fgoの水着イベントにて、マジムンアイランドをやりました。
ストーリーは少しがっかりしましたが、可愛いキャラに出会えたのは最高。ただめちゃくちゃ好きなプロテアオルタが出なくて心折れた。目玉のおやじの存在が知られているので、いつの日か鬼太郎コラボなんかしてくれると嬉しいな。
鬼太郎がサーヴァントで出たらクラスは何になるのだろうか?
とりあえずぬらりひょんはアサシンで、朱の盆はバーサーカーだな
幻想郷で、ねずみ男が別れさせ屋をやっていた頃──────
チベット。
人の暮らす世界から遠く離れた、険しい山々の奥深く。
どんなに暑くてもここの雪はまだ残っており、それを被った山々に囲まれた谷間には、古くから仙人たちが暮らす集落があった。ただ今この山にいるのは3人だけであり、集落のほとんどが空き家のようになっていた。今では自然に飲み込まれている。
「井戸の中に行くの何気に初めてね…」
質素な石造りの建物。
そこにある一つの井戸。その中を霊夢はふわふわと飛びながら下っていく。そこには人間の世界ではほとんど見られない植物が数多く育てられていた。
「おお…」
赤、青、紫、黄色。見たこともない花、奇妙な形をした葉、岩の隙間から伸びる細い草、木の根元に生える小さな茸。井戸という暗くて湿度の高い場所でこんなに育っているのが不思議に感じた。その植物一つ一つが、この地では貴重な薬の材料だった。そして、その植物たちを管理しているのが“井戸仙人”だった。霊夢はその日、井戸の中の薬草園に連れてこられていた。
「暗すぎ」
「儂は明るいのが嫌いなんじゃよぉ」
「きゃあっ!?」
突然目の前に現れる顔に悲鳴をあげる。
井戸仙人の顔はかなりの異形で、いくら見ても慣れない。井戸仙人はほんのりと青白く光る苔を手に塗ったままさらに奥へと誘う。
「ほれ、座んなさい」
この奥の部屋には黒板のようなものと、調剤に使う器具などが机の上に広がっており、薬の匂いが部屋全体に広がっており、永琳のことを思い出してしまう。用意された座布団に座ると、井戸仙人も葉っぱの椅子に座り対面する。
「さて、修行についてだが……。具体的に何をするかは知っとるか?」
「いいえ。何も聞いてないわ。ただあの犬爺に井戸に行けとしかね!」
「妖犬のやつ、適当じゃのお」
井戸仙人はやれやれと呆れつつ、説明を続ける。
「儂らの目的はお前さんを目覚めさせること。そしてな、目覚めるために必要なことは『心』・『技』・『体』じゃ。三人の仙人から教わり、与えられた試練を合格すればいい。そして、その中で儂は技を教える」
「技……」ゴクッ
「儂が教えるのは『技』。それは──薬学」
「・・・薬学?薬学っていうと、えーと、そのまま薬のこと?」
「そう。それでお前さんの知識を知りたい」
「?」
「八雲紫から聞いた話によると、山のものを結構嗜むそうじゃな。ならこれらには見覚えがあるかの?」
そういうと目の前にさまざまな植物を広げた。
霊夢は手に取ると片方は右、もう片方は左へと分け始めた。
「あー、これね。食べられる…、これも食べたことあるわね、これもこれも。あっ、これは根っこに毒があるやつ。これもダメね。ダメ、ダメ、これはいい……」ブツブツ
全てを仕分け終えると、霊夢はドヤ顔をした。井戸仙人は口をポカンと開けて驚いている。
「食べ物として知っとるのかっ。す、すっごいのお。若い女子は甘いものしか知らんと思ってたわ」
「舐めないでよね。金がない時には山に積みにいって……。どれもこれもお腹を満たすのに役立ってくれたわ。あれ?そうなるとアンタから学ぶことはない?」
「確かにそうかもな。でも学んで損はないぞ」ホホホ
(なんだ修行って聞いてたけど、これなら余裕そう……。というか、期待はずれね)
早速、座学が始まる。
机の上に霊夢は明らかに退屈そうだった。目の前に並べられた植物を眺めながら、頬杖をついている。渡されたノートと鉛筆に触れることはなく、ただただボーっとしていた。
