とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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Seven_Deadly_Sins 4/5

「なんっ、でっ、空中に繋げたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

【門】の向こうで与一の声が小さくなって行き、やがて【門】もバツンと閉じる。

 残された者たちのうち、秋山がそれを見届けてから、すっとぼけたように言った。

 

「くそっ、与一が連れて行かれた! 俺は…………無力だ…………!!」

「見送ってから言うセリフでは無いかと」

「それもそうだな。じゃ、戦力揃えるか」

 

 リオンの言葉に、スンと切り替えて椅子から立ち上がり、秋山は携帯を手に取る。

 

「俺とリオン、有栖川春秋。それと外からも有栖川真冬、楠木葉子、結月、ソフィア……あと夏木大陽とアビゲイル・ウィンターも呼ぶか」

『あ、私はもう行くよ。あとは頑張りたまえ』

 

 ──と、そこでナイが完全にあらゆるモノへの興味を失ったような顔でそう言って、自分用に小さな【門】を作って中に消える。

 

『……清々しいくらい露骨だなぁ、彼女』

「極論、あいつにベタ惚れされてる与一くらいしか言うこと聞かせられねぇからな」

「大変ですね、与一さん」

「お前もナイ(あいつ)くらいグイグイ行かねぇと。与一みたいなのは来る者は拒まないし去る者は追わないタイプだ、()()()()?」

「な゛……んのことですか」

 

 あっけらかんとした顔で言い放つ秋山に、リオンが一瞬硬直しながらも視線を逸らして誤魔化す。

 

「べ、別に……僕はそういう軟派なことは……」

「いつ時代の誰だよお前」

「それにヒメも与一さんのことが……なので……僕は身を引いたほうが……」

「めんどくせーなこいつ。既成事実の一つでも作る努力をしろよ」

『私の娘も()()だから、敵に塩を送ることになるけれど、キミももう少し積極的になるべきだね』

 

 指先を合わせ、ウインドブレーカーに口許を隠してモジモジとするリオンに、秋山と春秋は呆れながら詰める。それから「あ」と声を上げて、秋山がそういえばと、医務室の奥でカーテンが閉め切られた一角に声を荒らげた。

 

「おい小雪! 起きてるか!」

「……………………。あ゛あ゛い゛」

 

 シャッと開けられた中から、のそりと少女──小雪が現れた。上着を脱いだワイシャツ姿の小雪は、ふらふらとした足取りで近づいてくる。

 

「その声は寝てたな」

「寝゛て゛な゛……んん゛。寝てないです、寝てない。なんかシリアスな話が始まって暇だったからまぶたを閉じてただけです」

「それを寝てると言うのでは」

 

 ジトっとした目でリオンに見られて、小雪もまた視線を逸らして誤魔化すように上着を着直す。

 

「一先ず与一の事務所と夏木大陽の家に向かっ……いや二ヶ所に【門】で出入口繋いでこっちに呼んでから全員で渋谷に飛べばいいのか」

「……??」

「小雪、俺らがなんの話をしてたか言ってみろ」

「え。……与一くんの体からなんかフェロモンが出てるとか……なんとか?」

「まあ、当たらずとも遠からずだな」

『違うと思うのだけどね』

 

 

 

 

 

 

 

 ──東京渋谷、その一角に集まる男女が十人。二人の男と五人の女、3体の生き人形が互いの顔を見やり、深刻な雰囲気に硬い顔をしていた。

 

「さ、て。来る前にも言ったが、これからほぼ確実に渋谷が戦場になる。マトモな戦力になりうる奴らは俺たちだけだ、楽しくなってきたな」

『あのぉ、秋山さん?』

「なんだ」

連盟組織(そっち)から戦闘員呼べないんすか?』

 

 小さな手で挙手して、真冬の傍らに浮かんでいた生き人形──結月が提案する。

 

「あいつらは戦闘員とは呼ばれてるが、ぶっちゃけるとお前1人であいつら五十人分の戦力になる」

『わぁ……っかんねぇ〜。数値(ステータス)出して比べて欲しいよその辺。つまり役に立たないのね』

「いや。役に立たないっつうよりは得手不得手? このレベルの案件にまでなると居ないほうが邪魔にならない分マシ、みてぇなもんだ」

『それを役に立たないって言うんすわ』

「じゃあそういうことだ。つまり使えねえ」

 

 ──ひ、(ひで)ぇ。と呟く結月を余所に、リオンと初対面である大陽が顔を合わせた。

 

