とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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姫島、白痴、狂騒曲。 2/7

 かつて知り合った人物、姫島琴巳ちゃんと竹田さん。そして新たな人物を交えて事務所に戻ると、中では所長代理の葉子さんが書類を整理していた。

 

「お帰りなさい────あら、お客さんですか」

「そんなところです。お茶お願いできます?」

「わかりました。すぐ淹れますね」

「やることないからあたしも手伝うわ」

 

 パタパタと台所に向かった葉子さんたちを見送って、三人をソファに促す。

 琴巳ちゃんと竹田さんはストンと横並びに座るが、新入りの……()()? は傍らに立ったままである。

 

「あー、キミも座ったら?」

「…………お構いなく」

「立たれると気になるから構ってるんだけど……」

 

 少年は背丈は琴巳ちゃんより少し上くらいで、竹田さんよりは小さい。加えて上半身どころか太ももの辺りまでを、成人男性用の大きなウインドブレーカーですっぽりと覆い隠している。

 

 黒に青を混ぜたようなショートヘアーといい、なんというか不思議な雰囲気をしている……の、だけれど。それよりも気になるところは──

 

「じゃあ、まあ、座らなくていいけど、えーっと……俺の顔に何か付いてる?」

「……いえ」

 

 ──なんか、なんだろう、よくわからないけどこの少年にすっごい見られてる。

 琴巳ちゃんと竹田さんの対面に座ったこちらをなぜかガン見してきてる。な、なんで……? 

 

「あっ、そうでした。ほら、自己紹介してあげてください、与一さんが困ってますよ?」

 

 琴巳ちゃんが少年に言うと、彼はファスナーを上げきったウインドブレーカーの襟で口許を隠しながら、俯きがちに低い声で言う。

 

「…………。僕は御剣(みつるぎ)リオンです。連盟組織所属の魔術師で、貴方のお噂はかねがね」

「ああ、なるほどね……」

「御剣クンは、ヒメのボディーガードとして雇っていてね。さっきの警戒も悪気はないんだ」

「ん。ははぁ、なるほど」

 

 御剣少年が自己紹介すると、竹田さんが続けて口を開いた。まあ別に、そのくらいなら怒るほどではないから気にしてないけども。

 

 しかし、連盟組織所属ね。つまり『あー、こいつが例の……』という目で見ていたわけか。恐らく、その()()は碌なもんじゃないと嫌でも察せられる。

 

「一応聞いておきたいんだけど、組織内での俺の評価ってどうなってるの?」

「そう、ですね。……()()秋山兄妹や明暗丞久から信頼されている事実に対して恐怖と尊敬が7:3、()()春夏秋冬円花──を乗っ取っていた無貌の神を倒したことでも、在野の魔術師にしてはおかしいと、定期的に出自を邪推されています」

「う〜〜〜ん……ふ、複雑〜……!」

 

 小雪さん……はともかくとして、秋山さんと丞久先輩と円花さんが悪名高いからなぁ。

()()』に色んな感情が凝縮されていることだけは理解できてしまう。……秋山さんと丞久先輩の名前が出たときに竹田さんが渋い顔をしていたのは、どういう理由なのだろうか。

 

「あ、組織といえば、最近そっちに春秋さんが厄介になってると思うんだけど」

「春……たまに施設内で見る、空飛ぶ人形の?」

「そうそう。【人形化】のバージョンアップをしたいからってことでね」

 

 御剣少年が思い出すように視線を斜めに上げる。春秋さんは年がら年中真冬の近くに居る、というわけではなく、【人形化】の改良をするために研究し直すためにと連盟組織に出入りしているのだ。

 

【人形化】は完成し、そして解除は不可能だと結論が出た。でも()()()()()ことはできるだろうという想定のもと、白道さん辺りとあれやこれやと術式を弄っているらしい。

 

