小雪と太陽、真冬と結月が四人で外に出て数時間。昼間の町中で調査をしている真冬を追って歩道を歩く太陽は、彼女の居るビルを見上げた。
「お嬢ー、どうだー?」
太陽がビル屋上の
「んー。場所は絞れた。たぶん」
「そうか、じゃあ結月とおチビに合流する、として……あいつらどこ行った?」
ふわりと着地して魔術を解除した真冬に、ふと太陽が問う。そういえばと辺りをキョロキョロ見回すと、二人は視界の端からハンバーガー店から出てきた小雪と人間大の結月が歩いてくるのを見た。
『ひーるーめーしーの時間だぞぉう』
「……ああ、飯買いに行ってたのか」
「はい。それで範囲は絞れましたか?」
「まぁね」
紙袋を抱える結月を先頭にひとまずはその場から離れ、少し歩いた先の公園に集まる。
ベンチに真冬と結月と小雪が座り、余った太陽が【
「太陽さん、普通に魔術使えるんだ」
「おう。こないだ……渋谷で集まった時にな、丞久のやつからこれだけ教わってたんだ。無駄に魔力だけは有り余ってるからな」
ハンバーガーを掴む手とは反対の手に、ボッと炎のように揺らめく黒い魔力を灯してから間を空けて消す太陽。さらりとやっているが、
「…………」
──まあ、特に、連盟組織は困らないですし。と、脳裏で独りごちる小雪はポテトをつまむ。
「……つうか、結月はそのサイズでも人形であることに変わりはないんだな」
『ん? あぁ〜〜、そうだね』
指に付いたソースを舐め取る結月の手を見て太陽は呟く。遠目から見れば単なる色白の肌でも、間近で見ればその
袖を捲っていて覗く肘や、ハンバーガーの包み紙を持つ手の指。それらを繋いでいる大小の球体関節が、彼女が生きた人形である証拠となっていた。
「人間に戻りたいとか思わないのか?」
『え。……うーん、どうだろ? 真冬のお父さんとかナイが【人形化】の研究をしてて、そのうちなんか解決策を用意すると思うけど別にいいかなぁ。空飛べるのも楽しいし、死ぬ心配も無いし』
「そういうもんか……?」
『そういうもんでしょ』
あっけらかんとした態度で言い放つと、結月は食べ終えたハンバーガーの包み紙を潰して紙袋に捨てる。それを横目に、小雪が真冬へ問いかけた。
「ん〜ではでは、本題に戻りましょうか」
「そうね。まあでも範囲は絞れたから、あとはそこに向かうだけって感じだけど」
真冬は取り出した携帯の画面を小雪に見せ、囲った範囲の中心にある建物の位置情報を確認させる。
「場所が分かったなら話は早いですねぇ。がーっと行ってがーっと殺りましょう」
「……簡単に終わればいいけどね」
「簡単に終われる仕事なのか……?」
「私たち強いですしへーきへーき」
などと言う小雪の手の皮を破って伸びる無形の落とし子がポテトにがっついている様子に三人が軽く引きつつ、真冬は携帯を仕舞って立ち上がる。
それを見てサイズを人形大に戻した結月が、彼女の頭に乗っかりながら口を開いた。
『でも改めて考えると、私らのパーティってバランスは良いよね。太陽さんと小雪さんはアタッカーで、真冬と私はサポーターだし』
「つっても、実力と経験で言えば、あたしらって最高レアだけでパーティ組んだあとの余白にとりあえずで入れられるSRみたいなもんでしょ」
『ソシャゲじゃ案外そういう枠の方が有用だったりす…………あのー、小雪さん』
「はい?」
『お宅のお子さん、すんげぇ食いまくってるんだけどほっといていいの?』
結月にそう言われて、小雪は視線を落とす。その先にあったのは、無形の落とし子が、残っているポテトやナゲットを全て平らげている光景だった。
「──あ、こら! あなたが食べすぎると私の血管に負担が掛かるんですよ!?」
「もう既に見たことあるからツッコミを入れることすら放棄してたけどよ、なんでシンビオートみてぇな生き物を飼ってるんだこのおチビは」
『あ〜、人体実験の元モルモットらしいからねぇ。それの成功作品らしいよ、この人』
「…………冗談だろ」
まるで蛇か何かを絞め上げるかのように落とし子を掴んで紙袋から引き剥がそうとしている光景を前に、太陽は顔を顰めて呟く。
──やっぱ魔術師ってロクでもないな。という言葉だけは、声に出すことはなかったが。
──ひと悶着を挟みつつ、四人は件の建物に訪れる。そこはよくあるオフィスビル。しかして、だからこそ隠れ蓑としては最適だった。
「現代社会の魔術師も、時代の波には逆らえません。なので、こういうありふれた建物の中でこそこそ暗躍するんですよねぇ」
『連盟組織もパッと見は普通のビルだもんねぇ。あ、警視庁とかの一室も使ってるんだっけ』
