とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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Seven_Deadly_Sins 3/5

「それじゃあ、方針を決めるか」

 

 ──おそらく、シセルとソフィア(未来)を利用してこの時代に来た神格が居る。

 かつて円花さんの体で暗躍していた無貌の神(ナイ)の発言には信憑性があり、ゆえにこそ、一先ずは『二人と話をするために戦って勝つ』という脳筋極まる結論で落ち着いたわけだが。

 

「シセルとソフィア(未来)の二人を相手する、裏にいると仮定して神格も警戒する、の2つに絞るとしてだ。あの二人とどうやって接触する?」

『そもそもだが、二人が襲撃したという支部では何をやっていたんだ?』

「聞いてねえのかよ。結構前から組織で作ってた特殊合金の研究………………」

「……あの、秋山さん」

「待て、マジで待て。そういうことかよ……」

 

 春秋さんの問いに答えた秋山さんが、ふと言葉を尻すぼみさせる。こちらも特殊合金の4文字を耳にして、なぜ今回、シセルがよりにもよってあの支部を狙ったのかを察した。察してしまった。

 

「そりゃ連盟組織メンバー以外の人間・怪物・神格に引っかかるセンサーが反応しなかったわけだ。()()()()()()()()()()()と生き人形が引っ掛かるような設定じゃないんだから素通りできるに決まってる」

「……え、と。つまり、シセルの体を構成している変異細胞(ナノマシン)のベースになっている特殊合金は、僕たちの組織が扱っている例の特殊合金と同じモノを使っている……ということですか」

 

 支部で扱っている特殊合金と、未来でナノマシン作成に利用した特殊合金は、全く同じ物質だった。その事実に気づいたリオンちゃんの言葉を聞いて、春秋さんはため息をついてから口を開く。

 

『────。なるほど、そんなモノを扱っていたのか。この前、兵器開発部門から「私とナイの体に魔力と生命力を爆発に変換する術式を書き込めば無限に自爆特攻出来るんじゃないか?」という提案をされた時から思っていたが、この組織中々に度し難いな』

「あいつらは特にアホだから無視しとけ。……と、メールか。ようやく来やがった」

「何かあったんですか?」

 

 呆れ気味に呟いた秋山さんが、懐の携帯を取り出して画面を見る。すると、こちらの問いに反応して視線を向けてきながら言った。

 

「あいつら、支部から本部に保存されてる魔術データをハッキングしようとしていたからな。何を抜かれたかの確認をさせてたんだが────どうやら【人形化】の魔術データしか閲覧してないっぽいぞ」

『ソフィア(未来)のバージョンアップをするつもりだろうね。与一クンの所に居るソフィアと違うのは【浮遊】の練度だ、監視カメラの録画を見返す限り、あの性能はもはやサイコキネシスに近い』

 

 ナイがこちらの前髪の毛先を弄りながら言う。確かに、映像で見る限りでもあの【浮遊】は異常な完成度だ。あの練度なら、極論【召喚(コール)】で銃火器を無数に作って一人で掃射できてしまう。

 

 それ以前に、【浮遊】の最も効果的かつ効率的な運用方法が『軽くて尖った棒を操作して射出する』ことなのだから、比喩ですらなく、やろうと思えば竹槍で戦闘機を撃ち落としかねない。

 

『ところで、皆して律儀に『ソフィアカッコ未来(ミライ)』とまで言い切って区別しようとしているのは中々に面白いねぇ与一クン』

「それはそう」

 

 でもいま言う事ではないけどね。人が対シセル、対ソフィア(未来)を脳内シミュレートしているときにアホなことを……と独りごちていると。

 

 

 

「──秋山死んだってマ〜〜〜ジィ!?」

 

 

 

 唐突に、バァン! と勢いよく扉が開け放たれ、外から見慣れた眼帯の女性──丞久先輩が、入ってくるなりそう言って右目を輝かせる。

 

「勝手に殺すな」

「なんだ。つまんねえの」

「倫理観が終わっている……」

 

 ピンピンしている秋山さんを見て、先輩の顔がスンと輝きを失う。反射的に呟いたリオンちゃんに内心で同意していると、先輩の後ろから、更に黒ずくめの女性が気だるげな顔をしながら入ってきた。

 

「まぁたボクと丞久が居ない時にしてやられたのか? 下等生物どもが」

「二人とも最初の一言で人間性を地の底に落とす決まりでもあるんですか?」

「あ? …………お前……」

 

 黒ずくめの女性────春夏秋冬円花。イイーキルス浮上により外国に出張していた彼女は、こちらを見るなり眉を顰めて悩みだす。

 

「…………そう、与一だ。与一」

「正解……!」

「ふん、ちゃんと覚えてるぞ」

 

 ふふん、と鼻を鳴らしてドヤ顔をする24歳児。小さく拍手をしたこちらに軽く馬鹿にされていることにも気づいていない程度には、中身があまりにも幼女すぎることについては……置いておくとして。

 

「先輩、円花さん、状況は理解してます?」

「秋山と小雪が無様にもターミネーターと偽ソフィアにボロ負けしたことまでは把握してる」

「合ってるの8割位ですね」

「じゃあ問題ねーだろ」

 

 いや良くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 ──情報を纏めがてら先輩と円花さんに状況の説明をしていると、顎に親指、下唇に人差し指の横側を置いて考え込むポーズを取る先輩が言う。

 

「裏に神格が居る……ありうるな」

「その根拠は?」

「この襲撃が()()()()()()()起きたからだ。敵からすりゃあ、この組織と殺り合う時に最重要なのは、如何にして私や円花なんかと()()()()()だからな」

「対応策の取られ方が敵側……」

 

 なんというか、そういうのって、主人公側が敵に対して講じる作戦じゃないか……? 

