ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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お元気でしょうか、狸狐です。
膝と腰が痛くて痛くて辛いです。早く技術が進歩して、人間の身体の関節部分を全て機械にしたいです。
可能なら頭部以外を全て機械にしたい。肉体なんて不要な機能が多いですわ。
あとトイレの機能もいらない。排泄機能と食事と風呂と睡眠が不要。そんな体になりたいと思っております。











蝦蟇仙人の『妖怪関ヶ原』

 

 井戸仙人との修行を終えた霊夢は、カイラス山のさらに奥へと進んでいた。次なる修行の場所は、山中にある大きな沼。木々の間を抜けた先には、視界いっぱいに広がる水面があった。水面には無数の蓮の葉が浮かび、その間を大量のカエルたちが泳ぎ回っている。

 

 

「ゲコッ!ゲコゲコゲコ!」

 

 

 あちこちから響く鳴き声。

 

 

「……あの氷精が見たら喜びそうね」

 

 

 そして、その沼の奥。

 水面からそびえ立つように、一本の巨大な古木が鎮座していた。太い幹には長い年月を生きてきたことを思わせる無数の節が刻まれ、枝は大きく広がっている。その根元には座禅を組む蝦蟇仙人がいた。霊夢の姿を確認すると、蝦蟇仙人はゆっくりと立ち上がった。

 

 

「ははは!やーっと来たな!」

 

「ええ」

 

「井戸仙人の試練をよく乗り越えた。本当に疲れているだろうがお主の実力を見せてもらいたい。構わないかな?」

 

「くぅっ、うぅ…、随分といきなり…。1週間くらい寝てたい…。でも時間も無い、…いいわ。ここまで来たんならぶっ通しでやってやるわよ。西洋妖怪どもをぶっ飛ばしたら一年くらいグータラしてやる」

 

「その心意気、気に入った!大蝦蟇、頼むぞ」

 

 

 現れたのは、一匹の巨大な蝦蟇だった。

 

人間の背丈を遥かに超える巨体。太い四肢に大きな口。そして、こちらをじっと見つめる金色の瞳。蝦蟇仙人の相棒──大蝦蟇。

 

 

「前も見たけどすごい大きい…っ」

 

 

 大蝦蟇は何も言わない。

 ただ低く喉を鳴らす。霊夢を見下ろしてその場に座っているように見えるが目玉だけは彼女を追っていた。

 

 

「怪我させてもいいのよね」

 

「構わん構わん!遠慮はいらんよ!」

 

 

 霊夢も構える。

 次の瞬間、大蝦蟇が跳んだ。上に跳ぶのではなく前に跳ぶ。巨体からは想像もつかない速度で間合いを詰めて霊夢は横へ飛び退く。その瞬間、大蝦蟇の拳が地面を叩く。

 

 

「!!」

 

 

 霊夢はその拳が地面にめり込んだ瞬間にできた隙間に踏み込み、大蝦蟇の懐へ潜り込み、その白くてブヨブヨした腹目掛けて拳を繰り出す。しかし大蝦蟇は長い舌をぴゅっと伸ばして受け止めた。

 

 

「げごぉっ」ニヤ

 

「くっ!」

 

 

 霊夢は続けざまに蹴りを放つ。大蝦蟇に直撃した蹴りはなんとするりと受け流された。

 

 

「え!」

 

「げろげろり」ニヤ

 

 

 そのまま巨大な腕を振り下ろした。霊夢は咄嗟に腕で受け止める。完璧にガードしたのだが、じわじわと痛みが浸透していき、そのまま数メートル吹き飛ばされた。

 

 

「……いったぁ」

 

 

 霊夢は地面を滑りながら体勢を立て直す。

 大蝦蟇はただ静かに霊夢を見つめている。そして跳躍した。霊夢も地面を蹴る。二つの影が正面からぶつかり合った。

 

 

「そこまでェェいッッ!!」

 

 

 蝦蟇仙人の声に両者は固まる。蝦蟇仙人は穏やかに笑った。

 

 

「素晴らしい!八雲紫から教わったんだろう?今の格闘術。よく身についている。攻撃の繋ぎも速い。相手の懐へ入る判断もいい」

 

「そう?」テレッ

 

「格闘技としてなら満点だ。妖怪退治には向かないが暴漢対策ならバッチリだな」

 

「・・・はあ?妖怪退治に向かない?」

 

「うん。向かない」

 

 

 霊夢は眉をひそめる。

 

 

「褒めてんのか、貶してるのか分からないんだけど」

 

「おおっと…。勘違いしないで欲しいんじゃが、その格闘術に対して何も問題は言っておらんよ。ただ大蝦蟇を倒すには至らなかった時点で妖怪向きではない。お前さんのは人間向けなんだよ」

 

 

 霊夢は先程とは違い、むすっとしてつまらなそうな顔になる。

 

 

「紫殿は体術に関してはずば抜けているわけではない。彼女の得意分野は空間操作な訳だし、それこそが彼女の強みでもある。きっと紫殿は護身術を教えたんだろう」

 

「けどその護身術で色んな妖怪たちを倒してきたわ」

 

「運が良かっただけだ。お前さんの護符の技術や結界術、空中浮遊能力などがうまく重なっていただけのこと。体術だけでは人しか倒せんわ」

 

「・・・」カチンッ

 

 

 つまりお前はまだ弱い。そう遠回しに言われたことに怒りを覚える。この技術を身につけるのに何度も紫にボコボコにされてきたか。しかし霊夢は言い返すのではなく、ふー…っと深呼吸とした。

