とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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純白の狼に憧れた者よ 1/6

「あの〜……あ、秋山さん? でしたよね?」

「……姫島琴巳か。シセルの件(このあいだ)は災難だったな」

 

 某日、連盟組織本部の通路にて、秋山とばったりと出くわした少女──琴巳が、彼の腰のホルスターに収まる4丁の大型リボルバーを見てギョッとする。

 

「確か昨日、地方の辺りで事件を担当したんだろ。報告書を読んだぞ」

「そう、ですか」

「一応聞いておくが、お前に協力したのは誰だ」

「あ〜〜……え〜〜……と」

 

 秋山のジロリとした目に、琴巳は視線を右往左往させると、決心したように言う。

 

「あの人は、知り合いに魔術師が居るようでした。ただ向こうの事情を喋らせない代わりにこちらも情報を残さない約束をしたので……」

「──そうか、まあ()()()()()()については追求されないだろうから気にしなくていい。組織(うち)の調査員や戦闘員が碌に使えない方が100%悪いからな」

「は、はははぁ、ははぁ…………」

 

 あくまでも組織のメンバーではない琴巳に、それ以上の追及はせず歩き出す秋山。

 彼にすれ違いざまにそう言われた琴巳は、背中に氷を入れられたかのように身震いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──組織本部の一角にある、秋山にあてがわれた専用の個室。そこに戻ってきた彼は、当然のように中でくつろいでいる二人に渋い顔をする。

 

「おい馬鹿野郎ども、当然のように人の部屋でくつろいでんじゃねえよ」

「ふぇ〜、ひぃひゃはいへふは」

「飲み込め」

「んっぐ。いいじゃないですかー」

 

 テーブルに広げられた大量のフライドチキンを貪る少女──妹()()()()()()()()()()()秋山小雪が、そう言ってプラプラと指でつまんだ肉の無い骨だけのチキンを揺らす。

 

「全然よくねぇだろ、鍵はどうした」

「それは〜……白道さんが」

「あ?」

 

 つい、と小雪が骨で指した方向に秋山も顔を向けると、そこにはソファに寝そべり、アイマスクで目元を覆っていた女性──白道が、それを外して起き上がりながらあっけらかんと言い放つ。

 

「──今どきの物理的に挿し込むタイプの鍵なんて、複製できない方がおかしいからね」

「出来るとしてもやるな」

「だってキミ、合鍵くれないじゃないか」

入り浸る(こうなる)から渡したくなかったんだろうが」

「ちなみに合鍵作りには小雪クンの中の落とし子を使わせてもらったよ」

「あ! なんでバラすんですか!?」

「馬と鹿どもがよ……」

 

 

 

 

 

 

 

「──なんだこりゃ」

「どうしました〜?」

「……『遺伝子研究にて絶滅したニホンオオカミの復元に成功!』、だとよ。嘘クセェ」

 

 二人の頭を一発ずつひっぱたいてから数分後の自室。ノートパソコンでニュース記事を漁っていた秋山が、そう言って鼻で笑う。

 

「ジュラシックパークみたいなもんですかね」

「ああ、アニマトロニクス……だったかな?」

「いやそっちではなく」

 

 後ろから両肩越しにモニターを見て、小雪と白道のそれぞれが口を開いた。

 

「撮影に使ったロボって意味じゃねえだろ。劇中の復元技術的なモノか、ってことだよな?」

「ですです」

「そっちか。……つまり、何らかの方法でDNAからクローンを作ったのではないか、と?」

「そうでもしないと絶滅した動物の再現なんて無理でしょう。どうせ偽物かなんかですよ」

「偽物、ね」

 

 小雪の言葉に反応して、秋山が呟く。

 

「偽物と本物の定義については置いておくとして、だ。例えば……()()()に問題があるとしたら?」

「────。ショゴスの擬態?」

「その辺に関しては一日の長が居るだろ。……そういや細波(あいつ)どこ行った」

 

 秋山の問いに白道が察し、それから彼がそういえばと日頃服に張り付いているはずのショゴスロード──細波青井の不在に首をかしげる。

 

「あー……確か兵器開発部の方に居たかな」

「なんでだ?」

「それは──と、本人に聞けばいい」

 

 白道がそう言って後ろに顔を向ける。秋山が椅子ごと後ろに向き直ると、ちょうど部屋に入ってくる白衣と眼鏡の女性──青井を見つけた。

 

