ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。

 めちゃくちゃ筆が乗りました!
 次の投稿も、すぐにできればいいかと思います!

 fgoは新翁がたくさん当たったので嬉しい。課金せずに済みました(確定ガチャのために課金はしましたが…)







アラビアのプリンセス③

 

 

 

「ゆ、幽香……」

 

「ひぃいい…、めちゃくちゃ怒ってるぅっ」

 

 

 幽香はゆっくりと近づく。

 そして腰を抜かした魔理沙の元に来ると、彼女の腕を握る。

 

 

「はっ、ぐぅっ…!?」

 

 

 そのまま持ち上げた。

 抜けた腰なんか無視をして無理やり立たせる。なんと痛いことだろう。腕が悲鳴を上げる。ぎゅぅぅぅぅっと万力のような力で骨が軋む。

 

 

「魔理沙ぁ…、私は教えたわよね」

 

「は、いぃぃ…ぃ…っ」

 

「そうよね。確かに教えたわ」ニコッ

 

 

 笑いながら彼女の八卦炉を取る。

 

 

「貴方の戦闘スタイルは正々堂々のパワー型。私はそれを伸ばせるように鍛えたはずなのに、貴方はこそこそと飛び回り、目眩しや撹乱を行なってからのマスタースパーク。……教えたことをなぜ一つもやらない?」

 

「た、めるのに、時間が…、かかっ……!?」

 

「溜める…ねぇ。なるほど、そう、いちいち溜めないといけないのよね。…私としたことが失念していたわ」

 

 

 ぽい、と手を離す。

 床に落ちた魔理沙は転がった帽子を取り、深く被る。幽香の方は日傘をくるりとしながら山の城を見る。

 

 

「貴方の芽はまだ腐っていなかった。発展途上中だったのに怒っちゃった。まだ教えていないことがあったのに失礼したわね、魔理沙。ごめんね」

 

「え、い、いえ、大丈夫っす…」

 

「私、教えてと言われて、それをしっかり身につけない子を見ると怒りが込み上げてきちゃうの。一生懸命にお世話して咲かなかったり、綺麗な花が咲いても同時に別な草が一緒に生えると……、ね」

 

「…っす」

 

 

 “ね”っ、じゃねえよ。

 魔理沙は心の中から叫びたかった。魔理沙が幽香から教わったのはマスタースパークの威力強化である。確かに修行の中で一度も幽香は土煙といった撹乱技を使うことはなかった。全て真正面からぶつかり、そして叩き潰していた。故に魔理沙は勝手に、強い相手には真正面からぶつかるのではなく、隙をついて攻撃してくるという攻撃方法を身につけてしまったのだ。

 

 

「明日からはマスタースパークの威力だけではなく、溜め方や他の戦闘方法を教えるわ」

 

「は、はい…」

 

「けどまだ威力の向上はできるわよ。あれで試しましょう」

 

「あれ?」

 

 

 これで3度目。

 あの山の城の門が開く。そして這い出てきたのは、さらに今までと違う。圧倒的な強者の予感がする。腕が4本、体色は橙色・藍色が混ざった魔人であった。頭部はドラゴンと鷲の2つあり、ドラゴンの方は舌をちろりと出していた。

 

 

『ツブスゥゥゥ……ッ』

 

「な、なんか凄いことになってますぅぅぅぅ…っ!!」

 

「そうそう」

 

 

 幽香は優しく肩に手を置く。

 置かれた早苗はひゃんと情けない声を出して、振り返る。にっこりと真っ黒な笑顔をした幽香が耳元で言う。

 

 

「私、今から魔理沙のマスタースパークの威力をさらに上げるために指導してくるから……。時間稼いでもらえる?」

 

「え、でも、私、手も足も出なくて…」

 

 

 目を逸らす早苗に幽香は安心させるように優しく言う。

 

 

「大丈夫。サポートはするから」

 

「サポート、ですか?」

 

「貴方に与えられる攻撃はある程度なら守ってあげる」

 

 

 そう言うと、地面から突然植物が生え、その花がぷちっと茎から離れると早苗の周りにふわふわ浮かび上がる。その数は12。驚く早苗は一つ手に取ってみる。触れると全身に花が持つ妖力を感じた。

 

 

落下狼藉(らっかろうぜき)…。私が作った妖花よ。これで守ってあげるから時間を稼いでね」

 

「こ、こんな花びらで──」

 

「こんな?」

 

「いえっ!すぐにでも行ってきます!!」

 

 

 花弁と共に早苗は魔人の元に突撃する。

 それと同時に幽香は魔理沙に詰め寄ると、彼女の後ろから身体を覆い、手を添えた。

 

 

「修行の時から言っていたけど、魔理沙、あなたのマスタースパークは無駄が多いわ。魔力を八卦炉の一箇所に集め、解き放つ。でも放ったあとを見れば魔力が飛び散り、辺りに飛び火しているのが見てすぐ分かる」

 

「うぐ…っ」

 

 

 魔理沙の攻撃を放った辺りを見ると真っ直ぐに一本できた焼け跡の他に水飛沫のように辺りに火傷や破壊跡が残っているのが分かる。つまり一箇所に集めることはできても、それを持続したままマスタースパークを放つことが出来ていなかった。

 

 

「指摘すれば直せるけど、それは修行の時だけ。こういう本番の時には焦りや緊張、興奮で忘れたり、ミスをしたりしてしまう。加えて溜めが長いせいで敵は対処しやすいし、貴方は時間を稼ぐために無駄な魔力を放出して次が弱くなる」グチグチ

 

「せ、説教は今いいっすから!!」

 

「……そうね。溜めの件は後日にしましょう。練習の成果を実践で経験させてない私のミスね」

 

 

 幽香は魔理沙の八卦炉の周りを指でツツーとなぞる。

 

 

