とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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幻夢境セッション 2/4

 けたたましい銃声が総合病院の地下施設の通路に響く。エレベーター内を蹂躙し尽くした警備員に扮する魔術師たちは、銃口を向けたまま警戒する。

 

 しかし煙が晴れた先にあったのは──死体ではなかった。40センチ四方の金属板4枚を正方形に並べ、銃弾を凌ぎ切っていたのか、血の一滴すら見えず、そして秋山は呆けたその一瞬を見逃さない。

 

 金属板からにゅっと出した秋山の右手にはリボルバーが握られており、無造作に撃ち込まれた一発は、吸い込まれるように魔術師の一人の頭を貫く。

 

「──まず1つ」

『っしゃあ〜〜行くぞオラァ!』

「操作ミスるなよ」

 

 ──直後、正方形に連なった金属板が崩れ、中から両手にリボルバーを握る秋山が飛び出す。

 その周囲を護衛するように浮遊する板を制御をしている結月もまた、周囲に視線を送り警戒。

 

『……左2、右1!』

「左を防げ!」

 

 彼女が両手を振るうと、それに合わせて金属板が動き、通路の左側で弾薬の装填を終えた魔術師たちの向ける銃口を妨げるように展開する。

 その間に右の一人を射殺した秋山は、カカカカカンッと小気味よい音を奏でて弾丸を防ぐ板の横から銃口だけを覗かせて二度引き金を引く。

 

 ドバンッ!! ドバンッ!! という轟音が響き、二人の頭が弾け、死亡を確認した秋山は冷徹に一瞥して淡々と「4つ」と呟いて片手間で右側で装填を終えようとしていた一人にも容赦なく発砲。

 

「5つ。このまま殲滅しながら前進する」

『……ういっす』

 

 視線だけを動かして誰が最初に弾倉(マガジン)の交換を終わらせるかを確認する秋山を横目に、金属板の盾を操作する結月は口角をひくつかせてドン引きする。

 

 ──この人マジでこぇ〜〜〜。

 

 口には出さずともそう思案する彼女の考えは、今まさに魔術師の持つ散弾銃の銃口にリボルバーの弾丸を撃ち込んで内側から破裂させる光景を目にして更に強まる。やがて右手のリボルバーを撃ちきった秋山がそれを後ろに放るのを見て、結月は【浮遊】で制御する金属板を並べた。

 

 その並びを見て即座に後ろへと隠れ弾丸の横雨を躱す秋山を見る結月は、それが自身の実力による援護ではないことを理解している。

 

 ──私が防いでるってよりは、私の動きに合わせて動いてくれてるって感じぃ? 

 

 小さくため息をついて、結月は秋山に問う。

 

『これ私要るぅ?』

「さあな。お前が居ない場合の戦い方も想定しているが、居るから居る場合の戦い方を選んでる。それだけだ────と、そこか」

 

 気だるげに返す秋山は、通路の曲がり角の後ろに隠れた魔術師の頭があるであろう辺りに予想をつけて発砲し、的確な壁抜きで着弾させた。

 

『……じ、人力ウォールハック……!?』

「あ?」

『FPSで壁の向こうに誰が居るか把握するチートのこと。あとオートエイムとかもあるよね』

「はっ。そんなもんに頼らないと()()すら出来ねえのか。情けねえ」

『いやリアルで出来てたまるかい』

 

 呆れた表情で呟く結月は、秋山の発言が冗談なのか天然なのかわかりかねている。

 

 

 

 それから戦闘が続き、やがて二人で最奥にたどり着いたのも束の間、リボルバーも残り1丁の4発のみとなり、邪魔になったホルスター付きの外付けベルトを外して捨ててから秋山が扉を蹴破った。

 

「ッ! ま、待てっ──がっ!?」

『容赦ねぇ〜〜〜……』

 

 そして入って早々に手術着を纏っていた男の肩を撃ち抜いて床に倒し、改めて室内を見回す。

 消毒液の臭いが充満した、清潔感漂う──約一部が赤く濡れている──部屋。分かりやすい違和感として、その部屋の中央には、病衣に身を包んだ、頭にヘッドギアが装着された少女が寝かされていた。

 

「…………。これはなんだ? 答えないと残り3発をその辺の機材に撃ち込むぞ」

 

 ヘッドギアとを繋ぐケーブルが伸びた無数の機材に銃口を向けながら、秋山は脅す。

 すると、撃たれた肩を押さえながらも男は渋々といった様子で答える。

 

