とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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シラユリ様 5/5

 ガガガガガガガガ!!! というとてつもない轟音と共に、凄まじい勢いで数百もの弾丸が【禍理の手】に叩きつけられていく。

 

「おごごごごご!?」

「これは……これは、これは!?!?」

「うごぉお……落ち着いてシラユリ様! これは流石の俺たちも全員想定外だから!」

 

 咄嗟に九十九と纏めて抱き寄せたシラユリ様が、腕の中でひたすらに困惑している。こっちも困惑してるから安心してほしい。

 

『あいつ、なんなの!? サイボーグ!?』

【……普通の人間、だったはずよ。少なくとも触手が生えた辺りまでは人間だった】

「──それで、これどうする? 【禍理の手】を随時追加して束ねていけば耐えられるけど、攻めようとしたらバラバラにされるぞ」

 

 ガトリング砲、いわゆるミニガン。

 

 秋山さんが射撃訓練室で笑いながら撃ってるのを見たことがあるけど、発射速度が早すぎるのと銃弾の威力が高すぎて、痛みを感じる前に死ぬことから無痛ガンとも呼ばれているとかなんとか。

 

 ──あれがあの女の体内から生えたとして、何を原動力にして何を撃ってるんだ……? 

 魔力を電動力代わりにしてるとして、まさか体内に銃弾を収納しているとは思えない。

 そもそもアレは……いや、まさか……見た目も変わったのを見るに、ショゴスなのか? 

 

『……与一、あなたの後ろに隠れて人間大になっていきなり飛び出せば、向こうは反射的に私を狙って銃身を動かすんじゃない?』

「それだとソフィアがバラバラになるぞ!」

『大丈夫よ、生き人形は不死身……でしょ?』

「ミニガンでバラバラにされたことはないだろ!? 他の案考えるから待て!」

 

 背中にしがみつくソフィアが、不意にそう言って提案してくる。それは駄目だろうと否定するも、彼女は更に言葉を続けて説得してきた。

 

『……春秋さんが言ってたでしょ、未来の私はあの手この手で自殺しようとしてたって。つまり生き人形(わたしたち)はバラバラになる程度じゃ死なないのよ』

「────。くそっ、くそっ! 頼めるか!?」

 

 別案、なし。代替案、なし。他に良い案がないのなら、思いついたモノで突っ込むしかない。

 ──また、大事な相手に死んでこいと命令するのか。ほなみ以来二度目だな。

 

「九十九、シラユリ様、今からソフィアが囮になる。相手が横に飛び出たソフィアを狙ってくれれば、初手であの銃身を破壊できる。その後は兎に角、最短最速で急所を狙え、アレは()()()()()

 

 ゆえにこそ、確実に。この危険人物は、ここで逃したら不味いことになると確信しているからこそ、絶対に仕留めなければならない。

 

『行くわよ、1、2の……!』

 

 果たしてサイズを変えて等身大に変化したソフィアが、バッと横に飛び出す。

 

「────! …………、……?」

 

 まず視線で姿を捉え、それから銃身をソフィアに向けようとして──ほんの一瞬。

 ほんの一瞬だけ、女はソフィアを見て動きを止めた。その顔は無表情ながらに、僅かに『困惑』と『驚愕』に歪んでいた。

 それこそ『なんでお前がここに?』とでも言いたげな眼差しだったが、女は即座に弾丸を吐き出し続ける銃身をソフィアに向けて────今!! 

 

『づっ…………がっ!?』

「ふんッ──!」

【──シイッ!】

 

 自前で【障壁】を張っていたのか、最初の十数発を耐えるも、それすら割られて全身に穴を空けられたソフィアが手足を千切り飛ばしながら倒れる。

 それを横目に九十九と同時に飛び出し、【禍理の手】を1本隠すように地面に刺しつつ、三節棍を大きく振りかぶって叩きつけた。

 

 ガゴォ!! と鈍い音を立てて、三節棍と一緒に銃身の先端がひしゃげたガトリング砲が撃てなくなり、鋭く前に踏み込んだ九十九の一閃が首を捉える。

 

 スパッと首の半ばが裂けてぐらりと頭が傾いて──()()()()()()()()()女は、右腕のひしゃげた銃身を横目に背中から伸びた金属の触手を振り回した。

 

