とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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白百合姫の招待状 1/4

 突如として送られてきた手紙。黒い封筒に白百合が描かれているらしいそれの確認は帰ってからにするからと、葉子さんとの電話を切る。

 

 ……で、まぁ──────たしても白百合か。イデア、シラユリ様と来て、お次は何なんだ。

 

「白百合? ……聞いたことあるな」

「知ってるのか? エーリッヒ」

「ああ。手紙だろ? 黒に百合の花の」

「そう、らしいけど、知ってるのか」

 

 と、なにやら訳知り顔のエーリッヒが、手元のハイボールを飲み干して続ける。

 

「なんだったか……そう、『白百合姫(しらゆりひめ)』? とかいう奴から送られてきたやつだな。才能がある奴に目をつけて送ってくる……招待状だ。去年だかに私のところにも届いたことがあった」

「行ったことがあるの?」

 

 こちらが問いかけると、エーリッヒは気まずそうに視線を斜めに上げてから答えた。

 

「え……いや、曲作りに集中したかったし、行く気無かったたから捨てたけど」

「…………。さいですか」

 

 

 

 

 

 

 

 ──数日後、一人さみしく森の奥へと歩みを進めて暫く。片手に掴んでいる手紙の中身を横目に、目的地へと向かっていた。

 ちなみに、エーリッヒの依頼料は音楽教室の修繕費でマイナスだったけど、それはそれとして連盟組織の方からいつもの口止め料(おこづかい)が入金されてたから差し引きプラスになったのは余談である。

 

 

 

 ──黒いダイヤモンド貼の封筒。白い百合の花が描かれたそれの中には、『白百合姫』を自称する何者かが、自身の館へと招待する旨の手紙と、そこへと案内するための住所が書かれている。

 ……なんというか、文章が固かったから送る相手の名前だけ変えてあとはコピペしてるんだろうなとは察するけれども、最後の方にある一文だけが、この手紙の強烈な違和感に繋がっていた。

 

「『あなた様のお力をお貸しくださいませ』……ねぇ。雅灯さん的にはどう見ます?」

【…………んぇ〜い?】

「また夜更かし(海外ドラマ鑑賞)してましたね」

 

 ずっと黙っていた雅灯さん呼ぶと、影の中から寝ぼけ眼を指で擦りながら、ふよふよと死にかけの蚊みたいな軌道で浮かんでくる。

 

【……ぁい、起きてまぁす】

「話聞いてました?」

【聞いてましたよお、手紙の文章でしょう? 確かに変ですよねぇ】

 

 犬掻きのような姿勢で横を浮遊する雅灯さんは、そう言って見えるように広げた手紙を覗き込む。

 

【お力をお貸しくださいませ、の部分。ここだけ、()()()()()()()()()ように文字が少し荒いんですよ、なのでまあ……SOSと受け取るべきかと】

「ですよねー」

 

 魔術師である以上、行く先々で巻き込まれるのは運命みたいなものだけど、これから巻き込まれに行くのは珍しいパターンかもしれない。

 ……とはいえ、これが助けを求めているかもしれない招待状なのであれば、こちらは行かないという選択肢が選べないのだ。

 

「なにも、起きないと、いいなぁ……!」

【もう分かってて言ってますよねそれ】

 

 次なるトラブルを前に、そんなことを呟いて雅灯さんにツッコミをされる。

 

 

 

 などといった会話をしながら草木を掻き分けていくと、やがて見晴らしの良い空間に出た。

 

「はぇー……でっかい館だこと」

【うちの事務所より大きいですね】

「そりゃうちと比べたら、ねぇ」

 

 それは、立派な様相の館だった。念の為に雅灯さんには引っ込んでもらいつつ、森の一角に隠すように建てられたその館に近づくと、門の手前に一人の女性が立っていることに気づく。

 

「──本日の遊戯(ゲーム)に招待された方でしょうか」

「ええはい、そうなりますね」

「ではこちらにお名前の記入を。それと、招待状はお持ちになりましたでしょうか」

「…………。()()()()()()()()()()()()……と、書けましたよ。招待状は必須でしたか?」

 