「また新顔が増えたな。他の奴らとは知り合いみてえだが、俺とは初対面……だよな? 夏木大陽だ、水角大学で英語教諭をやってる」

「あ、はい。ご丁寧にどうも、御剣リオンです。…………英語、教諭……?」

「マジのマジだぞー」

「…………。アビゲイル・ウィンター……」

「いやいやいや、もう終わったコトじゃーん。恨みっこナシで頼むよ〜」

 

 筋骨隆々の太陽を見て、この……体格で……? と言わんばかりの顔をするリオン。

 彼の後ろからヒョコリと顔を覗かせたイギリス人の少女──アビゲイルに視線を移すと、()()()()()()を思い出し、リオンは露骨に眉を顰めて睨みつける。

 

「アビー、お前なにやらかした」

「んまぁまあまあ、チョット……ね? 骨をバキバキに砕いたり……?」

「そりゃお前が悪い。……あー、リオン、今のうちにケジメ済ませとくか? 頭ひっぱたくか?」

「いえ、そんなことをしてる暇がないので。()()()()()()()()。なのでしょう?」

「────。ッスゥ〜〜〜……」

 

 許してはいないが、妥協はしている。そんな冷めた眼差しに、アビゲイルは冷や汗を垂らして太陽の背中に隠れるしか出来なかった。

 

 

 ──そんなやり取りを眺めていた楠木葉子とソフィアは、苦笑しつつも春秋に問いかける。

 

『それで、敵はシセル? とやらと、未来の私なのね。……なんだか変な感じ』

『厳密には別時間軸のソフィアだね。向こうからしたらキミの方こそが偽物に見えると思うよ』

「よくわからない機械人間の魔術師に加えて生き人形も敵になっているとなると、誰かが敵のソフィアちゃんを相手にしないといけなくなりそうね」

「ンなもん親父にやらせりゃいいでしょ」

 

 横合いから会話に混ざってきた真冬が、そう言って春秋をジト目で睨む。

 

「生き人形同士で事態が終わるまで一生千日手やらせとけばいいのよ」

『……なにやら言葉にトゲがあるぞ真冬』

「いや、だって、ねえ?」

 

 ソフィアと同じように目線の高さに浮いている春秋を見て、真冬は続ける。

 

「親父、なんか与一とは別ベクトルで女運悪そうじゃん。断言するけど過去(こっち)に来る前に未来(そっち)でなんか選択肢ミスってるでしょ」

『どう、だったか…………なぁ…………?』

「心当たりはある気がするけどどれのことかは分からない人の悩み方……!」

 

 本気で訳がわからないとばかりに小首を傾げる春秋に、葉子が呆れながら呟く。

 それからなんとなく上を見た彼女は、ビルよりも更に上空に『何か』が浮かんでいることに気づいた。

 

「──! みなさん、上を!」

『……あれは』

 

 春秋が葉子の視線を辿って見上げると、彼もまた浮いている物体に気づく。

 円筒形のそれは、まるで見られたことを確認したかのように回転を始め──プシュシュシュシュシュシュシュ! と連続で四方八方に何かを飛ばした。

 

『なんか……願いを叶えたあとのドラゴンボールみたいなの飛ばしてるんだけど』

『シセルめ、兵を飛ばしたな』

「どういうこと?」

 

 春秋の言葉に反応して、真冬が疑問符を浮かべる。飛ばした何かの1つが軌道を変えて円筒形の物体よりも上に飛んでいき、ボコボコと歪み、膨らみ形を変える光景を見ながら言葉を続けた。

 

『ここに来る前に軽く説明しただろうけど、シセルは無尽蔵に変異細胞(ナノマシン)を増殖させられる。アレは体外に放出した変異細胞を使って組み立てた、兵を周囲に射出する輸送用ポッドだ。中には……怪物を模した兵を作るための『核』が詰められている』

「……要するに、そいつの体は自前で幾らでも素材を用意できる高性能3Dプリンターってことか」

 

 なるほどと頷き情報を纏める太陽に、春秋が頷いてさらに口を開く。

 

『そういうことだ。『核』には事前にどういう形になるかの術式(プログラム)が刻まれているから、あとは戦場に放り込めば遠隔で増殖した変異細胞が怪物を形作って暴れてくれる……らしい』

