とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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超能力少女は太陽に眩む 6/6

 廊下から響く慌ただしい足音と、金属同士が衝突する甲高い音。不審に思い、教員が廊下に顔を覗かせようとするのは必然であり。

 

「……なんですか? うるさ──「廊下に出るなァァァァ!!」ひいっ!? な、夏木先生!?」

 

 ひゅん、と空気が動く。女性教員の眼前を流れていったそれを反射的に目で追うと、怒声の主──太陽を含む複数の男女が廊下を駆けている。

 

 刀を持つフードの男と巫女服の少女が太陽と他の女性二人に襲い掛かって、太陽たちはバックステップで後ろ(まえ)下がり(すすみ)ながら対応しており、女性教員はまばたきを挟んだのちに、そっと扉を閉めるのだった。

 

【大変ねぇ、守るものが多いって。安心しなさいな、狙いはあなた達だけよ】

「信用ならねぇなぁ! 特に横のは!」

【まあ、それはそう……ねっ】

 

 クスクスと笑いながらも、少女──刀の付喪神・九十九(つくも)の斬撃は鋭く速く、的確に太陽の急所を狙う。彼もまた黒い魔力の灯るメリケンサックを刀身にぶつけ、辛うじて軌道を逸らしていた。

 

「くっ、おぉ!?」

【どこまで、耐えられるかしら】

 

 返す刀の逆袈裟、水平薙ぎ、刺突。それらを紙一重で弾き、ギャリリッ、ガキン、と鳥肌が立つ金属音が周囲に響き渡る。

 ──そうして刀を防ぎ続けていると、ふと手元からピキッという嫌な音が鳴る。太陽がちらりと視線を落とした先にある両手のメリケンサックには、魔力を流し込んだ負荷と刀と打ち合う衝撃に耐えられなかったのか、大きく亀裂が走り割れる寸前だった。

 

「……っちぃ!」

【あらあら、貴方の魔力に武器の方が耐えられなかったみたいねぇ】

「…………どけ、九十九……」

 

 そこに入れ替わりで男が割り込み、九十九に続いて刀を振るう。どのタイミングでメリケンサックが破損するかが分からないまま、何度目かの弾き(パリィ)を実行し────満を持して、パンと音が鳴る。

 

「よっ、とォ!」

「……予見、済みだ……!」

「はい残念」

「……ぐっ!?」

 

 九十九と入れ替わり、男に向けて踏み込む真冬。とっくに慣れきっていた男は手元で刀の柄を回して刀身を反転させ、九十九が立っていた位置へと斬りかかるが、連続で鳴った拍手と共に視界がブレる。

 二連続の入れ替わりで自身と九十九、そこから更に自身と男の立ち位置を入れ替えた真冬は、ガラ空きの背中に蹴りを叩き込む。

 

【……あら?】

「お前も、沈めェ!!」

 

 その攻防を余所に、真冬と入れ替わった九十九もまた、太陽の姿を背にして眼前にアビゲイルを捉える。彼女が拳を突き出す動きに合わせて放たれた魔力の塊を、九十九は見えずとも知覚し────

 

 

 

【すぅー……ふッ】

 

 

 

 ──ザン! と。大上段から真っ直ぐ振り下ろした刀で、豆腐でも斬るかのように、九十九はアビゲイルの魔力の塊を真っ二つにした。

 

「は……?」

『呆けるな馬鹿っ!!』

 

 防ぐでも避けるでもなく、真っ向から両断され、アビゲイルの頭が一瞬真っ白になる。

 

【じゃあ、先ずは貴女からね】

「くっ、くおおん……」

 

 床から壁、天井付近へと軽やかに跳躍する九十九が、アビゲイルを見下ろしながら刀を握る手とは逆の手に果物ナイフの刃だけを抜き出したような数本の投擲物を掴み、彼女へと投げつけ牽制。

 

 体を包むようにして魔力を張ることで透明の『それ』に突き刺さり、アビゲイルには届かないが──落下の勢いと共に刀を振り上げる九十九を見て判断が鈍る。魔力を解除して避けるか、固めて防ぐか。

 

『逃げ──いや、真冬!!』

 

 ──と、そのタイミングで、声を荒らげる結月を合図に九十九の後方から拍手の音が響く。

 九十九と真冬が入れ替わり、空中に投げだされた真冬は身を捩ってなんとか足から着地。

 

「…………。真っ向勝負じゃあジリ貧、なら……普通じゃない戦法でも取る?」

『普通じゃないって? こっからあいつら相手に格ゲー対決でもすんの?』

「あいつらがその手に乗ったらビビるわ」

 