「私の生み出した“マスタースパーク”は自分の全身を巡回する魔力を傘の先端にのみ集中させて発射する技。貴方はそれを八卦炉を通して行なっている。マスタースパークの威力は自分の魔力量に比例するから、量がない人ほど威力も弱くなり、ある人ほど強くなる」

 

「ああ。私は幽香のマスタースパークがすげぇって思って真似してんだ。けどやっぱりアンタの威力には遠く及ばない」

 

「それはそうよ。妖怪と人間の魔力量に違いがある。だけどね、それだけじゃない。実は、私はね力を貰っているのよ」

 

「だ、誰に?」

 

「この周りに溢れる自然によ」

 

「自然??」

 

「全てのものにはエネルギーがあり、それを吸収する。そうすることで威力を向上できる。やってみなさい」

 

「やってみろって……。その、やり方が分からないんだよ…」

 

「心の中で呼びかけるの。そうすれば皆んなが分けてくれるわ。集中してやってみなさい」

 

 

 しかし、それはかなり難しいものであった。

 人間と妖怪にとって自然との関係性は圧倒的な違いがある。人間は別に自然と共に過ごさなくても気にしないし、中には人間の方が上だと思って自然を蔑ろにし、軽視している。

 

 一方で妖怪は常に自然と一心同体。妖怪の中には自然と繋がっている物もある。例えば【ほうこう】という妖怪は【千年以上たった杉の木】に宿るので、杉の木が壊されればほうこうは死に、ほうこうが死ねば木は壊れる。つまり妖怪と自然は切っても切れない縁があるのだ。

 

 

「・・・っ」

 

 

 妖怪である幽香は自然から力を貰うのは簡単である。一方で人間の魔理沙は自然から力を貰うのは至難の業なのである。

 

 

「とにかく力を貰うために呼びかけるしかないわ。ただ、今貴方の立場は自然よりも上にいるはず。そこから少し降りて自然と同等になりなさい。ただし自然よりも自分は下だと思うと舐められて力を貰えないから気をつけて」

 

「〜〜〜〜っ」

 

「あっ、そうそう。間に合わないなら早苗は死ぬと思うわよ」

 

 

 幽香は笑いながら空を見上げる。

 早苗は魔人が魔理沙たちの元に行かないように必死に抵抗しているが、敵の方が遥かに格上だ。

 

 

「!? ゆ、幽香、助けに──」

 

「幻想郷は弱肉強食。弱い奴は死ぬしか無いの。嫌ならそもそも戦場に来ない方がいい。命を奪うなら命を奪われる覚悟をしないとね。でも助けたいなら頑張れ頑張れ」ニコッ

 

「く、ぅ………っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早苗は一人、空中に浮かんでいた。

 眼前に立ちはだかるのは、橙色と藍色が混ざり合った巨体。四本の腕。

二つの頭。一つはドラゴン。もう一つは鋭い嘴を持つ鷲。下半身はこれまでの魔人と同じく、濃密な煙となって渦巻いている。

 

 

『ツブスゥゥゥ』

 

 

 魔人が四本の腕を大きく広げた。

 早苗の瞳が大きく見開かれる。

 

 

(──右)

 

 

 反射的に身体をひねる。

 拳が頬のすぐ横を通過した。風圧だけで髪が激しくなびく。避けた直後、反対側から二本目の腕が迫る。早苗は身体を反らしてかわす。

 

 

(──左)

 

 

 だが、その先には三本目の腕。

 咄嗟に腕で受け流す。強烈な衝撃が腕を伝わり、身体が横へ流される。そこへ四本目の腕が振り下ろされた。早苗は急降下して紙一重でかわす。拳は何もない空間を叩き、衝撃波が雲を吹き飛ばした。

 

 

「直撃してたら……っ」ゴクッ

 

 

 早苗はそのまま急上昇する。魔人も追ってくる。

 四本の腕を使い、空中を泳ぐように身体を動かしながら、一気に距離を詰めてくる。

 

 

『ヌオオオオォォォーーーッ!!』

 

「秘術「グレイソーマタージ」」

 

 

 早苗は星型の弾幕を放つ。

 無数の光弾が魔人へ飛んでいく。だが、魔人は四本の腕をそれぞれ別々に動かした。弾幕を払い、受け流し、弾き飛ばし、それでも残ったものは身体をひねってかわす。

 

 

「神徳「五穀豊穣ライスシャワー」!!」

 

 

 魔人の上空に米俵が顕現する。

 それらがパンっと弾ける音がして、中の米が降り注いだ。魔人は流石に対処し切れずに米のシャワーに流されるが、攻撃力があまりない技なので直ぐに復帰する。

 

 

『コザカシイ……ッ!!』

 

 

 ほとんどの弾が届かない。早苗は唇を噛みしめる。早苗の戦闘スタイルは力に振ったものではなく、小粒の技でジワジワと攻める搦手タイプ。故に耐久力とパワーに振った相手はかなり苦手なのだ。

 

 

『一気ニィィィ───ッ!!』

 

「!?」

 

 

 次の瞬間、ドラゴンの頭が大きく口を開いた。

 早苗は横へ飛ぶが、間に合わない。炎に巻き込まれる。

 

 

「・・・っ、え、あ、あれ。燃えてない?」

 

 

 炎の攻撃が終わり、黒煙の中で早苗が無傷のまま現れる。彼女の代わりに幽香が用意してくれた花弁12枚中7枚が灰となり消え去ったことで、この花の力を思い知った。

 

 

「す、すごい…っ」

 

『ゴアオォォォーーーッ!!』

 

 

 再度炎を吐くが、今度は避けられた。炎の奔流がすぐ横を通り過ぎ、夜空を真っ赤に染めた。炎を避けた先へ、鷲の頭が迫る。鋭い嘴が突き出される。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

 早苗は身体を反転させ、紙一重でかわす。しかし、鷲の頭の後ろから二本の腕が同時に迫っていた。早苗は急上昇。拳が足元に直撃するが、代わりに花弁が3枚砕け散っただけで済む。

 

 

「こ、これは…」

 

