ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは

 今回の話で、スキンヘッドについて言及しているシーンがありますが、決してスキンヘッドの事を馬鹿にする意図はありません。不快になられる方がおりましたら、今ここで謝罪をさせていただきます。












2人目の巫女 東風谷早苗!!②

 

 

『髪さまが暴走したんだ…!あ、ああああ…っ、俺が、俺が生贄を用意するなんて言って希望を持たせたせいで…っ!!』

 

「毛目玉さん…っ」

 

『髪さまぁ、髪さまぁぁぁ…、どうかお止めくださいっ、本当に人に手を出したりしたら、貴方への信仰が失われてしまうっ!信仰ではなく、憎悪に変わってしまうぅぅぅぅ……!!』

 

 

 毛目玉が生贄を与えるといい安心していたが、人間たちが生贄の用意もせず、更には他のものに助けを求めた。その行為に裏切りを感じて、遂に暴れ出した。毛目玉は、自分の行為は間違っていたことや、髪さまを失ってしまう恐怖で泣き叫んでいた。

 

 

「早く何とかしないと…っ」

 

「早苗、ちょっと待って」

 

「? どうしました?諏訪子さま」

 

「ちょっとしゃがんで」

 

「わ、分かりました?」

 

 

 スッとしゃがむと、諏訪子は彼女の髪の毛にキスをした。チュッという可愛い音とその行為に早苗は驚く。

 

 

「諏訪子さまっ!?どうしたんです!?」

 

「無事に帰ってこれる、おまじないだよ」ケロケロ

 

 

 そう言って、早苗を優しく抱きしめる。自分よりも小さい諏訪子に抱きしめられ、全身に愛情を感じる。

 

 

「今回の相手は、きっと早苗にとって辛いものになると思う。だけど忘れないで…。私も、神奈子も、早苗の味方だからね」

 

「諏訪子さま。……ありがとうございます」

 

「それじゃあいってきな」

 

「はい!行ってきます!!」

 

 

 

 

※※

 

 

 

「神奈子さま」

 

「どうした、早苗?」

 

「今から毛目玉さんの信仰する神を倒しに行く。・・・この私の考えは間違っているでしょうか?」

 

「私が決める事じゃない。早苗の心はどう変わったんだ?」

 

「私は……倒したくありません。まだ希望が残っているのなら、また毛目玉さんに合わせてあげたいです。だって家族なんですから」

 

「そう、か。やっぱり早苗は優しい子だな!」

 

 

 不安がる早苗の頭を優しく撫でる。

 

 

「ならそうしなさい。私も必ず手伝うからさ」

 

「神奈子さま、ありがとうございます。私は良い家族に恵まれています」

 

「ほら、目をウルウルさせるのは止めな。もう着くよ」

 

「はい!」

 

 

 里に一向は辿り着く。

 

 

「「「!!」」」

 

 

 そこで見た光景に神奈子、早苗、ねずみ男が息を呑む。男も女も、子どもも老人も、犬も猫も鳥も、妖怪も妖精も関係なく、里の中にいた生物は皆んなツンツルテンになっていた。真上にある太陽の光が反射するくらいに抜かれてしまっていた。

 

 

「ひ、ひどい…っ、髪は女の命だっていうのに…っ」

 

「早苗殿ー!」

「早苗ー!」

 

 

 早苗たちに気づいた二人組がやってくる。

 両者は手拭いや帽子で頭を隠している。その表情は悔しそうで、同じ女であるからこそ、その気持ちはひどく伝わってくる。

 

 

「慧音さんっ、魔理沙さんっ!」

 

「すまない…、守護者だというのにこのザマだ…。髪の毛を取られ、この姿を見られたくないという羞恥心で動けなかった…っ」

 

「私もだぜっ。八卦炉で、あの髪の毛のバケモンをブッ飛ばそうと思ったけど…この姿じゃ……っ!!」

 

 

