とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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白昼夢エンカウンター 2/5

「……つまり、お前らは俺たちから見て30年ちょい先の未来の人間で、ここはお前らの時間に存在するドリームランドっつう異空間……と」

「そんでもって与一くんは龍一の息子で、真冬はアタシの娘……へぇ〜〜〜こんなことあるんだ」

 

 こちらの事情と現状、そして二人との関係を説明すると、流石の判断力で理解してくれた。

 すると千夏さんは、真冬の顔……というよりは髪を見て小首を傾げる。

 

「真冬の(これ)は、さあ。地毛なの?」

「…………。うん、そう。母さんと結婚した親父がイギリス人だから」

「イギリス人!?!? は、はぇ〜……」

 

 サラサラと流れる髪を指で触れる千夏さんにされるがままの真冬。

 このしおらしさは珍しいもんだな、結月が居たらネタにしようとして頭かち割られてるぞ。

 

「……あいつと結婚するって相当勇気ある奴だな。顔が見てみてぇよ」

「まあ、勇気はある人ですよ」

 

 なにせ、後のウイルス関連研究者として救世主となる千夏さんに会うためだけに未来から過去にやってきて、そこから結婚までに至ったのだから。

 

「ああそうか、あんたは千夏の結婚相手が誰かも知ってんのか。ってことは、俺が誰と結婚するかもわかってるわけで……聞かないほうが良いよな?」

「ですね。こんな変則的な過去干渉で、互いの未来がどうなるかわからないので」

 

 数歩離れたところで真冬と千夏さんのやりとりを眺めながら、隣り合って立ち父さんとそんな会話を交わす。こちらより少し低いが、それでも170後半はある背丈は、これから数年で更に伸びるだろう。

 

「それで、父さ…………龍、一、さん」

「呼びやすい方で呼べよ。歳上に敬語で話しかけられてんのもむず痒いけどよ、でもなんだかなあ悪い気はしねぇんだ。あんたが俺の息子だってのを、感覚で理解っつうか、察してんだろうな」

 

 頭を掻きながら、彼は恥ずかしそうに苦笑する。その一挙手一投足が当時の父の姿と被り、どうしても感情が大きく揺らぐ。

 

「──それで、ですね。俺たちの方で起きてる問題を解決しないといけないので、犯人探しやらなにやらで情報が必要なんですよ」

「ああ、協力するぜ。魔力の波が放たれて、当たると眠っちまう……だったか。現実でそんなことが起きたら事故が起き放題だ、どうにかしねぇとな」

 

 ……確かにそうだ。アレのせいで周囲の民間人も眠ってしまうなら、もしそれが運転中だったら? 工事などの作業中だったら? 

 

「……たぶん今頃、外では先輩が来てる筈だし、起きるのはあとでいいか。自分の力でドリームランドに来る方法、結構面倒だし」

「先輩?」

「俺の探偵の……先輩というか師匠ですね。人の道から外れかけてるけど頼れる人ですよ」

「関わる相手は選べ」

 

 それはそう。などと考えていると、不意に父さんは千夏さんを呼びだした。

 

「っとすると、あいつを探すのが近道かもな。──おい千夏! 来い!」

「なんだよぉ、親子の触れ合いを邪魔すんなよなぁ。……んでなに?」

 

 不貞腐れながらも、真面目な雰囲気を察してか、千夏さんは真冬を連れてこちらに来る。

 

「千夏、別行動してから今までで、()()()を見かけたことあったか?」

「んーん。ないけど」

「あの猫ってどの猫……なんすか」

 

 真冬がそう問いかけると、父さんたちは少し考える素振りを見せてから言葉を返す。

 

「この街の外が砂漠なのは知ってるだろ?」

「ええまあはい。真冬は?」

「あたしも龍一さんから聞いた」

「……で、一回俺と千夏は砂漠に出ようかと思って、境目の辺りに向かったんだが。そこで突然現れたでっけぇ黒猫に遮られたんだ」

「黒猫……ねぇ」

 

 ドリームランドには猫の町がある、とは聞いたことがあるけど、少なくともこの辺りには無いだろう。……それは本当に猫なのか? 