 

 

「なら今の私のレベルを教えて」

 

「よかろう」

 

 

 怒ったり、拗ねたりする時間はない。霊夢は蝦蟇仙人の言葉を受け止める。それに応えるように蝦蟇仙人は真剣な顔で言った。

 

 

「自分で気づいているかは分からんが……、お前さん。戦闘態勢に入ってから戦闘終了までの間、ずっと力みすぎているぞ。気を抜かないという点では素晴らしいが、常に筋肉が強張りすぎているから段々と動きに精密さと柔軟性がなくなってしまう」

 

「なら疲れる前に決めちゃえばいいじゃないの?」

 

「その通り。だが、相手が格上の場合はそうもいかない。持久戦になることも想定される」

 

「なるほど」

 

「だからこそ長期戦に伴う集中力、体力を向上させなければならない。加えて真面目に正面から攻撃を受ける必要はない。どんなに防御がうまくてもダメージは必ず蓄積される。長期戦においてそういうのも無駄となる」

 

 

 蝦蟇仙人は指を三本立てて言う。

 

 

「この修行を経て、霊夢、お主には三つのことを身につけてもらう。一つは長期戦向けの身体、二つ目は瞬発的な破壊力、三つ目は攻撃を受け流す防御法。それらを身につければ──」

 

 

 近くの大岩に手を触れた瞬間──

 ドンッと岩が粉々に吹き飛ぶ。破片は沼にどぼんと落ちて、合唱中のカエルたちは驚いて跳ねながら逃げた。

 

 

「どんな相手にも負けなくなる」

 

「す、すごい……」

 

 

 蝦蟇仙人は笑いながら、破片の中で一番座りやすそうなものに腰をかけて言う。

 

 

「これこそ儂が伝授する体術──蝦蟇八方(がまはっぽう)。必ず身につけてもらうぞ」

 

 

 沼では無数のカエルが再び鳴き始めた。

 蝦蟇仙人の相棒である大蝦蟇と巨大な古木が見守る中、霊夢の二つ目の修行が始まった。

 

 

「ちなみに大蝦蟇は身につけてある」

 

「ええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では修行はここで行う」

 

「え?ここは・・・」

 

 

 案内されたのは大きな木の中であった。

 木の中は丁寧にくり抜かれ、部屋のようになっている。窓もあり、台所もあり、本棚やカエルの人形なんかも飾られている。

 

 

「ここは儂の部屋。この木の中をな、ちょいといじってみた。こう見えてDIY好きなのじゃ」

 

「でぃ…?よく分かんないけど、もしかして家事でもやらせる気?家事の特定の動きが〜…みたいな事でもやるの?」

 

「いやいや。まぁ、待ってなさいな」

 

 

 そういうと天井からぶら下がっているランプに手を伸ばし、ランプの蓋を開ける。中には電球や蝋燭のような光源が入っているのではなく、()()()()()が入っていた。それを取り出し、指で弾くと眩い光を放ち始め、あっという間に部屋の中が目を開けていられなくなるほど明るくなる。

 

 

「まぶし…っ」

 

「ほほいのほいっ」

 

 

 本棚の隣の壁をツツツーと撫で始める。すると壁に扉が出現した。蝦蟇仙人はその現れた扉のドアノブをガチャっと回す──

 

 

「ええ……!!何これ!」

 

 

 扉の先に広がっているのはシダ植物のような草が至る所に生えている空間であった。ただ地面は見えず、天井も永遠に広がっているようで、例えるならば宇宙のようであった。

 

 

「ここは【妖怪関ヶ原】と呼ばれる異次元空間じゃ」

 

「妖怪関ヶ原…?」

 

「本来はな、()()()()()との戦いで周りを巻き込まないように一対一で戦える決闘場を作ろうと思ってな。儂の仙術と結界術を用いてやってみたんじゃ。まぁ、決闘以外にもマンツーマンの修行をするのにはピッタリなので、ここで早速修行を行っていこうと思う」

 

 

 蝦蟇仙人はその空間の中に入る。

 

 

「食事、風呂、トイレ、睡眠以外は基本この中で鍛える。身体に蝦蟇八方の基礎が身についてきたら試練じゃ。ほれ、早く入っておいで」

 

「よし・・・」ゴクッ

 

 

 そぉっと妖怪関ヶ原の中に足を踏み入れる。

 

 

「う、うわあああああっ!?」

 

 

 入った瞬間に足を踏み外したような感覚に陥り、そのまま果てしない闇へ吸い込まれていくように落ちていく。一気に出入り口が遠くなる。なんとか引き返そうとしても霊夢の持つ『空を飛ぶ程度』が発動せず、霊夢はただ果てのない地の底に向かって落ち続ける。

 

 

「どぉ〜れ」

 

 

 霊夢とは違い、余裕そうに浮かぶ蝦蟇仙人は指先をくるくると回すと、周りの植物たちが伸びて重なり合い、何もない空間に“床”を作り出した。霊夢はべちんっと地面に落ちる。

 

 

「いっ…たぁ……っ」

 

「ほれほれ、こんな序盤でへばってられんぞ。まずは腕立てから始めよう」

 

「う、腕立て?そんな地味なのをやるの?もっとこう…滝行みたいな荒修行を想像してたんだけど…」

 

