とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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白百合姫の招待状 2/4

 ──よくよく考えたら『本物の白百合はそいつだ、証拠は別個体と会ってるから。お前ら魔術で複製されたコピーだろ?』は証拠にならないし、精神科を紹介されて終わるだろう。なのでボツ。

 

「──失礼、幾つか質問いいか?」

「…………。ええ、どうぞ」

 

 ひとまずゲームに関する質問をしておくか、と挙手しながら問いかけると、女は一瞬『誰だっけこいつ?』みたいな顔をしてから笑みを浮かべる。それに違和感を覚えながらも、言葉を続けた。

 

「? ……まず、『いま目の前にいるあんたを白百合だと宣言したらどうなるか』、『正解したとして何か報酬でもあるのか』、『他参加者と協力して解いた場合は報酬の分配はどうなるのか』、その辺は早い段階で聞いておいたほうがいいと思ったわけだが」

 

 ……いかんな、相手が魔術師だとわかった所為で丁寧口調が崩れてる。

 こちらの心情など知ってか知らずか、女は逡巡するように顎に指を添えながら答えた。

 

「中々、聡いようで。そうね、一つずつ返答しましょう。まずいきなり私が白百合だと宣言したらどうなるか? どうもならないわ、だって証拠が無いのだから。……今の質問は例えとして見逃しますが、手当たり次第に指名されても困るので──参加者一人につき回答権は一回としましょうか」

「それはこのゲーム中全体を通して?」

「ええ」

「ゲーム自体は今日で終わるのか?」

「いいえ。誰が白百合かを当てる、までは続きます。勿論途中退場はご自由に、ただ……次の質問を聞いたら、帰る気は失せるのでしょうけれど」

 

 くすり、と上品に笑い、目尻を細めて我々参加者を一人ずつ一瞥し、女はさらに続ける。

 

「次の質問はまとめて答えましょうか。報酬? 出ますよ、ただ……何を渡すかは教えません、報酬の中身によってやる気を上下されても困りますから。人によってはお金よりも宝石を欲しがり、宝石よりもお金を欲しがる。あなた方全員が金銭を求めているわけではないでしょうからね」

「つまり正解したやつが欲しいものを与えてくれる、ということか」

「そう捉えてもらって構いません」

 

 まあ、それもそうか。こちらとしても、別にお金が欲しくてここに来たわけじゃないし。

 

「そして最後に、誰かと協力して答えまでたどり着いた場合、報酬はその人達できっちり分割させます。例えば……報酬が賞金1000万円だとしましょう、二人で解けば500万円ずつ、六人全員で解けば六等分。さて、おいくらになるでしょう?」

「急にクイズ始めた……。だいたい166万円?」

「と、いうことです。先程も言いましたが、報酬が必ずしも金銭とは限りませんから、解くのは一人でやることをおすすめします」

 

 ……ああなるほど、解答者の求めるものがお金だとしても、協力者は未知の情報を欲しがるかもしれない。そこで揉める可能性があるから、一人で解くことを勧めてきたわけか。……面倒くさいな。

 

「では、私は二階の書斎におります。館の探索はご自由にしてください」

 

 軽い会釈をして、女はそう言って踵を返す。メイドたちはこの場に残すってことは、変なところに行かないようにする監視役だろう。

 ……参加者六人、メイドは五人、内一人はたぶん白百合(本人)。これどうやって接触するかな。

 

「与一さん与一さん」

「ん、どうした?」

 

 ふとコートの端をクイクイ引かれ、続けて深月に声をかけられ屈むと、彼女は提案をしてきた。

 

「よければ一緒にやりませんか?」

「いいけど、報酬は分割だぞ?」

「私は報酬とか要らないっすよ。逆に与一さんはなんか欲しいものないんすか」

 

 そう問われて、少し考える。

 

「……まとまった休み?」

「それ願われてどうしろってんですか」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ともあれ、こちらとしても何日も滞在したいわけではない。さっさと終わらせるべく、深月と共に二階へ上がり早速と書斎に訪れる。

 コンコンコンとノックをして、扉の奥から了承の声を聞いてからガチャリと開けた。

 

「何かご用?」

「探し物があってな」

「探し物?」

「ああ、写真だ」

 

