とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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遍在の呪縛を超えて 1/6

「っ、なぜ、こんなことを……!」

「なぜ? なぜ、とはまた、不思議なことを」

 

 深夜の公園。体のあちこちに切り傷を作りながら街灯の下に逃げてきた少女が、夜闇の向こうに問いかけると、その向こうからは()()()が返ってくる。

 

「貴女が白百合で、私も白百合だから。それ以外の理由が必要なのでしょうか」

「待っ────」

 

 街灯の下に歩いてくる女性は、少女と()()()をしており、傍らに浮かばせていた高速回転する円盤をぐにゃりと変形させて玉に戻す。

 続けて高速で飛ぶ白い玉が少女の顔面に叩きつけられ、声を上げる暇もなく頭蓋を砕かれ、脳を潰され、果たして即死に至る。

 

「──ああ、本当に、気味が悪い」

 

 風に金髪を揺らす女性が見下ろす先に倒れる少女は、ちょうど街灯の明かりで出来た女性の影に覆われる。それから玉を死体に押し当てると、シュルシュルと回転を始めて魔力を巻き取っていく。

 やがてそこには女性の姿しかなく、死体は、巻き取った魔力ごと消え失せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【桐山様、わたくしの出席するパーティーに参加する気はございませんか】

「いきなりだな……」

 

 博物館での一幕から数日。なにやらビルが倒壊したとかでニュースになっているのを横目に、事務所で()()()掛かってきた電話に出てすぐの話。

 聞き覚えのある声は、()()()()()白百合の一人──いつぞやに屋敷に招待してきた白百合姫からの声。その内容は、パーティーのお誘いだった。

 

「パーティー、ねぇ。……それって魔術師同士の密会の隠語だったりするやつ?」

【そんなわけないでしょう、ごく一般的な社交パーティーですわ〜〜。伊達や酔狂で人を屋敷に招いているわけではございませんもの】

「わりと伊達や酔狂成分多いだろあれ」

【というか、屋敷に招いた方たちのなかで、わたくしが魔術師だと知っているのは桐山様と蓮枯様くらいですわ。そもそも隠していますし】

 

 まあ、それもそうか。警戒することもない……のか? 普通の社交パーティーなら。普通の、なら。

 などと思案していると、白百合が電話の向こうで一拍置いて更に続ける。

 

【それと、わたくしの枠に加えて、わたくしが呼ぶゲスト参加者を三名まで追加していいとのことでしたので、あと二人ほど呼べますがどうしますか】

「なんで二人……ああ俺で一枠埋まるのか」

 

 そこまで言われて、ふと違和感。

 

「……なんで俺なんだ?」

【────。まあ、流石にそう思いますわよね】

「そりゃそうでしょ。他に人を呼べるなら身内(メイド)を呼べばいいんだから」

 

 そう、違和感の正体はこれだ。わざわざこちらに連絡をしてきてパーティーに誘う理由が分からない、なにせついこの間関わった程度の関係でしかないのだから、普通は選択肢に入らないだろう。

 

 ……いやまあ『そういえばこないだあんなの居たなぁ』で選択肢に入る可能性はあるけど。

 

【実を言いますと、桐山様の腕を見込んでボディーガードをしていただけないかな……と】

「ボディーガード? そりゃまたなんで?」

【以前、屋敷で白百合を殺して回る白百合の存在が話題に出ましたでしょう】

「あ〜〜……うん、覚えてる覚えてる」

 

 果たして自分殺しが楽しいのかどうかはさて置き、そんな存在が居るというのは中々に恐ろしい。なるほどと呟いて、彼女に言う。

 

「そいつが悪さしてるのか」

【ええ。例の白百合は、以前まではだいたい一月に二〜三人ほど同一個体を殺していましたが……最近は数日に一人、一週間に二人は殺している計算になります。この状況でわたくしが外に出たら────】

「当然、狙われるよな」

【はい】

 

 スタンドに置いてスピーカーにしている携帯から、白百合の深いため息が聞こえてくる。

 

【例の攻撃的個体は、わたくしや隠蔽村の守護者……あとは絶滅動物の復元をしている科学者とか。そういった個体とはまず会おうとしません。基本的に自分のテリトリーを持っているため、そんな連中を相手にするのは普通に割に合わないからです】

「……仮病で欠席すれば?」

【それは前回やったので……】

 

 ──やったんかい。

 

「じゃあ、そうだな。是非参加させてもらうよ」

【そうですか。では報酬の話をしましょう】

「いや要らない要らない、別に要人警護は探偵の仕事じゃないし」

【と言われましても。仕事に対する正当な報酬を用意しないとなればわたくしの沽券に関わるので、断るならドアポストに札束詰めますわよ?】

「い、嫌がらせ……!」

 