「本の読みすぎじゃ。勉学も運動もな、凡事徹底といって基礎基本が大切なんじゃよ。基礎を蔑ろにして一気に応用とかを行っても無駄。蝦蟇八方は無駄を削ぎ落とし、必要な時に必要なだけ力を出す技術。そのためにも力を出せるようにするためにも筋力、体力をまず身体に溜め込む」

 

「なるほどね。積み重ねってことか。…………積み重ねって私の嫌いな言葉の第3位くらいにあるのよね…」ガックリ

 

「いいからさっさと始めぇい!」

 

「はいっ!」

 

 

 霊夢は腕立てを始める。

 

 

「いち…、にぃ…、さん……」

 

 

 一定のリズムで腕立て伏せを続けていく。

 十回。二十回。三十回。

 霊夢の呼吸はほとんど乱れない。五十回を越えても、その動きには余裕があった。七十。八十。九十。

 

 そして──

 

 

「百!」

 

 

 霊夢は最後の一回を終えた。額に汗が浮かんでいる程度で、息もほとんど切れていない。紫や藍と行ってきた弾幕演習やレミリア、輝夜たちとの戦闘演習の方がキツかった。

 

 

「終わったわ」

 

「よし!では腹筋100、スクワット100を始めー!!」

 

「え゛っ」

 

 

 休むことは許されなかった。

 霊夢は蝦蟇仙人に見守られながら、それを必死にこなしていく。先ほどまでは汗が浮かぶ程度であったが、今はかなりの量が滴っている。霊夢は少し息を切らしながら立ち上がる。

 

 

「はぁ、はぁ…終わったわよ……」

 

「おつかれさん。ほれ、井戸仙人自作のスポーツドリンク『井戸汁』」

 

「うっ、気持ち悪い名前」

 

 

 嫌な顔をしながら受け取り、飲む。薬の匂いが一気に体内に広がって気持ち悪さに包まれるが、飲み終えた頃には不思議と身体がスゥっと軽くなる。

 

 

「……ゔっ、冬虫夏草に反鼻、竜眼肉のミックスね」

 

「流石、井戸仙人から合格をもらっただけあるな。正解。だが実は、あと()()()()()()()も入ってる。それが隠し味」

 

「ぶふぅっ!?げほっ、げぇ、うっ…、おえっ、最悪……」

 

「でも効くじゃろ。この隠し味のおかげで筋肉痛や手足の痺れを治し、毒素を浄化、心臓の動悸なんかも鎮めてくれる優れ物。ほれ、回復したところで1キロ走り込みを始めるぞ」

 

「ぅえっ!?ま、待ってよ!!少し休憩させて!」

 

「ちょっと待ってを敵さんは聞いてくれないぞ。ほぉ〜れ」

 

 

 シダ植物が広がって、宇宙的空間に走るためのコースが完成する。1キロはプロのランナーにとっては余裕だが、普段空を飛んでいて、筋トレをこなした後のヘトヘトの霊夢にとっては永遠に続く道のように見えた。

 

 

「いやあ……っ」

 

「では、よーいドン」

 

「ひぃいい〜っ」

 

 

 走り出した霊夢に、蝦蟇仙人は笑いながら言う。

 

 

「おお、そうじゃ!言い忘れとったがその道は()()()1()0()()になっているからの」

 

「重力?──ゔっ!?」

 

 

 身体が思うように前へ進まない。

 一気に身体が重くなり、霊夢はその場で膝をつく。

 

 

「簡単に言えば自分の体重が十倍になると言うことじゃな。辛いかもしれんがファイト!」

 

「ぐっ、くそぉ…っ!?」

 

 

 いつもの感覚なら、一歩踏み出せばそのまま身体が前へ流れていく。しかし十倍の重力の中では、足を持ち上げるだけでも大きな負荷がかかった。

 

 

「重っ……!」

 

 

 前に進まない。次の足が上がらない。

 なんとか一歩進んでも足が柔らかい植物のせいで沈んでいく。本来、走るという行為は地面を蹴り付け、その反発力で前へと進む。しかし柔らかすぎる地面だと反発はせず沈むだけとなり、走るのではなく足を持ち上げることがメインとなってしまう。

 

 

「う、くぅ……っ」

 

 

 汗が吹き出す。

 滝のように吹き出し、葉っぱの道に汗が跳ねる。そして3時間が経過した時点で霊夢が走った、いや、動いた距離はたったの12メートルであった。

 

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

 

 霊夢は苦しそうに呼吸し、そのまま立ち止まる。

 

 

「そこまでにしよう」

 

「……えっ」

 

「現段階のお前さんはまだそのレベルというのが分かった」

 

「待ってよ…っ、私はまだ……」

 

 

 蝦蟇仙人はトントンっと軽やかに重力が十倍の道を走り、わずか2秒で霊夢の元へくる。そして霊夢を抱き上げて元の道を戻っていく。

 

 

「勘違いしてるようじゃが、儂は呆れたからもう修行止めるなんて思ってないぞ」

 

「そうなの?私はてっきり……」

 

「出来ないから、力が欲しいから、お前さんはこの地に来た。そして儂らはお前さんを育て上げると約束した。それならば最後まで面倒を見るのが儂らの筋ってもんだし、お前さんも全てを身につけるまで諦めることは許されない」

 

 

 抱き上げた霊夢の顔を見ながら蝦蟇仙人は言う。

 

 

「誰だって初めからできるわけがない。初めから出来たらここに来る意味がないしな。焦らんでいい。毎日この基礎トレーニングを繰り返して成長していけばいいんじゃよ」

 

「・・・うん」

 

 

