とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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とある博物館の狂気感染 2/3

『それにしても与一クン、なんでこんなところに一人で来てるの? 誰かとデートの予定だったけどドタキャンされたとか?』

「……………………。くぉおぉん……!!!!」

「ダメージを受けている……」

 

 唐突な蛇神様の言葉のナイフが心臓に突き刺さる。こっちだって……誰かと……来たかったよ……! 

 

「俺に割引チケットをくれた子は、地方の用事で飛んでっちゃいましてね。チケットの期限が今日だし、貰った以上は……ってことです」

『ふぅ〜〜〜ん。その子、女の子でしょ』

「なんで断言するんですか」

 

 ベンチに座ったままこちらを見上げて、ジトッとした眼差しを向けてくる蛇神様。

 

『駄目よぉ与一ク〜ン、あなたには琴巳ちゃんというものが居るんだから』

「居ません居ません居ません」

【そうですよ与一くん!! この間だって人妻を口説いて!! 私というものが……居ながら!!】

「居ません居ません居ません」

 

 蛇神様への恐怖心すら上回る何かがあったのか、雅灯さんまで出てきて変なことを言ってくる。どうして揃いも揃って外堀を埋めようとしてくるんだ。

 

「いいですか、落ち着いて聞いてください。未成年は恋愛対象ではなく保護対象だし、人妻(シセル)も貴女も口説いた覚えはありません」

【あの村で思いっきり口説いたじゃないですか】

「…………??? ──あれのことぉ……!?」

 

 まあ確かに、『雅灯さん(の力)が必要』みたいなことは言った覚えがあるけど、アレは……違うんじゃないか? ノーカウントでは? 

 

「はぁ……竹田さん、助けてくださいよ」

「桐山クンが少女趣味か人妻趣味かはどちらに転んでも楽しめるからなぁ」

「こいつ敵か……?」

 

 神格と悪霊に挟まれているこちらを見て口角を愉快そうに歪めるイス人こと竹田さん。残念なことに、彼女は、味方ではなかった。

 

「というか桐山クン、キミは未成年との恋愛はNGというだけなんだろう?」

「そうですね」

「じゃあ、あと何年後かにヒメが大人になったら対象内になるわけだ。問題あるまい」

「…………。…………。んまぁ、まぁ、まぁまあまあ」

 

 それを言われると、反論ができない。

 

『こら、誤魔化さないの』

「それは、ほら。その時にならないと。今の琴巳ちゃんは子供なので、それはそれです」

『ふぅ〜ん。ズルい子ね。それとももしかして……気になってる人でも居るの?』

「────」

 

 蛇神様のその問いに、答えることはなかった。なぜなら聞かれたときに頭に浮かんだのは、毛玉みたいなロングヘアーで、スカジャンを着ている、少女のような小さい背丈のあの子だったから。

 

 ──それを素直に言ったら、今度はロリコン扱いされちゃうでしょうが……!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ──なにはともあれ、竹田さんと蛇神様を連れて三人で博物館を見て回ることになり、展示されている多種多様の武器を眺めている。

 

「竹田さんは、何か武器に興味は?」

「無いね。我々イス人は現代に持ち込む電撃銃以外の武器はそうそう持たない」

「……あれ、連盟組織のイス人──白道さんは普通に武装するらしいですけど」

「別にルールではないからね」

 

 いい加減だなあ。とは口には出さず、竹田さんの首にぶら下げられたカメラ型の電撃銃を一瞥し、全体がトゲだらけの棍棒を眺めている蛇神様を連れて更に奥へと移動すると、何やら人だかりが。

 そちらに向かうと──そこには広い空間にポツンと長方形のケースと台座が置かれており、老若男女がそのケースを囲むように眺めていた。

 

「ん。どうやら今日、あのケースの中身を開封する予定だったみたいだね」

「中身? ……み、見えない」

 

 タイミング悪く人混みの後ろの方に来てしまっていて、何が飾られているか分からない。いつの間にやらパンフレットを持っていた竹田さんの言葉を余所に、押し退けるわけにもいくまいと悩んでいると。

 

『あ、じゃあ私が見てくるわね〜』

「え? ……ああそうか。サイズ変えられるんでしたね、見られちゃだめですよ」

『展示より目立つ真似はしないわよ』

 

 蛇神様が人目を盗んで人間大から人形サイズに戻り、死角からふわりと天井付近に飛んでいく。館内が薄暗いのと、開封予定のモノに注目しているからか、誰にも見られずに行動できていた。

 

『…………うーん?』

「どうでした?」

 

 少しして降りてきた蛇神様が、サイズを人間大に変えながら小首を傾げて口を開く。

 

『形で言うと……刀ね。布でぐるぐる巻きにされてて、上から札で封をされていたわ』

「普通に考えて、開けたら不味いやつじゃないのか? 止めたほうが良いと思うが」

「その場合、この企画を邪魔しに来た異常者として警備員を呼ばれますよ」

「安いものだろう、桐山クンの社会的地位くらい」

「いえ、高くはないけど安くもないです」

 

 真顔でなんてことを言うんだこのイス人は。

 

「というか、魔術師(キミたち)はこういうときに記憶処理をするんじゃなかったか?」

「まだ問題を起こしてない相手に手錠をかける警察官が居てたまるか、って話なんですよねぇ」

「なるほど」

 

 竹田さんの疑問に返すと、彼女はそう呟いて黙り込む。とにかく、連盟組織への連絡や記憶処理の使用などは、問題が起きてからでないといけない。

 ──()()()()()()()、というのが肌で分かるため、連絡を入れるべきではあるのだが。

 