「ホホホ。つまらないかね?」
「・・・気を悪くしたならごめんなさい。でも、毒があるかどうか見分ける知識なんかつけても役に立つ気がしなくて」
「期待とは違ったか。でもな西洋妖怪との戦いには必要になるかもしれんぞ?」
「だったら、もっと戦えることを教えてよ」
霊夢は悪いとは思いながら本音を言ってしまう。
「妖怪を倒す術とか、結界とか、そういうの。薬草の勉強なんてして、何になるのよ。敵との戦いが長引いた時のサバイバル術なんて今はいらないのよ」
井戸仙人は苦笑いしながら、冷蔵庫的な岩からぷるんとした餅を取り出す。
「ホホホ。こりゃあ手厳しいのお。大切なことなんじゃがなぁ。まあ、これでも食べて休憩するか」
「草餅!?」
「材料は先程見せた食べられる野草から作ったんだ。はい、どうぞ」
「用意してくれたものを無碍にするわけにはいかないわね。じゃあ早速……もぐもぐ…」
甘い。
なんて心地の良い甘さだろう。最近食べたものは粗末なものばかりだったのでこの甘みがなんて幸せなのだろ──
「・・・っ!?」
どくんっ──
どくっ、どくっ、どくっ──。
「はっ、はっ、身体が……っ」
手足が痺れて──
「手足が痺れてきたろう。あの植物たちは茹でることで毒素が抜けるが、草餅のように餅にただ混ぜ込むだけだと毒素は消えん。よく今まで中らなかったもんだ。おっ、そろそろ次第に羅列が回らなくなってくるぞォ。ホホホ」
「な、ん、れらぁ……!?」
「そしてそのまま吐き気を催し、けいれん、意識障害。臓器不全、呼吸器官が麻痺して……、そのまま死に至る」
ダメだ。
本当に意識が消えかけてきた。呼吸もできない。苦しい。体の細胞たちが死んでいくのを感じる。臓器たちが自分たちの役目を放棄し、眠りにつくかのように感じる。頭までも動くのをやめて思考が終わっていく。
「でも、あら不思議。このジギタリスの葉の煎薬を飲めば──」
「──はっ!」
心臓にすごい衝撃が走る。
一気に心臓が動き出し、すべての臓器が目覚めた。霊夢はぶわっと起き上がり、発汗した身体を見つめた。体内に溜まった毒が毛穴から抜け出して、今までにないほどの爽快感が体を貫ける。
「はっ、はっ、はっ……」
「どうかね?」ホホホ
霊力が高まっている。身体を鍛えるだけでは得られない力の向上に驚くと、その反応を見た井戸仙人はニタリと笑う。
「サバイバル術なんかでは得られないじゃろ」
「……っぐ」
「今まで食べてきたから安心と思った植物たち。それらに対して煎じ方、調合法、積み方に、乾燥……と色々手を加えることにより毒性を持ったり、薬となったりする。これこそが薬学の凄さなんじゃよ」
霊夢は少し苛立ったように答える。
「……っ、毒を飲ませる必要はないでしょっ」
「実際に体験しなきゃあ薬学の凄さは知れんだろう?もし薬学を知らぬまま、今のように敵から毒を盛られたらどうする?言い訳して死ぬか、学んで生きるか。それを教えたかったのよ」ホホホ
井戸仙人は植物を机へ並べていく。
「……幻想郷のどこにでもあるこの植物たち。今までは食用か否かとしか思えなかったものが敵を倒す武器にも、傷を癒す薬にもなり得る。この技術と知識を身につければ自然全てを味方に付けられる」
「つまり、薬学も戦いの一部ってこと」
「そういうことだ。助けられなかったと後悔したら待っているのは絶望だけだからな」
霊夢はここにきて本当に修行が始まったんだと自覚すると共に、井戸仙人の凄さを知った。強者とは、ただ力を振り回したり、強力な術を使えたりする者だけではない。自分の持っているものを、状況に応じて最も適切な形で使える者であると知ったのだ。
霊夢は机の上の鉛筆を手に取る。井戸仙人はそれを見て笑った。
「ようやく興味が出てきたか!」
「・・・べ、別に。早く終わらせたいだけよ」
「ホホホ」
※