 そして妖怪関ヶ原を出る。

 元の蝦蟇仙人の部屋に帰ってきた瞬間に霊夢は自分の体の軽さに驚く。

 

 

「かっる……!!なにこれ!」

 

「ハハハッ!さっきまで重力10倍のところにいたんじゃ!儂らのいる世界がどれだけ優しいか改めて感じるじゃろ!……おっ、もういい時間だし飯にしよう!」

 

 

 そう言うと、蝦蟇仙人は鍋やらフライパンやら料理器具を取り出していく。蝦蟇仙人の台所は井戸仙人とは違い、使い込まれている感じがしていた。

 

 

「仙人は食事がいらないんじゃないの?」

 

「要らないだけで食べないわけではない。毎日霞を吸うのも飽きるし、身体を鍛えるのに食事は必要不可欠。戦闘で勝利する条件に筋トレと食事は必ず入ってくるからな。栄養満点の飯を食うことで身体が作られていくものじゃ」

 

「栄養のある食事、か」

 

 

 考えてみればあまり栄養を意識したことはない。霊夢は基本的に貧乏ゆえに雑草などで腹を満たすことが多く、金が手に入ったならばとにかく食べたいものを食べるタイプであった。

 

 

「もう少しかかるから風呂にでも入ってきなさい」

 

「お風呂!?」

 

「外にある。大蝦蟇に案内してもらいなさい。着替えはカエルたちに用意させるから安心するといい」

 

「分かった!」

 

 

 そう言って、霊夢は露天風呂に入った。

 霊夢の住んでいる博麗神社の裏には実は温泉が湧き出ており、霊夢は毎日そこに浸かり、体の疲れをとっている。なのでこんな風に露天風呂に入れるとは思わず、体と心が綻んでいくのだった。

 

 

(神社の温泉……、入りたいな…)

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社──

 

 

 

「ふぅううう〜〜〜っ、きんもちいい〜〜っ」

 

 

 誰もいない博麗神社。

 その裏にある温泉に、ねずみ男は無断で入っていた。

 

 

「いやぁ〜っ、なんで気づかなかったんだろ。霊夢(あいつ)が居ねえんだから、ここも神社の中も使い放題じゃん!」ウケケケ

 

「・・・でもいいのかな、勝手に・・・」

 

 

 紫苑である。ねずみ男と共に彼女もまた温泉を無断で利用していた。実はこの温泉仕切るものは何もないため実質混浴となっていた。ただ男がここを使うことはなかったので霊夢も気にしたことはなかったのだが──。

 

 

「そう言いながら、紫苑、お前も入ってるじゃねえか」

 

「だって温泉なんて久しぶりだし。それに……ねっ♡」

 

「?」

 

 

 何が言いたいのだろうか。

 まぁいいか、とねずみ男は神社内にある酒を勝手に拝借し、夜空に浮かぶ月を見ながら月見酒を始める。もちろんお猪口は二つある。紫苑は小柄だが妖怪なので飲酒はOKなのだ。

 

 

「まぁよ、誰も使われない建物や温泉ってなんか寂しいじゃねえか。そんな寂しさを埋めてやってるんだから恨まれるわけねえよ。ほれ、ととと……」

 

「そうか、言われてみると確かに。おとと、あ、ありがと。……んっ、うまぁぁ…」

 

「どれ俺も……、ぷはっ、こりゃうんめぇええ〜〜っ!」

 

 

 ねずみ男はある程度飲むと温泉から出て、裸のまま神社内の台所の方へと向かう。

 

 

「なにかツマむもんねえかなぁ…」ガサゴソ

 

 

 色々開けてみるが何もない。

 ぶらぶらさせながら、ねずみ男はぶらぶらと探す。

 

 

「暗くて見えねえなあ…。ちっ、ほんと貧乏な神社だぜ…」

 

『久しぶりに帰ってきてみれば賊が一匹忍び込んでいるようですね』

 

「!?」

 

 

 ねずみ男が驚き、振り向く。

 月夜の光のせいで顔は見えないが、何者かがねずみ男の背後に立っていた。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

「私は神社を守護るものだァッ!!てぇいっ!!」

 

 

 

──スパンッ

 

 

 

「はっっっっ、ぐぅっ、あっはぁぁぁ……!!」

 

 

 蹴りがねずみ男のアレに直撃──

 

 

「お、覚えてろぉぉぉ〜〜〜…っ」ヒョコヒョコヒョコ

 

 

 あそこを押さえて震えながら逃げるねずみ男。

 必死な顔をして、全裸で階段を降りる彼を見て、お湯から上がり服を着ていた紫苑が絶句して、数秒後に我に返り、彼を追いかける。

 

 

「ねずみ男!服っ、服ぅ〜っ!」

 

 

 賊が2人逃げていく姿を見て、謎の少女は決めポーズ。

 

 

「正義は勝つ。・・・強くなった私の守護るべき場所、誰にも侵させない!」

 

 

 月の光がきらりと輝き、謎の少女の姿が露わになる。

 カールがある緑髪を腰下まで伸ばし、額には一本角があり、犬のような耳をして赤い服を身につけ、短パンを履き、足は素足に下駄の少女が正体だった。

 

 

「博麗の巫女さま!どうやらお留守のようですが、勝手ながらここを守護らせてもらいます!この──高麗野(こまの)あうんが!!」ビシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これがねずみ男と高麗野あうんとの出会いであり、霊夢の新たなる仲間なのだが、それはまた別なお話で──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はっ!?ゆ、夢?な、なんか博麗神社で何か起きた夢を見た気がする。上がろ……」