「嘘だろっ……右っ、右上、左上っ!?」

【はぁ、全く──】

 

 側面が刃のように鋭く研がれた触手を三節棍で弾き、3つ目を弾いた辺りで、こちらに殺到する触手たちの中間付近を、横合いから上段から刀を振り抜いた九十九が纏めて両断してみせる。

 

【──世話が焼ける】

「……悪かったな」

 

 そこから更にポイッと投げ渡された刀──九十九の本体である妖刀を受け取り、彼女は魔力で形成した全く同性能の分身を握る。

 

「んー、んっ」

【ん】

 

 続けてそれとなく、刀を握っていない方で後ろ手に背中と踵の辺りを指差して指示してから駆け出す。

 女は半ばなら両断された触手を再生成させると、6つの触手が縦に裂けて12本に増え、こちらと九十九に半数ずつ殺到させていた。

 

【右、右、左上、右下からの……右上──与一、一纏めにしなさいっ】

「言われ、なくっ……ても!」

 

 真正面から刀を構え、九十九と並んで迫りくる触手を打ち払いつつ、全ての触手が一箇所に来るように調節。いまだ地面に突き刺したままの【禍理の手】から枝分かれさせた『手』を伸ばし、それらをがしりと全力で鷲掴みにすると、背中から切り離して離脱しようとした女に接近した九十九が再度一閃。

 

【背骨、からの腱】

「────!」

【すぐに動くのと、再生してから動くのとじゃあ、数秒の差でしょう?】

 

 金属触手を背中から切り離した女の背骨を断ち、返す刀で足の腱をスパッと斬った九十九が、そう言ってタンっとその場を離脱する。

 その直後、カクンと立てなくなった女がうつ伏せに倒れ、一拍置いて地面からズゴゴゴと何かが迫り────楽しそうな声と共に【禍理の手】が土手っ腹をぶん殴って、その体を上空に撥ね飛ばした。

 

【ま・し・た・が、ガラ空きぃ〜〜〜!!】

 

 特に必要がないアッパーカットを繰り出したポーズで【禍理の手】と一緒に飛び出してきた悪霊(みやびさん)は放っておき、空中に体が投げ出された女は、ひゅるりと全身に絡まった極細のワイヤーに絡め取られる。

 ぷつっ、と全身に切れ込みが入り、そのまま女は空中でバラバラの輪切りにされた。

 

「…………シラユリ様?」

「美味しいところを取ってしまいましたか? ……すみません、あなたにそう安々と()()をさせるべきではないと、思ったものですから」

 

 ワイヤー……硬質化した魔力を操った張本人、シラユリ様。彼女は申し訳無さそうに、けれども微笑を浮かべて言う。ばたばたばたっと肉の塊が落ちてくる音に嫌悪感が浮かび──ふと、違和感。

 

「……ん? なんか、変だぞ」

【どうしました?】

 

 こちらの言葉に、【禍理の手】を消して傍らまで戻ってきた雅灯さんが首をかしげる。そして死体を見て、九十九がポツリと呟いた。

 

【…………ちょっと待って、なんでこの死体、血が一滴も出てないの】

「まだ終わってない! 全員警戒を──」

 

 シラユリ様の前に立ち、刀を構えてそう言った刹那、バラバラ死体の中に落ちている女の顔パーツが動く。口が開いたかと思えば、喉が繋がっていないにも関わらず、全員が言葉を耳にした。

 

 

 

「【正義は我にあり(アンチ・スプラヴィドリーヴァスチ)】。────を禁ずる」

 

 

 

 ……何語だ? という疑問が脳裏に掠めるも、とにかく当然のように元の形に戻ろうとしている再結合を始めた肉塊を潰そうとした、の、だが。

 

「トドメを…………、……!?」

【な、に……これ】

「体が……()()()()……!?」

 

 こちらの体が、そして視界の端で刀を構えた九十九が、後ろでワイヤーを飛ばそうとしたシラユリ様が。その動きを、不自然なくらいに止める。

 攻撃を、しようとしているのだ。なのに、体がその先へ……つまり武器を振るおうとした動きを、思考に反してピタリと止めてしまっていた。

 

