とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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かみさまのつくりかた 3/5

 ──建物をも巻き込む勢いで巨体が揺れる。黒い魔力を身に纏う『暴力』が、凄まじい速度で飛び込み、その体に蹴りを叩き込んだからだ。

 

「どっっっせいオラァ!!」

 

 空気を破裂させる威力がムカデを吹き飛ばし、ビルに長い体の上半分が垂れ下がる。

 反作用で反対のビルの外壁に跳んで、硬質化した魔力を杭代わりにしてぶら下がる丞久は、黄色いレインコートを纏う少女──アカリが接近し、薄く伸ばし高速で回転させた風をぶつける光景を見た。

 

「……ふッ!」

 

 腕を振り抜く動きに合わせて放たれた風の刃は、しかして硬い装甲のような体にほんの僅かな切り傷を付けただけで終わった。

 大したダメージにはなっておらず、それどころか、ムカデはアカリに顔を向けて口を開く。

 そして口許に収束する光が1本の線となり、果たして線と呼ぶことすら間違いではないのかと言わんばかりの太さとなったレーザーが放たれる。

 

「しまっ──」

 

 レーザーがアカリに直撃する──寸前、彼女の眼前に体より一回り大きい透明な円形が現れ、レーザーは()()と衝突して斜め上に逸れていく。

 

「気ぃつけろよ」

「す、すみません」

 

 風を纏い宙に浮かぶアカリの隣に、水平に空間を固定した足場を作った真冬がそう言いながら着地する。そんなとき、何度目かの攻撃の前に秋山から渡されていたインカム越しに当人の声が届いた。

 

【離れろ】

「っ──アカリ!」

「はいっ」

 

 真冬の腕を掴んで彼女ごと暴風を纏ったアカリに運ばれてその場から離脱すると、一拍置いて曲射により上から弧を描いて降ってきた弾薬がムカデの体のあちこちに着弾。ボンッボンッボンッ! と爆発し、大きな火炎から逃れるようにして、ムカデはギチギチと鳴きながら巨体をよじって動き回る。

 倒壊したマンションの瓦礫などを浴びて炎も消え、ムカデは高層ビルに螺旋のように巻き付いて周囲を見下ろすと、再度口に光を溜めた。

 

「──d7からf6へ」

「ん? ……うおっ!?」

「丞久、防御急げ!」

 

 それを見た秋山は即座に丞久が居る建物に飛び、そう言ってから離れた位置の真冬とアカリにも同じように指示を飛ばす。

 

「有栖川真冬! 防御を固めろ!」

【あ? ……クソッまじかよ!?】

 

 向こうも、ムカデのやろうとしていることに気づいたのだろう。荒い声が聞こえ、それから数瞬後に、敢えて束ねず無数に拡散したレーザーが、【人払い】で民間人が居なくなった街を蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

「……さぁすがに、今のはビビった」

「あつっ……熱までは防げねぇか」

 

 レーザーから身を守るようにと秋山ごと自分の体を硬質化した黒い魔力で包み込んだ丞久が、汗を拭いながら言う。秋山もまた熱さに顔をしかめ、体の随所に傷を作りながらも健在なムカデを見た。

 

「火力が足りねえ。ガンシップでも要請して、40mmか105mmでも撃ち込めたらな……」

「つーか、ここまでボロボロにされても巻き戻せんのかぁ? 数年前にチクタクマン相手で円花がやらかした時でも、こんなに酷くなかったぞ」

「人死にが出てない限りは問題ないだろ。タイムリミットは……あと1時間20分くらいだ」

 

 懐の携帯で時間を確認していた秋山と丞久は、ふと傍らに着地してきた二人に視線を向ける。

 

「し、死ぬかと思った……!」

「秋山さん、次の策は!?」

 

 心臓がバクバクと鼓動しているであろう荒い呼吸をするアカリの横で、彼女の風に連れられて飛んできた真冬がそう言って声を掛ける。逡巡の後に、秋山は気だるげにため息を交えながら口を開いた。

 

「俺の50口径はほぼ効かない、グレネードも……あれは熱が嫌なだけだな。人造神格の風は論外、有効打は丞久の馬鹿みてえな怪力だけか」

「……あ、あのぉ」

「ん?」

「ひぃ」

 

 そこでふと、おずおずと控えめに挙手するアカリが、秋山の視線に怯えながらも呟く。

 

「……ヴォイドの力で、あのムカデを切断するのは、無理……なんでしょうか」

「ああ、ちょうど聞こうとしてたところだ。どうだ有栖川真冬、出来るのか?」

「え、無理。少なくとも今は無理」

 

 バッサリと否定した真冬は、少しの間を置いて更に言葉を続ける。

 

「とっくに何回か試したけど、単純にデカすぎて干渉できない。アレの体を真っ二つにしようと思って空間のズレに巻き込んだけど、歯車がつっかえて回らない……みたいな感覚になって(ズラ)せないのよ」

「ほーん。じゃあ先に半分に千切れば?」

 

 小首を傾げながら説明をしていた真冬に、おもむろに意識を向けてきた丞久があっけらかんと言う。

 

「……??? なんて???」

「だからぁ、デカすぎて切断できないなら、別の手段で切断してから干渉すれば?」

「別の……手段?」

「私が物理的に引き千切るか、秋山が使える一番強い火力の銃をぶち当てる」

「それが通るなら、あたしの力が通らない理由がわからないんだけど」

「真冬の力が反発されんのは、ただデカいからってよりは、同じ虚空の力……魔力? 同士でぶつかるからだろ。あの巨体を動かす身体能力強化と、光に変換してレーザーにする力が、真冬の虚空の力で空間をズらす能力とぶつかって出力負けしてんだろうな」

