とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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祭りのあと 4/5

「おーい、九十九〜、起きろー」

 

 そう言って、太陽さんがテーブルに置いた妖刀の柄を曲げた指の関節でノックする。

 一拍置いて妖刀が纏う魔力が揺らいだかと思えば、不意に傍らに少女の姿が形作られた。

 

【ふわ……ぁふ。はいはい、なんの用?】

「お前の次の使い手候補を連れてきたぞ」

【ふぅん?】

 

 蛇神様のような純白の髪を伸ばし、欠伸を漏らす眠たげな顔の少女はこちらを見上げてくる。

 

「また悪霊タイプの人か……」

【あら失礼ね。私は付喪神、どちらかと言うと神霊の類なのだけど】

「はあ、さいですか」

 

 霊は霊だろ……とか言っても話は進まないため、とりあえず否定はしないでおく。

 そうしてじっとこちらを見ている少女──九十九は、目尻を細めて口を開いた。

 

【魔力は中々、体も良し。及第点かしら】

「そりゃどうも。……というか、妖刀を敵から奪ったって言うなら連盟組織に預ければいいのに。俺より丞久先輩とかの方が上手く使えるぞ?」

【組織預かりだと窮屈だから嫌よ。それに丞久って人、女性でしょう? じゃあダメね】

「なんで?」

 

 組織預かりで使われることを嫌がり、丞久先輩に使われることも嫌がる。

 ワガママだなあと思いながらも理由を問うと、九十九は面倒くさそうに返した。

 

【この妖刀は少し特殊なのよ。陰と陽、光と闇、男と女……そういった相反する要素がないとマトモに斬る事すら出来なくなる】

「────。つまり?」

妖刀(わたし)は男以外が握っても扱えないの。女性が使った所で切れ味はナマクラ以下】

「め、めんどくせぇ〜〜〜……」

 

 思わずそう言って顔を顰めてしまうが、本当に面倒くさい制約を課せられているのだから仕方ない。とはいえ……そろそろちゃんとした武器の一つも持っておくべきかと思っていた頃だしなあ。

 

 今までは【禍理の手】や【召喚(コール)】で複製した三節棍を振り回しているだけでどうにかなってはいたが、ここに刃物が加われば戦術も増えるだろう。タダで貰えるのだから、文句は言えまい。

 

「……わかった、組織には預けないよ。俺でいいなら、よろしく頼めるかな」

【いい返事ね。──けれど】

「まだなんかあんの?」

【ごめんなさいね、あと一つだけ条件】

「言うだけ言ってみ」

 

 ぴん、と指を立てて。九十九はいたずらっぽく笑みを浮かべると、間を置いて言った。

 

【──料理は出来る?】

「…………はい???」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ひとまず、こちらも太陽さんとアビゲイルに()()()()があるため休憩時間を作った。

 ほんの数分前に『マジで女が握ると斬れないの?』と真冬が疑問を提示し、本当に切れ味が無くなった妖刀で頭をカチ割られた結月が床に転がっているのを横目に、バッグからファイルを取り出す。

 

「……アレはほっといていいのか?」

「生き人形は死なないから大丈夫ですよ。『じゃあ白刃取りしま〜す!』とかアホなことを言ったアホの自業自得なので」

「まあそれもそうか。で、これはなんだ?」

「アビゲイル関連の重要書類です。当事者! ちょっとこっち来なさい!」

「──ン? あ、アタシか」

 

 テーブルを囲む真冬、ソフィア、蛇神様──と、九十九の四人と集まってパンケーキをバクバク食ってるアビゲイルが、丸々1枚を手にとって齧りながらソファに座るこちらの方に歩いてくる。

 

「ンで、なんスか?」

「ヒカリさんから預かった……というか動けないヒカリさんに代わって取りに行ったんだよ。アビゲイル、キミがこの国に残るためのモノだ」

「はぇ〜……」

 

