とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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雪山の悪魔は人形と踊る 3/3

『く、ぉ……っ』

「──っちぃ!!」

 

 春秋の腕が風の刃に切り裂かれ、千切れ、宙を舞う。それを横目に数個の魔力玉を高速回転させたまま射出し、イタクァの適合者なのであろう少女へと殺到させ、白百合は容赦なく攻撃の選択を取った。

 

 神格の力を奪った結果として適合者が死ぬことについてはどうとも思っていないが、殺害によって命もろとも力を失うことだけは避けたいために、多少の加減はしながらも致命傷足りうるコースを狙う。

 

 ()()なら、どちらにせよ弱らせてからの方が抵抗も無くて奪いやすいから──という考えがあってのことだが、しかして白百合の魔力玉は、直前で適合者の()()()放たれた暴風に押されて届かない。

 

「…………仕方ない、ですか……!」

 

 春秋とエリーに手札を見せることになるが、仕方ないと思案してから、魔力玉の回転に巻き込むようにして暴風に宿る魔力を奪い取る。

 暴風と鍔迫り合いをしていた無数の魔力玉はそれぞれが淡い緑色に染まると、勢いを失った風が散ると同時に床にゴトゴト落ちていく。

 

「暴風は私が抑えます!」

『ふん、何が「玉遊びが出来るだけ」よ。随分とまあ、嘘つきね。貴女』

『ぐえーっ……!?』

 

 切断された片腕を掴んで回収した春秋を【浮遊】で引っ張り、階段の方まで雑に投げたエリーが呆れ気味にまぶたを細めて白百合に言う。

 その流れで、自身を軸にして銃口を外側に向けて規則正しく整列し円運動する幾つもの三八式歩兵銃(ライフル)を用意し、暴風が落ち着くのを見計らって適合者目掛けて容赦なく弾丸を撃ち込んだ。

 

「…………うわ」

『神が相手なら容赦は出来ないでしょ────』

 

 ドドドドドドッ!! という断続的な発砲音。回転する歩兵銃がエリーの眼前──射線があった瞬間に1発撃ち、銃本体を消し、消えた側から再度複製して回転させて撃つ工程を延々と繰り返す。

 

『──って、そりゃまあ神格の適合者にただの銃弾はまず効かないわよねぇ』

 

 しかし、暴風を抑えた更に向こう側。適合者(イタクァ)の体に着弾しようとした弾丸達は、触れる寸前、数センチ手前で見えない壁にぶつかったようにして彼女の左右に逸れて背後に跳ねて終わる。

 

「いえ、そのまま続けてください」

 

 再度傍らに魔力玉を生成して浮かばせシュルシュルと回転させた白百合が、1つだけのそれを銃口に見立てた指先に浮かばせて腕をピンと伸ばす。

 

「神格だろうと魔力リソースは無限ではありません。暴風を形成する魔力を奪い、今は本体を守る壁だけ。たとえ神であれ、人間がベースなら……」

『一呼吸挟まないと、力み直せないってことね』

 

 合点がいったようにして射撃を続けるエリーを横目に、魔力玉の回転速度を上げ、サイズもピンポン玉ほどに圧縮して密度を高めた。

 ()()()()()を脳内でシミュレートしつつ、渾身の1発を撃ち込めるようにしていると──やがて適合者(イタクァ)を銃弾から守ろうとしている防壁に亀裂が走る。

 

『白百合!』

「──ふっ!」

 

 それを見逃さず、白百合は指先で回る魔力玉を亀裂に向けて撃ち込む。

 バシュッ!! という鋭い音が空気を裂き、魔力玉は亀裂を押し込み、ボールで窓ガラスを割るかのような勢いで防壁を突破し、胸元にドゴッと鈍い音と共に叩き付けられ──回転に伴って適合者の体からイタクァの魔力が抜き取られていく。

 

 魔力玉はイタクァの魔力を奪うことでどんどんと大きくなっていき、それに反比例して適合者本人の体から漏れ出ていた風が徐々に収まり、最後にはバスケットボール程の大きさになると同時に少女の体から神格特有の威圧感や魔力がふっと消えた。

 

「……と、回収完了」

 

 どさりと倒れた少女の体から離れて手元に戻ってきた魔力を傍らに浮かせる白百合は、イタクァの魔力が収まっているのであろう鮮やかな翠に輝くそれを眺めて小さくため息をついて首を鳴らす。

 その光景を前に、エリーが1丁の三八式歩兵銃を手に取り、カチンと先端に銃剣を装着しながら、白百合を見据えて問いかける。

 

