とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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韋駄天と植物王の試練 1/4

 館での一幕から数日。連絡先を交換した深月ともちょくちょく通話をしたりしていたあるとき、唐突に丞久先輩から呼び出されたのだが。

 

「ここ、何度来ても悪の組織みたいですね」

「まあ都内のビル丸ごと確保して地下に本拠地構えるような正義の味方は居ねぇわな」

 

 ゴウンゴウンとエレベーターが下がっていく中で、横に立つ眼帯の女性──明暗丞久。探偵としても魔術師としても先輩である彼女に連れられ連盟組織に来たのには……理由がある、のだろう。たぶん。

 

「で、なんで連れてきたんですか?」

「……お前、【不老長寿】の申請したの忘れてねぇか。白道からはサインもらえたから、あと二人分を今回で確保しきるぞ」

「あぁ、そういえばそうでしたね。──いや事前に連絡しましょうよ、いきなり呼び出されて『あー【不老長寿】の申請通ったんだ〜』ってなるわけないでしょ。先輩? こっち見てください先輩?」

 

 イタズラがバレた子供みたいに顔を背けて口を尖らせる先輩に呆れつつ、ようやくと止まったエレベーターのドアが開くのを待つ。

 

「それにしてもお前、なんか一皮剥けたか」

「……そうですかね。このあいだ例の館で空鬼と戦ったからかな、なんかこう……魔力操作の精度というか、そういうのが上がった気はします」

「空鬼か。あいつ微妙に硬いんだよなぁ」

「殴る前提なの(こわ)……」

 

黄衣の王(ハスター)】が無くなってからすっかり蛮族みたいに…………うーん? それは前からか。

 失礼なことを考えていたことだけは察したのか、ドアが開くと同時に後頭部をスパンと叩かれつつ、二人でエレベーターから出る。

 

「ただ(りき)めば良いってもんじゃねぇし、ただ強い感情を持てば良いってもんでもねぇ。適度に緩く適度に強く、適度に鋭く──言ってる意味わかるか?」

「まあ、分かるといえば分かりますけど」

「今のお前はそんな感じだな。少し無駄が無くなった、って感じだ」

「そう見えます?」

「見える見える。いやぁ、師匠としちゃあ弟子の成長はなんぼあってもいいからな」

「褒め方雑すぎない……?」

 

 カラカラと笑う先輩と共に通路を歩くと、少しして見覚えのある人物が待ち構えていた。

 

「……お前らは、毎回揃うと漫才でも始める決まりがあんのか?」

「ないですけど」

「つーかお前はお呼びじゃねえよ。あいつ……リオンはどうした」

 

 人物──秋山さんが、腰に1丁だけ拳銃を吊るした格好で歩み寄ってくると、横の通路から先輩の疑問に答えるように少女が一人。

 

「お待たせしまし……桐山さん?」

「あれ、御剣ちゃん。久しぶりだね」

 

 メンズのウインドブレーカーを着込んだその少女は、いつぞやの親子問題の解決に協力した魔術師──御剣リオンちゃんであった。

 

「あのあと会う機会が無かったから、なんかすごい久しぶりに顔を見た気がする」

「……そう、ですね。僕も同意見です」

「そういやお前、初対面のリオンのこと男だと思ってて対応ミスったらしいな」

「…………。んまぁ、まぁ〜まあまあまあ、その話はちょっとね、また今度ね」

 

 先輩の爆弾発言に一瞬ピシリと空気が固まる。気まずさから言葉が詰まるが、当の御剣ちゃんがファスナーを上げきった上着に口元を隠しながら言う。

 

「僕は気にしてませんよ。それで……僕だけでなく桐山さんと秋山さんを呼びだした理由は?」

「ん? いや与一の【不老長寿】の申請が元々の目的。お前はオマケ。秋山は呼んでねぇ」

「ああ。俺はこっちの予定まで時間があって暇だから首突っ込んだだけだ」

「えぇ……」

「自由だなぁ」

 

 と、呆れつつ呟く。携帯で時間を確認していた秋山さんは、それからフンと鼻を鳴らす。

 

「【不老長寿】、ね。前も聞いたが、人間辞めてまでそんなに長生きしたいもんか?」

「前も言いましたけど、俺の場合は呪物を取り込んだ所為で死ぬとイゴーロナクになるから、ってのもあるんですがね。……それはそれとして、長生きする理由があるので」

「どうせ女だろ」

「否定はしませんけど」

 

 そんな……そんな嫌味な言い方ある? 

