とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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王爻怨黎玉藻前 3/4

 ──ドォン!! という轟音。役場の閉じられた出入口ではなく側面の壁を破壊して侵入した白百合と男性二人は、彼女を先頭として中を歩く。

 

「一応、事前に述べておきますが。ここより先は常識の外側です、私が敵と判断した相手を殺害する光景を見てもいちいち騒がないように」

「え、あ、はい」

「いやもう俺らに出来るのは黙ってついていくことだけっすよ!?」

「よろしい」

 

 ここに来るまでに居なくなった女性二人との間に交わした会話を済ませてあったために、素直に受け入れて後ろをついてくる男たち。

 彼らを尻目に白百合は役場の奥へズカズカ足を運び、周囲をキョロキョロと眺めてから、魔力玉を射出して用具入れを破壊した。

 

「……本当に、隠し場所のバリエーションが貧相ですね。魔術師っていうのは」

 

 用具入れに偽装した隠し扉を纏めて破壊した白百合が、隠されていた階段を下っていく。

 

 

 

 

 

 舗装された石段がやがてゴツゴツした岩を段状に削っているだけのような段差に変わっていき、後ろで躓きそうになっている二人を無視して降りきると、そこにはまるで蟻の巣を巨大にしたような広々としたスペースが広がっている。

 

 壁際には地上の木々の根っこが地下であるこの場にまで伸びており、そして空間の奥には、役場に飾られていたモノよりも大きな岩が鎮座していた。

 

「……殺生石の、原石ですか」

「──その通り」

「っ」

 

 即座にぶわりと周囲に魔力玉を展開する白百合は、大岩──殺生石の下に居る人影に意識を向ける。そこに座っていたのか、人影はゆらりと立ち上がると、背後の殺生石に緑色の光を灯してみせた。

 

「お呼びではない者が、神聖な空間に足を踏み入れて、生きて帰れるとは思わないことですね」

 

 更に壁際に等間隔で緑の炎がボッと灯っていき、空間全体を明るく照らしていく。

 人影に光が当たってその輪郭が露わになると、白百合と男性二人は、そこに立っていたのが一人の和服に身を包む少女を視界に捉える。

 

「女の子……?」

 

 後ろの二人が困惑するのを手で制しつつ、白百合が一歩前に出て口を開く。

 

「姿かたちに騙されないように。それで、貴方が殺生石の餌にしようとしている旅行客はどちらに?」

「おや、そこまで把握していましたか」

「いえただのカマ掛けです。まあ、薄々勘づいてはいましたがね」

「……食えない人。これは二重の意味で、ですが。ちなみに旅行客の方々はそちらです」

 

 あっけらかんと言い放つ白百合に呆れながらも、少女は横に指をさす。その方向に顔を向けると、そこに二人の女性がぐったりと倒れ伏していた。

 

「この殺生石は人から魔力を根こそぎ奪い取り、フラットな波長に変換して貯蓄する力があります。つまりは……()()()()()()()()魔力に変換できる、ということですね。しかしそれは──「一度に、或いは一日につき一人分までしか奪い取れない」

 

 少女の言葉に横から割り込む白百合が、ヒュンと魔力玉を飛ばしながら言う。

 襟首に玉を引っ掻けて自分たちの方に高速で引きずるという雑な方法で救出しながら、それとなく全員を庇うように前に出て続けた。

 

「そして、魔力を奪い取るという形で殺害した人間は、親しい者の記憶から消える。しかし機械などのデータから消すことはできない。そうして『幽霊が集合写真に混ざる』といった噂だけが残り、更に釣られた人が真偽を確かめるために集団でここに来ては、貴方は同じようにグループから一部だけを消して回る」

「……ええ、ええ。概ねその通り。ですがあまり、人の台詞を奪わないでもらいたいですね」

「どうせこれから死ぬんですから、気にするだけ無駄なのでは……?」

 

 女性二人を男たちに任せて、白百合は一切の容赦もなく幾つもの魔力玉を高速回転させて少女へと殺到させる。後ろから聞こえてくる男二人のドン引きする声を無視して叩きつけようとした──の、だが。

 

 

「──やれやれ、躾のなっていない」

 

 

 着弾の直前、無数の魔力玉は少女の前に割り込んだ何かと接触し、ガゴゴゴゴゴン!! と鈍い音を立てて弾かれていく。

 ゆらりと揺らめく無数の何か。それは、腰の辺りから伸びる九本の尾。そして頭にも2つの三角錐がぴょこんと生え、少女はポツリと呟いた。

 

