ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは。狸狐です。

 この前、映画館で『ミステリと言う勿れ』を見てきました。
 ネタバレはしませんが最後のシーンは号泣しましたし、あの悪いやつの言葉が耳にべたりとくっついて離れません。怖かった…。

 また時間があれば、次はジョン・ウィックは見たいですね。今のところ全作見ているので。やっぱりアクションは最高。










森近霖之助の鏡合戦!!①

 

 『半妖怪』。

 人間と妖怪の間に生まれる半妖怪というのは、古来から存在する“異類婚姻譚”にも記載はされているが、存在自体は稀有である。しかし基本的に半分妖怪、半分人間として生まれた者の末路としてはどちら一方の道を選び社会で生きていくか、その境遇に耐えきれずに自殺することが多い。だからこそ異類婚姻譚の殆どの内容は『結婚して子供を得る』ことまでしか書かれておらず、その子供たちがどうなるかは書かれていない。

 

 この幻想郷で生きる半妖怪は2人しかいない。

 1人は上白沢慧音。

 彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()後天的に半分妖怪の力を得ることができた。

 

 

──

 

 

 そしてもう1人、彼は純粋な半妖怪である。

 その者の名は『森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)』と呼ばれる男性だ。幼い頃から古道具や珍しい物を集めることが好きだった彼は、その蒐集(しゅうしゅう)癖を活かして、魔法の森の入り口あたりで古道具屋『香霖堂(こうりんどう)』を営んでいた。

 

 彼の営む香霖堂には、人里には決して手に入らない『妖怪の道具』、『冥界の道具』、『魔法の道具』、そして『外の世界の道具』が置いてある。この珍しさ故に魔理沙や霊夢のみならず幻想郷全体に香霖堂のファンは多く買いに来る者は多い。

 

 だが大抵は非売品である。先程も述べたように、霖之助は古道具や珍しい物が大好きであるため、役に立たない物でも彼が気に入っているなら並べているだけなのだ。

 

 そんな彼は、今日も迷い込んできた道具たちを探しに出掛けるのである。心配かな?ここだけの話だが、彼は戦闘経験や実力ともに『未知数』である。たまに1人で冥界まで行くのを目撃されているので襲われることはないのだろうから安心していい。

 

 

──

 

 

 

「何か見つかるといいが…」

 

 

 そう言って、魔法の森を散策する。

 この眼鏡をかけた彼こそが森近霖之助である。魔法の森は大小様々なキノコが生えている場所で、普通の人間ならここの魔力やキノコの胞子でダウンしてしまう。しかし彼は半分が妖怪なので効かない。軽い足取りで気ままに歩く。

 

 

「・・・あれは?」

 

 

 暫く歩くと、暗く汚れた鏡台が転がっていた。

 近づいてよく見ると、装飾は立派で相当な値打ちがあるように見える。鏡の方は『銅鏡』であり、鈍く自分を反射していた。

 

 

「銅鏡か……。これは随分と珍しいな」

 

 

 銅鏡の知識にはあるが実物を見るのは初めてだった。銅鏡は古来から贈り物や神聖視される物であるため、祀られたり、保管されたりするのが一般的だ。だからこそ実物が転がっている事に柄にもなく興奮してしまった。

 

 

(どれ、少し調べてみるか…)

 

 

 ここで森近霖之助のの能力を紹介しよう。

 彼の力は『道具の名前と用途が判る程度の能力』。道具を愛してきたからこそ目覚めた後天的な能力である。

 具体的には触れた物の名前、使い方を瞬時に理解することができる。仮にスマホに触れたのなら、名前は“スマートフォン”であり、“画面に触れれば遠くの人と連絡が取れる”と理解できる。

 

 

(銅鏡なのは分かるが、これは何に使われてきたのかを知りたい…。祭事の物か、古代人の化粧道具か、はたまた宇宙から来た物なのか…!)ゴクリ

 

 

 そう思い、鏡台に触れる。

 触れると中々に立派な土台で、まず初めに流れてきたのは台の部分だ。鏡意外にも色々なものを乗せられる、との事だ。次に銅鏡自体に触れる。

 

 

(・・・おかしい。何も流れて来ないぞ)

 

 

