深月のイタクァ制御訓練が最初の一歩目で躓き、訓練室の一角に集まり四人で輪を作る。
「お前の計画ガバガバじゃねぇか」
「うーんこればかりは返す言葉がない」
「ぐうの音も出ないすね」
「ぐう」
「出たっすね……」
といったボケは置いといて。兎にも角にも暴発を防ぐための魔力制御を最優先としていたから、魔術の使い方も異能の発動方法も教えていないのは仕方ないとはいえ、それは単にこちらのミスだ。
──そして、問題が1つ。
「お前らがアホなのはさておき、これちょっと面倒だぞ。神格を宿した人間の異能の扱い方となると、流石にここには例になる奴が居ねえ」
「……そうなんですよねぇ。そもそもの『神格を宿して暴走していない人間』がレアケースなのと、類似例たちが参考にならないのも困るんですよ」
「類似例? ──えっ私以外にこんな状態の人間が複数居るんですか!?」
「居るよ」
「『居るよ』!?!?」
居るんだよねぇ不思議なことに。しかも、全員状況が違うから深月の例とは噛み合わないのである。
琴巳ちゃんと蛇神様は巫女の家系による共存、円花さんはナイに乗っ取られていた、丞久先輩はハスターの力だけを宿している、言乃葉ミドリは遺体にヴルトゥームを宿して再利用しているだけ。
……こうして羅列すると結構おぞましいな。
「他の人たちは深月みたいに神格そのものを宿して制御しているわけじゃないのがなぁ。……他に居たかな、神格を宿しながら制御も出来てる奴────」
そこまで独りごちて、ふと思い至る。
「──いや居たな、一人」
「……居るんですか?」
「すんごい身近に一人居たじゃん、あいつだよあいつ、天才音楽家」
こちらの言葉に、驚愕した様子で深月が反応し、秋山さんもそういえばと思い出す。
「えっ、永律陽さんが……?」
「俺は下で戦ってたから見てないけど、あのビルでエーリッヒが爆音出してなかった?」
「……あ〜〜……確かに」
「そういやアイツ、トルネンブラを取り込んでるんだったか。連絡できるか?」
「あぁ〜まあ、たぶん? 試してみます」
早速と携帯を取り出して、電話帳から番号を選んで電話を掛ける。今の時間だと……出るかな。たまに集中しすぎて着信に気づかないらしいけど。
果たして出てくれるのか、と思いながら耳に画面を当て、なんとかコール音が鳴ったのは確認。
それから数回のコールを経て──なにやら不機嫌そうな声色が返ってきた。
【…………あ゛ぁ゛?】
「ごめんなさい」
【……なんで謝る。寝起きなだけだ】
「あ、そうなの……」
【────。で、探偵か。何の用?】
「おぁ、そうそう。ちょっとね」
──ともあれ、電話越しに現状を話し、耳を傾けているエーリッヒに問いかけてみる。
「ってことなんだけど、エーリッヒって普段どうやって【
【どうと言われてもな、私自身も魔術に関してはペーペーだ。この感覚を言語化するのは難しいんだが……まあいい。探偵、スピーカーにしろ】
「ん? ういうい」
言われた通りにスピーカーを切り替えて全員に聞こえるようにすると、エーリッヒは言った。
【毛玉】
「あっはい」
【お前は今、神格を押さえ込んで、体内で
「そぉ……う、っすね」
電話の向こうからの声に対し、深月が自信無さげな声色を返すと、更に言葉が続く。
【ならお前の中の魔力を、うっすら体の外に出して全身を包め。イメージはそんな感じだ】
「ざ、雑……! いやいやいや、そんな雑でいいんすかこれ? 曲がりなりにも神の力なんすよ!?」
【仕方ないだろ、私はそういう感覚で【
「え、えぇ〜〜〜……?」
【じゃあな。私は忙しいんだ】
困惑している深月を余所に、それだけ言い切ると、こちらとの通話はエーリッヒの方から一方的に切断されて終わってしまった。
「あ、いつぅ……! 言うだけ言って勝手に切りやがっ……たぁ!?」
「……それで、えーっと、私はとにかく言われた通りにやってみりゃいいんすかね」
あまりの傍若無人っぷりに口角がひくつくが、ともあれ一応の理屈は通っている気はするため、ひとまずこのアドバイスでやってもらおう。
「ん〜まぁ、まあまあ、そうだね……。恐らく丞久先輩とか円花さんよりはマトモなアドバイスだろうから、これで一回やってみようか」
