とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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祭りのあと 5/5

「無いな」

「うっそぉ」

 

 秋山さんが資料室のパソコンを操作する後ろから、画面を覗き込んで当時の報告書を見やる。

 

「もっとちゃんと探してくださいよ」

「もう4回目の検索だボケ。『シュブ=ニグラス』、『大学』、『言乃葉ミドリ』で調べて出てくる情報は一つだけだけだし、何度読み返してもお前の両親含む四名は居ない。組織の記録に居ないってことは、その場に居なかったから記録されてないってことだ」

「父さんたちの名前だけで検索しても?」

「……なら、それが最後だ」

 

 面倒くさそうに検索内容を切り替えるべくキーボードを叩く秋山さんを横目に、さっき検索してもらった当時の記事の内容を思い返す。

 

 

 

 ──約31年前、呼声町の大学で起きたドラッグの密売と、生徒がそれを使用する問題が発生した。

 大学の外で連盟組織所属の警察がそれを押収したところ、シュブ=ニグラスの体液と薬物を混ぜたものであることが判明。

 調査のために派遣された魔術師・呪言使いである言乃葉ミドリはその後、大学内でドラッグを密売していた魔術師およびドラッグの過剰摂取により擬似的なシュブ=ニグラスの眷属となった生徒数名、更には顕現したシュブ=ニグラスそのものを撃退。

 しかし戦闘の最中に負った傷が致命傷となり死亡。言乃葉ミドリの死後、彼女の呪言を切っ掛けとした複製魔術【召喚(コール)】が発明された。

 

 

 

 ……というのが一連の事件のさわりだった。ヒカリさんが言うには言乃葉ミドリの遺体は神格顕現の素体にされ、今も組織内に居るらしいが。

 なにより重要なのは、父さんたちは特に関係なかった、という部分だ。

 

 こうして事実として突き付けられると──なおのこと違和感が増していく。

 

「…………う〜〜〜ん。あ、夏木小梅の名前は出ますよね? 先輩が関わった事件の関係者だし」

「ああ、出るぞ。ついでに言えば、桐山龍一・桐山悠花・有栖川千夏の三名の名前はお前ら経由でつい最近情報が登録されてるだけだ」

「いや許可取りましょうよ」

 

 なにをさらっと無許可でデータベースに情報を載せているんだ。しかし秋山さんは、こちらの言葉が不思議であるかのような顔で返す。

 

「死人からどうやって許可取るんだよ」

「……? …………!? 俺と真冬に許可を取れって話をしてるんだけど!!?」

「ああ……そっちか。やったのは俺じゃねえんだから俺に文句を言うな」

 

 ほんの一瞬『まあ、確かに?』と納得しそうになったけど、いやそんなことはない。

 

「──んで、やっぱり当時の事件関連でお前らの親の情報は出てこねえぞ」

「え、ああそう……あの、秋山さん」

「あん?」

()()()()『記憶処理をしたという情報』を残さないことってあり得たりします?」

「ねぇな。魔術師はイカれた連中だし、連盟組織も100%(ひゃくぱー)善人の集まりってわけじゃあねえが、それでも世の為人の為に存在する組織だ。誰の記憶に干渉したかもわからない状況を是とするわけがない」

 

 ──だから。と続けて、パソコンを落としながら秋山さんは椅子を回転させてこちらに言う。

 

「もし、仮に、当時の事件にお前らの親が関わっていたのに記録に残っていないのだとしたら、考えられる可能性は一つだけだ」

「……それは?」

()()()()()()()()()()()記憶処理をした」

「────。そうか、それなら……」

 

 記憶処理をしたのはミドリ本人で、連盟組織の記録は父さんたちが居なくなってから行われた。それなら記録できなかったのも合点がいく、なぜなら死んだ人に記憶処理したことを話す機会は無いのだから。

 

「期待すんな。あくまで仮に、だ。どうせもう真実を語れるやつは居ねえ。言乃葉ミドリも、今では神格に死体を乗っ取られてるんだからな」

「そりゃそうですけど。……そういえば、くだんの言乃葉ミドリの体を使ってる神格ってどこで何をしてるんですか? 会えたりします?」

「…………あー、やめたほうがいい」

 

 席を立って廊下に出る秋山さんについて行きながら問いかけると、彼は露骨に渋い顔をする。

 

「連盟組織の拠点の一つ──俺らが活動してるここの地下で植物プラントを弄ってるんだがなぁ、逆に言えばそれぐらいしか興味がねえんだよ」

「はぇ〜」

「んでもってマトモに興味を向けられてるのが丞久しか居ない。あいつが居るときに会いに行かないと、まず部屋にすら入れねえ」

「また丞久先輩案件か……」

 

 なら先輩が帰ってきてから────あれ、先輩と円花さんってまだ帰ってきてないのかな。

 

「秋山さん、あの二人ってまだイイーキルスを沈める戦いを続けてるんですか?」

「あん? ああ……いや、丞久はもう帰ってきてる。お前が寝てる間に別の任務で出てった」

「早いなあ」

 

 相変わらず多忙なことに同情するべきなのか、見舞いに来てくれなかったことに微妙な感覚を抱くべきなのか。まあ仕方ないか。

 

「春夏秋冬円花は帰ってきてねえな。丞久が言うには、ミスカトニック大学の方で、イイーキルスがむこう1000年は浮上できないようにするための結界魔術を起動するために、魔力補充役をやってるらしい」

