とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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液体生物は人間の夢を見るか 6/6

『……試作型レールガン?』

『ああ』

 

 それは細波青井(ショゴスロード)と戦う2ヶ月前、年末の戦いから暫く経ったあとの話。

 白道の案内で連れてこられた射撃訓練室で、秋山が見たのは──銃身がU字になっている、身の丈をやや超える大きさのライフルだった。

 

『試作型レールガン、全長約2メートル。本来のレールガンは速度マッハ6の射程200キロメートルだけれど、小型化に伴いかなり威力が抑えられている。まあそれでも従来の銃火器よりは強いがね』

『なんてもん作ってやがる。……やっぱこの組織って馬鹿の集まりなのか?』

『否定は出来ない』

 

 半目で呆れたようにため息をつく秋山に、白道もまた苦笑をこぼして一房だけあるメッシュを弄る。

 

『──で、レールガンっつったら、かなり電力が居るはずだろ。この小ささで、どこからどうやって電力を確保するんだ?』

『それについては、これを使う』

『……なんだそりゃ、ビー玉……じゃねえな』

 

 秋山の問いに、白道はそう言って懐から玉を取り出す。親指と人差し指で輪を作ったらピッタリ嵌まる大きさのそれは、内側で虹色の光が()()()()()()()ことから、普通のビー玉ではないことを悟った。

 

『これは【魔力圧縮結晶】、読んで字の如くというやつだ。十数人の魔術師の魔力を高密度に圧縮させて作る結晶を装填して、こいつに電力を代替させる』

『ふぅん。……つーか、そもそもの話になるがよ、こんなもんどう運用するんだ? 街なかで撃ってみろ、敵性魔術師も怪物も貫通して、ついでに向かいの家もふっ飛ばして死人が出ちまうぞ』

 

 コツコツと曲げた指の関節で銃身を叩く秋山に、苦笑した顔を崩さずに白道が返す。

 

『その通り。こいつは街なかには持ち込めない。威力が抑えられていると言っても、それでもなお破壊力は対物ライフルが豆鉄砲に見えるレベルだ』

『やっぱり馬鹿なんじゃねえか?』

『否定は出来ない』

 

 コイツ……と呟きつつも、秋山は少し考え込む。仮にコレを実戦運用させるなら──と思案して、ならばと思いついた事を提案する。

 

『この試作型レールガン、最低出力にすると射程はどうなる?』

『そうだね……だいたい3キロメートルくらいかな。威力もちょっとしたムーンビーストや深き者(ディープワン)が血煙になる程度に下がる』

『それは()()じゃねえ。──で、だ。例えばそうだな、使用する弾丸をホローポイント弾みたいに加工することは出来ないか?』

『ほろー、なんだって?』

『あー…………ちょっと待て』

 

 白道には、いちいち銃弾の種類がどうこうと考えるほどの興味が無い。

 実践した方が早いか、と。秋山は射撃訓練室の壁に嵌め込まれたパネルを指先で叩き、訓練用の的を吊るす空間にあるものを取り出す。

 

『こういう弾だ』

 

 注文通りに床に空いた穴から台座ごとせり上がってきたゼラチンの塊に向けて、腰のホルスターから抜いた拳銃を1発バスンと発砲。

 放たれた弾丸は人体の固さを再現したゼラチンの塊に着弾し、先端が潰れ、キノコか何かかのように開いた弾丸は半ばで止まった。

 

『ふむ。なるほど……意図的に貫通力を下げて体内に留まることで威力が増すのか』

『出力と貫通力を出来る限り下げれば、まあ……街なかでもコイツを使える筈だ。要するに周りに被害が行かなければいいんだからな』

『そうだね、この話で掛け合ってみようか。とはいえ──最も喜ぶべきは、こんな物を使わずに済むこと……なのだろうけれど』

 

 目尻を細めて、白道は言う。強力な兵器とは、すなわち使()()()()にあるのだ。

 それを分かっているからこそ、秋山もまた小さく『そうだな』と独りごちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──弾け飛んだ液体が、雨のように室内に降り注ぐ。秋山の傍らにゴトンと落ちたのは、キノコのように先端が開き潰れた金属塊で。

 

「さて、と」

「……ん、秋山?」

 