 スキンヘッドは普通におしゃれだ。

 今では女性でも、スキンヘッドにする方もいる。だが、それは望んで行うものであり、スキンヘッドにしたくない人からすると無理やりやられるのは苦痛であろう。

 

 

「大丈夫です。私が必ず説得してみせます!」

 

「くぅっ、頼んだ…っ」

 

「ぐうたら霊夢は来ないみたいだし……、早苗に託すぜ」

 

 

 早苗は魔理沙と慧音の想いを受け止める。

 ねずみ男は、里の人間たちの困った様子を見て、ニヤリと笑う。何かを思いついたのだろう。

 

 

「そこら辺の川の水を、毛生え薬って事で売ったら大儲けできたりし──あっ、あらァッ!?!?」

 

 

 ねずみ男の()()しかない髪の毛。

 それがピクピクと動き始めたかと思いきや、スポンと抜け、飛んで行ってしまった!

 

 

「お、俺っちの大切な髪の毛ェェーーーっ!?!?待ってくれェェいっっ!?」

 

「何処かに飛んでいくようだね」

 

「追いかけましょう!!」

 

 

 抜けた髪の毛は何処かに向かって飛んでいく。

 ねずみ男たちはその後を必死に追いかける。辿り着いた先は花村家。里に住む者たちの髪の毛が全部この家を中心に集まっていた。

 

 

「ここは花村さんの家…」

 

「俺っちの髪の毛! ゲットォォォーーーッ!!」

 

 

 ねずみ男は髪の毛の山に飛び込む。

 ザバンと山の中に入った瞬間、紫色の電気が流れ、ねずみ男は吹っ飛ぶほどの威力で感電する。

 

 

「シビレビレェェ〜〜〜ッ!?!?」

 

 

 黒焦げになるねずみ男。

 そんな彼を尻目に、髪の毛の山が花村家を壊そうと巻きつき始める。ミシミシ、ギシギシという嫌な音が響いてくる。

 

 

『鏡から出れたのは褒めてやるが、何とまぁ馬鹿な男だ。儂の加護が宿った髪の毛に触るからそうなるのだ。まさに“触らぬ()に祟りなし”だな!』

 

「あひぃ〜…」

 

『どれ…。髪の毛だけではなく、全身の毛を奪ってやろう…!!』

 

 

 今回の黒幕。

 長い髪の毛の塊が、ねずみ男に自身の体毛を伸ばそうとする。

 

 

「待ちなさい!!」

 

『誰だ?』

 

 

 早苗が間一髪でねずみ男を救出する。

 神奈子は、ねずみ男を避難させようと背を向けている早苗の前に立つ。神奈子の姿を見て、敵は動きを止める。

 

 

「私は守谷神社の巫女、東風谷早苗!貴方を止めに来ました」

 

「そして守矢神社に祀られている神・・・八坂神奈子!貴殿も名乗ってもらおうか?」

 

『儂の名だと?儂の名は……』

 

 

 妖力?

 神力?

 どちらとも言えない力が高まってくる。この存在は堕ちかけている。だから妖力と神力の二つを感じるのだろう。

 

 

『儂は髪の毛神社の──“(かみ)さま”!!余所者の神と巫女が…、儂の邪魔をするなァァァアーーーッ!!』

 

 

 

 『髪さま』

 髪の毛神社に祀られている神。姿は長髪の中央に目玉が一つだけある。夜叉という妖怪に似ているのが特徴だ。髪の毛を操る力を持つが、元々は「髪の毛を美しくする・子孫繁栄・商売繁盛」を司る。

 

 古代の人間たちに神聖視された人面岩に宿った神であるが、花村喜一郎の手により社と御神体を用意されたことにより、土着神から祭神へと変わった。祭神になった事により強い力を得られたが、信仰心が無いと生きていけない体になってしまう。

 

 花村家から忘れられ信仰が減った事と毛目玉だけが信仰していることから、神と妖怪の中間の存在になってしまった。

 

 

 