 こちらが言うと、女はピクリと眉を跳ねさせる。そう、探しているのは写真だ。

 

「ざっと見て回ったが、館には写真が1枚も無かった。本物の白百合姫がこの館で暮らしているなら、館の何処かに本人の写真を入れた写真立ての一つや二つ、()()()()()()()()

「……なるほど」

「だとしたら、『ほぼ答えだから隠している、最初から存在しない、アルバムならある』──選択肢としてはこのいずれかになる」

「だから、書斎に来たと」

 

 女は値踏みでもするようにこちらを眺め、それから愉快そうに口角を歪めて返す。

 

「あなた一人を招いてじっくり話をしたほうが、よっぽど楽しめたかしら」

「……勘弁してくれ」

「ふ、ふ。一応言っておくと、ここにそういったものはありません」

「…………。逆に言えば、探せばちゃんと証拠を見つけられはする、と」

「さあ、どうでしょう」

 

 否定も肯定もしない微妙な顔で肩を竦める女を見て、こちらも踵を返して扉に向かう。──と、こちらの背中に女がふと声を投げかけてきた。

 

「ああ、それと」

「ん」

「あなたの名前、()()()()()()()?」

「────。()()だ」

「そう、覚えておくわ」

 

 あっけらかんと嘘をついたが、特に疑問にも思われず、改めて扉を出る。

 

 

 

「あ、与一さん。どうでした」

 

 部屋から離れ、廊下で待っていた深月の方へと歩き、壁に背中を預けるように屈んで言う。

 

「確定した、あいつは白百合じゃない」

「……そうなんすか?」

「俺の名前を知らないし、偽名にも疑問を抱いていない。さて、なーんでだ?」

「あー……主催者じゃないから?」

「正解」

「──ん? 偽名?」

 

 深月が小首を傾げる。荷物の底から招待状を引っ張り出してそれを見せながら、更に言葉を続けた。

 

「外でメイドに名前の記入をさせられただろ? あのとき俺は桐山龍一と書いた。そしてついさっき、あの女から名前を聞かれた。館全体で情報共有が出来ていない……あるいはしていない。これこそが、あの女が白百合ではない証拠だ」

「なるほどっすねぇ。主催側なら、そもそも招待状を送る以上は顔も名前も知っているはずと。ところで龍一って誰なんです?」

「俺が尊敬してる大人の名前」

「はぇ〜」

 

 手紙を仕舞い直して、立ち上がってから深月を手招きして廊下を歩く。

 ついてくる彼女を尻目に、階段の方へと向かいながら次の行動を説明する。

 

「さて──じゃあ、本物に会いに行くか」

「……最初にそっちに行けばよかったんじゃ?」

「先に偽白百合が本当に偽物だと確定させたかったんだよ。それに……んー、いやあ、まあ……少〜しばかり事情が複雑でねぇ」

 

 ──厳密には深月を巻き込みたくない、のだが。じゃあそれを言ってこの子が素直に聞いてくれるかと思うと……ねぇ? 

 

「──あ。与一さん与一さん」

「ん?」

「いやいま、ふと嫌な考えが頭を過ったんすけど、言ってもいいですか」

「なにさ」

 

 などと思考していると、不意に深月がそう言ってボサボサの髪を掻きながら続ける。

 

「普通に考えて、白百合姫じゃないにしても、メイドとかなら参加予定の人の顔や名前は知ってないとおかしいと思うんすよ」

「まあ、そうだね」

「──こっちの顔も名前も把握できてないし白百合姫でもないって、()()()()()()()()()()()

「……おおう、鳥肌立った」

 

 

 

 

 

 

 

 ──下に降りて廊下を歩く。なんか自己紹介も出来ずに話をする機会すら無くて、他参加者四人とは顔も合わせられていないが、まぁたぶん全部終わったら記憶処理するから別にいいか。

 

「……あ、いたいた」

「あの人っすか」

「そう」

 

 何をするでもなく廊下でポツンと立っている一人のメイド──というか、白百合だ。

 恐ろしいくらいに同じ顔をした個体を見て、なんとも言えない怖気が背筋に走るが、深月の手前ビビるわけにもいくまい。

 