 彼の能力が今まで発動しなかったことはない。

 だが、この銅鏡に触れても、名前や使い方などは何も流れて来ない。鏡なのだから写すものではあるのは触れなくても分かるが、何に使われるのかを知りたい彼にとってはますます興味が惹かれた。

 

 

「持ち帰るか…!」

 

 

 店の中まで運ぶ。

 運んでいる最中の霖之助は気づかない。銅鏡の薄く汚れた表面の奥底で、何者かが笑っていることを。

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 香霖堂に着き、戸を開けると見知った魔法使いがいた。

 霧雨魔理沙である。

 実は──魔理沙が産まれるよりも前だが、霧雨魔理沙の実家で同じく古道具屋である『霧雨店』に霖之助は修行、居候していた過去がある。だからこそ幼少期から霖之助は魔理沙を知っているし、魔理沙にとっては歳の離れた兄的な存在であった。つまり2人は幼馴染なのである。

 

 

「おひゃまひへるへぇ〜」モゴモゴ

 

「煎餅を食べたまま喋らないで欲しいな。何言ってるかわからないよ、魔理沙」

 

「ん……っ、ふぅ、お邪魔してるって言ったんだよー、香霖」

 

「その煎餅は後で僕が食べようと思ってたんだぞ」

 

「何言ってんだ、香霖の物は私のものだぜっ。あむ」バリバリ

 

「やれやれ」

 

 

 鏡台を中央に置く。

 魔理沙は煎餅を齧りながら、霖之助が持ってきた鏡台が気になり始め、ヒョイと立ち上がる。

 

 

「これは?」

 

「魔法の森で見つけたんだ。能力を使っても何も読めないから、きっと何か凄いものだろうと思ってね」

 

「ふぅ〜ん。こんな汚いのがなア。・・・・あっ、私も結構前に『不思議な鏡』を見つけたぜ」

 

「不思議って?」

 

「綺麗な鏡なのに私の顔を映さないんだよ。とりあえず小さいし飾ってある」

 

「気になるな。要らないなら言い値で買うが?」

 

「やだネ」

 

「だが是非見せてくれ。形、重さ、手触り、全てが気になる…」

 

「わ、わかった!だから落ち着け!」

 

「…すまない。少々興奮してしまった。とりあえずお茶を持ってくる」

 

 

 霖之助が奥に行ってから、魔理沙も彼女なりに少し調べてみたが鏡のくせに何も映さないので直ぐに興味は失せた。それに下は、どこからどう見てもただの鏡台。何なら自分の家にも小さいが似たようなのはある。どうでもいいや、と煎餅に再び齧り付く。

 

 少し待っていると、霖之助が布きれとお茶、そして柘榴(ザクロ)の実を持ってきた。

 

 

「はい、お茶だよ」

 

「香霖は気が利くな〜。丁度喉が渇いてたんだ」

 

 

 ごくごくと喉を鳴らして飲む。

 今日は残暑か、少し暑い。冷たいお茶とカラコロとなる氷の音に、一気に涼しくなることができた。

 

 

「この柘榴は?」

 

「鏡を磨くんだ。昔から柘榴(ザクロ)は銅鏡を磨くのに使われていたんだ。だから僕も真似しようと思ってね」

 

「物知りだなぁ」

 

「修行時代に教わったんだよ。物を扱うものとして知っておいて損は無いし」

 

 

 昔から柘榴は鏡を磨く道具として重宝されていた。更には西洋では皮革をなめすためにも使われており、食べるだけではなく色々と万能な効能を持っている。

 霖之助は濡らした布を使い、鏡台の汚れを落とす。そして手は休めずに柘榴を使いせっせと磨く。魔理沙も色々なものを蒐集する癖があり、道具に対する姿勢を霖之助から学んではいるつもりなので、勉強の一環として隣でじっと見ていた。

 

 

「ふぅ…」

 

「おお!あんなに汚かったのに綺麗になったぜ」

 

「ちゃんと反射するか、な──・・・え?」

 

 

 鏡を覗く霖之助は固まり、手に持っていた柘榴を落としてしまった。その反応に異変を感じた魔理沙もどうしたんだと後ろからそぉっと覗く。

 

 

「はあっ!?これは──」

 

「「()()()っ!?」」

 

 