 

 続いて三本目。四本目。左右から挟み込むように拳が迫る。早苗は身体を回転させ、二本の腕の間をすり抜ける。

 

 

「まずいっっ!!」

 

 

 魔人はすぐに身体を反転させた。四本の腕が、今度は四方向から一斉に襲いかかる。逃げ場がない。早苗は両腕を交差させた。拳が腕へ直撃する。衝撃で早苗の身体が吹き飛ぶ。空中を何度も回転し、なんとか体勢を立て直す。

 

 

「いっつ……、はっ、花がっ!」

 

 

 全ての花が終わってしまった。

 幽香の加護がもう無いということだ。後はもう自分の実力で逃げ切るしか無い。しかし、魔人はすでに目前。

 

 

『オワリダァッ!!』

 

「き、奇跡「神の風」!!」

 

 

 早苗は咄嗟に腕を伸ばすと強風がこの時だけ吹き荒れる。迫ってきた拳の軌道が外側へ逸れ、そのまま身体を横へ滑らせる。

 

 

『フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン』

 

 

 

 拳のラッシュ。

 神風の力で拳の軌道がずれるがそれは一つの腕のみ。残りの拳は早苗自身が避けるしか無い。必死に頭を下げ、身体を反らす。

 

 この避け方は“弾幕ごっこ”により培われたものである。弾幕ごっこは“ごっこ”というように命を奪われることは決して無い遊びであるため戦闘能力を向上させることは無いが、避けることを鍛えることはできる。無駄ではないのだ。

 

 

 だが──限界はある。

 当たっても大丈夫かという気持ちで鍛えられた避け方は、当たったら死ぬという攻撃に対処し続けることはできない。

 

 

「──っ!」

 

 

 荒い呼吸。震える腕。歪む視界。

 体力が持たない。

 

 地上へ目を向ける。

 魔理沙はまだ八卦炉を構えたままだ。魔力の輝きは、先ほどより明らかに強くなっている。

 

 

「……私だって巫女よ。守られてばかりの女子高生なんかじゃない!そんな姿を見せたくてきたんでしょ、ここに!勝てなくても、もう少しっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ、げほっ、げほっ…。肺が痛い……っ、キモチワルイィィ」

 

 

 残った2本のタバコを無理やり混ぜて一本にした。それを吸って新たに生んだ合成魔人。その強さときたら感動するレベルではあるのだが、肺へのダメージはかなり重く、気持ちが悪い。ジニヤーは何度も咳き込み、心底辛そうに喫煙を続ける。

 

 

(ごほっ、あの傘女ヤバすぎる。魔神達2体の首を捩じ切るなんて…。タバコも同時に破裂したし……。里を襲わせたタバコは燃え尽きたし……スゥ〜…、はぁ〜……っ。残りのこれで決めるしかない)

 

 

 このタバコの効果は深く吸って吐いた煙の量に応じて魔人の力が増す。深く吸えば吸うほど魔人は強くなってくれるが、タバコが燃え尽きてしまう時間も短くなる欠点もある。

 

 

「それにしても、あの緑巫女っ、ちょこまかと……っ。すぅううう〜〜〜っ、ぐっ、げほっ、ごほっ……!!」

 

(なるほどね)

 

 

 そんな様子をアリスは気を失っているフリをしながら観察する。あのタバコが彼女に仕える魔人の秘密であると分かった。

 

 

(泣き止んだと思ったらタバコ吸い始めて、情緒がおかしいと思ったけどそういう事か。……ならこの勝負は時間が経てばこっちの勝ちという事ね。タバコが終われば、あの子を守るものはいない。時間の問題か)

 

 

 しかしアリスが動けない現状に変わりはない。

 

 

(切羽詰まって人質にされても困るしな……。ねずみ男さんを人形にするのももう無理そうだし…、さてどうするか)

 

「お困りですか」ヒソ

 

「!?」

 

 

 耳元で声がした。

 さっと横を向くと幻想郷の新聞記者である射命丸文が、どーも!とポーズを撮りながら笑っていた。

 

 

「あ、あなた、なんでここに!?」ヒソヒソ

 

「異変の中に私あり、です!こんなすごい事、記事にしないわけないでしょう。とりあえずこの縛られているアリスさんをパシャリと!」

 

「や、やめなさい!敵は目の前にいるのよ!!」

 

 

 アリスがちゃんと撮れているかカメラを確認しながら文は言う。

 

 

「心配し過ぎですよ。画面に夢中になって明らかに気づいていませんもん。……おっ、この顔なかなかの迫真顔。いいですねえ」ニヒヒ

 

「屈辱すぎる……っ」

 

「それにしてもここまで気づかれないとなると、余程我々に構ってる余裕がないのでしょうね。一体何が彼女を駆り立てるのか……。是非是非インタビューしたいものです」

 

「・・・そうね。同じ魔女として話を聞きたいところはあるけど、とりあえずこれなんとか出来る?」

 

「うーむ、魔力の枷となると時間がかかりますなぁ。できるけど。…少々お待ちくださいね」カチャカチャ

 

 

 魔力で作られたものは妖怪が扱うのは難しい。

 幽香や、紫などの強者は簡単に扱えるが、普通の妖怪にとっては構造が複雑。文はその複雑な構造をなんとか解き明かして、魔力の流れを断ち切り壊さなければならない。

 

 

「どう?」

 

「えーと……、何これ、難しいなぁ…。ここをこうして……、これはアレして…」

 

「早くして!」

 

「焦らさないでくださいよ!もう、こんなことやりにきたんじゃないのに…」

 

 

 ガシャン──。

 錠が開いた音と共にアリスは解放される。手首をさすりながらお礼を言って、文を見る。なんとアリスはそこで、文の背後にいたジニヤーと目が合ってしまった。

 

 

「感謝す、る──」

 

 

「・・・あ」

「・・・え」

 

 