「っすね。じゃあ、その、やってみます」
「いざって時はお前が押さえろよ、与一」
「しれっと逃げないでくれます? ……まったく」
シロちゃんを連れて少し離れた位置に下がった秋山さんに言われ、軽く手を上げて返しつつ、こちらもそれとなく、いつでも【禍理の手】を出して深月を拘束できるように魔力を体に張っておく。
「私の中の、イタクァの魔力を……うっすら全身に纏わせる……うっすら……薄く〜〜〜っ」
「力みすぎるなよ深月、気合いを入れるより、逆にある程度リラックスしてる方がいい」
「そう、っすか?」
「ずっと引き金に指を置いてるようなもんだよ、ふとした拍子にあらぬ方向に暴発しかねない」
「なるほっ、どぉ……っ」
訓練室のど真ん中で押さえ込んでいる魔力を薄く開放しようとしている深月が、こちらの言葉を聞き入れながら少しずつ体内の魔力を外に出す。
魔力が自然と風に変換され、彼女の周囲にうっすらと空気が渦巻く光景を前に、ふと疑問を抱く。
「……丞久先輩の【
「古くからハスターやクトゥルフを四大元素に当てはめることでカテゴライズしてきたから、
「……まあ、人が操る能力ってことなら、宇宙に飛ぶより空を飛べる方がマシではありますが」
能力が暴発して深月が宇宙にワープする、とかそんなことにならないのは良いけど、これもしかして異能の制御にも四苦八苦することになるのか。
「────。行けます、与一さんっ」
「よし、あとはその名を呼ぶんだ。異能のオンオフを切り替えるワードが、自然と頭に湧く筈だよ」
「っす。……力を借りますよ、【
果たして深月の言葉を合図に、彼女の周囲を渦巻いていた風はスンと止み、その両目の黒色に淡く緑色が混ざり薄っすらと光っていた。
「こぉ、れは、成功っすよね?」
「ああ、よくやったぞ深月……!」
「そうとも言えねえぞー」
喜びながらも力がみなぎっていそうな深月が自身の体を確認するのを横目に、秋山さんが足にしがみつくシロちゃんの所為で歩きづらそうにしながら戻ってくると、手元の携帯の画面を見せてくる。
「蓮枯深月、お前が発動するまで22秒。遅すぎだ。与一が魔術を使ったり丞久が【
「ん? そんなもんでしたっけ、数えたことないからピンとこないんですけど」
秋山さんに渋い顔をされた。いや、だって、いちいち数えないでしょ魔術の発動速度なんて……
「大雑把師弟がよ。まあ要するにだ、蓮枯深月。お前の異能の発動が遅いままだと使えないのと変わらん、せめて5秒以内に起動できるようにしろ」
「んな無茶言われても……どうしろってんですか」
「それでも5秒は遅くないですかね?」
「どうせお前が居ない時は戦わないだろ」
……あ、遠回しに『お前が守ればいいだろ』って丸投げされている。守るけど、こう……限度があるんだから自衛させたいわけで。
戦わないだろ、の部分で一瞬だけ気まずそうに視線を逸らした深月は見なかったことにして、ともあれ続く秋山さんの言葉を待つ。
「そんなわけで、お前が異能の発動時間を縮めるのにちょうどいいゲームをやるぞ」
「ゲーム────!」
「たぶんキミの領分じゃないやつだよ」
そういえば深月ってゲーマーだったっけ。ゲームという単語に反応する彼女の横で秋山さんを見ると、彼は足元のシロちゃんを引っぺがして首根っこを持ち上げ、彼女をぶらぶら揺さぶりながら言った。
「名付けてハンティングゲームぅ〜〜〜〜。異能を維持しながらこいつから逃げ回れ」
「……うん?」
「……はい?」
「シロ、モードチェンジ」
こちらの困惑を余所に、秋山さんが上にぶん投げたシロちゃんを目で追うと、天井の照明を遮って出来たシルエットが変形していく。
「……うん???」
「……はい???」
果たして、こちらと深月の困惑をガン無視して床に落下してきて着地したのは、シロちゃんと同じ色の毛を携えた────大きなニホンオオカミだった。
「死ぬ気で逃げろよ、こいつは加減を知らない」
…………あの、加減を知らない狼を放し飼いにするなって言ったらダメなんでしょうか。
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