霊夢は、井戸の中の低い机を挟んで井戸仙人と向かい合っていた。机の上には、乾燥させた草花や木の実、樹皮などが並べられている。あまり自然と関わらない者ならばその植物たちの見た目から、ただの山野草にしか見えないだろう。
しかし霊夢は、ここ数日で色々なことを学んだ。
「これはヨモギね」
井戸仙人が、一枚の乾燥した葉を指で示した。
「そう。ヨモギは古くから人間たちと関わってきた薬草じゃ」
「ヨモギもち最高なのよね」ジュルリ
「・・・ごほんっ。ヨモギは単にお菓子に使われるものではない。止血作用、抗菌、抗炎症、造血も可能の万能薬草。儂は常に携帯しとるわ」
「へー」メモメモ
井戸仙人は別の植物を取り出す。
「これはセンブリ」
「ものすごく苦いやつね。宴会の時に何かの罰ゲームで飲んだ記憶があるわ…」
「そう、千回煎じてもまだ苦い、と言われるほどの強烈な苦味が特徴でなァ、まさに薬に当たるという意味から当薬とも呼ばれとる。これは胃腸の不調を治す力があり、決して罰ゲームなんかで飲むものではないじゃよ」
井戸仙人は他にもいろいろと教える。
この植物は、こういった時に飲むとこんな事に効果が出る。適材適所は薬草にもあるのだと。しかし身体に良いものだけではなく、悪いものや危険なものもあることを教えた。
「これはトリカブト」
「猛毒よね。紫に食べちゃダメって怒られたことあるわ」
「そう。生で用いれば一種にしてあの世行きじゃ。しかし、適切に弱毒処理をすれば
「つまり毒と薬は表裏一体なのね」
「そういうこと。では座学はここまでにして様々な毒草の処理方法や調合を教えよう。周りに毒草しかないとなった時にも使える技術じゃ」
それから数日間。
霊夢は、井戸仙人のもとでひたすら薬学を叩き込まれていた。朝は薬草の見分け。昼は薬草の性質についての座学。そして午後からは、実際に薬として扱うための基礎・調合法などを学ぶ。
「乾燥の仕方じゃ〜。植物は採ったそのままでは保存に向かないものも多い。余分な水分を取り除き、性質を保ちながら保存することで長期間使用可能となるぞい」
「ふむふむ」
「ただし、何でも強く乾燥させればいいというものではない。熱や湿気によって性質が変わるものもあるから気をつけるんじゃよ。特に感想に向かないのは──」ウンヌンカンヌン
次の日。
「今日は刻み方じゃよ。薬草を細かくすることで、煎じる際に成分が抽出されやすくなる。だが、細かければ細かいほどいいわけではないからの。この扱いやすさ、抽出のされ方、保存性。目的によって加減する」
さらに次の日。
「煎じる場合も、ただ湯に放り込めばいいわけではないぞ。水に浸してから沸騰させる方法に、大体泡が出てきた頃に入れたりもする方法もある」
仙人は鍋を前にして説明する。
「植物によって、使う部分も違う。葉、花、茎、根、樹皮……それぞれ性質が異なることを覚えておくようにな。薬草というのは、一種類の物質ではない。一つの植物の中にも様々な性質が存在する。それを目的に応じて扱うのだ」
さらに、水で扱うもの。
油など別の方法で成分を取り出すもの。そのまま利用するもの。乾燥させて保存するもの。井戸仙人は一つ一つを実演しながら教えていった。もちろん、霊夢自身にもやらせた。
「……できた」
霊夢が完成した薬湯を差し出す。
「リウマチに効くキランソウを煎じてみたの」
「ほっほ、腰と膝が最近痛かったんじゃ。どれいただきまブフゥッ!?!?」
井戸仙人は口から吐き出す。
井戸仙人はむせ、何度も咳き込みながら口を拭いコラーッと叫ぶ。
「濃すぎじゃーーーーっ!!」
「えっ」
「薬草の量が多い」
「たくさん入れたほうが効くんじゃないの?」
「それが薬学で最も危険な考え方じゃーーー!!げほごほっ!薬効を強くしたいからといって、量を増やせばいいわけではない。適切な量もあるんじゃ!!次からは自分もしっかり味見せいーー!!」
「は〜い」
「なんじゃいその返事はっ!!」プンプン
時にかなり珍しい薬も学んだ。