「ちょっといいか」

「────。お待ちしておりました」

 

 近づいてきたこちらを見るや、白百合は顔を上げてそう言葉を返す。……深月より少し大きいくらい、だいたい140センチくらいかな。

 

「……面倒な部分は端折ってさっさと答えを言うぞ、【遍在】により複製された別個体とは既に会っている。あんたが白百合だな」

「はい、正解ですわ」

「単刀直入に聞くけど、あの女はなんなんだ? 魔術師だよな、だから俺に助けを求めたのか?」

「……アレこそ、今回のゲームの開催直前に急遽あなたを招待した理由ですわ。桐山様」

 

 小さくため息をついて、メイド──本物の白百合が渋い顔を作って言う。

 

「現在この館は、一週間前に突如として侵入してきたあの女に支配されています。わたくしが雇っていた魔術師(メイド)のうち半数は殺害され、半数が精神汚染により洗脳状態に陥っています」

「……なんであんたは無事なんだ」

「わたくしの死をトリガーに、書斎で保管している魔導書の全てが館ごと焼失するようプロテクトを掛けてあるからですわ」

「なるほど、自分を人質にしたわけだな。……というか魔導書を集めてるのか」

「こう見えて、コレクターですので」

 

 ──碌な趣味ではないな。と思われているのは予想しているのか、白百合は薄く笑みを浮かべる。

 しかし、洗脳状態……とすると殺すのは不味いわけだよな。それに今すぐやりあうとなると他参加者を守りながら……面倒だ、上手いこと先に帰らせたり……は、まあ無理だろう。

 

「あのー、与一さん」

 

 さてどうするか、と考えていたところ、会話に混ざらなかった深月が口角をひくつかせて続ける。

 

「私が聞いたら不味そうなワードが飛び交ってたんすけど、何がどうなってるんすかこれ」

「…………。あとできちんと説明するから、いまはお口チャックでお願い」

「あ、はい」

「……さっきから連れているからてっきり説明はしてあるのかと思いましたが、まだだったんですの? なぜ無関係者を連れているんです?」

 

 そんな風に怪訝な顔で問い掛ける白百合に、こちらとしても返答に困る。なんか流れで、としか言いようがないのだから。

 

「いやまあ、成り行きで?」

「ふぅん。まあ、わたくしの知ったことではありませんが、話すなら話すで最後まで守ってあげなさいな。そちらの組織、イカれてますし」

「俺は連盟組織所属じゃないぞ」

「関わってるなら似たようなものでしょう。わたくしも神秘の秘匿には賛成ですが……組織でやってる、という一点でもう胡散臭いですわ」

 

 ──こいつ、連盟組織のことも知ってるのか。いや普通に知ってておかしくないか。とはいえ、あんまりボロクソに言われるといい気はしないな。

 

「……さ、て。あまり長話をしているとあの女に警戒されますから、そろそろ別れましょう。戦いは夕食後になりますわ。アイツ、食事に強力な睡眠薬を仕込んで参加者(あなたたち)を贄にするつもりですから」

「えぇ……」

「お二人の食事からはそれとなく薬を抜いておきます。あとは現場での流れを汲んで、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に」

「もうそれ100回は聞いた気がする」

 

 ……結局、最後には『いつもの』なのね。

 やれやれと頭を振って、ここから離れる前にそういえばと白百合に質問をする。

 

「あの女魔術師、どうするんだ? 殺すしかないなら殺すけど、俺としてはこっちで組織に突き出すべきだと思っているんだが」

「ああ……可能な限り生け捕りで頼みますわ」

「そうか」

 

 物騒な発言に横で深月がギョッとしたけど、それはそれとして白百合は言う。

 殺しはナシ……と。好き好んでやりたいわけじゃないし、そういうオーダーなら喜んで従わせてもらおうかな──などと考えていると。

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に生け捕りにしてください、わたくしが直々にぶっ殺しますわ。ちょうど、魔導書用に、人皮のハードカバーを作りたかったんですの」

 

 更にそう続けて、彼女はにっこりと、花を咲かせたような笑みを浮かべた。

 

 ──め、めちゃくちゃブチギレている……。




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