「……すげぇ……理知的に喋ってる」

「驚くところはそこか?」

 

 呆れた表情の丞久にジトッとした目を返される真冬だが、彼女は丞久の横で見えないように真冬の言葉に同意するように頷いていたのを一瞥する。

 

「…………」

「とりあえず私が物理的に引き千切る案と秋山が撃って両断する案を同時に進めるぞ、とにかくどっちかがあのムカデのサイズを縮めるから、真冬はあいつを輪切りにするタイミングを見逃すなよ」

「……え? ああ、わかった」

「あの、わたしはどうすれば?」

「アカリは真冬のサポートを頼む」

 

 短く纏めて、丞久は全身を纏う黒い魔力を更に膨れ上がらせる。

 パキパキと硬質化する魔力が折れ、曲がり、彼女の体を包んで形成されていくと、それはまるで──動物の骨を着込んでいるかのような形状へと変化した。

 

「もしかして、あたしも【虚空神話(ヴォイド)】を使い続けると()()なんの……?」

「【さァな。結構個人差あるから知らん】」

 

 二重に聞こえる妙な声で返す丞久は、黒い骨のような装甲を纏い、頭にもキグルミのように動物の頭蓋骨めいた物体を被っていた。

 ヘルメットのバイザーを下ろすような動作で頭蓋骨を下げて顔を隠すと、丞久は軽く柔軟してからムカデの方に体を向ける。

 

「【さーてさてェ、ラストスパートだ。気張れよお前ら……特に秋山】」

「俺かよ。まあ、こっちもこっちで射撃準備に入らさせてもらうとするか」

「んじゃ、あたしらも場所変えるか。ずっと同じとこに居ると纏めてレーザー食らうし」

「ですね……」

 

 それぞれが行動をしようと各々の方向に視線を逸らした──直後、真冬とアカリの中にある()()()が強く反応し、同時にある一点を見た。

 

 

 

「……っ!!」

「まさか……?」

「【あん? どうした?】」

「──アカリ、感じた?」

「は、はい、今のは……」

 

 二人が抱く疑念。けれども互いに、()()()感じたことで、その疑念は確信へと変わっていた。

 

「【おい、どうしたよ】」

「丞久さん、秋山さん、()()()()()()()

「【はぁ?】」

「本気で言ってんのか?」

「……間違い、ありません。わたしと真冬さんが、同時に……命の終わりを感じ取ったので」

 

 おどおどしながらも断言したアカリの態度は、質の悪い嘘ではない。

 そしてその事実に、丞久と秋山が本心から困惑していることに、二人もまた困惑した。

 

「【いやいやいや、与一(あいつ)が居るのに死んだってなんの冗談だよ……?】」

「……あの女が想定より弱かったとかか?」

「【んなわけねぇだろ、私の顔面にチェーンソー叩きつけて左目吹っ飛ばした奴だぞ】」

「だよなあ。ってことは────」

 

 丞久と秋山は淡々と会話を投げ合って、それからあっさりとイデアの死因を言い当てる。

 

「【──与一やイデア本人のミスじゃない、なんらかの外的要因によるモノだな】」

「腹に爆弾仕込む、とかだな。クローンとはいえ平気で人間を使う組織だ、それくらいはやる」

 

 決して与一にミスはない、という前提で話すのは、弟子に対する甘やかしなのか。そのことに苦笑していた真冬だが、視界の端に映った光に目を向けた。

 

「……やべっ、来るぞ!!」

「【おっと、話しすぎたな】」

 

 カッと光り、迫りくるレーザー。真冬は全員を覆う円形の空間に他の三人と自身を守らせ、強烈な威力を受け止めていた──の、だが。

 

「う、ぉ、おぉ?」

「【真冬?】」

「……あれ、からだ、が……」

「【アカリ? おい、どうした?】」

 

 ふと、真冬とアカリの体から蒸気のように魔力が噴き出し、二人して膝を突く。

 レーザーを受け止めていた空間のズレが押し負けて、しかして割られる前に照射が止まる。

 

「……あたしの中の、ヴォイドが、消えかけてる……アカリに至っては……体そのものが、だ」

「…………もしか、して、イデアが……死んだ……から……?」

 

 アカリの推察は、事実として正解だった。『器』と『力』と『理念』は一つを三つに分散させているモノで、つまりは繋がっている。

 真冬の中に宿ったヴォイドという魔力とアカリの体が少しずつ崩壊していく光景を見て、丞久と秋山の二人は短く思案し、ほんの一瞬でも与一の方に援護に行くべきかという思考をかなぐり捨てた。

 

「【──あのムカデをぶっ殺すぞ】」

「……ま、それしかねぇよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし万が一、人造神格に不備などが起きる、或いは反発され計画の続行が不可能になった場合、人造神格の計画に使った3体は処分しなければならない。なぜなら、この計画では一度の実験につき一度しか顕現が出来ないからだ。そのため、組織の駒として運用する理念担当──識別名称イデアの体内には、高密度圧縮魔力爆弾を仕込んでおく。誰かに連れ出される、自分の意志で脱走するなどで敵側に寝返った場合でも、爆弾の起爆は確実に行うこととする』

『処分の際は全員を一度に始末する必要は無い。仮にイデアの体内の爆弾を起爆するなどで処分した場合、器と力も連動してその体が消滅するためである。元は一つだったモノを三つに分散させたからか、何度やっても同じ結末になるため、器と力と理念には、我々の目には見えない繋がりがあるとされている』

 

 ──塗り潰される前の資料より、一部抜粋。




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