 

「この連盟組織とか私たちへの対応の『わかってる感』が絶妙にイラつく。なんつうか、ナイが円花の体で動いてた頃と感覚が近いんだよなぁ」

『私の暗躍時代に似てるから、か。ほぼ野生の勘だねぇ。言わんとしてることはわかるけど』

「……チッ!!!」

 

 ナイが頭の上でチラと円花さんを見ると、壁際に寄りかかっていた彼女は物凄くデカい舌打ちで返す。まあ不快だよね、納得と理解と妥協は別問題だ。

 とかなんとか思案していると────突如として、秋山さんとリオンちゃん、丞久先輩の携帯からビー! ビー! というアラームが鳴り響く。

 

「うわビックリした。それなに?」

「あ、と。……神格かそれに類する怪物の発生を知らせるメールの着信音ですね。並の戦闘員などでは対応できないレベルの場合のみ、僕や明暗さんたちの携帯に直接送られてくるんです」

「そうなんだ。あれ、円花さんの方には行ってないみたいだけど?」

「あん? ああ、ボク携帯の電源切ってるから」

「携帯してる意味無いじゃん」

 

 懐から画面が真っ暗のスマホを取り出す円花さんが、仕方ないとばかりに電源を入れ直す。遅れて響くアラーム音に顰めっ面をしながらも内容に目を通すのだが、更に眉間に皺を寄せて呟いた。

 

「京都に3匹の巨大ムカデが現れ暴走を開始、東京渋谷に異常な数値の魔力反応。……()()()()()()()()か? はん、露骨だな」

「罠だろ。100パー罠。間違ってたら秋山を空中で爆発させてもいい」

「俺の命で遊ぶな」

 

 先輩の本気染みた冗談に返しつつ、同じ考えなのか秋山さんも強く言い返さずに、ムカデを思い出すかのような嫌そうな顔でメールの内容を読み込む。

 こちらもリオンちゃんの携帯を横から覗かせてもらいながら、少し考えて口を開く。

 

「これ、囮……というか、『ほら先輩と円花さんが出張らないと大変だぞ』ってアピールしてるのは京都のムカデですよね。たぶん渋谷の魔力反応はシセルが居るぞっていう()()だと思います」

「だろうな。どちらにせよムカデの存在と魔力反応は事実として同時に発生している、敵の誘いに乗る形にはなるが……京都にはお前らが行け」

 

 こちらの言葉に続いて秋山さんが言う。先輩と円花さんに視線を送ると、円花さんが肩を竦めた。

 

「帰って早々に仕事か。ブラックめ」

「ブラックなのはお前の格好だろ。いい加減その夜道で見失う色合いやめろ、せめて赤か白を足せ」

 

 先輩のあまりにも真っ当な意見に、円花さんは不服そうに不機嫌な顔をする。

 

「うるさいな。……それで、ボクらはその巨大ムカデ? を殺してくればいいんだろ」

「ああ、俺たちはその裏で渋谷に向かう。敵の出方を窺ってから臨機応変に対応することになるが……最悪お前らが戻って来る時間稼ぎに徹する」

「まあなるようになるだろ。んじゃ、私と円花は京都行きか。【門】で飛べばすぐだな」

 

 よーし、と言って体を伸ばす先輩と面倒くさそうに壁際から離れる円花さん。

 我々も渋谷に向かう準備を──と思ったのだが、そういえばと頭の上に寝そべるナイに問う。

 

「というかさ、ナイも手伝ってくれれば少しは楽になるんじゃないの?」

『やれやれ。いいかい与一クン、前章ボスがでしゃばるとつまらないだろう? だから駄目なんだ』

「……??? つまり?」

 

 何を言っているんだ? と疑問符を浮かべたこちらの顔を見るように、頭上から離れてふわりと浮かぶと、ナイは腕を組みながら続ける。

 

『私と姫島ヒカリは連盟組織(じたく)待機だ。真面目な話をするとね、この分断を機に本部に襲撃してくる可能性がゼロじゃないんだ』

「それもそうか」

『まぁ、神格(わたし)と姫島ヒカリ、あと手伝う気は無いにしても植物の王(ヴルトゥーム)が下に居る施設にカチコミしにくる馬鹿は居ないだろうけれど……万が一を考えれば我々が残るのがベターかな』

「……仕方ない、か。そっちも頼むぞ、実力は信頼してるんだから」

 