 そうだ。

 2人が覗く銅鏡の中には、魔理沙と同じ年齢くらいの女の子がいた。見た感じだが、鏡の中に閉じ込められているのだろう。2人に気づいた鏡の中の女の子は必死に何かを訴えかけていた。

 

 

「これ、マジか?」

 

「鏡の中に閉じ込められている。つまり鏡の中に世界があるってことか……!?」

 

「メルヘンやファンタジーじゃないんだからある訳ない・・・と言いたいけど、これを見ちゃったらなぁ」

 

 

 霖之助は眼鏡を外し、眉間をグッと抑えてから大きな深呼吸をした。幻想郷では不思議なことはたくさん起きるのだ。いちいち驚いていたら、やっていけない。だからこそとにかく落ち着くために深呼吸を繰り返した。

 

 

「僕の予想だけど、この銅鏡は(まじな)いの道具かもしれない。そして何かが起きて、この子は“吸い込まれたのか”、“無理やり入れられたのか”、異常事態が起きて閉じ込められてしまった訳だ」

 

「この女の子、服装的に外の世界だな」

 

「そうだね。閉じ込められて、こっちの世界に流れてきたのかもしれない。兎に角、助けてあげないと……。こういう時はやっぱり霊夢の力を借りるべきだよね?」

 

「んー、霊夢もいいけど人里に新しく来た『ねずみ男』に見せに行こうぜ」

 

「?・・・ねずみ男?」

 

「ああ。外から来た奴なんだけど、不思議なことに詳しいって里で噂になってんだよ。髪の毛が無くなった異変の時もその新入りが早苗と一緒に解決したらしいし。私も一回絡んだことあって面白い奴なんだよな」

 

「まぁ良いか、じゃあ早速行こう」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「ここかい?」

 

「ああ。慧音に聞いてきたから間違いない」

 

 

 外来人区域にやってきた2人。

 そこでねずみ男の家の前まで来た。ちょうど『怪奇事件専門法律事務所』と看板が掛けられており、家にいることが分かった。

 

 

「ねずみ男ー!邪魔するぜー」

 

「お邪魔します」

 

 

 戸を開けると、床に寝っ転がるねずみ男がいた。

 彼はお客さんが入ってきたと思い飛び跳ねる。

 

 

「いらっしゃ──…ケッ!何だよ、彼氏でも自慢しに来たのかよ」

 

「バッ!?バッカ!?何言ってんだ!?////」

 

 

 顔を赤くする魔理沙。

 そして帰ってくれと表情からも現しているのが、ねずみ男である。霖之助はこの布だけを被った男が噂の男なのかと思い、少し呆気に取られていた。

 

 

「俺っちは客が全然来なくてイライラしてんだよ。用がないなら帰ってくれ」

 

「違うぜ、今回は──」

 

「今回は相談しに来たんです」

 

「ほお?」

 

 

 魔理沙の代わりに答える霖之助。

 相談。つまり金に繋がる話だと直感したねずみ男は魔理沙ではなく、改めて霖之助に向き合う。

 

 

「僕はこの幻想郷で長いこと骨董品を扱っている森近霖之助と申します」

 

「俺は、新しく来たねずみ男ってんだ。それで相談って?」

 

「実はこれを見てもらいたくて」

 

 

 霖之助は背負っていた風呂敷を置き、開く。

 中には鏡台があった。そして霖之助が指差す銅鏡の中には、1人の少女が写っていた。

 

 

「なっ、何じゃこりゃあ!?」

 

「どうやら閉じ込められているみたいで」

 

「ねずみ男なら何か知ってるんじゃないかと思って見せに来たんだぜ」

 

「この子の服は……えーと…確か、東京の有名な私立校の制服だった気がするな」

 

 

 ねずみ男は長い事生きてきておりスケベな男なので、昔から女子の制服には目がないのである。だからこそその知識が役に立った?のかもしれない。

 

 

「やっぱり外の世界の子がこっちに来てしまったんだ」

 

「どうにか出来そうか?」

 

「この俺を誰だと思ってんノヨ。大学出てるエリートですよ?この俺に解決できない問題はなーい!」

 

 

 勿論嘘だ。

 解決できるわけがないが、ここで断ったら金を得るチャンスはパァだ。ここはいつも通りの虚勢を張る。

 

 

「だがタダでやるって訳にはネェ。ンフフフ」

 

「ああ。とりあえず一万円…」

 

