とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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かみさまのつくりかた 1/5

 凄まじい揺れがマンションを襲う。窓の外では都心の道路を我が物顔で占領する巨大なムカデのようなバケモノが、こちらへと向かって来ていた。

 

「……どうするんですかこれ」

「V.I.Pの連中が私とアカリを狙うために既に【人払い】を使ってたから被害は出てねえ。さっき上に被せるようにここら一帯を連盟組織側の【人払い】で囲っておいたから、人死には気にすんな」

「建物の被害は???」

 

 現在進行形で、巨大ムカデがその体格でビルやマンションを薙ぎ倒しながら向かってくる光景を前に、丞久先輩はあっけらかんと言う。

 

「あんなん今から2時間以内くらいなら巻き戻せる。()()()()()()()()()だから、大規模作戦の時は都市丸ごと【人払い】で覆うのが必須なんだよ」

「……なるほど」

 

 あのバケモノを倒して、その後で連盟組織総出でヨグ=ソトースの部分顕現を行い、被害を負った時間だけを巻き戻す──と。

 言ってることはめちゃくちゃだが、それが出来てしまうのだから恐ろしい。

 

「手短に言うぞ、私とアカリとヴォイド……っつーか真冬か。この三人であのムカデを殺す。与一はV.I.Pの残った最後の施設に向かってトップを捕まえてこい、秋山……は、どうすんだ?」

「俺も火力を担当した方がいいだろ、ムカデを殺るぞ。ちょっと連絡するから先に行け」

「えっ俺一人!?」

 

 なんかサラッと4:1で分けようとしている先輩に咄嗟に声を荒らげると、先輩は左半分を眼帯で隠した顔をイデアに向けて右目だけで見ながら言葉を返す。

 

「じゃあそこでしょげてるのも連れてけ」

「しょげてる原因のセリフがそれ……???」

 

 ほんの少し前に衝撃の真実を暴露されたイデアは、呆然とした表情で膝を突いて項垂れている。

 

「えー、あー。イデア? 立てる?」

「…………はい

「声ちっさ……」

 

 ボソボソと呟くイデアがのそりと立ち上がりついてくる。……まあ、確かに、本当のことを聞かされて()()()()なら、土壇場でなられるより今のうちにショックを受けて貰うほうがダメージは少なく済むのだろう。言い方がアレなだけで。

 

 ともあれ、気絶してる真冬を担いで一旦屋上へ向かうために歩き出す。

 今のイデアなら……先輩をひっぱたいても許されるだろうけど、それは言わないでおいた。

 

 なぜなら、明暗丞久(あのひと)は避けたうえでカウンターを入れてくるタイプだからである。

 

 

 

 

 

 

 

 ──マンションの屋上、ようやく目を覚ました真冬が、気だるげに眼下で向かってくる巨大ムカデを見ながらため息混じりに口を開く。

 

「まあ、まあ。ヴォイドに体使われてる時も、外で何が起きてたかは把握してたけどさぁ……」

「じゃあ力の使い方も分かるな?」

「……はぁ、起きて早々にムカデ退治かよ」

 

 丞久に問われて、薄い金髪(プラチナブロンド)のあちこちに銀髪がメッシュのように残った髪を指で弄り、それから頷いて返し与一とイデアを見やる。

 

「あんたらを、さっき聞いた座標に、ヴォイドの力で道を作って送り込めば良いんでしょ。時間もないしさっさとやらないと」

「ああ、頼むぞ真冬」

「……あたしも人外に片足突っ込んだわけか」

「うーん、おめでとう?」

「嬉しくねぇ」

 

 人造神格の力を宿してしまった事実と、与一の言葉に呆れながらやれやれと頭を振る真冬。

 今なお自分たちの方に向かってきている巨大ムカデを横目に、丞久とアカリ、そして真冬が体内の魔力を膨れ上がらせて言った。

 

「やるかぁ、【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】」

「……【黄衣の王(ハスター)】っ!」

「──【虚空神話(ヴォイド)】」

 

