二つの巨大な影が姿を現す。

 

 ずるり……

 

 ずるり……

 

 人間とは明らかに異なる異形。

 腰から上は筋骨隆々とした巨躯を持ち、腰から下は漆黒の煙となって渦を巻きながら宙を漂っている。先ほど魔理沙と戦った魔人と酷似した姿。だが、その肌の色だけが違っていた。

 

 

『まっ……じーん…!!』

 

 

 一体は深い翡翠を思わせる緑色。

 

 

『マッマッマッじん…!!』

 

 

 もう一体は毒々しい妖気をまとった紫色。

 

 

「こ、今度は2体かよっ!」

 

「魔理沙さんが余計なことするからですよ!!・・・ん?」

 

 

 更にかなりの小粒だが、チルノたち妖精よりも小さい魔人たちが虫のようにうじゃうじゃ現れる。

 

 

『『『ひゃっほーーー!!』』』ウジュウジュ

 

 

「でかいやつだけじゃなくて、小さいやつらもいるのかよ!!」

 

「あのミニミニな奴ら、真っ先に里に向かってますよ」

 

「妹紅を里に残して正解だったぜ……」

 

「大きい奴らは私たちを見てますね」ゴクッ

 

「へっ、さっきは油断しちゃったけど、集中力マックスの私はさっきまでと同じだと思うなよな!」

 

「私だって同じですよっ!刮目なさいっ、皆さん!!私こそが守矢の巫女です!!この異変を解決したらぜひ入信をーーーー!!」ビュン

 

「早苗は紫の方に行ったか。なら私は緑だな!」

 

 

 緑の魔人は、片手に細身の湾曲したサーベルを携えていた。

 刃は青白く輝き、わずかに動かしただけで空気を切り裂く鋭い音を響かせる。対する紫の魔人は、自らの身長を優に超える巨大な薙刀を肩へ担いでいた。長大な柄には禍々しい紋様が刻まれ、三日月のように湾曲した刃からは紫黒い妖気が絶え間なく立ち上っている。

 

 

『・・・』

 

 

 二体は煙の尾を引きながらゆっくりと城門の前まで進み出る。

 二人を見据え、その瞳だけが静かに妖しく輝いていた。城へ続く道を塞ぐように並び立つ二体。その圧倒的な威圧感に、周囲の空気までもが重く沈み込む。

 

 

「リベンジマッチだ!ぶっ飛ばすぜ!!」

 

 

 魔理沙に合わせて、緑の魔人が煙を噴き上げながら前へ滑り出る。その動きは重厚な巨体からは想像もできないほど鋭い。緑の残像を幾重にも残し、一瞬で魔理沙との間合いを詰めた。

 

 

『マッ斬!!』

 

 

 銀色のサーベルが閃く。

 魔理沙は咄嗟に箒を傾け、紙一重でかわす。刃は髪を数本切り裂き、そのまま背後の巨岩を音もなく両断した。

 

 

「たまんねえぜ!!オラオラオラ!」

 

 

 魔理沙は距離を取ると同時に、星弾を一斉に撃ち放つ。マスタースパークを撃ちたいが、あれは溜めが必要となる大技。牽制として放った無数の光弾が緑の魔人へ降り注ぐ。だが魔人は腕を一振りするだけだった。

 

 

『ふんっ!』

 

 

 サーベルが風を切る。

 一筋の緑色の斬撃が扇状に広がり、光弾をことごとく両断した。切り裂かれた魔力は空中で爆ぜ、火花となって消えていく。そのせいか、あたり一面に硝煙が立ち込め、魔人は魔理沙を見失う。

 

 

「今だ……」ニヤリ

 

 

 隙が生まれた。

 魔理沙は八卦炉へ膨大な魔力を集中させる。

 

 

『マ?』

 

「超至近距離ならよォ……ッ、どんな固いやつの身体にも立派なトンネルくらいはできるよなァァァッ!!」

 

 

 魔人の後頭部あたりに魔理沙はいた。彼女が握る八卦炉には莫大な魔力が溢れていた。

 

 

「恋符マスタースパークッ!!!!」

 

『ふんっ!!』

 

 