「髪さま、お願いです!どうか大人しく皆さんに髪の毛を返してくれませんか?こんなやり方は間違ってます!」

 

『断る…!生贄を遣さないというのならっ、儂の恐ろしさをみせてやるのだ!まずは髪の毛の山で家を壊す。次は、そのまま潰してやるゥ!!』

 

「毛目玉さんから事情は聞きました!私たちも、髪さまの気持ちが痛いほどわかります!だからこそ、ここは──」

 

『黙れェェッ!! 気持ちが分かるなどと……知った風な口を聞くなァッ!!』

 

 

 

 目玉から紫色の電撃。

 ねずみ男や毛目玉を一撃でノックアウトさせた髪さまの必殺技だ。それを早苗に発射するが、神奈子がそれを両手で防ぐ。

 

 

 

「早苗、今の状態では会話は無理だ。怒りに飲まれている!とりあえず私は髪さまを何とかするから、あの山を頼めるか?」

 

「──っ、分かりました。お願いします!」

 

 

 2人だからできる作業。

 早苗は護符を取り出して髪の毛の山へ向かう。神奈子は御柱と呼ばれる4本の柱を顕現させる。

 

 

『このまま家の中の人間を圧死させてやる…!!』

 

「させません!!開海『モーゼの奇跡』!」

 

『何ぃ!?』

 

 

 護符を投げつける。

 すると、髪の毛の山の一箇所がパカリと開き、家の壁が見えた。そこに弾幕を打ち込み、穴を開ける。その穴から家の中にいた花村一家や使用人たちが助けてと叫んでいるのが見えた。

 

 

「皆さん!そこから出てください!!私はもっと出口を作ります!」

 

『邪魔するな、小娘がァッ!!』

 

 

 早苗に敵意を向ける髪さま。

 しかし、神奈子が間に入る。

 

 

「それはこっちのセリフだ」

 

『どいつもこいつもォォ…ッ!?』

 

「御柱よ、吹き飛ばせ。──流星御柱(メテオリック・オンバシラ)

 

『!!』

 

 

 4本中の一本。

 御柱がその場で輝きを増し、発射された。その御柱が高速で空中を舞い、髪さまに直撃すると上空へ吹き飛ばした。

 

 

『よくもォォォ……!』

 

「やっぱりダメージはほとんどないな」

 

 

 髪さまは、その名の通り『髪の毛』で出来ている。

 台風の日に大木は折れるが柔らかい葉は吹き飛ばされないように、完全なる脱力……いや、力が入っていない髪の毛は全ての物理攻撃を受け流す。

 

 

『儂の邪魔をするというなら、例え同じ神だとしても容赦はせんぞォッ!!』

 

「こっちだって容赦はしないさ。御柱よ、叩け!」

 

 

 次は2本の御柱。

 それが髪さまの両脇に顕現された。その両方が髪さまを殴ろうと大きく振りかぶる。

 

 

『無駄だ!髪の毛綱!!』

 

 

 伸びる髪の毛。

 御柱に絡みつくとその動きを封じた。圧倒的な毛量が、神奈子の攻撃を防いだのだ。

 

 

『返してやる!フンッ!!』

 

「!」

 

 

 そして、そのまま髪の毛で持つと神奈子に向かって、御柱を投げ返した。しかし元々は神奈子の武器だ。彼女が目前まで迫る御柱に睨みつけると、パッと消えた。

 

 

「やっぱり神というのは伊達じゃないね」

 

『今度はこちらから行くぞ。見せてやろう。……儂の能力を!!』

 

「なっ!?うわぁっ!?何だこりゃあっ!!」

 

 

 神奈子の髪の毛が伸び始めた。

 短髪だったのに、一瞬にして長髪になる。だが、似合う程度になるわけがない。どんどんと伸びていき、勢いは止まらなかった。あっという間につま先まで髪の毛が伸び、全身を覆い尽くす。

 

 

「髪が伸びすぎて、前が見えないっ!?」

 

『そのまま締め付けろ!!』

 

 

 髪さまの号令。

 神奈子の髪の毛は、自分の身体に絡みついた。両足を爪先から太ももまで丁寧にグルグル巻きにされ、両手は縛られる。これで身動きが取れなくなるが終わらない。

 

 これが髪さまの力──『髪の命令』。

 相手の髪の毛を自由自在に操ることができる。操るだけではなく、更には無限に伸ばしたり、ポンと抜いてしまう事も出来る。そして髪の毛たちは髪さまの眷属になってしまうのだ!