 こちらがそう言うと、ナイは生き人形の小さな顔をニンマリと歪めて、円花さんを見た。

 

『信頼、だとさ。円花、キミはされたことある? 信頼。与一クンからされたこと、あるかい?』

「こいつ殺してぇなぁ〜〜〜……」

 

 額に青筋を立てて、手のひらに視覚化される程の魔力をスパークさせる円花さんだが、逡巡するように視線を斜めに上げてから提案した。

 

「……チッ。じゃあボクにも考えがある、ムカデ退治には与一も連れて行くぞ」

「なんで…………??」

「お前らの嫌そうな顔で察したけど、件の巨大ムカデと戦ったことあるんだろ。じゃあ経験者を多く連れていけば時短になる」

「いや俺は知ってるけど戦ってないよ。戦ったのは先輩と秋山さん」

 

 ついつい、と指を二人に指すと、円花さんは丞久先輩から秋山さんに視線を移して眉を顰める。

 

「────。そいつはなんかヤダ」

「ガキが……舐めてると今月の給料減らすように打診するぞ……」

「ふん。行くぞ」

「え〜〜いやちょっちょちょっ俺戦力にならないって、二人だけで暴れてきた方がよっぽど時短になると思う……うわ力強っ」

 

 ズカズカ歩いて座っているこちらの腕を掴む円花さんに引き摺られ、後方でかなりの魔力が使われたのを察するに【門】を使ったのだろう。

 ついでとばかりに先輩まで反対の腕を掴み、どんどん引き摺られていく。

 

「あの、円花さん? 俺にムカデを倒せる戦闘能力は無いと思うんですけど?」

()()()()。ボク……の体を使ったナイに勝って、この間も格上に勝ったんだろ? 無いわけがない。お前自分のこと過小評価し過ぎてないか?」

 

 ──なぜ嫌がっているんだ? 勝てるのに? とでも言わんばかりの困り顔。それを見て、円花さんが本気で戦わせようとしていることに気が付いた。

 

「あ、秋山さーん! 助けてくれー! この人は俺のことを過大評価し過ぎている!!」

「はいはい、23にもなってワガママ言うな」

「諦めろ馬鹿弟子、師匠も……辛いんだからよ」

「24にもなって好き放題してる人たちに言われたくな──おあーーーーっ!?」

 

 二人がかりで引っ張られたまま、一人だけ逆を向いた二人三脚みたいな姿勢で【門】の向こうに飛び込……まされる。直後に感じたのは風──否、暴風。ここは、京都の遥か上空だった。

 

「なんっ、でっ、空中に繋げた!!?」

「この方が状況把握しやすいし」

「案の定だな。見ろ」

「うべっ」

 

 ぐいっと首根っこを掴まれ反転させられると、眼下には京都の街並みが────そして、3匹の巨大ムカデがのたうち回り、暴れ回る惨状が広がっていた。

 

「……嘘だろ、ムカデを放っておきながら【人払い】すら使われてないのか!?」

「ダルいな。死人まで生き返らせる時間操作(まきもどし)にどれだけ魔力使うと思ってんだ」

「それが狙いだろ、円花の魔力を浪費させるためだけにこんなことをしてる。……ま、記憶処理とか情報の隠蔽は本部に任せるとして……だ」

 

 落下しながら、眼下を見下ろして。先輩の右目には、確かな怒りが滲んでいる。

 

「与一、もう戦力じゃないとか倒せないとかワガママ言う時間は終わりだ。出来る出来ないじゃない、()()。ノルマは一人1殺」

「────。流石に、この状況でそんなこと言ってる場合じゃないですしね」

 

 そう言いながら、右手で輪を作るように『C』の形にゆるく曲げて、手を軸にした小さな【門】を作り、左手を突っ込んで事務所から直接妖刀(つくも)を取り出す。

 真面目な空気が苦手な雅灯さんはずっと黙っているし、取り出されたばかりの九十九も何も言わないが、それでも先輩のように破壊された街並みを見て憤りのような感情を抱いていることは伝わってくる。

 

「円花ぁ、お前も気張れよ。与一にいいとこ見せるチャンスだぜ」

「ふん。言われなくてもやる。なんでわざわざイイーキルスに行ってたと思ってるんだ」

 

 左手に鞘を掴み、妖刀を抜き放つ傍ら、円花さんの言葉に続いてその体から冷気が溢れ出す。

 

「そろそろ気づかれるぜ。……【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】」

「【禍理の手】。頑張りますか」

 

 先輩の体に黒い魔力が纏わりつき、こちらの背中から鎖が生え、先端に禍々しい手が伸びる。

 そして上空で起きた魔力の変化に気づいたのか、ムカデたちは一斉にこちらを向く。その口に光が収束し、レーザーとなって放たれ────

 

 

 

 

 

「調整がてらの初陣だ、【凍れる灰色(アフーム=ザー)】」

 

 ──その言葉と共に、3本のレーザー……()()に込められた魔力がパキンと凍り、粉々に砕け、季節外れの雪のように舞い散った。




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