エーリッヒと深月には今一度、改めて説明をしておかなければと、状況を纏める理由もあってここ数ヶ月で何が置きていたかを話すこととなった。
新型エネルギー開発事業V.I.Pが行った、人造神格を用いた別世界からのエネルギー抽出計画、イデアとの出会いと…………あの子の死。
墓参りの帰りに訪れたマヨイ村と守護者のシラユリ様、その村に現れて襲いかかってきたシセルと、彼女が証拠隠滅で殺した雇われの魔術師たち。
エーリッヒとトルネンブラの一件と、ドリームランドでのヒュプノスとの戦い。
白百合姫に誘われた先で深月と出会い、屋敷を乗っ取っていた魔術師や空鬼と戦ったこと。
そして、ついこのあいだ、渋谷でシセルと戦って勝ったことまで……その全てを話し終わる。
「ここまで聞いて、感想はあるか?」
「お祓い行け」
「まあ、それはそう」
「……ふん」
バッサリと吐き捨てたエーリッヒは、少し考えてからムスッとした表情をする。
「その『もっと早くに関われてれば楽しめたのになァ』みたいな顔はやめないか?」
「…………今なんて言った?」
「すっとぼけるんじゃないよ」
ふい、と顔を逸らすエーリッヒ。それは置いておくとして、今度は深月の方を見てみた。
「いやぁ、前に屋敷で軽く聞いてはいたし、与一さんが魔術師なのは知ってたっすけど……まさかこんなやべー事態になってたとは」
「俺たちがこれから向かう社交パーティーも下手したら殺戮ショーになりかねないってことだね」
「帰っていいっすか」
「俺とキミらの身長とスリーサイズを既に白百合に送ってるからダメです」
ぬぅぅぅん、という深月のうめき声を横目にエーリッヒに視線を向けると、彼女は考え込むように指を顎に当てて呟くように言う。
「今更だが、私たちを襲ったあの白百合は、いったいなにがしたいんだ?」
「まあ、そこだよなぁ。例の魔術師のところから神格を奪って、本部まで壊滅させて、ターゲットじゃないからとエーリッヒたちを見逃した……となると」
「白百合を狙う白百合……なんすよね、じゃあやっぱり、神パワーを奪ったのもより効率的に他の白百合を殺すため……とか?」
「かもねぇ」
──何度も思うけど、こいつら存在がややこしすぎるな。顔も名前も同じだから呼び分けも出来ないんだぞ……もう少し配慮してほしいものだ。
「……なにはともあれ、俺は白百合姫の護衛を兼ねてるけど、二人は普通に社交パーティーのゲストとして楽しんでくれればいいからね」
ため息をつきつつ、二人にそう言って。こちらとしても面倒事には巻き込まれたくないため、背もたれに体を預けて天井を見上げる。
「何も、起きないと、いいなぁ……!」
「私知ってますよ、それフラグって奴っす」
──時間は進み当日。パーティー会場である某県某所の高層ビルは、見上げると首が痛くなるほどに高く天へと伸びていた。
「桐山様、蓮枯様、永律陽様、こちらです」
「おー、久しぶり。白百合」
「おひさっす」
「ええ、お久しぶりですわ〜」
ビルに入ってすぐの所で待ち構えていた小柄な女性──白百合。彼女はこちらと顔を見合わせて笑みを浮かべ、それを見たエーリッヒが眉を顰める。
「気味が悪いくらいに同じ顔だな」
「……桐山様から聞いております、例の個体に遭遇したのでしょう?」
「ああ。変な玉を飛ばしてくる魔術師だ」
「それは──間違いなく攻撃的個体の白百合ですわね…………と、無駄話はここまで。今宵はパーティーを楽しみましょう。お二人はお酒や料理を味わってくださいませ。桐山様も、無理にわたくしの傍に居る必要はありませんわ〜」
「それは、大丈夫なのか?」
こちらです、と呟いて案内する白百合の後ろを歩いて、ボタンで呼び出したエレベーターに四人で乗ると、階層のボタンを押した彼女が続けた。
「永律陽様が無事だったのは、白百合殺しとは無関係だからでしょう。向こうも無関係の人間を殺すほど見境ないわけではないということです、つまりこの場に現れるとしても、周りを巻き込んだ戦闘になるとは限らない。…………はずですわ。多分。おそらく」
「不安になる言い回しすね」
白百合の言葉に、『いや』と言ってエーリッヒが否定しながら口を開く。
「あいつ、やろうと思えばミドリと私を巻き込んでシセルと戦えたと思う。
チン、と音を立てて止まったエレベーターから降りつつ、エーリッヒの言葉を聞いて逡巡する白百合が、宿泊部屋の扉の前で足を止めて振り返る。
「その時は、即座に桐山様をぶつけてその間に逃げるしかありませんわねぇ」