 

 

 

「!? うっ、ぐぇっ、おぇっ!?」

 

 

 自分の髪の毛が、自分の首を絞めてくる。

 呼吸をしようと口を開けると、飛び出した舌にも絡みつき完全に神奈子を封じた。これが仮に普通のロープ等であれば簡単に引きちぎれるのだが、巻き付いているのは『神聖さを纏った神奈子自身の髪の毛』だ。簡単には壊せない。

 

 

『ふはははは!今度は髪の毛全てを抜いてやるわい』

 

「待ちなさいっ!!神徳『五穀豊穣ライスシャワー』ッ!」

 

『!? ヌゥワァッ!?』

 

 

 米粒の波が、髪さまに降りかかる。

 そのままライスシャワーに流されて地面に落ちてしまう。その間に神奈子に護符『モーゼの奇跡』を使い、髪の毛から脱出させる。

 

 

「大丈夫ですか!神奈子さま!」

 

「はぁ…っ、はぁ…っ、ぐっ、大丈夫だっ。油断した…っ」

 

 

 髪さまはすぐに戻ってくる。

 目玉が赤くなっており、とても怒っていることが分かる。

 

 

『ぺっ、ぺっ、貴様ぁぁ…っ!!どうやって眷属たちから逃れられたァ!?』

 

「それは──」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 数分前。

 早苗は髪の毛の山に襲われていた。髪の毛全てが絡み合い、巨大な蛇のように空を泳ぎながら、早苗を飲み込もうと襲いかかる。

 

 

『──!!』

 

「蛇符『雲を泳ぐ大蛇』ッ!」

 

 

 護符を投げると、大蛇になり髪の毛の山とぶつかる。そのまま爆発させたのだが、煙の中から髪の毛は追ってくる。

 

 

「くぅっ、護符が効かない…っ!!」

 

 

 弾幕ごっこで使う彼女の護符。

 相手が生き物ならダメージを与えることはできただろうが、相手は髪の毛だ。どう攻撃しても受け流されてしまう。

 

 

「とにかく動きを封じる。──奇跡『神の風』!!」

 

『──!?』

 

 

 髪の毛の山の全方位を護符で囲む。

 そして護符から強風が吹き荒れた。その全方位からの風により色々な方向から押されて、髪の毛は身動きが取れなくなる。

 

 

「抑えられた…。でも、これは時間の問題。どうしたら…っ!」

 

 

 護符の効果は永遠ではない。

 更に、早苗の持っている武器は弾幕ごっこの為に用意したものであり、実戦などしないと思っていた彼女にとって、この状況は大変まずいものであった。そんな時だ。里の方で声がする。

 

 

「おーい!早苗ちゃーん!!こっちだ、こっち!」

 

「あれは・・・ねずみ男さん!」

 

 

 早苗は、ねずみ男の方に飛んでいく。

 地面に降りると彼はヘヘンと鼻をこすり、やってやったぜという顔をしていた。

 

 

「どうしたんですか!?危ないから隠れていた方が…」

 

「へっ!俺様だってやられっぱなしは嫌なんだよ」

 

「それはどういう・・・」

 

「あの髪の毛の山、俺()()に任せな!!」

 

「俺、たち?」

 

「この里全部を走り回って呼んできたぜ。……カモンッ!幻想郷理髪店の皆んなァッ!!」

 

 

