とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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イデア・シンドローム 1/6

「──なぜ、人造神格を作ってはならないのか。知っているかい? 桐山クン」

「あの、今日クイズ大会に呼ばれたんですか?」

「知ってることの確認と共有をしたいだけだよ」

「ああなるほど」

 

 朝食を摂ってすぐの時間に呼び出され、連盟組織の施設にやってきたのだが。

 来て早々にこんなことを問いかけられて、流石に疑問を返さざるを得なかった。

 

「人造神格……って言うと、蛇神様みたいな人に作られた神様のことですよね」

「そうだ」

 

 黒髪の中に一房だけある白いメッシュを指で弄る女性──イス人こと白道さんが、部屋の椅子に腰掛けてこちらを見てくる。

 

「やっぱり、クローンみたいなモノと同じ倫理的な問題があるから……とか?」

「それだと15点。それもある、が、問題点はわりとシンプルなポイントにあるんだよ」

「ははぁ。では答えを聞かせてもらえますか」

「ふふ、仕方がない。教えてあげよう」

 

 わざとらしくお膳立てする流れにして、向こうに説明をしてもらう。人造神格を作ってはならない理由は分かっているけど、なんというか……白道さんみたいな研究者気質は語りたがりだしね。

 ここで『それくらい知ってますよ』とか言って不機嫌になられても困るし、ひとまず本題に入る前の雑談程度に思っておこう。

 

「──作られたばかりの人造神格は、それこそ最初に見たものを親だと思い込む雛鳥のようなものだ。他人の欲が善か悪かなど判別できる訳が無い」

「まさしく純真無垢、と」

「うむ。だから、例えば魔術師が……悪事をさも崇高な行為であるかのように教えたとする。人造神格にはそれが良いことか悪いことかを判別できない。判断材料が無ければ、根本的に経験もないからだ」

「だから作ってはならないと。……一応聞きますけど、作ってしまったらどうするんですか?」

 

 こちらの問いかけに、白道さんは少し考えてからあっけらかんと言う。

 

「まあ、殺すしかあるまい」

「……蛇神様は放免なのに?」

「アレは1200年前に作られて、既に自我も確立してしまっているからね。善寄りの中立なのは、誰が見ても明らかだろう?」

「そういうもんですかね」

 

 つまり、作られてから時間が経った人造神格が悪神でないなら殺す必要は無いが、作られたばかりの人造神格は善神になるかは分からないから、()()()()殺さないといけない……ってことか。

 

「それに、蛇神……女神ヘルペテの模倣神格か。アレを殺せないのにはもう一つ理由がある」

「理由?」

「単純な話だ。アレに手を出すと姫島ヒカリと敵対することになる。更には姫島琴巳と、そしてその護衛者である御剣リオン(うちのメンバー)、更には娘たちの味方をするであろうキミとも敵対するわけだ」

「ああ……なるほど」

 

 なんだか『お前どうせあっちの味方するでしょ?』と断言されると複雑な気分になるけど、まあ確かにその通りだとしか言えない。

 ともあれ、そろそろ本題に行きたいので、程よいタイミングで話題を切り替える。

 

「白道さん、もうそろそろ本題に戻りませんか? 俺を呼んだのは人造神格じゃなくて丞久先輩に関する話をするためでしょう?」

「ん? さっきから本題しか話していないが」

「え?」

「え?」

 

 …………え? 

 

「任務に向かってから帰ってこない先輩の行方と、事務所の火災、そして焼け跡から見つかった女性の遺体に関する話をしたいんですけど?」

「その前段階の話をしているのだけれど?」

「え?」

「え?」

 

 …………ん!? 

 

 

 

「──漫才やってんじゃねえぞボケども」

「ツッコミが居ないということも考えると、まあボケしか居ませんねぇ」

「あ、秋山さん」

「どーもぉ」

「……あれっ?」

 

 不意に出入口の扉が開けられると同時に、聞き慣れた声の聞き慣れた暴言が投げ込まれる。

 そちらに振り返ると、いつものメンバー……秋山さんと、そしてもう一人。

 小学年くらいの背丈の、白衣に眼鏡の少女。以前見たときより一回りも二回りも縮んでいるそれは、見間違いでなければ────

 

「……細波青井? なんか痩せた?」

「お久しぶりですねぇ、桐山与一クン。体積が減ったという意味では確かに痩せましたねぇ。小さくなって新登場、ですよ」

「俺、ああいう宣伝文句嫌いなんですよね」

「それについては同意しますねぇ、ええ」

 

 うんうん、と頷く少女──細波青井。ショゴスロードであり白痴教の幹部でもある彼女が、どうしてこんなところに居るのか。

 

「それで、なんで細波青井がここに?」

「んまあまぁ、色々あったので」

「お前らが姫島ヒカリおよび顕現した神格と戦ってる裏で、俺たちもこいつと戦ってたんだよ。それで勝って持ち帰って脅して雇った」

「し、シンプルに酷い……」

「事実だけ抜き出すと、そうなるね」

 

 秋山さんの言葉に、白道さんも横で苦笑しながら肯定する。細波青井のことが事務所で確認した報告に載ってなかったってことは、この人、一緒に戦ってたみんなに何も言わずに連れて帰ったな……? 