「待てぃ!」

 

 

 財布を開こうとする霖之助。

 しかし、直ぐに魔理沙が止めた。

 

 

「香霖。コイツは嘘つきだから簡単に金出すんじゃないぜ。一回騙されて、悪い妖怪に食われそうになったこともあるからな」

 

「えぇ……」

 

「おい!なに適当なこと言ってんだよ!アレは事故だったって言ってるだろ!」

 

「とーにーかーくー!!女の子を出せたら金は出すぜ!まずはやってみてくれ」

 

「カキクゥゥゥ〜〜〜ッ!!」ギリギリ

 

 

 魔理沙のせいで失敗した。

 ねずみ男は近くの布切れをギリギリと噛むと悔しそうな顔をする。しかし、ここで逃げてはビッグチャンスは逃れてしまうもの。兎に角、やってやる!

 

 

「女の子を出すには集中しなきゃいけないんだッ!!2人はとりあえず外に出てろ!ていっ!」

 

 

 そう言って2人を追い出すと、ねずみ男は家の全ての戸や窓を閉じた。

 

 

「ぱ、パワフルな人だね…」

 

「んー、ねずみ男は見当違いだったか…。まっ、とりあえず散歩して時間潰すか?」

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人が遠くに行くのを確認すると、ねずみ男は頭を抱える。去勢を張ったは良いものの金は得られなかったし、上手くいかなきゃ信頼も得られない。金からは遠く離れてしまう。

 

 

「・・・はっ!似たような女の子を誘拐してきて、助けられましたよ〜って嘘つくのはどうだ!?」

 

「いや、いやいや、待て待て。どうせバレてお仕置きされるのがオチだ。あーーーー!もうっ!どうにか上手く騙して、ドカンとお金を稼ぎたい!!」

 

 

 

 

「どうすれば・・・ちょっ!?ええぇぇぇ〜〜〜っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「いや〜俺には無理だったわ。申し訳ねえぜ」

 

 

 2人が帰ってくると、ねずみ男はペコリと頭を下げた。

 手を尽くしたが自分の力量では無理だと言う。

 

 

「それでよ、俺さま思ったんだけど……霊夢ちゃんの所に連れてくのはどうだろ?」

 

「ああ。僕は賛成だ。元々、霊夢の所に行こうと思っていたし、魔理沙もそれでいいだろ?」

 

「ちぇーっ、ねずみ男の所に連れてくれば()()()()()かなと思ったんだがなあ。霊夢の力なら余裕だろうし、今回は戦い無しか〜」

 

 

 それを聞いた霖之助は大きなため息を吐く。

 そしてズレた眼鏡をクイッと上げた。魔理沙は何かに気づき、顔が引き攣った。

 

 

「魔理沙、君の狙いはそれだったのか。異変解決好きなのは構わないが、今回はこうやって閉じ込められている人もいるというのに君という奴は〜〜」クドクド

 

「あー!また始まったよ、香霖の長ーい小言!はいはい…、私が悪かったよーだ」

 

「夫婦漫才はそこまでにして、さっさと行こうぜ!こんな麗しい女の子が狭いところにいて良い訳がない!助けよう、直ぐに!!」

 

「あ"っ、夫婦って〜〜〜!!そんなんじゃなーい!」

 

 

 ねずみ男は鏡台を風呂敷に包み、背負って我先に進む。

 魔理沙はまた揶揄われ、顔を赤くする。しかし顔を赤くしながら魔理沙は何か違和感を感じた。

 

 

(ねずみ男が人助けに乗り気?守銭奴なのにか?・・・うーむ)

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 ねずみ男は歩いて行こうとしたが日が暮れてしまうので、鏡台を霖之助が、ねずみ男を魔理沙が運ぶ形となり、空を飛んで博麗神社へと向かった。博麗神社の前では巫女の霊夢と、九尾の狐である八雲藍が縁側に座って何かを喋っていた。

 

 

「おーい!霊夢ー!」

 

 

 空から呼びかけると、霊夢は気怠そうに手を振って答える。座っていた両者は立ち上がり、空からの来訪者を迎えた。

 

 

「何の用よ…。昼寝の時間だってのに…」

 

「事件だよっ、事件〜!!」

 

「うわ〜面倒事が舞い込んできたぁ〜」

 