 クラクラする頭を切り替えるために立ち上がったジニヤー。たまたま目線を変えた先に解放されたアリスと新たな賊を見つけてしまう。

 

 

「バレたわよ!」

 

「あやや。まぁ、しょうがないですよ。では切り替えましょう!そこの魔女さん!インタビューよろしいですか!!」

 

 

 メモ帳片手に文は羽を広げる。

 アリスは人形はないが戦闘態勢に入り、ジニヤーはタバコを思い切り吸って煙をブワァッと吐き出すと、タバコを置いてから両手に雷を溜めて構える。

 

 

「げほっ!ゔうんっ、ゔんっ、インタビューはしないし、人形使いとまた捕まってもらう!」

 

「うーむ。インタビューはダメですか…。なら天狗としての仕事をしますか!勝手に私たち天狗の領地に城を建てたんですから、そっちが捕まりなさい」

 

「やってみ──、ゔっ!?」

 

 

 

 突然、膝をつくジニヤー。

 胸を押さえつけてそのままうつ伏せのように倒れ込む。頭が痛いっ、吐き気が込み上げてくる。眩暈がして手足も痺れる。

 

 

「ど、毒・・・?いつの、ま、に・・・っ」バタッ

 

 

 何が起きたのだろうか。

 文とアリスは目を合わせる。突然、倒れたジニヤーに驚いたのだ。

 

 

「あなた、盛った?」

 

「まさか!安心安全、人畜無害の射命丸ですよ!!たまに誇張報道はしますが、毒を盛るなんて滅相なことするわけですよ!!」

 

「じゃあこれは一体何が・・・」

 

「とりあえず病院に運びます?」

 

「うーん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぅぅぅぅぅ……っ!力なんてどうやって貰うんだよ!!自然なんかにぃぃっ!!」

 

 

 魔力はもう八卦炉に集中している。

 だがこの状態はただのマスタースパークと変わらない。魔理沙のマスタースパークではあの魔人を倒すことはできない。しかしどんなに心の中で呼びかけたところで答えてくれるどころか、反応もない。気持ちの方が滅入りそうだった。

 

 

(このままだと早苗が……っ!!)

 

 

 どんなに焦っても変わらない。幽香もただ見ているだけだ。助ける気なんてそもそもないのだろう。自分が間に合わなければ早苗が死んでしまうという緊張感がさらに焦りを倍増させる。

 

 

「寄越せっ、力を寄越せェェーーーッ!!」

 

 

 叫ぶが答えるものはなし。

 一方で上空の戦いは終わりを迎えようとしていた。

 

 

『ソォォォオイッッ!!』

 

「きゃあっ!?」

 

 

 凄まじい衝撃。

 早苗の身体が吹き飛ばされ、空中で何度も回転する。その隙を逃さず、魔人が迫った。ドラゴンの頭が咆哮を上げ、鷲の頭は金切り声を上げる。四本の腕が一斉に振り上げられた。

 

 

「結界…っ!!」

 

 

 張り巡らされた結界が攻撃の衝撃を和らげた。割れる結界と共に早苗はゆっくりと落下していった。再び咆哮を上げて向かってくる魔人に対し、早苗には、もうそれをすべて捌く力が残っていない。

 

 

「うぅ……っ」

 

「早苗…!!」

 

 

 目が合う。

 早苗の瞳は絶望や恐怖になんか染まってはいなかった。顔は優しく微笑み、ただ魔理沙を信じて待つ希望だけが瞳に宿っていたのだ。

 

 

「・・・落ち着け。幽香の言葉を思い出せ!!」フゥ

 

 

 今の自分は自然よりも上にいる。

 少し降りるだけ。自然よりも下になるのではなく、自然と自分は同等。同じ立場となる。

 

 

(頼む。私の友達がこのままだとやられてしまう。幻想郷の仲間を、友を失ってしまうんだ…。絶対に嫌だ。そんなの嫌だ。何もできないなんて嫌なんだ。でも私だけじゃダメだ。勝てないんだ。だから一緒に戦ってくれっ、みんなの力を()()()()()!!)

 

 

 

 

 

 

 魔人は落ちる早苗に追いついた。

 今までとは桁違いな力を出して、四つ腕から高エネルギーの球体を作り出す。

 

 

『コレデ──、オワリダァァァーーーッ!!』

 

 

 ──その時。

 

 

『?』

 

 

 地上から、凄まじい魔力が噴き上がった。魔理沙の足元から風が巻き起こる。

 

 

「ま、間に合った……!!魔理沙さん!」

 

 

 彼女は八卦炉を両手で握り締め、静かに目を閉じていた。

 これまでのマスタースパークは、自分自身の魔力を限界まで八卦炉へ集中させ、それを一気に光として撃ち出す技だった。だが、それでは足りない。目の前の魔人を倒すには、自分一人の力では足りない。

 

 魔理沙はゆっくりと息を吸った。

 

 

『ナ、ナンダッ、ナンダ、ナニガオキテイル!?』

 

 

 風が変わった。山を渡っていた風が、魔理沙の身体へ吸い寄せられる。木々がざわめく。草花が揺れる。大地の奥から、見えない力が湧き上がる。鳥たちが一斉に羽ばたき、木々の葉が渦を巻く。自然そのものが、魔理沙へ呼応していた。

 

 

「・・・ありがとな、幻想郷(みんな)

 

 

 魔理沙の髪が風に舞う。

 身体を包んでいた魔力が、少しずつ周囲の自然へ溶け込んでいく。自分自身を、自然の中へ溶かしていく。風と一体になり、大地と繋がり、木々の生命力を感じ、山そのものの鼓動を感じる。

 

 魔理沙の意識が、自分という境界を越えていく。幻想郷の自然が、自らの身体の内側を流れているような感覚。

 

 

「見せてやるぜ。マスタースパークを超えた私の新必殺技──」

 

 

 その無数の力が、魔理沙の魔力へと集まり始めた。金色の魔力が渦を巻く。すべてが魔理沙の周囲へ集まり、八卦炉へ吸い込まれていく。八卦炉が激しく震え始める。

 