「──っと、ごめんね琴巳ちゃん、話が逸れてた。それで……なんの用だったの?」

「……すみません、ヒメ」

「いえ、お気になさらず。──というのも、ですね……用があるのは()()()()()んです」

「あっ、ふーん……」

 

 置いてけぼりになっていた琴巳ちゃんに向き直るが、彼女はそう言って気まずそうに視線を窓の方に向ける。けれどもその姿勢のまま固まったかと思えば、不意打ち気味に体を発光させ始めた。

 

「うーいお待ちどぉ────は?」

「──えっあの、与一くん???」

『……すげー、人体発光現象』

『ああ……そういえば()()だった』

 

 台所から戻ってきた全員の反応を耳にしつつ、光から目を守るために手のひらで目元に影を作る。

 すぐにでも眩い輝きは収まり、光が消えたその先には、白髪を揺らす少女が一人。

 

「──与一ク〜ン、久しぶり〜♡」

 

 そう言って目尻を細めて、口角を緩めるのは、琴巳ちゃんではなく──神格の一つ。

 人造神格こと蛇神様が、まるで獲物でも見定めるかのように、にっこりと嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──蛇神様。巫女の末裔である琴巳ちゃんに宿る人造神格。彼女のお陰で過去を見つめ直し、かつて起きたことを知ることが出来た恩人……なのだが。

 

「んふ〜ふふ〜〜」

「……おい、与一」

「耐えろ。そのうち飽きるから」

 

 現在、蛇神様はどういうわけか、ソファに座る真冬を後ろから抱きしめながら頭を撫でていた。

 

()()()()()()()には、ご褒美をあげたくなってしまうものなのよ」

「それで頭撫でんのは……違うだろ……」

「あらあら、18歳なんて、甘え足りないけどそういうのを口に出すのは恥ずかしい年頃でしょうに。大丈夫よぉ私そういうのに理解ある系神様だから」

「…………あー、そっすか……」

 

 後ろから抱きしめられているため、真冬からは見えていないが、蛇神様の顔は孫でも慈しむかのように穏やかで柔らかい。

 これをさっきまでこっちの後ろでやっていたのだから、堪ったものではないな。

 

「んまぁまあ、それでですね。蛇神様はいったい何をしにここに来たんですか」

 

 まだ乱れている気がする髪を手ぐしで整えつつ、されるがままでげんなりしている真冬の背後に立つ蛇神様に本題に入ってもらう。

 

「あらそうだった。そうそうそうなのよ〜、実はお願いがあってねぇ」

 

 するり、と動いて元の席に戻ると、蛇神様はビシッ! とある方向に指を差す。

 それは、座る場所が無くて所長用デスクの椅子に座っている葉子さん────の、手が置かれている机の辺りでお茶漬けを齧っている2体に向けられていた。

 

「そこのおチビちゃんたちみたいな動く人形を、私をモデルに作って欲しいのよっ!」

『ギエ〜〜〜ロックオンされとる』

 

 蛇神様が苦手なのか、本能で力関係を理解しているのか、結月は葉子さんの後ろに隠れる。

 

 というか、その……あー。

 

「……えーっと、蛇神様」

「難しかった?」

「いえそうではなく、まあその〜〜ですね。恐らく勘違いしていると思うんですが──」

 

 ちら、とソフィアの方を見やると、同じ意見なのか苦笑して肩を竦めていた。

 

「その二人、『人形が動いてる』んじゃなくて、『人間が人形の形になってる』んですよ」

「…………? 作った人形に魂が宿ってる、とかじゃなくて???」

「そういう魔術なんです」

 

 こちらとソフィアたちを交互に見やる蛇神様は、呆れと驚愕を混ぜた表情をする。

 

「そっちの方がより最悪じゃないかしら!?!?」

「はい」

「『はい』!?」

 

 頭上に無数の疑問符を浮かべる蛇神様。横で話を聞いていた竹田さんと、連盟組織に出入りしていた『あの』空飛ぶ人形が人間だったことを理解した御剣少年もドン引きしており、仕方なくこちらで起きた出来事の要点だけを纏めて話す。