 

 

 着替えて、部屋に戻る。

 

 

「おお……っ!!」

 

 

 霊夢を待ち受けていたのは机いっぱいに広がるたくさんの料理であった。しかも油の匂いもあり、なんとも腹ペコな腹が喜びそうな食べ物がたくさん並んでいる。こんがり焼かれた大きな虫。香ばしく揚げられた甲虫。細長い虫を使った炒め物。さらに、虫を練り込んだ団子や、香草と一緒に盛り付けられた料理まである。

 

 まさに虫のフルコースだった。

 

 

「お金ない時は山に行ってよく取ってきたっけ…。虫って意外と美味しいのよねぇ…」

 

 

 蝦蟇仙人は笑いながら席についた。

 

 

「今日は身体を酷使したからな。筋肉を使った後には、身体を作るための栄養も必要だ。特にタンパク質は大切だぞ」

 

「タンパク質?」

 

「簡単に言えば、筋力を向上させる栄養じゃな。虫は種類によってタンパク質が豊富だからな」

 

「へえぇ。まっ、栄養とかは難しくてよく分からないから何だっていいけどね。よし、いただきまーす!!」

 

 

 パクッと一口食べた瞬間、目を見開いた。

 

 

「おいしーーー!!」

 

 

 外側は香ばしく、中は驚くほど旨味がある。独特の風味はあるものの、香草や調味料との相性も抜群だった。続いて別の料理にも箸を伸ばす。

 

 

「これも……!こっちもおいしい!」

 

 

 霊夢は次々と料理を口に運んでいく。

 蝦蟇仙人は満足そうに笑った。

 

 

「気に入ってくれたようで何よりだ。カエルたちも虫は好物でなあ。よく食わせたもんじゃよ」

 

 

 霊夢は夢中で食べ続ける。

 

 

「井戸仙人のところじゃ草ばっかりだったから……!余計に美味しく感じるわーー!!これだけおいしいものが食べられるなら、明日も頑張れそう」

 

 

 こうして霊夢の初日の修行は終わった。

 地獄のような基礎鍛錬の締めくくりに待っていたのは、予想もしなかった虫料理のフルコース。霊夢は久しぶりの豪華な食事に心から感動し、眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日から、霊夢の本格的な修行が始まった。

 最初の日に行ったのは、腕立て伏せ、腹筋、スクワット、そして十倍の重力下での走り込み。それだけ聞けば単純な鍛錬に思える。しかし毎日それを繰り返すとなれば話は別だった。

 

 

「しゃああああーーーっ!!」

 

 

 初めの頃は、一つの鍛錬を終えるだけでも時間がかかっていた。息を切らし、腕や脚を震わせながら、それでも最後までやり抜く。だが、日を重ねるにつれて少しずつ変化が現れ始めた。

 

 

「腕立て百回っ、終了!」

 

 

 以前より明らかに早い。

 しかも、呼吸が乱れていない。蝦蟇仙人が目を丸くする。

 

 

(頼もしいものだ)

 

 

 そして、何よりも目を見張るのが走り込み。

 最初は十倍の重力に苦しめられた霊夢だったが、何度も何度も走るうちに、身体がその重さに適応していった。

 

 

「・・・そうよ。わざわざ走るのに肩とか腕とかに力む必要なんてないじゃない。そんな余計な分を股関節、太ももや足首、下半身全体に回していけば──」

 

 

 初めのうちは1キロなんて夢のまた夢のような距離だったが、身体を動かし続けた結果、余計なところを省き、大切なところに力を回す方法を身につけるやり方を自分なりに身につけていった。

 

 

「今日は……860メートル!あと少しじゃ!!」

 

 

 霊夢は胸を張った。

 十倍の重力は相変わらず身体を重くしている。それでも、以前のように一歩一歩を苦しみながら踏み出す必要はなくなっていた。身体が自然と動く。力を入れるべきところと、抜くべきところ。それを霊夢自身が少しずつ理解し始めていた。

 

 

「はっ、はっ、はっ……、やった…!やったーーー!!」

 

「おめでとう。ついに一キロ達成じゃな!」

 

 

 ついに修行10日目にして走り切るのを達成した。その次の日からは修行のメニューは変わり、蝦蟇仙人は時折、霊夢に組み手をさせた。相手はもちろん、大蝦蟇。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ……!!」パシパシパシ

 

「げこぉっ!」プヨンポヨン

 

「違う!拳を使うのなら力を集中させる箇所は拳のみ!全体の力を流れさせて最後は拳に全てを乗せろ!!」

 

 

 熱血蝦蟇仙人は霊夢の拳を指差す。

 

 

「分散した力の拳じゃ倒せるもんも倒せんわ!!」

 

「はぁあああああーーーっ!!」

 

 

 拳を握る。

 全身を無闇に固めるのではなく、肩や腕の余計な力を抜く。

 

 

「はっ!」

 

 

 拳を突き出した。

 大蝦蟇の巨体がわずかに揺れる。

 

 

「……!」

 

 

 霊夢自身が驚いた。

 蝦蟇仙人は頷きながら言葉を続ける。

 

 

「今の感覚を忘れるな!よし、もう一回っ!!」

 

 

 それから霊夢は、ひたすら攻撃を繰り返した。

 一つ一つの攻撃で、どこに力を集めるべきなのかを身体に覚え込ませていく。

 

 

 他にも、同時進行でもう一つの組み手が行なわれる。

 

 

「次は攻撃を受け流す修行じゃ!相手の攻撃を真正面から受け止める必要はない。力の方向を見極め、最小限の動きで逸らすんだ」

 

「分かったわ」

 

「大蝦蟇よ!さっき何度も腹を殴られたんじゃ!その礼をたっぷりとしてやれい!!」

 

「げろげろりんちょ」ニヤリ

 

 

 霊夢は構える。

 大蝦蟇が腕を振り上げる。

 

 

「こいっ!」

 

 

──ブンッ!