 丞久はその身に黒い魔力と角を纏い、アカリはローブを黄色いレインコートに変え、左目に模様を浮かび上がらせる。そして真冬の金髪と銀髪の比率が逆転し、彼女の左目にもひし形のような星が浮かぶ。

 

 ──結月が無事だったらテンション上がってそうだな。と脳裏で独りごちる与一は、ふと背後からの気配を感じ取って振り返る。

 

「おい、ちょっと待て。渡すもんがある」

「あれっ、秋山さん、連絡終わったんですか?」

 

 屋上に繋がる扉を開けて外へと躍り出た秋山が、その流れである物を与一に投げ渡す。

 ぱしっと受け取ったそれを手のひらに広げると、それはやたらとゴツいUSBメモリだった。

 

「……なんですこれ」

「あの手の施設は施設内でデータを独立させて保存してるからな、それを引っこ抜いて連盟組織に送るためのハッキングツールだ」

「ああ、はいはい。仕込んでこいと」

「最低限それだけ出来れば、あとは何してもいいぞ。組織のトップを殺そうが好きにしろ」

「俺は()()()()()はナシなんで」

 

 冗談めかして言う秋山に、与一は苦情しながらUSBメモリをバッグに仕舞う。

 

「……よし、二人を送るぞ」

「ん、頼むよ」

 

 早速と真冬が空間に干渉し、二人の足元に窓を開く。座標の特定と出入口の設置、それらを行うべく集中し、その技をポツリと口にした。

 

「──【虚空渡り(ヴォイドウォーカー)】」

 

 直後、与一とイデアは浮遊感を覚え、ビルの階下──ではなく、足元に空いた穴に向かって落ちていく。バツンと閉じられ、この場には四人と1体だけが残り、それぞれがムカデを見下ろす。

 

「んで、アレどうするよ」

「先ず何が有効かを確かめる。俺は弾丸が通るか確認するから、お前らもお前らで各自好きに攻撃しろ。要するに臨機応変(いつもの)だ」

「……それ、作戦なんですか……?」

「あたしらはいつも()()()だ」

 

 アカリの疑問に、真冬は呆れ気味に返す。丞久たちを狙うように指示されているのか、巨大ムカデは真っ直ぐ建物や車を破壊しながら向かってきている。

 それを眺めながら、秋山はおもむろにワイヤレスイヤホンを片耳に装着して、更に小さな入れ物からコンタクトレンズを取り出して目に嵌めた。

 

「なんだそりゃ」

「拡張現実……ARでここら一帯を上から撮影したマップを映してる」

「へえ。なんの為に?」

「俺はお前らと違って普通の人間だからな、この手の戦いにも一工夫必要なんだよ」

 

 小首を傾げる丞久を横目に、秋山が苦い顔でため息をつきながら言う。

 イヤホンを指でコツコツと小突いて()()()からの返答を聞いていた彼は、不意にムカデがピタリと動きを止めたことに違和感を覚える。

 

「なんかおかしくねぇか」

「おん?」

 

 秋山の目には、動きを止めたムカデがその顔を自分たちの方に向けて持ち上げている光景が映る。それから一拍おいて、ギチギチと音を立てて開かれた口元に、光が集まっていく光景も見た。

 

「……!! お前ら跳べ!!」

「ボサッとすんな!」

「え? まっ!?」

「──ちぃっ!」

 

 直感から咄嗟に声を荒らげた秋山に従って、丞久が即座にアカリの襟首を掴む。

 真冬も同じように屋上の柵へ足を掛けて同時に跳び、地面へと落下を始める。

 

「秋山ッ!!」

「【空間盤上(チェス)】起動、d3からd5へ」

 

 顔を上に向け、丞久は秋山にも下りるようにと名前を呼ぶが────彼はそう呟いて、一瞬の後に光の束に屋上ごと呑み込まれた。

 

「あ、死んだ」

 

 真冬が空中に水平に展開した空間のズレに着地して、丞久があっけらかんと言う。

 

「っ……!? し、死ん……!?」

「すげーなー、今どきのムカデはビームなんか撃てんのか。時代の進歩だな」

「いや、んなこと言ってる場合か? 次の狙いはあたしらだぞ!?」

 

