とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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シラユリ様 4/5

「…………う゛っ、心因性のモノとは違う理由の頭痛がする……」

「昨日も聞きましたよそれ」

「寝る前に水飲めばよかった……」

 

【強化】の応用で痛覚を鈍らせて二日酔いの痛みから逃れつつ、マヨイ村を歩く傍ら。

 シラユリ様の呆れが混じった顔を横目に、根本の原因がそっちにあることは口に出さないでおく。

 

「それで、今日は招かれざる客の排除をするつもりでしたが……なにもあなた方まで手伝おうとしなくてもよろしいのに」

「まあ、一宿一飯の恩──はアルハラで帳消しだからプラスマイナスゼロですしね。とはいえどうせ帰るなら、一仕事終わらせてからでもいいでしょう」

 

 この空間が特殊なのか、まだ肌寒い春先の季節にも関わらず、村の外はほんのり暖かい。

 迷い人を受け入れる、居心地の良い村。そんなところに、あの連中は──正に招かれざる客だ。

 

「手伝いを申し出てくれるのであれば、断る理由はありません……けど、うぅん?」

「? なんですか、シラユリ様」

「なんと言いますか、随分と丸くなりましたね。昨日くらいの方が好みでした」

「自分で言うのもなんですけど、こっちが()ですよ。昨日までの俺は少し荒んでただけです」

 

 どうやら昨日の今日で口調が変わ(もど)ったことに違和感があるらしい。

 好ましいとは言うが、むしろ目上への敬意が足りていなかった昨日の自分を叱りたいくらいだ。

 

「まあ、それはともかく。敵は山に潜伏しているわけで……だいたいの場所さえ分かれば、すっ飛んでいって急襲して終わりなんですが」

「この村を見通せて隠れるのにも向いている場所は──北側の森と南西側の森ですね。昨日までの気配なら十五人は居ましたが……今は半分くらいです。村人には隠れるように言ってありますのでご安心を」

 

 つい、と指を差されて、二箇所を見やる。村の中央であるこの広場から見ても、確かにその二箇所なら見通しが良さそうだった。

 人数が減ったのは、昨日の脅しが効いたからか? それでも半数は残っている辺りは愚かだな。

 

「それじゃあ、俺とソフィアで北と南西を同時に襲いますかね。九十九はシラユリ様の護衛で」

「私が片方を担当したほうがよいのでは?」

「村に伏兵が居ないとも限りません、ここで待機しててください。……悪く言えば囮です」

【……で、私を弾除けにしようって?】

「キミは除けるどころか斬れるだろ」

【まあねぇ】

 

 腰の妖刀(ほんたい)の柄頭を撫でる九十九は、白髪を風に揺らしてニヤリと笑う。妖刀はこちらで持っておきたかったけど、刀と距離が離れすぎると九十九が姿を保てない為にこうするしかないのだ。

 とはいえ、刀一本とトレードで遠くに戦力を分散させられるのはかなり有用だろう。

 逆に言えば、近くでなら刀の扱いに長けた巫女(つくも)に手を貸してもらえるのだから、何事も使いようとタイミングと言える。

 

「さて、ソフィア〜」

『…………はい』

「そうしょげるなよ。怒ってないから」

『……本当に?』

「いい指針にはなったからね。キミには多く呑ませちゃいけないし、あと結月には一滴も呑ませない方が良いとだけは確信できた」

 

 肩にうつ伏せで項垂れるように乗っていたソフィアが、ふわりと【浮遊】で浮かぶ。

 昨日危うくソフィアに急性アルコール中毒で殺されかけたことはさておき、手元に野球ボールサイズの金属塊──シンプルな鉄球を【召喚(コール)】する。

 

「はい、鉄球。3つで足りるでしょ」

『ん。……一応聞いておくけれど、殺しはナシで、生け捕りでいいのよね?』

「────。いや、強制はしない。よほど暴れられるとかで危険だと判断したなら、殺して良いよ。……今後はその辺に拘るのはやめた方がいい」

『……そう。わかった』

 