「こ、これは……精神をドリームランドと繋ぎ、ヒュプノスとリンクさせる為のものだ。その子供は意図的に脳死状態を維持させられた患者で……もう目覚めることはない。殺すなよ、向こうで街の構築を維持するにはその患者が必要なん────」

 

 男の言葉は最後まで続かず、高速で飛来した金属板にゴシャッ! と頭を潰され即死する。

 露骨なまでに不機嫌な顔をする結月が、吐き捨てるように秋山へと聞いた。

 

『殺しちゃダメだった?』

「いや。…………いや、構わん。無駄弾だ」

 

 結月の顔を見て、何かを言いたそうにした秋山だったが、かぶりを振って切り替える。

 

『……この子も殺すの?』

「ああ」

『なにか、救う方法はないの?』

「このガキがヒュプノスとリンクしてドリームランドに影響を及ぼしたってことは、逆にヒュプノスがこのガキを通して現世に影響を及ぼせるってことだ。あの催眠の魔力波が『そう』なら、時間が無い」

 

 ──とはいえ。と続けて、彼はおもむろに取り出した携帯で電話を繋げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──展望台で【門】の向こうを見ながら、【夢見】で創り出した戦闘機の制御をしていた丞久は、懐の携帯が震えるのを感じて取り出す。

 

「……んー?」

【俺だ、病院の地下でヒュプノスと繋がりドリームランド内に街を作った…………()()を発見。()()すれば向こうの街を崩壊させられるが、どうする?】

「壊せ。……あー、いや、待て。ヒュプノスに隙を作って致命打を叩き込ませたい、私の合図を待ってろ、こっちでも相手の調子を崩す」

【了解】

 

 そう言って一旦通話を切ると、丞久は一緒に【門】の向こうで行われる高速のドッグファイトを眺めていたエーリッヒに声を掛ける。

 

「つーわけで、お前の──というかトルネンブラの力を借りさせてもらうぜぇ」

「……何をしろと?」

「演奏」

「ピアノが無いぞ」

「抜かりねぇ。【召喚(コール)】」

 

 エーリッヒの指摘に、丞久がニヤリと笑うと、一言発して魔術を発動。

 傍らにゴトンと音を立てて、音楽教室に置かれていたピアノの複製が現れた。

 

「あの教室出る前にマーキングしといて良かったわ。転ばぬ先の杖ってな」

「『トントン拍子』の例文ってこんな感じか?」

「うるへ〜〜〜。はよ弾け」

「……私の演奏はタダじゃないんだがな」

 

 などと言いながらもセットで複製された椅子に座り、エーリッヒはピアノの調子を確かめる。

 

「じゃあ全部終わったら焼き肉奢ってやるよ」

「…………。まあ、それでいいか」

「ちゃんとトルネンブラを使えよー?」

「どうやって使う……いや、なるほど、()()か? ──【音階の王(トルネンブラ)】」

 

 体内を循環する魔力、体に宿る『音』。それらを混ぜ合わせて乗算し、異能として起動する。白いメッシュ混じりの灰髪が無風の室内でふわりと揺れ、エーリッヒの瞳は黒目から鮮やかな翠に染まった。

 

「──ただ、演奏すればいいんだな」

「んまぁ、まあ。とりあえずトルネンブラの魔力を込めた演奏を、【門】を通してドリームランド内に拡散させたいんだよ」

「ヒュプノスとやらに勝つためか?」

「そそ。今あいつらは、言わば敵のテリトリーで戦ってる状態だ。【夢見】や本人の力で()()()()()()()()。私なら普通に殴り勝てるけど、あいつらにゃあ、まだすこぉしばかり役不足だな」

「力不足」

「うるへ〜〜〜!! ……だから、そこでお前の出番ってわけだ。永律陽紫音」

 

 ビシッ、と指を差されて眉を顰めるエーリッヒだが、彼女は丞久の言葉を待つ。

 

「ヒュプノスは今、自分のリズムで戦ってる状態だ。横からお前の演奏をぶつけて、それを崩してやれば良い。魔力の乗った演奏……音の波をやり返されるんだ、相当ウザったいだろうな」

「ふぅん。──それじゃあ、注文は?」

 

 翠の瞳で、エーリッヒは丞久に問う。彼女は口角を歪めて、ただ一言呟いた。

 

「テンション上がるヤツ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──上空で幾度となく聞こえてくる発砲音と、空を切り裂くキィィィィィンという飛翔音。

 それらを見上げる三人のうち、【虚空神話(ヴォイド)】を起動し金髪から銀髪に反転した髪を揺らす真冬が、残りの二人──龍一と千夏に言う。

 