「まぁそう言うなよ」

 

 

 その隣ではねずみ男、霖之助、藍が顔を合わせる。

 中々に珍しい光景だ。このメンバーが話し合うなどあまりない。

 

 

「まさか八雲殿の式様がいらっしゃってるとは…」

 

「そう畏るな、森近殿。久しぶりだな。・・・それと、ペケ……オホンッ…ね、ねずみ男も」

 

「どうも、狐の姉さん」

 

「狐の・・・!?私の名前は八雲藍だ、名前で呼んでくれ、名前で…!!」

 

 

 尻尾をフリフリとする八雲藍。

 また珍しいものを見てしまったと森近霖之助は驚く。

 

 

「ほお、2人はお知り合いですかな?」

 

「いや俺は前に一回な。狐姉さんの方は俺を知ってるようだったけど…」

 

「私は知っているが・・・ねずみ男、お前には自分の力で私を思い出してもらいたいんだ」

 

「そー言ってもなあ」

 

(元恋人か…? いや、それ以上なのか?こちらもまた気になるが・・・)

 

 

 

 長くなりそうだと察したねずみ男は“そんな事より!!!!”と一喝した。普段は猫撫で声を発する彼だが、こんなにも大きな声を出せるんだと驚いた。

 辺りの面々が一斉に彼の方を向く。話してもいいなと思ったねずみ男は風呂敷を広げて指を指す。

 

 

「霊夢ちゃん!この子を助けてくれィ」

 

 

 ねずみ男の指差す銅鏡の中に、セーラー服を着た女の子がいた。どうやら先ほど見た時よりもグッタリとしているようで、このままでは命の危機だと予感させた。

 

 

「・・・なるほど。アンタらがここに来た理由が分かったわ」

 

「微かにこの鏡から妖気を感じるな…」

 

「ええ」

 

 

 銅鏡を観察する2人。

 魔理沙でも感じることができなかった微弱な妖気も感じ取ってしまう辺り、巫女というのは伊達ではない。

 

 

「魔法の森に転がっていたんだ。助けられないかな」

 

「霖之助さん、貴方の能力で何か分かったことは?」

 

「何も。僕の能力が発動しなかったんだ」

 

「・・・危険ね。呪物かしら。けどまぁ……ここから出すくらい朝飯前よ」

 

 

 霊夢は自身の武器である『お祓い棒』を取り出す。そして銅鏡の前でお祓い棒を振るいながら呪文を唱え始めた。

 

 

「〜〜♪〜〜〜♪〜♪」

 

「ありゃあ歌か?」

 

「『呼び出しの歌』だ。元々はとある妖怪が封印された時に、その仲間の7人の妖怪が解くために歌った技さ。霊夢の力なら7人で歌う必要はないが」

 

 

 呼び出しの歌を歌っていると、晴天だった空に段々と黒雲が広がっていく。ゴロゴロと雷も鳴り始めた。銅鏡にかけられた呪いと、霊夢の巫女の力が拮抗しているのだろう。額には汗が滲んでいた。

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

「鏡が震え出した!?」

 

 

 流石の鏡も霊夢の歌の力には勝てないのだろう。

 カタカタと震え出す。

 鏡面から少女の手がゆっくりと出てきた。そのチャンスを見逃さず、霊夢は手をガシッと掴むと一気に引っ張り出した。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「「出てきたァッ!!」」

 

 

 鏡の世界から脱出できた少女は、安心からかポロポロと涙を流す。そして感謝の言葉を述べた。

 

 

「もう一生出れないと思いました…っ。本当に…ありがとうございます…」

 

「へへへ、良いってことよ」

 

「ねずみ男、アンタは何もしてないでしょうが」

 

「美人の前なんだから見栄張らせてよって、イテテテ!髭引っ張らないでッ!?」

 

 

 ねずみ男は退場。

 混ぜてくれたって良いのにヨ、と文句を言いながら引っ込んでいった。

 

 

「それでアンタ、一体何があったの?」

 

 

 霊夢たちは彼女を縁側へ座らせる。

 落ち着ける環境に来て、セーラー服を着た少女はようやく安堵した。差し出されたお茶を飲みながら語り始める。

 

 