「清々しいくらいに丸投げしてきました……」
「元よりそのために誘ったのですから。──と、それぞれの部屋に貴方がたのスーツとドレスをご用意してあります。着替えてから下の会場に向かいましょう、改めてここで合流ということで」
「ああはいはい」
チャリチャリと音を立てて手のひらで転がされている鍵を白百合から受け取り、番号通りの部屋を確認してから分かれて中へと入る。
ホテルでもあるのか、立派な内装の一室。そこのベッドに丁重に置かれているタキシードを持ち上げて、思わず苦笑が漏れた。
「まさかこんなものを着る日が来ようとはな」
【いやいや、船でも着てましたよね?】
「おや雅灯さん、てっきり成仏したのかと」
【生きてます生きてます。殺さないで】
「生きてはいないでしょう」
ぬっと影から現れた雅灯さん。
なんだか久しぶりに見たなあと思いながらも、そういえばそうだったなと思い出す。
【それにしても、楽しみなんじゃないですか〜? 深月ちゃんのドレスす・が・た♡】
「なんで名指しなんですか」
【さぁ〜〜〜?】
ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべる雅灯さんを余所に、とりあえずと着替える。
ボタンをきっちり閉じて、襟や裾を整え、姿見の前で変なところがないか確かめておく。
【あら〜〜いいですね〜。カッコイイですよぉ】
「そりゃどうも。さて……白百合たちを待つか」
着ていた服と荷物をベッドに置いておき、外に出て鍵を閉める。鍵はポケットに仕舞い、壁に背を預けて三人が出てくるのを待つと、最初に出てきたのは──ドレスに着替えたエーリッヒだった。
「探偵が先だったか」
「そりゃあまあ、ドレスよりは着やすいし」
【ほぉ……エーリッヒちゃんも中々、良いじゃないですか。スタイルいいですね〜】
「悪霊……居たのか」
【居ますよーん】
天井付近をふよふよ浮かぶ雅灯さんに視線を向けていたエーリッヒが、不意にこちらを見て小首を傾げると、訝しげにぽつりと言った。
「…………馬子にも衣装ってやつか」
「うるせ〜〜〜。俺だってタキシードなんて着慣れてないのはわかってるって」
【与一くん与一くん、エーリッヒちゃんのドレスも褒めましょうよ】
「俺いま褒められてなかったでしょ」
とは言いつつも、こちらもエーリッヒの着ているドレスを見やる。深い紅色のドレスは、背が高いスレンダーなエーリッヒにはよく似合う。
「まあでも、似合ってるじゃん。元が良いと何着ても似合うから羨ましいよ」
「……ふん。そうか」
【おや、照れてないですね】
「天才音楽家だからな。褒められ慣れてる」
「──単なる事実だから、なんかもういっそムカつかないのは凄いっすよねぇ」
鼻を鳴らしてドヤ顔をするエーリッヒに、ふと横合いから言葉が投げかけられる。
「お、深づ…………き…………」
「……なんすか」
「どうです? 背丈がわたくしとほぼ同じですから、敢えて色を揃えてみたのですが」
そちらを向けば、タイミングよく深月と白百合が集まってきていた。
白百合と深月はデザインが違う黒いドレスを着ており、肌を隠すようなデザインの白百合とは逆に、深月のドレスは肩や腕が出ている。
「……んぇ、おー、おぉ、おぉ…………」
「……どう、すか。与一さん」
「────。いやぁ、凄い……な、うん」
「……だけ?」
どうやってあのもさもさしたロングヘアーを纏めたのか分からない後ろで纏められた髪と、普段のスカジャンとは印象がガラリと変わったドレス、恥じらいからか頬を染めた顔。それら全てが、なんというか、凄まじい。どうしてか、パッと言葉が出てこない。
「……綺麗、っす」
「……っすか。ど、どうも?」
「うん、まあ……うん。素敵、だな」
ふへへ、と互いに笑って、恥じらいを誤魔化すように視線を逸らす。
「なんだ、この甘ったるい空気は」
「わかりませんか?」
「いやわかるが……なんだ、探偵のやつ、毛玉みたいなのが趣味なのか……」
【いいですよねぇ〜〜青春してて】
「初いですわねぇ〜〜この空気感」
「知り合いの恋愛事情ほど興味の湧かないものはないけどな。作曲にも活かせそうにない」
二人がニヤニヤしていて、一人が渋い顔でそう言っていたが、それを気にする余裕などは無かった。
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