 振り返りながら、サーベルを真正面から振り下ろした。

 その一太刀だけだった。黄金の奔流が真っ二つに裂ける。左右へ押し分けられた光は魔人の身体を避けるように山肌へ流れ、遠くの岩壁を吹き飛ばして消えた。

 

 

「う、そ、だろ……ぉ…!?」

 

 

 魔理沙が目を見開く。

 

 

「……あんなに修行してきたのにっ、霊夢の代わりに幻想郷は私が守るって決めたのに……っ、私はまだ何も成長していないのかよォ……ッ」ギリィ

 

『マジハハハハ──』ズィイイ

 

「はっ!?」

 

 

 次の瞬間には、緑の魔人は目前まで迫っていた。

 巨大な拳が魔理沙の全身を潰す。衝撃で息が詰まり、そのまま身体が空高く打ち上げられる。さらに魔人はサーベルの柄で殴りつけた。轟音とともに魔理沙は地面へ叩き落とされ、土煙を高く巻き上げる。

 

 

『マジハハハハハ』

 

 

 立ち上がる間も与えない。

 機械的に笑う緑の魔人は一瞬で距離を詰め、蹴り飛ばし、斬り払い、拳を叩き込む。

 

 

「う…ぅ……」

 

 

 意識朦朧とする魔理沙のために箒が自分の意思で動き、彼女を先端に引っ掛けながら逃亡。──魔理沙がかつて念の為にと準備しておいた自動操縦モードが発動したのだ。

 

 

『マジハハハ。マジハハハ。マジハハハ』

 

 

 逃亡。

 素早く動かすサーベルに、反撃の隙さえ見つけられなかった。

 

 

 

「ま、魔理沙さんっ!!くっ、このぉぉぉっ!秘術『一子相伝の弾幕』!」

 

『マジンジン──』

 

 

 早苗は神力をまとった札を無数に放ち、紫の魔人を包囲する。

 風が唸り、弾幕が四方八方から襲いかかる。紫の魔人は微動だにしない。薙刀を横薙ぎに振るった。紫黒い衝撃波が大気を裂き、札も風も弾幕も一瞬で吹き飛ばす。

 

 

『マジン』ニヤリ

 

「風の扱いなら、こっちだって十八番よ!!奇跡『神の風』!」

 

 

 早苗は空高く舞い上がり、神風を巻き起こす。

 巨大な竜巻が紫の魔人を包み込み、岩や木々を巻き上げながら天へ昇る。しかし竜巻の中心から、一筋の紫色の閃光が走った。

 

 

『フンッ!!』

 

 

 薙刀の一閃。

 竜巻そのものが縦に裂け、暴風は霧散する。直後、紫の魔人が煙を噴き上げながら急接近した。薙刀の柄が早苗の腹部へ突き刺さる。息が止まり、身体がくの字に折れる。そのまま振り回され、地面へ叩きつけられた。

 

 

「あ゛ァッ!?」

 

 

 大地が陥没する。

 

 

「がぁ、ぁぁぁ……っ!?!?」

 

 

 早苗はあまり強い方ではない。

 戦闘はあまり好まず、神奈子に言われて妖怪退治の真似事のようなことをし、人を助けるなどをしていた。つまりは圧倒的な相手との戦闘経験の無さにより早苗は手も足も出なかった。ただ異変を解決するピクニック的な気持ちで来た彼女を待ち受けていた絶望感も彼女を襲う。

 

 

「ぐ、ぅぅぅぅ……っ、ま、まだ……」

 

 

 だが、その頭上へ薙刀が振り下ろされる。咄嗟に結界を展開するものの、結界は一撃で砕け散った。衝撃だけで再び吹き飛ばされ、岩壁へ激突する。岩肌には蜘蛛の巣状の亀裂が広がった。

 

 

「───ガ、ハァァ……ッ」

 

 

 気づけば魔理沙、早苗は同じ場所で倒れていた。

 結界さえも壊す紫色魔人の一撃から出た衝撃波がオート操縦の箒に当たり、魔理沙と共に落下。早苗もその辺りに転がり落ちることとなる。

 

 

「ぅ、……く、そ…」

 