 

「……まあそれはそれとして、俺は丞久先輩の話をしにきたんですけど、それと人造神格になんの関係があるんですか?」

「あー……そこからか。丞久の奴は、ある施設を潰してこいって指示されてたんだが、そこで人造神格が扱われてる可能性があったわけだな」

「────。そういうこと!?」

「あれ、言ってなかったかい?」

「言ってなかったかなぁ!?」

 

 バッと白道さんを見やれば、不思議そうに小首を傾げられた。秋山さんの言外の『ボンクラどもがよ……』という視線に居た堪れなくなり、改めて本題に入るために話題を切り替える。

 

「……例の焼死体の確認なんですが、あり得ないとは分かっているけど、万が一にも先輩だったとしたら……どうなるんでしょうかね」

「どうなる、って。そりゃ────」

 

 少し考えて、秋山さんは言う。

 

「──この国がマッドマックスみてぇになる」

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ──秋山さんと白道さん、そして秋山さんのジャケットの表面に液状となって張り付いている細波青井とともに廊下を歩いて数分。

 約1体は歩いてないだろとは言わないでおくが、果たしてとある一室……死体安置所に辿り着く。

 

「なんで警察署でもない場所に死体安置所が……とは聞いちゃダメなんですかね」

「連盟組織がそもそも警察や軍とズブズブなんだから、その質問は今更だな」

「ですよねー」

 

 秋山さんの言葉に、そういえばそうだった、と脳裏で独りごちる。

 白道さんを先頭に中に入ると、独特の臭いが鼻を突いて思わず顔をしかめる。

 臭いが気にならないのか、彼女はずんずん歩いていって、壁に埋め込む形の遺体を収納するスペースから台座を引っ張り出した。

 

 ──の、だが。

 

「……白道さん、()()()()()()?」

「いい質問だね。それこそが、この一件を面倒にしている原因なんだよ」

 

 ガラガラと引っ張り出された台座には、何も乗っていなかった。つまりは、だ。

 

「…………。もしかして生き返った?」

「そうだったら流石の俺でも腰抜かすぞ」

「違う違う。例の女性の遺体はね、()()()んだ。運び込まれて暫くは形を保っていたのだけれど、突如として液状に溶けて消滅したんだ。これが何を意味するか、分かるだろう?」

「溶けた? ……ということは」

 

 ちら、と秋山さんを見る。向こうも察したのか、肩を揺らしてスーツのジャケットに張り付いて同色に擬態している細波青井に合図した。

 

「ん、はいはい。私ですか」

「お前じゃねえけど、()()ではあるな」

「トンチ? ……ああなるほど、ショゴスを使って遺体の偽装をしたのか」

 

 上半身だけを人間体に変えた細波青井が、秋山さんの頭の上に腕を乗せてもたれ掛かる。

 鬱陶しそうな顔の秋山さんを横目に、こちらも疑問点を問いかけた。

 

「となると、丞久先輩がわざわざそんな回りくどい偽装をした理由がわからないんですよね。だってあの人、そんなことする必要自体が無いくらいイカれ…………めちゃくちゃ強いじゃないですか」

「せめて言い切れ。……まあそうだな。ついでに言えば、火災だって、自分でやったのか相手にやられたのか結果としてそうなったのかも謎だ」

「せめて何処にいるのかさえわかれば────というか、なんで居なくなったんですかね」

 

 そういえば、と。そんな疑問が湧いてくる。すると、遺体を置く台座を壁に収納し直す白道さんが、一仕事終えたとばかりに手の埃を払うように叩きながら戻ってきて、こちらを見上げて口を開く。

 

「探偵事務所の火災、偽装された遺体、帰ってこない丞久本人、連絡も出来ず位置情報も分からない。そして任務は施設の壊滅と、人造神格が居た場合の抹殺。桐山クン、もうお分かりだろう」

「……ま、まさか……」

 

 そこまで言われて、ようやく理解する。こちらが察したのを見計らって、白道さんは続けた。

 

 

 

 

 

「──丞久は恐らく、抹殺しなければならない人造神格を連れて逃げている」

「嘘でしょ……」




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