「これ、勝てんの……?」

「さぁ〜どうだろうな。与一が戦闘機にしがみつきながらバカでかい鳥と戦ってる光景には疑問符しか出てこねぇけど、勝てなきゃ負けるんだ。どちらにせよやるしかねえよ、真冬ちゃん」

「……二人ともぉ、話してないで手動かしてくんない? これもう殆どアタシがやってんじゃん」

 

 苛立たしげに言う千夏が、空間置換(いれかわり)で位置を変えた相手の首にハイキックを叩き込み、地に叩き伏せながら二人を見やる。

 

「いやまさか、地上組(あたしら)対策にこんなもん用意してるとは思わなかったわ」

「急に出てきてビックリしたよな。なぁ千夏」

「そー、ねっ!」

 

 上空での戦闘と同時に、地上に現れた濁流のような黒い人形(マネキン)との戦いを強制させられて数分。最後の1体の頭を踏み潰す千夏が、寒い気温に反して汗ばむ額を腕で拭いながら続けた。

 

「そんで、与一くんに伝言頼まれたんだって?」

「ああそうそう、龍一さんに『全力のやつを打てるように』、母さんにも『派手なやつで合図するから、龍一さんと自分を入れ替えるように』って。こう言えば伝わるらしいけど、何か分かった?」

 

 真冬が言うと、龍一と千夏は顔を見合わせて、与一が何をしてほしいのかを察する。

 

「んー、んー。なるほどなるほど、お膳立てするから俺が仕留めろってことか」

「伝わった……けど、状況が状況だからなぁ〜」

 

 千夏がちらりと周囲に視線を向ければ、ビルや民家の陰から、先程()()()()()黒いマネキンの群れが蠢くように現れる光景を視界に収める。

 

「俺が()()に入ると動けなくなるから、アレを捌くのが二人になっちまうのはちぃと不味いな」

「そういえば、クロは?」

「……さっき真冬があの眼帯女に潰されてからすぐに消えちゃった。まったく薄情なんだから」

 

 やれやれと首を振る千夏だが、それはそれとして敵を見据えてパキパキと手の骨を鳴らす。

 

「──龍一、あんたは溜めに入って。アレはアタシと真冬でどうにかするから」

「え゛」

「……いいのか?」

「あのマネキンどもは殴れば普通に砕ける、可能な限り一対一を繰り返せば良いだけでしょ」

 

 あっけらかんと言い放つ千夏に、真冬と龍一は揃って真顔になり、間を置いて口を開く。

 

「母さんってもしかしてわりと脳筋……?」

「こいつは昔から脳筋だぞ」

「あたしの知ってる母さん、わりと大人しい方だったんだけどな…………?」

「真冬ちゃんと親父さんが居たからだろ」

「──こんな過去知りたくなかったわ」

 

 そんな風に呟いて、真冬はため息と共に【召喚(コール)】してメリケンサックを喚び出す。

 

「……空間置換(いれかわり)は母さんの方が精度が高い、あたしが合わせるから好きにして」

「マジ? んじゃあ頑張っちゃおうかな」

「俺の方でも【強化】の魔術に限界まで魔力を注ぎ込む、本当に動けなくなるから────」

 

 言葉を区切った龍一が、緩く腰を落として右手を引く。その手に魔力をかき集めて【強化】を起動したのだが、真冬が感じ取る威圧感は、与一などが行う【強化】などとは比べ物にならない程に()()

 あまりの密度に内側への光が届かず、右手を中心にゆらゆらと黒い炎のような何かが灯り、彼を中心に周囲の空気がビリビリと震える。

 

「──あとは頼むぞ」

「ういうい」

「…………。うん?」

 

 軽く返答する千夏の横で、真冬はふと、上空の異音が薄れていくのを感じる。

 上空──否、展望台近くに空いた【門】の向こう。ポロン、ポロロン、と。調子を確かめるようなピアノの音が、不自然な程に耳に届く。

 

「……まさか、トルネンブラ……?」

 

 そんな言葉が口から漏れた、直後。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドリームランドの上空に、ハイテンポの演奏が駆け巡る。

 やがてそれは空気を揺らし、この場にいる全員の心を揺らし、ヒュプノスの動きを止め、やがてその音色は落雷のように降り注ぐ。

 

「──ここだ」

 

 その隙を見逃すわけもなく、遥か上空ですれ違う一瞬。戦闘機の上で大剣が如きチェーンソーを構える与一の一閃が、ヒュプノスの装甲を切り裂いた。




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