 こちらで【召喚(コール)】した鉄球3つを【浮遊】の制御下に置いて傍らに浮かせるソフィアが、仕方ないとばかりに肯定する。

 

「まあ、なるべく不殺で、ってのは優先したいけどね。……よし、準備完了」

【準備完了、って。結局どうやって山に潜伏している連中を見つけるのよ】

「敵も魔術師あるいはそれに類する人間なら、()()()()は絶対に無視できない」

【…………。あぁ、なるほどね】

 

 何かを察した九十九を余所に、ここで抑えていた魔力の蓋を外す。兎に角薄く、遠くまで拡散するように自身の禍々しく変異した魔力を圧縮しながら、並行して【門】を開く準備を終わらせる。

 敵の居場所の把握なんてのは、簡単な方法で終わらせられる。なんてことはない──

 

「俺の魔力に過剰反応したポイントに居るのは野生動物か敵だ、そこに襲い掛かればいい。北と南西の二箇所を同時に……目標は1分だな」

『えぇ、タイムアタックするなら私より結月のほうが向いてるのに……』

「あまり時間は掛けたくないからね。こっちが早く終わったら合流も兼ねて加勢するよ」

 

 そう言いつつ呼吸を整えて、今にも爆発しそうな抑え込んだ魔力を────解放。

 元々の魔力、雅灯さんの呪物(ゆび)、白百合の複製(イデア)の魔力、蛇神様とナイからの加護。それらが混ざり合った魔力は、視覚化されるほどに濃くドス黒い『波』となって村から森までを一瞬だけ覆い尽くす。

 

「──行くぞ」

 

 解放と同時にこちらの足元とソフィアのすぐ横に【門】を開き、同時に飛び込む。果たして早速と、眼前で狙撃銃を構えていた黒ずくめの人物を見つけ、その顔面に拳を叩き込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──二人が入っていった【門】が閉じられ、村の外には九十九とシラユリだけが残る。

 

【やること無くて暇ね。いきなり敵の大将が上から降ってこないかしら】

「怖いことを言わないでください」

 

 まったく、と呟きながら、物騒なぼやきを流すシラユリは手元で糸を弄る。退屈そうな九十九は、それを見て眉を顰めながら問いかけた。

 

【……魔力の糸?】

「ええ。硬質化させた魔力を、糸状に細めて伸ばしています。これが私の武器ですね」

【ふぅん。シンプル、ゆえに厄介ってやつね。魔力の糸──どちらかといえばワイヤーかしら】

 

 糸のように細く、金属のように強靭。

 ワイヤーと呼ぶべきそれが、シラユリの手と手の間を繋ぐように伸びている。

 

「…………。桐山、与一様」

 

 あやとりのように弄っている片手間で、シラユリがぽつりと与一の名を呼ぶ。

 

【ん?】

「彼は……難儀な人生を歩んでおりますね」

【そうねえ。私も出会ったばかりだからそう多くは知らないけど、()()()()()みたい】

「過去に、色々あった。──そして、きっとこれから先の未来でも。あの方は、そういう星の下に生まれてしまったのでしょうね」

 

 憐憫、同情、慈愛。そういった感情が混ざった視線が、山の方へと向けられる。

 ──()()()ねぇ。と脳裏で独りごちた九十九は、不意に向けられた視線に、刀の鯉口を切りながらゆったりとした動作で振り返った。

 

【……ん〜?】

「? どうされました」

【昨日も感じた一際強い()()()()が向けられた気がしたのよ。与一の言う通りにして正解だったかも。──納屋ごと斬られたくなかったら出てきなさい】

 

 鞘を握る手の親指で鍔を押して、空いた手ですらりと音も無く刀を抜きながら言う。

 納屋の方に九十九がいつも通りの眠たげな目を向けるが、けれどもそこから現れたのは、着物を身に纏うごく普通の女性だった。

 

「……す、すみません、驚かすつもりは」

【紛らわしいわね。変に疑われたくないなら、言う通りに家に引っ込んでてくれる?】

「はい、わ、わかりまし────」

 

