「んで、おミャーらはこのあとどーすんのにゃ? ──いやいつまでニャーの使うシャンプー談義してんのにゃあ。やめろアホども」
四人でやいのやいのと『クロのシャンプーは人間用か猫用か?』で話し合いをして数分。
アホを見る目で我々を見ている彼女の視線に免じて一旦この話は終わらせる。
「どうするって言われてもなあ。俺と真冬は一度起きて、現世で味方と情報共有したいところだけど……起きる手段がなぁ……」
「そんな嫌なのか?」
父さんが疑問符を浮かべ、こちらも嫌々ながらに必要なことだからと口を開く。
「俺たちは今、外で眠らされてここに精神だけの状態で来てるんですよ。そこから起きる方法は、大きく分けて2つ。本来の入門方法である『通常の夢の中で見つけた階段を降り、降りた先の洞窟で門番に認められ、更に階段を降りた先の森に出る』という手段の逆を行う。つまり『森で階段を見つけて上がり、通常の夢に出てから目を覚ます』という方法」
「ややこしいな。そんでもう1つは?」
「死ぬ」
「ん?」
「ドリームランド内で、死ぬ」
父さんの問いにあっけらかんと返すと、眉を指で揉むようにしてから深く息を吐いて言う。
「すまん聞き逃した、もう一回」
「ここで、死ぬと、起きられます」
「……聞き間違いじゃなかったか」
──だから、
「真冬、アレってマジなの?」
「ここの事はあたしにはさっぱりだからなんとも。でも、与一はああいう冗談は言わない」
「んまぁそれはわかるよ、龍一の息子なんだし。……龍一はアホなこと結構言うか」
思い出したように苦笑いする千夏さんを横目に、さてどうしたものかと思案する。
「……ドリームランド内にあるあの旧電波塔、倒壊させたらどうなるんだろ」
「これみよがしに建ってるわけだし、アレを囲んでるビルもなんつぅか、『盾』って感じだしな。狙われたら困るんじゃねえか?」
父さんにそう言われて、確かにと周囲のビル群を眺める。もし旧電波塔が敵のやることに重要な存在だとして……まあ、現世で壊すわけにはいかないけど、ドリームランドでなら問題はない筈だ。
「じゃあ【夢見】でC4量産して、四方の内の……二箇所、足元を爆破すれば倒れるかな」
「やってみるか? …………旧電波塔ってことは、俺らの時代でもそのうち新しいのが建つんだな」
「あー、これオフレコで」
あんまり余計なこと言い過ぎると歴史が変わりかねないな……。まあ、過去の父さんと千夏さんと出会ったのにこちら側になんの異常もない、という時点で気にしすぎているだけな気もするが。
「つーかあの塔に近づいたら確実にヒュプノスが出てくるにゃあ。やるならニャーは隠れるにゃ」
「ああ、そうしといて。……一旦俺だけで挑む……として、俺だけ死んだら三人にも隠れてもらって……いや、そうだな。クロ」
「なんにゃ?」
「俺が注意を引いてる間に、三人を離れた場所に連れて行ってもらえるか」
「えっなんで? アタシら全員で挑めばいいじゃん。全員精神体なんだから」
クロに提案すると、会話に混ざれずに暇そうにしていた千夏さんがそう言ってくる。
「真冬を死なせたくない、これは俺のワガママ。でも二人を死なせるわけにはいかない理由はちゃんとあるんです、わかりませんか? ……
こちらの言葉に、父さんと千夏さんが理解して、頷きながら口を開く。
「──お前らが死んでもまたここに来られる。だが俺たちが死んだら
「…………。あ、そっか。アタシと龍一が戦力になるつもりなら死んじゃいけないのか」
「ってことです。こっちの情報を外の味方と共有して、また戻って来るまでは、三人にはどこかに隠れて欲し──「
合点がいった二人に続いて説明をすると、ふとこちらの言葉をクロが遮る。
不機嫌そうに耳をピクピクと跳ねさせ、尻尾をゆらゆらとさせる彼女が言った。