 椅子に座る太陽さんの後ろから書類を覗くアビゲイルは、間抜けな声色で返す。

 太陽さんもまた、何かに勘付いたのか微妙そうな顔をして口を開いた。

 

「これ、偽造だよな?」

「そりゃそうでしょう。まあ、迂闊なこと言わない限りはバレませんよ」

「……そういや、お前も魔術師(そっちがわ)だったな」

 

 ファイルを受け取りながら言われるけど、ちょっと気づくのが遅いよ。

 

「つうか、アビゲイルはそのヒカリって奴に雇われたんだよな?」

「っス。アタシは故郷に居たくなかったからサァ、そん時に『じゃあ日本に居られるように手配して』っつったら、あのおっさん二つ返事で了承したんだよねェ。まさかマジでやるとはなァ……」

「話に聞くだけだと変な奴だな」

「……不器用なんだよ、あの人は」

 

 パンケーキをつまんでいた指を舐め取るアビゲイルを一瞥し、重要な話も終わって軽く伸びをする。それから後ろを見て、眠そうな顔のまま黙々と食べている九十九を見ながら言葉を続けた。

 

「それにしても、まさか契約の条件が…………料理ができること、だとはなぁ」

【んぐ。……何百年も妖刀をやっているとね、それはもうあちらこちらに奉られるのよ。そうすると、お供え物は和菓子和菓子和菓子和菓子……流石にもう飽きちゃったわ。向こう100年は食べたくない】

『ずっと和菓子しか食べられない、って考えればその気持ちは分からなくはないわねぇ』

 

 魔力の節約でサイズの可変を解いたソフィアが、小さく切ったパンケーキを両手で掴んで食べながら言う。しかし九十九のワガママも理解はできる。一生和菓子生活は、そりゃあ嫌だよな。

 

【与一、貴方にはこれからも、私が食べたくなった異国の料理を作ってもらうわ】

「毎日は無理だからな」

【分かってるわよ。週に……いや五日…………三日に一回でどうかしら?】

「『どうかしら?』じゃないが。交渉を始める前に先んじて値切るな。まったく」

 

 ……これは、そのうち料理図鑑とか買ってくる必要があるのか……? 

 

「まあ、その話は追々ね。さて、俺もそろそろ帰るかな────、…………。ん?」

「どうした?」

「……さっきの写真、見せてもらえますか」

「別にいいけど、気になることでもあんのか」

 

 ここに居る理由も無くなり、帰ろうかと思ったとき、ふと──違和感を抱いた。

 太陽さんがリビングに持ってきたままのアルバムから改めて写真を見せてもらい、父さんたちの集合写真の中身……制服を見やる。

 

「……高校の制服、だよな。父さんたちが生きてたなら今頃は47か8くらい、だとすると……今から31〜2年前の写真ってことになる」

「それが?」

「────。いえ、気にしすぎですね」

 

 なんでもないとかぶりを振って、荷物を纏めて席を立つ。太陽さんに不必要な負担は掛けられないし、ここは誤魔化しておこう。

 

「…………。ふーん」

 

 テーブルに肘をついてこちらを見ている真冬には()()()()()()ことに気づかれたが、ほんの少しだけ首を横に振って黙っててもらう。

 

「あ、真冬はこのあとどうする?」

「んー、結月の頭が治ったら帰る」

『私も結月が目を覚ましてから帰るわ』

「結月の頭…………ああ物理的な方ね」

「中身の方はもう手遅れだろ」

 

 真顔でなんてことを言うんだ。……ついさっき真剣白刃取りをしようとして頭を割られた結月を横目に、真冬はさらりと辛辣に言った。

 ともあれ、太陽さんに一言挨拶をしてから刀を手に廊下に出て──リビングに戻っていつまで経ってもパンケーキを貪る九十九を引っ掴んで出る。

 

『与一ク〜ン、私も帰るから一緒に出ましょ』

「おや、そうですか」

 