 差し出されたクリップボードに挟まれた紙に……()()を記入しながら問うと、メイド服の女性は頭を横に振ってから名前を確認して言う。

 

「いえ、念の為の質問であって強制ではありません。……桐山()()様ですね、確認しました。──それと、館に入る前に携帯をお預かりします」

「……あー、ゲーム中の検索は厳禁と」

「外部への連絡での助言も、ですね」

「さいですか」

 

 ──これから面倒なことになるから外部に助けを求められると困る。の間違いだろ? とは口にはせず、コートのポケットに手を突っ込んで、内部で【召喚(コール)】した複製をメイドに渡す。

 

「はいどうぞ」

「……では、こちらへ」

 

 携帯を受け取ったメイドに連れられて門をくぐり、中庭を歩いてから、ようやくと玄関にたどり着く。……しかし、こういうところは武器を持ち込めないから厄介だな。九十九の出番が全然無い。

 ああいう付喪神の宿った妖刀みたいな特殊な得物は、唯一無二(オンリーワン)ゆえに【召喚(コール)】で複製できないのだ。

 

【門】で事務所に繋げば置いてある妖刀を取りに行けるが、わざわざ出入口を作るとなると魔力消費が馬鹿にならない。やるにしてももう少し効率的な使い方が…………いや、イケるか……? 

 

「──桐山様を含め、総勢六名が今回の参加者となります。こちらでお待ち下さい」

「ん? ああはいはい」

 

 ふと思いついた案を余所に、案内された先──玄関から少し歩いたエントランスホールで足を止める。メイドはそそくさと二階へと上がっていき、残されたこちらは数秒ほど他参加者の視線を浴びた。

 

 結構早めに来たはずだし、遅刻を責められている……わけではないだろう。

 単純に人が来たから見ただけか。こちらも視線を向け返せば、()()の大人たちは顔を背け────うん? 四人? ……あれ? 

 

「さっき総勢六名って言ってなかったっけ。一人足りないんじゃ?」

【おトイレですかねぇ】

「…………。あの」

「はい?」

 

 いつものノリで耳元に届く雅灯さんの声と会話をしようとすると、不意に足元から声が聞こえてきて、そちらへと顔ごと視線を下げる。

 そこには、ちょこんと小さな背丈の少女が立ち、ジトっとした目でこちらを見上げていた。

 

「──うぉおビックリした!?」

「悪かったっすね、小さくて」

「え、あ、いや……ごめん、過剰に驚きすぎた。えーっと、キミは?」

()()……はぁ」

 

 咄嗟に謝りつつ屈んで目線を合わせる。身長がクロとそんなに変わらない──約135cm前後──少女は、呆れたようにため息をついて言葉を返す。

 

「私は蓮枯(はすがれ)深月(みづき)っす、こう見えて成人してるんすよ。あと大学生なんで。子供じゃないです」

「あ〜……そう、なんだ。──蓮枯深月?」

「え、はい」

 

 名前を聞き返されてキョトンとしながらも小首を傾げる少女──深月。彼女の名前には、いつぞやに聞き覚えがあったのだ。

 

「……水角大学に通ってる?」

「? はい」

「東間ほなみを知ってる?」

「……まあ、はい」

「あいつは友達?」

「たぶんそう、部分的にそう。……ってなんで急にアキネーターごっこ始めたんすか」

 

 あんまりジロジロ見ないようにしつつ、急に質問をした意図を話す。

 

「あいつが俺の名前出してない? 探偵やってる桐山与一っていうんだけど」

「桐山……あー、あー。なんか聞いたことありますね。ちょくちょく話題に出てました」

「────。今度、あんまり大学の方で俺の話題出さないように言っといてくれる?」

「うわすっごい嫌そうな顔」

 

 いや、まあ、嫌ではないんだけどさ……程々にしてほしいって話をね? 

 ……ともあれ、情報収集を続けるべく、深月への質問を続行する。

 

「深月は、ここに呼ばれるような仕事をしてるのか? 知り合い曰く才能というか実績というか、そういったものが必要らしいけど」

「んまぁ、まあ。私は……こう、ゲーマー……的な? ことをやってたりもするんで」

「ゲーマー。というと、ゲームの大会とかに出てたりするアレのこと?」

「そっすねぇ。一応、優勝経験もあるんで、そっち方面が呼ばれた理由なんですかね」

 

 どことなく渋そうな顔をする深月。あんまり、人に言いたくないのだろうか? 