「薬学は、必ずしも薬草だけとは限らない。虫や鳥、いろいろな動物たち、魔獣や妖怪なども材料になる時がある。幻想郷にあるかは分からないがもし見かけた時には使えるから覚えておくように」
「はーい」
奥の部屋は、他と違い妖気や魔力を帯びた空気が漂っていた。
「これはマンドレイクといって根の部分が人間のような形をした植物。延命や精力向上、媚薬効果なんかにも使われる。抜く時に気をつけないと死んでしまうから気をつけてな」
「一生使うことはなさそうね…。えっ、なにこれ!?」
霊夢がそれ以上に驚いたのが、植物なのだがそこから子羊が出ているのだ。
「これはバロメッツという妖植物。羊毛が取り放題じゃ」
「可愛い…」
「メェ〜〜〜」
他にも世界中の植物や珍しい生き物たちが同時に飼育されており、井戸仙人の完璧な飼育によりここまで育っているのだ。
「ここだと妖術や呪術などを消し去る薬も作れる。例えば“
「恐竜?」
「他にも『反物にされた時に元に戻す御香』、『植物に自我を持たせる薬』なんかもある」
「・・・どれもこれも限定的すぎない?」
こんな日々が続く中、井戸の中での修行生活には、もう一つの問題があった。それは食事である。
「ねえ、ご飯は?」
「仙人は食わんぞ。この辺りのメタンガスとか吸っときゃ腹は膨れるぅ」ゲプッ
「めたん…?よく分からないけど私はガスじゃお腹は満たないの!なんか無いの?」
「お主、山菜をよく食べると言っておったんだから、そこら辺で育ててるのは好きに食ったらええよ。台所はぁぁ……、そっちじゃ。使っとらんから好きに使ってええよ」
「えっ!好きなだけ食べて良いの!?」
「いいぞぉ。あっ、儂は疲れたから少し寝るから起こすなよナァ」クゥクゥ
井戸仙人は葉っぱベッドで横になりすぐに寝息を立てる。霊夢の方は、目の前に生えるご馳走たちに涎を垂らす。
「じゃあ早速っ、いただきまーす!」
こんな風に最初の頃、霊夢は普通に食べていた。山で採れた薬草を使った料理。葉を煮たもの。根っこを使った汁物。野草を混ぜた粥のようなもの。
「あーっはっはっ!!最高すぎる!うまうまうまうま……っ」モキュモキュ
調味料が無いがここまで美味しく作れた自分の凄さに感動する。そして腹が満たされていくと頭の中にも良いアイデアが浮かんでくる。
「でも毎日料理すんのは面倒ねぇ。……そうだ!今日のうちに作り置きをしておこー!私って天才!」
霊夢は満足そうに作り、そして食べていた。
しかし──同じ食べ物を同じように食べ続けると人間の脳はストレスを感じていくように霊夢の脳も次第に分かりきっている味に飽きてきた。
三日目。
「…あはは、美味しい」
四日目。
「……あは、は…」
五日目
「…………」
霊夢は作り置きたちを見つめていた。草。草。草。草。全部、草。
「な、何か肉を!何でも良いっ、虫でもいいから……っ、い、いない…!ど、どこかの戸棚に甘いものでも!」
「甘いものなんてないぞぉ」むにゃむにゃ
「…………」
そして翌朝。
霊夢はついに限界を迎えた。
「もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カイラス山に井戸の中から霊夢の絶叫が響き渡った。井戸の外にいた妖犬仙人と蝦蟇仙人はその声に驚く。
「井戸の中でかなりハードな目にあってるのか…!?」
「井戸仙人ってそういうタイプか?」
※
そんな日々を繰り返しながらも、霊夢の知識は確実に増えていった。薬草の見分け。採取と保存、煎じ方。薬効と毒性。調合。井戸仙人の教えが、霊夢の中に少しずつ染み込んでいった。
「さて基礎基本は全て教えた。故に試練に入る」
「試練?」
「今まで教えたことを、実際に使ってもらう。自主学習や授業でいい点取っても本番のテストで結果を出せなかったら意味がないように、この井戸の中で学んでいても本番の戦場でその知識や経験が役に立たなかったら意味がない」
井戸仙人は霊夢の前に、水晶玉を取り出した。
「これは?」
