とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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純白の狼に憧れた者よ 5/6

「──三、匹、目ぇッ!!」

 

 亀裂の入ったトレンチガンに装填された最後の1発が、狼の口内にねじ込まれた銃口から発射される。内側から頭を炸裂させると同時に、衝撃で半ばから銃身が折れ、秋山の武器が一つ無くなった。

 

「ったく……こんなことならギターケースに武器じゃなくて細波でも詰めてくれば良かったな」

 

 しかしいつぞやの戦い以来、減った体積を戻していないため、青井の見た目は幼いまま。頭に『犯罪』の二文字が浮かび、秋山は首を振る。

 

「さ、て。あと二匹……」

 

 それから両手で左右のホルスターに納められたリボルバーを抜いて、まず片手のリボルバーに装填されている6発を撃ち切る。

 銃口を向けられた瞬間からジグザグに動き、射線から逃れるように走る二匹に接近されながら、後方へ後退りしつつもう片方の引き金を引く。

 

「────、────。なるほど」

 

 ドバン! ドバンドバン!! と連続する銃声の裏で呟くと、秋山は片手で発砲しながら、先に撃ち切った方のリボルバーを振ってシリンダーをずらして空薬莢を床に落とし、片手間でベルトに挿してある45口径の弾薬を指で押し出して落とす形で装填する。

 

「てめぇ、規則的に左右に動くのが()()だな? はい右、左……右!」

 

 我先にと秋山に飛び掛からんとしていた狼が、的確に動きを理解されて後ろ足を撃ち抜かれる。勢いのままに転倒したのを見て、弾薬を装填していない方のリボルバーを耳の中にねじ込み脳へ1発。

 

「──曲芸がしたいわけじゃねぇから、あんまりやりたくないんだが……なッ」

 

 続けて残り1発のリボルバーを耳から引き抜いて天井スレスレに放り投げると、秋山は最後の一匹の上でくるくる回転する()()にもう片方の手に握られたリボルバーの銃口を向け──発砲。

 

 ドバン! バキッ──ドバン!! という連続した音。それは手元で撃った1発が上空に投げられたリボルバーの引き金に当たり、真上で暴発した弾丸が駆けてくる狼の脳天に直撃する音だった。

 

「……ふぅ、小雪とか丞久(うちのバカども)にねだられて遊びでやってた技だったが……磨いとくもんだな」

 

 そう言いながら、先程の狼と同じように耳に銃口をねじこんで脳に直接撃ち込みトドメを刺す。

 ──まあ、たまにあいつらに当てることあったけど。と小さくぼやきつつ。

 

 秋山は折れたトレンチガンと、もう残りの弾薬が装填済みのモノしかないために、撃ち切ったが最後なんの役にも立たない、引き金周りが破損したリボルバーを床に残して踵を返して歩き出す。

 

「残りは……手元の5発、まだ撃ってない左右の2丁に6発ずつ……奥の手は1回限り、か。──へっ、逆に楽しくなってきたな」

 

 撃鉄を戻してホルスターに納める秋山。彼は死ぬことで形を保てなくなった狼たち──ウボ=サスラの雛がドロドロに溶けていくのを横目に、白百合とシロが居るエレベーターの方へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──秋山が戻ってきたタイミングで、ちょうどよく閉じられていたエレベーターの扉が開く。

 端末を三角巾の中に仕舞う白百合は、シロが秋山の接近に気づいた動きでその視線を同じ方向に向け、彼が戻ってきたことを確認する。

 

「……! か、勝ったんですか……?」

「まあまあだったな。んじゃ、下行くか」

 

 壁に立て掛けてあったギターケースを手に取り、秋山はエレベーターにするりと入り込む。

 遅れてシロを連れて入った白百合が、カチリとボタンを押して向かう先を決めた。

 

「ところで、そのギターケースにはまだ何か武器が入っているんですか?」

「C4」

「……?」

「プラスチック爆弾」

「…………!?」

 

 あっけらかんと言う秋山に、白百合は驚愕の表情をしながら疑問符を浮かべる。

 

「部屋の中を軽く吹っ飛ばす量しかねぇけどな。でもまあ、例の【門】を閉じたあとにひしゃげさせて開けなくするぐらいは出来るだろ。……それと、下に敵が居るとして可能性が高いのは誰だ?」

「可能性…………となると……思い当たるのは、この研究所の所長ですかね」

「ありきたりだな」

「あの人、かなりの野心家と言いますか。おそらく元々は、エネルギー開発関連の場所に居たのだと思います。この研究もその名残があって────」

 

 そこまで言って、白百合は何かに思い至ったのか、口許を手で覆って逡巡した。

 

「……ウボ=サスラの雛を実験に使おうと言い出したのは所長だった、となると……これをエネルギー開発に使うとしたら、その用途と方法は……」

「一人の世界に入んないでくれるか?」

「ああはい、すみません。つまりは──」

 