 ねずみ男の掛け声と共に、数十人の美容師たちが現れた。彼らの手の中にはバリカンやハサミなど髪の毛を切るものや、シャンプー・リンスなど洗うためのものを手に持っていた。

 

 

「早苗ちゃんが頑張ってんのに、黙って隠れてるわけにはいかねえわな」

「私たちは何十年も髪の毛を扱って来たのよ。任せなさい!」

「所詮は髪の毛。相手じゃねえぜ」

 

 

 ねずみ男が里中を走り回り、早苗が戦っているんだと鼓舞したおかげで立ち上がった精鋭たち。早苗は驚きと同時に嬉しくもなる。

 

 

「皆さん!」

 

「とりあえず早苗ちゃんは、この路地にあの髪の毛を連れて来てくれ!そしたら俺たちが髪の毛を何とかするから」

 

「そしたらあの妖怪をやっつけちょうだい!任せたよ!」

 

「はい!!ありがとうございます!」

 

 

 全ては早苗の人徳のおかげだ。

 元より地元密着型、つまり里の人と仲良くして来たからこそ、皆んな手伝おうと思ってくれたのだ。

 

 

「そろそろ護符の効果が切れる…っ、皆さんお願いします!」

 

「「「おう!!」」」

 

「じゃあ俺様は逃げるんで、あとは頑張れよーっと!」

 

 

 ねずみ男はダッシュで逃げる。

 一方で、護符の効果が切れて自由になった眷属たちは早苗を見つけるとまた体をクネクネさせて襲いかかる。早苗は敢えて、捕まりそうで捕まらない距離で飛び、この路地まで誘い込む。

 

 

「今です!!」

 

「「「オラァッ!!」」」

 

『──!?』

 

 

 ブゥンブゥンというバリカンの音や、チョキチョキというハサミの音。更には水をかけたりシャンプーやリンスであっという間に整えられてしまい、早苗を追いかけて路地を抜けた頃には、ただの髪の毛の塊に戻っていた。毛先がトゥルントゥルンになったり、短くさせられたせいで、髪さまの力が無くなり、元の髪の毛に戻る。

 

 

「どんなもんだい!」

 

「早苗ちゃん、あとは頼んだよ!!」

 

「はい!」

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「──ということです」

 

『・・・元より眷属には頼っておらん。儂自ら相手してやるわ!』

 

 

 しかし髪さまは内心焦っていた。

 この里全体は、今髪さまの力が働いており、髪の毛は全て髪さまの好きなように操れる。だが、一向に目の前の早苗の髪の毛はどんなに念じても動くことがない。

 

 

(何故だ。何故動かせん…。あの神奈子とかいう神の髪の毛は操れるのに。たかが巫女の分際で、何故動かせんのだ…っ)

 

 

 ゆらりと動く早苗の背後の影に髪さまは気づいた。

 カエルだ。早苗という巫女の全身に、カエルの姿が見える。どうやらアレが早苗のことを護っているようだ。

 

 

(あれは──)

 

 

 これは諏訪子の加護だ。

 あの時の接吻が、早苗を護っているのだ。

 

 

(ふざけるな…っ)

 

 

 髪さまが髪の毛を束にして槍の形にする。

 それを早苗に向けて発射した。

 

 

「早苗はやらせないよっ!!御柱よ、守れ。そして叩きつけろ!」

 

 

 2本の御柱が槍の攻撃を防ぎ、残りの2本で髪さまの全身に叩きつけた。鈍い音を立てて地面に落とす。

 

 

「そのまま押さえつけろ!」

 

『ぎぃっ!?』

 

 

 髪の毛を挟んだまま、地面に御柱がめり込む。

 途端に動けなくなり、標本のように動けなくなってしまった。その状態で早苗を見上げる。

 

 

(──自慢しているのか…っ。儂の前で、自慢しているのかァァァ…っ!!)