「はい。私の名前は鏡子(きょうこ)と申します。実は…、1ヶ月ほど前に化粧をしていたら鏡の中から『鏡子は可愛いから嫁にしてやる』と声がして、怖くなって逃げようと思ったら・・・閉じ込められてしまったのです」

 

「鏡の中から声・・・」

 

「鏡の妖怪で、女の子を誘拐するとなると……あっ」

 

「どうしたの?何かわかった、藍」

 

「ああ。『鏡爺(かがみじじい)』という鏡の世界に住むスケベな爺様がいたな。昔、外の世界で何度か話したことがある」

 

 

 それを聞いて鏡子は立ち上がる。

 

 

「そうです!私の前に現れたのは老人の姿をしておりました!私を誘拐した後、もっと連れてきてやるとも言ってましたわ!」

 

「なるほど。今回の犯人がこれで分かったな!早速やっつけに行こうぜ!!」

 

「待て、魔理沙。鏡爺はロリコンで変態ジジイだが、誘拐なんて事はしなかった。あいつの心情は確か…なんと言ったかな……『いえす、ろりぃた、のー、たっち』??とかで、女の子は触るものではなく鑑賞する物だとか言っていたな」

 

 

 すると、ねずみ男は“ノンノン”と言いながら会話に混ざってくる。

 また来たかと思われるが、ねずみ男は全く気にしない。

 

 

「考えが古いねェ。人間も妖怪も時代が過ぎれば変わる。それが普通よ。きっと見てるだけじゃ辛抱たまらなくなって誘拐したんだネ。ンフフフ」

 

「それは本人に聞いてみるしかないようだ。これ以上被害が出ない為にも私は鏡爺を探してみる」

 

「お願いするわ。私はこの鏡を処分するから」

 

「ああ」

 

「私も探すぜ!!うおおっ!待ってろよ!」

 

 

 八雲藍、霧雨魔理沙は博麗神社から離れる。

 神社に残ったのは霖之助、ねずみ男、霊夢、鏡子の4人だった。

 

 

「霊夢。やはり、この鏡を壊さないといけないかい?」

 

「んー。原因がこの鏡とは言い切れないから壊さなくても良いと思うけど、これ以上被害が出るのは巫女として見過ごせないから。疑わしきは罰した方が良いと思う」

 

「そうか…。残念だな。鏡子さんも出れた事だし、家にでも飾ろうと思ったが……」

 

 

 欲しい。

 とにかく好奇心が刺激される。

 何も分からない摩訶不思議な銅鏡。それを調べる人生も悪くない。霖之助はそぉっと霊夢に耳打ちする。

 

 

「言い値で買うと言っても?」

 

「はぅっ!?」

 

「キキキキ…。迷ってる迷ってる。霊夢ちゃんも人の子よのォ」

 

 

 最近山菜しか食べてない。

 たまにはお肉が食べたい。

 貧乏巫女はお金に釣られそうになるが、お祓い棒を握る。自分の巫女という使命を恨み、唇を噛んで悔しそうな顔をしながら──。

 

 

「断るわァッ!! 大体、この鏡があるからこんな辛い目に遭うのよ!!壊す!」

 

 

 

 

 

──ピシャンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 霊夢がお祓い棒を振り上げた瞬間、『雷』が落ちた。

 お祓い棒が避雷針の役割を果たしたのかは全くの不明だが、霊夢と鏡台の間に雷は落ち、辺りに黒煙が舞う。

 

 

「霊夢!霊夢!?無事か!?」

 

 

 霖之助が心配し声を上げるが返事はない。煙が晴れると、そこには鏡台しか無かった。霊夢の姿はどこにも無かった。

 

 

「そ、そんな、まさか!?」

 

 

 いや霖之助は、霊夢を発見した。

 あの銅鏡の中に霊夢は閉じ込められていた。鏡の裏側で何度も壁を叩いている霊夢が写っている。

 

 

「霊夢が閉じ込められてしまった…!?」

 

「ああっ、霊夢ちゃ〜ん!」

 

「これは緊急事態だぞ。ねずみ男くん、呼び出しの歌を我々もやるしか無いようだ。直ぐに魔理沙たちを呼び戻そう」

 

「いや!待て待て!俺様に妙案がある!」

 

 

 妙に落ち着いたねずみ男が提案する。

 

 