 幸薄げな黒髪の女性は、九十九の刺々しい言い方に萎縮するようにそう言って踵を返そうとした。しかしその動きを止めるようにして、彼女の体に何本もの魔力糸(ワイヤー)が絡まり、先端が地面に突き刺さる。

 

「なっ……なにを!?」

「──白々しいんですよ」

【……え、これ敵なの?】

 

 さしもの九十九ですら『ただの村人か』と見逃しそうになったにも関わらず、シラユリはこれまでの雰囲気から一変して、怒りを露にしていた。

 

「私はこの村の村長兼守護者として、村に誰が住んでいるか……顔から名前まで全てを把握しています。だから断言できるんです、()()()()()

「────」

 

 キリキリとワイヤーの締め付けが狭まり、着物にぷつりと切れ込みが入る。

 もう誤魔化せないと判断した女性は、無表情で二人──の後ろに開いた【門】から出てきた人物を見ながらポツリと呟いた。

 

「やはりバレるか」

「おーいただいまー、一分切り達成し…………二人ともなにやってんの?」

 

【禍理の手】をロープ代わりにして一人一人を鷲掴みにして引き摺っている与一が、パッと見では村人に見える女性を拘束しているシラユリとそれを止めていない九十九を見ることになる。

 

【敵よ!】

「──なるほど」

 

 けれども、与一にはそう言われれば即座に対応できるだけの経験と判断力があった。

 片側がひしゃげている三節棍を振りかぶり、その先端を拘束されている女性の頭に速攻で叩きつけようとした──が、刹那、その場の全員に怖気が走る。

 

「……! ソフィア!」

『え?』

 

 与一は攻撃を中断し、九十九とシラユリを覆うように【禍理の手】を無数に枝分かれさせて同時に操作。後ろ手にソフィアを引き寄せ屈んだその時、全員の耳に届いたのは、バツンというワイヤーが千切れた音と──後方から届く肉に何かが突き刺さる音。

 

 そして、顔を上げた全員が捉えたのは、拘束を外し、背中からボコリと溢れ出た金属質の触手を上から後ろへと飛ばしていた女性の姿だった。

 

 触手がカララララと音を立てて女性の近くに戻ると、その先端には、与一たちが捕まえた黒ずくめの男女八人が串刺しにされており、全員が死んでいることは確認しなくても分かることだろう。

 

「……人が生け捕りにした奴らを、なんで、わざわざ、殺すのかなぁ……!?」

「────。証拠隠滅?」

 

 ソフィアを腕に抱きながら額に青筋を立てる与一がそう問いかけると、女性は真顔のまま小首を傾げて言う。その後ろでゆらゆらと揺れる幾つもの金属の触手──ムカデのような平べったいそれを見て、嫌なことを思い出した与一は露骨に嫌そうに眉を顰めながら新品の三節棍を【召喚(コール)】する。

 

『与一……あいつ、ヤバい……!』

「見ればわかる。九十九、隙を見て俺に妖刀(ほんたい)寄越して自分は分身の刀で戦って。あと基本的にはシラユリ様のカバー頼む。シラユリ様は戦えるなら援護を、出来ないなら後ろに」

 

 手短に指示を終わらせた与一は、眼前の女性を見据えたままジリジリと近づいていく。

 

「……ん?」

 

 ぶんっと触手を振って死体を地面に捨てた女性は、おもむろに頭を振ると、一瞬パリッと体をスパークさせ、その見た目を変化させていった。

 黒髪は鈍い銀色になり、服装も着物からシンプルなワイシャツとコートとジーンズに。

 

 

 

 そして、右腕が()()()()()()()()()()()、ガトリング砲の銃身に変形する。

 

「え」

「えっ」

『ん?』

【は?】

 

 与一、シラユリ、ソフィア、九十九は当然の結果として同時に疑問符を浮かべる。

 その一瞬の隙に銃身を回転させる女性を前に、一番最初に我に返ったのは、与一だった。

 

「いやっ、ちょちょちょちょっ、それは……それは、駄目だろ……!!?」

 

 

 

 

 

 ──その言葉をかき消すような轟音が、女性の右腕から奏でられた。




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