 

 

「ぐぅっ」

 

 

 霊夢は吹き飛ばされた。地面に転がる霊夢。蝦蟇仙人は穏やかに声をかける。

 

 

「真正面から受ける癖を直すんじゃ。受け流しは『脱力』にこそある。緊張という無駄をなくせ。雨風に耐える大木はいつか折れるが、雨風と共に揺れる葉は傷を負わない。力を抜くんじゃ」

 

「……脱力」

 

 

 霊夢は立ち上がる。

 

 

「もう一回!」

 

 

 大蝦蟇が再び腕を振る。

 

 

「今度こそ!」「きゃあっ!」「もう一回!」「うがぁっ!!」

 

 

 何度も何度も地面を転がる。

 それから何度も繰り返した。最初のうちは、受け流すどころか攻撃をまともに受けてしまう。腕で受け止めようとして力比べになる。早く動こうとして身体に余計な力が入る。

 

 だが、霊夢は諦めなかった。

 

 

(受け止めるのではなく、拳が当たった瞬間にその方向へと自分も流れる。水のようにただ流れて──)

 

「げこっ!!」

 

「……」

 

 

 

──ふわっ…

 

 

 

「げげぇっ!?」

 

「あ、れ?痛くない?」

 

 

 拳は確実に命中した。

 だが、霊夢の体の上を流れて地面へとその拳は落ちる。もちろん霊夢の身体にダメージはない。力の流れをすぅ〜っと地面の方へと受け流したからだ。

 

 

「それじゃ!今のが受け流しじゃ!!よし、忘れぬうちにもう一回!」

 

 

 霊夢は何度も倒されたことにより、力の性質を体で学ぶ。相手の力を受け流す技術を未完成ではあるが身につけることに成功した。そうして来るべき戦いに備えて、霊夢の身体は少しずつ、しかし確実に変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修行を開始して28日目──。

 

 

 

「・・・終わったわ」

 

「まさか重力十倍の一キロ走り込みを5分で終わらすとはな。ここまで早く身につけるやつは今まで居らんかったわ。……もう、いいかもな」

 

 

 蝦蟇仙人はそう言うと、持っていた杖を振り上げる。

 

 

「では始めよう!試練を──」

 

「ついに来たわね」

 

「大蝦蟇ァッ!来いっ!」

 

 

 ズドンッ──。

 大蝦蟇が呼応して降りる。いつもの大蝦蟇とは違い、長い槍を装備している。

 

 

「霊夢。身につけた技のみで大蝦蟇を倒してみろ」

 

 

 蝦蟇仙人の試練とは、最初の組み手でやったように大蝦蟇との戦闘であった。しかも今度は止めに入ることはない。本当に大蝦蟇を倒さなければならないのだ。

 

 

「蝦蟇八方を身につけたこの大蝦蟇は、元々数百人もの人間を喰らってきた大妖怪じゃ。今は儂のもとで修行をして丸くなったが、あの頃の殺意を目覚めさせて確実に殺しにくる。……だからこそ霊夢よ、お前も大蝦蟇を殺す気でいけ」

 

「・・・了解」

 

 

 シダ植物が一斉に動き、うねり、絡み合い、巨大なステージに変形する。ドーム状で外からは様子を見ることができず、2人が入ると出入り口が閉じてしまう。蝦蟇仙人はすでに会場の中におり、見合う両者に向かって叫ぶ。

 

 

「始めェェーーーーいっっっ!!!!」

 

 

 

 開始した瞬間。

 大蝦蟇が踏み込んだ。巨体からは想像できない速度と共に距離を積める。だが不思議なことではない。カエルの跳躍力ならば可能であり、その勢いと共に放った槍が一直線に突き出される。

 

 

「──!」

 

 

 霊夢は後ろへ逃げない。

 槍の穂先を見据え、左手を伸ばした。そのまま槍を腕で受ける。だがそれはいつものように受け止めたのではない。槍が進んでくる方向に合わせて腕を動かし、その軌道を横へと逸らす。

 

 

「──しゃあっ!!」

 

 

 槍が霊夢の身体の横を通り過ぎる。同時に霊夢は身体を回転させ、大蝦蟇の横へ回り込んだ。蝦蟇仙人は膝を打ち、叫ぶ。大蝦蟇は槍を放った際に伸ばした手を引き戻さなければならず対処に間に合わない。

 

 

「うまいっ!!」

 

 

 霊夢は拳に力を集める。

 そして拳を大蝦蟇の胴へ叩き込んだ。

 

 

「グォッ!?」

 

 

 衝撃が背中を抜け、大蝦蟇が一歩後退する。

 以前はいくら殴ってもあの分厚い脂肪と皮膚、そして受け流しにより防がれていたのだが、今回は確実にダメージが入った。ただ大蝦蟇はすぐに復帰し、霊夢は構え直した。

 

 

「……甘かった。余計なところで力んじゃった」

 

 

 蝦蟇仙人が頷く。

 