「ええはい。色んなところに広く浅く、紛れ込ませていただいてます」
『てことは……
「ですねぇ」
「……ビルなら上じゃねえのか?」
「カタギにバレちゃいかんでしょ」
「────。なるほど、暗躍するなら地下か」
小雪と結月の会話に疑問符を浮かべる太陽は、真冬が短く指摘すると合点がいったように頷く。
「さて、さて、さて。乗り込みますよ〜、頭のスイッチ切り替えてくださいね〜」
『一番ノリが緩い人に言われても……』
「なんのことやら。私以上に真面目な魔術師なんてそうそう居ませんよ」
『与一がおるやん』
「くっ、それは禁止カード……!」
「論破されてんじゃねえかよ」
道路を挟んだ向かいにあるビルに向かって歩きながら、渋い顔をした小雪に太陽もまた呆れたような表情を取る。そんな会話をしながら早速と出入口にたどり着き、四人は自動ドアを潜る────が。
『……だーれも居ないでやんの』
真冬の頭の上で寝そべる結月が呟く。その言葉の通りに、ビルの中には人の気配がなく、不気味なほどに閑散としていた。
「なんか静かですねぇ〜」
「ああ、地上の戦力は軒並み地下に回してるのかもな。エレベーターでも探すか?」
「いや、あたしの能力で直行しよう」
二人の横で足元を見やる真冬の言葉に、小雪が首を傾げて問いかける。
「その心は?」
「下で覚えのある魔力を感じる。人造神格の魔力だわ、アレを辿れば直通ルートで行けそう」
「さいですか。……エレベーターがあるとして、この建物の設備を使うとなると待ち構えられる可能性もありますし、その方がいいですかね」
「ていうか、そもそも
足元から小雪に視線を移し、そういえばと言葉を返す。そんな真冬の顔を見上げる小雪は、一瞬だけ視線を斜めに上げると深く頷いてから言った。
「………………当然でしょう?」
「絶対何も考えてなかったでしょ」
「そんなわけ、ないじゃないですか……っ!!」
「人の顔を真っ直ぐ見ながら断言すれば誤魔化せると思わないでくれない?」
露骨すぎるあまりに、発光しそうなほどに瞳を輝かせて否定する小雪。彼女に呆れてため息をつきながら、真冬は【
「ったく。んじゃ開門、っと」
地毛の金髪と異能の影響でメッシュになっている銀髪の比率が反転し、それから続けて手のひらを床に翳すと、円形にズレる形で空間に穴が空いた。
──全員の足元に。
「なんっでっ足元に出したぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「なんかもう説明がダルくて」
「嫌な浮遊感ですねぇぇぇぇぇぇ……」
『ひ、ひでぇ』
一拍の間を置いて、三人と1体は穴の中に落ちていく。数秒の落下を挟んで出口となる別の『円』が開き、そこを通ることで数十メートルをカットして地下のどこかにたどり着きダンッと着地。
通路のど真ん中に到着し、即座に周囲を警戒する太陽と小雪がそれぞれ別方向を見やり、それから直ぐに、全員が異常事態を把握した。
『なーんじゃこりゃ』
「ひでぇな、何がどうなってやがる」
周囲を見回して気づいたのは、壁や床、天井に飛び散った鉄錆臭い赤い液体。その中に沈む無数の肉塊と、それらに混じって散見される破壊の跡が、この場で起きた殺戮を物語っている。
頑丈な材質であろう壁や床や天井のあちこちには、スプーンでアイスの表面を削り掬ったあとのようなへこみが幾つもあり、その痕跡から察せられることは大きく分けて二つあった。
「……このわけわからんデコボコの跡からして、とんでもない力の……
「つってもなぁ、お嬢。この暴れっぷりだと、秒速何十キロか百キロはある太い鞭が何本もやたらめったらに動き回った事になるぞ?」
「つまり、
壁のへこみに指を這わせた小雪が、そう言いながら振り返って三人を見る。
「血で分かりづらいですが、死体にある穴といい、この壁などのへこみといい──
『……豆腐を切るとか殴るとかじゃなくて、指突っ込んで真ん中くり抜いたようなもんかぁ。うへぇ』
うげ、と舌を出してげんなりとする結月だが、それ以上に渋い顔をした小雪は、ふと真冬に視線を向けて言葉を投げかけた。
「ところで真冬ちゃん」
「ん?」
「貴女さっき、人造神格の魔力を辿れば直通ルートで行けると言いましたよね」
「んまぁ、そうだけど。────あ」
「……この階層に、まだ居るのでは」
小雪の問いに、真冬の素っ頓狂な声が返る。
果たして異質な魔力を感知するべく集中しようとするのと、蛍光灯が割れて薄暗くなっている通路の奥で、足音がひたりと静かに鳴るのは同時だった。
お気に入りと感想と高評価ください。