「“万能ガラス玉”。どんな相手の正体も見破り、遠くのものを見通すことができる儂の宝物じゃ。ほれ、見てみぃ」
霊夢はそのガラス玉を覗くと、中にこの山中が映し出された。2、3週間ほど井戸にこもっていたので何だか山の中を見るのが久しぶりに感じる。そして山中の映像は移動していき、獣道の中で苦しそうな表情でうずくまる男性の姿が見えた。
「人間、よね?」
「うむ。カイラス山は修行の聖地。故に修行のために山に登り、成長しようと志す者もいる。だがなァ、山には危険がつきものじゃ」
うずくまる男性の背後に紫色の妖怪の姿が見えた。
「……これは…」
「スリランカの妖怪、ヤカーじゃ。元々はスリランカのみに生息する妖怪なんだが、何故か最近になって他国にも現れるようになってのお。このチベットのカイラス山にも出てきて登山する人間たちにちょっかいをかけるんじゃ」
ヤカーは人間の背中の上で楽しそうに踊っている。
頭は骸骨で、身体は紫色の猿に似た姿をしている。なんて軽快な踊りだろうか、人間が苦しんでいるのをみて喜んでいる。
「だから儂らが見かけたら倒しているんじゃが、うじゃうじゃ湧いておってのお。まぁ出るもんは仕方がないがな」
「アイツをやっつけるのが試験ってわけ?」
「いや、ちょいと違う。山にある物だけであの男を治療しつつ、ヤカー退治をしてもらう。失敗はあの男が死ぬか、お前がヤカーにやられたらとする。では試練始め〜」
「えっ!ちょっとまだ心の準備が──」
霊夢の足元から突然ふわふわとした大きなキノコが飛び出し、そのまま井戸の外へと発射させたのだった。
そしてそのまま飛んでいき、着地というか自由落下していった先には苦しむ男といきなり現れた女に驚き、ダンスの途中で固まるヤカーと目があった。
「いってて…。いきなりすぎよ……っ」
『キキ…!?』
ヤカー
スリランカに伝わる病気を齎す妖怪たちの総称である。ヤカーはそれぞれ個体差があり、1匹1匹が様々な病気を司り、病気によって名前も違う。このヤカーは人間に取り憑くと吐き気と腹痛の病気にする【アモック・サンニア】と呼ばれるヤカーである。
ちなみにヤカーを倒したところで病気は残り続けるので、人間たちはヤカーを祓ったあとはカボチャを使った悪魔祓いをして病人を清め、体内に残った呪いや妖力を消すという。
『ウキャキャーーーッ!!』
「邪魔!」
一閃。
霊夢の拳がヤカーの顔面を貫き、その流れで護符を貼り付けて封印する。封印され、肉体が護符に吸い込まれるとその姿は瞬く間に消え去った。
「……さて」
霊夢は何事もなかったかのように男へ向き直った。
「次はこっちね…。まずはどんな症状か調べて……」
霊夢は容体を確認した後、周りに生えている植物を一つずつ見て回る。どれもが座学で覚えた知識。見た目だけで判断してはいけない。同じ植物でも、使う部分によって性質が違う。保存状態によっても変わる。
「吐き気と腹痛には……っ、えーと、えーと……焦るな、落ち着け」
男の苦しむ声に焦ってしまう。
何だか今までのようにどれも同じような植物にしか見えなくなる。霊夢は落ち着きを取り戻すために大きく深呼吸をする。
「……すぅ、はぁ……。泣き言なんて言ってらんないわよ……。もし西洋妖怪との戦いの時に敵のせいで毒や病気にさせられたら…、戦いの途中に永遠亭に行けるわけじゃないんだから…」
霊夢はもう一度しっかりと生えている植物を確認する。必ず何か役にたつものが生えているはず。このカイラス山は他の山と違って生えている薬草の種類が多いのだから。
「……あっ、これ!カラスビシャク!これなら…!」
霊夢は簡易型の調合キットを展開。
袖の中に忍ばせられるサイズの物だが、井戸仙人の手作り。その性能と道具は馬鹿にはできないものである。
「『
仙技調合。
井戸仙人から教わった薬学の知識を用いて薬を作る霊夢の新技である。短時間でその症状を治療するための薬を作るために霊夢の集中力を増加させ、調合の技術力を向上させる。
「できたっ!