 

(使わない方の腕にも力が回っていた。あれが無ければもっと強いダメージを与えられていたな)

 

 

 

 大蝦蟇はすでに次の攻撃へ移っていた。

 槍を大きく振り上げる。横薙ぎの一撃。霊夢は槍の柄へ手を添える。自分の身体を回転させながら、槍の勢いに合わせて腕を動かす。巨大な槍が霊夢の横を通り抜け、もう一度霊夢は大蝦蟇の懐へ──。

 

 

「もう一回ッ!!」

 

「げろ」にやり

 

 

 しかし大蝦蟇はその動きが狙いだった。

 槍を使うことで霊夢がもう一度同じようにくるように仕向けたのだ。加えて霊夢は新技の練習を兼ねている。つまり大蝦蟇がわざと同じ行動をしていると察することができなかった。

 

 

「グァッ!」カパッ

 

 

 大蝦蟇の口が大きく開いた。

 

 

「──うっ!?」

 

 

 ぶわああああっと虹色の煙が吐き出される。

 霊夢は防ぐことができず直撃。全身が煙に包まれ、その直後全身に痺れが走るのを感じた。

 

 

「こ、これは……っ」ビリビリ

 

「“大蝦蟇の毒気”!」

 

 

 

大蝦蟇

 日本各地に伝わる3メートル越えの蝦蟇の妖怪。釣りをしにきた人が大岩だと思い、腰掛けてしまうくらいに大きい。長い年月をかけて妖力を身につけ、様々な術を身につけており、槍を持って人を襲ったり、虹色の煙を使い、鳥や動物たちを食らうこともできるのだ。

 

 

 

「蝦蟇のイボには元より神経毒がある。大蝦蟇はその毒を体内でガス状に変化させて体外に排出できる。イボに触れられなくても確実に相手の動きを止められる。・・・ここまでか、博麗霊夢」

 

 

 大蝦蟇は、痺れて動けないでいる霊夢に狙いを定め、長い舌を発射する。大蝦蟇による霊夢の捕食である。

 

 

「げへへ……、げ?…ゲゲごォッ!?」

 

 

 勝ち誇っていた大蝦蟇の表情が歪む。

 動けなかったはずの霊夢が自分の舌を掴んでいたからだ。本来なら絡み付けてそのまま飲み込むはずだったのに。なぜ動けるのか分からないが、とにかくやばいと思った大蝦蟇が舌を引く。霊夢の身体が一気に引っ張られるが、霊夢は慌てなかった。

 

 

「それは悪手よ」

 

 

 舌に抵抗するのではなく、引っ張られる方向へ身体を預ける。そして、そのまま前へ踏み込んだ。霊夢が勢いを利用して大蝦蟇へ接近。拳に力を集中させる。

 

 

「しゃあああっ!」

 

 

 拳を引く。

 余計な力は一切ない。ただ、拳にだけ。全身で生み出した力を最後の一点へ集める。霊夢の目が鋭く光った。拳が、大蝦蟇の巨体を正面から捉えた。

 

 

「ゲロォォォォッ!?」

 

 

 次の瞬間。

 大蝦蟇の身体が吹き飛んだ。巨大な身体が宙を舞う。そのまま一直線に飛んでいき大蝦蟇の全身が、ドーム状になった壁へ激突した。まるで車に轢かれたカエルのようにベタァっと張り付くような感じになる。大きな衝撃音が響き渡り、次に静寂がやってくる。

 

 

「・・・」

 

 

 動かなくなった大蝦蟇を見て、霊夢は拳を下ろした。大蝦蟇はそのままビタッと地面に落ちる。霊夢も蝦蟇仙人は静かに大蝦蟇を見つめていた。

 

 

「グ……」

 

 

 大蝦蟇がゆっくりと身体を起こし、口の中から小さな白い布を取り出す。それを掲げながらふりふりと振った。霊夢が目を丸くする。

 

「……白旗?え?……降参ってこと?」

 

「げごぉ」

 

 

 敗北を意味する一鳴き。

 霊夢はついに大蝦蟇に勝つことができたのだった。

 

 

「か、勝った……!!」

 

 

 力を集中させる術。相手の力を受け流す術。

 その二つを組み合わせることで、霊夢は体術のみで大蝦蟇を倒すことができた。霊夢の身体にダメージはほとんどなく、受け流しきれなかった大蝦蟇はもうしばらくは起き上がれない。この結果に蝦蟇仙人は満足そうに微笑む。

 

 

「見事じゃ、霊夢。少し粗いところもあるがそこは実戦の繰り返しで更に磨かれていくはずじゃ」

 

「じゃあ合格ってこと?」

 

「ああ。お主は蝦蟇八方を会得した。これによりどんな格上の相手にも必ず大ダメージを与えられる…!!心技体の『体』、合格じゃ!!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 

 あの厳しい鍛錬から離れられることと、自分の実力が上がったこと。それによりあまり喜ぶタイプではない霊夢も飛び跳ねるくらいに喜ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 蝦蟇仙人は大蝦蟇を持ち上げて、霊夢と共に妖怪関ヶ原を出る。その頃にはもう10倍の重力は何ともなかった。大蝦蟇を治療しながら蝦蟇仙人は何かを思い出して尋ねる。

 

 

「そうそう。なぜ大蝦蟇の毒気を喰らって動けたんじゃ?動けずに飲み込まれたり、槍で刺されたのなら、助けようと思っていたのじゃが…」

 