 

「その黒猫、本当に猫でした?」

「ああ、虎と豹とピューマとメスのライオンを混ぜて、そのどれでもないみたいな奴だった」

「……………………。猫()じゃん!!」

「似たようなもんだろ」

「似て非なるものだよ!?」

 

 狐と狸は犬科だけど『犬』ではないだろ……!? と思いつつ、そういえばこの人は変なところで大雑把だったな、と思い出す。

 

「あーよかった、アレが猫に見えてたの龍一だけなんだ。アタシの目もおかしくなったのかと思った」

「……で、だ。その猫は俺たちが街の外に出ないように立ち塞がってきてな、引き返したら姿を消したんだが……問題はどうやって見つけるかだ」

 

 まあ確かに、この雪が積もった白い街並みなら黒色は目立つかもしれないけど、旧電波塔を中心に半径数キロにも及ぶ街からピンポイントで見つけ出すのは至難の業だろう。……いや、まてよ? 

 

「──もう一回砂漠に出ようとしたら、現れてくれたりしませんかね。ひとまず下に降りません?」

「お、それいいな。採用」

「いやちょっと待って与一くん、まさかとは思うけどさっきのやつの逆をやろうとしてる?」

 

 足元の影からにゅっと【禍理の手】を出すと、千夏さんがげんなりとした顔で問う。

 

「そりゃ、直接落ちれば階段とかエレベーターよりは速いですし」

「……あー、なる。おい与一、下に行くだけならあたしがやるから代われ」

「えー、仕方ないなあ」

 

 何かを察した様子で苦笑する真冬が髪色を反転させ、魔力を薄く放出する。それを見て、父さんが疑問符を浮かべながら口を開く。

 

「……何やろうとしてるんだ?」

「地面までの直通ルートを開きます。父さんと千夏さんも着地に気をつけて」

「やるぞ。──【虚空渡り(ヴォイドウォーカー)】」

 

 真冬の言葉を合図に、四人全員を呑み込むように足元に開かれた穴。それに纏めて落下し、それぞれが数秒の落下を経て、再度足元に空いた出口の穴から見えた地面にダンッと着地する。

 

「っとと……キミらはさ、スリリングな方法でしか移動できないの?」

「慣れると楽しいですよ」

「慣れてないから楽しくないのよ」

「なる、ほどぉ……!」

 

 父さんはともかく千夏さんの着地が危なかったら支えるつもりだったが、彼女は難なく地面に降り立ちながら渋い顔で指摘してくる。

 

「与一、あんたどうせ【禍理の手】で壁の外這い上がったんでしょ。アレで喜ぶの結月だけよ」

「そっかあ…………そぉ、れ、で。例の黒猫モドキの探索だけど──【にゃあ】

 

 ふと。全員の動きと思考が一瞬止まる。背後から聞こえた声を、視線だけを下げて辿ると、そこには四足歩行の黒色が居て──こちらの背中側から顔だけを前に覗かせている状態で立っていた。

 

「…………お前が、例の黒猫か」

【にゃーん】

 

 三人の方に歩きつつ振り返り、後ろの大型動物(ネコもどき)の姿を視界に収める。

 なるほど確かに、虎のようで豹のようで、ピューマにもライオンにも見えるが、しかして具体的にそのいずれとも同じとは言えない、猫──()()()()()()

 

 まるで『自分、ちゃんと猫ですよ?』と周りに言い聞かせているかのようなわざとらしい鳴き声に、思わず言葉を返してしまう。

 

「コッテコテの鳴き声だなぁ」

【へっ。コテコテで悪かったにゃあ】

「いや悪いってわけじゃ…………。え??」

 

 

 

 

 

 

 

 ──2台のバイクの音が、不自然なほどに静かな都内に響く。その音を聞いた警察官の制服に身を包んだ男がそちらを見て、姿勢を正し敬礼する。

 