 

 

 自分だって昔は信仰されていたんだ。

 だから力を使っていたんだ。

 それなのに、それなのに、今では自分とお前に差があると見せつけられている。儂だって神だったんだ。信仰される神さまだったんだ。

 

 

「力が増している!?」

 

 

 めり込んでいた髪が巻きつき、バキバキと音を立てて御柱を破壊する。そして浮かぶと咆哮を上げた。

 

 

『儂の前で自慢をするなアァァァーーーッ!!』

 

「早苗、気をつけ──」

 

『失せろォッ!!』

 

 

 

 

──ググゥ……プチッ、プチプチッ…

 

 

 

 

「痛っ、痛いっ!?」

 

 

 突然、神奈子の頭から髪の毛が引き抜かれる感触が広がった。

 まるで無数の細い指が一瞬にして彼女の髪をつかんで引っ張るかのように、謎の力に抗うことも叶わず、髪の毛は次々と頭皮から根こそぎ引き抜かれた。その痛みは一瞬で、しかし神奈子には永遠に感じられた。

 

 

「・・・うっ」

 

 

 驚きと恐怖が彼女の心を支配し、無力感が心底に広がりました。一本一本、髪の毛が彼女の頭から離れていく。神奈子はそっと手で自分の頭を撫で、その違和感に慣れることなどできなかった。

 

 

「やりやがったな…っ」

 

 

 神奈子の髪の毛が全て抜けた。

 抜け落ちるのではなく、そのまま神奈子の上でフワフワと浮いていた。

 

 

「この程度で私が動けなくなるとでも……」

 

『抜くだけかと思ったか!髪の毛よ、もう一度襲えっ!!』

 

「何度も同じ手を喰らうとでもっ!?」

 

 

 加奈子は自分の髪の毛につかみ掛かる。

 その瞬間に、ねずみ男に流れたのと同様な電流が流れ、加奈子は両手が焼ける。

 

 

「グゥッ!!私のものなんだから言うことを聞け!」

 

「神奈子さまっ!?髪の毛がっ!!」

 

「すまんっ、()()()()()()()()()()()()()()()()。早苗、頼めるか?」

 

「・・・はいっ」

 

 

 改めて髪さまと向き合う。

 最初に見た時よりも大きくなっており、髪の毛も伸び、目玉の色が充血して真っ赤になっていた。

 

 

『殺すゥゥゥ…ッ!!』

 

(これじゃあ…、本当に妖怪……っ)

 

 

 神奈子は神社から離れすぎたせいで本来の力を使うことが出来ない。これは神というものの特性である。それは髪さまも例外ではないのだが、髪さまは力が弱まるどころか強まっている。つまり・・・【神から離れていっている証拠】だった。

 

 

『“髪の毛地獄”ッッ!!』

 

 

 早苗に向かって、髪の毛を伸ばす。

 そして両足に巻き付いた。

 

 

『潰れろォォォオーーーッ!!』

 

「あっ──」

 

 

 何度も何度も固い地面に叩きつけた。

 更には、そのまま彼女を地面に引きずり倒した。髪さまの髪の毛の力に抗うことが出来ずに、彼女は鈍い衝撃と共に激しく地面にぶつかり、苦痛の叫び声が響き渡った。早苗の体は、その無慈悲な力によって粉々にされ、彼女の目には涙と血が滲んでいく。

 

 

「うぅっ、ひぐぅっ、いだいっ」

 

『抵抗しないノカ…?』

 

「初めは…、初めは倒そうと思っていたんです…っ、でも、でもそうしたら…、毛目玉さんが1人になっちゃう…っ。毛目玉さんの家族は、貴方だけなのに……。一人ぼっちになるのは死ぬよりも痛い…っ」

 

『・・・キ、キィ、キィィッ!ヤアアアアッッ!!』

 

 

 そこからは本当に酷かった。

 先程よりも強く、高く、思い切り、叩きつけた。早苗はぶつかる時に防御の姿勢をとるが素人である彼女が完全に防ぎきることは出来ない。

 

 