 それをテキトーに投げ捨てると、秋山はおもむろに踵を返して清掃道具を入れたロッカーに向かう。太陽が訝しむのを知ってか知らずか、無視してバケツを取り出すと、彼はザバッと液体を掬う。

 

「な、何やってんだ?」

「仕事だ、仕事。お前らは先に下で楠木葉子と小雪の二人と合流しとけ」

 

 細波青井だった液体を掬ったバケツに、床に落ちている結晶の破片のような物体を入れ、秋山はそのままエレベーターのボタンを押す。

 再稼働したエレベーターがゴウンゴウンと動き、上階から降りてきたそれに乗り込むと、バケツごとその場から姿を消した。

 

 

 

「……まあ、言われた通りにしとくか。────あ、アビゲイル! 九十九!」

「ヌォラっしゃあああい!!」

「うおぉおっ!?」

 

 そういえばと、太陽は思い出す。下の階に落ちていった二人の無事を確かめるべく、床に空いた穴へと向かい──下から勢いよく跳び上がってきたアビゲイルと目が合い、思わず後退りする。

 

「……ア、着地考えてなかっブヘェア!?」

「おいちょっと待てこっち来んぉごぉ!?」

 

 刀を手にしたまま、アビゲイルは跳び上がった勢いのままに、ちょうど後退りした太陽の方へと落ちてくる。教師として子供を守らないわけにもいかず、そうは言いながらも両手を広げて受け止めた。

 尻もちをつきながらもなんとか横抱きに受け止めた太陽は、腕の中で自分を見上げるアビゲイルと目が合うも、驚いたように転げ落ちる光景を前に、なにやってんだかと呆れ気味に笑う。

 

「…………。……!! ちょっ、ばっ、うべ」

「おいおい、気をつけろよアビゲイル」

「イッテェ……あれ、敵は?」

「片付いた。秋山はなんか仕事だとか言って上に行っちまったが、俺らは下に行けってよ」

 

 先に立ち上がってアビゲイルに手を貸した太陽がそう言うと、更に視線を彼女の手に握られた刀へ移す。それに気づいたのか、彼女も口を開く。

 

「いや実は、下の階にも深き者(ディープワン)がウジャウジャしててさァ。戦ってる内に魔力切れでツクモが引っ込んじゃって」

「そうか。──そんじゃ、ぶっ倒れたお嬢拾って下に降りるか。俺たちの仕事は終わりだ」

 

 体の節々に残る痛みを堪えながら、太陽はゴキゴキと関節を鳴らす。あちこちから、そして自分たちの体からも漂う磯と生魚臭さに顔を顰めて、風呂に入りてぇ……と脳裏で愚痴を溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──屋上に繋がる扉を開け、秋山は外に出る。彼は硬い床に液体の入ったバケツを乱雑に置いて、懐から虹色に輝くビー玉を取り出すと、軽く放られたそれはポチャンとバケツの中に沈んだ。

 

「……ったく、めんどくせぇな」

 

 ビー玉──魔力圧縮結晶がバケツの中でほどけ、浸透し、そして破損した細波青井の(コア)が魔力を吸収して修復されていく。

 少しの間を置いて、バケツの中で液体がごぼりと沸いたかと思った瞬間、ひとりでに動き出したバケツが倒れ、中から液体が溢れる。

 しかし、その液体は重力に逆らって持ち上がり、人間の輪郭を形作り────()()へと変身した。

 

「──なん、で……私を、蘇生したんですか」

「単なる気まぐれだ」

 

 (コア)の修復に圧縮結晶の魔力を使い切り、液体自体も足りていないからか、身構える青井の体は数時間前よりも一回り小さくなっていた。

 小学生ほどの大きさになった青井にそう言ってあぐらを掻き、視線を合わせるついでに休む秋山は、それでも念の為か手には拳銃が握られている。

 

「なんでお前が俺にあんなことを言って挑発してきたか、多分お前自身もわかってねえだろ」

「…………それは」

 

 図星を突かれてか、青井は気まずそうに視線を逸らす。疲れたようにため息をつく秋山は、無意識に片手で頭の手術痕に触れてから続けた。

 