「つ、よい……」

 

 

 魔理沙も、早苗も、攻撃は確かに命中していた。

 だが、まるで意味をなさない。

 目の前にいる二体は、先ほど里を襲った青い魔人とは明らかに格が違っていた。

 

 

 そりゃあそうだろう──。

 

 

 あの青色魔人は人間を連れ去ることを最優先とし、必要最低限しか戦わなかった。

 

 しかしこの二体は違う。

 

 城へ近づく者を迎え撃ち、確実に排除するためだけに送り込まれた守護者。

 

 攻撃は一切容赦がなく、明確に命を奪おうとしてくる。殺生を避けた弾幕勝負とは違うのだ。本物の命のやり取りに、特に早苗は震え上がる。“髪様”の時とは明らかに違うものを感じた。

 

 

「ぁ、ぁぁぁ……っ」ガタッ

 

「さ、なえ、逃げろ……」

 

「逃げ、逃げるって言っても、こ、腰が抜けて……」

 

「や、やべぇ……っ!」

 

 

 緑の魔人と紫の魔人は互いに視線を交わす。

 次の瞬間、二体は同時に動いた。緑の魔人はサーベルを高々と振り上げる。紫の魔人は巨大な薙刀を頭上へ構え、全身に妖気をまとわせる。

 

 

『『──』』ゴゴゴゴゴ

 

 

 魔理沙は傷だらけの身体を無理やり起こそうとする。だが、腕に力が入らない。早苗も立ち上がることすらできなかった。六文銭の時とは明らかに違う。あの時は魔理沙と襟立衣の間にはかなりの実力差があったが、今はその逆。魔理沙たちと魔人たちの間には超えられない壁があった。霊夢もいない、紫もいない。諏訪子も神奈子も神社の外には出られない。誰も助けに来れない───。

 

 

『『マッッッジンッッッ!!』』

 

 

 二体の魔人は容赦なく武器を振り下ろす。

 鋭い刃が空気を切り裂き、二人の命を刈り取ろうと迫る。魔理沙と早苗は歯を食いしばり、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ、うっ、げぽっ・・・」

 

 

 猛烈な吐き気に目を覚ます。

 ねずみ男に息を吐きかけられたアリスは意識を取り戻した。立ち上がろうとするがガチャっという金属の擦れる音と重い感覚で立ち上がれず、辺りを見渡すと自分の四肢は鎖で拘束され、壁に繋げられていた。金属の無機質な冷たさが手や足首に広がっていく。

 

 

「捕まったんだ。うっ、まだ臭い。絶対皮膚にも匂いがこびりついてる……」

 

 

 文句を言いながら、落ち着きを取り戻し分析する。

 自分は今牢屋にはいない。玉座の隅の壁に繋がれており、部屋の中央であの魔女がタバコを3本同時に吸いながら、魔力で外の様子を眺めているようだった。かなり集中しているようで自分が目を醒めたことに気づいてはいない。

 

 

「あの子、がらあき…。敵を繋いで安心し切ってる。……この城には彼女を守る味方がいないし、背中を向けている時点で戦闘に慣れてない証拠」

 

 

 グッと腕に力を込める。

 まぁ、予想通りでちぎれるわけがない。

 

 

「魔力で作られた鎖。はぁ、自力脱出は無理か。……人形たちは…?」

 

 

 キョロキョロと見ると粉々になった人形の残骸が転がっていた。バトル用の人形たちの悲しい最後に胸がキュッとなる。戦闘のための物なので壊れてしまうのは仕方がないが、戦いではなく人形として動けない間に壊されてしまったのは本懐を遂げられていないように感じる。

 

 

「……っ、人形も無理となると万事休すか。……ん?」

 

 

 壊れた人形の残骸の中に何か見える。

 あれは──

 

 

「ねずみ男……さん…?」

 

「・・・」チーン

 

 

 黒焦げになり、白目を剥いたねずみ男であった。

 

 

「裏切られ損じゃない…。私を裏切るなら、せめて敵のままでいて欲しかったわ……。でも、……()()()。……禁術(あのわざ)を使わなくて済んで良かったぁ」

 

 

 

 

