とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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とある博物館の狂気感染 1/3

 京都・渋谷での戦いからしばらく。四月も半ばを過ぎ、リオンちゃんや琴巳ちゃん、アビゲイル辺りは高校生活を満喫するのだろうと思いを馳せつつ。

 

「あ、そういや歩ちゃんも同年代か」

【案外、同じ高校に通ってたりして】

「だといいですねぇ。まあ今日土曜だけど」

 

 ヒカリさん案件のときに会ったのが最後だけど……そもそも会わない方が良いわけでもあるからなあ。こちらから会いに行くのは止めた方がいいか。

 ともあれ、春秋さんは未来ソフィア──改め、エリーと共に旅に出たし、シセルも文明崩壊前の日本を見て回るついでに図書館巡りをしているらしい。

 

 ──春、それは出会いと別れの季節なんだなあ……と、らしくもないことを考えていると。

 

【おや、来客】

「こんな朝からぁ……?」

 

 ふと、ピンポーンとチャイムが鳴る。今日は休日ってことにしてて真冬と結月、葉子さんとソフィアがそれぞれ居ないし、外にも閉店の看板は出しているはず。つまり依頼者ではない……よな? 

 

「はいはい、どちらさま〜」

 

 どうせ霊感が無ければ見えないからと雅灯さんが後ろからふよふよついてくるのを尻目に、玄関に向かってガチャリと扉を開ける。

 ……が、そこには誰も────いや下か。頭を下げるとそこには、モサッとした毛玉のようなロングヘアーのスカジャン少女が居た。

 

「お久しぶり、っす」

深月(みづき)……?」

【あら深月ちゃん】

「うっす。まあちょくちょく通話はしてますし久しぶりでもないすけど」

 

 とある館を乗っ取った魔術師との戦いがあった例の一件で、意外にも近所のマンション住みだったことが判明した少女──もとい大学生・蓮枯(はすがれ)深月。

 彼女に視線を合わせるように玄関先で屈むと、深月は早速と懐から紙切れを取り出してくる。

 

「今日はこれ渡しに来ただけっす。お話をしたいのは山々なんすけどね」

「これは?」

「博物館の9割引チケットっす」

「無料チケットとかではないんだ」

 

 渡されたそれを広げると、博物館の名前と住所が書かれていた。そんなに遠くないな。

 

「なんかのゲーム大会の優勝賞品……だったか、なんか? のやつで、それの期限今日なんすよね」

【いきなりですねぇ】

「貰った時も『9割引ならわざわざ行かなくていっか』って放置してたんすよ。部屋掃除してたら見つけたんですけど、暇そうな知り合いが居なくて」

「俺なら暇そうって言いたいのかい?」

「いやまあ、まぁ……んまぁまあまあ」

 

 ──せめて言い訳をしなさいよ。

 

「……あれ。渡しに来たってことは、深月は博物館に行かないのか?」

「っす。実は地方のゲーム大会にゲスト参加してほしいって急に頼まれちゃいまして」

「────。あぁ……そういうのは断らないほうがいいからね。繋がり(コネ)は大事だよ」

「そっすねぇ。──あ、新幹線の予約があるんで私もそろそろ行きますね」

【お気をつけて〜】

 

 スカジャンのポケットから取り出した携帯で時間を確認すると、深月は慌ただしくこちらと雅灯さんに軽く会釈して階段を降りていく。

 少しの間を置いて車の音が聞こえたから、たぶんタクシーに乗ってきていたのだろう。

 

「しかし、そうか。チケット渡しに来ただけか」

【与一くん?】

「いやぁ〜、なんでしょうね、これ」

 

 屈んだままの姿勢で、チケットを片手に。どうしてか、不思議と──心の底からガッカリしていた。

 

「てっきり、深月が誘いに来たのかなって期待しちゃってて。なんだか、不思議と、胸が痛いです」

【よ、与一くん…………っ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 ──なんともいえない悲しみを胸に、なにはともあれ博物館に到着する。

 期限ギリギリのチケットを使わずとも入れる値段ではあるけど、まあ貰ったものは使うべきだろうということでひとまず入場。

 

