とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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純白の狼に憧れた者よ 2/6

「──ンではこれよりィ! 秋山さん改造計画を……開始するぅァ!!」

「おお」

「わー」

「俺の命はおもちゃじゃねぇんだぞ」

 

 連盟組織・兵器開発部にやってきた四人。その辺に置かれていたレンチをマイク代わりにして叫ぶ小雪と、雑な反応で返す白道と青井を見て秋山は呟く。

 

「ま、装備の見直しと……例の装置についても見ておきたかったし、久々に顔出すのも悪くねえ」

「あそうそう、秋山さーん、なんか新しいジャケットが出来たらしいですよ」

「ふぅん? ──またなんかの映画でも見て変な影響受けやがったな」

 

 資材が積まれたコンテナにレンチを投げ捨てる小雪の言葉に鼻を鳴らしてから返す。

 秋山はあちこちで機械の作業音や火花が散る音を尻目に三人を連れて奥へと歩いていくと、倉庫のように広い室内の一角でマネキンに着させたジャケットを前にデータの測定をしている作業員を見つけた。

 

「うちのスーツは基本的に全部防弾加工はされてるが……なんだ、何か挟んでるのか?」

 

 作業員のデータを横から覗き、内容をチラ見すると、それを理解したのか、マネキンの横に立ってその生地を指でつまむように触る。

 

「……なるほど、あの特殊合金をワイヤーに加工して、スーツの中に鎖帷子みたいに編み込んでるのか。……動けんのか、これ」

「着てみたらどうだい? それはメンズ用のやつだからキミでも着られるよ。一度確かめて、あとで秋山クン専用に調節してもらえば良い」

 

 白道の提案に、秋山は頷く。

 

「だな。これ持ってろ。嗅ぐなよ」

「私のことをなんだと思っているんだ」

「頭のいい馬鹿」

 

 既に着ていたジャケットを脱ぎ、畳んで白道に渡してから、マネキンに着させていた防弾ジャケットを外して手慣れた動きで着込む。

 

「どうですかぁ? 秋山クン、着心地の程は」

「金属を編み込んでるわりには動きやすいな。この特殊合金が元々軽くて頑丈で加工しやすいってのを目指してるモノだったし、なにより────シセル。あいつがこの特殊合金の()()()だったからな」

「シセ……ああ、あの……機械生命体ですか」

 

 着込んだ状態で腕を上下左右に動かし、ぐるりと回して肩や肘を阻害しないことを確認しながら言う秋山に、青井が視線を斜めに上げて思い出す。

 

「あの女のお陰で、研究中だった合金がナノマシンレベルまで加工できる事が判明したわけだからな。ある意味で技術力が一回り進んだってことだ」

「んまぁそれは良いんですけど〜……肝心の防弾性能はどう確かめるんです?」

「それなぁ。……まあ、一つしかねぇだろ」

「────。ま、まさか……」

 

 自分の問いに気だるげに呟く秋山を前に、小雪は嫌な予感を抱き、それは的中する。

 

「俺()確かめる。撃て」

「秋山さんの命はおもちゃじゃないんですよ?」

「中に防弾用に編み込んだってことは弾が貫通()しない……逆に言えば普通の防弾ベストみたいに衝撃と痛みは残る。それがどの程度かを事前に確認しておかねぇと、いざって時に隙を晒すだろ」

「そりゃ、そう、でしょうけどぉ……!?」

 

 理解は出来るが、納得が出来ない。とでも言いたげな驚愕と恐怖の混ざった顔をする小雪は、渋々と言った様子で手元に拳銃を【召喚(コール)】した。

 

「私は秋山さんのプロ意識が怖く感じてますよ。……マジで撃っていいんですね?」

「ジャケットに当てろよ、外したら次はお前で耐久実験することになるぞ」

「ヒエーッ」

 

 小さく悲鳴をあげながらも、小雪は手元に作り出した9mm拳銃を向ける。

 ジャケットのボタンを留めて腕を広げ、自ら的になった秋山を眼前に見据え、構えた拳銃の銃口で狙い定め──パンッ! と乾いた音が響く。

 

「づ、ぐ……!」

 

 脇腹の当たりにバスッと着弾し、潰れた弾丸がジャケットにめり込む。

 衝撃と痛みが胴体に駆け抜け、秋山は数歩後退りするようにたたらを踏みながら言った。

 

「お゛……もったより(いて)ぇ……」

「なんで私の方がこんな……罪悪感を抱かなきゃいけないんですかね」

「というかそもそも、秋山クンみたいなタイプは弾に当たらないことが前提の戦闘員なのだから、こんな事する意味ないのでは?」

 

 痛みに顔をしかめる秋山に、引き気味の表情で青井が問いかけると、彼は潰れた弾丸を床に捨ててジャケットの汚れを手ではたきながら返した。

 

「充分あるぜ。当たらないように気をつけてはいるが、例えば戦闘中に運悪く被弾してしまったとき、痛みを知ってるか知らないかでその後が決まるだろ。今みたいな隙が戦闘中に起きたらどうなる?」

「……なるほど」

 