 魔理沙自身の魔力。幻想郷の自然が持つ膨大なエネルギー。二つの力が八卦炉の中で混ざり合っていく。金色の光が、次第に巨大になっていく。

魔理沙がゆっくりと目を開く。その瞳には、強烈な光が宿っていた。

 

 

 魔理沙が八卦炉を向けた。集めた力のすべてを、一点へ。

 

 

 

「魔砲ッッ!ファイナルスパークッ!!」

 

 

 

 八卦炉から光が爆発した。

 それは、これまでのマスタースパークとは比べものにならない巨大な光だった。黄金の奔流が山を照らし、空を覆い、視界のすべてを白く染める。魔理沙自身の魔力だけではない。幻想郷の自然そのものが、一本の光となって魔人へ突き進んでいく。

 

 

『ウオオオオオ─────』

 

 

 魔人が四本の腕を交差させる。

 しかし意味はない。ファイナルスパークはすべてを正面から飲み込んだ。魔人の巨体が光の中へ消えていく。橙色と藍色の身体が崩れ、四本の腕が消え、二つの頭も光の奔流に飲み込まれる。

 

 最後に残った黒い煙さえも、黄金の光に押し流され、完全に消滅した。轟音が山々を揺らす。そして、静寂。空には、何事もなかったかのように風が吹き抜けていた。

 

 

「・・・はは」

 

 

 魔理沙は八卦炉を下ろす。

 全身から力が抜けそうになる。それでも、口元には満足げな笑みが浮かんでいた。

 

 

「ははははははっ!!すげええええ!!これが私の新たな力!!」

 

 

 自分一人の魔力では届かなかった領域。

 それを、自然と一体になることで乗り越えた。マスタースパークを超える、新たな必殺技ファイナルスパーク。その一撃が、魔人を完全に消し飛ばしたのだった。

 

 

(本来、自然と人間は分かり合えない。奪い奪われる関係。その関係を見直さないと得られない自然エネルギー。加えて、どんなに修行を積んでも実践を通してしか真の緊張感は得られない。それを乗り越えなければ、実力は発揮できない。早苗という友を失う恐怖をバネにして飛躍できたことで更に強くなったわね)

 

 

 幽香は背後の方で頷く。

 

 

(ただ、自然エネルギーとの調和をいつでも出来るようにしないといけないし、溜めの長さをなんとかしないといけないわね。来るべき日のためにも)

 

「幽香ー!見てたかー!!やったぜーーー!」

 

「見てたわよ。ただ早苗を忘れてるわ」

 

「あ」

 

 

 早苗は落ちて、地面に突き刺さっていた。

 

 

「早苗ーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ゔっ、おえっ、ぇぇ…っ」

 

 

 気持ち悪さで目を覚ます。

 硬い床で眠ったはずなのに目を覚ますと柔らかい布団の中にいた。近くにあるバケツに手を伸ばし、胸の気持ち悪さを一気に吐き出す。おえぇぇっと黒い液体がびしゃびしゃと出てきた。

 

 

「うぅっ、なんなのよ、これ」

 

「それは胃液よ」

 

「え…」

 

 

 医者だろうか。

 カルテを持った女性が現れる。

 

 

「タバコを何本も吸ったことにより【急性ニコチン中毒】になったのよ。ここに来た時には痙攣と呼吸困難に陥っていたわ。今は点滴と薬を打って、胃の中も洗浄したから、そのせいで反射嘔吐してるの。気持ち悪さは続くけど死にはしないから安心なさい」

 

「・・・なんて情けないやられ方」

 

 

 タバコを吸い慣れていないものが一気に3本以上もタバコを吸うと現れる症状である。もっと分かりやすい言葉で言うとヤニクラにより、ジニヤーは気絶してしまったのだ。

 

 

「誰がここまで?」

 

「それは本人たちと話しなさい」

 

 

 そう言って病室を出ていくと、代わりにアリス、魔理沙が入ってきた。文はそもそも永遠亭に出禁にされていたため入る事はできず、山に帰るとはたてに怒られており、早苗は勝手に出ていったことを二神に叱られていた。

 

 

「元気そうで良かったわ」

 

「なんであなた達が……。私は敵なのよ!倒れた時に殺せば良かったじゃない」

 

「別に。たとえ敵でも死ぬ必要はないと思っただけよ」

 

 

 アリスが答えた。

 なんとも清々しいのだろうか。

 

 

「…そう」

 

「あなたの質問に答えたのだから、次はこっちの質問に答えて貰うわ。あなたは何をしようとしたの?」

 

 

 ジニヤーは少し黙った後、口を開く。

 敗者だし助けてもらった故に話す。それは自分の故郷であった出来事、幸せだった生活が滅び、西洋妖怪達に滅ぼされ、気づけばここにいた。

 

 

「・・・だから復讐を決めたの。その為にまずは兵隊を集めようと思った。幻想郷の女達を集めて、魔女になるように育てて、兵にしてから次は軍隊にする……、そして西洋妖怪達と戦争しようと思ったのよ。ここなら西洋妖怪の魔の手もないし、じっくりと鍛えて第二のアラビアにしようと思ったのに……失敗ね」

 

「自分の復讐に他人を巻き込むなんて失敗するに決まってるわ。やってる事は西洋妖怪の奴らと変わらない」

 

「分かってるわよ。自分のやっている醜さに何度も吐きかけたか。でも頼れるものなんていない。心を鬼にしてやるしかなかったのよ!!」

 

 

 魔理沙は近くにあった椅子に腰掛けて苦笑いしながら、アリスの後に続く。

 

 

「悪いが幻想郷も西洋妖怪達に狙われてる」

 

「・・・!!」

 

 

 ジニヤーはそれを聞くとぐったりと頭を枕に沈める。

 

 