『体』が『頭』の言うことを聞かない妙な感覚を余所に、女の肉体の再生が終わり、無表情の中に若干の苛立ちを見せる顔を向けてくると、彼女は右腕に左手を添えて手のひらをこちらに差し出す。

 

 その右手のひらの中心に円形の穴が空き、カメラを起動したようにカシャンと開かれると、キュイィ──ンと音を立てて光が集まっていく。

 

「っ……ヤバ」

 

 手の周囲の空気が揺らぎ、その原因が手のひらに集まる光──高熱にあると察することはできても、その場の誰もが動けない。

 早く、この女を仕留めなければならないのに、体の自由が利かない。何をされた? 何を条件としたなんの能力を食らった? 

 

 果たして、集まった光が熱線となって、こちらとシラユリ様目掛けて発射される。

 

 せめて後ろのシラユリ様だけでも守れないかと、迫りくる熱に肌が焼かれる感覚を味わい、そして熱線は……独りでに現れ束ねられた【禍理の手】の盾に防がれて四方八方に拡散して消えていった。

 

【与一くん! ……づぁぢぢぢぢぢぢぢ!!?】

「み、雅灯さん!?」

【あつっづあっつあつあっっっづづづ!!!】

 

 

 

「────」

 

 十数秒と続いた熱線の放射。しかして、【禍理の手】の大半を溶かしながら耐えきった雅灯さん。女はその光景を見て、小さくため息をつくと。

 

「次は無い」

 

 そう言って、背中にジェット機のエンジンのようなパーツを生やし、真上にボンッ!! と飛び上がり、音の壁を突き破りながら空の彼方へと消えた。

 彼女が居なくなったからか、『なんらかの魔術・能力』によって動けなくされていた体の自由が利くようになり、攻撃の直前で止まっていた動きが再開されたことでつんのめりつつ刀が空を斬る。

 

【はぁ──っ、はぁ──っ……め、めちゃくちゃ熱かった……!】

「うおっ、ととと。……何だったんだ……というか、なんで雅灯さんは動けたんですか?」

 

 五感を切ればよかったのに、とは思いながらも雅灯さんに問いかけると、首を傾げられる。

 

【え、さあ? 私も一緒に【禍理の手】で殴りかかろうとしたときは動けませんでしたよ。攻撃範囲内だろうお二人を守らないと──と思ったら動けるようになったので、なんとかなりましたけど】

「…………。なるほど、()()()()能力か」

 

 仮定、しかしほぼ確信に近い考察は脳裏に留めておき、頭を振って気を取り直す。

 

「九十九、妖刀(ほんたい)に戻ってくれ」

【はいはい】

 

 九十九の腰に挿してあった鞘に刀を戻し、彼女にも引っ込んでもらいつつ、ガトリング砲の弾丸に引き裂かれたソフィアの元に向かう。

 

「……こんど、甘いもの食べに行こうな」

 

 体の一部に触れて外からサイズの可変を弄り大きさを人形大に戻し、バラバラのパーツ全てを拾い上げて、【召喚(コール)】で複製したタオルに包む。

 本音を言えば修復が済むまで残りたいけど、あの女のことを丞久先輩たちに共有しないといけない。少しばかり名残惜しいが、この村を出なくては。

 

「シラユリ様、すみません」

「──わかっています。彼女のことを、追わないといけないのでしょう?」

「んー、なんか違うけどまあ、合ってますね」

「…………。変なことを、言いますが」

 

 シラユリ様はこちらの意図を察したのか、お別れの雰囲気を出しながらも言葉を続ける。

 

「あの異国人の女性、彼女もまた、この村に迷い込んだ……そんな気がするのです」

「アレも侵入者でしょう?」

「そうですね。ですが、同時に迷い人でもあった。これはただのマヨイ村の守護者としての勘ですが、あの女性は単なる悪党ではないんじゃないかなと」

「どうですかね」

 

 …………いや、決めつけは良くない、のか。……だめだな、ソフィアを傷つけられた怒りが残っている所為で冷静に判断できていない。

 今回はひとまず情報共有を優先しておこう、あの再生能力と変形能力と武装、行動を抑制する謎の能力。これをこっちだけで対処するのは無理だ。

 