「……おそらく魔術師の暗躍ではないし、変な言い方になるけど天然モノの事態に巻き込まれた感じですかね。俺たちだけで対処は可能かと」

「天然モノ、ね。──待て、私まで働かせようとしていないか?」

「死なば諸共ですよぉ、竹田さぁん……」

 

 露骨に嫌そうな顔をする竹田さん。ほんの一ヶ月くらい前に肩撃たれて入院したわけだから、巻き込まれたくない気持ちも理解できる。

 

「まあ、大丈夫ですよ。誰も死なせません。竹田さんも蛇神様もここの全員も、俺が守ります」

「…………。はぁ、わかったわかった」

『与一ク〜ン、そういうセリフは琴巳ちゃんとかが居るときに言わないと〜』

「うるさいですね……」

 

 もうそろそろ、蛇神様に対する、こう……目上に対する敬意のようなものが失われつつある。

 ──などと思案してげんなりしていると、不意に、ピリッという音を耳にする。それはおそらく、例の札を剥がす音だろう。

 

『──あ、これ不味いかも』

「……ッ!」

 

 続けて聞こえた、呑気ながらも短く真剣な声色の蛇神様の言葉に、頭で考えるより先に体が行動を起こす。果たして、片手で『C』の形に作った手を枠として開いた【門】を事務所に繋げ、置いてきていた妖刀(つくも)を引っ張り出すのと、館内に怖気を湧き立たせるような嫌な魔力が駆け抜けるのは同時だった。

 

「────。ん?」

 

 手元に開いた【門】が()()()()()()、一拍置いて薄暗い館内が更に暗くなるような感覚と共に、客や警備員やスタッフが全員バタバタと倒れていく。

 立っているのはこちらと竹田さん、蛇神様だけで、その沈黙を破るような声が手元から響いた。

 

【……え、どこここ?】

「博物館。刀らしき展示品の封を解いたらこうなった。悪いけど、今すぐ手数が欲しい」

【あー、もう。仕方ないわね】

 

 魔力を注いで、九十九──妖刀に宿る付喪神を実体化させた。

 白髪で巫女服姿の九十九が眠たげな眼差しで周囲を見やると、後ろで竹田さんが声をかけてくる。

 

「桐山クン、圏外だ」

「でしょうねぇ。ついさっき、九十九を取り出すのに使った【門】が不自然に途切れました。たぶん、魔力の拡散に伴って館内が隔離されてます」

『与一クン与一クン』

「あーはいはい蛇神様ちょっと静かに」

 

 脇腹をつついてくる蛇神様を置いといて、竹田さんと話を進める。

 

「とりあえず外に出られるか確かめましょう、場合によっては貴女にも戦ってもらいますよ」

「……そうだな。少し待て、そこの警備員が……よし、警棒を借りさせてもらう」

 

 竹田さんはそう言って、倒れた警備員から警棒を抜き取ると、電撃銃のパーツを分解して中から取り出した何かを巻きつける。

 それから細いワイヤーとトリガーを持ち手に繋ぎ、固定してからカチカチと弄った。

 

「なんですそれ」

「まあ、ちょっとした即席武器だよ」

『ねーえ、与一クンったら』

「もう、なんですか?」

 

 ツンツンツンツンとひたすらに脇腹をつついてくる蛇神様に急かされ、仕方なく顔を向ける。

 すると彼女──の更に奥で、倒れている筈の客たちやスタッフ、他の警備員たちが、ゆらりと不自然な動きで立ち上がっていた。

 

『あの刀の魔力が倒れた子たちの魂に干渉して汚染してる、って言おうとしてたんだけど……』

「…………。もう少し真面目な雰囲気で言ってくれないと反応できませんって」

 

 起き上がった人たちの目は虚ろで、どう見ても正気ではない。しかし問題は、彼ら彼女らの手に次々と現れる、異質な魔力漂う刀。

 

【私が使う分身刀と同じね。……私よりは数で勝ってるけれど、質より量って感じ】

「九十九、殺すなよ」

【駄目なの?】

「駄目だ」

 

 流し目でちらりとこちらを見ながら、九十九はやれやれと言わんばかりに小さく息を吐いてから妖刀の分身を手元に作って鞘から抜き放つ。

 

「私はあくまで自衛に努めるぞ」

「何かあったらすぐ呼んでください、カバーできる位置に居るので」

 

 竹田さんにそう言いつつ、起き上がって刀を握る民間人たちに意識を割く。

 じりじりと距離を詰めてくる連中に、峰の方を向けた刀を構えると、一拍の間を置いてから暴徒のように駆け出して迫ってくる。

 

「来るぞ!」

 

 先ず一番手近の男の一閃を避けて顎を柄頭で殴り、その後ろから迫る女性の刀を受け流して背中を峰で叩く。動きがずぶの素人なのはいいとして、これは下手に【強化】とか使ったら殺しかねないな。

 

 こちらよりもスムーズかつ流れるように峰打ちを叩き込んでいく九十九を余所に、そう思案しながら攻撃を流していると、少し離れたところで竹田さんと彼女の背中に隠れる蛇神様の方に刀を持つ民間人の何人かが流れていくのを確認する。

 

「助けは!」

「要らない」

 

 一応の確認と、【禍理の手】を飛ばせるようにしながらも、竹田さんの言葉を信用して一旦止まる。彼女はスタッフの袈裟斬りを避けてから警棒を腰にトンと押し当て──カチリとトリガーを引く。

 

 ──その瞬間、バチチチチチ!! と激しい閃光と音が迸り、スタッフの体が電撃に包まれていた。

 

 

 

 

 

「ふむ、即席スタンバトンといったところか」

「……………………。うわ……」

「安心しろ、峰打ちだ」

「あの、人体から出ちゃいけない煙が立ち上ってるんですけど……?」

「安心しろ、非殺傷出力だ」




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