 そう言いながら視線を向けた先では、太陽がじりじりと後退しながら男と九十九を睨みつけている。逡巡する真冬は、ふと思いついたように目を見開き、傍らに設置されていた消火器を掴む。

 

「アビゲイル、これを破裂させろ。──太陽さん、今すぐ伏せろ!」

「あん? ──うおおお!?」

 

 返答を待たずに思い切り投げられる消火器。アビゲイルが魔力を飛ばしてひしゃげさせると、中から溢れた粉がばら撒かれ、廊下の一部を白く包む。

 モクモクと粉が散るなかで、真冬は続けて、全員に聞こえるように大声を張った。

 

「──太陽さん、アビゲイル! 屋上に行くぞ! 作戦を思いついた!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドゴンと鈍い音を立てて、屋上とを隔てるドアがアビゲイルの魔力の塊に粉砕される。

 屋上へと躍り出た真冬は、後方から階段を上がってくる足音を聞きつつ手短に二人に言う。

 

「アビゲイル、アンタは今すぐフェンスの外に出て、(へり)から走って思いっきり跳んで」

『いま遠回しに「死ね」っつった?』

「違うわ」

「……ン〜? ────あ、そゆこと?」

「そういうこと」

 

 アビゲイルは、真冬の言葉を噛み砕いて、何をしようとしているかを察する。

 同時に同じことを理解したのか、呆れ気味に太陽が口を開いた。

 

()()をやるとして、問題は俺とお嬢であのコンビを押さえなきゃいけねえわけだが」

「……そうなんだけど、太陽さんの戦いを見てて、一つ思ったことがあんの」

「なんだ?」

 

 真冬は太陽の装着している殆どが割れて辛うじて握れているだけのメリケンサックを一瞥してから、再び顔に視線を向けて言う。

 

「普通の武器じゃあ、太陽さんの魔力に耐えきれない。ならもう、()()()()()()()()()()

「────。ただ、魔力を?」

「だってそうでしょ、太陽さんみたいなタイプなら下手に武器使うより──」

 

 そこで言葉を区切り、素早く【召喚(コール)】した金属製のトンファーでナイフを弾く。

 ドアがあった場所に顔を向ければ、もう既に、男と九十九の二人が上がってきていた。

 

【作戦会議は終わったかしら】

「……いい、加減……抵抗を、やめろ……」

「だとよ、アビゲイル。──行け!!」

「あーもう、なるようになれっ!」

 

 やけくそ気味にフェンスの方へと駆け出すアビゲイルと同時に、真冬と太陽は二人に向かう。

 九十九の刀をトンファーで受け止めた真冬の横で、太陽は素手で男へと殴りかかり、その拳にカウンターのように振り抜いた刀の刃と衝突。敢え無く拳は切り裂かれる────()()()()()

 

「…………! なん、だと……!?」

「……へっ、最初からこうするべきだったってことかよ。遠回りだったな」

 

 刀身は拳と──拳に纏わりつく黒い魔力とぶつかり合い、その間に火花を散らす。

 黒い魔力、すなわちシュブ=ニグラスの魔力。視認できる程の密度と量を併せ持つそれは、刀と打ち合えるほどに硬い。そしてその魔力を太陽は腕にまとわせ、振るわれる刀を殴り払う。

 ()()()()()()()()()、より頑丈になる。だとするならば、こうも言えないだろうか? 

 

()()()()だって、充分に武器だろ……!」

「…………詭弁を……!」

「でも、事実として武器足り得たわけだ。あとはお前をぶっ飛ばすだけだぜ」

 

 ガキン、ガキンと金属と魔力の衝突が高音を奏でる。その横でトンファーを用いて刀を捌く真冬に、その得物を振るいながら九十九が笑みを浮かべる。

 

【ふ、ふ。面白い発想ね。それで、どうするの? ここから私たちを倒す手があるのかしら】

「はっ、倒すのは野郎の方だけでいいだろ」

【……ふうん?】

 

 ふと、九十九の笑みの種類が変わる。愉快そうな顔から、油断なく敵を見据えるものへと。

 

「刀の持ち主が意識を手放せば、付喪神のお前に流す魔力も途切れる。それに……お前、持ち主から()()()()()ことが出来ないだろ」

【──そうね。だとしても、ここから私とアレを引き離す方法があるの? それに、片手の塞がっている貴女は()()()()()()()じゃない】

 

 刀を振るい、それを武器で防がせる。ただそれだけで真冬の空間置換を封じられていることを踏まえて、九十九は余裕を崩さない。

 

「────。ふふっ」

【……?】

 

 だからこそ、真冬は、想定通りに()()()()()()()()ことに、自然と漏れた笑みを返した。

 

「残念でした」

 