霊夢は男に完成した薬を飲ませる。すると男の苦しそうな表情が、少しずつ和らいでいった。清潔な水と布で男の口周りを綺麗にするともう一安心だ。男はゆっくりと目を開ける。
「大丈夫よ。助かるからね」
「あり、が、と、ござま、…す」
男は安心してまた目を閉じる。
霊夢はキョロキョロと辺りを見渡して適当な方向に声を出す。
「井戸仙人!あのガラス玉で見てたわよね!これで試験は終了──」
「あ゛ぁっ!?げぼぉっ!!」
「え!?」
男の身体が、再び震え始めた。
顔色が変わる。今度は腹痛とは違い、男は胸を押さえ、苦しそうに息をする。皮膚がところどころ黄色く変色したり、意味不明の言葉を叫んでは血を吐き出す。
「薬を間違えた?いや、あの時は嘔吐と腹痛だけだった」
霊夢はすぐに様子を確認する。
「さっきとは違う…。嘔吐と腹痛は見られない。この肌は黄疸だっけ。それに…」
今度は別の症状。霊夢は眉をひそめた。さっきまで確かに改善していた。自分の判断が間違っていたのか?いや、薬草の選択も、扱いも間違っていない。
「じゃあ……まだ…」
霊夢が周囲を見渡す。
「ギギギ……」
木々の向こうから、不気味な笑い声が聞こえた。複数の紫色の身体と骨だけの頭。先ほど消滅させたはずのヤカーとは違う個体が、次々と木々の間から姿を現した。
「他にもいたのか」
霊夢は立ち上がった。
「そりゃあこんな簡単な試練はないと思ったけど意地が悪すぎるんじゃない」
ヤカーたちの中心。
一際大きな影が、ゆっくりと前へ出てくる。その姿を見た瞬間、周囲の空気が変わった。
『・・・』フシュゥ
※
「霊夢、やるではないか。念のために用意した万能治療薬を使うことはなかったな」ホホホ
井戸仙人はガラス玉を通じて霊夢の姿を伺い、賞賛の拍手をパチパチと送る。
「緊急時に冷静さを保ちながら、適切な薬を調合し、人を助ける。これで『技』の試験は合格じゃ──……ぬぅ!?」
ガラス玉に新たな反応。
反応がある場所を見ると井戸仙人はバァッと机を叩いて、立ち上がる。
「こ、こいつは…!?こんなのがカイラス山に紛れ込んでいたのか…!霊力ある場所に妖怪というのは集まるが、こんなものも呼び寄せてしまうとは!」
井戸仙人は小さな壺を取り出すとキュポンっと栓を抜く。中からモクモクと雲が出てきた。
「筋斗雲っ!待っておれ、霊夢!とおぉっ!」
筋斗雲に飛び乗った。
その瞬間にバギィッと変な音がすると同時に井戸仙人が雲の上で倒れ込む。脂汗を吹き出しながら井戸の外は手を伸ばす。
「ぐわはっ!?持病の腰痛がぁぁぁ…っ!れ、霊夢ぅ〜〜……」
※
木々の向こうから、地面を踏み鳴らすような重い足音が響いてきた。一歩。また一歩。そのたびに地面がわずかに震える。
『ギ……ギギ……』
ヤカーたちが左右へ退いていく。
その中央を、巨大な影がゆっくりと歩いてきた。
『アモック・サンニヤを消したのはオマエだな?』
最初に見えたのは、異様に大きな黄金色の顔だった。その顔にはいくつもの目が並び、そのどれもがぎょろりと霊夢を睨みつけている。大きく裂けた口には鋭い牙がびっしりと生え、笑みを浮かべるだけで獣のような威圧感を放っていた。
『この山に入った我が眷属が必ず消されていると聞いて、赴いてみれば……』
さらに頭頂部からは、何本もの蛇の頭が生えている。
それらは鎌首をもたげ、舌をちらつかせながら霊夢を取り囲むかのように蠢いていた。緑灰色の巨大な身体。太い腕。そして、その身体の周囲からも青い蛇たちが何匹も伸びている。
『こんな巫女がいたとはな。おおかた、仙人の山で修行しに来たのだろうが。誰の眷属に手を出したと思っているのか』