『串刺しにしてヤルゥゥゥッ!!──髪の毛槍ィッ』

 

 

 髪の毛が纏まり、今度は無数の槍になる。

 その先端がクルクルと回転し始めて、槍というよりもドリルのようになっていった。その鋭い先端が早苗の全身を狙う。もしこのまま刺されたら、皮膚や骨、内臓などを破壊し、死んでしまうのは間違いない。

 

 

「ぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 一方、守矢神社では──。

 毛目玉の全身に巻かれた包帯を、諏訪子は取り替えていた。傷は早苗の治療のおかげで治りかけており、まさに奇跡の所業である。毛目玉は冷静にはなっているが、死にそうな表情をずっとしていた。

 

 

『諏訪子殿…』

 

「どうしたの〜?」

 

『俺を殺してくれませんか』

 

「・・・あ?」

 

 

 諏訪子の手が止まる。

 そして手の中の包帯がドロリと溶け始めた。だが毛目玉は諏訪子の表情や反応、この異変に気づかず、ただ単に言葉を続けた。

 

 

『俺のせいで、俺が馬鹿なせいで、髪さまは堕ちてしまいました。今、早苗殿が髪さまを倒してくれている。本当は俺が何とかすべきなのに…。あぁ……信仰すべき神がいない俺に生きる意味なんてありませ──……』

 

「おい、死んで逃げる気か」

 

『ひぃっ!?』

 

 

 全身から汗が噴き出る。

 1番幼い神なのだと思っていたが、髪さま以上の圧を感じる。光を失った目の奥の闇に飲み込まれそうになる。

 

 

「早苗は、一度も逃げなかった。お前と同じように信仰を失い、絶望しかけても逃げなかった。巫女としての役割を捨てなかった」

 

『俺と同じ…?早苗殿も、俺と・・・』

 

「そうだ。外の世界で信仰を失い、存在が消えかけた私たちを救うために、全てを捨てて共に幻想郷に来てくれた。仮に私たちが消えても、後悔はしない決断もした。貴様も、神に仕える神主ならば『覚悟』を見せろ」

 

『覚悟…』

 

「そうだ。自分でやってしまったと思うのなら、大切なものを守りたいのなら、自分の手で責任を取るという覚悟を見せろ。出来ないのなら……貴様を祟るぞ」

 

 

 

 守矢神社で祀られているのは八坂神奈子だ。

 だが、実は本来祀られているのは、この『洩矢諏訪子』である。彼女の正体は、髪さまと同様に土着神であり、尚且つ『祟り神・ミシャグジさま』を束ねる頂点の存在なのだ。

 彼女は、過去に八坂神奈子に敗北し、守矢神社を渡した。だから表向きは神奈子を信仰しているのだが、その実は諏訪子を祀るためでもある。

 

 根底が“祟り神”であるからこそ、礼節には特に厳しく、巫女や神主が正しい行いをしない場合は死ぬよりも恐ろしい祟りを与えるのだ。だからこそ死んで逃げようとした毛目玉を許せなかった。

 

 

 

『・・・初めから覚悟を決めておけば、こういう事態にはならなかったのでしょうね」

 

 

 信仰を得るために、俺は何をした?

 生贄なんて髪さまと人間の信頼を壊すような案を出して、髪さまを壊してしまった。

 

 

「諏訪子殿。やるべき事が分かりました」

 

「そうか」

 

 

 早苗のような覚悟が無かった。

 今起きている悲劇は、髪さまを失ったらどうしようと覚悟が出来なかった自分の招いた結果だ。髪さまの神主として、やるべき事は──。

 

 

「俺が、髪さまを止める!!」

 

 

 毛目玉は立ち上がり、庭へとジャンプする。

 そこから自分の背丈と同じくらいの小石を拾う。せっせと御神体の『鏡』の前まで運ぶと、毛目玉は大声で叫んだ。

 

 

「うおおおおーーーっ!!」

 

 

 

 