「俺の方でも考えてみたが……恐らく、今ここに居るお前と俺は似てるんだな」

「……似てる?」

「俺も、お前も、生前の自分には興味が無いんだ。俺はただの秋山で、お前はただの細波青井(ショゴスロード)。そこで終わるべきだった」

「────」

「お前は、細波青井は、自身とはなんぞやというアイデンティティを、自分が出来上がる切っ掛けとなった生前の俺──『秋山狐鉄』に依存し、そいつは死んでいるからと俺に執着しようとした」

 

 そこまで言われて、青井は自身の行動を思い返し、呆れ返ってぺたんと座る。

 結局のところ、彼女は細波青井ではなく、しかして怪物にもなれなかったのだから。

 

 ──怪物でありながら、人間の心を持つ。

 

 それは決して良いことばかりではなかった。異常な精神の人間を取り込み、半端に人間らしさを得た怪物となってしまったショゴスロード。それが、戦いに敗れた今ここに居る細波青井(ショゴスロード)である。

 

「まあそんなわけで、だ。お前には2つの選択肢がある。実質1つになるけどな」

「選択肢?」

 

 指を2本立てて、秋山は続ける。

 

「──俺の部下として連盟組織で働くか、このままトドメを刺されるかだ。選べ」

「…………??? なんで???」

 

 突拍子もない提案に、さしもの青井ですら困惑から疑問符を浮かべるしかなかった。

 

「ん? 理由が必要か? じゃあ『会話が通じるショゴスロードを味方に引き込めたら戦力増強に繋がる』とでも言っとけば満足か?」

「い、いや、それは……まあ、その……負けた私に拒否権は無いし……来いって言うなら行くしかない……んだけども」

 

 声色が震える青井の、どうにも煮えきらない態度。その理由はなにも、行きたくないからなどではなく──おずおずと、根本の問題を口にする。

 

「いいのかい、私は……キミと白道香織のプライベートを引き合いに出して、挑発した。深く……傷つけてしまったんだぞ?」

 

 青井は決して罪悪感からではなく、ただの事実を告げる。心を傷つけた張本人を引き入れることを、秋山が許しても、白道香織は許さないだろう──と。

 それを察してか、秋山もまた、哀愁の漂う顔で諦めるかのように吐き捨てた。

 

「あいつも大人だ、その辺は飲み込める。それに……まあ、問題ないだろ。何せ……あいつの恋人も、細波青井を殺した男も、もう居ないんだからな」

 

 皮肉気味に口角を緩めて、秋山は。

 

「──俺はただの秋山だ。()()()()じゃあない。笑えるだろ、俺はもはや、あいつの恋人にも……お前の仇にもなれないんだぜ」

 

 秋山は、そう言って。拳銃をホルスターに仕舞い、立ち上がって空を仰ぐ。

 

「────。なら、そうだね」

 

 そんな秋山に、青井も口角を緩めて、静かに歩み寄りそっと小さな右手を差し出す。

 

「先ずは、そう。……彼女に、謝らないとね。キミの部下になるのはその後だ」

「ハッ。せいぜい、もう一発レールガンを喰らわないように、言葉に気をつけるんだな」

「勘弁してくれ……」

 

 秋山が返すように伸ばした右手が、青井の手を握る。液体生物にしては、暖かいのだな──と。ふと、そんな感想が脳裏を過ったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ほぼ同時刻、四国のとあるビルの屋上にて。そこでは男性と、彼と雰囲気が似ている少女が立っていた。少女は()()()で男性を見ると、ニヤリと嗤って本人には似つかわしくない口調で言う。

 

「そうら、お姫様を助けに王子様たちのご到着だ。ここからは、貴様の仕事だろう」

「…………ああ」

 

 ブーツの踵をトンと鳴らし、男性はビルの屋上から地面を見下ろす。

【強化】した視力で確認したのは、ジープから降りてくる二人の男女。

 

「……桐山与一、リオン…………」

「儀式を始めるのであれば、奴らは邪魔だ。わかっているだろう?」

 

 少女は────否、姫島琴巳の体を使っているナニカは、そう言って、男性──姫島ヒカリに意地の悪い言葉を投げかける。

 

()()()()()()()を起動できるかは自分次第だ、頑張りたまえよ、おとうさん?」

 

 琴巳を巡る最終決戦が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

『続』




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