眷属とは違う、猿の要素なんてない。
それは数多の蛇を従えた、巨大な病魔そのものだった。
『我が名は──サンニ・ヤカー。全てのヤカーを従える王である!!』
その声とともに、体に巻き付く蛇たちが一斉に鎌首をもたげた。霊夢はその異形を見上げる。
「……アンタが原因だったのね。まぁ、いいわ。元締めが出てくるならば好都合ね」
『なんだと?』
「折檻くらいで済ましてあげるから、さっさとこの人から離れなさい。観光ならまだしも他所の国に来てまで迷惑かけるんじゃないわよ」
サンニ・ヤカーの巨大な口が、不気味に歪んだ。
『王に対して言うではないか。その勇気ある発言に対して、我もその要求に対して答えてやろう。返事は、ノーだ。この山は我々が占拠するのでな」ククク
「王様なら自分の国にいればいいのに、わざわざ他の国を狙う意味がわからないわ」
『意味など勝手に考えろ』
「あっそ」
霊夢はゆっくりと立ち上がった。
「対話する気がないならしょうがない」
ぐっぐっぐっぐっと軽くストレッチ。
体を伸ばしてからお祓い棒を構える。
「祓わせてもらうわ」
サンニ・ヤカーの周囲で、無数の蛇が一斉に牙を剥いた。
『人間風情が……!やってみろォ!!』
山中に、サンニ・ヤカーの咆哮が轟いた。
その咆哮によりサンニ・ヤカーの周囲で、無数のヤカーたちが一斉に動き出した。
『来い』
サンニ・ヤカーが両腕を広げる。すると、その腕に絡みついていた青い蛇たちが大きく口を開いた。ヤカーは蛇の口の中へと飛んでいき、蛇たちはヤカーを次々と丸呑みにしていく。
「何をして…!?」
霊夢が目を見開く。
蛇の身体がみるみる膨らんでいく。そして──蛇の口から、黒紫色の巨大な塊が飛び出した。
「うわっ!?」
霊夢が横へ飛ぶ。
その弾は木をかすめ、その周囲の植物を枯れさせながら地面へ突き刺さった。
「な、なにをしてっ!?」
『くらえ』
無数の蛇が次々とヤカーを飲み込んでいく。
『眷属を塊として発射するのが我が能力…!!これこそが
大砲から撃ち出される砲弾のように、病弾が次々と飛来する。霊夢はお祓い棒を構えた。飛んできた病弾を、お祓い棒で横薙ぎに払う。
「しゃあっ!」
弾は軌道を変え、遠くへ飛んでいった。
しかし避けたはずの霊夢の顔から笑みが消え、避けられたサンニ・ヤカーは笑う。
「……っ、…ぅ!?」
『別に当たらなくてもいいさ』
「頭が痛い…っ、ぐぅっ!?」
『一生懸命に感染症予防してもどこかで
病弾が弾かれた瞬間、その周囲にまとわりついていた毒素や病原体が空中へ飛び散っていたのだ。霊夢は思わず咳き込み、身体が急に重くなる。次第に目もぼやけて、耳も聞こえなくなっていく。全身も痒くなり、皮膚が剥がれていく。
『ぎはははははっ!!』
次の病弾が飛んできた。
当たるわけにはいかないので避けたり、霊夢はお祓い棒で叩き落としたりする。だがどんなに対抗しても周囲に病原が飛散していく。
「これじゃ……!」
霊夢の足がふらついた。
時間の問題だ。ついに膝をつく。力が抜けてお祓い棒が地面に落ちた。霊夢は立ち上がろうとする。だが、身体が言うことを聞かない。サンニ・ヤカーが勝ち誇ったように笑った。
「・・・!」
霊夢は払い落とすのをやめて、大きな木の裏に隠れた。
『おいおい。敵に背を向けるとはなァ』
霊夢は隠れながら呼吸を整える。
落ち着くと共にアドレナリンが切れていき、忘れられていた身体中の異変が目覚めて襲ってくる。頭痛に耐えながら霊夢は自分の手を見る。