「らしい?」

『そもそも、未来(むこう)では使う相手が居なかったからね。もう滅んでたわけだし、彼女は復讐を自分の体だけで成し遂げた』

『って、んなこと言ってる場合じゃないじゃん! 飛んでったやつ潰しに行かないと』

 

 悠長に解説をしている春秋に怒声を飛ばす結月の発言に、腕を組んで思案していた秋山が反応する。

 

「わかってる、人選だが────」

『ああ、先に言わせてくれるかな。空中に居るやつの相手に真冬の空間操作(ヴォイド)が欲しい、私と真冬……あと結月クンはアレと戦いたい』

「──お前が出張る理由は?」

『簡単な話だ、おそらくシセルかソフィアは上空に陣取っている。状況確認に最適だからね』

 

 その説明に、秋山は逡巡を挟む。

 

「…………。わかった、行け。地上に飛ばされたやつは俺たちで対処する」

『ん。真冬!』

「ういうい」

 

 言われる前に既に【虚空神話(ヴォイド)】を起動し、銀髪になった真冬が自身の背後に穴を空ける。

 

「じゃ、あとよろしく。死ぬなよ」

 

 

 

 そう言って春秋と結月を連れてその場から消える真冬。閉じた穴を見送って、秋山はパンと一度手を叩いて注目させてから言った。

 

「俺、楠木葉子とソフィア、夏木大陽とアビゲイル、小雪、リオンで分かれて各自動け。敵が【人払い】を使ってない所為で戦闘は渋谷に居る民間人に確実に見られるだろうが、どうせ後で大規模な記憶処理と情報隠蔽がされるからそこら辺は気にするな」

「秋山さん、さっき飛ばされたやつ、2つだけ固まって落ちたのが見えました。私は誰かと三人で対応するべきだと思います」

 

 ──あっちに。と言いながら腕を斜め後方に向ける小雪を見て、秋山は僅かな思案の後に言葉を飛ばす。

 

「……夏木大陽、アビゲイル。やれるか?」

「おう、任せとけ。アビー……と、おチビの三人で2体を相手すりゃいいんだな」

「ウッス。頑張りまぁス」

 

 パシッと拳を手のひらにぶつけてやる気を見せる大陽と、気だるげに手を挙げつつ片手をズボンに突っ込んでいるアビゲイル。

 

 

 

 二人を連れて駆けていく小雪を余所に、残った全員もそれぞれが別の方向に駆け出し、特に機動力の高いリオンがビルの隙間を跳ねて路地裏を通る。

 

「────ゃん、リオンちゃーん!」

「え?」

 

 と、そんな時に不意に声が聞こえ、壁面から降りて着地するリオンが声の方向を見やる。

 そこに現れたのは、走っていたのだろう、軽く息を切らして荒く呼吸している少女。

 

「……? ──!? ヒメ!!?」

「ようやく追いついた……」

「なんで……な、なんで!?」

 

 ──その少女は、護衛の依頼を終えてもなお交友を続けている人物。敬愛する姫島ヒカリの一人娘、姫島琴巳その人であった。

 

「なんで、って。お父さんから『今すぐ渋谷に行って、リオンたちの手伝いをしてやれ』って言われたから……? 大変なことになってるのは分かってるんだけど、いま何がどうなってるの?」

「姫島さんんぅ……!!」

 

 ヒカリに対する怒りの感情を抑え込むようにして、リオンは深い息を吐きながら頭を押さえる。

 

「大丈夫よ、リオンちゃん。あの一件で神格を宿した影響で魔力が増大してるし、戦い方も学んでいるから、邪魔にはならないわ」

「…………。はぁ〜〜〜〜。いいですか、僕より前には出ないように」

「うん、わかってる」

 

 ──ここで突き放すよりは、サポートに徹してもらおう。そう思案して『核』の落下地点に向かおうと踵を返したそのとき。

 遠くから、厳密には向かおうとした方向から。ドンッ……ドンッ……ドンッ……!! と、硬いものを破壊しながら二人の方向に何かが来る音がした。

 

「……いま、何をしているか、ですが」

「えっ?」

「僕含め、何人かが()()と戦ってます」

 

 ドガァン!! と建物を粉砕して、土煙の奥から怪物が現れる。それは6本足の、イエティとサイを混ぜたような──冷気を纏う怪物だった。

 

「な、なにこれ……」

「ノフ=ケー……!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ヒュウヒュウと空気が流れる上空。

 役目を終えた輸送用ポッドがボロボロと崩れて消えるのを横目に、真冬と結月、春秋の三人は片翼の巨大な蛇と相対していた。

 