 そう言って、真冬は──左手の親指と中指をくっつけて、パチンと弾く。

 視界の端で、アビゲイルと男が入れ替わり、遥か後方──屋上の外の宙にいきなり身を投げだす事になった男を見て、口角を歪める。

 

空間置換(これ)の発動条件、拍手じゃないんだわ」

【…………なる、ほど、ね】

 

 ──してやられた。

 

 脳裏に言葉をこぼす九十九は、男と──厳密には本体である刀との距離が離れすぎたことで、輪郭をノイズのようにブレさせたのちにふっと姿を消す。そして落下を始めた男を尻目に、太陽の前に立つと、腰を深く落として正拳突きの構えに入る彼に言った。

 

「3で入れ替わるから、渾身のやつを頼める?」

「ああ」

 

 引いた拳に、(ほのお)が灯る。際限無く注ぎ込まれるシュブ=ニグラスの魔力が腕と拳に集中し、それから真冬もまた、うっかり自分が殴られないように、完璧なタイミングで入れ替われるようにと集中する。

 

「1……2の……3!」

 

 パン! という、何度聞いたかも忘れた拍手の音。それと同時に引き絞った拳が、真冬と入れ替わった男の土手っ腹に突き刺さり、まるでボールでも投げたかのような勢いで吹き飛びフェンスに叩きつけられる。

 

「──これで、俺らの勝ちだ」

 

 ぶんっ、と振るった拳から、魔力が消えて黒色が薄れる。流石にこの衝撃には耐えきれなかったのか、やたらと頑丈だった男はぐったりと気絶し、その後に少ししてから結月があっと声を上げた。

 

『……てゆーか、真冬落ちてない?』

「…………。あ!! やべっ、お嬢!」

 

 屋上から跳んだアビゲイルと男が入れ替わり、落下し始めた男と真冬が入れ替わる。

 ならば、真冬は男の代わりに落ちた事になる。大慌てでフェンスをよじ登り、縁に着地した太陽が真冬の落ちていった筈の方へと向かうと。

 

「──おーい、誰かー、引き上げてくれー」

「お嬢!? 無事か!?」

「なぁんとかぁ〜〜」

 

 縁から下を覗き込んだ太陽が見たのは、縁にフックを引っ掻けて、フックに繋がるロープに掴まりぶら下がっている真冬の姿。

 落下対策はしていたのかとホッとしながらも、太陽は真冬を引き上げ、二人で屋上の内側へと戻る。

 

「はぁ〜〜〜しんどい、けど……この戦闘の後処理とかしないとなぁ……連盟組織に与一名義で連絡して……記憶処理と壊れた箇所の修復……」

「あ。アビゲイルって元々敵なんだよな、コイツのことは黙っててほしいんだが」

「……あー、太陽さんが責任取るってこと?」

「ん? まあ、そうなるな」

「な゛────」

『あら〜〜〜』

 

 含みのある問いかけに、太陽は即答する。アビゲイルの顔がボンッと爆発したように赤くなり、高い身長を縮こませながらポツリと言う。

 

ふ、フツツカ者、ですが……

「なんか言ったか?」

「ヴェッ、ナニモ!?」

「んまぁ、アビゲイルが太陽さんの保護下になるのに反対はしないわ。そういういざこざは全部与一に投げるから。さて、電話するか──」

 

 そう言って、真冬はズボンのポケットから携帯を取り出す。小雪辺りを経由するか──と考えていると、不意に着信を知らせてきた。

 

「誰だ……ん? なんでこの人……?」

 

 誰からの電話かと、確認すると──画面に表示されたのは、与一から念の為にと伝えられていたとある男の名字。『秋山』の二文字を見て、真冬は訝しみながらも知り合いだからと電話に出る。

 

 ──果たして、出なければ良かったと後悔するのに、そこまでの時間は掛からなかった。

 

「……もしもし?」

【──ショゴスロードを殺す。人手が欲しいから今すぐ手伝え、有栖川真冬】

「なんて???」

 

 

 

 

 

『続』




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アビゲイル・ウィンター(♀)
・祖先に魔術師が居た家系の末裔。魔力の質と量は並の魔術師よりも遥かに高いが、碌に魔術も学べていないため、ただ密度を高めた魔力で物を掴んだり殴ったりとする以外の活用法を知らない。小さい頃の悩みは年がら年中全身が成長痛に襲われていたこと。

妖刀使いの男(♂)
・白痴教幹部の一人。白痴教に来る数年前に、剣術道場で師範を斬り殺している過去があるが、その内容が語られる日は来ない。

九十九(♀)
・妖刀に宿る付喪神。江戸時代に造られ、長い間各地を転々としながら、時に人に振るわれ時に祀られていた。当時から今に至るまで続いている悩みは、お供えされる和食に飽きていること。
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