「実践でしか学んだことは活かせない……。あの仙人め……、最初からこんなキツいのなんて…。あーもうっ!やってやろうじゃないの…!!」
霊夢の心には諦めるというものはない。
面倒くさがりで、鍛錬なんか大嫌いな霊夢は、生まれて初めて負けたバックベアードのことを思い出して再び立ち上がる。
「何も変わってなかったら、背中を押してくれた魔理沙に会わす顔なんて無いっての!!博麗の巫女を舐めんじゃねえ!!」
誇りが彼女を立ち上がらせる。
霊夢は周囲を見渡した。霊夢は山中にある植物を次々と確認していく。戦闘の最中に瞬時に、霊夢は植物を見分けていく。霊夢は今まで教わった知識を総動員し、自分の状態を少しずつ立て直していった。
「これは……ヨモギ、あとジャーマンカモミール…だっけ。完璧…!」
霊夢は息を整え、調合を開始した。
完成までの時間はわずか20秒。圧倒的集中力と的確な技術により成せる技で、さらに霊力を混ぜた丸薬を作り出す。
「これが、薬学を戦いに使うってことなのね」
霊夢はそれを飲み込むと、一気に症状が改善した。
完全に治ったわけでは無いが悪化はせず、体内の毒素をゆっくりと消していく。霊夢は自身の改善した体を確認すると、木の裏から飛び出す。
『弱虫がやっと顔を見せたか』
「戦略的撤退ってやつよ。知らないの?」
『減らず口を…』
霊夢の様子が変わった。
先程より体調が良さそうである。
(治ってる?何かしたようだが……無駄だ。また感染させればいいだけのことだからな!!)
病弾の連射。
八岐大蛇のようにたくさんの蛇の口から放たれる毒病の塊。霊夢はそれを躱すとか払うのではなく、突進した。
『舐めるな!!ははは──あ゛っ!?』
蛇たちの体内からヤカーが消えた。
いや消えたというよりも病弾の弾丸として使われ続けた結果、子分たちが残っておらず使い潰してしまった。この能力は眷属がいないと使えない能力であるが故に、眷属を使い切ると弾はもう出ない。
『なにぃっ!?』
「弾切れね!」
『ヌゥッ!?』
サンニ・ヤカーが正面を見る。
お祓い棒は目前まで迫っていた。
『クソッ!!』
サンニ・ヤカーが腕を上げ、防御体制に入る。
だが遅かった。霊夢のお祓い棒が、サンニ・ヤカーの巨大な顔面を真正面から捉えた。強烈な霊力が炸裂する。
「せいっ!!」
サンニ・ヤカーの黄金色の顔に亀裂が走った。
『グ……グオオオ…!!』
さらに霊夢は力を込める。
亀裂が広がる。サンニ・ヤカーの顔が大きく揺らぐ。大轟音と共に巨大な顔が砕ける。サンニ・ヤカーの身体から、病をまとった妖気が一気に噴き出した。霊夢は護符を飛ばし、サンニ・ヤカーを包む。
「夢想封印!」
『ぎぃにゃあああああ……っ!?!?』
護符が宙を舞い、サンニ・ヤカーの身体を包み込み、一瞬にして妖怪の巨体が光に飲み込まれていく。そして地面には護符が一枚ふわふわと落ちていくのだった。
※
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「おぉ〜っ、おぉっ、無事だったかぁ。良くやったぁ。人間の救助と治療、ヤカーたちの退治。よくこなしたなぁぁぁ…」
「けど、サンニ・ヤカーは想定外だったとはね」
「すまん。儂はただ緊急時に適切な行動が取れるかを試験したかったのだが、あんなのが出てくるとは……予想外。スリランカの妖怪がなぜチベットにまで来たのか……。まぁ、いい。とりあえず霊夢よ、『技』の試練、見事に合格じゃ!!」
井戸仙人の合格を貰い、井戸を出る。
次は蝦蟇仙人の待つ沼地へ霊夢は向かうのであった。
ありがとうございました!
次回は蝦蟇仙人の試練
霊夢は合格できるのか!!