「【王爻怨黎玉藻前(おうこうえんらいたまものまえ)】、それでは……私と貴方で、撃ち合いと参りましょうか」

「……! まずっ……!」

 

 少女の後ろで扇状に広がる九つの尾の先端が白百合に向き、直後──断続的に炎の塊が連続発射される。白百合は後ろの四人を囲うように4つの魔力玉で三角形を作り防壁を形成し、迎撃するように別の魔力玉を形成して同じように射出。

 

 炎の塊と魔力玉は接触と同時に互いを拒絶し合うかのように爆発を起こし、捌き切れなかった炎がすり抜けて白百合の脇腹と肩に当たり爆発する。

 

「ぐっ……!」

「まだまだ行きますよ」

「っ! 俺たちだけでも先に逃げたほうが、この人も自分だけに専念できるんじゃ──」

「させませんよ?」

 

 自分たちが邪魔であることを自覚しているからこそ、二人は気絶している女性二人を抱えて来た道を戻ろうと振り返る。だが、少女は迂回させた炎を階段の方で炸裂させ、爆発ではなく炎上させることで逃げ道を塞ぎ帰れなくさせてきた。

 

「逃げ道を塞ぎつつ、足手纏いを残らせて盾にさせる……効果的ですね、私でも同じことをする」

「……不思議なものですね。連盟組織のような異常者共でもない貴方が、魔術師でありながら民間人を守ろうとするなどとは」

「さあ、私も不思議です。不思議ですが──」

 

 九本の尾から放たれる九連射の炎に、湯水の如く魔力を浪費して玉を作り撃ち込む白百合は、少女の言葉に自分自身でも疑問を抱き続ける。

 けれども、白百合にも辛うじてわかっていることが、一つだけあった。

 

「──きっと、魔術師のくせに人を守ろうとする変人たちに、負けたからでしょう」

 

 そう言って、白百合の腕がだらりと下がる。左腕に3発も連続で着弾した炎の爆発で骨がひしゃげ、続けて顔面に叩き込まれた炎が爆発した衝撃で大きくのけぞり倒れそうになるも、反動で跳ねた右腕が少女へと伸び──その指先は銃口を模して、ピンと真っすぐ向けられていた。

 

BANG(ばーん)

「……っ!! がっ!?」

 

 その指先に小さく圧縮されていた魔力玉が、シュルシュルと音を立てて超高速で回転し、弾かれるように放たれ少女の胸に突き刺さる。

 一瞬の激痛に顔を顰める少女は、痛いだけで何も起きない事に違和を感じ、それから時間も経たずにぐにゃりと視界が歪む光景の理由に気づく。

 

「……私の、魔力を……!?」

「ほうら、早く外さないと、魔力がすっからかんになってしまいますよ」

 

 顔の爆発による煙の奥で、頬や額から肉を露出させながら、白百合が笑う。言われた通りに無理やりにでも外そうとした少女の手から離れた魔力玉は、気がつけば親指の第一関節くらいの大きさからバスケットボールサイズにまで肥大化していた。

 

「球形であることも加味して、私の魔力玉の奪う力は回転速度に比例します」

 

 少女が捨てた魔力玉は重力を無視してふわりと浮かび、かすれた声で言う白百合がかざした右手のひらに吸い寄せられるように飛んでいくと、重さを感じさせない軌道でピタリと止まる。

 

「さて、問題です。私は貴方の中から、()()()奪い取ったのでしょうか?」

「なにを? …………。まさ、か……!!」

 

 ふと、少女の体から力が抜ける。

 獣の耳と九つの尾が形を保てずに崩壊していき、その顔に()()()()()()()

 

「き、さま……! 私の、力を!?」

「文字通り()()()()が剥がれたご様子。魔力を奪うついでに若作りですか、ちゃっかりしている」

 

 バスケットボールサイズの魔力玉を再度回転させてミシミシと音を立てながら圧縮させる白百合は、ゴルフボール程度の大きさまで圧縮できたそれを手のひらで転がして、嫌そうな顔で呟く。

 

「この方法で取り込むの、普通に苦しいから嫌なんですがねぇ。これが一番効率いいので仕方ない」

 

 そう言ってから、意を決したように、手のひらの魔力玉を口に押し当て、押し込むようにして大口を開けてごくりと呑み込む。

 

「おえっ。ごちそうさまでした」

 

 刹那、ぞわりと、白百合の魔力が変質する。どこかおどろおどろしい、恐怖を煽るような、背筋を撫でる嫌な気配が溢れ出た。

 それから彼女は、刀傷を除いて治っていく怪我を見せつけるようにして言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「──【王爻怨黎玉藻前】」




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