 アリス・マーガトロイド

【七色の人形使い】という異名を持つ。人形を操り、また人形に人形を操らせられるほどの実力者。そんな彼女が人形が無くなった時点で何もできない、と考えるのは彼女を舐めている。

 

 

「ねずみ男さん。私に酷いことしたんだから……、これでおあいこね」

 

 

 アリスの人形を操る際に使う糸──霊糸(れいし)

 アリスの霊力や魔力で作られた糸であり、本人しか見えず他者からは人形がひとりでに動いているように見える。その糸を伸ばして、ねずみ男の頭、右腕、左腕、右足、左足にくっつく。

 

 

「霊糸『一人ぼっちの羊飼い(マインド・パラサイト)

 

「・・・」ゆらぁ

 

 

 ねずみ男が起き上がる。

 しかし、意識を取り戻したからではない。アリスの力により人形のように体を動かされているだけだ。ねずみ男に瓦礫を一つ掴ませると、そのままゆっくりとジニヤーまで歩かせた。

 

 

「ゔっ、うえ゛っ、うぷっ…」

 

 

 気持ち悪い。

 胸に込み上げる不快感と吐き気を催す吐き気、全身を走る痒み。それらが全てアリスにもつながる。

 

 この一人ぼっちの羊飼い(マインド・パラサイト)

 意識のない相手1人を人形のように操るこの技は、ただ操るだけの能力ではない。この技は相手と自分を繋げるような物なので、操った人が見たり、触ったり、聞いたり、嗅いだり、味わったりしたものを共有してしまうという制約もある。

 

 故にねずみ男の体質という物が、全てアリスにも繋がってしまうのだ。アリスの精神衛生上、この技は続かない。即やるしかない。

 

 

 

(悪いけど……、ここまでよ…)

 

 

 

 そのままジニヤーの背後に周り、思い切り石を振り上げる。

 ジニヤーはタバコを吸ったままだ。だが時折、彼女の膝がポタポタと濡れていることに気づいた。

 

 

「……?」

 

「……パパっ、パパ……っ」グスッ

 

 

 なんと驚くことに泣いているのだ。

 襲った敵が泣いていた。しかも父親のことを呼びながら泣いているのだ。

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ」

 

(は!?)

 

 

 振り下ろすのを忘れてしまう。

 何を言っているんだ。襲っているくせに。訳ありなのは感じていたが、まさか今自分がやっていることは悪い事だとは自覚していたのか。一体彼女に何があったのか───

 

 

「一体どうし、うぷっ、もう、だ──、お゛ろろろろ……っ」

 

 

 

 

 プツン……

 

 

 

 

「・・・」ガクッ

 

 

 限界を迎えたアリス。

 ねずみ男と自分を繋ぐ糸が切れ、ねずみ男はその場に崩れ落ちる。流石に真後ろでの異音にはジニヤーも気づき、跳ね上がって振り向いた。

 

 

「うきゃあっ!?な、なにっ!?」ビクゥッ

 

「・・・」

 

「こ、この男…、まさか不意打ちを……卑怯者め!!バルクッッッ!!」

 

 

 

「ひぎゃああああ───」ビリリリ

 

 

 ねずみ男は理不尽にも雷撃を喰らい、さらに真っ黒くなる。幸い?にもアリスはバレることはなかった。

 

 

 

(危ない危ない……。ただこれで本当に打つ手無しだ。……助け、来てくれるかなぁ……)

 

「・・・」コゲコゲ

 

(ゴメンネ)テヘペロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…。私の侵入に気づかないのが不思議だったのですが、あの外来の方しかいないようですね」

 

 

 実は、城の中には既に侵入しているものがいた。

 それこそ射命丸文である。妖怪の山に突然現れた城に天狗たちは大慌ての中で文は、はたてに職務を全て押し付けて、突撃取材をしていたのだ。

 

 城の裏を見て周り、入れそうなところから侵入。

 ただ、こんなに大きな城なのに誰もいないことに違和感を感じたまま玉座の間まで出てきた。

 

 

「ぜひ、取材したい……っ」ゴクリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッ、……?」

 

「あれ?」

 

 

 