 ……とは、いえ。お金が欲しいわけじゃないしなあ、と思案していると。

 

【でしたら、こうしましょう。パーティー用のスーツをこちらで用意します、お連れの方を呼ぶならそちらの分も。代金は報酬分から差し引く──ということなら文句はありませんわよね?】

 

 そんな風に、白百合が提案してきた。

 

「…………。まあ、そこが落とし所かな。いや、悪いね。俺のワガママを聞いてもらって」

【いえいえ。元はと言えば誘うだけ誘って事後承諾で護衛してもらおうと画策したわたくしが悪いのですから、お相子ですわ〜】

「よく考えたらそうじゃん。お前、お前……その態度でよくお相子に持ち込もうと思ったな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ひとまずメンバーを揃えてから全員分の身長とスリーサイズを白百合に送ることとなり、一旦連絡を切って翌日。あと二人呼ぶとなると誰にするかで悩むが、いきなりパーティーに誘われて動ける人となると選択肢は限られるものだった。

 

「で、私らが呼ばれたわけっすか」

「…………」

 

 そんなこんなでちょうど良く暇だった人を二人、確保できたわけだけど。

 対面のソファに間を空けて座る二人は、もさっとした黒髪を伸ばした小柄な少女と、灰色髪に白い毛が混じった、神格の魔力を宿す女性。

 

 このタイミングで暇であり、連絡を受けて来てくれたのは、蓮枯深月と永律陽紫音の二人だった。

 

「私はともかく、この人も居るんすね」

「…………」

「んー、まあ、色んな人に連絡してみたんだけどね。だいたい別件があったりで暇じゃない人ばかりだったから、この組み合わせはたまたまだよ」

「はぇ〜。……あのー、永律陽さん?」

「…………」

「おーい、エーリッヒ?」

「…………。ん、なんだ」

 

 深月が永律陽ことエーリッヒに声を掛けるが、エーリッヒは何故か反応がない。

 ぼんやりとテーブルを眺めており、こちらが視線を遮るように手をひらひらと振ってようやく気づいたのか、ハッとして顔を上げる。

 

「どうした? 作曲で行き詰まってた?」

「……そんなわけあるか。……いや、なんだ、実は今……少し耳が遠くなってる」

「なんかあったんすか?」

「色々あったんだ。──毛玉、口許見てないと何言ってるか聞き取りづらい、探偵の方に座れ」

「うっす」

「今なんかすごい名前で呼ばなかった?」

「永律陽さんは大学でもこんなんっす」

 

 どさくさでとんでもない呼び方をしていたが、深月は慣れているのか呆れたように苦笑しながらこちら側に座り直す。それから間を置いて、エーリッヒは考え込むように視線を斜めに上げながら口を開いた。

 

「複雑な話になるんだが……簡潔に結果だけ言うと、ヘヴィメタル聖歌を間近で聴いて耳をやられた」

「なんて???」

 

 何が、どうして、なんだって??? 

 

「ほらアレだ、ビルが倒壊したニュースがあっただろ、私はあの時ビルの中にいた」

「……なんで?」

「大学の帰りに変な女が追いかけられていたから、興味本位で首を突っ込んだ」

「馬鹿……!」

「直球の罵倒はやめなさい深月」

 

 背もたれに背中を預けながら足を組むエーリッヒは、こちらと深月を見て続ける。

 

「で、まあ……色々あってそいつと、あと盲の変な女と三人で魔術師の本拠地である例のビルに乗り込んで……上の階に向かって、そこでよくわからん謎の女に更に襲撃されてビルを破壊されたわけだな」

「変な女と謎の女しか今のところ出てきてないんだけど、そいつらはいったい誰と誰と誰なんだ?」

「ああ、確か……なんていったか」

 

 思い出そうとして視線を左右させると、エーリッヒは指で毛先をくるくるさせながら言った。

 

「そう、シセルと、ミドリだ。あと、襲撃してきた女の方は白百合と名乗っていた」

「────。あー、あー………………うーん」

「白百合? ……って、私と与一さんが屋敷で会った人と同じ名前…………あれ、与一さん?」

 

 三人の名前を聞いて、思わず頭を押さえて項垂れる光景を見た深月が、心配そうに声を掛けてくる。

 まさか、変な女と変な女と謎の女が、知ってる名前と知ってる名前と知ってる名前だったとは思いもよらなかったからだ。

 

 ……()()()()()()()()()()からか、ここ最近で頻繁に聞くようになった名前もあって、またお前かと言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

「……世界は狭いなぁ」

 

 一週間後のパーティーを前に、波乱の予感を抱きながら、そう呟くのだった。




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