「ああ、それは……これのおかげよ」

 

 

 霊夢は服の中から小さな小瓶を取り出す。

 蝦蟇仙人はグッと目を凝らして見てみるとそれはよく知るものであった。

 

 

「い、井戸汁…!?」

 

「毎回鍛錬の途中に飲まされていたコレ。アンタにこの効能を聞かされた時にさ、何かに使えると思って、残り物を小瓶に入れて持ち歩いてたの。そうしたら、神経毒を吸わされたでしょ?丁度いいと思って飲んだのよ。流石は井戸仙人ね」

 

「・・・!そうか、井戸汁は毒に効く。あの時の話を覚えていたとはな!」

 

「これも教えのおかげね。環境を利用するってやつ」

 

「流石じゃ。ただ……最後の妖犬の修行は気をつけろ」

 

「他のとは違うってこと?」

 

「ああ。奴の修行はこれまでに多数の死者を出しておる。スパルタなんかでは言い表せないほどの厳しさじゃ。負けるなよ」

 

「ええ…。ここまで来たんですもの。何があってもやり切るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハワイ──。

 

 

 

「うへへ、うへへへへ」

 

 

 サングラスをかけた1人の老人が涎を垂らしながら、ビーチではしゃぐぴちぴちギャルを見ていた。

 

 

「ええのぉええのぉ。日本からはるばる旅行しに来た甲斐があったのお。ハワイ最高〜」グヘヘヘ

 

『いいよね、ハワイ。アタイもだーい好き。地獄の業火には及ばないけどさ、このギンギラな太陽が気持ちいいんだもん』

 

「ぬっ!?」

 

 

 老人は飛び跳ねた。

 いつの間にかは分からないが隣のベンチに座って、愉快に笑いながらココナツジュースを飲む謎の女がいたからだ。こんなに暑いのに長袖で派手派手な見た目でピエロらしく、どことなく不気味であった。

 

 

『きゃはは⭐︎面白い反応!ビクビクだってさ』ケラケラ

 

「な、何者じゃ!?わしっちの背後を取るとはかなりの手練れと見たぞ!!」

 

『めっちゃ褒めてくれるジャン。その通り、アタイは()()()()()サ』

 

「じ、地獄…!?」

 

『それにしても、ビキニギャルに見惚れすぎじゃない?どんだけ女に興味あんだよ。アタイだけじゃなくて、部下たちにも気付かねえしさ。隙だらけにも程があんゾ、お爺ちゃん♡』

 

「え?」

 

 

 言われてから辺りを見渡すとこの女と対になるようにスーツ姿の人間2人が立っていた。全くもって隙はなく、どう頑張っても自分の力では逃げることができない。

 

 

「はわわわ。な、何が望みなんじゃ!!か、金か!?金なのか!?」

 

『お金?お金か。うーん。お金いいねえ。ハワイのお土産を買おうと思ってたからお金は欲しいかな』

 

「分かった!お金はやる!」

 

 

 そう言うと自分の財布を取り出して投げる。

 ピエロのような女はそれを受け取り、懐へしまう。

 

 

『アリガト♡それでさ、要件なんだけど』

 

「要件って…、金は渡したろ!!」

 

『勝手にくれたんでしょ。頼んでないし。──それでね、要件なんだけどさ私たちをカイラス山に連れてって!チベットっていう国は知ってんだけど、どこにあるかさ分かんないの』

 

「カイラス山・・・!?む、無理!無理むりムリ!」

 

『えー、なんでよ。お爺ちゃんも、せ・ん・に・ん・でしょ』

 

「だってよぉ、わしっち、カイラス山から追い出されてるし……。仙人真面目にやってたのも1300年くらい前だしなァ」ウジウジ

 

 

 それを聞いて女の仲間たち、黒服スーツ二人組はボキボキと関節を鳴らし始める。

 

 

『ぐちぐち言いやがって。黙って言うこと聞かねえか』

『動くラードの分際で西洋妖怪に楯突こうとか舐めてんじゃねえぞ』

 

「ひぃいい…」

 

『脳筋どもは黙ってな』

 

『『うす』』

 

 

 一喝すると直ぐに身を引く。

 ホッと一息ついてから、この仙人はもう自分に拒否権がないことを知ると抵抗をするのをやめ、色々と諦めがついたのか両手を上げる。

 

 

「はぁ……拒否権はないんじゃな」

 

『そゆこと』ニヘラ

 

「分かった。カイラス山まで連れていく。その代わり、わしっちのお願いを聞いてくれんか。聞いてくれたら絶対に連れていくから」

 

『お願い?まぁ、できることならやってあげるけど・・・何させる気?』

 

「あのな…」テレッ

 

 

 

 

 ジジイは頬を染めて、体をくねらせながら言う。

 

 

 

 

 

「足…」テレテレ

 

『・・・ん?』

 

「生足見せて」

 

『は?』

 

「ブーツを取って、ストッキング脱いで、太もも見せて。あとこの暑さで蒸れ蒸れになったもわっとした、あんよ見せて。そしたら連れてく」

 

『・・・あっ、こいつやばいわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

 霊夢は新たなる技──蝦蟇八方を身につけた。
 次こそはバックベアードの顔面に1発ぶちこんだれ!!

 高麗野あうんが登場!布石として出しました♪

 そして、ヨナルデパズトーリの直属部隊『夜の斧』は、謎の仙人に接近する。謎の仙人の正体は──!?(ちゃんと鬼太郎に出てきます。多分漫画のみ)
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