ものすんごく軽いテンションで神殺しを命じられて暫く。異質なほどに静かな都内には、2台のバイクが走る音だけが響いていた。
旧電波塔の足元に停めたバイクから降りて、後ろに乗っていた真冬も降ろすと、隣では丞久先輩とエーリッヒも同じようにしている。
「……さて、俺たちの役割は分かったけど……これ本当に俺がやらないといけないんですか? 普通に考えて先輩がやる方が──」
「うん? ああ、まあ、そうだな」
【
「一つ聞くけどさあ、お前ら……夢の中とはいえ、自分の未来の子供を殺すような奴と協力したいと思うか? まあ私のやらかしなんだが」
「このクソガキマインドがぁ……!!」
「んなっはっはっは。あーたのしー」
パチン、と眼帯を指で弾いて笑う先輩を先頭に、呆れ顔をしながら真冬とエーリッヒを連れて中へと入る。エレベーターで展望台まで上がると、下手なビルよりも高い場所へと到着した。
「展望台にタダで入場。罪悪感あるなぁ〜?」
「先輩の辞書に『罪悪感』なんて無いでしょ」
「こいつらの漫才で一生時間潰せそうだな」
「それはそう。……与一、丞久さん。真面目にやってくれない?」
エーリッヒと真冬のジトッとした眼差しに、こちらも意識を切り替える。
「わかったわかった。んじゃあ作戦を伝え直すぞー、簡潔に言うと、与一と真冬をドリームランドに送り込んでヒュプノスを倒してもらう」
「……そういえば、聞きそびれてたんですけど、ヒュプノスってどんな見た目なんです?」
「元々は普通の男って感じだったな。私が前にぶち殺した時はくっそでっけぇ鳥だったけど」
「ははぁ……」
──なんの参考にもならない。
ともあれ、もう一度ドリームランドに向かう……のは、まあいいとして。
「丞久先輩、まさかとは思うけど、俺たちはもう一回寝ないといけないんですかね」
「いんやぁ、直通ルートを開ける」
「直、通……???」
こちらの疑問を余所に、先輩はおもむろに手元に刀を【
「【部分顕現:ヨグ=ソトース】」
「……ま、まさか……」
「こう、いう、ことだァ────ッ!!」
左手に宿った異質な魔力が、両手で刀を握る過程で刀身に移動する。
そのまま流れるように大上段に構えた刀をザンッと振り下ろすと、何も無い筈の空間を切り裂き、
「ふん、次元跳躍とはこうやる。おらとっとと行け、今回は生身だから死んだら死ぬぞ」
「ねえ与一、マジでこの人なんなの?」
「もうわからん。俺には何もわからん」
前々からよくわからない人だったけど、なんかもう理解しないほうが良いのかもしれない。
ともあれ、するべきことは変わらない。片耳に突っ込んだイヤホンで先輩との通信を同期させつつ真冬と横並びで眼前を見据え、ドリームランド側の旧電波塔の外に繋がる【門】と向き合う。
「お前らの登場と私が暴れたことで、敵も相当キレてるだろうな。中に飛び込んだら迎撃しにくる可能性は高い、空中で戦えるように【夢見】で乗り物を出してやるが、あとはそっちでなんとかしろよ」
「ざ、雑ゥ〜〜〜」
「……つーか、あたしも行く必要あんの?」
「あるだろ。
「あー、まあ確かに」
「……買いかぶり過ぎじゃない?」
ついこのあいだ子供を一人守れなかった奴だぞ。……と、そんな自虐はさておき。
「……真冬、向こうに突入したら【
「伝言?」
「ああ。父さんに『全力のやつを打てるように』、あと千夏さんにも『派手なやつで合図するから、父さんと俺を入れ替えるように』って」
「それで
「あの二人ならそれで伝わるよ」
訝しげに眉を顰めながらもとりあえずと了承する真冬は、一言呟いて【
「……対ヒュプノス用に、
「出来なかったんですか?」
「金掛かりすぎるンだわ」
「あー、ああ……」
そういえば、あの
「神削鉾って【
「神格特効の人造神器なんて複製できんのは円花くらいだ、私や常人があんなもん複製したら魔力絞られ過ぎてミイラになるぞ。バカ魔力のあいつでも『流石にクラっとする』らしいからな」
「はぇ〜……」
じゃあ、仕方ないか。改めて【門】を見て真冬と横目でアイコンタクトし、同時に駆け出す。
ドリームランドへと、最初は精神体で落ち──そして今度は生身で飛び込む。
【門】を越えた先は気温が一回り下がったように冷え込み、そして体は重力に従って、約220メートルから落下を始めた。
「行け、真冬!」
「無茶しないでよ? ──【
「んじゃよろしく。……と、来たな?」
落下する体を空中に作った穴へと飛び込ませてこの場から消える真冬を横目に、さらに上空へと視線を移す。──ふと空の一部がぐにゃりと歪み、その
