とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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かみさまのつくりかた 2/5

 足元に開かれた穴を落ちてものの数秒。

 赤紫のどことなく嫌悪感が漂う通路──ヴォイドが干渉できるこの世の()()を通り、イデア共々どこかの通路内に着地する。

 

「っ!? 侵に────」

「はーいお口チャックでお願いします」

 

 眼前を歩いていた研究員らしき男が叫びそうになり、咄嗟に顎を殴って無力化。

 次いで横を並んで歩いていた別の男を【禍理の手】で鷲掴みにして天井に頭から投げ上げ、床に落ちる光景を横目にイデアを引っ張り歩く。

 

「イデア、資料室って何処にあるの?」

「…………施設はだいたいが同じ構造なので、このまま歩いて曲がり角を左に行けば資料室かそれらしい部屋に辿り着けるかと

「もうちょい声張れないかなぁ」

 

 彼女の腕を掴んで小走りしながらも、問いかければイデアはうつむいたままボソボソと喋る。

 まあ確かに、普通の人間だと思いながら生きていた所に『お前人間じゃねえってよ』とか言われたら、そりゃあ普通にショックではあるか。

 

「……すみません。まだ、頭が混乱していて

「それはそう。あんないきなりぶっ込んできた丞久先輩が全面的に悪いよ」

 

 たぶん訴えたらギリギリで勝てるよ。とは言わず、イデアを連れて言われた通りに向かうと、確かに『資料室』と書かれたプレートの扉を見つけた。

 中に入ると、大量のファイルが収められた棚とサーバーが半々に置かれた大きな部屋だと分かる。

 

「さて……パソコンパソコン……最悪サーバーに直接挿せばイケるかな」

 

 などと独りごちりながら探し、机の一角に置かれていたパソコンを見つけて早速とUSBメモリを挿し…………反転させて挿す。どうして、こう、USBを挿そうとすると必ず1回表裏を間違えるのか。

 ……それはともかく、USBを接続した途端に勝手に起動してデータのコピーを始めたパソコンを尻目に、ファイルを幾つか開いて中を見る。

 

「なあ、イデア」

「……なんでしょう」

「全部終わったら、帰りに皆で何か食べようか」

「…………はい?」

 

 あまり重要そうではない中身を確認し、別のファイルを手に取りながらそんなことを問いかけると、ぼんやりしながらも出入口を見張っていたイデアがすっとんきょうな声を返してきた。

 

「キミにとって、自分までもが人造神格の1体だったという事実は辛いもので、それを無くすことは誰にも、俺にも……キミにも出来ない」

「…………」

「でもね、それ以上にいい思い出を沢山作って、辛い事実を受け入れて、嫌なものを忘れることなら出来る。俺はそれを『逃げ』とは言わないと思う」

「……与一、様」

 

 ようやく顔を上げたイデアがこちらを見てくる。少しは元気になってくれたかな、と思いつつ何冊目かのファイルを手に取って中を見ると、そこに気になる見出しで始まる書類が纏められていた。

 

 

「──『人造神格を用いた、■■■■からの力の抽出方法について』……?」

 

 

 イデアにも聞こえるように、目を通しながら要点を掻い摘んださわりを読み上げていく。

 これは、恐らく人造神格の作成などに関わった研究員の……日記のようなものだ。

 

「『2年前、新型エネルギー開発事業にある女性が参加してきた。■■■と名乗る女性は、無垢神教から2体と自身を使った1体のクローンを用意して、それらに一つずつ計画に必要な要素を加えようとした』」

「……無垢神教。確か、『神性は無垢にこそ宿る』という主義の団体だったかと」

「先輩と円花さんを見せたら全身から血を噴き出して倒れそうな団体だな……」

 

 無垢神教、いいのか? 無垢(ピュア)とは程遠いバケモ……人に神性が宿ったりしてるけど。

 

「続けるぞ。『■■■は、今まで1体のクローンに全てを付け足そうとしていた我々に、3体のクローンを渡して言った。「1体に『純粋さ』と『力』、『コントロール』を押し付けるよりも、それらを分散させて1体ずつに集中させればいい。完璧よりもまず完成だ」……そして、「無垢神教の考えは、あながち間違っていないが、合ってもいない。正しくは()()()()()()()()宿()()のだよ」……とも言っていた』」

 

 しかし、塗り潰しが目立つな。約4文字くらいの塗り潰しが……虚空とか世界の裏とかそんな感じだとしたら、3文字くらいの塗り潰しは人名か。

 それに……『異能は少女にこそ宿る』という理論。これにも、納得がある。

 

「……そうか、()()()()か」

「アイ、ドル……?」

「アイドルとは偶像で、それにはファンが付く。()()こそが現代における偶像崇拝と言うのなら、この時代になって当然のように少女に異能が宿るのも、神の力を少女に宿そうとするのも合点がいく」

 

 そう考えると、中身がアレなのに丞久先輩や円花さんに異能力があるのは、特殊性が偶像(しょうじょ)に宿りやすいから──と推察すれば、こちらやヒカリさんのような男の魔術師の少なさも理解できる。

 