 それから九十九を刀に押し込み、玄関でブーツを履いていると、後ろから人形サイズに戻った蛇神様が現れる。ガチャリと扉を開けると、彼女は空中にふわりと浮かび、こちらと目線を合わせた。

 

「ヒカリさんとの戦いは終わって、自分も琴巳ちゃんから出て自由になったわけですが、蛇神様はこれからの目標はあるんですか?」

『そうねぇ……昔の時代から変わった日本を見て回りたいし、竹田ちゃんが退院したら和食旅行について行こうかなって思ってるの』

「竹田さんの自由はどうなるんですかね」

『まあ、なんとかなるでしょ』

 

 おほほほ、と笑う蛇神様に、こちらも苦笑を返すしかない。大変だなあの人も……と脳裏で独りごちると、蛇神様は笑顔を戻して真面目な顔をする。

 

『で、さっき何かに気づいたみたいだけれど、このあとどこかに行くのかしら?』

「……実は、30年くらい前の親の写真を見つけたんですけど、ヒカリさんから聞かされた連盟組織のメンバーである彼の友人が解決したっていう大学の事件も、ちょうどその頃の一件らしくて」

 

 ──そう、これが抱いた違和感。30年くらい前に起きた戦いと、当時の父さんたち。

 これらには、なんらかの関係があるのではないか……という妄想に近い考えがあった。

 

『ははぁん、繋がりがあるんじゃないか……ってコト? 考えすぎじゃない?』

「それならそれで、『関係なかったならよかったー』で話は終わりなんですよ。その確認をしたいので、このまま組織に行こうかなと」

『ふぅ~ん。なら、気をつけるのよ?』

「ええまあ、それはもちろん」

 

 蛇神様も納得したのか、目的地に向かうべく背中を向ける。こちらも停めてあるバイクの方へと歩みを『ああそうそう、ねぇ与一クン』

 

「……な、なんでしょう」

 

 背中を向けあった途端、思い出したかのように、人間大に戻った蛇神様が肩を掴んでくる。

 それこそまるで蛇のように、どこかねっとりとした雰囲気に心臓を鷲掴みにされるかのような妙な威圧感を押し付けられた。

 

『そういえば貴方……琴巳ちゃんに体を治してもらったのよね?』

「そうですね」

『じゃあ、()()()()()治したのかについては、わかってるのよね?』

「な、なんとなくは……」

『へぇ、そう。そうよね、琴巳ちゃんも、あんなやり方は見せたくないし言いたくないものねぇ』

 

 後ろから肩を掴むその手で、ピアノでも弾くかのようにタンタンと叩いてくる。

 

『分かっているでしょうけ、れ、どぉ、あの子に何かあったら……貴方の名字は桐山から姫島になるから、覚えておいてね……?』

「はい」

『ふ、ふふ、うふふふふふ』

 

 言いたいことを言い切ったからか、どこか満足げな雰囲気でようやくこの場から去る蛇神様。

 どうして……どうして揃いも揃って外堀を埋めようとしてくるんだよ……! 

 

【完全にロックオンされてますねぇ】

【相手は陽狩(ヒカリ)の娘でしょう? 玉の輿じゃない】

「勘弁してくれ」

 

 蛇神様の忠告に薄ら寒い怖気を感じながら、影と刀から聞こえてくる声に対応する。

 しかし、うちの事務所も大所帯になってきたなあ。人間三人、生き人形4体、悪霊一人、付喪神一人……お化け屋敷か? 

 

 何度目かのため息をついてバイクに跨がり、バッグとかぶせで挟んだ刀が固定されてるのを確認して、早速とエンジンを点ける。

 

「さて……次の目的地は連盟組織か。これは勘だが……父さんたちと例の事件──そして言乃葉ミドリは、絶対に関係がある筈だ」

 

 

 

 気になってしまったからには、確かめるしかない。いちおう念の為にと秋山兄妹にメッセージを飛ばしてから、グッと強くハンドルを握った。




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