「いやー実はついさっき思い出したんだがヨ。鏡の中に閉じ込められた時には『照魔鏡(しょうまきょう)』っていう鏡を使えば、簡単に脱出できるってのを外の世界にいた時に聞いた事があるんだ」

 

「照魔鏡…。確か、日本が九尾の狐の正体を暴く為に使ったとされる神具のことだね」

 

 

 照魔鏡。

 中国や日本の伝説に出てくる神具の『鏡』である。照魔鏡名光を集めて発射すれば、妖怪といった魔性の物の妖術を消し去り、隠された正体を暴く力を持つとされる。

 

 

「だが照魔鏡の存在自体は見たことも聞いたこともない。・・・いや、待てよ」

 

 

 そういえば、魔理沙と香霖堂で話していた時に何か言っていたような気がする。自分が見つけた鏡台を見て、確か魔理沙も不思議な鏡を見つけたと言っていた。自分の顔が写らない不思議な鏡。

 

 

「確か……魔理沙が不思議な鏡を見つけたって言っていたな。もしかしたら、それが…」

 

「ああ!それが照魔鏡よ!分かったのなら善は急げ。早く取りに行こうぜ」

 

「ここは僕一人で取りに行った方が早い。ねずみ男君は鏡子さんと一緒にいてくれないか?」

 

「おっしゃ!ここは俺様に任せてくれ!」

 

「頼む!」

 

 

 霖之助も飛んでいった。

 博麗神社には遂にねずみ男、鏡子しかいない。霊夢は鏡の中から外の世界を見ることくらいしか何もできなかった。

 

 

「ンフフフ…! ンーーフフフフッ!!」

 

 

 突然、ねずみ男は笑い出す。

 愉快そうにケラケラと腹を抱えて笑い出し、鏡の中の霊夢を見た。その豹変ぶりに霊夢は固まる。

 

 

「照魔鏡の在処も分かったし、幻想郷の実力者である博麗霊夢も倒した。これも全部()()()の計画通りだネ。ンフフフフフ」

 

 

 アンタ。

 そう呼ばれる存在は、ねずみ男の前に立つ“鏡子”である。先程までお淑やかでビクビクとしていた鏡子はもういない。ニヤリと笑う悪い顔をしていた。

 

 

「ふふふふ。……あとは憎き照魔鏡を壊しさえすれば、私の悲願は達成する』

 

(何ですって…!?まさか、この女・・・妖怪ッ!?)

 

 

 鏡の中の声は届かない。

 だがその表情で大体は察することができる。それを見て、愉快そうに笑う2人。

 

 

「おや?おやおやおやぁ??悔しそうだね、霊夢ちゃんッ!分かる分かるよ、その気持ち!俺様もね、最初はビックリしたんだからよ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 時は数時間ほど先戻る。

 ねずみ男が呪いを解除するなど嘘をつき、魔理沙と霖之助を追い出して、鏡台と2人きりになった時に事件が起きた。

 

 

 

「どうすれば・・・ちょっ!?ええぇぇぇ〜〜〜っ!?」

 

『ふはははは…!!』

 

 

 鏡の中からヌルリと鏡子が飛び出した。驚くねずみ男の前に立つと邪悪に高笑いする。

 

 

「自分で出れるのかい…!?」

 

『当たり前だ。私は鏡子、鏡の中の妖怪だ。あの魔女と男には閉じ込められた幸薄い少女の演技していたのさ』

 

「そ、そんなアンタが俺に何のようだよ!?」

 

『私と手を組まないか?』

 

「手ェ?」

 

 

 差し出される手をねずみ男は握る。

 そのまま引っ張られ、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

『私には夢がある。人間たちを鏡の中に閉じ込め、永遠に苦悶の顔を見続けたいのさ』

 

「ほぉ、そりゃあ立派な夢だネ。……だがよ、それを手伝って俺に何の価値があるってんだよ」

 

 

 ねずみ男は鏡子の胸ぐらを掴む。

 鼻息をフハッと吐いて、珍しくやる気を見せる。

 

 

「俺っちは正義の心に目覚めたんだよ!そーいう金にもならない事を手伝うかっての!!」

 

 

 人間たちがいなくなると金を稼ぐ事ができない。

 ねずみ男はこの事を全部魔理沙たちに伝えようと心に決めた。だが鏡子はねずみ男を見透かすように笑う。

 

