とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

210 / 282
風を纏うは未熟な王 3/4

「……なんというか、こう、まず幾つかツッコミ入れさせてもらってもいいっすかね」

「ダメだ」

「ダメってなんすか???」

 

 狼に変身したシロちゃんと容赦なく疑問を受け付けない秋山さんを交互に見やる深月。

 彼女を前にキョトンとした表情……表情してるか? わからない、なんともいえない顔のシロちゃんも、我々二人をつぶらな瞳で見ている。

 

「説明が面倒くせぇ、とにかく蓮枯深月は異能を維持しながらシロに追いかけられてこい」

「あ、マジでやるんすね」

「言っとくが集中切れで異能が解除されても止まってくれると思うなよ。さっきも言ったがこいつは加減を知らない、俺ですらぶっ飛ばされるからな」

「ぶっ飛ばされたことあるんすね」

 

 なんでちょいちょい面白ワードが飛び出るんだろうか。その光景見たかったな〜という内なる悪魔(せんぱい)が湧きながらも、話を聞く度に目が死んでいく深月を横目にこちらも小さくため息をつく。

 

「あの、与一さん、こないだの人もそうっすけど、この人らっていつもこんなんなんすか」

「こんなんっす。んまぁ、まあ、慣れてもらうしかないからね。大丈夫、本気で危うくなりそうなら俺が止めに入るから」

「つまりヤバくならない限り助けてくれないんですよね?? 私死なないっすよね??」

「…………。頑張ってね」

「!!??」

 

 流石に今後の戦いも見据えた特訓には文句が言えない。多少スパルタなれど、ここでのイタクァ制御訓練を行うことは無意味ではないのだから。

 

「よーしシロ、今回のターゲットはあのチビだ。捕まえてきたらジャーキーをやる。わかるな?」

「えっもうやるんすか」

「はいスタート!」

「ちょっ!? ──んぬぉおおおぉお!?」

 

 秋山さんの合図を聞いて、目の色を変えたシロちゃんが凄まじい速度で深月へと突進。

 深月もまた薄く風を纏ったその身を翻して駆け出すと、自身の想定を超えた加速に驚きつつも即座に順応してフェイントを交えて躱している。

 

 

 

「反応速度が高いな、視力が良いのか?」

「あぁ……ゲーマーらしいので」

「ふぅん。ま、ゲームにゃ興味ねえけど」

「でしょうね」

 

 たぶん秋山さんってアーケードのガンシューティングとかが逆に苦手なタイプだもんね。

 しかし、シロちゃんの姿を見ていると、どうしても既視感が脳裏を過るなぁ。

 

「……シロ、シロかぁ」

「ああそうそう、おい与一」

「はい?」

「クロっつう猫を知ってるか?」

「────」

 

 ふと、秋山さんから投げかけられた言葉に思考が止まる。黒猫、ではなくクロという猫。その質問の正体を、こちらは当然知っていた。

 人間と獣を切り替えられる体、幼い背丈、よく見ればどことなく雰囲気が似ている顔立ち。──いや、似てるんじゃない。

 

「……クロとシロちゃんは、製造元が同じ?」

「やっぱり知ってたか」

「ええまあはい。幻夢境の時に出くわして、助けてもらったりしました」

「ドリームランドかよ……そりゃ現世(こっち)で見つけられないわけだ。あいつも無駄骨だったな」

「あいつ?」

「シロ、とクロとやらの母親役だ」

 

 そこまで聞いて、ようやく思い出した。

 

「そういえば、クロが『自分を造った博士が黒いからクロ、犬の方を白いからシロって名付けた』……みたいなこと言ってたような気がする」

「じゃあ、そいつがあいつの探してるクロで確定だな。ンな安直な名付け方をされたキメラ人間が三人も四人も居てたまるか」

「それはそう」

 

 しかし、そっか。クロにも親が居て、探してくれていたのはなんというか安心だな。

 また会えれば親が探してるって伝えてあげられるんだけど、そんな簡単に行けないし行くべきではない所に居を構えてるのが問題なんだよなぁ……。

 父さんと千夏さんの事も聞いておきたいし、なんとか会えないものだろうか。

 

「……ところで、その母親役という人には、この事を話すんですか?」

「何をだ?」

「いや、クロがドリームランドに居るって」

「あぁ、そうだな。んー、しばらく黙っとくか。居場所を伝えた結果勝手に動かれても困る」

「ひ、(ひで)ぇ……」

 

 その言い分もわかるにはわかる、けど、酷いものは酷い。とはいえ今は話さないというだけであって、いつかは話すのだろう。

 こちらの情報は明かしたし、あとのことは秋山さんの方でやるべき問題だ。

 