「やっぱりどこにも私の逃げ場もない。初めから詰んでたのね。……ならあの時パパと一緒に戦って死んでればよかった。私の居場所はもうどこにもないのだから」

 

 

 その言葉を聞いて、魔理沙は低いトーンで言った。

 

 

「死ねば良かったとか言うな。お前の父さんが助けてくれた命だろうが」

 

「あなたに何がわかるのよ。大切なものを失ったこともない奴が偉そうに!だったら教えなさいよ!私はどうすれば良かったのよ!!」

 

「助けてって言えばいいだけだろ!!」

 

「!?」

 

 

 ジニヤーは驚き、そして一瞬俯くと、ゆっくり頭を上げて自虐的に笑う。

 

 

「馬鹿じゃないの。……見ず知らずの相手が助けてって言ったらアンタは助けるの!?」

 

「助ける!!」

 

「……なんでそんなこと簡単に言えるのよ」

 

「どんな相手でも困ってるのを助けるのが当たり前だからだ。魔女になる前から私は親にそう教わってきたぜ」

 

「私も同意見よ。同じ魔女なんだから助け合えることがあるはずよ」

 

「親に・・・」

 

 

 

 

 

 

 その言葉にジニヤーの脳裏に父親の顔が、思い出が甦ってきた。

 まだ自分が幼く、世の中のことをあまり知らず、これから先にものすごい絶望がやってくることにも気づかないくらい幼かったころに父と一緒に城の窓から城下を眺めていた時の思い出だ。

 

 

 

 

『ジニヤー』

 

(なに、パパ?)

 

『お前は我の引退後にこの城の女王となる。その時、今から言うことを絶対に忘れてはならないぞ』

 

(?)

 

『民が……誰かが困っているならば必ず助けるんだ』

 

(えー、なんで?王様は偉いのになんで助けるの?)

 

『ふふっ、民がいなかったら王にはなれないからだよ。誰かが困っているなら手を差し伸べられるくらい優しい子になりなさい。そうすれば自分が困った時に皆んなが助けてくれる。皆んなが助け合える国こそどんなものにも負けないものさ。……恐怖や力で支配している王は長続きはしないものだ』

 

 

 

 

 

 この魔理沙の言葉で父親のことを思い出した。

 それなのに自分は忘れて、この幻想郷を力で脅かし、女たちを魔女に変えて西洋妖怪にぶつけるための兵器にしようとした。父親の言う通りだ。力や恐怖では長続きしない。初めから協力しあっているこの幻想郷に勝てるわけがなかったのだ。

 

 そう思うと、力が抜けた。涙を垂らしながら安心したように笑う。

 

 

 

「そう…。あなたの親も立派なのね……」

 

 

 涙を拭いながら──

 

 

「お願い、助けて……」

 

「分かった!」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、退院後────

 

 

 

 

 

 

「ジニヤー。悪いがここで暮らしてもらう」

 

 

 魔法の森。

 人間たちが立ち入ることができない場所である。吸えば一般人ならば身体に異常をきたしてしまう魔力が立ち込めているのだ。そこに仮設住宅が建っている。八雲藍、魔理沙、アリスが協力し合いながら建てた。

 

 

「この場所は魔力回復ならもってこいだ」

 

「いいの?鎖に繋がなくて」

 

「確かにお前は里を襲ったテロリストだが幸いにも死者はゼロだ。……それにな、お前以外にも過去に異変を起こし里に迷惑をかけた輩はたくさんいるし、その、なんだ…反省を知らない…おバカもいる。必ずしも悪いことしたから投獄するとはならないのが幻想郷だ」

 

「……でも」

 

「心配すんな!!」ケラケラ

 

 

 魔理沙は笑いながらジニヤーの背中をバシバシと叩く。

 

 

「何かしても私がすぐに止めてやるよ!!アリスもいるしな!」

 

「ただあの魔人だけは勘弁だけどね」

 

「……それなら、よろしくお願いします」ペコッ

 

 

 少し微笑んだ後に藍は真剣なトーンで言う。

 

 

「で、だ。ジニヤーよ、思い出したくはないと思うが西洋妖怪のことを詳しく教えてもらうぞ。我々も奴らには早急に備えておきたいからな」

 

「勿論よ。幻想郷にアラビアみたいになって欲しくない。……あんなに迷惑をかけたんだもの。幻想郷の力になりたいわ」

 

「ならば今日は休んで明日にしよう。では───」

 

 

 藍はすぐに消え、魔理沙は大きな欠伸をする。

 

 

「ふわぁ〜〜っ、幽香との修行が明日もあるからな。あの感覚を忘れないうちに復習したいし今日は帰るぜ」

 

「私はバトル人形をもっと作るわ。それじゃあお休み〜」

 

 

 魔理沙、アリスは振り向いて言った。

 

 

「ジニヤー。もうお前は1人じゃない。私たちは友達だからな!」

 

「あなたは1人じゃないわ」

 

 

 2人は帰る。

 ジニヤーも新居へと入った。仮設住宅とは言っているがベッド、風呂場、台所など生活するために必要なもの、そしてそれ以上に娯楽的なもの、本や人形、ゲームなども置いてあった。

 

 

「ここの人たちは優しすぎるわよ…」

 

 

 人形を抱きしめて布団に入る。

 

 

「パパ、私、新しい居場所を見つけられたわ。……お休みなさい」

 

 

 幻想郷側に新たに加わった魔女・ジニヤー。

 そして彼女の加入と共に未知数だった西洋妖怪の戦力が見えてくるだろう。ただとりあえず今日のところはお休みなさい────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──コンコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──コンコンコン

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 

 

 

──コンコンコンコン

 

 

 

 

 

「……誰?」

 

【ジニヤー!すまん、こんな時間に起こしちゃって!この森で気をつけなきゃならない大事なことを伝え忘れたと思って、急いですっ飛んできたんだぜ】

 

「………魔理沙?」

 

【頼む、開けてくれないか。今は平気かもしれないが明日の朝とかにこの森の魔力がやばくなるんだよ】

 