「シセルとやらの変異細胞、ずっと外に出していられるわけじゃないの?」

『ああ、変異細胞(ナノマシン)はウボ=サスラの欠片がベースになっている。シセルを広義でのウボ=サスラとするなら、体外の細胞は雛。アレは子供を無尽蔵に産み落としつつも、その子供は親から離れすぎると生きられない。()()()()()()なのだろうね』

 

 空中の足元、その空間を円形に固定して立つ真冬に春秋が説明すると、少し考えて結月が言う。

 

『…………? あー、つまり、飛ばしたやつらの中心にシセルが居るってこと?』

「お前たまに頭いいよな」

『よせやぁい』

『何も言うまい』

 

 へへ、と後頭部を掻く動作をする結月。別に真冬は褒めていないのだろうと察している春秋は、あえて。あえて──何も言わなかった。

 

上空(ここ)にはシセル()居ない、としても、この蛇が地上で暴れたら大変だしなあ。まあムカデの時と同じだな、空間操作で輪切りにして殺す」

『怪物……の、姿を模している特殊合金だ。かなり頑丈だから気をつけた方が────』

 

 刹那、ぞわりと肌を撫でる敵意。片翼の蛇──忌まわしき狩人から目を離さないまま直感で真上の空間を固めてから1秒と経たず、ズガガガガ! と軍刀が降り注ぎ、固定された空間に弾かれ落下していく。

 

「づ、ぉっ……!」

『ソフィアかッ……!』

『真冬! 蛇が来てる!』

「チッ」

 

 その一瞬の硬直を見逃さず、忌まわしき狩人は真冬たち目掛けて大口を開けて突進してきた。

 真冬が【強化】で脚力を上げつつ横に跳び、着地点の足場になるように空間を固定。【虚空神話(ヴォイド)】の仕様上必ず円形になる空間に着地すると同時に、春秋が傍らに鉛色の棒を無数に【召喚(コール)】する。

 

『…………。そこか!』

 

【浮遊】で浮かせ、100センチの杭のような細長い棒を高速回転させてから、夜闇に紛れた影を捉えてそちらに発射。空気を裂いて射出された杭は、しかして横合いから伸びる狩人の尾に阻まれた。

 金属同士がぶつかる嫌な音が響き、顔を顰める真冬と結月。そして春秋は、尾に守られていた何者かの正体を分かっていたかのように渋い顔をする。

 

『──ふぅん、アルミニウム合金の杭。……【浮遊】を最大限に活かせる、軽くて丈夫で加工しやすい武装を【召喚(コール)】でマーキングしておく……こっちの時代の生き人形も馬鹿に出来ないわね』

 

 1本を遠隔で引き抜き、眼前に持ってきながらそう言って、灰色髪の少女──ソフィア・エリンドールが狩人の頭にふわりと降り立つ。

 

『さ、て。目的の相手ではないけれど、前菜にはなるかしら』

『やあソフィア、久しぶり』

『…………。私とあなたは知り合いではないと思うのだけど』

「ん?」

『え?』

『……なるほど』

 

 軽々しく挨拶をしてくる()()()()に不快感を露にするソフィアの態度に、真冬と結月が疑問符を浮かべて謎の女性(はるあき)は合点がいったように納得する。

 

『キミとシセルが過去(こっち)に来たのはここ一〜二ヶ月の間の話だな。私の正体に気づいていないということは、私の顛末を把握していないということだ』

『……………………。は?』

『来るつもりもなかった二人が何故ここに来た? 心変わりしたのか、誰かに利用されたのか?』

『え、いや、ちょ、っと待って』

『なんだ』

 

 片手で顔を覆いながら、片手で春秋の言葉を妨げるようにビシッと手のひらを伸ばす。

 ソフィアは信じられないものを──否、信じたくないものを見るような顔で問いかけた。

 

『あなた、もしかして、ジョン……?』

『やはり気づいていなかったか』

『?? ……っ? な、ん? っ?? ん!?』

 

 理解、困惑、混乱、驚愕。様々な感情が渦巻いて、表情が切り替わる。

 そんな様子を、狩人への警戒をしながら見ていた真冬と結月が、同情的な目をしながら言っていた。

 

 

 

 

 

「信じて送り出した男が女の体使ってる挙げ句に人形化だもんな。性癖のデパートか?」

『これから戦おうってときに敵にあんな顔させるって……勲章ですよぉ……』




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