『それで? 貴女は何を企んでいるのかしら』

「あ、流石にバレました?」

 

 背後に軍刀を翼のように広げて警戒心を露にするエリーに対抗するべく無数の魔力玉を浮かばせる白百合だが、二人を制したのは春秋だった。

 

『エリー、行かせなさい』

『……なんで?』

『なんでもなにも、別に我々に彼女の行動を止める権利も義理も無いからだ』

 

 医療用ステープラーで切断された腕を繋ぎ、応急処置をした春秋が、【召喚(コール)】して作り直した防寒着を着直しながらそう言って、エリーの持つ歩兵銃の銃身を手のひらで押して下げさせて仲裁する。

 

『私たちはただの旅行者であって正義の味方じゃあない。白百合クンが暴れるようなら、その時に止めるのは知り合いの魔術師(いつものメンバー)さ』

 

 カラカラと笑って、春秋は階段の方を指差し上に向かおうと暗に提案する。

 ため息混じりに歩兵銃を消してついていくエリーと、二人が無防備に背中を向けていることに声に出さずとも驚愕する白百合が、春秋を先頭に一階に戻り玄関に向かい、それから間を置いて口を開く。

 

「今更ですが、貴女がたは何者なのですか?」

『ああ……我々はしがない生き人形だよ』

「…………んん????」

『ちょっとした呪いのようなものさ』

 

 そう言いながら、春秋が一瞬の光と共に身長を縮ませて30センチ程度の人形に姿を変える光景を前にして、白百合の思考が数秒フリーズする。

 

「ん? ……? ……ん?? ……ん!?!?」

『まあ、初見なら()()()()わよね。私もハルがこうなってたとき似た反応したもの』

『そういうわけで、私たちは普通の人間ではないんだ。だから、まあ……キミのやろうとしているアレコレに干渉する気が無いのは本心なんだよ』

 

 サイズを変えて大人の背丈になった春秋の一連の行動に心の底から驚愕した白百合は、片手で顔を覆って重苦しく息を吐いた。

 

「この世界は……何か、こう、おかしい……!」

『それに関しては本当にそうだと思うよ』

『貴女も含めて、だけどね。──あ、吹雪も収まってきたみたいよ』

 

 やれやれと首を振ったエリーが、鍵が破壊されて半開きの扉から外を見やると、つい数十分前まで視界を白ませる程の猛吹雪だった景色が落ち着いてきていることを確認してそんな風に声を掛ける。

 今なら無事に下山できるだろうと思案して、白百合はイタクァの魔力を奪い取った魔力玉を圧縮し直してポケットに仕舞ってから言った。

 

「────。もう会わないほうが良いのでしょうが、もしまた会うことになった時に敵ではないことを祈って、敢えて言いましょう。では、また」

『ああ。気をつけたまえ』

 

 先に外へ出て弱まった吹雪に姿を隠す白百合の背中を見送るように、春秋が手を振る。

 

 

 

 エリーは何度目かの呆れた顔をして、何度目かのため息混じりに問いかけた。

 

『逃がしてよかったの?』

『ああいう子の相手をするのは与一クンや真冬の役目だよ。それに……悪意は無かったからね』

『…………。ふっ、悪意()、ね』

 

 携帯の電波が入ってきたのを確認した春秋が、連盟組織に通報のメールを送る片手間に、嫌味っぽく言うエリーに言葉を返す。

 

『ここで殺すには惜しいと思ったんだよ。話は通じるし、味方になってくれたら心強いだろう?』

『それで苦労するのは桐山与一(あのせいねん)なんじゃないの?』

『与一クンは、まあほら、あれだ。多少の困難があった方が輝くタイプだからね』

『……そのうち背中刺されるわよ、ハル』

『はっはっは、んまぁ、まあまあまあ』

 

 携帯を閉じてポケットに仕舞う春秋は、エリーの言葉に誤魔化すように呟いてから館の中を探索し直すべく踵を返して廊下を歩きだす。

 

 自分たちが来る前に既に始まり、終わっていた事件。少女の遺体に宿されたイタクァと、ウェンディゴにされた家族や使用人、迷い込んだ客人という犠牲。連盟組織の調査員が派遣されてやってくる前に情報を纏めようと行動している2人は知る由もないだろう。

 

 ──自分たちが見逃した白百合が、予想通りに、桐山与一たちを騒動に巻き込んでいたなどとは。

 

 

 

 

 

『完』




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