「明暗さん、秋山さん!」

「おーう、お疲れさん」

「状況は把握してる。民間人の被害は?」

「交通事故、及び怪我人多数。奇跡的に死者は出ていませんが……例の魔力波がもう一度放たれたら被害は更に拡大するかと」

 

 警察官──として働いている連盟組織の一員──は、淡々と報告しながら辺りを見渡す。

 他の警察官姿の一員や、その他派遣されてきたスーツ姿の一員たちが慌ただしく駆け回っている姿を一緒に見ていた二人、丞久と秋山がため息をつく。

 

「まーじでめんどくせぇなあ。……おい、本部に連絡して【人払い】の範囲を旧電波塔を中心に半径3……いや4キロに広げろ。円花から徴収してる魔力圧縮結晶を使っていい、私にやれって言われたとか言っとけばあいつも文句は言わないだろ。急げよ」

「はい!」

「それと、範囲内の組織メンバー全員に【障壁】を張るよう言っとけ。魔力波が敵の攻撃なら、ワンチャン防げる可能性が高い」

「わかりました」

 

 丞久が警察官に素早く指示を出し、駆けていくのを見送りながら、【召喚(コール)】で作ったバイクを魔力に分解しながら懐から携帯を出す。

 

「で、このあとは?」

「私らの戦いは、いつだって場当たり的でいい加減だ。テキトーだろうが、動いてりゃあどっかで黒幕とばったり鉢合わせすんだろ」

「はっ。結局()()()()だな。……電話か?」

 

 呆れ気味に笑う秋山は、画面を指でタップしてから耳に当てる丞久に問いかける。

 

「与一になぁ。どうせ暇してんだろあいつ」

「いや暇はしてねぇだろ。仕事中の可能性を欠片でも考慮してしやれよ」

「それはそれで結構。もしまだイデアの件で気落ちしてしょげてんならケツ引っ叩いてやるんだけどな……お、出た。もしもし?」

【もっしもぉし? 丞久さぁん?】

 

 通話が繋がり、携帯に声を飛ばす丞久。しかし彼女の耳に返ってきたのは、おおよそ丞久がしないであろう呑気な軽い口調だった。

 

「……あん? ……ああ、そのマヌケな声は我が弟子、与一の友、李徴子ではないか」

【誰がトラじゃい。結月です、ゆーづーきー。与一はちょっと……寝てるんよね】

「は?」

【わけあって依頼で都内に居るんだけどさぁ~、旧電波塔から魔力の波? が出て、それのせいで真冬も一緒に昏睡してるんだよねぇ】

 

 電話の向こうから聞こえる声の主(ゆづき)の間抜け面を思い浮かべつつ、丞久はその話を聞いて、今この場に件の相手が居ることを理解して口角を歪める。

 

「────。はっは、ベストタイミングだな」

【私としちゃあ、与一が寝る直前に連絡するように頼んできた相手からピンポイントに電話掛かってきたのがよっぽどベストタイミングなんすけど】

「御託はいい。お前らどこにいる」

【んー、ちょい待ってね。エーリッヒ、今から邪智暴虐が店に来るけど大丈夫? いや店壊すとかじゃなくて、そうそう与一の師匠。んーまあ、流石に人は食わないから大丈夫だと思うよ

「聞こえてんだよクソガキ」

「くくくっ──う゛う゛ん゛」

 

 それとなく耳を傾けて会話を聞いていた秋山の笑いをこらえている声と顔を横目に、彼の足の甲を踵で踏みながら、丞久は眉間にシワを寄せる。

 

【なに今のドッスンみたいな声。……んで場所だっけ。永律陽音楽教室ってとこだよん】

「永律陽…………わかった、すぐに行く」

 

『永律陽』という単語ですぐに検索をした秋山が、調べていた自分の携帯の画面に映る住所を見せる。通話を切った丞久は、【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】を起動して体に纏う黒い魔力を骨のように形成し、背中に椅子のような乗る場所を作った。

 

 

 

「【人間運搬モード……行くぞ、乗りな】」

「なんつぅおぞましい歩荷だ。これ安全装置(シートベルト)は?」

「【…………?】」

「おいこれ安全装置は」




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