 ムカデは屋上から十数メートルしたの窓ガラス付近に着地した三人に狙いを定め、次弾を装填するかのように口に光を収束させる。

 けれどもそれを見ながら、丞久は身構えもせずにさらりと言葉を続けた。

 

「んー、まあ。あれで本当に死んだんなら、墓の前で笑ってやるけどな」

「……は?」

 

 

 

 

 

 ──その言葉を合図にしたかのように、突如として。ムカデを挟んだ向かいのビルから、背面を叩くような無数の銃弾が叩き込まれる。

 

「ほらな?」

 

 カカカカカンッ!! という小気味よい音。それは対面のビルの屋上から撃ち込まれた銃弾が巨体の装甲に弾かれる音だったが、それも次第にピシピシと装甲にダメージを入れる音へと変わっていく。

 

「ビーム撃っ──て、来ない?」

 

 巨体には豆鉄砲でも、しかしてほんの僅かに傷をつける威力は、つまりは小石で鎧にヒビを入れるに等しい脅威であるために、ムカデは丞久たちへの砲撃よりも背後の脅威への警戒を優先したのだ。

 空間のズレを盾にしようと身構えていた真冬の前で光の収束が止まり、くるりと振り返るムカデは半端にチャージされた()()を後ろのビルに発射するが、そこには既に誰も居ない。

 

「──おい、さっさと動けボンクラども」

「うおっ!?」

 

 続けて、ダンッとズレた空間という名の足場に上から降ってきた何者かにそう言われて真冬の肩が驚愕で跳ねる。反射的に振り返った三人が見たのは、装甲車に取り付けるような大型の機関銃を両手で持っている、体のあちこちから蒸気が出ている秋山だった。

 

「……なんかちょっと焦げてね?」

「初撃を避けるのに一瞬遅れて、細波が文字通り体を張っただけだ」

「さざ……ああ、ショゴスロードか」

 

 秋山の肩の辺りから青井の手だけがにゅっと現れ、ぷるぷると震えながらピースサインを作る。

 ──ダメージは入っているが、まだ生きてるなら放っておいても問題ないか。と、丞久は口に出さずともドライに流しておいた。

 

「秋山さん、どうやって避けたんだ?」

「ナイの魔力と技術でここら一帯の空間に干渉、そして有栖川春秋の空間置換で俺と特定位置に配置したマネキンを入れ替えた」

「ナイと、親父の……?」

「連盟組織内で【人形化】の改良ばっか考えてる暇人どもにはちょうどいい仕事だろ」

【聞こえているぞ秋山クン】

「うるせえ、こっちの指示だけ聞いてろ」

 

 ワイヤレスイヤホンの向こうから聞こえてきたナイの声に、秋山はそう言ってミュートにする。

 

「……重機関銃(ブローニングM2)の強装弾仕様の徹甲弾なら小さくてもダメージにはなる。あとは丞久の殴り、人造神格の風、有栖川真冬の空間操作を適宜当てていって有効打を確認していくぞ」

 

 短く指示を出して、秋山はその手に掴んでいた重機関銃を捨てて、小声で青井に呟いて自身の代わりに【召喚(コール)】を使わせる。

 果たしてその手に改めて握ったのは、先程とは別の大型の重火器だった。

 

「さて、俺も改良型96式40mm(グレネードランチャー)の爆発が通るかの確認をするか────ん?」

 

 得物を腰だめに構える秋山が、ふと視線を感じてそちらに顔を向けると。

 

「なんだよ」

「…………い、いえ」

 

 それはアカリからの視線で、声を掛けると、彼女は丞久の後ろに隠れてしまう。

 

「お前、まだ俺が襲ってきたこと根に持ってんのか? いつの話をしてんだ」

「ついさっきですけど……!?」

「そうだったか。ま、文句なら全部終わってから受け付けてやる」

 

 

 

 そう言って視線を逸らしながらカラカラと笑う秋山を見て、移動用に空間に穴を空ける真冬が、丞久に向けてポツリと呟いた。

 

「秋山さんのああいうとこ、丞久さんに似てるな」

「いやぁ〜、嬉しくねぇ〜〜〜」




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