 いつまで経っても衝撃は訪れなかった。

 二人がゆっくり目を開ける。目の前には一本の傘。細身の柄を片手で握り、開かれた傘がサーベルと薙刀を同時に受け止めていた。

 

 

「……幽香」

 

 

 風見幽香だった。

 自分の何倍もでかい相手に片腕だけで二体の武器を受け止めながら、一歩も下がっていない。

 

 

「魔理沙」

 

「……っ」

 

「この様はなに?」

 

 

 その言葉と同時に、幽香が傘を軽く振り抜く。

 凄まじい衝撃波が炸裂し、二体の魔人の巨体が同時に吹き飛ぶ。緑の魔人は岩壁を何枚も突き破り、紫の魔人は地面を転がりながら深い溝を刻んでいく。

 

 魔理沙が目を見開く。

 

 

「嘘だろ……あいつらを、一撃で……」

 

 

 早苗も思わず息を呑んだ。

 

 

「なんて凄まじい力……」

 

 

 しかし、土煙の向こうから二つの影が立ち上がる。緑の魔人はサーベルを握り直し、紫の魔人は薙刀を肩へ担ぐ。

 

 

『『マジンッッッ!!』』

 

 

 次の瞬間。

 二体は左右へ散開し、凄まじい速度で幽香へ襲い掛かった。サーベルが何十、何百という斬撃を描く。薙刀は大地ごと薙ぎ払い、紫色の衝撃波を幾重にも放つ。並の人間や妖怪なら一瞬で肉片になっていてもおかしくない猛攻。

 

 

「ねぇ──」

 

 

 だが幽香は真顔だった。

 傘一本で斬撃を受け流し、身体をわずかにひねるだけで衝撃波をかわす。紙一重で刃を避けたかと思えば、返す傘の一撃で緑の魔人を殴り飛ばす。

 

 

『バビィッ!?』

 

 

 紫の魔人が背後から薙刀を振り下ろす。

 振り向きもしない。傘を後ろへ突き出すだけで刃を止め、そのまま蹴りを叩き込む。

 

 

『べぶぅっ!?』

 

 

 紫の魔人の巨体が再び宙を舞った。

 

 

「この様はなんなのかしら?」

 

「ひぃっ…」

 

 

 魔理沙は過去に一度だけ見たことあった。

 ()()()()の風見幽香を。

 

 

「無様にも程がある」

 

 

 着地した緑の魔人がすぐさま突撃する。

 その横から紫の魔人も挟み撃ちを仕掛ける。二体の攻撃は息が合い、寸分の隙もない。幽香は魔人の方を見ずに真っ黒な闇しかない瞳で魔理沙を覗き込む。

 

 

「貴女は強くなりたいって言って私の元へ来たのに、この程度の相手に何をしてるの?」

 

 

 だがどんな連携も、傘を振るうたびに衝撃波が大地を抉り、拳を振るえば空気そのものが爆ぜてしまうので無駄となる。再び吹き飛ばされ、起き上がる緑の魔人も紫の魔人も何度も反撃を繰り返すが、そのたびに弾き返される。

 

 

『『マァァァ……、マ゜ッ』』

 

 

 それを数度繰り返した後に、幽香は両者の頭を掴むとそのまま思い切り、引きちぎる───

 

 

 

 ぶぢぃいいいい

 

 

 

 2体の魔人の首が取れると同時に、魔人は霧散していった。

 

 

「教えたことは活かせていない。修行を始めてから格下としか戦ってないのね。見ていたけど、全く学びを実践に使えていない」

 

 

 何も言い返さない魔理沙に、幽香は思わず呟いた。

 

 

 

「残念。……あなたの中の【芽】は腐ったようね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的は四人とも違う。

 

 アリスを救い出すため。

 

 異変を解決し、信仰を集めるため。

 

 不甲斐ない弟子に見兼ねたため。

 

 幻想郷一番の記事を書くため。

 

 

 だが考え通りにはいかないようで────。

 魔理沙と早苗は、魔人という脅威から逃れたと思ったのだが、さらに大きな壁が立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 幽香・襲来──!!

 魔人たちを一瞬にして殲滅してしまった。







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