「……とりあえず、俺たちはもうそろそろ村を出ます。……出られますよね?」

「森の方へ向かってください。自然と、元の場所に帰っているはずです」

 

 村の外に視線を向けたシラユリ様の顔の先を見て、こちらも頷いて続ける。

 

「そうですか。わかりました、ありがとうございます。シラユリ様、色々と……助かりました」

「ふふ、いえいえ。これからも大変でしょうけれど、頑張ってください。【遍在】する白百合(わたしたち)に出会ったときは、仲良くしてくださいな」

「正直ちょっと嫌なんですけどねぇ。──そういえば、俺はこの村にまた来られるんですか?」

 

 小さく笑い合って、村から出るべく歩き出そうとして、ふと湧いた疑問を問う。

 シラユリ様は、『はい』とも『いいえ』とも言わない柔らかい笑みを浮かべて。

 

「ここに来られるのは、悪意ある人間か、心に迷いを抱く者だけ。あなたは後者でしたが……きっと、もう、()()()()でしょう?」

「そう、ありたいものですね」

 

 それだけ言って、シラユリ様に、マヨイ村に背を向ける。空気を読まずに雅灯さんは普通にふよふよ浮かびながら彼女に手を振っていたけど。

 

 ──果たして、意図せずに迷い込み、心の負担を少し解消し、またしても面倒事に巻き込まれてしまったが、マヨイ村での一幕も終わった。

 

 どうせまた、近い内に厄介事に絡まれることになるのだろうとは思いつつも、元の場所に帰ってこられて、電車に揺られて数時間。

 

 

 

「……連盟組織にあの女のことと、【遍在】とか白百合たちの存在のことも報告し終えたし、今日はゆっくり休もうかなぁ」

【そうですねぇ。私もしばらく見てない海外ドラマのストックが溜まってますし】

「相変わらず悪霊人生謳歌してますね」

 

 霊感がなければ見えないからと人の頭の上をふよふよと浮かんでいる雅灯さんとそんな会話をしながら、事務所への帰路を歩いてしばらく。

 昼も過ぎて太陽が傾き始めた頃に帰宅できて、階段を上がっていたところ。

 

「…………なんかいる」

 

 自宅兼探偵事務所の出入口の前に、チャイムを鳴らそうとしている直前の人影を見つける。

 それは見覚えのある人物と、見覚えのない人物の二人組みだった。

 

「……なにやってるんだ、ほなみ?」

「──ん? あ、与一くん! よかったあ、ちょうど今来たところなんだけど、中に誰も居なくて」

「ああもうチャイム押してたのか。……どうかしたのか? 依頼でも?」

「私じゃなくて、こっちの人」

 

 そこそこ運の無い女性──東間ほなみ。一時期ここで働いていたこともあった彼女は、一歩引いて横に立っていたもう一人の女性を見えるように動く。

 

「そっちは?」

「──知らないのか」

「え、まあ。うん」

 

 灰色のウェーブ状の髪をセミロングに伸ばした、ほなみよりは背が高いがこちらよりは低い女性。

 眠たげに細めた眼差しでこちらを見ながら『知らないのか』などと問いかけられるが、普通に知らないよ、だって初対面だもの。

 

「そうか。知らないか。尚更いいな」

「……うーんと、キミは誰なんだ?」

「この子はねぇ、永律陽(えりひ) 紫音(しおん)ちゃん! 今年で21の後輩なんだぁ」

「なんであんたが言うんだ。……まあ、そういうこと。私は永律陽 紫音、まだ20歳」

 

 ため息をつきながら、永律陽紫音なる女性はこちらを見上げて口角を歪める。

 

「──エーリッヒと呼んでくれよ、探偵。さっそくだけど、依頼があるんだ」

 

 永律陽紫音は、自分のことをアダ名なのか『エーリッヒ』と名乗ると、その瞳に狂気的な光を宿して、おぞましい計画を口にした。

 

「私は音楽家なんだが、今はスランプ気味で休業中でね。……スランプ脱却のために音の神に会いたい、協力してくれ」

「────。帰りてぇ〜〜〜〜〜っ」

「与一くんの家、ここじゃん」

 

 どうして、こう、世界ってのはこんなにも……休ませてくれないんだ。

 

 

 

 

 

『続』




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