──バリンッッ…

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

「・・・? あれ?」

 

 

 攻撃が来ない。

 痛いのは覚悟していたつもりだが恐怖はあるので目を瞑っていた。しかし一向に攻撃が来ないので、目を開けると丁度ヘソの上で槍は止まっており、髪さまの動きは固まっていた。

 

 

『・・・早苗さん』

 

「か、髪さま?」

 

『誰かを殺す前に止めてくれて、ありがとう・・・』

 

 

 そう言うと、髪さまの全身から力が煙となって抜けていく。

 里の人間たちが盗られた髪の毛たちは、フワフワと飛んで自分の持ち主の元へ戻っていき、頭の上に収まると元通りになった。

 

 

「早苗ー!終わったんだね」

 

「神奈子!ご無事でしたか!」

 

「早苗も無事で良かった。それにしても自分の髪の毛と戦うなんて初めての経験だったな。それよりも髪さまは?」

 

「髪さまは・・・」

 

 

 最後には“ただの小さな髪の毛”となってしまった。

 例えるならカツラだ。そのカツラのような小さい髪の毛が、早苗の手の上に乗っかっていた。

 

 

「信仰も妖力も失って……、ただの土着神に戻ったんだな」

 

「けど急にどうして」

 

「そりゃあ、覚悟を決めたからだろう」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 これにて、生贄異変は終わった。

 人々は髪の毛が抜ける初めての経験をしたと笑うものがいる一方で、妖怪のせいなのかと不安を募らせるものも現れた。

 

 そして、毛目玉たちは、あの顔面岩の元へ集まっていた。

 

 

「今回は俺のせいで迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。これからは髪さまとここでひっそりと暮らしていこうと思います」

 

 

 花村武敏は、一族の犯した罪を償うべく、社を立て直して、お酒や果物などを捧げた。髪さまは修復された鏡の中で静かに眠っている。

 

 

「何かあったら必ず来てくださいね。力になりますから」

 

「ありがとうございます。でも神主として覚悟を決めました。これからはもっと頑張っていきたいと思います」

 

「ふふ。では失礼しますね」

 

 

 早苗は守矢神社に戻る。

 毛目玉は彼女の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた。

 

 

「守矢の巫女、早苗殿。本当に本当にありがとうございました…!!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「髪の毛は盗られるし、謝礼は貰えないし、散々な目に遭った。アレは流行病のせいだって嘘ついて泥を塗り薬として売りつけようかなァ」

 

「そんなこと言ってると祟られますよー」

 

 

 ねずみ男は、守矢神社で泥を集めてニタニタと笑っていた。

 早苗は呆れてしまう。

 

 

「ケケケ。早苗ちゃん、今時祟りなんてある訳が──」

 

「ねずみ男さん!?頬っぺたが!」

 

「俺の頬っぺたぁ?……ゲゲゲーーーッ!?俺様のヒゲが全部抜けたァッ!?」

 

「悪い事って出来ませんね〜」

 

 

 

 

 

 ねずみ男の悲鳴の裏で、小さくカエルの鳴く声がした。

 

 

 

 

 

 




 早苗は、外の世界でやるだけやって、最後は神を救うために全て(友達や家族)を捨てて幻想郷に移動した。その結果、神を失っても『ここまでやってきた事』や『過程』に後悔はない。どんな結果になろうとも後悔しないという覚悟ができていた。

 その反対として、毛目玉。
 彼は、信仰を失い変わっていく髪さまを見て、生贄という案を出した。そのせいで髪さまは悪神へと変わってしまい、後悔し続けた。神主として生贄をやると決めたのなら、こうなると覚悟し、自分でどうにかすると決めなければならなかったが、出来なかった。


 この対比を出したかったんですが、やっぱり難しいー!!
 もっと自分の表現レベルをアップさせたいです。

 『髪さま』。
 当てられた方は、鬼太郎マニアです。マジで!

 次回は紅魔館組か、妖夢、文を出したい。
 
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