 

 

 

 

 

「──なる、ほどぉ……ねぇ……」

「蛇神が生き人形に興味を持ったのは、桐山クンが彼女らと行動しているのをSNSで見かけるようになってからだからね。てっきりそういう、使い魔的なモノだとばかり思っていたわけだ」

「……僕としても、春秋、さん? のことは、遠巻きに見た程度だったので……」

 

 三者三様に、言葉が返ってくる。しげしげと興味深そうにソフィアと結月に視線を送り、誤解があったことを理解して息を吐く。

 

「蛇神様は、ソフィアだけじゃなく結月が居ると分かって、俺が人形を作っていると思った。つまり、人形を作らせて(じぶん)を移したかったんですね?」

 

 こちらの問いに、蛇神様は苦笑いしながらもこくりと頷いて口を開いた。

 

「ええそう。ほら、私は見ての通り琴巳ちゃんの体を借りているでしょう? この子は私がやりたいことをやらせてくれて、行きたい所に向かってくれる。──なら、この子の自由は何処にあるの?」

「ワガママは止めにしよう、と」

「そんなところね、でもダメそうだし……」

「──いえ、出来るか出来ないかで言えば出来ますよ。蛇神様用の人形作成」

「へ?」

 

 こちらがあっけらかんと返すと、蛇神様も素っ頓狂に返事をする。──そう、出来なくはないのだ。

 琴巳ちゃんの体を利用せず、蛇神様用の人形を作るのは、技術的にも理論上でも可能だったりする。

 

「……そろそろ帰って来る頃だし、本人に説明させた方が早いかな」

「本人?」

「貴女と同じ神格で、貴女の望む体で動いている、新入りの生き人形ですよ」

「へぇ~そんなのが居るのね────なんでそんな苦い顔をしているのかしら」

「複雑なんですよ……」

 

 ()()()()の合意の上ではあるし、別に嫌いというわけではないのだけれど。

 ……()()()()()()因縁の相手と同居することは、どう取り繕っても『複雑』と言う他にないだろう。などと脳裏で独りごちると、噂をすればなんとやら。

 

 独りでに窓の鍵が動いて開けられたかと思えば、そのままカララと音を立てて窓がスライドし、外から小さな影が────いや、影のように真っ黒な、1体の生き人形が入ってくる。

 

『やあ、ただいま』

 

 ──瞬間、空気が切り替わる。能天気そうな雰囲気の蛇神様ですら、その緊張感にぴたりと体の動きを硬直させ、声の方向に視線を動かす。

 

『路地裏で大ボスを気取る野良猫の()()()に手間取ってしまってね。ウルタールの猫と違ってあまり賢くないし、喋るわけでもないから、今回の仕事はいつもより少しばかり面倒だったよ』

「お帰り、()()。疲れてるところ悪いけどお客さんの要望でね、生き人形を1体製作したい」

『……ほう?』

 

 所長用デスクの背後にある窓から入ってきたのは、髪から服まで全てが漆黒の、けれどもその双眸だけがルビーのような深紅である生き人形。

 

 それはかつて戦い、そして敗れ、力を削られた果てに円花さんの中に引っ込んでいた神格。無貌の神こと、ナイその人だった。

 

『はて、そのような業の深い頼み事をしたがるのは、いったいどこの誰────』

 

【浮遊】を使い片手間で窓を閉め直し、こちらから対面へと視線を動かすナイは、蛇神様を視界に収めた途端に表情を強張らせる。

 

「はろー、悪い神様」

『…………出たな、かつて私の予定のことごとくを崩壊させたチャートの破壊者め』

「なんてぇ???」

 

 朗らかに対応するも身に覚えのない罵倒に小首を傾げる蛇神様と、彼女を露骨に毛嫌いするナイ。

 

 こいつにも苦手なものってあるんだなぁと、そんなことを考えながらも、何度目かの事情説明を始めるべく咳払いを一つ挟んだ。




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