 しかし、結月みたいにアホなわりにゲームの腕が立つような奴を知っている側からしたら、その分野で優勝できるのは凄いことだ。

 

「そんな顔して言わなくても。凄いことなのに」

「……本気で言ってるんすね」

「なんで冗談を言わなきゃいけないんだ」

 

 こちらの言葉に訝しむように驚く深月だが、そんなに変なことは言ってないだろう。

 

「──初対面の人に言うことじゃないんすけど、私みたいなのは、基本的に舐められるんすよ」

 

 深月はあちこちがカールして跳ねたボサッとした黒いロングヘアーを伸ばし、メンズのモノなのだろう背丈に合わない大きさのスカジャンを羽織り、その中にはシャツとロングスカートを着込んでいる。

 

 なにより目立つのはその低身長だ。成人していてこの背丈では、侮られるのも無理はない。それにゲーマーであるということも、()()()と思う人間のほうが多いと察しが付く。大変だろうな。

 

「まあ、少なくともいまキミの目の前に居る変な男は、キミを侮ることも舐め腐ることもないから、褒め言葉は素直に受け取ってもらえるかい」

「……ふっ、変って。自分で言うことっすか」

 

 すっとぼけたように言うと、深月は小さく笑って微笑を浮かべる。

 ──他人の笑う顔なんて見飽きるくらい見てきたものだが、なんというか、こう。

 

「────。ウーン……?」

「なんすか今の声」

「いや、なんでもない」

 

 小首を傾げる深月から視線を逸らし、屈む際に曲げた膝の上に腕を置いて、片手で頬を触る。

 なんか妙に熱い気がする顔を冷ますように手で扇いでいると、こちらとは別グループを作っていた大人たちの方からざわつく声が届く。

 

 

 

「──ようこそおいでくださいました」

 

 そちらに二人で顔を向けたところ、その更に奥──二階に続く階段の上からちょうど、五人のメイドを連れた女性が降りてくるところだった。

 

 艶のある茶髪、狂気的な光を孕む瞳、その身に宿す高い魔力。間違いなく、この女は魔術師だ。

 

「単刀直入に言いましょう。あなた方を招待したのは、ゲームをしてもらうためです」

 

 わざとらしくにこりと微笑み、女は言う。

 

「名付けて正体当てゲーム。()()()()()()()()()()()は誰か? 皆様はそれを、証拠も込みで指名し、言い当ててください」

 

 ──()()されてやることが、()()当てゲームって、コト!? とか言ったら引っ叩かれそうだからやめておくとして、だ。

 ……やはり白百合か。ここ最近の流れ的に出会う頻度が上がっている自覚はあったが、これで3度……いや2度か。イデアは厳密には白百合ではない。

 

「白百合、ねぇ」

「……? 与一さん?」

「いやなんでもない」

 

 思わず呟いた言葉を拾った深月を横目に、思案する。ゲームを提案した女魔術師。彼女は()()()()()()()。……そもそもの『白百合は誰かを当ててくださいと言った本人が白百合だったらゲームとして面白くないだろ』、という意味ではなくて。

 

 いや、今回の正体当てゲームがゲームになってないという意味にはなるから同じか? 

 

 だって……

 

 

 

 

 

 

 

「……最速で終わらせられるけど、これいきなり当てたら駄目なやつだよな」

 

 ──だって、イデアとシラユリ様と全く同じ顔のメイドが、女の後ろに立ってるんだもの。

【遍在】の魔術による白百合(オリジナル)の複製体である彼女たちの特徴は、クローンみたいなものゆえに、多少の年齢や身長の差以外は全部同じなのだ。

 

 もう既に別個体を見てるから誰が白百合か分かりますよ、は果たしてゲームとして面白いのか。そんな思考をしながら屈んだ姿勢から立ち上がり────あ、白百合(本物)と目が合った。




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