「……ん? 私がなにか?」

「なんでてめぇまで部屋の合鍵持って……まあいい。お前、兵器開発部でなにやってんだ?」

「ああ、新兵器……というか新武装の開発ですね。【召喚(コール)】という魔術があるでしょう」

 

 青井は問いに答えるようにして、片手によく作らされているリボルバーを作り、空中に回転させるように放り投げて床に落ちる前に消す。

 

「この【召喚(コール)】を、外部に装着する機械にやらせようとしているんですよ。つまり思考に反応して勝手に魔力を吸い取り、手元に【召喚(コール)】させた武装を送る装備……みたいな感じで」

「────。要は俺の装備を作ってるんだな」

「そうなりますね」

 

 一瞬考えるように視線を斜めに上げた秋山が青井に言うと、彼女もあっけらかんと肯定した。

 

「秋山クンの弱点は単純に、脳の損傷により魔力の操作・出力が出来ないことです。私や周りが【召喚(コール)】で武装の用意をしてあげないと、弾切れになった途端に戦闘力がガタ落ちしてしまう」

「今までは用意した分とか外付け電池(おまえ)でどうにかしてきたが……まあ、確かにこれからもどうにかなる保証はないか」

「最近はちょくちょく丞久さんとかと動いてるから麻痺してるけど、秋山さん自身は魔力で【強化】すら出来ない生身ですもんねぇ」

 

 青井の説明に、秋山と小雪は確かにと合点がいったように頷く。その傍らで、白道がおもむろにパソコンを操作し青井に見せる。

 

「ところで細波青井、この研究所で行われていることに関して何か覚えはあるか?」

「はい? …………あー、これですか」

「なんか知ってるんだな」

「いやぁまあ、私がというか、細波青井(オリジナル)が臓器研究をしてたときに『ショゴスを用いた動物の複製を作る方法』を聞きに来た奴がここ所属だったなあという記憶が脳に残ってましてね」

 

 ふむ、と小さく息を吐いて画面を覗き込み、そう言って三人に視線を向けて続けた。

 

「ん〜? いやでも、あいつらの研究、ろくに進展してなかったような……」

「ここ数年でいきなり技術力が上がったか、それ以外に理由がある。どちらにせよ調査対象だな。ショゴスを話題に出したことがあるなら、絶滅したオオカミの復元も恐らくマトモな方法じゃない」

「おっ出撃ですか」

 

 秋山の言葉に、小雪がパシッと手のひらに拳をぶつけてやる気を見せる。『パシッ』どころか硬いものをぶつけ合ったような『ゴン』という鈍い音だったが、それを無視するように青井が口を開く。

 

「やめたほうがいいですね。使ってるのがショゴスかそれ以外かは分かりませんが、向こうも魔術師側で、研究所を持っているとなると……他所からの介入にはかなり敏感になっているはず」

「……例えば、()()()()()()が外から入ってくる事には警戒するわけだね」

 

 白道が言葉を続けることで、合点がいった小雪がじゃあと言って自分を指さす。

 

「私も不味いですかね。なにせ体に液体生物を飼ってる人間なもんですし」

「となると────他に動かせる()()()()()は居ねえし、久々の俺単独か」

「? 白道さんが居ますよね?」

非戦闘員(インドア派)に期待しないでくれたまえ」

 

 小雪の首を傾げる動きに、白道は一房だけ白いメッシュの髪を指で弄りながら返す。

 それから少し考える素振りを見せる秋山が、パソコンを閉じて席を立つ。

 

「それじゃ、兵器開発部に行くぞ。久々の単独任務だし、細波の作ってる【召喚(コール)】装置にも興味がある。あと鍵穴の新調も頼みたいしな」

「変えてもまた合鍵を作るだけだから、最終的に秋山クンの部屋の扉だけ銀行の金庫みたいな形状になってしまうんじゃないか?」

「なんで『じゃあやめよう』って発想が出てこないんだよボケナス……!」

「おごごごごご!?」

 

 容赦なく白道にアイアンクローを食らわせる秋山を横目に、小雪と青井は呆れ気味に顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

「変なスキンシップですよねぇー」

「まあ、秋山クンの部屋の扉を電子ロックに変えてもハッキングされるだけでしょうし」

「拗らせてる愛ですねぇ」




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