【わぁ〜ここが博物館ですかあ。色んなモノが飾られてますねぇ〜】

「最近は世界の武器特集をやってるみたいですね。……アパッチリボルバー。ナイフでリボルバーでナックルダスターでもある……らしいです」

 

 入って少しした辺りにあるショーケースに目を向ける。そこにはリボルバー拳銃のシリンダーとダガーナイフ、そして指をはめ込む穴付きのグリップが合体した変な武器が飾られていた。

 

【アホみたいな武器ですね】

「アホみたいだけど、こんなんでも昔はちょくちょく使われてたらしいですよ」

 

 他にも2ドルくらいで作られたゴツいジッポライターみたいな粗悪な銃とか、物理的に銃身がカーブしてる、曲がり角の先を撃つ用のすぐ壊れそうな銃とか、流石の秋山さんでも使いこなすのは難しいだろうなあと思わせる世界の珍銃コーナーを歩いていく。

 

「……俺も武器増やしたほうがいいのかなぁ」

【えー、要ります?】

「刀と三節棍と【禍理の手】とステゴロ……要らないか? 俺の役割的に近〜中距離が適切だろうし。でも遠距離攻撃の手段がなあ」

【いや、【韋駄天】があるじゃないですか】

「俺自身が弾丸になれ……ってコト!?」

 

 これで近中遠コンプリートだぜ、という冗談…………冗談だよね? ……ともあれ、あんまり冗談に聞こえない雅灯さんの真顔の発言を流しつつ。

 

「──まあ、あれこれ手を出してもそれを使いこなすまでに時間が掛かりますしねぇ」

【そういうものですか】

「うーん、でも一応見てみますかね」

 

 耳元に届く影に隠れた雅灯さんの声と小声で会話をしながら、休日ゆえにそれなりに居る人影に気をつけながら歩く。下手したら、独り言の激しい異常成人男性扱いされてしまうからね。

 ──と、そんなこんなで世界の銃器コーナーから別の武器コーナーへと移動しようとしていたとき、ふと視線を感じて振り返る。

 

【どうしました?】

「……視線を感じたので。気のせいかな」

【戦いすぎて感覚が鋭敏になってるのでは】

「……かも、しれないですねぇ」

 

 年末からそろそろ五ヶ月。ナイと戦い、ヒカリさんの計画を潰し、この前も神格に利用されたシセルと戦った。半年にも満たない間に神格や格上の魔術師とどれだけ戦わされてきたのやら。

 そりゃあ警戒心が抜けきらないのも無理はない。……と、それはそれとして。

 

【おわー、与一くん与一くん】

「はいなんですか」

【見てくださいよ、この槍】

「槍?」

 

 ケースの一つを見て声を上げる雅灯さんに釣られてそちらを見る。そこには1本の槍が飾られていた──のだが、問題はその長さにあった。

 

「……いや長っ」

【なんメートルあるんでしょうね】

「目測で……5〜6メートルくらい?」

 

 その槍は、ケース丸々一つを占領するように、横一文字にドンと飾られていたのだ。

 

「名前は……パイク。歩兵用の槍らしいですね、大量の歩兵にこんなもんで待ち構えられたら文字通り手も足も出ないんじゃないですかねぇ」

【というか、槍って必要なんです?】

「え? あぁ〜〜……勘違いされがちだけど、昔の戦争におけるメインは槍ですよ。侍の時代ですら刀より槍のほうが有利でしたから」

【はぇ〜】

 

 ──この辺は、フィクション作品の流行による誤解から来ているのだろう。

 

「普通に考えて、リーチが長い方が強いに決まってるんですよ。刀より槍の方が長いし、槍より弓の方が遠くから狙えるし、弓より銃の方が射程も速度も威力もある。そういうものなんですよ」

【そういうものですか。しかし昔ならともかく、今の御時世には使えない武器ですねぇ】

「職質どころか即逮捕ですよ。……いや、登録(マーキング)だけしておいて戦う時だけ【召喚(コール)】で? ……まあそれこそ、こんな長物どう使えばいいんだって話か」

 