【……
「────。なんだって?」
ビルよりも上の空中で羽ばたく怪鳥──恐らくヒュプノスであろう存在は、頭上に水平に魔法陣を浮かばせると、にゅっと筒状の何か……いや、この前見たことある
こちらの疑問にも答えずに伸ばしてきた幾つもの銃身を回転させるヒュプノスは、頭の中に響くような、殺意に塗れた声で言った。
【死ね】
「またガトリングかよ……」
いつぞやの村以来2度目のガトリング。もう勘弁してくれ──と脳裏で独りごちると、遠くからキィィィンという異音を耳にする。
【よーいちー】
「……ん?」
【足場を飛ばした、死ぬ気で掴まれ】
「え? いや足場ってどれ────」
続けて耳元からの先輩の声。異音が大きくなるのを感じて、反射的に四方に【禍理の手】を伸ばすと、その内の一つに何かが引っ掛かり──ぐんっと引っ張られて重力に逆らうように体が横に飛ぶ。
「お゛お゛お゛ごごご!!??」
【手ぇ離すなよ〜】
「なんっなななんっなにっなにこれ!?」
【え。戦闘機】
風に煽られびったんびったんびったんと体を打ちつけている金属になんとかしがみつき、そう言われながらよく見れば、それは確かに漠然とだがいつかのどこかで一度は見たことのあるデザインで。
【連盟組織って警察と軍も混じってんじゃん? 空自の一人が戦闘機オタクですげぇ語ってくるから、色々覚えちゃってさあ】
「せめてっコックピットにっ入れてくれませんっ!? うおぉお振り落とされる!?」
ビルの隙間を縫うように飛行する戦闘機。後ろからはヒュプノスが追いかけてきており、おおよそ
【
「俺だけ生身で音速の世界に突入してドッグファイトしろって、コト!?」
【ああそうだ】
ゎぁ……ぁ……!
──バイクを雑に停めて病院の敷地内に侵入した秋山は、傍らに浮遊する結月に言った。
「結局のところ、丞久はガキなんだよ」
『いやぁ〜、まあ〜、見りゃわかるけど』
今更その話? とでも言いたげに、呆れた表情をする結月は秋山を見やる。
自身の側に【浮遊】させた4枚の金属板を携える彼女に、秋山は言葉を続けた。
「あいつや春夏秋冬円花は与一とほぼ同じ境遇だ、ガキの頃に親が死んでる。だがあいつらには、与一と違って有栖川真冬のような相手が居ない」
『……つまり?』
「『こいつのためにしっかりしなきゃ』、を経験してないってことだ。人格形成に重要な期間を親無し魔術有りの拗れた経験で埋めた奴らがマトモな大人に育つわけがねえ、ありゃ兄に甘えてる妹だ」
腰に巻いたベルトに吊るされたホルスターと、左右に2丁ずつ収まる大型リボルバーを確かめる秋山が、その内の1丁を抜いて片手に持つ。
「さて……あいつの無茶振りで与一の骨が折れる前にこっちも片付けるか」
『たぶんそれ物理的な話だよね』
ズンズンと歩みを進める秋山の近くを飛ぶ結月は、金属板を浮遊させながら言う。
それから院内に侵入し、人の気配の無さに違和感を覚えながら、そういえばと口を開く。
『ちゅーかこの板なに? 丞久さんが【
結月は周囲に浮かせている金属板──厚さ2センチ、縦横40センチの4つあるそれを秋山に見せる。
「ああ、いま連盟組織で開発中の特殊合金を使った金属板だ。軽くて頑丈で柔らかくて加工しやすい……ってのを目指してるらしい」
『ほーん。ヴィヴラニウム的な?』
「アレの超々劣化版だな。うちの開発部門の連中は基本的に変人だから、映画とか見るとすーぐ似たようなもんばかり作りたがる」
『もしかして連盟組織ってアホの集まり?』
「否定はしねえ」
そんな会話をしながらエレベーターに乗り込む二人。秋山は地下のボタンを押して扉を閉めると、結月を横目にリボルバーの撃鉄を起こす。
「羽田結月、お前の役目は
『め、めんどくせ〜〜〜……』
「うるせえ。こちとらリボルバー4丁、弾数24発しかねえんだぞ。攻守代わるか?」
『たぶんその方が戦えそーなんす』
げんなりとしながらも、結月は暇つぶしに金属板をクルクルと回転させる。
秋山もまたエレベーター上部の階層表示を眺め、最下層であるB2──地下2階に到達して、
「……仕事だ」
『うぇい?』
秋山の言葉から間を置いて、チーンという音と共に、エレベーターの扉が開かれる。
──それと無数の銃声が奏でられ、無数の弾丸がエレベーター内に叩き込まれるのは同時だった。
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