「俺たちの周りに女性が多すぎるんじゃなくて、丞久先輩たち女衆の中に俺たちが混じっていることの方が逆に珍しかった、ってことか」

「……そう、なのですか?」

「たぶん? 確証はないけどね」

「はぁ。……では、続きをお読みください」

「ういうい」

 

 ちら、とパソコンの方を見れば、まだ8割しかコピーが済んでいない。続きが気になるのか催促してきたイデアに従って、出入口にも意識を割きながら、ファイルのページを捲った。

 

「えーっと、『3つのクローンにはそれぞれ別の役割を与えることとなり、1体には善も悪もない無垢な心を、1体には■■■■に干渉し、向こう側に存在する膨大な魔力を取り出し扱う力を。そして1体に、我々に従順であり、力を扱うことに対する確固たる理念を植え付けた。我々は彼女らの役割を元に、Void、Idea、Pureの頭文字を繋げて【新型エネルギー開発事業V.I.P】を名乗る事になった』……だとさ」

「…………そうですか」

()()()()()()、って思った?」

「……ええ。ほんの、少し」

 

 しょんぼりとするイデアは、そう言って小さく息を吐く。もしかしたら、ここでのIdea(イデア)とは、自分とは違う人のことかもしれないと。そう期待してしまったのも、また事実なのだろう。

 

 けれども、こうして言葉を聞けば聞くほど、彼女は恐らく()()が自分の事だと確信してしまっている。神を作ろうとして、こんなにも人間臭い存在を作ったことは、V.I.Pからしたら失敗ではないのか? そう考えながら最後のページを捲った──の、だが。

 

「…………うーん?」

「どうかされましたか?」

「いや、なんか最後の方だけ全面黒塗りで、()()()()()()()()()()んだよ」

「……まあ、本当ですね」

 

 ファイルの中身のあちこちが黒塗りにされていたことはわかるが、最後の方だけ全て塗り潰されてるというのは異質だ。まるで────

 

「──俺たちのような侵入者に読まれることを警戒していた、とかか」

「その可能性は、あります。……ところで、コピーの方は終わったのですか?」

 

 こくりと頷きつつ問いかけてきたイデアの言葉に、パソコンに向き直る。

 

「ん? ああ、タイミングいいね」

 

 ちょうど100%になってデータのコピーと送信も終わったのか、パソコンはまたもや勝手に電源が落ちた。USBメモリも引っこ抜いてバッグに仕舞い、ここに居る理由も無くなったために出入口に向かう。

 あとはトップの……なんて呼ぶべきなんだ、社長? 会長? まあ社長でいいか。社長をとっ捕まえて連盟組織に押し付けて終わりだ。

 

 外の戦いも、アカリちゃんと真冬に戦闘経験が少なくとも、丞久先輩と秋山さんが居て負けることは万が一にもないだろう。

 

 

 

 

 

 ────などと、慢心していたのは事実だった。油断していたつもりは無く、しかして楽勝ムードめいた気配が漂っていた事を否定できない。

 

 塗り潰されたページ。それが侵入者に見られることを警戒してのことだったならば、こうも思える筈だったのだ。すなわち、()()()()()()()()()()()ことを警戒していたのだろう……と。

 

「──与一様」

「なに?」

 

 ふいに後ろから声をかけられ、振り返ると、イデアがおずおずと口を開く。

 

「これから、V.I.P(この施設)が解体されるとして。人造神格(わたくしたち)は、どこへ行けばよいのでしょう」

「あー……まあ、そうだな。アカリちゃんは先輩が保護するだろうし、ヴォイドも真冬に宿ったわけだから……そりゃあ、キミもうちに来ればいいんじゃない? 少なくとも暇はしないよ」

「…………」

 

 そんな風に返すと、イデアは何故か、ポカンとしてから呆れたように苦笑した。

 

「あなたは、なんと言いますか……警戒心が薄いのですね。少なくとも、わたくしはあなた方に警戒されるべき相手なのですけれど」

「だとしたら、それは、俺がキミみたいなのに特別甘い奴だったってだけの話だよ」

「……そういうものですか」

「ほら、さっさとやることを終わらせよう。話を煮詰めるのは終わってからでいいでしょ」

 

 先導してガチャリと出入口の扉を開けて、通路の左右に人の気配が無いことを確かめる。

 それから振り返り、考え込むようなそぶりを見せたイデアの顔を見ると、彼女は柔らかい笑みを浮かべながらこちらの言葉に更に返した。

 

「……ふ、ふふ。これからの事を考えるのは、存外、楽しいのですね」

 

 初対面時の堅物さから一転し、少しずつとはいえ、表情が柔らかくなってきている事になんともいえない嬉しさを感じる。

 果たしてこの子の()()()()を支えてあげられる、『よき大人』になれているのだろうか──と。そんなことを考えていたのと、彼女の腹の辺りでチリッと魔力がスパークしたのは全く同時で。

 

 

 

「……え?」

「なん────」

 

 刹那、凄まじい衝撃と熱。それらが全身に叩きつけられ、開けられた扉を超え、通路を挟んだ向かいの閉じられた扉をも吹き飛ばし、床をバウンドして背中から壁に衝突してブツリと意識が途切れる。

 

 意識を失う直前に理解できたのは、イデアの腹部を中心に爆発が発生し、それに巻き込まれた……ということだけであった。




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