 そこで、チンッと音を立ててエレベーターが到着し、扉が開いた瞬間にぶわりと冷気が漏れ出す。顔を顰めて外に出ようとした秋山は、ふと視界の奥で光が瞬いたのを知覚し、反射的に二人の襟首を掴んで外に出た直後に壁際に三人でへばりつくように寄る。

 

 刹那、バシュン!! と鋭い音が響き、遅れてエレベーター内に衝撃が炸裂。ワイヤーが外れたのか、エレベーターは轟音を奏でて落ちていった。

 

「……これ以外に帰る足あるよな?」

「非常用のモノが奥にありますが……」

「────ふぅん? 勘の良い奴だ」

 

 呆れ気味に問う秋山とそれに答える白百合は、冷気で白んだ通路の奥からの声に意識を向ける。

 

「狼どもは全滅か。使えない」

 

 気だるげに、しかして敵意のある女性の声色。その声の主は、カツカツと床を鳴らして三人の前に姿を現す。それは短く揃えた茶髪を揺らし、体を中心に衛星のように光の玉を周回させる女性だった。

 

「……八木(やぎ)所長」

「白百合か。ふん、私の他に誰が生きているのかと思えば……()()()2匹と母親ごっこをしていたお前が生きているとはな」

 

 露骨なまでに白百合と、その背後に隠れるシロを見下した態度を取る女性──八木は、一拍置いて秋山に視線を向けて更に言う。

 

「お前、連盟組織から来たのだろう」

「よくわかったな」

「このタイミングの良さで介入してくる魔術師など、あのイカれ組織くらいだ」

「ひでぇ言われようだな」

 

 ──間違ってねぇけど。と小さく呟き、肩を竦める動きで一瞬間を空けてから、秋山は即座にホルスターからリボルバーを抜いて腰だめに構えて発砲。

 クイックドロウで八木を狙った1発だったが、その弾丸は彼女に当たる直前で見えない壁にぶつかったように潰れて床に落ちた。

 

「……【障壁】か?」

「いいや? これは……単なるエネルギーさ。私の求めた、純然たる『力』だ」

 

 ヒュンヒュンと自身の周りを回転する光の玉を見ながら八木は続ける。

 

「絶滅動物の再現などというくだらない計画を隠れ蓑に、私はようやく────生物の圧縮に伴うエネルギーの抽出方法を確立した」

「……やはり、そうだったんですね。その光の玉は、膨大な数のウボ=サスラの雛を圧縮して抽出した、言わば魔力と生命力のみを圧縮したモノ」

 

 渋い顔で推察する白百合。八木はそんな彼女と秋山、シロに対して、自慢のオモチャを見せびらかす子供のように朗らかに返す。

 

「その通り。この『力』はエネルギーを溜め込んだ、矛であり盾だ。常に私を守り、そして私の意志一つで────攻撃を行う!」

「ちっ……!」

「んわっ!?」

 

 玉から突如として放たれた線のように細いレーザー。直前に白百合を通路横に蹴り飛ばした秋山は、シロの首根っこを掴んで反対に飛び込み隠れた。

 通路の真ん中をシュィィィン! と駆け抜けていったレーザーの軌道に沿って、あまりの熱量に溶けた跡が床に残されている。

 

「──おい、八木っつったか」

「……なんだ? 命乞いは聞かんぞ」

「ちげーよバカ。その玉はエネルギーの圧縮体だ、つまりどっかから無限に供給してるわけじゃない。有限のリソースを全て使い切ったら、また一から新しく作り直す必要があるんだろ?」

「…………だから、なんだ?」

 

 壁から奥に顔を覗かせる秋山は、心底不思議そうに眉間にシワを寄せる八木を見ながら口を開く。

 八木もまた、なぜそんな無駄話をしているのかと、苛立ちを隠さずに言葉を返す。

 

「監視カメラで見ていたぞ。お前は散弾銃を失ったし、たかがリボルバー如きでは『力』の防御を貫けやしない。このエネルギーは私の全身を余すこと無く包んでいる、爆弾でも投げ込んでみるか?」

「いやいや、勿体ねえだろ。今手元にあるのは【門】を爆破する用に残したいんだからな」

 

 八木に見えない位置で、ポケットに手を入れる秋山は、中からボタンの付いた小瓶のような円筒形の物体を取り出すと、強く握りながら立ち上がる。

 

「お前は確信してるわけだ、俺の武器はリボルバーのみ。それで防御を貫かれはしない。()()()()()()()()()()()()()……ってな」

 

 カチリと、ボタンを押し込みながら、秋山は口角を歪めてニヤリと笑いながら言う。

 

「あるんだなあ、これが。──グレードダウンさせたお陰で1回きりしか使えない、奥の手ってやつだ」

 

 体から魔力が()()()()()()感覚と共に、秋山はこの状況を打破するための武装を思い浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

「────【要請(コール)】」

 

 そう唱えた彼の両手には、手持ちで使う事など想定されていない、大口径の重機関銃(ブローニングM2)が握られていた。




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