 

『ほぉ〜?人間たちがいなくなれば、里の物は全部お前のものになるんだぞ』

 

「何を…!?」

 

『土地も、金も、全てな…!!』

 

「……乗ったアァァ〜〜〜ッ!!全部俺のモン!ンーーッ!フフフフフ!」ビビビ

 

 

 働かなくて済む。お金も好き勝手にできるし、広い土地も手に入り、自由に遊び放題。そう考えると段々と楽しい気持ちになってくる。正義の心なんて糞食らえ。将来よりも目先のことよん。

 

 

「けどよ、嬢ちゃん。この幻想郷には博麗霊夢っていう邪魔くさいガキがいるんだよ。どうすんだ」

 

『鏡の中に封じ込める。だからお前には私を霊夢の元まで連れて行くことと、照魔鏡を探してもらおう』

 

「照魔鏡?」

 

『私の弱点だ。それがこの世界のどこかに流れてきたと、私をこの世界に運んできた()()が教えてくれたんだ。それさえ処分すれば私の天下は間違いない』

 

「ふぅーむ、照魔鏡か…」

 

 

 そう言えば、あの森近霖之助とかいう奴。

 骨董屋を営んでいるとか言ってたな。

 こんな風に鏡台を見つけてきたんなら、どっかで見たことあったり、もしかしたら持ってるかもしれない。

 

 

「任せときな。俺の口八丁手八丁で何とかしてやるぜ」

 

『では作戦開始と行こうか…!!』

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「・・・って事があったんだよん。霊夢ちゃん、お前が幅を効かせる時代は終わりさ。ニヒヒヒヒ」

 

(このペテン師っ!!)

 

「聞こえなーい!ケケケケ」

 

『おい、穴を掘れ。この鏡を埋めろ。そしたら博麗霊夢は終わりだ』

 

「あいあいさー」

 

 

 スコップを取りに行こうとするねずみ男。

 しかし、彼は歩みを止めた。

 ゾクリと殺気のようなものを感じる。例えるなら、猫娘に追いかけられているときのような生命の危機めいたものだ。

 

 

「一通り探して、帰ってきてみれば・・・」

 

「聞いたぞ、今の会話。そういう事だったのか」

 

「ひぃいい〜〜ッ!?ましゃか!?」

 

 

 振り向けば、魔理沙と藍がいた。

 魔理沙は霊夢が閉じ込められていることに怒っており、藍はねずみ男の行為に呆れていた。

 

 

「鏡子…。被害者かと思ったが、お前自身が犯人だったのか」

 

『帰ってくるのが早い奴だ』

 

「ねずみ男が人助けに対して乗り気なのがどうしても引っかかったんだぜ」

 

「そしたら、まさかこんな事に…」

 

 

 ねずみ男は鏡子の後ろに隠れる。

 相手は物凄い力を振るう魔女と、あの九尾の狐だ。簡単に倒せるわけがない。

 

 

「ど、どうすんだよっ!?」

 

『私がこの程度の問題を乗り越えられないとでも?』

 

 

 鏡子は不敵に笑う。

 強がり、余裕を演じているようには見えない。本当に勝ってしまうかのような雰囲気を出していた。

 

 

『かかってこい…!!小娘ども!』

 

「幻想郷の秩序は守る。言われなくても──」

 

「やってやるぜ!!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 一方、魔法の森の魔理沙の家の前では。

 霖之助は魔理沙の家に無断で入れずに、右往左往していた。魔理沙や霊夢は勝手に自分が留守でも店の中に入ってくるが、自分はもう大人だ。そんな真似ができるのだろうか。それも異性の家に、と葛藤していた。

 

 

「じょ、女性の部屋に勝手に入って良いのか…!?」

 

 

 

 

 

 




 森近霖之助の活躍は次回です。
 あと個人的に彼はクールよりもオタクっぽい感じがするので、古物オタクっぽくしました。

 やっぱりねずみ男がいると面白いように話が進みます。呼び出しの歌はどうしても入れたかったので綺麗に入れられて少しホッとしてます。マジで7人全員で歌わせようと思いましたが、それはやめました。
 

 さぁて、この鏡子の正体は…?
 鏡爺なのか、それともまた別なのか。予想待ってます!
 因みに僕はこの正体の妖怪は3期が好きです。



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