「え、ええ…。今開けるわ」

 

 

 

 

 カチャッ……、キィィ……

 

 

 

 

「どうぞ。上が──」

 

『俺の声真似、上手かったろ?』ニコッ

 

「ひ、むぐぅっ!?」

 

 

 黒い腕が顔面を覆い、鋭い爪で頬を撫でられる。

 ニィィっと笑う口元から白く鋭い牙が見えた。毛むくじゃらの身体に、長い尾を垂らしながら奴が立っていた。

 

 

『シー、シシシシシ、シー……。うるさくするなよ。ジニヤー』

 

「………っ」ガタガタガタガタ

 

 

 頭を掴まれたまま部屋に入り、そして戸を閉める。

 

 

『俺、言ったろ?必ず見つけ出すって』

 

 

 ファングはジニヤーの頭を撫でる。

 

 

『たださ〜、あの後に別の任務が入ってさぁ。それが終わったら、また別な任務任務任務っ。ベアードの野郎、鬼畜だよなァ。そして最近だとこの幻想郷に潜入する任務で魔女の数の把握とか力の調査で、もう探せられないと思ってたんだ。……でも俺ってツイてるなぁ。こんな所で出会えるなんてさ運命だよなァ』

 

 

 ジニヤーは決して忘れたことはなかった。

 この男こそアラビア、そして父の仇。バックベアード軍の最高幹部である狼男ファング。こいつが幻想郷に紛れ込み、人間と同じくどこかで生活していたのか。それを魔理沙、いやここのみんなは気づいていないんだ。

 

 

『それにしてもダメじゃないか。幻想郷(やつら)に色々と話そうとしちゃあ……。俺の人間の姿をバラされると困るんだよ。だから口封じしなくちゃねえ…』

 

「〜〜〜〜っ」

 

 

 なんとかして魔理沙たちに伝えないと。

 不思議なことにずっとあった恐怖は消え、逆に勇気が湧いてくる。仇がいるから復讐に燃えているというわけではない。自分を救ってくれた魔理沙たちのために何かをしたいという思いが湧いてきた。

 

 

『ん?いや、待てよ。こいつもブリガドーンの材料になるからな。殺さないでベアードに渡したほうがいいかァ?でもな、ベアードが来るのはもう少し先だし、それまでこいつを何処かに隠して騒ぎになっても面倒だし……。よし、最初の予定のままで……って、お前何してんの?』

 

「〜〜〜っ」

 

 

 ジニヤーは動かせる両手で小さな魔法陣を展開し、何かを行っていた。普通なら逃れるために抵抗すればするはずなのだが、抵抗はせずただ集中して黙々と準備をしていた。

 

 

「ん〜〜〜っ!!」

 

 

 止める間も無く、魔法陣が光ると思うと──

 

 

 

【ティロリロリン♪】

 

 

 

 軽快な音が鳴った。

 部屋の中でただ音だけが鳴った。ファングは自分の身体に異常がないかと空いている手で身体を探るが異常は無い。

 

 

『は?』

 

【ティロリロリン、了解しました。この質問に答える魔人(アンサー・ジン)の主人は魔理沙さまに移行します。ではさようなら──】

 

『て、てめぇ……』

 

 

 

 

──ドシュッッ…

 

 

 

 

「・・・ごふっ」

 

 

 ジニヤーは腹部を見る。

 狼男の太い腕が腹を貫通していた。引き抜かれると同時に血と内臓が飛び出し、そのままべちゃっと血の海に落ちる。

 

 

『てめぇ、余計な真似をしやがって…』

 

 

 怒るファング。

 そんな彼の頬に両手を這わせ、勝ち誇ったように笑うジニヤー。

 

 

「がふっ、…あなたの癖が、げぼっ、……そのままでよがっだ」

 

『アァ?』

 

「じ、ぶんが…、あっとう、てきに、強い……、立場になると…、油断する癖よ゛…。狩りの途中で舌なめずり……。だから、足元…、すくわ、れ……」

 

『黙れ!黙れ黙れ黙れ!!死に損ないのくせにィッ!』ドカッバキッ

 

「ごふっ…、ゔっ……」

 

 

 視界が暗くなる。

 新天地で自分の人生が始まると思っていたのに、結局はこの様か。ただ、寂しくは無いな。

 

 

(パパ…、皆んな……、いまそっちに向かいます…。アリス、魔理沙……。ごめんね…。迷惑しかかけなくて……)

 

 

 ジニヤーはもう動かない。

 彼女の命がいま、止まった。狼男ファングは数秒間立ちっぱなしになった後、我に帰る。傷だらけで血まみれなのに勝ち誇った顔をしたまま永遠の眠りについたジニヤーの顔を見て、猛烈な悔しさが込み上げる。

 

 

『俺が勝ったはずなのに…。勝ったはずなのにィィィ……!!なんだこのスッキリとしないモヤモヤっとした感覚はっ、妙な敗北感はぁぁぁ……っ、くぅぅぅぅそがァッ!』ペッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜〜っ、朝かぁ〜っ」

 

 

 鳥たちの声と共に目を覚ます魔理沙。

 手足をぐぅっと伸ばして、ピョンと起き上がる。魔導書や実験材料でいっぱいの机の上を適当に片付けると冷やした牛乳をコップに注いでグビグビと飲む。

 

 

「くぅ〜っ、朝はこれだな。……そうだ、ジニヤーやアリスと一緒に朝ご飯でも食べるか」

 

 

 玄関を出る。

 夏だと言うのにこの森は木々が多く木陰も多いのであまり暑くはない。結構過ごしやすい土地である。

 

 

「〜〜♪〜〜……ん?」

 

 

 ジニヤーの家の前には藍がいた。

 アリスも一緒である。ジニヤーの玄関の戸を開けたまま中には入らず外から眺めたいようだった。

 

 

「おはよ〜。2人とも何し、て……。…………え」

 

 

