──気がつけば、駅前のベンチに腰かけていた。真冬もそれに気付いて声を荒らげる。
「ほなみは!?」
「死んだ。これで少女の飛び降りじゃなくてあいつが死ぬことがトリガーでループすると判明したな、加えて制限時間は13時5分から20分までの約15分。20分までに屋内に入っていれば時間を稼げる可能性は試した方がいいかもな」
とりあえず、現状どうあがいても20分になるとほなみが死ぬため、情報収集と前のループとはガラリと違うことをするべく、野次馬で埋もれる前に最初の事故を見に行こうかと思案する。
そうを伝えようとしたが、立ち上がってこちらを見る真冬の目は、おぞましいものを見るような、恐怖の混じったモノだった。
「お前、なんでそんなに冷静なんだよ。死んだんだぞ、大事な奴が、二回も」
「ほなみの死なら前のループで一生分後悔したし、悲しんだ。あいつが死ぬ度に嘆いていれば事態が好転するなら幾らでもするよ」
「────っ」
静かに言葉を返すと、真冬は眉間にシワを寄せながらも、重いため息をつく。膝の上の握り拳にそっと手のひらを乗せ、更に続ける。
「真冬のその感情が正しいよ。でもダメなんだ。事件や怪物との戦いに巻き込まれ過ぎて、俺の頭は何があっても冷静に、冷徹になるように、そういう思考回路になってしまってる」
「……与一」
「最初は驚くし、焦るよ。でも最後には慣れちゃうんだ。そうしないと生き残れなかったから」
前回のトラック衝突と似たような威力でぶっ飛ばされたことはあったが、そもそもあれだって先輩の魔術で障壁を張ってもらっていたから何とかなっただけという事情がある。
もし自分に魔術の才能が今よりずっとあって、【強化】以外も使えたなら、根本的な話だがこんなことにはなっていない。たぶん最初のループの時点でとっくに解決しているだろう。
「俺は最初の事故を確かめに行って、可能なら撥ねられる人を助けてみる」
「じゃああたしは……ほなみを連れて時間稼ぎか。とにかくどっかのコンビニにでも入れて20分超えを試してみる……けど、与一が来ない言い訳はどうすればいいの?」
「それはそっちに任せる」
「好きに言っていいんだ」
「俺の名誉を毀損しないなら好きなように言い訳してくれて結構、はい解散!」
──と、これ以上会話をしているとほなみが来てしまうため、さっさとこれから事故が起きる予定の現場に移動する。
横断歩道まで走ると、そこには明らかに雰囲気がおかしい赤髪の女性が立っていた。
信号が青に変わったにも関わらず歩こうとしないからか、入れ替わり立ち替わりですれ違う人たちに嫌そうな感情を向けられている。
「お嬢さん、ここは危ないですよ」
「…………」
どうせループするからと、多少大胆にひょいと顔を覗き込む。横から見てきたこちらに視線を向けるが、女性はすぐに前へ戻した。
「次は越えられる。次こそはここを。次こそは。次こそは。次こそは…………」
「お嬢さーん、手伝いましょうか?」
「うるさい」
「はい」
凄まじい形相で睨まれながらそう言われれば黙るしかない。念のためにと女性の観察すると、手首にペンかなにかで47と書かれていた。
それからほなみが駅前のベンチにやって来た頃だろう時間帯、そろそろ起こる最初の事故、その原因がいざ目の前で発生する。
「──ちずる……!!」
瞬間、赤髪の女性が弾かれたように駆け出す。呼んだ名前の主だろう、横断歩道の反対から出てきた女性は、赤髪の女性の接近に驚く。
しかしそれ以上に驚くべきなのは、横断歩道が青であること。しかし、車道から接近する大型トラックは、止まる気配がなかったのだ。
「またかよ……っ」
女性は恐らく、ちずる
けれども──無情にも、トラックは二人を容赦なく弾き飛ばした。
一歩遅れて踏まれた急ブレーキ。飛び散る赤色。止まったトラックの近くには、頭が胴体から離れたちずると、皮肉にも彼女がクッションとなってしまったのか五体満足ではあるが呼吸が浅い、致命傷の女性が倒れている。
周りの人たちが救急車と警察を呼ぶ声を聞いて、ひとまず延命できないかと女性に近づき、着ていたジャケットを脱いで頭の下に敷く。
「……ん?」
ふと、女性の腹部にある出血部位を押さえながらちずるの死体に目を向けると、頭と胴体を繋いでいただろう首の部分に黒い二重円のタトゥーが刻まれていることに気づいた。
疑問が湧いたが知識のどれにも該当するモノがなく、果たしてやって来た救急と警察が、事故現場から人を遠ざける。
「──第一発見者の方ですか? よろしければ同乗してください」
「えっ? ああ、はい」
女性を担架に乗せて救急車に運び込む救急隊員は、応急手当をしていたからかそう言って乗せようとしてくる。乗り込むやいなやあれよあれよとその場を離れる車内で、赤髪の女性の手当てが進み鋭い声が飛び交う。邪魔にならないように端に座っていると、別の隊員が口を開いた。
「彼女とお知り合いですか?」
「────。
「そうですか……そこに現場から回収した荷物があるので、名前を確認できるものを探してもらえますか。免許証とか、携帯なんかを」
「はい」
咄嗟に知り合いの振りをして、合法的に言われた通りに置かれた荷物を調べる。
女性用の二つのカバンを漁ると、中からコスメポーチや財布、携帯などが出てきた。
財布には免許証が入っていて、顔写真がちずると眼前の女性の二人と一致する。
金塚ちずるの携帯には赤坂かなこからの着信が1件、そして短文のメールが幾つも入っていた。赤坂かなこの携帯の方で何を送ったかを確認すると、そこには執念にも近しい努力の跡が。
【待ち合わせ場所を変えよう、ごめん。デパート三階のカフェに来てもらっていい?】
【ごめんね。すぐ一階のトイレに来て】
【迷子になっちゃったからデパートは止めるわ、外に出て】
【右手の突き当たりを左に曲がってね。右はダメよ。絶対に左に曲がって】
──などなど。あれやこれやと行動パターンを変え、赤坂かなこもまた金塚ちずるの死ぬまでの時間を先延ばしにしようとしたのだろう。
他になにかメッセージはないかとスクロールすると、未送信のフォルダに一通だけ。
【ちずる、助けるから。絶対助けるから】
──そう、書いてあった。
最後にはほなみを助けるからと、途中のループで見殺しにする選択をしたのと同じように。赤坂かなこは、毎回毎回毎回毎回、なにがなんでも金塚ちずるを救おうとしている。
方向性は真逆。しかしその思いは同じであり、決意は強く、固い。
こういうのを見てしまうと、どうにも──助けてしまいたくなる。ほなみの事で手一杯だとはわかっていても、それでも。
「……情報が欲しいし、
そこまで思案したとき、不意に視界が白黒に明滅する。だんだん耳慣れてきた、ガラス瓶の中で何かを転がす音が、軽やかに木霊していた。
こうして、四度目のループが始まる。
──カララン、カララン、カララン。
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