「バッテリー扱いされている……」

 

 性格はアレでも、魔力量と魔術の才能だけなら今世紀で一番だものなあ。

 たぶん大規模魔術のバッテリー扱いは、ある意味で円花さんの正しい扱い方なのだろう。

 

「じゃあ、丞久先輩は今なんの任務を?」

「その時居なかったから俺は知らねえ。まあ、丞久が居て万が一は起きねえよ。昨日出たんだ、明日か明後日には帰ってくるだろ」

「ならその時に聞きますか。俺の方で別件が起きなければ、の話ですけど」

「与一は与一で大変だな」

 

 まったくだ。別に数日意識不明だったことは休息にはならないんだから、贅沢言わないから五日はのんびりと過ごしていたい。

 

「やぁあすみがほしぃいぃ〜〜」

「切実な時にしか出ない声だな」

「秋山さんには無いんですか? ……そういえば、秋山さんとかの私生活って謎ですね」

「探りを入れても面白かねぇぞ」

「あ、でも白道さんでしたっけ。()()()と痴話喧嘩したんでしょ?」

「……今なんつった?」

 

 横並びに廊下を歩きながらそんな風に会話を交わすと、最後の言葉に反応して、秋山さんはこちらを見ながら眉間にシワを寄せる。

 

「小雪さんから聞いた真冬たちから聞きましたよ。なんか作戦中、その事でイラついてたって」

「又聞きの又聞きかよ……まあ、間違ってねえか。あいつは元カノ、らしいからな」

「ちゃんと謝りました?」

「俺が悪い前提で話すのやめろ」

 

 二度目の渋い顔を見せて、秋山さんは言う。

 

「仮に悪いとして、俺の割合は精々が2割くらいだろ。俺は白道の所為で頭ぶち抜かれて一回死んだんだぞ、責められる謂れは()ぇよ」

「難儀な人生歩んでますね、秋山さんも。俺のことあんまり言えないじゃないですか」

「かもな」

 

 などと話をしながら、廊下を歩いてしばらく。それからふと、秋山さんが口を開く。

 

「そうだ、その白道がお前と話したがってたぞ。やること無いならちょっと顔見せに行ってやれ」

「なんだ、もう仲直りはしたんですね」

「ガキにゃあ分からないだろうが、大人にはな、諦めたり仕方なく納得したりで、不平不満を呑み込まないといけない時があんだよ」

「俺も成人してるんですけど」

 

 こちらの返しに、鼻で笑って返す。

 

「なら、お前より歳上の丞久や春夏秋冬円花は『大人』ってやつなのか?」

「…………。なるほど」

「そういうことだ。で、どうする?」

「ん。そうですね、折角だし……挨拶しに行ってみましょうか」

 

 このまま帰っても、やることは無い。ならばと提案に乗り、行先を変えるように角を曲がる。

 果たして琴巳ちゃん誘拐事件も、姫島ヒカリとの戦いも終わり、一旦の終幕を迎えた。

 丞久先輩も任務で居ないからと、しばらく暇になるだろうし休みを挟めそうだな──と。

 そう思っていたのだが、どうやら思い通りには行ってくれないらしい。

 

 ──今日から更に三日後、丞久先輩の家……明暗探偵事務所で火災が発生。

 焼け跡からは()()()()()が見つかり、連盟組織に運び込まれたとのことだった。その件で呼び出され、結果として次なる戦いが始まっていたことを知らされるのだとは、この時はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──抜き身の刀を手に、女性が歩く。

 

「手こずらせやがって、人造神格なんて碌でもないもん作ってんじゃねえっつーの」

 

 黄色いレインコートに身を包み、フードを目深に被るその顔には、半ばを隠れながらも面倒くささと苛立ちが見え隠れしている。

 桐山与一の意識が戻った今日この日、レインコートの女性──明暗丞久は、異国から帰ってきて早々に、任務で訪れた施設を潰して回っていた。

 

「虚空からエネルギーを取り出す力、それを操る為の理念、力と理念を入れる都合の良い器。嫌だねぇ人間の欲ってやつは」

 

 刀を握っていない手に光をも遮るドス黒い魔力を纏い、頑丈そうな近代的なスライドドアを殴ってこじ開けると、丞久は部屋の奥にある巨大なガラスケース──と、その中にぺたんと座る少女を見やる。

 

「…………? あなた、は?」

「しがない探偵だ。お前はなんだ、力か? 理念か? いや……器の方か」

 

 ぼんやりとした眼差しで自分を見上げる、中学生くらいの少女。丞久は彼女が『なに』であるかを見抜いて、刀に照明の光を反射させた。

 

「……わたしを、殺しに来たんですか?」

「んー、まあ、そうだな。残念ながら、人造神格を作って企んでる施設を潰すことと、人造神格の始末が今回の任務だからなぁ」

「そう……ですか。じゃあ、そうしてください」

「──あァ?」

 

 抵抗するか、命乞いか。そのどちらかだろうと想定していた丞久は、無抵抗の少女がさらりと受け入れたことに眉を跳ねさせる。

 

「……じゃあ、望み通りにしてやる」

 

 そして、心底つまらなそうな顔をしながら、丞久は刀を振り上げる。

 ガラス越しに、斬られることを確信してまぶたを閉じる少女を前に。鈍い輝きを放つ刀身は──真っ直ぐと、迷いなく振り下ろされた。

 

 

 

 

 

『続』




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