 魔理沙は固まる。

 目の前に広がる地の海とジニヤーの亡骸。血の海の中には臓器などが飛び散っており、夏場だからか蠅などが違っている。

 

 

「……んだよ、これ」

 

 

 アリスも藍もただ見ることしかできない。

 魔理沙はただ茫然と立ち尽くす。

 

 

「私が来た時はもうこの有様だった。状態から見て、午前2時ごろに死亡…」

 

「そんなこと聞いてねえよ」

 

 

 魔理沙は怒り、淡々と言う藍の胸ぐらに飛び掛かる。

 

 

「ぐっ!?」

 

「なんで気づかなかった!!敵が来たんなら気づけたはずだろ!!」

 

「外から来た敵なら気付けるが……っ、ぅっ、内部の者の手は反応できないっ。近くにいたお前は何も分からなかったのか」

 

「!」

 

 

 魔理沙の力が抜ける。

 怒りのままに藍に八つ当たりしたが、一番近くにいた自分が何も気づけなかった。自分のせいだ。

 

 

「……っ、………分からなかった。……藍の言う通りだ。私が近くにいたのに気づけなかった。助けるって言ったのに。偉そうに私は……」

 

 

 ぽたぽたと涙を流して、何度も自分の膝を叩く。

 悔しさ、悲しみか、それは分からないがただ自分が許せなかった。

 

 

「あ、ぁぁぁ……っ」ガタガタ

 

「魔理沙…」

 

 

 藍は肩を震わす魔理沙の側に駆け寄る。

 

 

「誰のせいでもないわ。悪いのは西洋妖怪よ。切り替えなさい、魔理沙。泣いてる暇があるなら敵の証拠探しを手伝って」

 

 

 アリスが呼びかける。彼女は泣いている魔理沙を横目に殺害現場の中を探っていた。死体に付着した液体や、どのように殺害されたのか、色々と見ていた。そんな姿に魔理沙は立ち上がり、アリスの肩を掴んで止める。

 

 

「待てよ」

 

「・・・なに?」

 

「お前、イカれてんのかよ。ジニヤーが殺されたってのに何も思わねえのかよ」

 

「じゃあ泣けばジニヤーは生き返るの?」

 

「……てめぇっ」ピキィッ

 

 

 完全にキレる魔理沙。

 しかし、臆することなく肩を掴んでるその手を払いのける。あのクールというか感情を表に出すタイプではないアリスの姿に藍は驚く。

 

 

「泣いて、お願い神様この人を連れて行かないでって懇願すれば生き返るのなら幾らでもやってやるわよ。でもね、違うでしょ。生き返らない。この世に不死者はいるけど、私も貴方もジニヤーも違う!!死んだらそれで終わりなの!!」

 

「……っ!」

 

「見なさい。ジニヤーの手の中を」

 

「こ、これ…」

 

 

 ジニヤーの手の中には毛髪、いや獣の物のような毛が握られていた。

 

 

「ジニヤーは私たちに託したのよ。犯人の証拠を」

 

「………!!」

 

「ジニヤーは死ぬ間際まで諦めていなかった。なら生きている私たちがすることは死を悲しむことじゃない。想いを受け継ぐことなのよ。ジニヤーの残したものを無視なんてしたら報われるわけが……、ない、じゃない…っ」

 

 

 アリスもたまらず泣き出した。

 きっともっと早く泣きたかったのだろう。込み上げ、溢れ出した。アリスだって悲しいに決まっていた。

 

 

「・・・悪かった。確かに私たちがメソメソしていたら頑張ったジニヤーに申し訳ないよな」

 

「絶対に討つわよ、仇」

 

「もっともっと強くなってやる!」

 

 

 藍はジニヤーの手の中に握られた毛の束を手に取る。

 大結界に反応がないところを見ると、敵は幻想郷内部にいる。出ていない。匂いで追うために嗅いでみる。

 

 

「……ダメだ。完全に血で上書きされてる」

 

「せめて敵のことを少しでも知れたらいいと思ったが……」

 

 

【ティロリロリン♪】

 

 

「!?」

 

 

 魔理沙の背後から音がする。

 八卦炉を構えて振り向くが誰もいない。だが確かに声は聞こえた。警戒は怠らず、アリスと藍にも合図を送る。すぐに全員が臨戦態勢に入る。

 

 

「誰だ!姿を見せろ」

 

【ティロリロリン♪私は質問に答えるだけの魔人であります。故に声のみであります】

 

「魔人!?ジ、ジニヤーの!?」

 

【ティロリロリン。元主人であるジニヤー様が魔理沙様に“残りの私の権利”を譲渡しました。そして魔理沙様が“敵のことを知りたい”と質問した為、私の知りうる限りを教えます。……新しいご主人様キャンペーンなので先の二つの質問はカウントしません】

 

 

 機械的な声がさらに続ける。

 

 

【ジニヤー様を襲った敵は──バックベアード軍最高幹部の1人、狼男ファングです。ファングの得意分野は“潜入と偵察、そして暗殺”。自信過剰な性格故に勝っている状況だと油断します。幻想郷内部に潜入し、人間の姿となり、里の人間たちと平穏に暮らしています。申し訳ないですが、ファングが、どの人間に、なんという名で、どこに潜伏しているかは不明です】

 

 

 全員が絶句すると同時に、ここにて判明する。

 幻想郷内部に西洋妖怪が潜入している。敵は我々と共に生活し、共に飯を食べ、共に笑い、共に眠りながら、目的の日まで身を潜め、牙を研ぎ、待っているというのだ。

 

 

「な、なんて事だ…」

 

「もう既に幻想郷で……!?」

 

「ふざけんなよ…っ」

 

 

 

 

「「「敵が既にいる……っ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的の日・ワルプルギスの日まで残り──15日

 






「・・・ぷはっ、死ぬかと思った。とほほ、俺ってそんなに悪いことしたかなぁ?」





次回──霊夢修行編に入ります
ありがとうございました。
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