 防弾ジャケットを脱いでマネキンに被せ直し、秋山は白道が()()()()()()ジャケットをひったくるように奪い取り、渋い顔をしながら着る。

 

「嗅ぐなっつったよな」

「嗅いでない嗅いでない」

「白道、嘘をつけ!」

 

 

 

 

 

 

 

「──痛みと言えば、お前(ショゴス)は痛覚あんのか?」

「ありますよ。意識的にオンオフを切り替えているので、普段は鈍くさせてます。でなきゃ前にレールガン食らった時に激痛で叫んでましたよ」

「それもそうか」

 

 スーツ新調のデータ周りを白道に任せ、それについていった小雪とも別れた秋山は、青井に連れられて別室に向かいながら会話を交わす。

 

「しかし……白道が俺のスリーサイズを正確に把握してることにはどう向き合えばいいんだ?」

「愛ですよ、愛」

「こんな歪んでる愛なら要らねえよ……」

「昔の漫画の敵みたいなこと言いますね」

 

 カラカラと乾いた笑みを浮かべる青井の後ろで、秋山は心底面倒くさそうな顔をする。

 

「はぁ〜〜〜。もう、いい。やめだやめ。俺は仕事がしてぇんだ、女と乳繰り合いたいんじゃねえ」

(バケモノ)以外にそういう言い回しするとセクハラ扱いされますよぉ」

 

 などと言い合いつつ、別室に到着すると、青井が扉を開けて中に入る。

 秋山もまた続いて中に入り、机に置かれた厳ついデザインの長方形の機械を視界に収めた。

 

「これか?」

「ええ。試作型の【召喚(コール)】代用機……名前なににしましょうかね」

「先に考えとけよ」

 

 負担を分散させるように2本のベルトが取り付けられた機械を前に、青井は逡巡して口を開く。

 

「元が【召喚(コール)】だから……えー、戦術要請機? ……魔術名は【要請(コール)】でどうでしょう?」

「小説と違ってお前の言葉にはルビが振られてねぇから違いが分からねーんだわ」

「要請、で【要請(コール)】です」

「……ああ、なるほど」

 

 秋山に言われて、青井は壁際に置かれていたクリップボードに漢字を書いて見せる。

 

「それで、これはどう使うんだ?」

「これはですねぇ、腰に装着してください。ウエストポーチみたいな感じで」

 

 青井の言葉に促され、秋山が要請機を手に取る。ポーチと呼ぶにはやや重いそれを背中側にあてがい、ベルトを前に持ってきてパチリと装着。

 サイズを調整するためにギュッと締め、ずり落ちないようにすると、彼はその機械の重さと冷たさを手で確かめてから軽く左右に体を捻った。

 

「少し重いな」

「これでも小型化と軽量化に苦労したんですよ? 初期型は登山家かってくらいのリュックを背負うタイプだったんですから」

「……これより、もう防弾シールドを背負って運用したほうがマシなんじゃねぇのかそれ」

 

 秋山のボヤキに苦笑しつつも、青井は彼の背後に回って要請機のスイッチを入れる。

 

「これで一先ず、機械の方で【召喚(コール)】の術式を肩代わりしてくれています。装着者である秋山クンは、ただ魔術名を唱えるだけで魔術を行使できる……はず。たぶん、おそらく、理論上は」

「もし唱えた瞬間に俺の腰が爆発したら、お前が誰に何をされるか、わかってるよな?」

「何をされるかはわからないけど、()()するかは容易に想像できる…………」

「……あ」

 

 苦笑する青井。そんな彼女を見ていた秋山が、そういえばと言葉を続けた。

 

「【召喚(コール)】は登録済みのモノしか作れないだろ。要請機(これ)は何を登録してるんだ?」

「秋山クンが普段から使う武器は、一通り」

「そうか。じゃあイメージ通りに喚び出せるか一つずつ確かめるとして────」

 

 片手を緩く閉じ、手のひらにグリップを掴むような形にしながら、秋山は決心したように言う。

 

「──【要請(コール)】」

 

 瞬間、体の中を巡っていた未知の感覚が抜けていくと共にその手に物質が形成される。

 ずしりとした確かな重厚感を握り、秋山は造り出した大型リボルバーを構えた。

 

「……ふん。こういう感覚か」

「あー、魔術使ったことないんでしたっけ」

「そうだな。ただまあ、この()()()()()()()()感覚は慣れそうにねぇ………………………………」

「秋山クン?」

 

 手に握ったリボルバーを眺めながら呟く秋山だったが、しかして言葉を尻すぼみさせ、やがて真顔のまま前のめりに倒れ伏す。

 

「秋山クン? 秋……し、死んでる!」

「殺すな」

「それで、いったいどうしたんですか?」

「わかんねえ。なんだこれ、全身に力が入らねぇ……血管の中から血が抜けてるみたいだ」

「────。あ、なるほど」

 

 顔を強く打って垂らした鼻血で床を汚す秋山を起こしながら合点がいったように口を開く青井は、ティッシュを持ってきて彼の鼻に詰めながら続けた。

 

 

 

 

 

「魔力消費量の調整に誤作動が起きてますね。間違って消費量の部分が最大出力になってます」

「……ば、バカタレがよぉ…………!」




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