 こっちはこっちで今は深月で手一杯だし、クロに関する話題は双方で進展してからでいいと思う。などと思案しながら、まだシロちゃんから逃げているだろう彼女の方向に視線を向けると────

 

 

 

 

ぉぉぉぉぉぉおおおんぬぅおわぁあぁあ!?」

 

 ──そんな叫び声をあげている深月が、シロちゃんに咥えられてぶんぶん振り回された挙げ句にこちらへと投げ捨てられ、くるくる回りながら、カーリングのように足元にツイ〜〜〜っと滑ってきた。

 

「……深月、大丈夫か?」

「モップみてぇだな」

 

 ……ちょっと思ったけれども。

 

「生まれて初めて、出会ってからたった十数分の人に、殺意を抱いてますよ私は」

 

 のそりと立ち上がる深月は顔に垂れた前髪を分けながらそう言うと、少しの集中を挟んで【風纏の王(イタクァ)】を起動する。一応、訓練にはなっているんだな、と思っていると、秋山さんがどこからかウエストポーチのような機械を取り出しながら言った。

 

「元気が有り余ってるな。じゃあ第2ラウンドだ、今度は与一も参加していいぞ」

「ということは、秋山さんも混ざると」

「適度に横槍……横銃弾を入れさせてもらうぜ。安心しろ、発射薬を減らしたゴム弾を使う」

 

 秋山さんは腰に装着した機械をベルトで縛って落ちないようにすると、後ろ手にスイッチを入れてからこちらと深月を見ながら呟く。

 

「──【要請(コール)】」

「…………? うん!?」

 

 ……えっ、いま魔術使った??? 

 

 秋山さんって確か、脳を損傷した事があってその所為で魔術──というより魔力の操作が出来ないって聞いていたんだけど?? 

 

「うちの連中が開発した装置に、俺の代わりに術式を構築させて魔術を代替させてんだ。まだ試作品でな、こっちの実験にも付き合ってもらうぞ」

「秋山さんに魔術って、それもう鬼に金棒の類義語みたいなもんじゃないですか……!?」

 

 こちらの驚愕を察したのか、そう説明して片手に作り出したリボルバーを見せる秋山さんに、更に驚愕する。魔術が使えないなりに射撃技術で丞久先輩みたいな実力者たちに食い下がっていた人に、武器構築の魔術なんて与えちゃあ……ダメだろ! 

 

「蓮枯深月は異能を維持したままの高速機動で与一とぶつかったりしないようにシロを捕まえてみろ、お前はそのサポートだ。俺はその邪魔をする」

「何が酷いって、この人ちゃんと考えてるんだよね。丞久先輩は面白半分で似たような提案をして俺たちをボコボコにして楽しむから」

「丞久さんってそんなにヤバいんすか?」

「うん」

「否定はできねえ」

 

 自分で言っててなんだけど、あの人本当にムーブがクソガキ過ぎるな……? 

 

 まあ、なにはともあれ、訓練に変化を付けるのは悪くない。それに以前までの丞久先輩並の高機動力を得た深月に必要なのは、魔力制御と異能の──厳密には速さの制御だろう。あんな速さで動いてうっかり壁や人にぶつかったらどうなるか? って話だ。

 

 ぶつかる相手がこちらである間は……んまぁまあまあ、耐えられはする。

 そこらの人より頑丈な自信だけはあるし、秋山さんやシロちゃんなら避けられるだろうし。

 

「んじゃあやりますか。与一さん、頑張って加減はするっすけど、ぶつかったらマジですいません」

「いや、俺が居る間にそのへんの加減と制御を出来るようになろうねって話だから、むしろ下手に日和るよりは勢いづけた方が良いよ。大丈夫、俺が合わせるから深月はどーんとやりなさい」

「準備はいいかー、駄弁る暇があるならとっとと構えろこっちも暇じゃねえ」

「はいはいオッケーです」

 

 上着を脱いで壁際に置き、軽く柔軟して準備を終わらせる。指笛でシロちゃんに指示を出してこちらから離れさせる秋山さんを警戒しつつ、深月の盾になるように立ち位置を意識しながら踵を踏み鳴らす。

 

「行くぞ、【禍理の手】……!」

「【風纏の王(イタクァ)】──!」

 

 こちらが足元から鎖に繋がれた禍々しい無数の『手』を生み出すのと、深月が風を纏って深く踏み込むのはほとんど同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──跳弾で跳ねたゴム弾がこちらと深月のこめかみに叩き込まれるまで、あと10秒。




お気に入りと感想と高評価ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。