「……なんか来るにゃあ」
「なんか?」
「わかんねーにゃ。殺意が濃すぎて方向が絞れない…………いや、上から……?」
「っ──!!」
それは、ほぼ無意識な行動だった。クロの言葉を聞いて、即座に両腕を頭頂部を庇うように上げ、【強化】を起動。何かはわからないが、何かが来る。それが確かなら、と防御を優先し────
「……与一? どうし
──ドバン!!! と、こちらと真冬の間にその何かが落ちてくる。同時に硬質化した黒く角張った魔力が叩きつけられ、こちらは腕で防げたが、真冬は全身を貫かれながら地面に縫い留められる。
「ぐっ、く、お……っ!?」
「……お? 潰れてねえ」
大質量の何かと同時に着地した誰か。
それは顔の左半分を覆うような帯で左目を隠す、後ろで髪を纏めた女性。
彼女は──我が憎たらしくも愛しい先輩、明暗丞久は、叩き潰そうとし、しかして
「やるじゃん」
「……そりゃどうも」
「んで、いつまで夢ん中で乳繰り合ってんだ? 起きて欲しいんだから抵抗すんなよ」
「いま遠回しに『死ね』って言った?」
丞久先輩は答えず、ただ無言で【
「うごぉお゛お゛っ!? ちょちょちょっ潰れる潰れる潰れる潰れる!!?」
「いやほら、ここ砂漠だし、森に行くのも時間掛かるし、殺した方が手っ取り早いじゃん」
「『倫理観』って知ってる!?!?」
「うーんなんだろう初めて聞くなあ」
上に掲げた両腕にのしかかる黒い魔力の圧が増していく。全身からミシミシと嫌な音を立てる体からの危険信号を感じ取り、とにかく死ぬ前に二人に忠告しなければと声を荒らげようとして。
「──よお、大将」
「あん? ────っ」
ドッ……!! という鈍い音と共に、重圧から解放されて体が軽くなる。
ほんの一瞬前まで丞久先輩が立っていた場所には、拳を振り抜いた父さんが立っていて、先輩は数メートル後方に後ずさりしていた。
「あいつ、知り合いなのか?」
「……信じられないだろうけど、味方側の組織の、最高戦力の一人です」
「話を聞くに、お前と真冬ちゃんを起こしに来たみてぇだが……ありゃあ完全に、やり方と言動と人相と性格が悪すぎたな」
「うん、まあ、うん」
──否定できない……!
「ふん。味方、味方……ねぇ」
「あの、千夏さん」
「なに」
「落ち着いて聞いてください、真冬は現実世界で目を覚まします。本当に死んだわけじゃない」
「そうね。そうなんだろうけど、さぁ」
ざっ、ざっ、と雪を蹴り飛ばしながらこちらに歩み寄る千夏さんは、全身を叩き潰され赤い液体を撒き散らして死んでいる真冬を見て、その額に破裂せんばかりに青筋を立てながら口を開いた。
「──それはそれとして殺す。どうせ向こうも精神体でしょ、遠慮は必要ない」
「悪いな与一、こればかりは止められねえ。俺が同じ立場だったら同じようにキレてる」
「う〜〜〜〜〜ん……じゃ、しょうがないか。こればかりは、必要だからって不意打ちで真冬を殺した先輩が8割くらい悪い」
理由は、わかる。急いでいるのも、わかる。外が大変なのも、わかっている。
でも、それはそれ。こちらとしても──さっきの行動にはわりと激情が渦巻いているのだ。
「…………なぁんで私は親の仇みたいに恨まれてんだ。まあいい、時間がねぇからあんまり遊べないが、活きがいいのが揃ってて手を出さないのも失礼だ……楽しむとするか。ちょっとだけな」
パキパキと全身を覆うように黒い魔力を骨状に固める先輩は、そう言って心底楽しそうに笑う。
こういうところがあるから、
ともあれいつの間にやら姿を消したクロを余所に、あまり有利とも思えない三対一が開始されていた。
──ちなみに親の仇じゃなくて娘の仇です。
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