 

「秋山さんこそ、長生きはしたくないんですか」

「するにしても、普通の方法でって話だ。マトモじゃねえのはこの仕事だけにしてぇよ」

「うーんそれはそう」

 

 それから秋山さんは我々三人に背を向けて、さっきこちらが出てきたエレベーターに歩きながら後ろ手に振って締め括る。

 

「あばよ。また近い内に仕事手伝え」

「うい。考えときます」

 

 秋山さんの姿が完全に見えなくなった辺りで、先輩が口を開きあっけらかんと呟く。

 

 

 

「──まぁあいつの場合、白道が人間として死なせてくれるのか? って話になるんだけどな」

「……そこ、なんですよね」

 

 御剣ちゃんも察しがついているのか、どことなく面倒くさそうな顔で続いた。

 

「俺はあんまり交流してないから詳しくないんだけど、白道さんってそんなにヤバいの?」

「会話の節々で、『ああ、この人、本当に人間じゃないんだな』と思わされますよ」

「そもそも秋山が脳ぶち抜かれて一回死んだ原因は白道だからな。秋山もたぶん10年後には頭にネジ刺さってて『あーうー』しか言わなくなるぞ」

「嫌だなぁそれ」

 

 絵面としては面白いかもしれないけど、それは少しばかり、あらゆる尊厳が踏み躙られているにも程があるだろう。笑い事ではない。

 ──などと、そんな会話をしながら通路を歩き続けて数分。先輩に案内されて通されたの部屋は、学校の体育館のような空間が広がっていた。

 

「なんか懐かしい空間だなぁ」

 

 入るやいなや、既に居た他の連盟組織のメンバーたちが一斉にこちらを見てくるが、丞久先輩を見て即座に顔を逸らしていく。

 

「……先輩、嫌われてるんですか?」

「嫌われてるっつーか怖がられてる、が適当だな。私を好きなのはお前くらいだ」

「寂しいこと言わないでくれます? 他にもいるでしょ、その…………探せば」

「へっ。ま、居るかもな。探せば」

 

 薄く笑いながら、ポニーテールの根本を掴んで毛先までさらりと梳かす先輩は、小さくかぶりを振ってから体育館のような部屋──訓練室の一角にこちらと御剣ちゃんを連れて行く。

 

「……遅かったな」

「お待ちどーう。頑丈な鉄砲玉をお届けに参ったぜぇ、()()()

 

 連れて行った先にいた一人の男。彼はこちらに振り返ると、見覚えのある顔を向けてくる。

 その男は、亡き妻の蘇生の為に娘を誘拐し、神格を宿して儀式を行おうとした強力な魔術師──姫島ヒカリで間違いなかった。

 

「ん? …………ヒカリさん!?」

「っ──姫島さん……!?」

「なんだ、死人でも見るみたいに。まあ、全身穴だらけで8割死んでたわけだが」

「退院したんですね……」

「ああ。で、結局辞めた職場に復帰だ」

「それは、また、どうして」

 

 ヒカリさんは、こちらの問いに答える代わりに先輩を横目で見る。

 

「私が誘った。お前の【不老長寿】の申請には五人必要だが、私と秋山と白道……あと一人話通じそうなやつが居るんだけどな、それでも一人足りねぇだろ? だからヒカリに再就職してもらったわ」

「よくここに戻ってこられましたね???」

「この組織は良くも悪くも実力至上主義みたいなもんだからな。あわよくば俺に死んでもらいてぇと思ってる連中を全員撥ね飛ばしてなんとかした」

「の、脳筋…………」

 

 御剣ちゃんの絶句を余所に、こちらとしてもヒカリさんのこういう部分が琴巳ちゃんに似なくてよかったなぁという言葉が口から出るのを押さえつつ。

 

「──で、だ。俺としても与一の力になることはやぶさかじゃねえ。もちろんサインも済ませた……が、もののついでだ。俺からも提案がある」

「なんです?」

 

 ヒカリさんはそう言うと、一拍の間を空けてから口角を歪めてニヤリと笑って口を開いた。

 

 

 

 

 

「──力が欲しいか?」

「やっぱりここ、悪の組織なのでは?」




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