 遠距離への攻撃なら素直に【禍理の手】を飛ばせばいい。パイクは取り回しに困る、周りに広々とした空間がないとつっかえてしまう。

 ──この現代社会の、コンクリートジャングルのなかで、殺り合う場合での運用に悩む……という時点で、なんだかこうおかしいのだけれども。

 

「うーん、例えば……攻撃の寸前で【召喚(コール)】してそのまま振り抜くとか?」

【小手先ですねぇ】

「……って、これやってることほとんどムーンビーストと変わらないんじゃないか……?」

 

 自分で考えてて嫌になってきたな。ということで、この案はボツにしよう。

 

「……そろそろ、休憩しますか」

【おや。お疲れですか】

「余計なこと考えてたのもあるけど、博物館を見て歩くのって意外と疲れるんですよねぇ」

 

 壁に貼られた館内マップを見て、ベンチを見つけてそちらに向かう。

 展示用ケースに挟まれる形で通路の真ん中に置かれたベンチに腰掛けて一息つくと、まだ少し残る全身の()()が鈍い痛みを訴えた。

 

「────。この前は冗談で言ったけど、わりと真面目に纏まった休みが欲しい……」

【お疲れみたいですね】

「思い返してみれば、京都で巨大ムカデ相手に空中を跳ね回り、全身が金属の女と戦い、両足で交互に加速して瞬間的に音の壁を超えて高層ビルの屋上から一階までを蹴りでぶち抜いたダメージが、たかが一〜二週間程度で抜けるわけがないんですよ」

【よく生きてましたね……?】

「ほんとにね」

 

 そのうち急死するんじゃないか? と思わなくもない戦闘を思い返して自分で軽く引きつつ、深いため息をついて背中を丸めるように項垂れると。

 

 ──ふと、背中に誰かがしなだれ掛かり、耳元で小さく囁いてきた。

 

『──ハ〜マ〜チ♡』

「っ……!? な、ば……!!??」

『こらこら、博物館ではお静かに』

 

 反射的に悲鳴を上げそうになった口を押さえながら、ベンチから跳ねるように立ち上がって振り返る。問題は発言方法ではなく、背中に体重を預けられるまで一切の気配を感じなかった事にある。

 

『この距離で気付かないのねぇ、お疲れ?』

 

 こちらにいきなり退かれて崩れた姿勢を支えるようにベンチに座る女性は、白髪を揺らしてそう言って笑みを浮かべて見上げてきた。

 

「へ、蛇神様……!?」

『久しぶり、与一ク〜ン』

 

 薄暗い館内で、紅い瞳を爛々と輝かせる女性──蛇神様。琴巳ちゃんと同じ姿形の生き人形で活動している人造神格である彼女が、なぜこんな所に居るのか。その疑問に答えるように、後ろから速歩きで近づいてくるもう一人の女性が声を掛けてくる。

 

「やあ。いきなりすまないね」

「あ、竹田さん」

「久しぶりかな、桐山クン」

 

 もう一人の女性──竹田さん。イス人である彼女と蛇神様は、ヒカリさんのやらかしによる戦いが終わったあと、色々あって退院し、二人で旅をする……という形で離脱していたはずだったのだが。

 

「実はついさっき、キミがここに入っていくのを見かけたんだ。それをこの……蛇神(アホ)が好奇心で尾行しようとか言い始めたものでね」

『ナチュラルに不敬ねぇ、まったく』

「はあ、なるほど」

 

 蛇神様──年季の長い神格にビビってだんまりを決め込んでいる雅灯さんを余所に、彼女の頭をゴンゴン叩きながら言う竹田さんの説明に納得する。

 ボディが琴巳ちゃんだったら出来ない行動な辺りに鬱憤が出てるなあ、と思いながら。あまり重要ではないが、さっきの発言を聞いてみた。

 

 

 

 

 

「それはそうと、何がハマチなんですか」

『今日のお昼ごは〜ん。回転寿司だったの』

「蛇神はそこらが安上がりで助かる」

『あら、回らないお寿司も好きよ?』




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